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えー今回は短編連発モードです。ヨーミンの不幸っぷりをぜひ笑ってやって下さい。


狩人 - 改造少女のゆ・う・う・つ -
作:DEKOI



 この世には人知のしれないものが『ある』。
 霊といわれるものが。化物といわれるものが。魑魅魍魎といわれるものが。悪魔といわれるものが。神と呼ばれるものが。
 また魔法といわれるものが、魔法としか思えないほど進んだ科学が。

  それは確かに『ある』のだ。
 「それら」は人間の前に殆ど現れない。だが人間に「彼ら」が牙むいた時、人間に太刀打ちできる術はない。
 だが、「それら」を「狩る」事を目的とした「者」もまた、確かに『いる』のだ。

 その事知る者は、彼等を尊敬と畏怖をこめて「狩人」と呼ぶ。
 しかし、今回の話にはその事は全く関係ない。

その1

 俺の名前は井上良樹。れっきとした男だった。数年前までは確かに。股間に息子が付いてたし胸もなかった。だが今の俺は井上佳枝。股間は涼しいし、胸もある。ベリー・ベリー・ストロンゲスト・ライト・アンド・スモールのような気がしなくもないですが。
 王様の耳はロバの耳ーーーー!!! とりあえず胸のうちに生まれ出た憤りを声にだして解消してみる。
 そう、今の俺は女だ。更には美少女と言ってもいいほど顔が可愛くてスタイルもい、い、と、思、い、ま・・・・・・す。「胸がねーじゃん」って言った奴は殺してやる。しかも正義の改造美少女戦士ヨーミンという名も俺は持っているのだ!
 うぁメッサ恥ずかしい。ちなみに俺を女に改造した親父曰く子供を生む事もできるとのこと。俺にはそんな気はない。ないったらない。あのお方にアタシの操を捧げたい☆って気持ちはあるんだけど・・・・。・・・・・ないないないないないないないないないないないないないないないったらないんだあぁぁぁぁぁ!!!
 何故、俺が女になったかだって? それはね・・・・

「良樹。我々は正義の為に戦う必要があると思わないか。」
 中学1年の夏休みが真ん中に差し掛かろうとする日に、親父は俺にそのような事を言った。
 当時の俺は部活にも所属せず、ぶらぶらと夏休みを満喫する健全なる男子中学生だった。自分で言ってはなんだがそこそこ甘いマスクを持っており、中肉中背。まあまわりより顔がいいだけのただの兄ちゃんだった。
 兄貴の喜一は既に大学に行っており、『筋肉と薔薇について熱く語る会』とういう怪しげ通りこして存在自体が犯罪のサークルに所属していて、合宿にでていた。
 弟の栄治は当時まだ小学1年生だったが、取りたててアクのない俺とちがって頭が良く活動的でボーイスカウトに所属しており、やっぱり合宿にでていた。
 母さんは栄治を生んですぐ他界していた。そーゆー理由で家には怪しげな研究をしている親父とうだうだと青春を満喫していた俺しかいなかった。
 地下に不法に建設した(犯罪です)研究室で奇声と爆発音と奇妙な刺激臭を放つ煙をあげながら何かを研究していた(犯罪です)親父が久しぶりに顔を見せると上記のような事を言った。
「なに言ってんだよ親父。」
 俺は親父にそう言った。『ついに狂ったか親父』とか『また脳の半分でもいかれたのか親父』という言葉はとりあえず肉親だから言わないで置いた。
 ちなみに当時の親父の姿は一言ですませば白衣を着た熊。髪の毛がボーボーに生えていて髭が伸び放題で、でっけえ体格で足が短くて腕が長めだった。
 だが俺の生暖かい厳選に選別されて発せられた父親に対するねぎらいの言葉は親父には届かなかったようだ。
 親父は握り拳を作って上を向いて熱く語り出す。
「今の世の中は多くの悪が、不幸が満ち溢れている。貧困、飢餓、戦争、犯罪、そういった物が世界には満ちている。良樹。それらを解決したいと思わないか?」
 親父の演説を俺は鼻をほじりながら聞いていた。食べてたポテチの袋に片手を突っ込んで数枚取り出すと口にほおりこむ。
 そんな聞く気もやる気も全くない俺の態度を完全に無視して親父の演説は続く。
「我々井上一族は代々優れた知能を持っている。我々の手によって世界の悪を救う事も出来る筈だ。」
 俺は親父の熱き宣言を俺はよだれを垂らしながら船をこぎながら聞いていた。その行為が後々で大変な事態を引き起こすとは知らずに。
 えーっとちなみに説明しておくが、うちの家族は代々知能指数が高い血統にある。親父も兄貴も栄治も全員とても頭がいい。俺は何故か一般的な知能しか持てなかった。別に気にしていなかったけど。まぁ兄貴と栄治はともかく親父は俗に言うマッド・サイエンティストにしか思えない行動ばっかしていたのだが。・・・・今もそうか。
「と、いう理由で良樹。お前は正義の為に改造手術を受けてみるつもりはないか?」
 その時、俺は半分寝ていた。その為に俺は船をこぐ、すなわち頭をうつらうつら動かしていた。そして親父の邪悪な質問が丁度あびせられた時も俺は船をこいで頭を振った。縦に。
「おぉ、そうか良樹! 正義の為に自らの身体を犠牲にするとはさすが私の息子だ!」
 その言葉の不吉さに俺は目を覚ました。瞬時に意識が覚醒した。何か人生において凄まじく重大な間違いを起こしてしまったような気がひしひしと感じた。
「おい、親父。俺なんかやったか・・・」
「それでは急いで取りかかろう。それ麻酔だプシュー。」
 親父は着ている白衣のポケットから今で言うと口臭除去に使われる小さなスプレー缶みたいな物を取り出すと俺に噴出口を向けて中身をぶっかけた。
 それを嗅いだ俺はあっという間に気をうしなってしまった。

 目を覚ますと俺は寝かせられていた。辺りは真っ暗で俺の上から病院ドラマで良く見る手術をする際に用いられる丸い照明灯が俺を照らしている。手足を動かそうとしたが動かせない。
 唯一動いた頭を動かすと俺の手足が縛られているのがわかった。さらに良く見ると俺は丸い円盤状の物に寝かせられており、身体がX字のようの縛られているのがわかった。
「ふふふ、目が覚めたようだな、良樹。」
 俺の左の方から声がしてきた。そこにはいつの間にか親父と思わしき人物が立っていた。何で思わしきかというと白い帽子をかぶって白いマスクをつけて怪しげなゴーグルをつけているからだ。もう見た目バリバリの『悪の科学者』ルック。
 手にメスを持っている。親父の格好。俺の状況。そして意識を失う前に親父が言っていたような気がする不吉さ大爆発の台詞。俺の頭はそれらを統合してある答を一つはじき出した。
「やめろ、親父! 俺は改造手術なんて受けるつもりはねーぞ!」
「なにを言っているんだ良樹。さっき『ウン』って言ったじゃないか。」
 言ってない。一言たりとも言っていない。親父のマスクが奇妙に歪んだような気がする。あの下は邪悪で卑猥で卑劣で残虐な笑みが浮んでいるに決まっている。俺の反応が楽しくてしょうがない、って笑みを浮かべているに決まっている。
 親父という名の悪魔がゆっくりとそれでいて確実に俺に近づいてきた。手に持ったメスが照明灯の光を受けて不気味に輝く。俺を切り裂こうと愉悦の輝きを放っている。
「やめろ、やめてくれぇ! 親父、近くずくんじゃねぇ、ブットばすぞぉ!!」
 親父が俺を見下ろした。その目は凄い楽しそうな笑みの形を作っている、気がした。
 悪魔の手が上にのびた。1つの物体を持って下に降りてくる。何だそのばかでかいドリルは、ドリルは、ドリルは。
 まるで地獄の底に堕ちた罪人の叫びような音をたてながらドリルは回転した。それが少しずつ、まるで嫌がらせかのような遅さで俺にせまってきた。
 そして俺の身体を・・・・・
「うわあああぁぁぁぁ!!!」
 そこで俺は意識を失った。

 チュンチュン・・・・
 爽やかな小鳥の鳴き声がアタシの耳に聞こえてくる。アタシは目を開けるとゆっくりとベットから上半身だけ起こした。
 手を組んで身体を思いっきり伸ばす。アタシは軽くストレッチをするとベットからでた。
 髪の毛が目にかかる。やだなぁ、もうここまで伸びてきたの? 今度美容院に行かなくちゃ。ショートの方がすっきりしてていいものね♪
 なんだかちょっと身体の調子が悪いな。うーんあの日ってわけではない筈なのに、どうしたんだろう?
 ・・・・・あの日?
 ちょっと待て。俺は今ナニヲ考エテイタノデショウカ?
 アタシ? 美容院? ショートの方がすっきりしていていい? ・・・あの日?
 なんなんだよこのキーワードは?
 そういえば俺は何でベットで寝てたんだ? いつベットに入ったんだっけ?
 えーっと思い出してみよう。
 応接間でくつろいでいたら親父が話しかけてきて。
 親父の戯言が素晴らしい効果を持った子守り歌だったからうつらうつらして。
 何か変な物をかけられたら意識を失って。
 目が覚めたら怪しいベットに縛り付けられていて、怪しい格好をした親父が近づいてきて、俺の身体にでっかいドリルを
「うおおおおお、やめろ親父ぃ!!!」
 俺はあまりにも怖すぎる体験を思い出して大声で叫んでいた。
 ・・・・うん? なんだか声が変でないか?
 俺は知らずうちに手を口に当てていた。・・・昨日よりも手が小さくて細い?
 脳裏に親父の言葉が蘇ってくる。

 『・・・・正義の為に改造手術受けてみるつもりはないか?』

 『・・正義の為に改造手術受けてみるつもりはないか?』

 『正義の為に改造手術受けてみるつもりはないか?』

 『改造手術受けてみるつもりはないか?』

 ま・さ・か・・・・
 部屋のドアを蹴飛ばすような勢いで開けてとび出す。廊下を全力で駆け抜けると階段を6段とばしで跳び降りる。最下段に足が届いたのを確認すると同時に前方の壁を蹴って方向転換、勢いを残したまま1階の廊下を駆ける。洗面所のドアが閉まっているのを確認すると少しだけ速度を落としてドアを横に引く。10cmのできた隙間に身体を横にして滑り込ませる。再び速度を上げて洗面台の前に向かうと台を掴んで煙すらたてつつ急停止。そして俺は凄まじい勢いで鏡を覗き込んだ。
 鏡には卵型の顔をした女が写っていた。結構可愛い。歳は俺と同じくらいか。ぱっちりと開かれた瞳に切れ長な鼻筋、小さな唇は触れたら柔らかそうだ。やあねえ、頬がふくれていない? ダイエットしなくちゃ・・・・じゃあなくて!
 今、俺は洗面所の鏡を見ている。そこに写っているのは俺が見た事もない少女。でも俺がこの鏡を覗きこんでいる。すなわち現在、鏡に写っているのは・・・・俺?

「ほんぎょれげきょれげきょぴょろひょ〜〜〜!!!」

 気が付くと俺は自分で聞いても良くわからん悲鳴をあげていた。

「うーんどうした良樹? 変な声朝からだして。」
 親父が洗面所にやってきた。今の今迄寝ていたのか目に目やにがくっついている。
「お、おおおおお、なななな」
「『おお、親父、何なんだよこれは』か?」
 がくがくと俺は頭を振った。
「何をって、お前の承諾を得て改造手術をしてお前を正義の戦士にしただけだが。」
 俺は許可してねぇ。つうか何でこんな姿になっているんだ。改造戦士って言ったら変身ヒーローが定番だろうが。
「ななな、こここ」
「何でこんな姿になってるんだかって? そりゃあ正義の戦士といったら美少女というのは定番だからに決まってるからじゃないか。
 なんか納得。
 いや、すんなよ俺。ってどうしてこんな姿にするんだよ。100万兆京歩ゆずったとしても正義の美少女戦士に変身する方が絵的にもいいだろうが。
 という内容を言ったところ、
「いやぁ、お父さん、そこまで技術がなくって。」
 とりあえず顔面に鉄拳を叩き込んでおく。
「戻せ。今すぐ元に戻せ!!!」
 俺は親父の首を絞めながら力いっぱいガクガクとゆすった。
 親父の口から赤い泡がでてきたから止めたけど。
 落ち着かせてから、さっきの言葉を繰り返す。
「と、言ってもなぁ。お前の身体を改造するのにかなりの額を投入したんだぞ。」
 んな事、関係ねぇ。さっさと元に戻して下さいやがれ。
「うーん、元に戻すとなるとこのくらいの金額が必要になるんだが・・・。」
 親父は紙を取り出すと、さらさらと何か書いて俺に見せた。
 それを見た途端、俺の中でナニカが音をたてて割れた。
 なんなんですかこの桁は。つうか一般の人ならばこんな金額一生かかっても稼げるわけねぇだろう。
 ・・・うんまてよ? 俺の改造費はどっからだしてきたんだよ親父。
 という内容をいったところ、
「お母さんが残した財産全部使い切っオブ。」
 顔面に蹴り叩き込んでとりあえず精神の安定を図る。
「どーすんだよ? 家のお金もすっからぴん状態じゃねぇか! 明日からの生活すらまともにできねぇじゃないか!!」
「大丈夫さ。今の君には常人をはるかに上回る力が備わっているんだ。それを使って働けば生活費用くらいなら簡単に稼げるさ。」
 そーいう問題か。そーいうのでいいと思ってるのかこのオッサン。
 でも確かにこのままじゃ元に戻る以前に生活ができやしない。と、なると俺も働かないといけないのかなぁ。シクシク、何で俺がこんな目に・・・。
「それに君はかなりの美少女だし。男達から貢がせる事もできると思うよ。」
 そう? もぅ、お父さまったら嬉しい事言ってくれちゃってぇ。そんな事を言ってもアタシ何もだしてあげないわよ♪
 ・・・・ってなに考えてんじゃあ俺はあぁぁぁぁぁ!!!
 い、いかん。目覚めの時といいなんかビミョーに女の子人格がでてる気がする。
 俺様ピーンチ!! とか現実逃避している場合じゃねぇよ。
 そんな風にドタバタしていると。
「ただいまー。」
 げ、あの声は栄治。そういえば今日で合宿終わりだったっけ?
「ただいまーお父さん、と誰そのお姉さんは?」
 いや、あの、その、あの、その、えーっと、このワンダフリャ異常事態、どう言えば。
「いやぁ、この子はお父さんが良樹兄さんを改造した結果生まれた君のお姉さんさ。」
 そのまんまじゃねぇかこの腐れ脳親父。そんな理屈が栄治に・・・
「ふーんそうなんだ。良樹兄さんが姉さんになったんだね。」
 ・・・・って通じてやがる。どーして驚かないの?
「どんなに姿変わったって良樹兄さんでしょ? だったら気にする事ないじゃない。」
 じーん
 何だがちょっと目頭が熱くなってきた。ああ、前からいい子だと思ってたけど改めていい子だなぁ栄治は。
 思わず俺は栄治を抱きしめていた。栄治も抱きしめ返してくる。
「お姉さんいい匂いがするよ。お母さんと同じ匂いだ。」
 えへへ、そう?
「でもちょっと胸が固い・・・。」

 ピキッ

「なあぁぁぁんですってえぇぇぇぇ? アタシの胸がないっていいたいのぉ??」
「お姉さんなんだか怖いよ。」
「そんな事を言った悪い口はこの口か? あぁん、この口かぁ?」
「ひーん、お姉さんごめんなひゃーい。」

 まぁそんな感じでその日の朝は過ぎていった。
 ちなみに服は下着を含めて女物に全部変えられて、男物は全て処分されているのに気付いたのは午後をまわってからだった・・・。
 後、喜一兄貴が帰ってきた時の反応は略す。思い出したくないから・・・・。



その2

 俺は危機に陥っていた。
 途方もない危機だ。俺が今まであっててきた危機の中で最大にして最悪の危機といって何も過言ではない。
 炎の中に包まれた倉庫の中から一枚の紙の資料を探し出すという事をやった事もあった。
 インドの迷いの森で大量の亡霊共に襲われた事もあった。
 スコールのように降る銃弾の嵐の中を1人の少年をかばって走り抜けた事もあった。
 筋肉兄貴達の争いに巻き込まれて想像を絶する世界に引きずり込まれた事もあった。そいつらぶっ殺したけど。
 だが今、俺が直面している危機はそれら全てを軽く凌駕する恐ろしい物だった。
 
 女ならば一回は悩まされる物といったら何を連想するか?
 生理? 確かに辛いものだ。
 痴漢? あんな事コソコソやる奴なんて死刑になっちまえと思う。
 セクハラ? 死ね、親父教師共。
 生理的嫌悪感トーク? とりあえずやった教師を裏庭でぼこった(やったんかい)。
 確かに上記の事は誰もが嫌がり、悩まされる事だ。
 だがまだあがっていないのがあるだろう?
 そうだ。

 便秘

 今日は月曜日なのだが水曜日からもうそれは見事にぴったりとビックな便が止まっていた。つうか腹が物理的に重いわ。
 ピ○クのコー○ックを飲んだが全然効果なし。そこで栄治を急かして強力に処方したお通じ薬を作ってもらう事にした(薬事法違法行為)。
 それを飲んだのが今朝一番。そのまま通学したが全然効果がでてこない。そのまま放課後になり栄治が作った薬は失敗だったのかなと思った。
 だが、悪魔の足音は静かに、そして確かに行進をしながらきていたのだ。
 帰宅の為に電車に乗った。そして家が一番近所にある駅まで後一駅のところで、電車のドアが閉まったとほぼ同時にそれは牙を向いてきた。

 きゅーごろごろぐりゅ。・・・・・・ツッタカター、ツッタカター

 襲ってきた。一瞬のうちに脂汗が全身を濡らす。俺は今まで数々の打撃を受けてきた。だがここまで恐るべき物を受けた事はない。
 ツッタカター、ツッタカター
 頭の中を悪魔が行進する音が鳴り響く。確か降りる駅につくまでかかる時間は10分。まるで永劫の如く続く悪夢のような時間だ。だがその時間まで耐えれれば駅のトイレに駆け込める。
 逆に耐え切れなければ社会的信用は完全無比に抹殺される。16歳で電車の中で脱○した女。マジで生きていられん。
 俺は手すりを握って耐えた。耐えるんだ、耐えなければ社会的信用が完全無比に消え去る。1秒が1000秒のように感じる。心臓の音が一音一音、はっきりと聞こえる。
 その時、電車が揺れた。乗っている乗客も揺れる。そして隣に立っていたオヤジの膝が俺の腹にめり込んだ。
 ピーーーーッ。ツッタカター、ツッタカター
 悪魔の行進音に警笛が鳴り響いた。
「ああ、ごめんよお嬢ちゃん。」
 御免ですんだら警察いらねぇんだよ。テメエ後で殺してやる。全てがすんだら。
 最早一刻の猶予もない。全身から脂汗が流れて地面を濡らす。周りの人が不思議そうな顔しているような気がするところからして、かなりのオモシロフェイスになっている気もするが気にしてられんわ。
 全神経を括約筋の収縮に投入する。鉄でできている筈の手すり棒がわずかずつだが曲がっていく。
 早く。早く着いてくれ。つうかのろいんじゃこの列車。こんな切迫状況の客がいるんだからスピードアップしろよ。
 少しずつ列車がスピードダウンしているのがわかった。やっと駅に着く。俺はその時わずかだが溜息をついた。
 ドアが開く。ミクロン単位で計算尽くされた動きをもって俺は列車の外に出た。
 走る。いつもより極端に内股で走る。そこに解放の地が待っている、アタシはそこに向かって走り出した。
 立っている。
 トイレの前で少なく見ても10名は立っている。
 ツッタカター、ツッタカター
 行進の音がわずかに大きくなったような気がした。

 俺は男子トイレの方を向いた。確か男子トイレの方が大に関しては空いてたはず。世間体なんて気にしてられるか。
 そこにあったのは、
 『故障中の為、使用禁止』
 とかかれた札。ナヌー。
 ここの駅にはトイレは一個所しかなかったはず。となれば外に向かうしかない。
 俺は改札を抜けて駅の外に出た。すでに波動砲の出力は200%を軽く突破している。
 えーと、確か近くにデパートが。あった。そこに駆け込む。
 案内掲示板でトイレの場所を確認する。3階。そこに向かうまで階段を登るという苦行に耐えなければならない。無理。
 俺はデパートを出た。近くのコンビニに、と思ったが「駄目です」と言われたらマジで死ぬ。
 そうなるとあとある手段は家に帰る事のみ。そこなら確実にできるだろう。親父が使ってたらぶん殴ってでも外に出させる。
 家まで歩いて着く時間は15分。走れば少なくとも5分は短縮されるはず。
 頭の中で家路に向かう通路をシュミレートする。ナノ単位にまで計算尽くされた移動手段を俺は0.1秒で終えると前かがみになりながらも走り出した。

 俺は家まで走った。だが俺を落としいれようとする悪魔が邪悪な罠を張っていた。
 赤信号。
 ざけんな。車がガンガン俺の前を走っている。一瞬車の間を走りぬけようかと思ったが轢かれたとしたら中身もバースト。嫌すぎ。
 あまりの長さに地団太を踏んだがそれにともない波動砲の出力もズンズン上昇。とりあえず止めておく。
 青にやっと変わる。俺は腹を抱えて走った。
 だが周到にして邪悪なる悪魔はこの事態を予想していたのか、かねてから陰険にして醜悪なる罠を俺の為だけに作っていたのだ。
 俺の目の前に上り坂があった。なんでこんな所に黄泉平坂(よもつひらさか)が。
 だがここを乗り越えなければパライソへの道は開かれない。俺は足を踏み出した。
 一歩一歩毎に波動砲の出力は10%単位で上がる。命の灯が少しずつ消えていくのがわかる。すでに汗は身体から出尽くし、変な汁がでている気がする。
 俺は耐えた。耐えに耐えに耐えた。
 いつの間にか俺はきれいな花畑を歩いている気分になってきた。
 美しい清流が俺の目の前に流れる。向こう岸に死んだ筈のお母さんが立っている。あはは、待っててー、今そっちいくからー。
 え、向こう岸に行きたければこの船を漕げですって? 嫌よアタシ今は大変なのよ。それに面倒だし。アンタが漕ぎなさいよ。

 はっ。

 なんだかあっちの世界を覗いたような気がする。
 そうこうしているうちについに家の前にたどり着いた。大した事ない集合住宅の一軒屋の筈が、今日は大富豪が住む大邸宅のようにゴージャスでエキセントリックに見える。
 ふらつく足取りでドアにすがりつくと家のドアを開ける。すでに波動砲の出力値は800%に達している。本当に一刻の猶予が全く欠片もない。
「あ、御姉様、御帰りなさいませ。」
 入り口には髪の毛を肩口で揃えたまるで日本人形のように整った顔だちの、5歳くらいの少女が立っていた。アタシの妹、未来(みらい)だ。









井上未来ちゃん♪(illust by MONDO)
元は「筋肉」……などとは考えないようにしませう。











 不幸な事故で死んでしまった喜一兄貴の記憶データをこの子の身体を作成して移植したのだ。だが人格データは残せなかった為人格はなかった。そこでアタシと親父の調教によってこの子につつましげで思いやりのある、理想的な妹の人格を植え付けたのだ。
 いつもなら『きゃーん、未来ちゃん。いつも可愛いでちゅねー。もうちゅっちゅしちゃうわー☆』と言ってだっこしてほお擦りしまくるのだが今日はその前に片づけなければならない事がある。
 靴を履き捨てて家にあがる。早く、早くしなければ。
 だが悪魔は最後にして最悪最低最強の罠を俺に仕掛けてきたのだ。
「あ、御姉様。3時間程前に水道局から御電話がございまして、断水するから水道を使うなとの事です。

 ツッタカター、ツッタカター

 悪魔の大行進が頭の中で鳴り響く。未来が告げた言葉は死刑宣告すら生ぬるい。
 だが、まだだ。人間は可能性を捨ててはならない。可能性を捨てた時、人は前に進めなくなる。
 トイレのタンクに水がたまっている筈。一回。たった一回でいい。全てを流しつくつだけの水が溜まっていれば・・・・!!
 俺は希望を捨てずにトイレに跳び込んだ。そしてスカートとショーツを破り捨てるかのごとき勢いで脱ぐとどっかりと座った・・・・。

 ゴボゴボゴボ、ジャー

 なんて素晴らしい音。小川のせせらぎらぎの音よりも軽やかで、小鳥たちのさえずりよりも美しい音。
 始めて知った。この音がこの世で最も尊い音だという事を。
 もう今ならなんでも許せる。お父さまの非道も電車の中で腹にエルボーかましてくれたオヤジの狼藉も。
 ああ、よかった。アタシは心の底からそう思った。

 つうかなんで便意だけで人生最大の危機を味あわなきゃならんのだ、俺。



 <あとがき>という名の戯れ言

 こんばんわ。DEKOIです。- 改造少女のゆ・う・う・つ - をお届けしました。

 その1はヨーミン誕生秘話。親父の元の姿も書いてあります。いつか親父(今.ver)誕生秘話も書こうかなぁ・・・。

 その2は10話の後に襲ったヨーミンの危機の話。もろ下ネタ。だがもしかしたら誰か体験した事があるかも知れないだけに思いのほか緊張感あふれる作品になりました(そうか)? あと筋肉兄貴の変わった姿、未来も登場させました。いいのかなぁこんな所でだして。

 いやーやっぱりヨーミンは書いてて楽しいです。さすが裏の主人公。ちなみにこの作品は11話書き終わった直後に執筆しました。我ながら芸風にギャップありすぎ。

 どうでもいいけどヨーミンって本当に不幸が似合うなー。いや不幸にしてるのは私ですが。

 こんな風な短編物、思いついたら書きます。もちろんメインの続き物も書いていくつもりです。どうぞご覧くださいませ。

 ではまたご挨拶できるように願いつつ、筆を置かして貰います。

 by DEKOI


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