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狩人 - 改造少女 VS 吸血少女 -
作:DEKOI

<< 対峙 >>

 俺の名前は井上良樹、と言う名の男だった。だが今の俺は井上佳枝と言う名の女だ。ちなみに戸籍もそうなっている。
 悪の総帥にして邪悪の根源たるうちの親父による卑劣にして狡猾なる姦計にはめられて、陰険にして非道なる改造手術によって俺の身体は正義の改造美少女戦士に変えられてしまったのだ。
 元の姿に戻る為には莫大な金額が必要とされた。そこで俺は「狩人」という裏社会の仕事に手を染めて、元に戻る為の資金を稼いでいるのだ。その割には稼いだ金が片っ端から生活費や武器の作成費用に当てられまくっているよーな気がしてしまうのだが。
 
 ジリリリリリリン、ガチャ
 
 夏もそろそろ始まろうとするある日曜日、昼に差しかかろうとしている時間に一本の電話の音が鳴り響いた。
「はい、もしもし。井上でちゅ。」
 今時ダイヤル式の黒電話という古くっさい物を使っているのって、うちだけじゃないかなぁ。
 そんな事を思いながら電話に対応している親父をぼーっと見ていた。
 ちなみに親父の見た目はおかっぱ頭の4歳の幼女。どっから見ても幼稚園児だ。
 本来の姿は熊そっくりの姿だったのだが何を思ったか自分の身体を改造してあんな姿になりやがった。その時の顛末は後に語ろう。
 ちなみに電話の置いてある位置はいつも家にいる親父と未来ちゃん☆の為に低めに設定してある。
 未来とはこの前できた見た目が5歳くらいの日本人形みたいな、落ち着いた雰囲気を持った俺の妹だ。正確にいったら兄貴にあたる。ある事故で死んでしまった兄貴の喜一の記憶データを親父が作った女の子の身体にダウンロードされてできたのが未来だ。
 人格データは損失されていたので、記憶だけで人格はなかった。そこで俺と親父の手で入念な教育を行った結果、つつましげで思いやりがあり、内気で控えめといった理想的な妹としての人格を設定したのだ。
 ちなみにどんな教育をやったかは機密。つうか知ったら殺す。
 ・・・しかし、家の家族の男性率が極端に下がっている気がする。母さんが死んだせいで男家族になった筈が、いまや家族の中にいる男は弟の栄治のみになってしまった。
 そのうち栄治も親父の毒牙に・・・・ぶるるるる、そんな事させはしないぞ。
「御姉様、お茶が入りましたわ。」
 未来が洗い物を終えてリビングのソファーでくつろいでいた俺の為にお茶を入れてきてくれた。
「あ〜ん未来ちゃんいつも可愛いでちゅね〜。もうすりすりしちゃうわ〜。」
 俺は未来に抱きつくとほお擦りし始めた。
 これは純粋なる妹に対する愛情表現だ。決して女性化が進んでしまっているせいではない。絶対ない。と思いたい秋の日の夕暮れが寂しい今日この頃。
 今は初夏だろうとかいう突っ込みは禁止。わかっているから。
「御姉様、私は一応、20を超えておりますのですが、ってそんな所をお触りにならないで下さいませ。」
 なによ、ただちょっと未来ちゃんの敏感で繊細なと・こ・ろを触ろうとしただけじゃないの。ただの愛情表現よ、愛情表現。
 『御姉様、御無体な』とか『ああん、やめてください』とか未来ちゃんの悩ましげな吐息とか一切無視してアタシは未来ちゃんをペタペタすりすりコチョコチョしまくった。
 ウフフフフフ、頃合が良くなってきたわね。さあ、未来ちゃん御姉様と一緒にゆ
「佳枝ちゃん。お客様が来るから片付けとかいった用意をしてくだちゃいでちゅ。」
 いつの間にか電話による話が終わっていたらしく親父が俺に声をかけて来た。
 ちっ。
 未来ちゃんが俺の手から離れていく。その目は小動物のように怯えた色を見せながらも頬をほんのりと赤らめていた。
 ウフフフフフ、未来ちゃん待っててね。次の機会があったら必ず最後までやってあげるからね。
 俺はリビングからいそいそと出て行く未来ちゃんを見届けると親父の方を向いて尋ねた。
「で、誰が来るんだよ。」
「蘇芳さんでちゅ。」
 それを聞いた瞬間に俺の身体がまるで爆発でもしたかのようにソファーから跳ね上がった。前傾姿勢で全力で駆け出す。リビングのドアを凄まじい勢いで吹き飛ばし廊下を駆け抜けた。階段を8段飛ばしで上りあがると自分の部屋に突撃する。ドアを開けるのとほぼ同時に部屋の中に突入し、衣装箱に向けて跳びあがった。
 今、俺が着ているのはカーキー色の上下のジャージで下はノーマルな白だ。俺はそれらを全て破り捨てるかのごとき勢いで脱ぐと全裸になった。下着の入っている棚を引き抜くかのような勢いで開けるとひっくり返しかねない勢いである物を探す。あった。赤いワインレッドのすけすけの上下の下着。俗に言う勝負下着。俺はそれを身に付けた。
 とっておきの水色のワンピースを取り出して着る。化粧台にジャンプすると鏡台を全開で開く。髪の毛を整えて化粧を念入りに、いつもよりも超念入りに施す。濃すぎてはならない、だが薄すぎてもいけない。俺は震える手で化粧を施した。
 全てを終えると立ち上がり、入念に身づくろいをする。全てが終わって俺は部屋の入り口に振り向いた。
 そこには親父が立っていた。ちょっと呆然としている。フフフ、今のアタシの美しさに唖然としているな。
「あー、蘇芳さん来るのは夜なんでちゅが。」
 今はまだ昼になろうとしようとしている時間。まだ12時にすらなっていない。
 先に言えよこの馬鹿野郎。いらん手間をしちまったじゃねえか。
 俺はゆっくりと床にへたり込んだ。
 
 再びジャージに着替えた俺は蘇芳さんを迎える為に掃除ましーんに変貌した。
 床掃除に壁掃除、止めとばかりに窓拭き掃除まで飯も食わずにやってのけた。更には除菌処理を床に施す。
 塵一つどころか雑菌すら落ちていないという状況にまで床を徹底的に洗浄する。
 素晴らしい。これでこそあの方を招き入れるのに相応しい状況だ。俺は自己満足に浸った。
 これでいきなり電話がかかってきて『今日はこれません』とか言われたら床にまんべんなくゴミを撒き散らしてやる。
 いつもなら絶対に作らない筈の豪勢な料理を腕をふんだんに振るいまくって作る。
 ベットを整える。枕はYes/Noマクラ。もちろん表の向きはYesだ。
 これで準備は完璧。いつでも来てOKさ!さあカムヒヤ、マイ愛の巣へ。
 周到に用意された罠と言った奴、誰だ前に出ろ。
 こうして虎視耽々と俺は蘇芳さんを待ち続けた。時間が異様に遅く流れている気がする。早く来て下さい、そしてアタシと一緒にベットを共にするの☆ もう、今日は寝かせないわよ♪
「御姉様、ちょっと怖い・・・・。」
 未来ちゃんが俺の方を見て脅えた風に言った。
 ・・・・・・俺、モシカシテ壊レテル?
 
 ピンポーン
 
 夜になり、インターホンが鳴った。俺は弾けるように玄関に向かって駆け出した。
 玄関の前で急停止すると速攻で入念に身繕いをする。そして満面に最高の笑みを浮かべて俺は返事をした。
「ハーイ♪」
「こんばんは。」
 ああ、やっぱり蘇芳様のお・こ・え。やっと来てくれたのですね。さあ入って来て、 入念にこしらえておいた罠 腕によりをかけて作ったアタシ達の愛の巣へ☆
 ドアが開いた。そこには
 純白の髪をした黒服の青年。間違いない蘇芳さんだ。
 長髪で細面で、黒びち眼鏡をかけたオッサン。貴様何者だ。アタシ達の愛の行為を邪魔をしにきたのか。後で秘密裏に抹殺してくれる。
 そしてもう1人、ブロンドの髪を持った白人の、俺とほぼ同年代と思える少女。
 彼女を見た瞬間、俺は直感した。間違いない、こいつは敵だ
 この女は蘇芳様に張り付いている毒虫に決まっている。アタシと蘇芳様との間を引き裂こうとする為に悪魔が用意した邪悪な罠に決まっている。
「こんばんは、お邪魔します。」
 アタシと蘇芳様の愛の行為を邪魔するってのかい?
 アタシがもうバリバリに毒電波を発生させているというのにその女は一切気付かないで家にあがり込んできた。
 とりあえずアタシも学校ではそこそこ有名な美少女だ。あんたなんかに負けはしないわよ。
 そう思ってその女を見てみた。
 ・・・・・・なにこいつ? 目は清い湖よりも澄んでいる。鼻は美しいラインを刻み、口は花のつぼみを連想させる。文字通り掛け値なしの美少女。アタシが隣に立っていたら確実に霞む。
 えーっと、身体は・・・・・ボン、キュ、ボン。もう出る所は出まくって引っ込む所は引っ込んでる。なんて妬ましい。
 アタシはドンドンやさぐれた気分になってきた。つうか完璧に外見では負けている。・・・やばい、このままではこの悪女(決め付け)に蘇芳様が取られてしまう。何とかしなければ・・・!
 そんなアタシの焦った気持ちなど露知らずに親父がチョコチョコとでてきて蘇芳様と挨拶していた。
「こんばんは、お久しぶりぶりでちゅ、蘇芳ちゃん。」
「お久しぶりです、俊三さん。えっとそちらのお嬢さんは?」
 親父に隠れるようにしている未来の方を見て蘇芳様は質問した。ちなみに親父の方が未来よりもちっちゃい。
「こにょ子は新ちくできたアタチの娘、未来でちゅ。ほら未来、この人にごあいちゃちゅして。」
「こんばんは、お兄さん。未来です・・・。」
 もじもじしながらもちっちゃい声で未来は蘇芳様にペコリと挨拶した。頬が真っ赤に染まっている。
 もしかして蘇芳様に惚れた? 駄目よ未来ちゃん、あの人はアタシのなんだからね
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 はっ
 なんか超嫉妬&妬みマシーンと化していた気がする。
 ヤバイ、これはやばすぎる。俺は元は男な筈だ。で、蘇芳さんは掛け値なしの男。それに惚れているのを認めているような思考はいくらなんでもやばすぎる。
 なーんか未来ちゃんが出来てから女性人格がズビズバ表われまくっている気がしていたが、ここまでくると超大問題。恋敵に嫉妬する女心なんていくらなんでもやばすぎでないかい??
 と、思っていると、あ、
 あの女が蘇芳様の背中に手を当てた。んでもって蘇芳様、全然はらいのけない
 轟然と噴き上がる嫉妬の炎。多分1兆度は軽く超えている。
「ちょっとアンタ! 何しているの!?」
 アタシは女を蘇芳様から引き剥がした。全く油断も隙もない。
「え、私はただ蘇芳さんの背中に糸屑がついてたから取っただけですけど・・・・。」
 女はびっくりしたような顔をしながらしどろもどろに答える。
 なんですってえ? なんて素晴らしいシチュエーション、今度あったらアタシにゆずりなさい・・・・・じゃあなくて、何を考えてんで俺はあぁぁぁぁぁ!?
 い、いかん。これはやばすぎる状況だぞ。蘇芳さんだけでもかなり情緒不安定になりやすいのにこの女の子が合わさったら不安定になりっぱなしになりかねん。それ以上にこんな状況続いたら女の子人格で固定しちゃうんじゃないかなぁ?
 女の子はクスクスと俺に笑いかけてきた。その表情は花よりも可憐でビーナスのように美しい。俺が男のまんまだったら確実に篭絡されていただろう。
 だが、今の俺は女だった。その為にその笑顔を見ても湧いてきたのは嫉妬の炎だった。
「初めまして、私、クロードって言います。よろしくお願いします。」
 少女が深々と俺にお辞儀した。ブロンドの髪の毛がまるで妖精の踊りのように軽やかに宙を舞う。
「え、あ? ああ、あアタシは佳枝っていうんだ。」
 俺はしどろもどろに挨拶した。この子、反則的にきれいじゃん。今は女であるはずの俺でさえ一瞬篭絡されかけたぞ。
 しかし何でこんな子が蘇芳さんなんかと一緒に家に来たんだ? どう見ても下手なモデルよりも奇麗な子なのに蘇芳さんのような裏社会の人間と一緒だなんて??
 と、思っていたら蘇芳さんのこんな事言い出した。
「えーこちらの方は伊藤さん。この頃私のお手伝いをして頂いている方です。で、こっちの女の子はクロードと言いましてここ最近私の助手をして・・・・」
 助手? 助手? 助手ぅぅぅぅ?
 と、ゆー事は何? 蘇芳様と2人っきりになったり寝る所が一緒だったりあんな事こんな事夜のお・あ・い・てとかしているって事をぉぉ?(注:助手だけで夜の相手する人なんてあんまりいないと思います)
 おのぉれなんて羨ましいぃぃぃぃぃ。
「ちょっとアンタ! 後で近くの校舎の校庭に1人で来なさい! わかったわね!!」
「え? あ、ハイ。」
 アタシはクロードに指を突きつけて宣告すると、周りの人達が目を丸くしている状況をほおっておいてさっさとその場を立ち去った。
 
<< 対決 >>

「うふふふ、ヨーミン様。ポケットをつれてこんな夜更けに出かけるとは、いけないんですよ。」
「うるさいわね。いいから黙ってついてきなさい。」
「うふふふふ、わかりましたです。」
 俺はポケットをつれて家をでていた。
 ちなみにポケットとは親父特製の俺専用のサポートロボットだ。見た目は黒い鉄の球体に短い手足がくっついた物。どう考えても外見の50倍は上回る武器を常に収納しており、さらに怪しげな訳のわからん機能があれこれくっついている。ちなみに未来ちゃんの元になった記憶データを取得、保存していたのもポケットの機能のおかげだ。・・・本当、どうやってあんな事できたんだこいつ?
 ・・・・・考えてみればなんで俺はこんな事をしているんだ?
 さっきは勢いにまかせてあんな事言っちまったけどわざわざ待っている、もしくは来るとは限らないんだし。
 第一からしてすっげえ失礼な事を言った気がする。ちょっと冷静になった状況になってみればわかるが、助手というだけであんな事こんな事夜のお相手なんてするとは限らない、どころか蘇芳さんがしたがらない気がするし。
 やっべぇ、どうしよう、やっぱ謝るべきかなぁ、とか考えているうちに校舎についた。
 この校舎は小学校の物だ。俺が小学生の時も通っていたし、現在も弟の栄治が通っている。再来年には未来ちゃんも通わせようかと言う話もあがっている。ついでだから親父も通って一般常識を学んでくればいいのに。
 とりあえず門を乗越えてこっそりと校舎の中に潜入しようってポケット、お前なに足の裏からジェット噴射して飛んでんだよ。本当にどんな機能がくっついているんだお前は?
「いろいろとです。」
 そうか、いろいろか。で、納得すると思っているのかコラ。
 なんとか校舎に潜入できた。校庭に向かって歩いている。
 いた。暗闇の中、二宮金次郎の像の横にクロードが立っていた。その白く神秘的な姿は人によっては暗闇に佇む幽鬼ととるか、それとも夜の中に立つ女神ととるか。・・・俺は何故か漆黒の闇に立つ美しい戦乙女を連想した。
「佳枝さん、こられましたか。」
 まるで花が咲き誇るかのような美しいソプラノで彼女は俺に声をかけてきた。その顔には軽やかな笑みが浮んでいる。
 俺は彼女の側まで歩いて行った。ポケットもトテトテと俺の後ろを歩いてくる。
「あの、ご用件はなんなんでしょうか?」
 クロードは不思議そうに俺に声をかけてきた。それに対して俺は眉間に皺をよせながら言った。
「・・・貴方、蘇芳さんのなんなの?」
 もうこの時点で嫉妬ばりばりの台詞だ。でもどうしても言わずにはいられない。
 クロードはびっくりしたようだ。それはそうだろう。こんな事普通は言われないだろうから。
「私は蘇芳さんの助手ですが・・・」
「蘇芳さんは基本的に一匹狼のはずよ! なんで貴方が助手に、あの人のそばにいられるのよ!」
 俺はいつの間にかヒステリックに叫んでいた。自分でも何でこんな事を言っているのかわからない。
 でも言わずにはいられなかった。多分、これは嫉妬だ。彼女に対する。
 クロードは俺の方を見て、静かに見つめている。その目は何かに気付いたかのように見えた。
「貴方、蘇芳さんの事を・・・・?」
「そんな事ない! そんな事を認める訳にはいかない! だって・・・」
 だって俺は、『男』なんだから。
 俺は男だ。それを否定したくはない。蘇芳さんの事はただ気になっているだけだ。
 ・・・違う。わかっている。俺の心の奥では確かにあの人の事を『女』として『好き』だという気持ちがある事を。
 でもそれを認めたら俺は心まで『男』である事を否定する事を意味している。そんな事までできない。
 俺は・・・紛い物の『女』である俺が誰かを『好き』になる事だなんて・・・あってはいけない。そんな資格はない・・・。
「私は、蘇芳さんが『好き』です。」
 クロードは俺を見つめながらはっきりと言った。俺は彼女を凝視した。
 胸の内にメラメラと炎が灯る。それが嫉妬の炎なのだろう。でもその炎は確かに俺も焼いている。
 彼女が羨ましい。本物の『女』である彼女が。ハッキリとあの人への思いを言える彼女が。
 俺には・・・できない。紛い物である俺には。意気地なしと言いたければ言えばいい。でも俺にはできない。認められない。あの人への思いを言う勇気は俺にはない・・・。
「羨ましいな。」
「えっ?」
 俺は自分の内にうまれた思いを口にしていた。目からポロポロと涙がこぼれてくる。悔しくって、情けなくて。
「羨ましい、て言ったんだ。自分の気持ちに素直になれる、本物の『女』である貴方が。俺のような紛い物ではない、本物である貴方が。」
 俺は紛い物だ。本物の『女』じゃない。例え生まれてきた『女』の感情が本物でも、俺は認める事ができない。
 この時ほど俺は親父を恨んだ事はない。何で俺の身体を『女』に変えたんだ。そうすればこんな思いしなくてよかったのに。何で俺はあの人に会ってしまったんだ。そうすればこんな思いが生まれる事はなかった筈なのに。
 あの人が『好き』だ。そんな簡単な思いを認める訳にはいかない。なんでだよ、なんで俺は・・・・・!
 俺は泣きつづけた。顔がぐしゃぐしゃになっているかもしれない。でも泣かずにはいられなかった。
 畜生。こんな行動している事こそ『女』っぽいじゃあないか。でも止められない。悔しいよ、情けないよ、いやだよ、こんなの・・・。
 その時、クロードが俺の手を取ってきた。俺の手を優しく包み込んでくれる。
 泣いたまま、俺は彼女を見た。彼女はにっこりと笑った。どこか寂しげに。
「佳枝さん。私も『紛い物』なんですよ。」
「えっ?」
 今、なんて言ったんだ?
「私も十ヶ月ほど前までは男だったんです。母が死にたくないばかりにある組織と取り引きしていましてね。その結果、私は女に、それも吸血鬼という化物になってしまったんです。」
 クロードは俺に微笑みかけながら言葉を続けた。
「その後、死んだ母を生き返らせる為に私は操られるまま、近隣の人を襲い、殺しました。私が幼い頃から良くしてくれた人も手にかけてしまいました。」
 彼女の独白は続いた。俺は呆然としたまま聞いていた。すでに涙は止まっていた。
「私は死を望みました。殺人鬼である自分が嫌で、そして今の自分が嫌で。何度も自殺を試みましたわ。でもこの肉体は私に死を許してくれませんでした。」
 彼女は再び笑った。悲しそうに、本当に悲しそうに。
「そんな悪夢のような日々が続いたある日、私たちが引き起こした事件を解決する為に蘇芳さんが来ました。そして私の事を一度は殺そうとしたんです。」
 俺は大きく目を見開いてクロードを見詰めた。その視線を彼女は真っ直ぐに見つめ返す。
「その時は何とか逃げれたんですけどね。でもその後、再会した時にはあの人は私に言ったんです、『君は正気だから「狩らない」』って。本音いったらあの時の気持ちは、殺された方がいいな、とか思っていたんですよ。」
 クロードは上を向いた。もしかしたら、涙がこぼれるのが嫌だからかもしれない。
「その後、化物と化した母と蘇芳さんは戦いました。自分がぼろぼろになって、死にかけてまで。知ってます? あの人が『狩人』の世界に入ったのって妹さんの仇を探す為だそうですよ。なのに村人の為、私の為に命懸けで戦ってくれたんです。私が化物に変えられた理由を知って本気で怒ってくれたんです。本当、馬鹿がつくんじゃないかっていうくらい、お人良しなんですよね、あの人って。」
 そうだ。あの人は本当に優しい、ううん、優しすぎる人なんだ。自分の事なんかよりも他人を平気で優先する。他人の為なら平気で自分を投げ出してしまう。
 本当に馬鹿がつくくらい、いい人だ。だから俺は・・・・。
「だから私はあの人が好きになったんだと思うんです。」
 ・・・・・!
「私も当初は否定してました、その気持ちを。でも否定してどうするんですか? だってどんなに自分を偽りたくても自分は『自分』でしょう? 私は自分から逃げたくないんです。あの人が逃げないように。あの人だって、逃げたいと思っているはず。憎しみの炎に身を焦がしつづけた方がいいと思っているはず。でも、あの人は逃げない。他人の為に前を向いて戦っているんです。」
 俺の手を握っている手に力がこもった。そして俺をまっすぐ見つめる。その目には力強い何かが宿っている。
「だから私も逃げません。自分の気持ちから。あの人の事を『好き』だというこの気持ちを絶対に否定しません。あの人と幸せになりたいという気持ちを持ってあの人についていきます。それが私が決めた生き方です。」
 ・・・・・・なんだよ。俺はただ、弱虫なだけだったのか。こんな事を言われなくちゃ気付かないただの大馬鹿野郎なだけだったのか。
 確かに元々は俺は男だ。でも今の俺は女なんだ。それを否定してどうするんだ? 自分を否定したってどうしようもないじゃないか。今、自分はここに立っているんだから。
 俺はいずれ男に戻るだろう。だけど今の自分をその間ずっと否定し続ける必要なんて、ないじゃないか。どんな姿をしてたって、俺は俺。『井上 良樹』なんだから。
 俺はクロードさんの手を握り返した。そしてきっぱりと言った。
「俺もあの人が、蘇芳さんが『好き』です。多分、貴方に負けないくらい。」
 そして俺は笑った。クロードさんも俺に笑い返してきた。
「いつか必ず、あの人にこの思いを言います。どんな結果が返ってくるかわからないけど、でも絶対言います。」
「じゃあ、私たち、ライバルですね。1人の男を奪い合う。」
「負けないですよ。俺は必ずあの人を振り向かせてみせるから。」
「あら、私こそ負けませんわよ。」
 お互いに手を顔も当てながら声をだして笑った。もしかしたら初めてかも、女になって心から笑えたのって。
「でもあの人、すっごいニブチンなんですよぉ。私が何度かさりげなくアタックしても全っ然気付いてくれないんですから。」
「ふ〜ん、じゃあ俺にもまだチャンスは幾らでもあるって事なんですね。じゃあ今日にでも夜這いかけちゃおうかなぁ〜〜☆」
「あ、無理。私かけようとした事あったけど寝床にいないんだもん。どこかに隠れているんだと思うんだけど。」
「げ、そうなの? じゃあ今日にでもネグラを探そうよ。あの人の事だからあんまり大したとこには隠れていないと思うし。」
 俺達はぺちゃくちゃと喋りつづけた。会話ってこんなに楽しいんだ。俺は初めて知った。
 ただ、なんだか脱線していって『あの人のあそこはドーダ』とか『テクニックはアーダ』とか卑猥な話に何故かなっていくのは俺達の品性がないって事ですか?
「あーヨーミン様? マスターが『痴話話しているのだったらとっとと帰ってこい』といってますが。」
 ポケットがいきなり会話に割り込んできた。ちょっと女同士の会話に割り込むだなんて・・・
 ハイ? 今なんて言った?
「もしかして親父、今までの会話全部聞いていたとか・・・。」
「聞いてましたです。ついでに言うと蘇芳さんもすぐ近くにいるとの事です。」
 俺とクロードさんは顔を見合わせた。
「と、言う事は俺が言った『あの人のキャ○ンは大きいだろう』とか・・・」
「私が言った『テクニックは結構下手なんじゃないの』といった会話が・・・・」
「「全部聞かれたって事に・・・・。」」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 「「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」
 
 2人の悲鳴が誰もいない校舎に大きく響き渡った。
 
「えーマスター曰く、『全っ然自分の事を言っていたなんて気付いてないから気にするな』と言っておられますが。ヨーミン様、クロード様、聞いてますか?」



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 DEKOIです。こんにちは。
 
 14作目もう脱稿したぜベイベー。『だっこう』を変換したらまず始めに出たのが『脱肛』だったのは私の人徳ですか畜生。
 
 えー本当は全部ギャグの予定が結構シリアスに。何で?
 
 今回のは「狩人」の3人のTSヒロインのうち裏の主人公ヨーミンと正統派ヒロインのクロードの出会いについて書きました。
 
 なんか後半はヨーミンの苦悩についてかけちゃいました。彼女ってこんな苦悩もってたんですね。いや作者もびっくり。彼女の切々とした気持ちが筆で進む進む。ちょっと悲しげな、それでいてなんだか明るい作品になったつもりです。どーでしたでしょうか。
 
 この話を通じてヨーミン達と蘇芳達が合流しました。あとあの一組が合流するだけですね。この話は次で。
 
 ではまた皆様にお会いできる事を願いつつ、筆を置かせて頂きます。またお会いしましょう。
 
 by DEKOI


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