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狩人 - 妖精奇譚【後編】 -
作:DEKOI


<< Scene 4 >>

 獣人の一種、ワー・キャット族の女戦士イミラは戦いにおいて幸運を呼ぶ事で有名だ。
 転んだ拍子に持ってた武器が敵の股間にクリティカル・ヒット。滑った拍子に敵の攻撃を躱す。そのような事が彼女にはざらにあったのだ。
 と、いう訳で何故か彼女は一族の代表として闘技大会に出場する事になってしまった。
「な〜んでアタチがこんな所にいるんだにゃ〜〜〜??」
 周りにいるのはどう見ても自分より強そうな者ばかり。唯一腕力で勝てるのは体長30cmにも満たないフェアリーくらいじゃないのだろうか。ただそのフェアリーも恐面でやたらと怖い。
 この闘技大会はトーナメント方式になっていて、戦う相手と順番はくじ引きで決められる。
「でもアタチは7番だったにゃ〜。ラッキーだにゃ〜。」
 イミラはさっき引いてみたら7番。この世界においても7はラッキーナンバーなのだ。
 これは幸先がいい、もしかしたら一回戦くらいは突破できるかも、と彼女はおもっていた。
「次は・・・え? マジ!?」
 抽選の順番を読みあげていた男森エルフの声が固まる。何ごとかと出場者全員が注目する。
「あー、次はポピット族代表エッジ=バーラングさん、くじを引いて下さい。」
 出場者の1人を除いた全員の身体が固まった。重苦しいほどの静寂が辺りを包む。
 その中をトコトコと身長70cm超えたかどうかの子供が抽選箱の側まで歩いてきた。
 三白眼気味で目つきは悪い。こげ茶色の髪の毛が散切り頭を形作っている。服は上下を黒でシックにまとめていた。
 大勇者がこの世界に帰還しているのは聞いていた。もしかしたら闘技大会に出てくるのではという噂も確かにあった。だが、本当にでてくるとは。
 この世界に魔導の第9属性「気」を持ち込んだ者。魔王と戦い止めを刺した男。誰もが認める妖精界最高最強にして最凶の戦士。んな奴に勝てる訳ねえ。出場者の殆どの顔が真っ青になった。
 子供−−エッジが箱の中に手を入れた。その瞬間出場者の全員が『どうか自分に当りませんように』と神に祈りを捧げた。
 エッジが紙を取り出した。抽選係の男エルフが受け取り、読み上げる。
「エッジ=バーラングさん、8番!」
 出場者が一斉に溜息をついた。だがイミラだけが顔を真っ青を通り過ぎて真っ白になった。ついでに頭の中も真っ白になった。
 トーナメント表のイミラの横にエッジの名前が書き込まれた。
 
 獣人の一種、ワー・キャット族の女戦士イミラは戦いにおいて幸運を呼ぶ事で有名だ。
 しかし、くじ運はまるで全くこれっぽちもかけらも悲しくなるくらいなかった。
 
 巫女王セラ=ミラフュラーはポピット族の代表として闘技大会が行われる闘技場に赴いていた。
 この場所にわざわざ顔を出すのはこの場所もまた部族間の交渉の場としてよく用いられるからだ。プチ世界議会といってもいい。
 セラはこの世界を救った功労者の1人でもある。魔界に精鋭を送り込み魔王を倒すという強引すぎる電撃作戦を立案したのは実は彼女だからだ。
 その為、彼女の印象はほとんどの者が好意的だ。だが今年のこの場での自分の立場はあまり良くないだろうな、と彼女は心の内で思っていた。
「まさか大勇者を投入してくるとは。ポピット族は権力争いに今回は積極的ですなぁ。」
 ほらやっぱり。セラが思った通りの事を口にする者がいた。思わず溜息をつきたくなる所を内心だけで押さえた。
 セラに嫌味を言ってきたのは黒竜人族の長、ハルバニイだった。竜人族とはリザート族の亜種と言われており、リザート族よりも体格が2まわり程大きい以外は取りたてて見た目に変わりがない。だが彼等は伝説の幻獣であるドラゴンの末裔を自負しており、やたらと自尊心が高い。特に黒竜人族(鱗の色が黒い)は発言が過激な者が多く、タカ派だらけなのだ。嫌な奴等の中で特に嫌味な連中と言えばわかりやすいだろうか。
「あらハルバニイ様、ご機嫌麗しゅうございますね。」
 セラはいつものような完璧な笑顔を浮かべた。心の中では『ざけなこの親父、嫌味を言ってんじゃねーぞ、あ〜ん?』とか思っているのだが。
「ポピット族はセコイですなぁ。見た目通りせせこましい事をしますな。」
 ハルバニイが更にねめつけるような視線でセラを見下ろす。
「あらあら、エッジ殿が出てきたくらいでそこまで慌てふためくだなんて、黒竜人の方々は少々器量が狭いのではございませんか?」
 言われた嫌味に対して丁寧な調子でさらにエグイ嫌味を言ってのける。セラの真骨頂と言ってもいい。自慢できる物ではないのだろうが。
 嫌味返しをされたハルバニイの顔が大きく引きつく。トカゲ顔でわかるからそれはもう大した引きつり様だ。
「ははは、まあセラ様に比べれば大した事ないですが。しかし大勇者様を使うだなんてそんなに御自身の権力に執着されておりますとは何ともなさけない。」
「まあ、エッジ殿に叶わないだなんて決め付けている時点で貴方様方の臆病っぷりが如実に表れているとも言えますわね、おほほほほほほ。」
 ハルバニイの顔がもうこれでもかとばかりに歪んだ。トカゲ顔でわかるくらいだからそれはもう大層な歪みっぷりだ。
「そ、それもそうですかなあ、ハハハハハハハハハハハハ。」
「おほほほほほほほほ。」
 2人の乾いた笑いが辺りに響き渡る。剣呑な空気が立ち込めまくった。2人のこめかみに青筋が浮いてるような気がするのは気のせいではないだろう。
「で、ではこれで失礼させてもらいます。」
 ハンバニイは後ろを向いてさっさと立ち去っていった。セラは心の中で小さくガッツポーズを作った。
「ですがハンバニイ様の台詞ではないですが大勇者様をだしてくるとは、少々驚きましたよ。」
 セラの背後から気さくな声がかかってきた。振り替えってみるとそこには白い肌をしたエルフの青年が立っていた。
「これはニミラン様、お久しゅうございます。」
 セラはその青年に丁寧にお辞儀をした。彼は森エルフ族の若長で、年老いた長の代りにこの地に来たのだ。
「多分、なにか事情があるのではないのですか? 貴方様が権力に執着してるとは思えませんので。」
 ニミランは笑いながらセラに尋ねた。軽薄な印象を与えるがこう見えても彼は切れ者で名をはせている。
「ええ、ちょっと事情がありまして。ここでは言えないんですけどね。」
 セラは真面目な顔をしてニミランに答えた。森エルフも反逆者達の可能性がある以上、迂闊な事は言えない。
「そうですか。まあいつかお暇でもありましたら言って下さい。お茶でもしながら。」
「ええ、そうさせて頂きます。」
 お互いに笑いあうと立ち去った。
 セラは心の中でそっと溜息をついた。彼女も彼女の立場からこの件について調査しなければならない。これは思いのほか手間がかかりそうだと思った。
 
<< Scene 5 >>

「ワー・キャット族代表のイミラ様。出番ですよ。」
 ワー・キャット族の女戦士、イミラが呼ばれた時は何でこんな事になっちゃったんだろう、と自問自答していた時だった。
「は、はいだなニャ!」
 座っていた椅子を蹴飛ばして立ち上がる。緊張のあまり白い尻尾がピンと立つ。
 これから大勇者と戦う。そう考えただけで足がガクガク震えた。できるならダッシュで逃げ出したい。だがそんな事したら皆から村八分を食らうの間違いはないだろう。だとしたら死ぬ気でやるしかない。自分のくじ運の無さを心の底から悔やんだ。周りの者達も哀れみの目で自分を見ている様な気がする。
 手の平の肉球に「人」と書いて飲む真似しながらイミラは闘技会場に続く細い廊下を進んだ。
 そうこうしているうちに闘技会場にでた。そこはローマにあるコロッセオの様になっていた。直径400mぐらいの円形の周りをぐるりと観客席を囲んでいる。満員御礼状態だ。周りからたくさんの声援が飛び交ってくる。この大会は確かに権力争いの場に使われているが、一般の者にとっては娯楽としての面の方が強いのだ。
 イミラがキョロキョロとしていると、対面の方から小さな人影が現れた。その途端に今までのどよめきが嘘のように消え去る。
 観衆達は信じられない者を見ていた。生ける伝説。世界最強の戦士。それが今自分達の前でその腕を見せようとしている。誰もが静かな、それでいて熱い興奮を持っていた。
「ひえぇぇぇぇぇ、こわいにゃぁあ。」
 もう泣きそうになりながらイミラは前方100mくらい前に立っているちっちゃい人を見ていた。
 手をガクガク震わせながら愛用の手斧を構える。対してエッジは鋭い視線をイミラに向けながら手を下げたまま無造作に立っているだけだ。だがイミラには自分を殺る気満々のように見えてしょうがない。小便ちびりそうなくらいビクついていた。
「始め!」
 戦いが始まりを表す号令がかけられた。
 次の瞬間、イミラの目の前にエッジが立っていた。確か100m近く前に立ってた筈なのに。
「えっ? えっ? えっ?」
 何がなんだかわからずに驚いていると、イミラは首筋に強烈な一撃を食らってあっさりと昏倒した。
 
 観客の視点から見ると、「始め」の声と共にエッジがとんでもないスピードでイミラに接近するとぶん殴ってあっさりと倒したようにしか見えなかった。
 盛り上がりもへったくりもない、圧倒的な実力差を見せつけただけだった。あまりのあっけなさに観客の間から不満の声すらあがっていた。
 だが各種族の長からすれば顔面蒼白物の出来事だった。自分達が選んだ精鋭と比べても実力差があり過ぎるのが丸わかりだったからだ。
「これは・・・まさかここまで凄いとは。」
 森エルフ族の若長ニミランは呆然と呟いた。あまりの事に開いた口がふさがらなかった。彼も戦士としての修行を積んでいたからわかったのだ、エッジの圧倒的な実力に。自分が戦ったら1万回戦ったとしたら1万回負けるだろう。それくらいエッジの実力は凄まじいものだった。
「こりゃあうちの部族の優勝は絶対無理だなぁ。」
 森エルフ族の選抜した戦士は弓の腕も魔法の腕も一級品の優れた者だ。だが目の先にいるポピット族の戦士と見比べたらどう考えても見劣りしてしまう。天地がひっくり返ったって勝てそうにない。多分相手は鼻歌歌いながらでも勝ててしまうだろう。
「だが、そうだとしたらなんでセラ様は彼を出場させたのだろう。」
 ポピット族が権力に執着する事はほとんどない。セラもそれに当て嵌まる筈だ。なのにこんな超実力者をわざわざ出してきた。
「これはなんかあるな・・・。調べてみるか。」
 ニミランは静かに独白するのであった。
 
 大会はつつがなく進んだ。今日で5回戦まで終わった事になる。
 その間エッジは圧倒的な実力を持って勝ち進んでいた。
 また地エルフ族の代表ミーナも勝ち進んでいた。特に3回戦では森エルフの代表と激突し、これを破った事で地エルフ族達が大歓声を送っていた。
 明後日は準々決勝戦だ。そこでエッジとミーナが戦う事になっていた。
 ここまで妨害が一切ない事にエッジはいかぶしんでいた。そろそろなにか仕掛けてくると思ったのだがまるでそういった事がない。
 代表選手に与えられた部屋のベットでエッジは身体を横たえていた。トロールのような2mを超す体長の者でも対応できるようになっている為、やたらとベットがでかい。
 半分うつらうつらしていると、ドアが叩かれる音がした。瞬時に意識が覚醒する。
「どうぞ。」
 その声とほぼ同時に扉が開いた。そこにはミーナが立っていた。
「こんばんわ、エッジ様。」
 ミーナはそう言うと丁寧にお辞儀して微笑んだ。エッジも身体を起こす。
「なんの用だ、こんな夜分に? まあいい、そこの椅子に座ってくれ。」
 エッジは人間界でいうところの冷蔵庫から飲み物と軽いツマミを取り出す。そしてミーナがテーブルに備え付けられた椅子に座るのを確認すると、その対面に座る。
 コップに飲み物を注ぐ。そして飲み物をすすめると自分のコップに注いで飲んだ。果実酒らしく、酸っぱさと甘さが混ざった液体が喉を潤す。
 ミーナも飲み物に口をつける。しばらくお互いに黙っていたが、ミーナが口を開いた。
「エッジ様、明後日私と戦うのですよね。」
「ああ、そうだな。」
 エッジは再び酒を口にする。そしてピーナッツを口にほおりこんだ。
「そろそろ教えて頂けませんか。あの時洞窟で言わなかった事について。」
 ミーナの言葉にエッジは渋い顔をした。
「いや、まだ君を・・・」
「どうせ明後日の試合で貴方にぼっこぼこに負けるんです。だったら今のうちに聞いておきたいんです。」
 それに対してエッジは呆れた調子で答えた。
「はなから負けるつもりかよ、いや確かに負けるつもりはないが。」
「さらっと勝利宣言してくれますね、本人目の前にして。まあ勝てる気全然しないのも確かですが。」
 お互い示し合わせたように溜息をついた。そしてミーナは身を乗り出してエッジに詰め寄った。
「さあ教えて下さい。兄の死因が何なのかを。つべこべ言わずにきりきりと吐いて下さいな。」
「オイ、それが目上に対する態度かよ。」
 エッジはジト目でミーナをみつめる、だが全然気にする事なく更に身を乗り出してくる。
「正直に言ってくれない人にはこっちも態度を大きくださせてもらいます。さあきりきり吐いて。」
「いやだからまだ話す訳には・・・。」
 そうこうしていると、ドアが叩かれる音がした。
「どうぞ。」
 エッジはそう声をかけた。だがドアが開かない。
「・・・・・仕掛けてきたか?」
「えっ?」
 エッジの呟きにミーナはポカンと聞き返す。エッジの感覚はわずかだが漏れる殺気を確かに捕らえていた。
 次の瞬間、激しい音と共にドアが吹っ飛んだ。それと同時に真っ黒な鎧を着た何かが3人、部屋に入ってきた。全員剣を帯剣している。
 エッジは椅子を蹴飛ばすと侵入者に突撃した。侵入者の1人がエッジに剣を振るう、だがエッジは素手で剣を掴むとあっさりと折ってしまう。
『な、なにぃ?』
 侵入者はやたらとくぐくもった声で驚きの叫びをあげた。その隙にエッジは懐に跳び込むと腹に掌打を叩き込んだ。
 掌打を叩き込まれた侵入者はあっさりとドアの側の壁まで吹っ飛び、叩き付けられた。鎧が粉々に砕け散り、床に落ちる。だがその中身は何も入ってなかった。
「リビング・アーマーか?」
 リビング・アーマーとは低級な霊を鎧に憑依させて自在に操っている存在だ。多少の魔法なら抵抗しさらに手足が吹っ飛ばされても動くといった点を持っており、未熟な存在ならかなりの脅威となる存在だ。
「きゃあ!」
 エッジの背後から悲鳴があがった。振返ってみると鎧の1体がミーナを羽交い締めにして、首筋に剣を突き付けている。
『動くな! この女が大切ならばな!』
 鎧が叫ぶ。それに対してエッジは悔しそうな表情を浮かべるが手を下ろした。
「くそ・・・・。」
『やはり勇者様は人質を取られると何もできないもんだな。あいつもそうだったよ。』
 ミーナの顔が驚愕に歪む。
「あいつって兄さんのこと? まさか貴方達が兄さんを?」
『まさかもクソもあるか。そうだよ、俺達があの男を殺したのさ。安心しな、兄さんの元にすぐお友達をつれてってやるからよ。』
 その途端にミーナの身体がビクンッと震えた。
『ん? なんだ? 脅えて震えているのか?』
 だが、ミーナの顔に不敵な笑みが走った。その顔はさっきまでのと表情が全然違う。
「ふん、そういえば俺を殺したのはたしかにお前達だったな。」
『なに? 貴様なにを言って・・・!』
 ミーナは手の平を羽交い締めしている鎧に当てると呪文を叫んだ。
光弾!(フォース)
 ミーナの手の平から光の玉が飛び出す。それは鎧を大きく吹き飛ばした。
「エッジ! もう1つを頼む!」
「・・・! その口調、お前まさか?」
 エッジとミーナが残った鎧を叩き伏せるのに、30秒とかからなかった。
 エッジがミーナの元に駆け寄る。その顔には珍しく驚きの表情を浮かべている。
「お前、ハルリックなのか?」
「ああ、そうだよ。久しぶりだなエッジ。」
 ミーナは懐かしそうにエッジに笑いかけた。
 
「オイ、なんでミーナにお前がとり憑いているんだ?」
「ああ、あの鎧達に取り囲まれてね。その時は子供が人質に取られていて行動を妨げられたところをなます切りにされてあっけなく殺されちまったんだ。」
 ミーナの声は奇麗なソプラノなのだが、男言葉で喋るとなんだか珍妙だ。
「いや、そこん所じゃなくて。」
「でよう、死ぬ直前に最近研究していた自己復活の魔法をかけたんだ。だけどどこで失敗したのかわからんが幽体になっちまってな。」
 そこで1回ミーナ・・・いやさミーナにとり憑いたハルリックが声を止めた。
「しょうがないからしばらく幽体でいようとしたらどんどん身体が分解していっちまってさ。このまま消えちまうのしゃくだから妹にとり憑いたんだ。」
「勝手に?」
「うん、許可なく勝手に。でとり憑いたのまではいいんだが、相当消費していたらしくて今の今迄ずっと眠ってたんだ。目覚めてみたら俺を殺した奴等が妹が人質に取ってお前を脅している。咄嗟に肉体乗っ取ってこいつらふっ飛ばしたって訳さ。」
 エッジは事の顛末を聞いて深く溜息を吐いた。
「まあ、無事ともよかったなとも言い難いがお前がこの世界にまだいてよかったよ。」
「うーん、まあ妹が救えたから結果オーライって事かな。」
 ミーナ、ではなくてハルリックは指で頬を掻きながら照れたように笑った。
「ところでハルリック、こいつらの正体はわかるか?」
 エッジは襲ってきた鎧を確かめながらミーナにとり憑いたハルリックに質問した。なんだかややこしい。
「いや、こいつらが何者かはわからん。だがこいつらの正体は鎧に人格を投影した物だという事はわかっている。」
「人格を鎧に投影した、だと?」
 ミーナにとり憑いたハルリックは大きく頷いた。
「ああ、疑似の魂を作成してそれに人格を投影した後、リビング・アーマーを作る要領でこの鎧に憑依させたんだ。そうすれば汎用性に優れたリビング・アーマーの出来上がりって訳さ。本体が別にいるからこいつらは死を恐れないしな。かなり効率的なリビング・アーマーの作成方法だ。」
「妖精界ではこんなリビング・アーマーの作成方法を研究してるって話を聞いた事があるか?」
「いや、少なくとも俺は聞いた事ないよ。」
 エッジは指を顎にかけると感慨深げに考え始めた。
「と、なると人間界からの技術か。」
「なあ、エッジ。何が起こっているのか教えてくれないか? いきなり殺されて俺にはさっぱり訳がわからないんだが。」
 ミーナにとり憑いたハルリック−−ややこしい−−がエッジに質問してきた。
「ああ、そうだな。お前には言っておいた方がいいだろう。」
「と、ちょっと待ってくれ。さっき強引にこの身体を乗っ取ったせいで妹が気絶してたんだが起きてきそうなんだ。俺は引っ込むからついでに妹に説明してやってくれ。」
 エッジは無言で頷いた。ミーナにとり憑いたハルリックは笑うとふっと白目になった。そしてパチパチと目をしばたかせるとキョロキョロと辺りを見渡した。
「あ、あら? 私今までなにをってあれ? 何でさっきまで私を羽交い締めにしていた鎧が粉々になっているの?」
「あー、その事含めて色々と説明するから。ちょっと黙って聞いててくれ。」
 目覚めたミーナにエッジは半ば呆れたような口調でそう言うと、説明を始めた。
 
「人間界で七王が召喚されてようとしているんですか・・・。」
 ミーナの呆然とした口調にエッジが深く頷いた。
「ああ、しかもその行為を手伝おうとしてる奴等がこの世界にいるそうだ。君のお兄さんを殺したのも、今さっき俺達を襲ってきたのもそいつらの仕業だろうね。」
 ミーナの身体がまるで脅えているかのように下を向いたまま細かく震えている。
「ミーナ怖いのはわかるが・・・」
「兄さんが私にとり憑いているんですよね・・・。」
「ん? ああそうだけど。」
 ミーナが顔をあげた。その目には涙が浮んでいる。
「にににににに兄さささんがゆゆゆゆ幽霊になってわわわ私にとり憑いているんですよねねねねね。」
「おい、ミーナ。お前もしかして。」
「わわわわ私駄目なんです、幽霊とかお化けとかゴーストとかって! あああそれなのに私に幽霊がとり憑いているだなんて!」
 身体が盛大に震えまくっていた。もうだらだらと涙が流れている。
「いや憑いているって言っても君のお兄さんなんだし。」
「嫌なもんは嫌なんです!」
『そうは言ってもなー。兄さんはお前の事一応心配してたんだぞ、死んでも。』
 ミーナの口がそんな事を喋り出す。一瞬ミーナの身体が硬直するが直後にさらに盛大に震え出す。
「ひいいいいい! 私の口が勝手に動いたぁぁぁ!」
「いや君の兄さんが君の口を借りて喋っただけで。」
『そうそう、そんなに脅える事はないぞ、ミーナ。』
「うひいぃぃぃぃ!! また勝手に動いたぁぁぁ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛兄さんいいから成仏してぇぇぇ!! 神様仏様助けてぇぇぇ!!!!」
「いや、この世界に仏って概念ないだろうが。なんで君はそんな事知ってるのよ。」
 エッジのなだめようとしたが、パニクッているミーナは変な踊りを踊り始める始末であった。エッジは溜息をつくと肩を竦めた。
「駄目だこりゃ。」
 
<< Scene 6 >>

 エッジとミーナとハルリックがコントをしている頃、セラは割り当てられた部屋で来客を応対していた。
 来客はニミラン、森エルフの若長だ。今日の夜、突然のセラの部屋に訪れたのだ。
「すいませんねぇ、突然尋ねてしまいまして。」
 ニミランは台詞とは裏腹に特に悪びれた調子でもなくヘラヘラと笑った。こうやって見ると軽薄な青年にしか見えない。
「いえいえ、こういった事はよくございますので、お気になさらないで下さい。」
 セラは微笑みながらお茶をだした。そしてニミランとは対面の椅子に座る。
「ところで、御用件は何でしょうか。殿方が女性の部屋に夜分に来訪するのですから、それなにの理由がございますのでしょう?」
「ははははは、厳しい御質問ですね。そうですね、今後の世界の動向についてなんて議題はどうでしょうか。」
 セラの顔から笑みが消え、真剣な物に変わる。その変化を見て満足そうにニミランは笑った。
「噂ですが、託宣をお受けになられたと聞きました。」
「そうですか。」
 ニミランの言葉をセラはさらりと受け流す。
「受けられたのはおよそ1ヶ月前。その後200年以上この世界を不在していた大勇者を呼び戻し、更には権力争いの場であるこの大会にわざわざ出場させるという行為を貴方は行いました。」
「・・・・・。」
「更にはこの世界に在中していた勇者、ハルリック殿の事故死。このような時期と合せて考えると偶然とは思えません。」
 ここでニミランの顔が今までの軽薄な物から一転して真剣な物に変わる。
「ずばり聞きます。今回お受けになられた託宣の内容は『魔界』関係ではないのですか?」
「何故、そう思われたのですか?」
「大部分は勘です。ですが七王を倒した勇者の死。更にはポピット族どころか我々妖精達にとっての最大の切り札である筈の大勇者の投入。はっきし言って勇者と密接に関連する事といったら『魔界』と考えるのがまぁ妥当なのではないのでしょうか?」
 セラの表情は無表情のままだ。だがしばらくして、観念したかのように深く溜息をついた。
「どうやら貴方が森エルフ壱の切れ者というのは間違いないようですね。これから言う事は貴方をあえて信頼して言わせてもらいます。事が終わるまで他言しないと誓ってもらえますか?」
「わかりました。私の名前と存在に誓って他言しません。」
「では言わせてもらいます。私が受けた託宣の内容と、この大会に大勇者を投入した理由を。」
 
 セラの長い話が終わった。聞き終わった後のニミランの顔は半ば蒼白とした物になっていた。
「まさか・・・七王関係だったとは。」
「はい、先程も言いましたが人間界で七王が召喚されようとしています。それを手助けし、あわよくば七王の力を借りてこの世界の覇権を取ろうとしている愚かな欲望に取りつかれた者達もまた存在しているのです。」
「馬鹿な事を。七王が私達の思う通りに力を貸してくれる事などあり得ない事くらい、先の戦争で充分理解できてる筈なのに。」
 ニミランは悲しげに頭を左右に振った。
「覇権獲得の為に今回の議長選抜を必ず成功させようとしてくるでしょう。最早負けている森エルフさん達はもう関係ないでしょうからあえて説明させて頂いたのですが。」
「確かに私達は3回戦負けですからねぇ。議長には今回はどうやってもなれないでしょうね。」
 頭を掻きながら複雑そうな感じでニミランは笑う。
「そうなると現在残っている8種族が可能性が高いですね。内、ポピット族は除いてもいいとして残り7種族・・・。」
「地エルフ族は除いてもよろしいのでは?」
 セラの質問にニミランはかぶりを振った。
「いえ、上層部の独断で動いてる可能性は否定できないでしょう。計画を行う際にハルリック殿が邪魔になって消したかもしれません。選手として出ているミーナさんも事情が説明されていなくて躍らされている事もありえます。地エルフも一応容疑者にしておくべきです。」
 ニミランはお茶をズズッとすすった。セラもお茶を音をたてずに飲む。
「私の方でも調査してみますよ。恐らく大会中に何か仕掛けてくるのは間違いないでしょうね。」
「ええ。ですが何か起こってからでは遅いです。迅速に事を進めないと。」
「そうですね。今晩思い切って聞いてみてよかったですよ。こんな事態が進行していただなんて・・・。では私はこれで失礼します。」
「ああ、ちょっと待って下さい。」
 立ち上がろうとするニミランをセラは止める。
「はい? なんですか?」
 不思議そうな顔をするニミランに、セラはにっこりと笑いかけた。心の内ではその表情を見て『彼は本当にシロのようだな』とこっそり思ってたりするが。
「もう一杯、お茶はいかがですか?」
 
 エッジが襲われてから3日後の夜。セラから今晩部屋に来て欲しいと言われたエッジは彼女が泊まっている部屋に向かった。
 ドアをノックする。すると「どうぞ。」という声が聞こえてきた。セラの声で間違いないようだ。
 ドアノブに手をかけて開こうとする。しかしその時部屋の気配の数がおかしい事に気付いた。複数、それも3人いる。いかぶしげになりながらもドアを慎重に開けた。
 部屋の中には3人いた。1人はセラ。相変わらず完璧な笑顔を顔に浮かべている。腹の中は何を考えているかわからないが。
 もう1人はミーナだった。だがその姿は包帯がぐるぐる巻きになっていて痛々しい。昨日のエッジとの試合でボッコボコにされたせいだ。手加減しまくったのだが何度も突っかかってきたので一発強めの掌打を叩き込んだのだ。そうしたら闘技場の石作りの壁にあっさりとめり込んでしまった。結果は観客は喜んだがやられた本人からしてみれば洒落になっていない状況になってしまった訳で。エッジを未だにジト目で睨んでいる。
 だがエッジは一切気にしなかった。ある意味自業自得だし。そして最後の1人である森エルフの青年に話しかけた。
「ニミラン殿? 何故この場所におられるのですか?」
「今晩集まってもらったのは私の進言ですよ。実はあの件について情報が手に入ったので。」
 ニミランは笑いながらエッジの質問に答えた。あの件とはもちろんエッジがこの大会に参加している理由の件についてだろう。ニミランには事情を説明してあるとセラから聞いてあったので別段驚きはしなかった。
 エッジが椅子に座るのを確認すると、ニミランは手を組んで語り始めた。
「私は3日前に事情を聞いた後、密偵を放ってみました。そのうちの何人かに『ゲート』の使用状況を調べさせてみたのです。」
 『ゲート』とは別世界と妖精界を繋ぐ空間に開いている穴だ。この穴を通って妖精界の者は別の世界に行き来するのだ。開く箇所は決まっているが、常に大きさが変動して一定の大きさをしていないので、魔導装置を使って通常は通れないように縮めておき使用する時だけ穴を広げるようにしている。
「そうしたらある箇所の『ゲート』がここ数ヶ月の間頻繁に使用されている事が昨日判明したのです。」
「つまりその『ゲート』を通じて人間界の者と連絡を取り合っているだろうって事?」
 ミーナの質問にニミランは大きく頷いた。
「ええ、その可能性は高いと思います。その『ゲート』を管理している種族は通常は別の世界になんて行かないでしょうから。」
 『ゲート』はこの世界に100個以上ある。そこで各『ゲート』の近くに住む種族がそれぞれ管理するように世界議会で決まっているのだ。ちなみに一番多くの『ゲート』を管理しているのは魔導に一番強いポピット族である。
「その『ゲート』を管理しているのは?」
「この前セラ様に大勇者様を今回の大会に投入してきたのを難癖つけてきたあの方々です。」
 ニミランの言葉にセラの片眉がピクリと動いた。
「黒竜人族の方々なのですか?」
「そうです。」
「なるほど。私の方でも黒竜人族の方々が多くの魔導装置を秘密裏に購入しているという情報を入手しています。今まではあまり魔導には興味がなかった筈なのに。」
 セラはお茶をつぐと、飲み干した。ミーナもお茶をつごうとしたが包帯に縛られているせいで上手くつげない。そこでニミランが代りについでくれた。
「ありがとうございます。」
 ミーナはお礼を言う。対してニミランは手を左右にひらひら振って答えた。どうやら『気にしなくていい』という意味らしい。
「黒竜人族がかなりクロっぽいですね。」
「ええ、ですが決定的な証拠はまだ掴めていないのも確かです。そうでなければ彼等を追求する事はできません。」
 ニミランの言葉をセラが引き継いだ。エッジは両腕を組むと語り出した。
「俺に対する仕掛けもしてきてはいるがな。どうもそっちの方からは追求できそうもないしなぁ。」
「え、エッジ。また襲われたのですか?」
「ああ、ここに来る間にこの前襲ってきたリビング・アーマーが50体くらい襲いかかってきた。まあ人質いなかったからあっさりと蹴散らしたがな。」
 ニミランはそれを聞いて顔を引き攣らせる。
「50体に襲われてあっさり蹴散らしたって貴方目茶苦茶の事を言ってませんか?」
「そうか? 雑魚だったけどなぁ、あいつら。」
 エッジはポリポリと頬を掻きながら大した事なさそうに言ってのけた。だが50対1が大した事ないだなんて言ってる事が凄まじすぎる。
「そのうち1体を半壊状態にして情報を聞き出そうとしたが勝手に壊れちまった。どうやら自分の意志で壊れる事もできるようだな。」
「囮作戦も上手くいかないですか・・・。」
 セラのつぶやきを聞いて全員一斉に溜息をついた。確かに八方塞がり状態だ。
 その時、ミーナの身体が急に震え出した。そして頭がガクンと下を向く。
 何事かと他の者が見ていると、ミーナの顔があがった。その表情はさっきまでの少女の顔つきとはまるで異なっている。
「ふう、相変わらず乗っ取るのは大変だな。」
「お、ハルリックか。3日ぶりだな。」
 ミーナの変貌にエッジはいち早く気付いた。エッジの言葉にセラとニミランの目が丸くなる。
「「ハルリック!?」」
「ああ、あのハルリックさ。死んだんだけど幽霊になってミーナにとり憑いているんだ。」
 あまりの事態にセラとニミランの口が開いたまま塞がらなくなった。こんな事態、誰が想像できるか。
「ところでハルリック、なんで表に出てきたんだ? ミーナが後で錯乱しまくるぞ?」
「まぁその点は置いといてだ。ちょっと聞いてて思った事があるんだ。それを言いたくてな。」
 ミーナの体を乗っ取ったハルリックは髪の毛を掻きながら笑った。
「思った事?」
「俺を殺してエッジを襲っているリビング・アーマーだけどよ、そっちの方から調査できねえかな? 50体以上同じ鎧を作るだなんて普通ありえねえだろ。それもここ数ヶ月以内にだ。」
「なるほど。鎧の作成元を調査しろって事か。」
 エッジの言葉を受けてハルリックは頷いた。
「それと鎧の元となった原料の金属の流れ出た元を調べる手もあるぜ。」
「なるほどそういった捜査視点がありましたね。大勇者様、襲われたという場所を教えて頂けますか。」
「ああわかった。案内するから着いてきてくれ。」
 エッジとニミランは席を立つと部屋を出ていった。部屋にはセラとミーナ−−いやハルリックが取り残された。
「ハルリック様なのですか。この度は御愁傷様でした。」
「いえいえ、死んだってのにこうして話せるだけまだマシですよ。」
 ハルニックはセラに笑いかけた。
「またこの世界に混乱を招こうとしている奴等がいるらしいですからね。オチオチ死んでらんないっすよ。妹の為にもね。」
 そう言うとハルリックはとり憑いている自分の妹の体をいとおしげに見つめた。
 
 ・・・余談だがこの後に気がついたミーナが
「ひいぃぃぃぃ! また乗っ取られたあぁぁぁぁ! お願い兄さん迷わず成仏してえぇぇぇぇぇ!!」
 と錯乱しまくった。
 ・・・兄の心妹知らずと言うべきか。
 
<< Scene 7 >>

 闘技大会の決勝戦が行われる日がついに来た。
 闘技場の観客席は満員状態で高らかな歓声が鳴り響いている。
 ここまで勝ち上がってきた選手はポピット族の代表エッジと、黒竜人族の代表ゴーラムだ。
 そのゴーラムの控え室にて、黒竜人族の長ハルバニイが面会に来ていた。
「よいかゴーラム。この試合に勝てさえすれば儂が今度の世界会議の議会長の座を取る事ができるであろう。」
 ハルバニイはほくそ笑みを浮かべた。トカゲ顔でわかるほどだから(以下略)。
「よいか、そうすればこの世界にある全ての『ゲート』の管理権を我等が握る事が出来る筈だ。さすれば人間界の兵器をこの世界に持ち込み、我等がこの世界を制する事などたやすい事だ。」
「そうでございますな、ハルバニイ様。そして行く行くはこの世界の他の種族を従属とし、人間界をも我等の手にする事も可能でございましょうて。」
「くっくっくっく。全くもってその通りよ。」
 ハルバニイとゴーラムの顔に邪悪で下卑た笑みが浮んだ。トカゲ顔でわかる(略)。
「だが、今度の相手はあの大勇者、エッジでございますぞ。今までの雑魚とはレベルが違います。」
「その通りだ、ゴーラム。だがお前が大勇者を倒すほどの戦士とわかれば他の者達も我等の発言力は更に増すであろう。今回の戦いは負ける訳にはいかぬ。お前の体に組込まれた『機能』を全開で使用するのだ。」
「ははぁ!」
 ゴーラムはハルバニイに平伏した。ハルバニイは更に顔の笑みを深める。
「それにお前にはあの『機能』も組込まれておる。それを使えばお前も死ぬが大勇者とて勝てはせぬだろう。」
 ゴーラムが聞こえないくらい小声でハルバニイはそう不吉な事をつぶやいた。
 
 闘技場の片隅で、ニミランは彼の密偵と会い、密偵から受け取った報告書を読んでいた。
「やはりそうであったか・・・。ありがとう。」
 羊皮紙で書かれた報告書を丸めると、懐にしまい込んだ
「だがもう試合を止める事はできないだろう。・・・大勇者様この試合、必ず勝って下さい。そうしなければ彼等の野望を止める事はできない。」
 ニミランは試合場の方を向くと低い声で独り言をつぶやいた。
 
 大観衆の声援が怒号の如く響き渡った。今から彼等が待ちに待った決勝戦が行われようとしているのだ。
 今、試合場には2人の戦士が立っている。
 1人は全身が黒い鱗で覆われたトカゲ頭の男だ。身長は250cmを超えているのではないだろうか。厚い鉄板鎧を全身に着込み、手には巨大な鉄製のモールと呼ばれている両手持ちの棍棒が握られている。
 もう1人は身長70cmちょっとの子供。三白眼で目つきが悪いが相手と比べたら身長差は4倍近く、体積でいえば10倍ぐらい差があるのではないだろうか。しかも子供の方は着ているのは黒い布製の服でしかも素手だ。
 端から見たら『ゴリラ対ノミ』。通常からすれば勝負になる筈がない。そう、通常ならば。
 そして開始のゴングが鳴り響いた。
 
 ゴーラムがエッジに突進した。モールを振りかぶると足元にいる小さな生き物めがけて力一杯振り下ろした。
 だが驚くべき事にエッジは片手でそのモールを受け止めた。ゴーラムは上から体重をかけてエッジを押しつぶそうとする。エッジの足が地面にわずかにだがめり込んでいく。
 エッジはモールを受け止めている手に力を込めると、開いた方の手でモールの横っ面めがけて掌打で叩く。するとモールが叩いた箇所からポッキリと折れた。
 ゴーラムは勢いあまってそのまま身体ごと下に振り下ろしてしまう。その隙にエッジはモールの残骸をゴーラムの顔めがけて投げつけた。
 顔にモールの残骸を受けてひるむゴーラム。そこに懐に跳びこんできたエッジが掌打を力一杯腹部に叩き込んだ。
 ゴーラムの身体が大きく後ろに吹っ飛んだ。そして大きな音をたてながら試合場の壁に叩き付けられ、めり込んだ。
 観客から大声援が沸き起こった。誰もが望んだ大勇者の力をまざまざと見せつけてくれているからだ。
「くそっ・・・・。」
 壁から身体をひっぺがえすとゴーラムは舌打ちをした。さすがは大勇者だ。確かにこのままでは勝てそうもない。ゴーラムは自分の身体に仕込まれた『機能』を使う事にした。
 ゴーラムの身体から不思議な音が鳴り出した。それは歯車がかみ合わさったような音とも金属と金属がこすれあったような音にも聞こえる。エッジにはそれが機械の駆動音のような気がした。
 ゴーラムが右手をエッジに向けた。エッジはその手の平に銃口4つ、ついているのがはっきりと見えた。考える暇もなく素早く横にジャンプする。
 ガガガガガッという破裂音が断続的に鳴り響いた。エッジが立っていた辺りの地面が発射された弾丸によって抉られる。
 観客の間からどよめきが沸き起こった。何が起こったのかわからなかったからだ。この頃開発され始めた「銃器」が発する音に似ていると気付いた者は僅かであった。
 ガチャンという音をゴーラムの身体が放った。それと同時に肩や腹部、腿から穴がいくつも現れた。人間界の生活が長いエッジはそれが砲口によく似ていると気付いた。
 砲弾が発射される音が辺りに鳴り響き、ゴーラムの身体に開いた穴から致命的な威力を持った弾がいくつも放たれる。それらは全てエッジに向かって飛んでいく。
 着弾し、強烈な爆発音が鳴り響く。もうもうと煙がエッジが立っていた所を中心に立ち込めた。
「エッジ・・・・!」
 VIP席から観戦していたセラが悲痛な声を上げた。その横でハルバニイが口元を釣り上げていた。トカゲ顔でもわかるくらいはっきりとほくそ笑んでいる。
 だが、煙の中から一つの小さな影が躍りでてきた。その影はまっすぐにゴーラムに凄まじい速度で突撃する。
「な、なにい!?」
 ゴーラムは驚きの声を上げたが、すぐさま躍りでてきた影−−エッジに両手を向けた。両手に仕込まれた銃口が開き、大量の弾丸が発射させる。
 だがエッジはその全てをかわしながらゴーラムに接近する。そしてゴーラムの懐に再び跳び込むと腹めがけて肘打ちをかました。
 悶絶の声をあげながら「く」の字にゴーラムの身体が折れ曲がる。エッジは軽くジャンプをするとゴーラムの顎めがけて拳を下からぶち込んだ。
 ゴーラムが2m近く真上に跳ね上がる。落ちてきたところに全身を回転させて放ったエッジの廻し蹴りが炸裂した。その蹴りによって、50mぐらい吹っ飛ばされてゴーラムは地面に叩き付けられた。
「チ、チクショウ!」
 ゴーラムは立ち上がると同時に手に仕込まれた銃をエッジめがけて何発も発砲した。ところがエッジはその場から移動ともせず、両腕を素早く身体の前で動かした。
 銃声が止まると、エッジの両手がゆっくりと開いた。その手から何発もの弾丸がこぼれてきた。ゴーラムが放った弾丸を全て受け止めてみせたのだ。
 あまりの事に唖然とするゴーラム。そこに50mもの距離を1秒とかからずに走破したエッジがゴーラムの前に立つと、顔面めがけて鉄拳を叩き込んだ。
 ゴーラムのほとんどの歯がその一撃で根こそぎに引っこ抜かれた。身体が縦に回転して何度も地面と接吻しながら吹っ飛ぶ。
 やっと回転が止まるとゴーラムは地面に突っ伏した。その身体が恐怖のあまり小刻みに震えている。
 エッジがゆっくりとゴーラムに近づいていった。その姿を見てゴーラムは必死になって後ずさろうとするが、今までの攻撃による痺れと、何よりも恐怖によって身体がおもうように動いてくれない。
 その光景を見てハルバニイは舌打ちした。さすがは大勇者、ゴーレムの技術を応用してゴーラムの身体に仕込んだ人間界の武器程度ではまるで歯がたたないようだ。
「そうなれば、ゴーラムには死んでもらうしかないようだな。」
 ハルバニイは懐から小さな鉄製の棒を取り出した。そしてそれに付いたスイッチを静かに押した。
 
「ギャアアアアアア!」
 突然ゴーラムが大きな苦痛の悲鳴をあげるとのたうちまくった。何事かとエッジの歩みが止まる。
 ゴーラムの身体が全身から白い煙をたてながらどんどん大きくなっていく。着ている鉄板鎧が内側からはじけ飛び、体中の骨が、筋肉が変形していく。
「な、なんなんだ。」
 観客の1人があまりの出来事に呆然と呟いた。その間にもゴーラムの身体は大きく、そして別の物に変わっていった。尾が凄まじい勢いで伸びていく。背中の肉が弾けてコウモリのような翼が生えた。
 ゴーラムの全身から出ていた煙が収まった時には、そこにはゴーラムとは全く異なった生き物がいた。体長は7m以上にまで巨大化していた。全身を黒い鱗で覆われ、四つ足で地面に立っている。その背中には巨大なコウモリのごとき翼が2枚生えている。その姿は伝説の幻獣、ドラゴンそっくりであった。
「ゴアァァァァァァ!」
 ゴーラムであったドラゴンが大きく咆哮をあげた。その目には理性が全く見られない。ドラゴンの顔がエッジの方を向くと、口が大きく開かれる。その口から赤い閃光が吐き出された。
 エッジは横に大きく跳んで閃光を避けた。閃光は試合場の壁に当ると凄まじい爆発を巻き起こした。観客の何人かがその爆発に巻き込まれる。
 辺りを悲鳴がこだました。我先にと観客達が逃げだす。だが暴走したドラゴンは観客席めがけて閃光を放つという暴挙にでた。いくつもの爆発が観客席で起こり、何人もの観客が吹き飛ばされた。
 エッジはドラゴンに突っ込むと掌打を叩き込んだ。だがドラゴンの身体はビクともしない。ドラゴンはエッジを見るとうるさげに尻尾を振るった。
 エッジの身体が蹴飛ばされた小石の如く吹っ飛ばされた。壁に激突し、そして地面に叩き付けられた。血が口から吐き出される。
 ドラゴンの観客席への攻撃は続いた。エッジは跳ねおきると再度ドラゴンめがけて突撃した。そしてドラゴンの頭めがけて大きく跳ねた。右手が手刀の形を作る。手刀は狙い違わず、ドラゴンの左目に突き刺さった。
「ギャオオオオォォォン!!」
 ドラゴンが苦痛の叫びをあげ、頭を大きく振る。その拍子にエッジの手が目から抜ける。ドラゴンの残った右目が空中に吹っ飛んでいるエッジを見つめる。その目は怒りで染まっている。口を大きく開けるとエッジめがけて閃光を放った。
「はあぁぁぁぁ!」
 裂ぱくの気合と共に閃光めがけて両手による掌打を叩き込んだ。爆発が空中で巻き起こる。エッジは大きく空中に跳ね上がると、そのまま地面に激突した。
 爆発によって煤だらけになりながらもエッジは立ち上がった。
 
 "我は天空と大地の狭間に在りし者 "
 
 ドラゴンはエッジを見つけると翼をはためかして飛んだ。
 
 "父なる天の怒り、母なる地の慈愛を持ちて "
 
 そしてエッジの上まで来ると、左前足で押しつぶそうと下降した。
 
 "我、求めたり訴えたり、我が望みしその意志に "
 
    エッジの姿が陽炎の如く揺らめいた。右手に黒い、漆黒の光が宿る。そしてエッジはドラゴンめがけて跳んだ。
 
 "終焉なる美、「滅美」を刻まん! "
 
 ドラゴンの左前足が吹っ飛んだ。エッジはドラゴンの頭まで上昇すると、右手を頭めがけて叩き込む。
 ドラゴンの頭から全身に向かって亀裂が走った。そしてまるでガラスが割れたかのような音をたてながらドラゴンの身体が粉々に砕け散った。それは瞬時に塵となり、それも消え去った。
 エッジは地面に足から降り立った。その光景を見ていた観客達はまるで時が止まったかのように静まり返った。しかし、次の瞬間には大喝采が沸き起こった。
 
「そ、そんな馬鹿な。」
 ハルバニイは目の前で起きた光景をみて、腰を抜かしてしまった。そこにニミランとセラが近づいてきた。
「ハルバニイ殿、どうやら貴方がたの野望はここまでのようですわね。」
 セラが冷たくそう宣言した。
「な、なにを言っておられるのかな、セラ殿。野望とは何の事ですかな。」
「無駄ですよ、ハルバニイ様。大勇者様を襲ったリビング・アーマーの鎧の生産受注者が貴方である事はもう調べはついているのですよ。」
 ニミランはハッキリとそう宣告した。
「それに、人間界の武器を大量に輸入している事もわかっております。その取り引きをしていた黒竜人の者を締め上げて、あなた方のやろうとしている事を白状させてもあるのです。」
 それを聞いてハルバニイは愕然とした表情を浮かべた。そこにセラが小さな声でハルバニイに耳打ちする。
「ハルバニイ殿。このことは私達はおおやけにはしません。どうかこのような愚かな事をなさるのはお止め下さい。それが貴方がたの為になると思いますわよ。」
 セラの言葉を聞いて、ハルバニイはガックリとうなだれた。
 
<< Scene 8 >>

「エッジ、今回の件はありがとうございました。」
 マーサーズの大樹の中の大神殿にある、巫女王の部屋にてエッジはセラと面会していた。
「まあ、別にいいさ。」
「ところで貴方にもう一つ、頼みたい事があるのです。」
「うん? 何だ?」
 セラは軽やかに笑った。
「人間界におもむき、七王の召喚を阻止して頂きたいのです。」
 エッジはじっとセラを見つめる。
「それは巫女王から大勇者にむけての命令か?」
 セラは静かに顔を横に振った。
「いいえ、セラ=ミラフュラー個人から「狩人」エッジ=バーラングに向けての依頼です。」
 ぽりぽりと頭を掻きながらエッジは溜息をついた。
「ふう、かなわないな、お前には。」
 セラはにっこりとエッジに笑いかけた。
「依頼を受けてもらえますか、「狩人」エッジさん?」
 エッジはひょいっと肩をすくめた。
「で、依頼料はいくらなんだ?」
 
 エッジは人間界に行く為に『ゲート』に向かった。ニコラも付き添いをしている。
「しかし、もう帰っちまうのか。ちょっと残念だなぁ。」
「まあそう言うな。これからはちょくちょく帰ってくるからよ。」
 そんな事を言っていると彼等の目の前に1人の人影が立ちふさがった。
「あれ、ミーナじゃないか。見送りに来てくれたのか。」
 だが、ミーナは首を横に振った。
「いいえ、私もエッジ様に着いていこうと思いまして。」
 エッジとニコラの目が丸くなる。
「おい、それは・・・。」
「エッジ様はあの件について解決しにいかれるのでしょう? 私も手伝おうと思いましてね。」
「おい、あの件って何だよ。」
「機密事項。」
 ニコラの問いに対してつっけんどんに答えるエッジ。
「それに、」
 ミーナは握り拳をグッと握り締めると、
「兄さんが未だにとり憑いている今の状況ですし。人間界の方が浄化術が発展してるそうですからぜひとも成仏してもらわないと!」
「うぁ、超兄不幸ものだな、お前は。」
 エッジは呆れたように頬を掻いた。
「まあ、駄目って言ってもついてくるだろうし、あいつの知識は役立つしな。いいよ、着いてこいよ。」
「ありがとうございます!」
 ミーナは大きくお辞儀した。
「それじゃあ、行こう・・・」
「おーい、兄ちゃ〜ん。」
 その時やたらと軽い声が彼等に向かってかけられた。
「あれ? タル。何でお前がここにいるんだよ?」
「うん、実は相談したい事があってね・・・・」



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 はにぃ、べぃべぇい。(次回作への伏線。なに書くつもりだ私)
 
 問題:モアイ型ティッシュケース(鼻からティッシュが出てくる)を誕生日プレゼントとして親から貰った息子の心境を述べよ。 答え:やさぐれる
 
 異常人しかおらんのかMy環境。いや、私もそうなのかもしれんが。
 
 さて、こんにちわ、DEKOIです。月並みの挨拶ですいません。
 
 今回の話は前作で言う所のタルの台詞、エッジが特別という意味を書かせて頂きました。彼は私にとっての影の主役。これからもガンガン活躍する予定です。
 
 今回の生け贄、ミーナはある意味ギャグキャラ(ヨーミンほどじゃないが)。本当はこの話全てシリアスモードだった筈なんでしたけど無理でした。根っからの芸人のようです私は。
 
 今回はTS要素皆無で申し訳ございません。特に前編は全くかけらもなし。すいませんでした。
 
 これから仕事が超絶忙しくなるので執筆速度が極端に落ちます。ですがラストが書けるよう精進していこうと思いますのでとりあえず祈っておいて下さい
 
 後このあとがきで色々書いてみたい事あるんでとりあえずやってみます。エロゲー講座とかTSについての熱き宣言とか。
 
 それではまたお会いできる事を願ってここらで筆を置かさせて頂きます。
 
 by DEKOI
   


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