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 ドーピング 【doping】
 (1) スポーツ選手が運動能力を高めるため,禁じられた薬物を用いること。
 (2) 結晶やガラスなどの性質を制御するために,不純物を添加すること。半導体では電気的な性質を,光ファイバーでは屈折率を制御するために行われる。
 
 本作品では(1)の方をさしております。つうか(2)を用いてどう書けと。


狩人 - ランナー -
作:DEKOI



 この世には人知のしれないものが『ある』。
 霊といわれるものが。化物といわれるものが。魑魅魍魎といわれるものが。悪魔といわれるものが。神と呼ばれるものが。
 また魔法といわれるものが、魔法としか思えないほど進んだ科学が。
 
  それは確かに『ある』のだ。
 「それら」は人間の前に殆ど現れない。だが人間に「彼ら」が牙むいた時、人間に太刀打ちできる術はない。
 だが、「それら」を「狩る」事を目的とした「者」もまた、確かに『いる』のだ。

 その事知る者は、彼等を尊敬と畏怖をこめて「狩人」と呼ぶ。
 

<< 悪の誘い >>
 
 銃の音が鳴り響く。
 彼はその音とほぼ同時に身体を起こした。全力で前に向かって走る。
 一歩一歩の太股を高く上げ、ストライドを伸ばし、脚の回転を速くする。
 腕を振る。脚のリズムに合わせて何度も何度も振る。
 1秒いや万分の1秒でも速く前に出ようと全身の細胞の力を全て振り絞る。
 心臓が爆発しそうなほどの勢いで血液を全身に送り出す。呼吸は殆ど止まっている。そんな物、している暇はない。
 彼の身体がある一点に到達した。
 その場所に立っていた男がほぼ同時にストップウォッチのSTOP釦を押した。
 彼は立ち止まると男に振り向いた。彼の息が荒くとも、復帰した。
「10秒49!」
 男は彼に向かってそう宣言した。彼はばったりと地面に倒れた。悔しそうにわめく。
「畜生! また駄目だったか!!」
 彼の名前は天草 廣一(あまくさ こういち)。100m短距離選手だ。まだ20歳という若さから将来が有望視されている。
 だが彼は挫折感を味わっていた。現在の100mの世界記録は9秒79だ。少なくても9秒台に到達できなくては世界レベルとは勝負できない。だがこの所の彼の成績は10秒中盤で完璧にストップしていた。ここ3ヶ月は自己記録が少しも更新されていない。
「まあ焦る事ないさ。今のお前はまだ発展途上中なんだ。焦ったって記録なにて伸びやしない。」
 廣一の専任コーチである上野 長政(うえの ながまさ)が彼を励ました。本音を言えば彼だって焦っている。あと3ヶ月後には全日本選手権が始まる。そこで好成績をだせなければ廣一を世界戦に出す事さえできない。
「このままじゃ駄目なんだよ。何とか・・なんとかしないと。」
 廣一は上野の言葉も聞かないでぶつぶつと呟きつづけた。
 その様子を遠くから見つめている人影がいる事に、彼等は気がつかなかった。
 
「こんばんわ、天草廣一さんですね。」
 廣一が練習を終え、自宅でゆっくりしている時に一本の電話がかかってきた。
 こんな時間に、しかも取りたてて彼女もいない自分に電話なんて、と不信に思いながらも彼は電話にでた。
 そうしたら名指しで自分を呼ぶ声が聞こえてきた。低い声からして男性のようだ。
「はい、そうですがなんでしょうか。」
「貴方はこの頃、記録が伸びなくて困っているでしょう?」
 廣一はギクリとした。確かにその通りだ。だが何でそんな事を電話の相手は知っているのだろう?
「どうでしょう、私達が貴方の記録を伸ばす手助けをしたいのですが。」
 電話口の男はネチリッとした口調で廣一に話しかけてきた。廣一はおぞましさを感じたが、それ以上に禁断の魅惑を感じた。
「どういう事だ? 俺になんか特別なメニューでも・・・」
「実は私達が新たに作成した新薬を貴方様に提供しようと思いましてね。」
 廣一は落胆した。何だそんな事か、ようは俺に新薬の実験体になれって言ってきているのだ。廣一にはそれがわかった。
「俺にドーピングしろって言うのか? 第一そんな事したら薬物検査に引っかかるだろうが。」
「いいえ、私達が作った薬はその薬物検査に絶対に引っかからないように処方した物なのです。」
「な、何だって・・・?」
 驚きの声を隠す事はできなかった。少なくとも彼はそんな魔法のような薬なんて今まで聞いた事なんてなかったからだ。
 廣一はまるで悪い事でもしているかのように辺りをキョロキョロと見渡した。無論、誰もいない。
 手で受話器を隠すように包むと、彼は出来る限り小さな声で喋り始めた。
「本当か? そんな薬があるだなんて。それになぜ俺にそんな物をくれるんだ?」
「はい、少なくとも動物実験は完璧です。それに私達は貴方のように一生懸命に努力しているのに結果が報われない人を助ける事を信条にしているのです。どうでしょう、これは貴方にとっても有意義な事だと思いますが。」
 廣一は考えた。薬物に頼るのははっきり言って邪道だ。だが今の彼は記録が欲しかった。それこそ悪魔に魂を売ってでも。
 彼は決断した。それはアスリートとしては恥じるべき決断だろう。だが彼ははっきりと電話口の男に向かって言った。
「それで、その薬はどうすればもらえるんだ。」
 電話口の男が、冷笑を浮かべたような気がした。
 
「凄いじゃないか。ここ一ヶ月半で0.4秒も記録が伸びているぞ。」
 上野は廣一を見て心底驚いたような声をだした。
「この調子でいけば日本新記録も夢じゃないな。」
 廣一はまるで嘘ぶいているかのような口調でコーチに言った。
 だが彼は恐らく可能だろうと思っていた。いや、それどころか世界記録を塗り替えるのもこの調子なら可能だろう。彼には確信じみた物を感じていた。
 それもこれもあの薬のおかげだ。承諾した次の日には郵送で送られてきた、透明の瓶に入れられた白い錠剤。それと一緒に同封されていた処方箋通りに廣一は錠剤を飲みつづけた。その結果、これまでの3ヶ月が嘘のように記録が伸び始めた。体調もすこぶるいい。神経が日を追う毎に鋭くなっていくようだ。
「ところで廣一。お前体格が一まわり大きくなったんじゃないか。」
 上野はこの頃不信に思っている事を口にした。1ヶ月半前から見ればまるで別人のような体格だ。たかだか1ヶ月半でここまで筋肉がつくのは、はっきりいって異常だ。
「お前、まさか薬に手を出してないだろうな。」
 上野はねめつけるような視線で廣一を見た。だが廣一は心の中の動揺を全く表に出さずに堂々と言ってのけた。
「なにを言ってんだよ、上野さん。そんな事したら俺の選手生命が危うくなっちまうじゃないですか。そんなに怪しいと思うんなら、実際これから検査してみましょうよ。」
 アカデミー賞ものの演技を彼は演じてみせた。それに納得したかのように上野は緊張を解いた。
「そうだな。そんな事お前がする訳ないよな。今までの特訓の成果がようやく表れたんだろうよ。まあ怪しまれちゃいけないんで、一応検査だけでもしておこうか。」
 上野の指示通り、廣一は検査を受けてみせた。結果は陰性だった。
 
 廣一は更衣室に戻ると、周りに誰もいないのを確認してから錠剤をとりだした。そして数粒取り出すと飲んだ。
 丁度その時更衣室のドアが開いた。そして先輩ランナーにあたる明石 巌(あかし いわお)が入ってきた。彼は厳格な性格で有名だった。
 明石は廣一のしているのを見ると目を見開いた。
「天草、お前なにをやっているんだ。」
 しまった! 廣一はそう思った。もっと周りに注意を払っておくべきだったのだ。だがもう後の祭りだ。
 咄嗟に薬を後ろ手に隠した。その行為が何を意味しているのか解らないほど明石は鈍くない。明石の顔が怒りで染まる。
「お前、やっぱり薬をやっていたんだな。」
「そんな事ないっすよ。これはただのビタミン剤で・・・・」
「だったらなんでわざわざ隠す必要があるんだ。やましい事がないんなら、そんな事する必要ないはずだぞ。」
 忌々しげに廣一は顔を歪めた。自分が咄嗟にやってしまった行為を今更ながら後悔する。
「こうなったらその事をマスコミに公表してやる。お前のような不正をする奴だなんて俺は許さないからな。」
「待って下さいよ、明石さん。」
「うるさい、このアスリートの恥さらしめ!」
 その言葉に廣一は胸に剣を突き立てられた気分になった。確かに彼がしている行為は恥るべき行為であり、本来なら罰せられて当たり前の行為だからだ。
 明石は外にでていった。恐らくその足で直接新聞社等に駆け込むつもりなのだろう。
 廣一は少しの間呆然としていたが、明石を止めなくてはならないと思い追い始めた。
 廣一が練習場の出口に出ようかとした時に、
「うわああああああ!」
 外から悲鳴があがった。明石の声だ。
 急いで外に飛び出してみると明石が道路に倒れていた。遠くへ車が走り去る音が聞こえてくる。
 廣一は明石に駆け寄った。明石の頭から大量の血が流れている。素人である廣一が見てもわかる、即死だ。
 しばし呆然としていた。だがそのうちに彼は笑い出した。それは実に乾いた、それでいておぞましい笑い声だった。
「はは、馬鹿な人だ。いらない正義感さえなければこんな事にならなかったのに。はは、ははははは。」
 廣一の笑い声が木霊した。その笑いは悪魔に魂を売り渡した人間に相応しい物だった。
 
<< 疑惑の目 >>
 
「兄ちゃん、今回の仕事でも収穫がなかったねぇ。」
 タルは台所で料理を作っているエッジに向けて声をかけた。ちなみにエッジの趣味は実は料理とお菓子作りで、特にフランス料理に関しては5つ星シェフとタメを張るくらい腕がいい。
 タルとエッジは「狩人」だ。しかも人間ではない。この世界とは別の次元に存在する『妖精界』に本来住むポピットという身の丈大きくても80cm未満という子供のような姿をした妖精なのだ。
 タルは元来魔導が長けていると言われているポピット族において100年に1人の天才といわれたくらい優れた魔導師だ。栗形の青みがかった灰色の髪が特徴だ。ちなみに耳が少し尖がっているのさえ無視すればどう見ても幼稚園児。性格も見た目通り子供。タルはエッジを追って人間界にやってきたのだ。
 エッジは400年以上年が離れたタルの兄だ。こげ茶色の散切り頭とやたらと悪い目つきを除けばタルと殆ど同じ姿をしている。元の世界である『妖精界』に戻れば世界を救った勇者達のリーダー、『大勇者』と呼ばれる程の有名人である。また妖精界最強の戦士とも呼ばれている程の強者でもある。気功と体術の達人で、見た目からは想像できない程の戦闘力を秘めている。性格は無口で無愛想でぶっきらぼうでクソ真面目という超難物である。
「そうですね。召喚の儀までもうあまりないのでしょう? 早く情報を見つけないと・・・。」
 タルの言葉を引き継いだのは黒い肌と銀色の髪をした16,7歳くらいの少女だった。やたらと耳が長く尖がっている。10cm以上はあるのではないのだろうか。
 少女の名前はミーナという。『妖精界』では地エルフ、またはダーク・エルフと呼ばれている妖精だ。彼女の兄であるハルリックはエッジの元仲間であり、勇者と呼ばれる存在であった。今は亡霊になってミーナにとり憑いている。ミーナは普段は真面目なのだがやたらとお化けや幽霊を怖がる性格の持ち主だ。彼女はエッジの手助けをする為、そして自分にとり憑いている兄を成仏してもらう為にこの世界にやってきたのだ。
 タルとエッジは別々の機会にだが、この世界で行われようとしている陰謀に気付いた。それはかつて『妖精界』にて大戦争を招いた『魔界』の七王を召喚しようという企みであった。
 2人+1人はその企みを止める為に情報を集めていた。だがわかっている事は企んでいる事を除けば首謀者と思わしき名前が『ヴァンドル』らしいという事だけ。はっきしいって手がかりは無いに等しかった。
 タルとミーナはそろって溜息をついた。ここ2ヶ月かけて調査したが全然進展がなかったからだ。
「やばいよねぇ、このまんまだと。」
「やばいですよねぇ、このまんまじゃ。」
「でもどうにかしたくても、」
「どうしようもないんですよねぇ。」
 またタルとミーナは溜息をついた。このままでは進展しないまま、儀式が始まってしまう。そうなったらこの世界は終わりだ。
 そうこうしているうちにエッジが料理を持って2人の所にやってきた。料理はクルジェットのキッシュだ。クルジェットとはイタリア料理でおなじみのズッキーニの事だ。
 
 ちなみに材料は
 
 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
 (1枚分)
 ・クルジェット 500g
 ・にんにく 1欠片
 ・卵 2個
 ・生クリーム(液状のもの) 85g
 ・塩・胡椒・カレーパウダー 少々
 ・パイ生地 (市販のものでOK)
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 でレシピは
 
 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
 1:クルジェットは5ミリくらいの太さに丸く切る。
 2:フライパンにオリーブオイルをひき、にんにくのみじん切りをいれて、香りを出す。
 3:クルジェットを2にいれて、しんなりするまで焦がさないようにじっくり炒め、塩・胡椒をする。
 4:パイ生地は180度で約5分焼いておく。
 5:焼き上がったパイ生地の上によく炒めたクルジェットを置く。
 6:ボールに生クリームと、卵を割りいれ、かき混ぜ、カレーパウダーを少々加える。
 7:5に6を流しいれ、180度で約30分ほど焼く。
 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
 
 である。本当に作れるのでどうぞ。
 以上で余談は終わり。
 
「わーい、ご飯だ、ご飯だー。」
 と言ったのはタルではなくミーナの方だった。実はエッジの料理がやたらと美味しいので彼女はいつも御満悦であったのだ。
 食事を終えた後、エッジが洗い物をしている間、タルとミーナの2人はインターネットで情報を集めていた。蛇足ではあるが、エッジの趣味は料理の他に掃除、洗濯、洗濯物の物干しと取り込み、アイロンがけ、雨戸の開け閉め、風呂場の垢取りとそれなりに幅広い。何だかやたらと所帯じみた勇者様だな、とミーナは当初思ったくらいだ。
「むーないねぇ。」
「ないですねぇ。」
 2人ともパソコンの画面とにらめっこしながらうなっていた。
 そうこうしているうちに洗い物を終えたエッジがリビングに戻ってきた。そしてテレビの電源をつけると、煎餅を食べながらニュースを見出した。やっぱりどっかオバサン臭い。
 テレビに映っていたのは短距離走者達についてドキュメントだった。エッジはそれを煎餅をバリバリ食べながら見ていた。
 ふと、ある所でエッジの煎餅の食べる行為が止まった。眉が少々ひん曲がる。
「どーしたの、兄ちゃん?」
 目ざとくその変化に気付いたタルがエッジに声をかけた。
 エッジは頬をポリポリと掻きながらタルとミーナの方を向いた。
「なあタル。人間ってのは2ヶ月足らずで自分の身体を1まわり以上大きくなんてできるのか?」
「はい? そんなの普通は無理だよ。過剰な練習は逆効果だしね。薬を投与したってそんな過剰な効果は見込めないだろうし。相当な量でも投与すれば別かもしれないけどね。」
「だよなぁ・・・。」
 エッジは少々困惑したかのように首をひねった。タルとミーナは不思議そうにエッジを見つめている。
「どったの?」
「いや、2ヶ月程前に直接見た事ある人がテレビに映っていたんだが、どう見ても別人なんなんじゃないかと思うくらい体格がでかくなっているんだ。」
「ふみゅ? じゃあその人は薬をガンガン投与しまくっているんじゃないの?」
「その人は100mの選手でね。そこまで過剰な効果がでるくらいのドーピングしていたら、絶対ドーピング検査にひっかかっている筈だろう? なのに何度か大会にでていてしかも今度の日本選手権にでるとか言っているんだ。」
 タルは顎に手をあてながら首を大きく傾けた。エッジが何を言いたいのかわからないのだ。
「むー、従来のドーピング検査ではひっかからない新薬を使っている・・・、いやそれでもそんだけ過剰な効果がでるのなら何かしら薬物反応でてもおかしくないだろうし、う〜ん。」
 タルはどんどん頭を傾けた。これ以上傾けたらひっくり返りそうだ。
 その時ミーナが何かが頭の中で閃いた。エッジの言いたい事がわかったのだ。
「エッジさん、もしかして魔導が関わっているんじゃないかとか思ってません?」
 タルが『アッ』と言うような顔をした。確かにタルが知っている魔法の中にも対象者の筋力や反射速度を一時的に高める物があるからだ。
 エッジはミーナの言葉を受けて深く頷いた。
「確かそんな魔法があったよなーと思って。魔法によるドーピングならこんな過剰な効果が出てもおかしくないし、従来のドーピング検査に引っかかる訳ないしさ。」
「なるほどねー。恐らくその選手は肉体強化魔法がかけられた魔法薬を投与しているんだろうね。」
 エッジの言葉を引き継いで、タルはうんうんと頷いた。
「でもエッジさん、それがどうかしたのですか? 別段魔法薬の使用をしているからって、その人間のやっている事なんでしょう? 罰則もしようがないと思いますが。」
 ミーナは思った疑問をエッジに投げかけた。エッジはそれを聞いて顔を少々しかめた。
「いや、嫌な事が頭の中で結びついてね。タル、魔法薬でなんか思い出さないか?」
「はにゃ??」
「ほら、佐藤 寛さんの件。あれ。」
「・・・・・・・あっ!」
 タルは思い出した。佐藤 寛さんの件、それはある過疎化が進む村で起こった怪奇事件の事だった。村の若い人達が次々にさらわれて魔法薬の実験材料にされてしまったのだ。佐藤 寛という人も魔法薬を投与された結果女性化してしまい、その後実験施設から逃げてきたのが切っ掛けでエッジとタルが雇われたのだ。その事件は首謀者達が殺されて、首が持ち去られるという後味の悪い終わり方をしている。
「もしかしてその選手さんも」
「ああ、魔法薬の実験材料にされているんじゃないかと思ってね。」
「確かにあの組織の事も気になるよね〜。それに肉体強化の魔法を重複して長期間かけ続けると、肉体にどんな影響がでるかわからないしねぇ。どうする? その選手さんの事も今やってる事と平行して調べてみる?」
 エッジは頷いた。ミーナも同意したようだ。
 エッジはチラリとまだつけっぱなしのテレビを見た。そこには天草 廣一が映っていた。
 
<< 副作用 >>
 
 日本選手権の開催日、ついにその日がやってきた。
「廣一、これで優勝すれば世界戦にでるのも夢ではないぞ。頑張れよ。」
「ええ、わかっていますよ。コーチ。」
 上野の言葉に廣一は微笑んで答えた。その体格は3ヶ月前に比べたら2まわり以上大きくなっている。
「ははは、今のお前を見ると優勝なんて楽勝に思えてくるよ。ここまで体格がよくなるだなんて、お前はかなりの努力をしてきた証拠だな。」
 上野のなにげないその言葉は廣一の胸を大きく抉った。上野は彼が不正をしているだなんて気付いてないからだ。
「それじゃあ俺は関係者に挨拶してくるからこれでな。頑張れよ。」
 上野は控え室のドアを開けて出ていった。
 廣一は1人っきりになると椅子に座ったまま持ってきた鞄を開けて、あの薬を取り出した。この体格も、今の記録もこの薬がくれたような物だった。自分の本当の力とは、努力の成果とはいえない。
『俺は本当にこれでいいのだろうか?』
 廣一はこの頃、苦悩していた。
 俺は何をしたいんだ? 昔の自分はただ純粋に走るのが楽しかった。自分の努力の結果が記録として表れてくるのが嬉しかった。
 俺は今何をしているんだ? 薬に頼ってまで手に入れたこの身体。薬に頼らなくてはだせない今の記録。
 今の廣一には昔のような充実感は一切なかった。走る楽しみなんて一切なかった。ただただ空しいだけ。
『昔に戻りたい。純粋に走るのが楽しめたあの時に。』
 だが、もう彼は引き返せなかった。もう昔には戻れなくなってしまっていた。
「天草選手。出番ですよ。」
 ドアの向こうから声がかかってきた。廣一は薬を鞄の中にしまうと、椅子から立ち上がった。
 
「どうだ、タル。あの天草って奴は?」
 満員御礼の競技場の観客席の中にエッジとタルとミーナはいた。
 タルが手に30cm程の棒を持って瞑想している。その棒の先端は廣一の方を向いていた。
「・・・・・うん。魔力の波動を感じるよ。しかも結構強いね。」
 エッジがタルにかけさせた魔法は対象者もしくは対象物に魔法がかかっているか確認する物だった。
 その結果はエッジの予想通り、天草という選手は魔力特有の波動をばっちりと放っているのがわかったのだ。
「やはり肉体強化の魔法がかけられているんですね。」
 タルの言葉を聞いて、ミーナは確認するかのように言った。エッジとタルもそれを受けて頷く。
「タルさん、魔法消去の魔法をかけてみてはどうですか?」
 魔法にはかけられた魔法を中和する物があるのだ。ただ、それは対象となる魔力の波動と全く同じ波動を作って中和するという、実は結構高度な魔法なのだ。
「うーん無理じゃないけど、ここまで強力にかかっているともっと、それこそ触れるくらいに接近しないと駄目だねぇ。」
 タルは口をへの字に曲げた。
「でもさ、あんだけ多重で魔法がかかっているのはすっごい危険だよ。下手に激しい運動やると魔力が暴走しちゃうかも。」
「あのー、これから短距離走というすっごい身体に負担をかける事、あの人はするのではないのですか?」
 ミーナの呟きにタルとエッジは顔を見合わせた。それもそうだ。
「少なくともこの競技が終わるまでは手出しができないか・・・。」
「この競技が終わったら速攻で魔法消去しないとね。」
「それまで何もないといいんですけどね。」
 周りの喧燥をよそに、3人は複雑な気持ちで競技場を見つめていた。
 
「第4コース、天草 廣一。」
 割れんばかりの歓声が鳴り響く。廣一は4コース目についた。もう競技は決勝戦になっていた。
 彼は走る為のポーズを取った。辺りがシンと静まり返る。
 銃声が鳴った。
 廣一は全身の筋肉をバネのようにして前に飛び出した。
 走る。全力で前に向かって走る。
 脚が風船でもつけられたかのように軽い。腕も軽快にまわる。
 自分の前はもちろん横にも誰もいないのがわかった。そんな事がわかるくらいに神経が敏感になっていた。
 あと20m。
 コーチが何か叫んでいる。興奮しているようだ。
 あと10m。
 ゴールがはっきりと見える。今の自分なら1秒とかからずたどり着ける。そうすればこの『作業』が終わる。
 あと5m。
 その時に心臓が大きくはね上がった。手足がいきなり重りでもつけられたかのように重くなる。
 
「いけない!」
 タルは叫んで立ち上がった。
 
 突如として口から胃液が吐き出された。身体が倒れそうになる。
『まだだ、あとちょっとだ。』
 廣一は残った力を振り絞って身体を大きく前にのけぞらせた。
 身体がゴールのテープに触れたのがわかった。彼は意識を失い、そのまま倒れ伏した。
 
 電光掲示板に廣一の記録が表示された。
 『9秒81』
 間違いなく日本新記録物だ。本来なら観客席から大きな歓声が響いている筈だった。
 だが観客席からは大きなどよめきが起こっていた。記録をだした選手が倒れたまま動かなくなったからだ。
 担架が運び込まれた。廣一は担架に乗せられると運びだされた。彼のコーチらしき人物が彼に付き添って何か叫んでいる。
 観客席のどよめきはまだ収まらなかった。そして誰も観客席が3席、空白になった事に気がつかなかった。
 
「おい、廣一、どうしたんだ! しっかりしろ!」
 上野は医務室に運び込まれて、ベットに寝かしつけられた廣一に向かって叫びつづけた。
 廣一は胃液を止めど無く吐きつづけていた。身体がびくびくと痙攣している。
 痙攣はどんどん酷くなっていった。そしてある程度進むと全身が大きくはね飛んだ。
 次の瞬間、上野は信じられないものを見た。
 廣一の身体が変態していく。
 腕が異様な速度で細くなっていく。その腕は筋張った筋肉まみれのものから柔かそうな脂肪のついた物に変わっていった。
 脚の毛がどんどん抜けていく。筋肉も削げ落ちていき、内股になり、ぷよぷよと柔かそうな物になった。
 胸がぐんぐん突き出していく。それと同時に臀部も大きく膨らみ、対照的に腰が細くなった。
 睫毛が伸びる。顔が全体的にこぶりになり、髭が根こそぎ抜け落ちた。
 全身が縮んでいく。身長180近くあった彼の姿は160いくかいかないかというくらいにまで縮んでしまった。
 身体の痙攣が収まった。そこには男子短距離ランナーはおらず、あどけなさが抜け切れていない少女が寝そべっていた。
「な、なんなんだこりゃ?」
 上野は驚きのあまり腰が抜けそうになった。目の前で起きた事を頭の中で信じようとしない。
「なるほどねぇ。こんな副作用がでるのか。」
 声が上野の後ろから聞こえてきた。上野が振返るとそこには医務室の医師が立っていた。その目はなにやら興味深そうな光を放っている。
「ふ、副作用? お前なにを言っているんだ?」
「なにをって、あんた知らんのかい? こいつは俺達が新たに作ったドーピング薬を飲んでいたのさ。」
 上野の目が大きく開かれる。あまりの事にパクパクと金魚のように口を開け閉めしてしまう。
「今のドーピング検査には絶対に引っ掛からない特注品をな。まあ飲みつづけたらどんな副作用が起こるかわからなかったから、こいつをだまくらかして実験していたんだが。まさかこんな作用がでるとはなぁ。」
 上野は医師の格好をしている男に掴みかかった。凄まじい形相で男に向かって怒鳴る。
「戻せ! こいつを元に戻すんだ!」
「あー無理だよ、そんなの。もう変わっちまったのは元に戻せようがねーよ。いいじゃねえかこいつの自業自得なんだしよ。」
 男は上野を振り払った。上野は再度男に掴みかかろうとする。
「まぁお前にはウチラの秘密が見られちまったしな。消えてもらうよ。」
 男は懐から何かを取り出した。
 それは奇妙にねじくれた50cm程の長さのステッキだった。男はそれを上野に向ける。
「コーチ・・?」
 廣一が目を覚ました。寝そべったままボーッとした目で上野を見つめる。その声は見た目通りの少女のような声に変質していた。
「廣一・・・。」
 上野が廣一の方を向いた。その行動があまりにも致命的な行為だというのに。
 男のステッキの先端から白い光が放たれた。光が上野に直撃する。上野の全身にまるで身体が引き裂かれるような激痛が走った。
「ぎゃああああ!」
 上野が思わず悲鳴をあげた。だが次の瞬間には全身が真っ白に染まり、塵と化して崩れ去る。
「え、コーチ? コーチ!?」
 目の前で起きた異常な現象に廣一は戸惑っていた。一体何が起こっているのか全く理解できていない。
 男が廣一の方にもステッキを向けた。廣一もその事に気付いた。そして男が持っているステッキが上野を消した原因だと本能的に気付いた。
「いや・・やめて! こっちに来ないで!」
 廣一は必死になって逃げようとした。だが身体には力が入らず、ベットから立ち上がる事すらできない。目にいっぱい涙を浮かべながら顔をイヤイヤとばかりに振りつづける。
「ほう、身体だけでなく精神も女性化しているのか。中々興味深い結果だな。まぁいい、死ね。」
 男が冷酷に宣言してステッキに力を込めた。ステッキから光が放たれた。
 それとほぼ同時に医務室の通気孔の金網が吹っ飛んだ。そして通気孔から1つの小さな影が廣一と男の間に飛び込んできた。ステッキから放たれた光はその影に当る。だが影は揺るぎもしなかった。
「な、なにぃ!?」
 男はあまりの事態に驚きを隠せなかった。ステッキから放たれる光はどんな対象物でも分解すると聞いていたからだ。
 影はエッジだった。鋭い目で男を睨み付ける。通気孔からはわらわらと2つの人影がでてきた。タルとミーナだ。
 彼等を見て何が起きているのかわからないが、とりあえずは助かったと理解した廣一は緊張が解けたあまりに気を失ってしまう。
「もう逃げられないよ。」
 タルが棍棒を突きつけながら男に宣言する。エッジとミーナもじりじりと男に近ずいた。
「チクショウ!」
 男は叫ぶとポケットに手を突っ込んだ。そして小さな鉄の箱をとりだすと躊躇する事なく箱についているボタンを押した。
 辺りで次々と爆発音が響き渡った。遠くから大勢の悲鳴が聞こえてくる。競技場のいたる所に仕掛けておいた爆弾が爆発したのだ。
「うぁ、なんちゅー物を用意していたんだこいつは!?」
 タルがあまりの事にびっくりして声を荒げた。確かにこんな事をする奴なんてそうそういやしないだろう。
 その隙に男は廊下に向かって逃げ出した。ドアを開けて走って行く。
「こら、待ちなさい!」
 ミーナがドアに向かって走り出した。
 その時、彼女の足が何かをふんずけた。
 バナナの皮。
「嘘ぉ? なんでこんなのがこんな所にぃぃぃぃぃ!?」
 それは見事に彼女は滑った。足を上に突き出して頭を床におもいっきり叩きつける。その結果ミーナは気を失ってしまう。
 エッジが頭を抱えた。タルが指で指して爆笑しだす。
 だがミーナは目を開けるとまるであやつり人形が立ち上がるかのように立ち上がった。
 頭を手で押さえてブンブンと振る。口から盛大な溜息がもれる。
「はあぁぁぁぁ。なんでこうお約束ばかりやるんだこいつは。」
 ミーナの口からそんな台詞がでてきた。表情もさっきまでの彼女と一変している。
 その様子を見てタルは何が起こっているのか気付いた。事前にエッジに事情を聞いていたからだ。
「あ〜、ハルリックさん?」
「そうだよ。始めましてかな、タル君。と、挨拶している場合じゃないな。」
「そうですねぇ。これからどうしましょ?」
「とりあえずこの少女は俺が安全な所まで運ぶよ。タル君は魔法で消火作業をしてくれ。」
 ハルリックの言葉にタルはシタッと手をあげた。
「あい、わかりました。あ、あの男はどーすんです?」
「もうアイツが追ってるよ。」
 そう言われてタルが辺りを見渡すと、すでにエッジの姿はかき消えていた。
 
 男は走っていた。辺りに自分が仕掛けた爆弾による爆発によって発生している2次爆発が起こっている。
 もう少しで外に出られる、という所で目の前に小さな人影が立ちふさがった。エッジだ。
 咄嗟に男はステッキを振るって光を放つ。だが光はエッジに直撃したが揺るぎもしない。
 男が驚いて少し後ずさった隙をついてエッジは男の懐に跳び込んだ。腹に掌打を叩き込む。
 男の身体が5mほど後ろに吹っ飛び、壁に激突した。口から胃液が大量に吐き出される。
 エッジはゆっくりと注意深く男に近づいた。男まであと2mという所まで来た時、
 男の横からいきなり何かが飛び出してきた。そして男の首から上がいきなり消えた。首から大量の血が吹き出す。
 エッジは「何か」を目で追う。それは50cm程の身長の人形に見えた。全身が黒っぽく、顔は縦に潰れたようなっている。手の指は3本しかなくてその指には鋭いカギ爪がついている。そして片手にはエッジが追っていた男の頭が握られていた。
 人形はエッジが見ているのを知ると逃げようとした。だがエッジは素早く人形の前に廻り込んだ。
 カギ爪を振るってエッジを迎撃しようとする人形。だがその攻撃をあっさりとかわすと、エッジは人形の頭めがけて下方向に鉄拳を叩き込んだ。
 嫌な音をたてながら人形は縦に潰れた。緑色の液体が辺りに飛び散る。
 エッジは人形が掴んでいた男の頭をポケットから取り出した布で包むと、頭を持ってさっさとその場を後にした。
 
<< 糸は結ばれる >>
 
 『日本選手権を狙った大規模テロか? 国立競技場で起こった爆発事故』
 そんな見出しが新聞やテレビのニュースを騒がした。警察も真相解明に乗り出しているらしい。
 またその事件の直後から日本新記録をだした天草 廣一選手とその専任コーチである上野 長政が失踪している。
 彼等の足取りも探されたが、行方はわかっていなかった。
 
 あるファミリーレストランの奥まった4人座りの席に少女となった廣一は1人で座っていた。
 その姿は緑を基調としたワンピースを着ていて彼女の憂い憂いしさを引き立てている。本人は少しも望んでいなかっただろうが、傍目から見ても結構な美少女に廣一はなっていた。
 しかし、美少女の顔に写っているのは悲しみと後悔だけであった。まるで生きているのが申し訳ないとでも思っているかのような悲壮感が彼女から漂ってきていた。
 下を向いて座っている廣一の対面側に誰かが座った。廣一は顔をあげてその人物を見た。座ったのはやたらと目つきの悪いこげ茶頭の子供だった。エッジだ。
「あの、貴方が私を呼んだのですか?」
 廣一はエッジにそう尋ねた。自分がやってしまった事、そして起きてしまった事に悲嘆にくれて自室に閉じこもっていた彼女にやたらとぶっきらぼうで無愛想な子供の声で電話がかかってきて、『ここにこの時間に来やがれ』と命令されたのだ。
 エッジは廣一の言葉を受けて頷いた。そして持ってきた鞄からA4サイズの封筒を取り出して廣一に渡した。
 廣一はおそるおそる封筒を受け取った。エッジの目が『とっとと開けて中身を見ろ』と言っているような気がして彼女は中身を取り出してみた。
 それは何通かの書類だった。廣一はそれらを目を通してみた。その顔がみるみるうちに驚きに変貌していく。全ての書類を見終わると彼女をエッジの方を見た。
「これって・・・偽造戸籍ではないのですか? 私の名前が「小梅(こうめ)」になっていて、性別が女になってますが・・・。」
 エッジは大きく頷いた。廣一は手に持った書類とエッジを何度も交互に見る。
「それに私の年齢が16になっていて、しかも高校の転入届までついている。何で、どうやってこんなのを用意したんです?」
「企業秘密。」
 エッジはぶっきらぼうに言った。その顔は全くの無表情だ。
「一応、アンタが最低限生きていくのに必要な物は用意してやった。」
 エッジは廣一を睨み付けるような目で見つめた。ただ単に目つきが悪いだけなんだが。
「アンタがやった事は恥ずべき事だろう。ある意味アンタが上野という男を殺したも同然だろう。」
 エッジの言葉を聞いて廣一はうなだれた。確かにそうだ。そしてその事が彼女を苛めていた事だった。恐らく明石も彼女が使用していた薬の秘密守秘の為に殺されたのだ。その事もまた、彼女の心を暗く深い所に追い込む原因になっていた。
「アンタがこれから今までの過去を引きずりまくって生きていこうが、自殺しようが俺には知った事じゃない。だがな、過去はやりなおせねぇんだ。もしアンタが死んだ人や、やってきた事を乗り越えて前に進む勇気があるんだったらそれらを使って生きてきな。」
 エッジは言いたい事を言いきったのかさっさと立ち去ろうとした。
 その姿を見て呆然と聞いていた廣一は、我に帰るとエッジを呼び止めた。
「待って下さい! なんで、こんな物をわざわざ私の為に用意してくれたんですか?」
 エッジは振り向かずに頭をポリポリと掻いた。
「単なる、アンタのファンなだけだよ。」
 手をひらひらと振るとエッジはその場から立ち去った。
 
 私立麻奈影学園。ここは高校陸上界でもそれなりに有名な高校で知られている。
 顧問の先生が女子陸上部の生徒を集めて1人の生徒を紹介し始めた。
「えーこの度、転校してきて、新たにこの陸上部に入部する事になった生徒です。はい、自己紹介して。」
 少女はまっすぐに他の生徒を見詰めるとはっきりとした口調で言った。
「天野 小梅(あまの こうめ)です。皆さんよろしくお願いします!」
 廣一、いやさ小梅は大きくお辞儀した。
 彼女はエッジとの邂逅後、決断した。生きていこう。自分がやった不正の為に死んでしまった明石さんやコーチの分も精一杯生きていこう。それがせめてもの供養になると信じて。
 そして、今度こそ。最後まで走るのを心から楽しんでいこう。もう一度やりなおすチャンスを自分は貰えたのだから。
 そう、二度と後悔しない為に。
 
「どうだ? 解析は進んでいるか?」
「うん、脳みそに圧縮化されている情報の解凍もあと少しで全部終わりそうだよ。」
 エッジの質問にタルはそう答えた。
 エッジは倒した人形があの男の頭を持ち帰ろうとしていた事からなにか情報となる物が頭に隠されていると推理した。
 そこでタルに検査してもらった。その結果、大脳に大量の情報が圧縮された状態で保存されているのがわかったのだ。
「とりあえず、わかっただけでもこいつらの組織の名前が『アガルガン』という事と首謀者があの『ヴァンドル』だって事だね。」
「他にも奴等の支部らしき場所が何個所かわかっています。本拠地はわかっていませんが・・・。」
「そうか、じゃあ解析を進めてくれ。」
 その時、電話のベルが鳴った。タルが出てみる。
「はい、もしもしー。」
『おーっほほほほほほ! お久しぶりですわねお師匠様!』
 タルがおもいっきり渋面を浮かべる。
「あーミランダ? 何の用? 今忙しいんだけど。」
 タルはうざったそうに電話口のミランダに言った。既に手が電話を切ろうとしている。
『ふっ、実はあの件について情報が入ったので伝えとこうと思ってね。』
「え、そうなの?」
『ええ、実は私達以外にも『ヴァンドル』って奴を調査している「狩人」がいるのよ。』
 タルはびっくりした。そんな事は初耳だったからだ。
「オイラ達以外にも『ヴァンドル』を追っている奴がいるの?」
『そうよ、しかも追っているのはあの「坂上 蘇芳」なのよ。』
「「坂上 蘇芳」? って兄ちゃんと唯一まともに戦えるかもしれない可能性があるあの人間の事??」
 タルの言葉を聞いてミーナが驚愕の表情を浮かべた。エッジとまともに戦える奴だなんて聞いた事ないからだ。
「エッジさん、そんな人間いるんですか?」
「ああ、まぁ俺の方が総合的にはまだ強いんだろうと思うけど、攻撃力と耐久力ならあっちの方が上だろうな。それにあいつ、まだ成長しそうだし。」
 ミーナは口をあんぐりと開けたまま固まってしまう。エッジさんにそこまでいわせる人間ってどんな奴なんだ? ミーナは逆にそら恐ろしさすら感じたほどだ。
『だから、彼と接触して情報を聞いてみるのもいいんじゃなくて? 私も彼に接触してみるから。それじゃね!』
 ミランダは一方的に情報を渡すと電話を切った。
「兄ちゃんどうする? 坂上と接触してみる?」
 エッジはしばらく考え込んだ。だがしばらくして顔をあげた。
「そうだな、あいつほどの実力者が俺達と同じ人物を探しているとなると、同じ目的で動いている可能性が高い。一回接触してみよう。もしかしたら共闘できるかもしれない。」
「そうだね。でも兄ちゃんと坂上の共闘ってもしかしたら下手な一個大隊より強いんじゃないの?」
「・・・・・・エッジさんクラスが2人ですもんね。ゴ○ラとガ○ラがタッグを組んだようなものですかねぇ・・・?」
 タルとミーナが顔を合わせる。何だか怖いものを想像してしまったからだ。
 エッジはそんな2人をジト目で見つめる。
「お前等、人の事を大怪獣と一緒に・・・・まあ、いい。俺は坂上とコンタクトを取る。お前達は脳の情報の解析を続けていてくれ。」
「了解!」
「わかりました。」
 
 
 今、一本一本の細い糸が束ねられ、太い綱になろうとしていた。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 こんにちわ。
 
 この2年間で肺炎ピロリ菌ストレスの併発による胃潰瘍&十二指腸潰瘍鬱病大腸癌にかかったDEKOIです。神様、僕に死ねって言ってませんか。
 
 つうか未だに鬱は治ってないのですが。デプロメール錠(抗鬱剤)とドグマチールカプセル(精神安定剤)とサイレース錠(睡眠薬)が手放せないんですが。誰か助けて。
 
 この2年間、1日たりともかかさず西洋医学の粋を集めた白い玉粒東洋医学の結晶である茶色っぽい粉粒を飲んでいない日はありません。そのせいかマイ・キャ○ンが全くさっぱりじぇんじぇんこれっぽっちもぴくりとも起動しないぜこの2年間。これぞまさしくイン○テンツって奴さ!全く困らないのが玉に傷だがな、ド畜生
 
 自虐ネタはこれくらいにして。
 
 本作品 - ランナー - をお届けさせて頂きます。
 
 読んでくださった方お読みいただいてありがとうございます。まだ読んでいない方、一応目を通して頂けると大変うれしゅうございます。
 
 この作品を持ちまして「狩人」達が集まりました。さてこれから決戦に向かって行く・・・・・予定です。うん、いけるんじゃないかなーと思ってみたりしますですはい。つうか最後はもういつでもOKなんだけどそれまでの過程がなー。
 
 情けないこと言ってますがまぁ何とか決着はつけますので気長にお待ち下さいませ。
 
 ではまた御挨拶できる事を願いつつ、筆を置かして頂きます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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