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「姉さん・・・・。」
 彼はユダヤ人だった。
 ただ、それだけで彼等は迫害された。
 ナチス。その政党は史上まれに見る最低最悪な人種差別を行った。
 自分達アーリア人種こそ優れた人種と言い、ユダヤ人を迫害した。
 少しでも考えれば誰でもわかる事だろう。誰もが平等だという事くらい。
 なのにドイツ人は喜んでユダヤ人を迫害した。自分達が優れた人種である事を証明するために。
 彼の家族も迫害の対象になった。裕福な家庭を築いていた財産は全て奪われた。
 父は反抗したと言われて射殺された。その光景を見て母も発狂死した。
 彼と彼の姉はあの地獄の監獄に連れて行かれようとしていた。そのまま行ってたら確実に殺されていただろう。
 だが幸運な事に彼等は逃げ出せた。
 しかし、姉は瀕死の重傷を負っていた。
 姉は言った。
『いい、あなたは生きなさい。私の体を食べてでも。血をすすってでも。』
 そう言いながら姉は生き絶えた。
 彼はその言葉に従った。姉の肉を食い、血を飲んだ。生き延びるために。
 今でも覚えてる。父を殺した奴らの顔を。自分達を連行していた時の連中の顔を。
 人間こそ悪魔なのだ。この世界にいてはならない存在なのだ。
 誰かがやらなくてはならない。ならば自分がやってやろう。人間を滅ぼすという行為を。
 彼はそう思っている。強い決心をもって。
 ヴァンドルはそう思っている。
 


狩人 - 決戦【序章】 -
作:DEKOI



 この世には人知のしれないものが『ある』。
 霊といわれるものが。化物といわれるものが。魑魅魍魎といわれるものが。悪魔といわれるものが。神と呼ばれるものが。
 また魔法といわれるものが、魔法としか思えないほど進んだ科学が。
 
 それは確かに『ある』のだ。
 「それら」は人間の前に殆ど現れない。だが人間に「彼ら」が牙むいた時、人間に太刀打ちできる術はない。
 だが、「それら」を「狩る」事を目的とした「者」もまた、確かに『いる』のだ。

 その事知る者は、彼等を尊敬と畏怖をこめて「狩人」と呼ぶ。
 

<< 1:「狩人」達の出陣 >>
 
「休学ですか・・・・。」
「はい、申し訳ございませんが。実家の方で急用ができたそうなので。」
 校長室でそのような会話が繰り広げられていた。
 校長の前に立っているのは1人の少女だ。
 美しいブロンドの髪に黄金率を形成しているプロポーション。そして素晴らしい美貌を持った少女だ。
 その少女は心から申し訳なさそうな顔をしていた。
「君のような優秀な学生が休学するとは余程の件なのだろうね。いいでしょう、受理しましょう。」
「ありがとうございます。」
 彼女は丁寧にお辞儀した。
 確かに彼女がこれからやろうとする件は超がついていいほどのオオゴトだ。だが彼女はやりとげなくてはならないと心の中で決断していた。
 今の生活を守る為に、そしてあの人の力になる為に。
 クロードは校長室を出た。そしてこれから始まる、人類の存亡を賭けた戦いに向けて気合をいれた。
 
 
 呪われた力。
 彼女はそう思っていた。
 母を殺す事で受け継がれたこの忌まわしい力を。
 その為に彼女はあえてこの力から目を逸らした。
 別の力を独力で身につけ、自分でも恥かしいと思う格好をあえてした。
 心の中の闇から目をつむる為に。
 だが、今度の戦いではこの力が必要になるだろう。
 友を守る為に。今いる世界を救う為に。
 彼女は家に置いてある一個の箱を開けた。
 この中身を捨てなかったのは母親の形見な為だけ。使うつもりなど一切なかった。
 だけど、
 これを使う時が来た。本来の自分に戻る時が来たのだ。
 呪われた力。
 彼女はそう思っていた。
 だけど皆を守る為ならば、あえて使おう。
 彼女はそう思った。
 
 
 暗闇の中、彼女は1人墓の前に立っていた。
 誰も見舞いになど来ない墓。彼女を救った為に邪教徒といわれて処刑された男の墓。
 今現在でも彼女は不思議に思っている。何で彼は自分を救ってくれたのだろう、自分の命を捨ててまで。
 何で笑っていたんだろう。自分が処刑されるのがわかっていた筈なのに。
 私は彼のように生きれるだろうか? 誰かの為に笑って犠牲になれるだろうか?
 わからない、でも。
 彼が処刑される時の光景を見た時、彼女の心は引き裂かれたかのような痛みを感じた。
 もうあんな思いはしたくない。そして誰にもあんな思いはさせたくはない。
 ならばどうすればいいか。魔族の私にできる事、それは戦う事。
 それしか私にはできないだろう。
 ならばやれる事をやらないではいられない。
 戦おう。もう二度とあんな思いをしない為にも。他の誰かにあんな思いをさせない為にも。
 バイザは墓の前で、そう思った。
 
 
「御姉様、いかれるのですね。」
 井上未来は彼女の姉、井上佳枝に声をかけた。
「うん、いってくるよ。」
 佳枝は未来を向きながら言った
「俺にできる事なんて大した事じゃないのはわかってる。でも、俺はあの人の力に少しでもなりたい。」
 佳枝は自分を見つめている家族、俊三、栄治、未来を見つめた。
「なによりも俺の家族を守りたい。その為にできる事を俺はやりたいんだ。」
「御姉様・・・。」
「お姉ちゃん。」
「佳枝、いや、良樹。」
 俊三は娘の本当の名前を久しぶりに言った。
「必ず、帰ってきなさい。」
 佳枝は大きく頷いた。
 
 
「兄ちゃん、用意できたよ〜。」
「私もできました。」
 タルとミーナは奥の部屋で着替えているエッジに向けて声をかけた。
 数刻後、エッジは奥の部屋から出てきた。
「兄ちゃん、その格好は?」
 エッジは全身真っ黒な革製と思わしき鎧を身にまとっていた。腕の箇所にカギ爪のような刃が5本づつ、計10本の刃がくっついていた。ぼろぼろな黒いマントを纏っている。更には額には黒い鉄でできていると思わしき鉢がねを付けている。
「280年ぶりだよ、この格好は。」
 エッジは無表情なまま言った。
「280年・・・・という事はまさか魔精戦争の時の最終決戦時の衣装なんですか、それ?」
 ミーナは驚いたように声をあげた。その言葉にエッジは黙って頷く。
「今度の戦いは気合をいれないと恐らく負けるからな・・・・。この戦い、負けは許されないぞ。」
「わかっているよ、兄ちゃん。オイラはこの世界が好きなんだ。絶対に勝つんだよね!」
「七王の召喚が成功したらこの世界だけではなく、『妖精界』にも影響を及ぼすでしょう、私も負けるつもりでいくつもりはありません。」
「あえて言っておく・・・・。必ず、生きて帰るぞ。」
 エッジは低く呟いた。2人は頷いた。
「行くぞ。」
 エッジは外に向かって歩き始めた。
 
 
 彼の名前は坂上 蘇芳(さかがみ すおう)。「狩人」だ。
 純白と形容していい白髪。猛禽類を連想させる鋭い眼差し。それら全てが彼が特殊な人間である事を意味していた。
 彼は今、一つの墓の前に立っていた。彼の妹が眠る墓だ。
「楓、ついにお前の仇と戦う時がきたよ。」
 そんな剣呑な台詞のわりには彼は落ち着いていた。
「確かに奴が憎いとういう気持ちはある。それを否定するつもりはない。」
 蘇芳は上を向いた。今はもう夕暮れだ。空には薄紫の夕日が翳っている。
「だが、私はあえてみんなの為に戦いたい。今まで出会ってきた人達の為に、見た事のない、これから会うかもしれない人の為に。」
 彼は腰に差していた刀を抜いた。美しい銀光が輝く。彼が命を、魂をかけて挑んだ試練のすえに得た、新たな力。
「私はお前に誓おう。必ず、お前が愛したこの世界を守ってみせる。私のような思いを抱えてる者を救ってみせる。」
 蘇芳は刀を頭上に掲げた。
「我が名は坂上 蘇芳。力なき者を守りし刃なり!」
 
 
<< 2:「狩人」達は集う >>
 
 蘇芳は空港に来ていた。飛行機に乗る為だ。
 イタリア行きのチケットを6枚購入する為にチケット売り場に向かった。
「えーっと。子供2枚と大人4枚で。」
 子供2人の年齢の合計が大人4人の合計を遥かに上回ってるんだけどなぁ。
 蘇芳はそんな事を考えながらチケットを購入した。
 手荷物を預ける所で鞄を預けに向かった。じつはこの中には日本刀モドキが入ってるんだが現在のセンサー如きではあの剣は反応されない。蘇芳は安心して鞄を預けた。
 そして自動販売機でジュースを買って待つ事しばし。
「蘇芳さん。お待たせいたしました。」
 彼の横手から花が咲き乱れんばかりに美しいソプラノが聞こえてきた。
 蘇芳は声がした方に振り向いた。そこには一輪の花が立っていた。
 無論花という表現は比喩だ。だがそう言っても間違いはないだろう。
 美少女。その言葉が似合う少女はそれなりにいる。だがそうとしか表現しようがない少女はそうそういないだろう。
 そしてその少女は間違いなくそうとしか表現できない存在であった。背中まで届く光を反射するブロンドの髪の毛。湖よりも澄んだぱっちりとした美しい瞳。なだらかな傾斜を連想させる鼻筋、そして花の蕾を思わせる唇。黄金率を築いているプロポーション。これぞ『美少女』だ。
 彼女は真っ白なワンピースを着ていた。そのシンプル差がまた彼女の美しさを引き立てている。
 ただ立っているだけで周囲の目線が彼女の方にいってしまう。男は心の片隅で知らずうちに恋心を生み出し、女も憧れの目で見てしまう。
 そんな彼女がにっこりと笑った。その途端に周りから溜息がどっともれた。中には気を失ってしまうものまでいる。
 だがその笑顔が向けられた対象は全然こたえていなかった。苦笑まじりの笑みを彼女に返した。
「来たんだね、クロード君。」
 クロード=デスタン、それが彼女の名前だ。実は彼女が元男だっただなんて知っている人物はあまりいない。ある事件によって彼は女に、しかも吸血鬼という化物に変えられてしまった。その事件は最終的には蘇芳の手によって解決したが、彼女は元に戻れなかった。
 彼女はフランス人で元々故郷であるフランスの片田舎に住んでいたのだが、現在は日本に住んでいる。
 実は蘇芳が好きになって日本まで追いかけてきたのだが、蘇芳はその事に全く気がついていない。この男、色恋沙汰には凄まじいほど鈍いのだ。
「クロード君、本当についてくるのかい?」
 蘇芳はクロードに心配そうに尋ねた。
「大丈夫です。私、こう見えても結構強い事、わかっておられるでしょう?」
 クロードは力コブを作るかのように腕を曲げてみせた。
 事実、彼女はかなり強い。吸血鬼の能力に加えて体内の血液を自在に操る能力を持っており、その実力は下手な特殊部隊一個小隊なんてあっさりと全滅させてしまうだろう。
「私は皆の為に戦いたいんです。それに・・・・貴方の、力になりたいし・・・。」
 後半はモジモジしながら言う。ある意味彼女なりの告白なのだが、
「そうか、皆の為にか・・・。そこまで決断しているならいいだろう。一緒に頑張ろう。」
 彼女の言葉の後半を聞いていなかったりする。この男、本当は狙ってるのではないのだろうか。
 そんな風にたわいのない会話を彼等がしていると、
「はーい、お待たせしましたぁ。正義の戦士ヨーミン只今参上で〜す☆」
 そんな聞いているだけ気持ちが弾んでくるような声が蘇芳の後ろからまるで彼等の会話に割り込むようにして聞こえてきた。
 蘇芳が後ろを向いた。ちょっとクロードの顔がむくれている。
 その声の持ち主はクロードと同じ16歳くらいのショートカットの少女だった。クロードに負けてはいるが美少女と言っていいだろう。服は上は赤と青のベストで下は紺色のジーパンだ。活動的な印象を与えている。その服を省いて見たとしてもちょっと胸がなさそうな気がしない訳でもない。
「佳枝君も来たんだね。」
「はい! 井上 佳枝、さんじょーしました!」
 佳枝と蘇芳に呼ばれた少女は手をシュタ!と上げながら元気よく挨拶をした。
 井上 佳枝。彼女もまた元男だ。父親に強引に改造手術を受けさせられて正義の美少女戦士に変えられてしまったのだ。
 彼女もまた蘇芳が好きになってしまった女の子だ。一回猛烈なアプローチを仕掛けた事があったが完っ璧に無視、というか気付かれなかったという苦い過去を持っている。
 彼女は蘇芳がこれから行おうとしている戦いのきっかけとなった出来事に立ち会った唯一の人物だ。その時から彼女は蘇芳の力になると心に決めていた。
「佳枝君、本当に」
 蘇芳は佳枝に止めるよう忠告しようとした。
 だが佳枝は人差し指をチッチッチと振ると
「ワタシは戦いますよ。家族を守りたいですから。それに貴方の力になりたいですし。」
 クロードと違ってはっきりと告白じみた事を言い切った。こういった開き直りとも言える強さを彼女は持っているのだろう。ただ単に前回お淑やかに告白した時に全く気持ちが伝わらなかったからヤケになっているだけかもしれないが。
「そうか・・・・助力に関しては感謝するよ、確かに戦力は多い方がいいからね。」
 しかしやっぱり思いは蘇芳に伝わらなかった。この男、本気で鈍すぎる。
 クロードと佳枝がそろって溜息をついた。どーしてこんなニブチンに惚れちゃったんだろうとそろって思ったからだ。
 その後も彼女等はお喋りを続けていた。
 佳枝が蘇芳の腕をさりげなく取ろうとするとクロードが先に腕に寄りかかる。
 蘇芳が飲んでいたジュースを『喉が渇いたから下さい』と言いながらも実は間接キスを狙った行為をクロードがしようとすると佳枝がその前に分捕りとって飲み始める。その顔には勝利の笑みが浮ばれていたりする。
 2人の女の視線が稲妻になって交差する。周りに剣呑な空気がたち込み始める。その空気を感じて周囲の人間がそそくさと歩き去って行く。
 その雰囲気を全く気にせずに蘇芳は新たに買ったジュースを飲んでいた。『2人共仲がいいなぁ』とか思ったりしながら。
 そうしているうちに3人の人物が蘇芳達に近づいてきた。
「こんにちわ〜坂上さん〜〜。」
 そのうちの1人である栗形で青みがかった灰色の髪の毛の少年が底抜けに軽い口調で蘇芳に声をかけてきた。よく見ると耳がわずかにだが尖がっている。服装は紺をベースにしたチェニックだ。黒と茶色が縦に斑模様を作っているズボンをはいている。
 残りの2人もかわっていた。1人は先にあげた少年と良く似ていた。耳も尖っている。少年との違いは髪の毛がこげ茶色で散切り頭、そして目つきがやたらと悪い事か。革製と思える真っ黒な服の上にボロボロのマントを纏っている。はっきしいって変人以外ありえない格好だ。
 もう1人は少女だ。16,7歳くらいだろうか。全体的に線が細い。黒人とは違った黒さを持った肌をしている。髪は銀髪だ。何よりも特徴的なのは耳で鋭く尖っている。長さは10cmはあろうか。彼女もかなりの美少女だ。全体を白を基調として、部分的に黒い線でアクセントをしている肩を露出させた服を着ている。
 蘇芳は彼等の姿を認めると、丁寧にお辞儀した。
「こんにちわ、タルさん、エッジさん。それとミーナさんでしたね。」
 1人目はタル、2人目はエッジで彼等は兄弟だ。そして3人目の少女はミーナという。
 実は彼等は人間ではない。更に言うならこの世界の住人ですらない。
 彼等は『妖精界』と言われているこの世界とは別次元の世界にて、「妖精」といわれる存在なのだ。
 タルとエッジはポピットと呼ばれる魔導に長けた一族だ。ある程度まで達すると成長が止まり、生涯人間でいう所の幼稚園児みたいな姿のまま生き続ける。身長は高くても80cmに満たない。性格も見た目通り子供っぽい者が多い。無論、例外もいるが。
 ミーナは地エルフ、またはダーク・エルフと呼ばれる一族の者だ。エルフと名がつく通り大変長命な一族で、4000年以上軽く生きる。暗くて狭くてジメジメした所で生活する事を好み、ほとんどの者が洞窟で生活している。性格も住居を反映してかちょっと陰険で根暗。ミーナはそうでもないのだが。
 彼等もこれから行われる戦いに参戦する為にここに現われたのだ。
 
 
 彼等がこれからしようとしている事。それはある意味この世界の存亡に関わる事だ。
 非人道組織「アガルガン」の首領、ヴァンドルはおよそ十ヶ月前に蘇芳にこう宣言した。
「蘇芳君。ゲームをしよう。今から丁度1年後に僕は魔界の門を開き、七王の1人グリードをこの世界に召喚する。それを止めたければ僕の居場所を探し出して止めに来てみなさい。」
 七王。それはこの世界とは別の次元に存在する「魔族」とも「悪魔」とも呼ばれる者達が住む『魔界』という世界にて最大級の実力を持っている七体の魔物の事を指す。その実力はこの世界で振るわれれば世界は滅びるともいわれている。
 蘇芳はそのゲームを受けた。ヴァンドルは恐らくやるだろうと直感的に確信したからだ。
 それから彼はヴァンドルの居場所を探しつづけた。
 時同じにしてタルとエッジもそれぞれヴァンドルがやろうとしている事に気付いた。そしてその陰謀を止める為に動いたのだ。
 お互いに調査の過程で、彼等は接触し、共闘しあう事にしたのだ。そして「アガルガン」の支部を襲撃し、情報を得る事によって遂に彼等はヴァンドルの居場所を見つけ出したのだ。
 イタリアの地中海のほぼ中央に位置する島、シシリー島。観光名所としても有名なその島でヴァンドルが儀式を行おうとしているのが判明した。
 シシリー島は3千年も前から異民族の交流が繰り返されてきた為か、今では文化遺産の宝庫とまで呼ばれている。ローマ時代の遺跡だけでも珍しがられているのに、ギリシャ時代の建物が今だに残っている。
 その他島内には王宮や教会が多く見られ、天井や柱、そして床に陶片やガラス、貝殻やタイル片を用い、絵画や図案にされている。いわゆるモザイク画で飾られた建造物が目立つ。
 そんな教会の一つに秘密裏に地下施設を建造して儀式を行っているというのだ。すでに現地には2名、ミランダとバイザが飛んでおり、詳しい場所を調査しているはずだ。
 ミランダとはタルを師事している人間の女魔導師だ。黒いビキニに虎の頭蓋骨で作ったと思われる肩当て、更には山羊の頭蓋骨で作られたと推測できる帽子をかぶるという石を投げつけられても文句が言えないような格好を年がら年中している。性格はあえて言うならば手段の為なら目的を選ばない、といえばいいのだろうか。とにかく、変。
 バイザは七王の一体プライドの元側近であった女魔族だ。故あってこの世界に紛れ込み、「狩人」をしている。いつもは伊藤と名乗って、かつて自分を命懸けで救ってくれた男性の姿に化けているが、正体は全身が真っ赤で背中からコウモリみたいな翼を生やし、臀部から先の尖った尻尾、そして顔は目だけで鼻も口も耳もなく、髪の毛の代りに触手が縦に生えているという異形の魔物だ。性格は捕らえどころがないが、結構真面目な性格のようだ。そして臆病者でもある、らしい。
 そしてあと2ヶ月を切った所で蘇芳達はシシリー島に乗り込む事になったのだ。調査の結果、もう儀式に必要な魂は規定数に達しているらしい。つまりいつでもヴァンドルは儀式が行える状況になってしまったのだ。
 最早一刻の猶予はない。急いでヴァンドルの所に向かい、奴を止めなければこの世界は滅びてしまう。それが蘇芳達の共通な意見だ。
 そして今日。彼等は出撃する事になったのだ。
 
 
 彼女等は凄まじく深刻な問題に直面していた。今から飛行機に乗る。ビジネスクラスの席が6席。1列につき2席X3の形で並んでいるらしい。そしてイタリアまでの飛行時間は10時間以上。
 すなわち、横に誰が座るかという事になっているのだ。
 クロードと佳枝はさっきからガンつけあっていた。お互い一歩も譲ろうとしない。
 『蘇芳様の横は私の物』と心の中で絶叫している。2人とも相手が蘇芳が好きなのがわかっている。ここで席を譲ったら相手に一歩リードさせかねない。特にこれから起こる戦いを思うと尚更だ。
 互いの闘気が空気を陽炎の如く歪めている。心の中ではお互い壮絶など突き合いをしていた。
 無言のままお互い険悪な視線を絡ませる2人。
『あんたが引きなさいよ。』
『何よ、私は引く気は全くないわよ。』
 もう既にテレパシーレベルでやり取りを続ける2人。お互い美少女なだけにそりゃあもうかなり怖い光景であった。
 だが、そんな超険悪な状況を全く気にする事なく、この状況の原因であるはずの蘇芳はのほほんと席順を決めようとしていた。
「えーっと、それじゃあ色々と話し合いたい事もあるので私の横はエッジさんって事で・・・」
 それが耳に入った瞬間にクロードと佳枝は目に怪光を宿らせてエッジを睨んだ。
 歴戦の勇者である筈のエッジもその異様すぎる光景にちょっと後ずさる。
「えー、あー、俺はタルと一緒でいいよ。うん。」
「そうですか。では私の隣はミーナさんで・・・・」
 怪音をたてながら首を動かすとミーナを殺気のこもった視線で睨みつけるクロードと佳枝。怪奇映画の現象がこの場で現実に起こっている気がする。
 その光景を見てミーナは脅え出した。はっきりいってメチャメチャ怖い。
「あああああ、私はいいですぅ。他の人を座らせてあげてくださいいいぃぃぃぃ。」
 ガクガク全身を震わせながら涙まじりでミーナは蘇芳にそう言った。
「そうですか。ではタルさんに座ってもらって通路をまたいでエッジさんに座ってもらって・・・」
 タルがそれを聞いて全身冷や汗をかき始めた。ちらりとクロードと佳枝を見ると親の仇でも見てるかのように自分を見ている。背筋に凄まじい悪寒が走る。
「あのー他の人を座らせるという事は考えられないのですか?」
「え、だってあの2人仲がいいんでしょう? だから隣同士の席に座ってもらおうと思っていたのですが。」
「「「んな訳ねえだろ。」」」
 エッジとタルとミーナが同時にツッコミを入れた。それはもう見事な重なり合い。
 エッジが残りの2人の方を見てみると2人して地面に「の」の字を書いている。どうやらかなりショックを受けたらしい。エッジは溜息をついた。
「あークロードさんに佳枝さん。ジャンケンして。勝った方が坂上の隣って事で。」
 クロードと佳枝は猛然と立ち上がるとお互いに凄まじい気合を拳にこめた。
「最初はグー! ジャンケンポン!!」
 まるで摩擦熱で炎がつくのではないかと思わせる勢いで轟然と両者の腕が振り降ろされた。結果は、
 お互いにチョキ。
「あいこでショ!」
 お互いにパー。
「あいこでショ!」
 
 −−− 30分経過 −−−
 
「あいこでショ!」「あいこでショ!」「あいこで・・・・・!!」
 エッジとタルとミーナは呆れ返った顔でその光景を見詰めていた。乙女の恋心おそるべし。3人とも思わずそう心の中で呟いていた。
 蘇芳は申し訳なさそうに全員に向けて言った。
「あのー、もう出発15分前だからチェックインしないとやばいんですけど、まだ決まらないんですか?」
「お前がどっちかに決めればいいんだよ。」
 呆れ返った口調で言いながらエッジは蘇芳に手の甲でツッコミを入れた。
 
 結局、蘇芳による『どちらにしようかな天の神様の言う通り、なのなのな』でクロードが蘇芳の隣の席を得るという栄光を勝ち取った。もっとも通路を挟んで蘇芳の隣になったのは佳枝だったのだが。
 
 
 飛行機が離陸し始めた。機体が大きく揺れだす。
「キャア怖い!」
 そう言うとクロードは蘇芳にしがみついた。無論大嘘だ。
「大丈夫かい。」
 蘇芳はクロードを優しくさすった。クロードの顔が恍惚とした、それでいて勝利感に満ちたものになる。
 その光景を見ていて佳枝がギリギリと歯ぎしりをする。今すぐにでもシートベルトをぶち切ってクロードに襲いかかりそうになっている。その横に座っているミーナが必死になって止めようとしている。
 離陸してしばらくたってもクロードは蘇芳にしがみついたままでいた。
 蘇芳は困ったように頬を掻いている。どう対処したらいいのかわからないのだ。
 佳枝はその間『そんな女なんて引き剥がしちゃいなさいよ』と毒電波を放ちまくったがお互いにそれを受信する事はなかったようだ。
 しばらくしてシートベルトを外していい事になった。
 その途端に佳枝はシートベルトを外すと
「ああん、飛行機ってつらいですわ。酔ってしまったみたい。」
 と言って、わざわざ立ち上がると蘇芳の席に倒れ込んだ。無論、欠片も酔ってなんていない。
 クロードと佳枝の視線が合う。凄まじい稲妻が互いの目から放たれぶち当たり、火花を散らす。
 2人共ギュっと蘇芳の身体に抱きつく。少しでも蘇芳の身体に自分の身体を触れさせようとする。
 蘇芳は心底困ったように顔を歪めた。
「あー2人共、酔ったんだったら酔い止め薬を貰ってくるからそれを飲んで安静にして」
「いいんです。」
「こうしてた方が酔いが治まるんです。」
 蘇芳の言葉をクロードと佳枝が同時に塞ぐ。彼女達にとってはこうしてた方が幸せなのだ。
 お互いに目で牽制しあいつつ、1人の男に抱きつく美少女2人。
 男にとってこれほど羨ましい状況はないのだろうが、当の本人は困っているだけであった。
 エッジとタルはその修羅場を見て深く溜息をついた。
「兄ちゃん、あんなんで大丈夫だと思う?」
「知るか。」
 
 
 飛行機は飛ぶ。決戦の地、イタリアに向けて。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちわ、DEKOIです。
 
 遂に決戦に向けての執筆に入れました。
 
 入った筈なんですがなんかすげえ修羅場を書いているような気がするのは何故でしょう?
 
 ちなみに決戦の地をイタリアのシシリー島にしたのは『島』で検索したら引っかかったからだけ。特に意味合い全くなし、第一私は国外から出た事すらないしなー。
 
 エー次回からは戦闘にはいる予定です。さあ彼等邪悪な陰謀を止める事ができるのでしょうか?
 
 作者にもわからん、てのが玉に傷ですが。
 
 どうでもいいけどこの「決戦」ってメッサ長くなりそうな予感が・・・・。書ききれるのか、私。
 
 それではまたこのようなご挨拶ができる事を願いつつ、筆を置かせて頂きます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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