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<< Scene 0 >>

「おぉぉぉぉぉぉ!」
 続けざまに繰り出される魔王の剣撃に彼等は追いつめられていた。
 だが魔王も同じだった。彼等のまさしく命懸けの攻撃に魔王も倒れる寸前であった。すでに魔法を使ってこないのがなによりの証拠だ。
 何人も彼等の仲間が足元に倒れている。だがこの世界の為に彼等はその屍を乗越えて戦いつづけた。
 神官の魔力もすでにつきていた。だがそれでも彼は命を削ってでも仲間を支えた。
「俺が飛び込む! 援護してくれ!」
 1人の戦士が叫んだ。残った者達は一斉に肯く。
 戦士が魔王に向かって突撃する。魔王はそうはさせじと剣を振るうが全て躱してのける。
 戦士が魔王に一撃を叩き込んだ。体勢を大きく崩す魔王。そこに戦士は止めの一撃を打ち込もうとした。
 だが魔王はすんでのところで体勢を立て直すと戦士の一撃を避けた。
 繰り出される斬撃。それは躱せない一撃、の筈だった。
「危ないっ、エッジ!」
 1人の女性が戦士を突き飛ばした。戦士の代りに横に両断される女性。
「ニアラァァァァァァァァ!」
 戦士の悲痛な叫び。そして魔王を睨む。
「よくも、よくもぉぉぉぉぉぉ!」
 そのあまりの気迫に魔王は思わず押されてしまう。
 そこに戦士の止めの一撃が繰り出された。
 
 その日、世界は魔王の手から解放された。
 だが、戦士−−エッジ=バーラングの笑みは失われてしまった。


狩人 - 妖精奇譚【前編】 -
作:DEKOI



<< Scene 1 >>

「ニコラさん。『ゲート』に反応がありますよ。」
 彼は身長80cmにも満たない、耳が僅かに尖がっている金髪の少年にそう話しかけた。
「そうか、という事はあいつ、来てくれたのか。」
 少年は嬉しそうに顔をほころばせた。もっとも彼等の種族では身長80cmを超える者はまずいないのだが。
「本当にあの方なんですか?」
 彼はニコラにそう質問した。その顔には緊張と期待がごっちゃになって見て取れた。
 彼の姿は身長180を超えている。まるでトカゲのような頭に全身を濃い緑色の鱗で覆われ、硬皮鎧(ハード・レザー・アーマー)に身を包んでいた。まるで誇らしげに臀部から地面に向かって生えている尻尾が特徴的だ。
 彼はリックルという。リザードマン族という基本的に沼地に住む一族の者だ。総じて力が強く、戦士として優秀な一族である。
 対してニコラと呼ばれたまるで少年のような人物はポピット族といわれる草原に住む事を好む一族だ。昔は盗賊や吟遊詩人が多い種族だったが、今ではこの世界最大の魔導を司る一族になっている。
「あの方がこの世界からいなくなってもう200年以上たっているのですよ?」
 それに対してニコラは肩を竦めながら答えた。
「こんな時期に『ゲート』使って戻ってくる奴なんて、そうそういないよ。十中八九、あいつだよ。」
 そうこう言っているうちに、彼等に近づいてくる人影が現れた。
 現れた人影はニコラとほぼ同じ身長だった。特徴的な耳も同じだ。
 その目は少々三白眼で目つきは悪い。表情は全くの無表情。髪の毛の色はこげ茶色をしており、散切り頭のようにぼさぼさになっている。服は黒を主体とした物を着ている。
 ニコラはパッと顔を輝かせた。リックルの身に極度の緊張が走る。
「エッジ! よく来てくれたな!」
 ニコラは人影−−エッジに抱き着いた。
「懐かしいな、ニコラ。」
 エッジは無愛想にそう答えた。相変わらず、無表情だ。
「まったく〜。本当に来てくれるのか心配したんだぞ〜。」
 ニコラは見た目通りの子供じみた口調をしながら指でエッジを突ついた。
「あのお方からの召還だから応じただけだ。」
 つっけんどんにそう答えるエッジ。
「やれやれ、相変わらずだねぇ。234年ぶりの知り合いに会ってもその態度とは。」
 ニコラは呆れたような表情を浮かべた。だがすぐに笑顔を浮かべる。
「まぁ久しぶりの『妖精界』だろ? 『人間界』の話とか色々してくれよ。」
「ああ、わかったよ。それじゃあ、あのお方の所に連れてってくれ。」
 ニコラは肯くとエッジを先導しようとした。そこに、
「あ、あのう。」
 リックルの声がエッジにかかる。リックルの方を向くエッジ。
「ほ、本当にあなたは『大勇者』エッジさんなんですか?」
 リックルは緊張したように言葉を続ける。
「ああ、一応そのやくたいない渾名を持つ者だ。」
「本当に『大勇者』様なんですね! お、俺リザートマン族のリックルと言います! ガキの頃からあなたの英雄談を聞いていてあこがれていたんっす! よ、よろしければ握手してくれませんか?」
 リックルは期待に目を輝かせた。対してエッジは
「ああ、構わないよ。」
 と言って右手を差し出した。
「ありがとうございます!」
 リックルは何度もお辞儀するとエッジの幼稚園児の物としか思えない程小さな手を握った。
「どうやらなかなか修練を積んでいるようだね。・・・だがまだスタミナ的に不十分なようだな。それを重点的に鍛えるといい。」
「あ、握手だけでわかるんすか、そんな事まで?」
 リックルはあまりの一言に呆然としてしまう。確かに自分はスタミナには自信があまり無かったからだ。
「一応、修練を積んでいるからな。・・・頑張れよ。」
「は、はい!!」
 『大勇者』の激励の言葉にリックルは感激のあまり何度もお辞儀した。
 その光景を見てニコラはにっこりと微笑む。
「相変わらずだな、エッジ。んじゃ行こうか。」
「ああ。」
 2人の小人は尚もお辞儀を続けるリザートマン族の若者を置いて歩き出した。

<< Scene 2 >>

 草原に大きな街門が立っている。そこに三角帽子をかぶった2人のポピット族が衛兵として立っていた。
「止まれ! お前達何者だっ、てニコラさんじゃないですか。」
 衛兵がニコラを留めた。が、自分達の上司の1人だったので顔をほころばせた。
「どうやら真面目にやってるようだな。」
「当たり前じゃないっすか。これが俺達の飯のタネなんですからね。」
 その言葉を聞いてニコラは顔を頼もしそうにほこばらせた。
「ところでそちらのおつれ様は一体誰なんですか?」
 1人の衛兵がニコラに尋ねる。そこにもう1人の衛兵がとび蹴りを後頭部にぶちかました。
「ってーな、何すんだよ。」
「馬鹿、このお方が誰だかわかんねーのかよ、お前は!? 『大勇者』様だよ『大勇者』様!」
「ああ、『大勇者』様かってえええええええ!?」
 衛兵が驚きのあまりのけぞる。そのコントを見てニコラはクスクスと笑いだす。
「ああああああ、すいません、すいません、『大勇者』様とは気付かずに失礼な発言してしまいまして。」
「馬鹿野郎。そんな事より街にこの事伝えに行くぞ。おーいみんなー!『大勇者』様の御帰還だぞー!!」
 衛兵2人は駆け足で街の中に入っていってしまう。
「おーい、お前ら警備ってこらーっ。」
 ニコラの怒声が空しく響き渡った。
 
 街門の中は中世のヨーロッパを思わせる街が広がってた。
 たくさんの露店だ大通りに軒を並べて活気づいている。
 のだが、今日だけは大通りよりも街門の側の方が賑わっていた。
「『大勇者』様よく御帰還して頂けました。」
「『大勇者』様ー。」
「へえ、この方が『大勇者』様なのかー。」
「何だか見た目からするとあまり強くなさそうだな。」
「バカ。この方がいなかったら俺達は魔王に滅ぼされていたんだぞ。」
「そうなんだよなー。『大勇者』様様だな、マジで。」
 ザワザワザワザワザワザワ
 街門の内側にたくさんの群集が集まっていた。
 群集の殆どはポピット族だ。その次に多いのは肌が白く、耳が尖ったキシャな体型の森エルフ族と言われる種族と、森エルフの体型をがっしりさせて肌を黒くしたような姿をした土エルフ族だ。他にも顎髭が長くまるで酒樽なような体型のドワーフ族や猫耳生やした少女がいたり、身長2mを軽くこす緑肌の巨人という俗にいうトロール族の者がいたり、赤い身体につんつん頭といったゴブリン族といわれるのがいたり、30cm程の身体に4枚の羽を生やしたフェアリーと呼ばれる者がいたり、リザートマン族がいたりと多種多様だ。
 彼等全員がエッジを見つめていた。その目には興味となによりも尊敬が浮んでいた。
「おーい、これからこいつは巫女王様の所にいくんだからー、そこどいてってばー。」
 ニコラが声を張り上げるが全然群集は聞いてくれない。
 たたえたり、敬ったり、褒め上げたり、エッジを賛美する詩を唄ったり全員がエッジの帰還を喜んでいた。
 だが、中にはこんな会話も聞こえた。
「なあ、やっぱり『大勇者』様が闘技大会にでるのかな?」
「この時期に御帰還だもんな。やっぱそうなんじゃないのか?」
「ポピット族が今回の権力争いに本腰だというのは本気なんでゴブね。」
「まっさか『大勇者』様を本気で投入してくるだなんて思ってもいなかったにゃー。」
 ・・・といった感じの何やら不穏当な発言だ。
 その会話をめざとく聞いたエッジは顔をしかめてニコラに小声で問いかける。
「オイ・・・。まさか俺を権力争いに使う為に呼んだんじゃないだろうな?」
 対してニコラは困ったような顔をした。
「いや、俺もよく聞いてないんだよ。巫女王様がお前とサシで喋りたいって事ぐらいしか俺にはわかってないんだ。」
「巫女王様が俺と1対1でだと? 一体なにを?」
「だから俺は知らないんだってば。用件は直接、巫女王様に聞いてくれ。」
 エッジはハァ、と溜息を一息つく。
「んじゃ早く行こうぜ。」
「ああ、だからまずこの群集を何とかしないと、ってだから用があるからどいてってば!!」
 ニコラの叫びが辺りに響き渡った。
 
 正味30分も歩けばつく筈の距離にある神殿にしてポピット族の政治の中枢である『大樹』にエッジとニコラがついたのは街に入って2時間も経過した後であった。
 『大樹』とは直径800mほどの沼の全域に生えているたった1本の巨木の事だ。根の太さだけでも軽く3mぐらいありそうだ。高さなど2000mぐらいあるのではないのだろうか。ここまで巨大な木もこの世界ではかなり珍しい。ポピット族はその中に白蟻のように空洞を作り、政治を行う場所と彼等の指導者である巫女王の住む神殿を建てたのだ。
 半分ヨレヨレになりながらエッジとニコラは大樹の外周に作られた門から入っていった。
 ニコラは立っている警備兵に用件を言うとある一室に案内された。その部屋の床には白く輝く六芒星で描かれた魔法陣が書かれている。この世界ではよく使われる転移の魔法陣だ。2人はその上に立つと、魔法陣はさらに強く白く輝き、光が消えた時には彼等の姿は消えていた。
 彼等が『跳んだ』箇所、それは大樹の頂点近くの空洞に建てられたこの街で最も神聖な箇所、巫女王の住む神殿であった。
 神殿の大きさは横幅だけで優に500m以上あるのではないのだろうか。柱も壁も完全な白色の素材で出来ており、空洞を作る際に出来たと思われる隙間から光が差し込み荘厳な印象を与えている。木の中に建てられている建物とは思えない。
「相変わらず無意味にでかくて威圧感を与える建物だな。」
 エッジは呆れたように呟いた。
「先々代の巫女王様は権威主義者だったそうだからな。今の巫女王様はこの建物を嫌ってるけど、まぁこんだけデカイと壊すのも手間だし面倒臭いし新しく神殿建てるのもおっくうだし。」
 多分、この建物を残しているポピット族の本音は後者だろう。
「マーサーズ警護団団長ニコラ=ヒルデン、『大勇者』エッジ=バーラング殿を連れてまいりました!」
 ニコラが入り口に向けて用件を大声で告げた。ちなみにマーサーズはこの街の名前だ。すると、中から白いローブを纏った赤髪の幼女−−否ポピット族の女性が現れた。
「よくこの世界に戻られました、『大勇者』殿。巫女王様がお呼びです、ご案内致しますのでどうぞ着いて来て下さい。」
 見かけとは裏腹にまるで老女のような言い回しでポピット族の女性は告げた。ただしその声はまるで幼稚園児のようでなんだか不具合な感じを受けるが。
 エッジはニコラの方を向くと軽く手を振った。ニコラも笑うと手を振り返した。
「んじゃ行ってこいよ。」
 この神殿内に入れるのは神殿の関係者か巫女王の許可を得た者だけなのでニコラはここまでなのだ。エッジと女性は連れ立って神殿に入っていった。
 
「そう言えば、あんたの名前聞いていないな。」
 まるで誰もいないかのような辺りの静粛に耐え兼ねたのか、エッジは前を進む女性に尋ねた。
「これは失礼しました。私はこの神殿にて巫女頭をしておりますマイエと申します。」
 女性は前を進む歩みを止める事無く答えた。
「この神殿のNo.2か。じゃあ巫女王様に会う前に聞きたい事がある。俺が召還されなければならない理由を知っているか?」
 エッジの問いかけに対してマイエはゆっくりと首を左右に振った。
「いいえ、私には貴方様が234年ぶりにこの世界に召還されなければならない理由は存じておりません。ですが・・・」
「ですが?」
 そこでマイエは顔を少々曇らせた。
「巫女王様が『託宣』を聞いた事に関係があるそうです。」
 エッジはそれを聞いて片眉をピクリと動かした。
「『託宣』が関係しているだと?」
「はい。」
「そうか・・・・。」
 そのようなやり取りをしているうちに2人は白と黒のコンストラストが美しい大きな両開きの扉の前に来た。
「この先が巫女王様の間でございます。『大勇者』様どうぞお進み下さいませ。」
 エッジは扉に手をかけると押した。扉は音もなく内側に開いていった。
 
 扉の中の部屋はどうやら木で出来た空洞を加工した物のようだった。大体15帖程あるだろうか。魔法で作られた白い光の玉が優しく辺りを照らしている。
 そこには1人のポピット族の女性がいた。足元まで届きかねない長く、真っ青な髪の持ち主だ。この種族は成人するとほとんど見かけに変化がなくなり、見た目から年齢を計る事がほぼ不可能だ。その為かどうか知らないが見た目通りに子供っぽい性格の者が男女とわずポピット族には多い。だがその女性は違っていた。大人の女性の雰囲気をもっており、何よりも不可思議な神秘性と圧倒的なカリスマを醸し出しているのだ。最もエッジも見た目と違って凄みが感じ取れるから案外この2人は似た者同士かもしれない。
「お久しゅうございます、巫女王セラ=ミラフュラー様。」
 エッジはうやうやしく片膝をつくと丁寧に平伏した。
「お久しぶりですね、エッジ=バーラング。・・・私達の間に下手な緊張関係はいらない筈ですよ。面を上げて下さい。」
 セラは笑いながらエッジに声をかけた。その笑顔をみれば殆どの者が彼女に気を許し、心から安らぐだろう。そして思わず笑い直してしまう、そんな笑顔だ。
 だがエッジは笑みを浮かべる事なく面を上げた。その様にセラは苦笑しながらゆっくりとお茶の用意をし始めた。
 程なくしてかぐかわしい臭いが辺りに立ち込める。2つのカップに湯気だつ紅色の液体が注がれた。盆に乗せてテーブルまで運ぶ。テーブルはポピット族専用なのかやたらとちっちゃい。
「どうぞお飲み下さい。」
 セラはエッジに笑いかけながら椅子に腰かけた。エッジもセラの対面の椅子に座る。
 しばし、お茶を飲む音だけが辺りに響いた。端から見ると2人の子供がお茶会しているみたいで何だか微笑ましい。
「ふふふっ、こうやって2人で会話するのもひさしぶりですね。昔は一緒によく遊んでいたんですが。」
 セラは相変わらずの笑みを浮かべている。対してエッジは無表情にお茶を飲みつづけていた。
「昔は勇者ごっこで俺をモンスター役にしてはぶっ飛ばしてたお転婆娘が今やポピット族の実質的な主導者、巫女王だもんな。時代ってのはよくわからん。」
「あら、そう言う貴方でしたって今や七王の1人プライドからこの世界を救った勇者達のリーダーにして妖精界最強の戦士、『大勇者』じゃないですか。」
 だがセラのその言葉に対して、エッジは顔を曇らせた。その顔には後悔と苦渋が見て取れる。
「・・・強くなんかない。あの事に耐えられなくてこの世界から逃げたんだ。俺は、臆病者だ。」
 セラの顔に悲哀が浮んだ。
「エッジ・・・。まだニアラさんの事を引きずっているの?」
 段々セラの言い方も友人に使うような砕けた物になってきている。
「忘れられないよ。もう、200年以上たったのに未だにあいつの死ぬ時の姿を夢で見るよ。」
 エッジは上を見上げた。まるで涙がこぼれ落ちるのを防ぐかのように。
「あの戦いが終わった後、俺はあいつに求婚するつもりだった。あいつの笑顔を守るのが俺の最大の目的だった。なのに俺は・・・・守れなかった。」
 深く、彼は溜息をついた。その目には深い悲しみが、後悔が映っている。
「正直な話、50年前にタルが来なかったらどうにかなってしまってたかもしれない。あいつはあの戦争を知らないからな、あいつにはあんな思いさせたくないよ。」
 それはエッジの正直な独白だった。
「エッジ・・・。そうね、あんな悲惨な戦争は知らない方がいいわよね。」
 セラも過去を思い出して悲しそうな顔をした。隣人が、知り合いが、親が、子が死んだ戦争。たくさんの者が犠牲になった戦争。セラも知ってる者を、親しい者幾人も失っているのだ。
 しばし重苦しい沈黙が辺りを覆った。
「セラ、ところで俺を呼んだ理由はなんなんだ? さっきマイエって人に聞いたが『託宣』が関係してるそうだが。」
 セラはお茶をくいっと飲むと、エッジの目をまっすぐに見つめる。
「ええ、貴方にお願いがあって。今度の闘技大会にポピット族の代表として出場して欲しいのです。」
 その言葉に対してエッジはあからさまに眉間に皺をよせた。
「おい、セラ。俺は・・・・。」
 問い詰めようとするエッジにセラは押さえてとでも言いたげに手の平を向ける。
「権力争いに加担するつもりはない、でしょ? わかってますよそんな事。貴方がそういうのが大嫌いなのは私も理解しているつもりですよ。」
 エッジはセラの言葉に対して今度は不思議そうに眉をひそめた。
「だったら何故、俺が闘技大会にでるんだ? あれは確か世界議会の議会長を決める場でもあった筈だぞ。」
 世界議会とは妖精界の全知的生命体が一同に揃って行う集団会議の事だ。そこでは妖精界の今後について重要な課題等が多く取り扱われる。そしてその会議の議会長が最大の発言力を持つのは当然にしてしかるべしだ。
 議会長は5年に1回入れ替わる。それを決めるのに用いられているのが闘技大会だ。各種族の選り優れの豪傑が参加し、優勝を目指して闘う。そして優勝した部族の長が次の議会長に選ばれるのだ。
「はっきし言ってしまいますと、優勝なんてどうでもいいんです。参加してくだされば。」
 エッジの顔が頭の上がクエスチョン・マークだらけになったようになる。
「マイエが言っておりましたでしょう、『託宣』があったと。」
「ああ、そう聞いていたが。」
 『託宣』とは巫女王特有の未来予知みたいな物だ。これから起こりうる未来が断片的な画像になって突然巫女王の頭に閃くのだ。そしてその予知は絶対にはずれる事はない。それゆえに巫女王はポピット族の主導者的立場についているのだ。
「七王が現れる『託宣』を受けました。」
 エッジの顔が大きく引きつる。その目には驚愕が走っていた。
「馬鹿な。プライドは少なくても後1万年は復活しない筈だぞ?」
 その言葉にセラは大きく頷く。その顔は真剣を突きつけられたかのように緊張したものになっていた。
「ええ、ですから別の七王が魔界から動こうとしているのです。」
 そこで緊張を解く為か一端、話を区切るとセラはお茶を少し飲んだ。
「しかもこの世界にではありません。別の異世界にです。」
「神界はあり得ない、という事は人間界にか?」
 セラは再び大きく頷いた。
「恐らくは人間界に七王を召喚しようと試みる者がいるのでしょう。そしてその行為を手助けしようとする者達がこの世界にいるそうなのです。」
「・・・・どこかの部族が手伝っているって事か?」
 悲しげな表情を浮かべながらセラはエッジの言葉を受け取る。
「はい、私が受けた『託宣』ではどの部族まではわかりませんでした。ですが恐らく七王の力を借りてこの世界の覇権を握ろうとしているのは間違いないでしょう。」
 腕を組み、エッジは物思いにふけるような顔をする。
「覇権獲得を確実にする為にも今度の闘技大会でそいつらが議会長の座を狙ってくる可能性が高い・・・。だから俺が参加してその事を調査して欲しい、という事か。」
「そうです。それに大勇者である貴方が参加するといったら確実に彼等は何か仕掛けてくるでしょうしね。」
 ようするにエッジに怪しい奴等がいるからオトリになれと言ってるも同然だ。いくらなんでもちょっと失礼でなのではなかろうか。
 しかしエッジは気にする事もなく言葉を続ける。
「まあ、そういう事なら引き受けてもいいだろう。だが用件の内容が内容だ、できればあの時戦った他の仲間達の助言を受けておきたいんだが。」
 そこでセラは更に顔を曇らせた。
「実は、もう勇者は貴方以外もういないんです。」
 エッジはそれを聞いて硬直した。
「獣人の一種、レイブン族の王アヴァターは150年程前に老衰で亡くなってます。」
「それはタルから聞いている。だが土エルフのあいつはまだ寿命がかなり残ってる筈だぞ?」
 土エルフとはまたの名をダーク・エルフとも呼ばれている黒い肌のエルフ族の事だ。森エルフ族が森に住む事を好むように土エルフは名の通り暗くて狭くてジメジメした洞窟の中で生活するのを好む。森エルフとはカビみたいな奴等だとよく言われる為あんまり仲がよくない。そしてエルフ族らしくやたらと寿命が長く、4000年くらい生きるのだ。
「土エルフ族の神官戦士、ハルリックは一ヶ月前に落盤事故に巻き込まれて亡くなりました。」
「馬鹿な。土エルフは住んでる場所が場所なだけにそんな事故に巻き込まれるなんてありえない・・・・」
 そこでエッジはある事に気付き、言葉を止めた。
「・・・・まさか、今回の件に。」
 セラは真剣な眼差しをエッジに向けて、頷く。
「ええ、先手を打って彼を事故に見せかけて殺したと思われます。あくまで推測ですが、この時期に起こったとなると偶然にしては出来過ぎでしょうね。」
「だろうな、だからわざわざ俺を召還したのか。この件に関して相談できる奴等がいなくなったから。」
 無言でセラは頷いた。エッジは疲れたように大きく溜息を吐いた。
「セラ、闘技大会の開催まであと幾日だ?」
「あと2日ですがそれが何か?」
 エッジは頬をポリポリとかきながら少々恥かしそうにした。彼を知ってる人物ならわかるが、かなり珍しい光景だ。事実セラはちょっとびっくりしたような表情を浮かべている。
「転移術使える奴、貸してくれないか? 闘技大会に出る前に仲間とあいつの墓参りに行っときたいんだ。」

<< Scene 3 >>

 地エルフ族が住まう洞窟は荒涼とした荒れ地にある事が多い。かつて妖精界を救った勇者ハルリックが住んでいた洞窟もまた荒涼とした荒れ地の端に隠れるように存在している。
 その洞窟にエッジは付き人として付けられた1人の神官と共に訪れていた。目的は共に戦った戦友の墓参りだ。
 用件を洞窟の入り口にいた見張りの地エルフに述べて待つ事20分弱。地エルフ族の女性が1人、洞窟の入り口で待つエッジ達の元にやってきた。年齢は人間にあわせれば16、7才くらいだろうか。実際には200才は超えているだろう。身長は160cmいっているくらいか、銀色の髪の毛が肩口で切り揃えられてる。アーモンド型の瞳をしており、切れ筋だった鼻筋、小さな口、針金のように細い体躯とエルフの特徴をそのまんま体現したような容姿の持ち主だ。いや、他のエルフよりも容姿は整って見える。だが一番の彼女の特徴は身の丈よりどう考えても大きいであろうポール・アックスを背中に背負ってることだろう。
 女性いや少女は片膝を地面につけるとうやうやしくお辞儀をした。これはこの世界では全種族共通の土下座に次ぐ最上の礼である。
「始めまして、大勇者エッジ様。この地に訪れて頂き、深く恩顧の礼をつけさせて頂きます。私はこの洞窟内の案内役を申し付けられましたミーナ=ガトルズと申します。」
「・・・ガトルズ? 確かハルリックの下の名前もそうだった気がしたが。」
 エッジの言葉にミーナは顔をあげて微笑む。
「はい、ハルリック=ガトルズは私の年の離れた兄にあたります。」
「そうですか。お兄さんの事をお悔やみ申し上げさせて頂きます。」
 エッジは深々とお辞儀をした。が、それに対してミーナが取った行動はある意味素っ頓狂な事だった。おもいっきり慌てふためいたのだ。まさか世界を救った勇者達のリーダーがしおらしく自分にお辞儀してくるとは全然思っていなかったからだ。
「え、あの、いえ、その、えーっと、その、ではこちらに連行、じゃなくて兄の墓に案内しますのでついてきて下さい。」
「はぁ。」
 何故だかわからないが慌てふためくミーナをエッジは思わず呆れた表情で見つめていた。
 
 広大な洞窟の片隅にあたる箇所にこの洞窟に住む地エルフ達の墓場が存在する。世界を救った勇者ハルリックの墓はそこにあった。周りの墓より少々上等な墓石を使われているのは生前の功績を称えての為だろう。
 エッジはその墓の前にハルリックが生前好きだった肉のから揚げを添えた。付き添いの神官がつけた魔法の明かりの為にそこそこ明るいが、本来光が全くない洞窟中という場所なだけに地エルフ族には墓に花を添えるという風習はなく、生前の好物を添えている。
 手を合わせて冥福を祈る3人。こういう慣習は人間界も妖精界も変わりはない。しかし妖精界の基本的な世界観が中世ヨーロッパなのに何故アジアンテイストな慣習なのかよくわからないが。
 祈りを終えると添なえた食べ物を肴に簡単な酒宴をその場で始めた。これも地エルフ族流の風習である。
「ところでエッジ様は今回の闘技大会に出るという噂を聞いてますが本当ですか?」
 ミーナはエッジにから揚げを食べながらそう尋ねた。
「ああ、一応その予定だ。」
 お猪口の酒杯をあけながらエッジは答えた。予定もなにも闘技大会の受付は2日前までなので既に代理人が受付を済ませているのだろうが。
 エッジの軽い口調にミーナの顔は困惑の形に変わる。
「失礼だと思いますが、世界をお救いになられた勇者達の中でも最強と言われている貴方様があの大会にでるのはどうかと思うのですが。」
 そこで一回言葉を切ると彼女はエッジのお猪口に酒を注ぐ。再びエッジはお猪口をあけた。目つきが悪いとはいえ見た目が幼稚園児なだけに端から見るとなんだか滑稽な光景だ。
「一応あの大会は娯楽が最優先とはいえ権力争いの場でもあります。差し出がましいですが200年以上この世界に関わっていない貴方様が権力争いに関わるのはどうかと思うのですが。」
「ほぅ、俺のやる事に文句があるとでも?」
 エッジはチラリとミーナを見つめた。
 ミーナの顔が真っ青になる。感情にまかせて言いたい事を言ったが、落ち着いて考えてみると妖精界にて最高にして最強、そして最凶とまでいわれた戦士に文句を言ったのだ。ある意味自殺行為に近いかもしれない。
「あわわわわわ、そ、そんなつもりで、いいいい言った理由じゃないん、です。たたたた、ただちょっと思った事を口にしちゃっただけでして。」
 思いっきり慌てふためくミーナ。その行動を見てエッジは軽く溜息をついた。
「慌てなくてもいいよ。俺だって権力争いになんて加わるつもりは少しもないからな。」
「? では何故あの大会に出場されるのですか?」
 エッジはポリポリと頬を掻きながら困ったような顔になった。
「まぁ、ちょっと事情があってね。」
 まさか魔王の召喚を手助けする者達がいてその調査の為だなんて事情が事情の為に言う訳にいかない。
 だがエッジの表情の変化にミーナは目ざとく反応した。実は結構さとい子なのだ。
「まさか、兄の死因に関係してるのですか?」
「・・・・ハルリックは事故死だろう。」
 きつめの視線でミーナを見つめる。だがミーナは顔を左右に振った。
「兄から聞いています。魔王の城は敵と罠に満ち溢れていて大変危険な場所だったと。そのような場所に攻め込み、魔王との戦いで生き延びた兄が落盤事故のような単純な事故で死ぬとは思えません。」
 エッジは黙ってお猪口に酒を注ぐと一息に飲み干した。
「エッジさん、この世界でまた何か大変な事が起ころうとしているのではないのですか? でしたら私もなにか・・・」
「これは俺の用事だ、君には関係ないだろう。それに危ない事は君の兄さんも望んではいないだろう。」
 だが、ミーナは不敵そうに笑った。
「あら、私もあの大会に出場するんですよ。地エルフ族の代表として。」
 エッジの目が驚きで見開かれる。
「はぁ!?」
「で・す・か・ら、私も出場するんです、あの大会に。こう見えても兄に次ぐ強さを持った戦士なんですよ、私。」
 クスクスと笑うと、ミーナは背中に背負った斧を手に取った。細身な体格なのにも関わらず、何故か斧を持ったその姿は様になっている。
 渋い顔をするエッジ。そういった顔をすると子供にしか見えない。そして思案に暮れるように下を向くが、ややあって顔を左右に振ってミーナを見つめた。
「いや、事情が事情なだけにまだ君には話せない。だが確かに君の兄さんの事は関わっている。」
 エッジの答えを聞いてミーナは表情を暗くした。
「やっぱり、兄は殺されたんですか?」
「まだ確証は出ていないが、可能性はあるな。・・・今のところはまだ説明できないが、いずれ話すよ。」
「はい、その時はよろしくお願いします。」
 ミーナは丁寧に頭を下げた。
 
「ニアラ、また七王が動こうとしているらしい。」
 夕刻もそろそろ暮れようとするする時間にエッジはニアラの墓に1人で見舞いにきていた。
 マーサーズから少し離れた所にある小さな湖の湖畔にニアラの墓はひっそりと建てられていた。
 ここの風景が好きだったニアラの事を思ってのセラの配慮だ。
 徳利からお猪口に酒を注ぎ、エッジはぐいっと飲み干した。酸味の強い酒が喉を熱くする。
「もう、あのような戦争を誰にも味あわせたくない。あの時の俺のような思いを誰にも味あわせたくない。」
 ニアラの墓を見つめながらエッジは独白を続けた。
「君に誓うよ。この世界は奴等から俺が必ず守ってみせる。必ず。」
 エッジは下を向いた。その瞳から静かに涙が流れた。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 (世界設定)
 ● 魔精戦争
 今から丁度300年前に魔界の七王の1人プライドが妖精界に突如として侵攻した事によって起こった、魔族と妖精、獣人、精霊の連合軍との間に行われた戦争の事。
 一説にはある邪悪な妖精がプライドを召喚した事が切っ掛けとされているが詳しい事情は現在分かっていない。
 妖精界全土に及ぶ20年も続いた大戦争であった。
 終始魔族が優勢であったが、ポピット族の巫女王セラ=ミラフュラーが考案した作戦により事態は連合軍の勝利によって終結した。
 その作戦とは選りすぐりの精鋭50名を魔界にある七王プライドの城に魔法で強制送還し、魔族の指導者プライドを倒すという電撃作戦であった。
 特攻隊のリーダーはポピット族の戦士でセラの盟友でもあったエッジ=バーラングが担っている。
 結果は多大な犠牲者を出したがプライドを倒す事に成功する。
 なお生き残ったのはポピット族の戦士エッジ=バーラング、獣人の一種レイブン族の王アヴァター、地エルフ族の神官戦士ハルリック=ガトルズの3名のみである。
 彼等にはその多大な功績を称えて『勇者』の称号を渡されている。特に特攻隊を指揮し、七王プライドに止めを刺したエッジ=バーラングには勇者の中の勇者、『大勇者』の称号が渡されている。
 
 ● ポピット
 妖精界に古くから住んでいる妖精の一種。人間界ではホビット、ハーフリングとも呼ばれている。
 草原で生活する事を好む。容姿はある一定まで年をとると年を取らなくなり、見た目は子供のままである。身長80cmを超える者はまずいない。
 年齢は1000年近く。性格は見た目通り子供っぽく、大雑把な性格をしている者が多い(例外もむろんいる)。
 見た目通り力、体力が弱い半面、素早さと器用さに長け、知能も高い。
 過去はその手先の器用さから盗賊を生業にする者が多かったが、魔導に高い素質を持つ事が判明してからは魔導師が多くなり、現在は妖精界最大の魔導を操る一族として知られている。
 彼等が中心に住む街マーサーズは妖精界有数の大きさを誇る都市であり、最大の魔導研究都市でもある。
 ポピット達は巫女王を頂点にした政治体制を取っているが彼等の性格が性格の為、政治の事を行動の基準程度にしかとらえていない者が多い。
 また妖精界を救った『大勇者』を排出した一族の為、近年においての妖精界の発言力は思いのほか大きいのも特徴である。
 
 ● 七王
 魔族が住む魔界において最大級の力を誇る七匹の魔族の事をさす。
 それぞれプライド、エンヴィイ、グルトニー、ルースト、スロース、グリード、レイスと呼ばれている。
 魔族は実力至上主義の為、彼等が魔界を制していると言って過言ではない。
 お互いにその存在を疎ましく思っているが微妙な緊張関係が続いている為、彼等が戦い潰しあう事はまずあり得ないとされている。
 また別の世界に進出しようと虎視耽々と狙ってもいる。
 300年前にプライドが妖精界に侵攻したが、妖精達の決死の抵抗によってあえなく失敗。現在は復活の為に休眠状態になっており、最低でもあと1万年は眠っているだろうといわれている。
 
 ● 属性
 そのものに備わっている固有の性質・特徴の事。魔導において8つの属性(火、水、土、風、氷、雷、光、闇)が定められていた。
 しかし、450年程前に人間界からポピット族の冒険者エッジ=バーラングの手によって「気」という属性が持ち込まれた。この事によって現在は魔導には9つの属性が定められている。
 「気」とは生命エネルギーそのものを操る物とされており、他の属性とは異なり魔導に適正がないとされているドワーフやトロール、ゴブリン達の間でも用いられている。
 また噂ではエッジ=バーラングは魔族との戦争中に第10番目の属性「無」を生み出したとされているが、確認はとれていない。
 


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