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今回は狩人の共同戦線物です。
片っぽはともかくもう片方がちょっと暴走気味です。


狩人 - 凶悪 -
作:DEKOI



 この世には人知のしれないものが『ある』。
 霊といわれるものが。化物といわれるものが。魑魅魍魎といわれるものが。悪魔といわれるものが。神と呼ばれるものが。
 また魔法といわれるものが、魔法としか思えないほど進んだ科学が。
 
  それは確かに『ある』のだ。
 「それら」は人間の前に殆ど現れない。だが人間に「彼ら」が牙むいた時、人間に太刀打ちできる術はない。
 だが、「それら」を「狩る」事を目的とした「者」もまた、確かに『いる』のだ。

 その事知る者は、彼等を尊敬と畏怖をこめて「狩人」と呼ぶ。


 俺の名は井上良樹。ゆえあって今は井上佳枝と名乗っている。
 俺は「狩人」だ。元の姿に戻る為、日々悪戦苦闘の戦いをしている。
「佳枝ちゃーん、ご飯まだでちゅかー。」
「あぁ、もう、だったら手伝ってくれてもいいだろう?」
 まったく。いくら俺が今は女だからって家事全般押し付けるか?
 
 料理も終わりさてみんなで食べようとした時に
 
 ピンポーン
 
 インターホンが鳴り響いた。なんだあ?食事の時間に来るなんて何て非常識な奴だ。
 俺は結構頭にきながら玄関に向かった。荒々しくドアを開ける。そこには、
 白としか形容しようが無い白髪の持ち主が立っていた。
 身長は170以上だろう。今の俺ではちょっと見上げなくちゃならない。
 その人は黒を主体とした服を着ていた。かなり整った顔をしている。ちょっと目が鋭いか。
 えっと
 蘇芳様ぁ?何故貴方様がこんなところにおられるのですか?ああ、アタシってば貴方様のいつも思っているのですよ!
「こんばんわ。久しぶりだね、佳枝君。」
 まぁ佳枝って言ってくれるだなんて!佳枝か・ん・げ・き♪ アタシの名前覚えててくださるなんて夢のようですわ!
「佳枝君?」
 ああ、またアタシの名前呼んで下さるなんて!佳枝か・ん・ど・う♪ 貴方様の口からアタシの名前が出るだけで天に昇る気分になれるから不・思・議♪
「佳枝君???」
 はっ
 あああああああまたやっちまった。どーもこの人の前だと乙女ちっくで恋に恋する的な人格が表れてしまう。
 この人は男だぞ?いくら蘇芳さんがカッコイイからといっても女だったら惚れても当然よね。ハンサムだし性格もいいし、何ていうの、男性の理想形って感じ? この方と知り合えるなんて、何て幸運なのかしらアタシ♪
「佳枝君〜〜?」
 はっ
 あああああああだからぁぁぁぁぁぁ。
 
「すいませんね。ご飯の最中押しかけてしまいまして。」
「いえいえ、いいでちゅよ。」
 蘇芳さんは親父と話している。こうやって遠くから見ててもやっぱりかっこよくて素敵・・・・ってうぉぉぉぉぉ。
「お姉ちゃんどうしたの?さっきから頭抱え込んで。」
「あー、何でもないよ、うん何でもない。」
 俺がそう答えると栄治はニンマリと笑みを浮かべて、
「確かあのお兄ちゃんでしょ?お姉ちゃんが好きなの?」
「なななんあななななな何を言っっっっってるのかななななななななな栄治君。」
 栄治の質問に答える俺。それは見事に呂律がまわっていなかった。
「そりゃ確かに蘇芳さんはかっこいいし素敵だし、性格いいし、とっても理想的な男性だと思うの。だからアタシとしてはまず清いお付き合いからしてそれから段々とステップアップして最後にはあの方と一緒に添い遂げ・・・・
「お、お姉ちゃん?」
 はっ
 いつの間にか両手を組んで赤面物の告白を熱く語っていた。栄治が呆然とした目で俺を見つめている。
「ち、ちちちち違うんだ栄治、今のは俺の本音じゃない。第一あの人は男で俺も男だし、」
「でも今は女だから。」
うん、だからあの方と一緒になれて一晩過ごせたら素敵だなぁって」
 だから違うんだ栄治、そんな目で俺を見ないでえぇぇぇぇぇ。
「失礼ですが、いつ見ても変わった行動を取られますね貴方の娘さんは。」
「えーっと。いや貴方の前以外なら結構まともなんでしゅが・・・。」
 
「佳枝ちゃん、ちょっとこっち来なちゃい。」
 蘇芳さんも帰って食事も終わり、後片付けの最中に俺は親父に呼ばれた。
「何だよ親父。今は後片付けの最中なんだけど。」
 俺はそう言いながらも手を拭きながら親父の元に行った。親父はノートパソコンを広げていた。
「実はでちゅね、さっき蘇芳さんがきたのはあなたの力を借りたいとのことなんでちゅ。」
蘇芳様がアタシの力をぁ?嘘ぉ、信じられない!
 はっ
 しまった、また乙女チック人格が表にでてきてしまったぁぁぁぁ。
「なーんであの人が関わると途端に女の子になれるんでしゅかねあなたは。」
 親父は俺を呆れ返った調子で見つめた。うん、何でだろうね。ボクもよくわかんないデス。
 湯飲みにお茶を注ぐと親父はずずずっと飲んだ。その後ふう、と息をついた。4歳児の女の子がやると何か変だ。
「「狩人」は基本的に一匹狼が多いでしゅ。蘇芳さんもあたち達もそれは言えるのでちゅが・・・。」
 親父はノートパソコンのマウスに手をかけた。画面には俺も良く見る「狩人」専用の仕事を斡旋する為のホームページが表示されていた。
「蘇芳さんはこの仕事を受けるそうでちゅ。」
 そう言って親父は一つの項目をクリックした。
 指し示された仕事の内容は自動車工場の機械が突如暴走して工場内の人を襲いだした、との事だ。原因は不明。しかも見たところ十数名が工場に閉じ込められていると書いてある。
 工場の場所はうちの県と隣の県の丁度境目付近にあるようだ。こっからでも車をとばせば1時間ぐらいで着くだろう。
 そしてその項目の仕事受理の欄は「受理済み」にすでになっていた。
「蘇芳さんは超一流の「狩人」でちゅ。あたち達の数倍は強いでちゅ。」
 うん、そうだ。はっきし言って蘇芳さんは激烈強い。肉弾戦だけなら人類最強だと思う。あの人と互角以上に戦えるのは「ティンクル・ピクシー」の三白眼くらいじゃないのかな?
 でも何でそんな人が俺の助けがいるんだ?
「何とか1人でやりたいんだけど救助する必要がある人がいるから念の為に誰かにサポートして欲ちいちょうでしゅ。」
 なる程、でもなんで俺?
「今晩現場に攻め込むちょうです。だから近くにいて機械関係に強い能力を持ったあなちゃが最適だと言ってまちた。」
 納得。確かに俺のマグネットパワーは機械相手には強いだろう。物理的にだが。
「それではうけていいでしゅか?一応報酬は割半にしてくれるそうでちゅが。」
「ああ、いいよ。」
 俺は肯いた。超一流の「狩人」の戦い方を見る事ができるんだ、いい勉強になるだろう。
 それに蘇芳様のお手伝いができるだなんてっ。これを機会に一気に仲が進展しちゃったりして!
 この仕事が終わった後に
「疲れたかい佳枝君。」
「ええ大丈夫ですわ蘇芳様。」
「どうだろう、近くのホテルで一晩ゆっくりしていかないかい?」
「ええ、そんな恥かしいですわ。」
「はっはっは、今日は寝かせないよ。」
 何て展開になったりして!
 いえ、絶対なるわ、してみせるわ!そうよ愛のち・・・
「佳枝ちゃん?なに力こぶし作ってヨダレたらしながら恍惚とした目をしてるんでちゅか?メチャメチャ怖いんでしゅが。」
 はっ
「蘇芳さん、どう考えても人選ミチュだと思うんでちゅがねぇ・・・・。」
 壁に顔面ぶつけまくってる俺の横で親父はポツリと呟いた。
 
「いやぁ、なかなか斬新な装備ですねぇ。」
「いやぁそうですか?あははははははははは。」
 迎えに来てくれた蘇芳さんが言った言葉に対して俺は乾いた笑いをあげた。
 黄色と緑色を主体としたレオタードをゴツクしたようなパワードスーツ、という普通想像する事すら出来ないような物体はとりあえず置いとくとして、
 背中に背負った物体は確かに斬新を通り越したモノだ。
 それは長方形の板の両端に棒をくっつけた様な物だった。
 問題は棒の一方の端にはドリルが、もう一方の端にはロケットエンジンに付いてるようなノズルがくっついている事だ。
 何なんだよこの70年代のロボットアニメに出てくる秘密兵器みたいなのは。しかもまたドリルかよ。
 名づけて「ブースタードリル」。まんまやんけ。
 これを背負った状態でスイッチを入れればドリルが回転してブースターの噴出力によって空を飛んで敵に体当たりできるらしい。
 ただ時折爆発するかもしんないから気をつけてね、との事。
 ・・・・お父様、僕に特攻して死ねって言ってません?
 一応サブウェポンとして小型のバズーカーを渡してくれたが、それなかったらどうしろってんだ。特攻を連発しろって事かい。
「まあその危なっかしそうな物はできる限り使わないようにして下さいね。」
 もちろんです、言われなくても使いません。
 ですがさすが蘇芳様、アタシにそんな優しいお言葉をかけてくれるだなんて佳枝感げ・・・・っていい加減にしろよ、俺。
「さて、行きましょうか。「狩り」にね。」
はい♪
 ・・・・一瞬あの人格がでたような気がするが、気にしないようにしよう。
 蘇芳さんと俺は車に乗り込むと「現場」に向かうのだった。
 
 
「「狩人」の坂上蘇芳です。よろしくお願いします。」
 「現場」についた俺達を50はいってるしょぼくれたオッサンが出迎えてくれた。
 どうやらこの工場の工場長らしい。
「ああ、よろしくお願いします。ところで確かお一人だけとメールには書いてあったと思うのですが、そちらの変な格好したお嬢さんは一体・・・?」
 変な格好は余計です。否定できませんが。
「ええ、工場内に取り残されている人がいるそうですのでね、念の為に人命救助の為のサポートしてもらう事にしまして。」
「「狩人」の井上佳枝です、よろしく。」
「そうでしたか。よろしくお願いします。」
 俺がお辞儀したのに対してオッサンもわざわざお辞儀する。結構律義な人のようだ。
「私達の仕事はこの工場内で起こった機械の暴走を止めるのと、閉じ込められた人々の救出でよろしいですね?」
「そうです、よろしくお願いします。」
 オッサンはペコペコお辞儀をした。なんだかやたらと卑屈なような気がする。
「それじゃあ行きますよ、佳枝さん。」
 蘇芳さんは車から「剣」を取り出しながらそう言った。刀身は150センチ以上はあるだろうか。「剣」というよりでっかい鉄の塊といった方が表現的にはあってそうだ。
「はい、わかりました。」
 俺もバズーカーに弾を込めながら答えた。
 そして、俺達は危険地帯に変貌した自動車工場の敷地内に入っていった。
 
 
 俺達は入り口から工場に潜入した。自動ドアは反応しなかったので蘇芳さんが剣で壊していた。
 ここからはいわば敵の本拠地も同然だ。いつ危険が襲ってくるかわからない、慎重にいかないと・・・・
「佳枝君、ここからは危険だからスキップしながら進むのはとりあえず止めた方がいいと思うよ。」
 いや、貴方様と2人っきりだと思うと足どりがはずんじゃって♪
 ・・・・いやそうじゃねえだろう、俺。しっかりするんだ俺。正常な意識をしっかり持つんだ俺。
 ゼーゼーゼーゼー。俺は肩で息をついた。そんな俺を蘇芳さんは生暖かい目で見ている。
 ああ、そんな目で俺を見ないで。そんな目で見つめられると、佳枝、悲しくなっちゃう。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
 
「しかし、さっきのオッサンやたらと恐縮してましたね。」
 俺は気を取り直す為にさっき思った事を言った。それに対して蘇芳さんは少々渋面を浮かべた。
「どうかしましたか?」
「気付かないかい?機械の暴走して、更に人が閉じ込められたという状況なのに何で私達「狩人」がわざわざ雇われたと思う?普通なら警察の機動隊とかに人員の救助を求めると思わないかい?」
 あ。
 それもそうだ。蘇芳様と2人っきりになれる・・・じゃなくて仕事を受ける事で頭がいっぱいになってたから思いつかなかったけどそりゃそうだ。
 しかもこんな大事故なのに報道が一切されてなかった気がする。何で「狩人」が必要なんだ?
「この工場はメーカーが国内で生産している中でも1番大きいものらしいんだ。」
 ふんふん。
「そんな工場の機械が暴走したといった内容が報道されたらメーカーの名前に大きな汚点になる可能性が高い。だからこの事故を必死になって隠蔽してるのさ。機動隊とかが動いたら報道関係にばれるかもしれないだろう?裏家業である「狩人」なら秘密が漏れる事はないだろうって魂胆さ。」
「うあ、なんかセコイっすね。」
「それに迅速に解決しなくてはならない。閉じ込められた人達の家族が帰ってこないと言っていつ警察に通報するかわからないしね。そうなると荒事専門で秘密厳守な「狩人」を雇う事ががメーカーにとって一番安全ってわけさ。」
 うううう、なんか大人って汚い。ん?待てよ?
「なんでこんな仕事、わざわざ蘇芳さんが受けたんですか?蘇芳さんクラスの力の持ち主ならこんな汚い仕事受ける必要ないのに。」
「閉じ込められてる人を助けなくちゃいけないだろう?困ってる人がいる事はわかっているんだ。だったらきれい汚いなんて、関係ないさ。」
 ・・・・相変わらず、優しい人だな。蘇芳さんって。
「それに・・・・」
「それに?」
「ちょっと奇妙な事があるんだ。この工場は完全自動化されているらしいが、メールの内容には『全ての』機械が『同時』に暴走したらしいんだ。作業機械だけじゃなくてスプリンクラーや防火シャッターとかもね。」
「・・・・それがどういう事を意味を持ってると思うんですか?」
「作業機械と防火設備を管理しているコンピューターはそれぞれ別になってると思うんだ。そうでなければ有事の時に意味をなさないだろう?」
 それもそうかもしれない。作業機械を管理してるコンピューターのメンテ中に火事が起こった時にスプリンクラーが作動しなかったらオオゴトだ。
「なのに同時に暴走した・・・。」
「そうだ。どっちか一方が壊れておかしくなったのならまだしも、いっぺんにはちょっとおかしくないか?時限式のプログラムでも忍ばせていたのかもしれないけどそんな手間暇わざわざするだろうか。」
「でも愉快犯とかならするかもしれませんよ?」
「それに機械は「壊れた」んじゃなくて「人に襲いかかった」そうなんだ。そんな複雑なプログラム、少なくとも私は聞いた事はない。」
 確かに。そう考えてみるとおかしいかも。
「もしかするとこの事件は私達が雇われたのは、正解かもしれないよ。嫌な予感がするんだ。こんな時の私の勘はよく当るしね・・・。」
 蘇芳さんの顔が前を向くと気を引き締めるかのように真剣な物に変わった
 あぁん、なんて素敵なひょ・う・じょ・う☆ そんか顔されるとアタシ、どうにかなっちゃいそう。
 ・・・・・・・はっ
「佳枝君、危険だから壁に顔を打ちつけるのは止めなさい。」
 
 
 
 ガシャーン
 
 俺達の目の前で防火シャッターが降りてきた。
「どうやら仕掛けてきたみたいだな。」
 蘇芳さんが不敵に笑う。まぁ、そんな表情も素てってそうじゃねえだろう、俺。
 そうこうしているうちに後ろの方のシャッターも落ちた。
 
 ジョボボボボボボボ
 
 なんか変な音がしてくる。一体なんなんだ?
「通気孔から水を流すつもりか。」
 なるほど、っておいおいそんな場合じゃないだろう。
 あっという間に水が流れてきて俺達の足を濡らす。このまま俺達を溺れさせる気かな?
「! 佳枝君、天井につかまれ!」
 蘇芳さんは叫ぶとジャンプした。剣を天井に突き立ててぶら下がる。
 俺も一瞬後にジャンプした。マグネットパワーを使って天井に張りつく。
 と、同時に
 
 バリバリバリバリバリバリィ
 
 強烈な電気の音が鳴り響いた。
 そうか、水は俺達に電気を流すのが目的だったのか、って蘇芳さんが気付いてくれなかったら今ごろ黒こげになってたんじゃ・・・。ブルブル。
「佳枝君、君から見て右側の方の壁に恐らく電気コードがあると思うんだ。バズーカーでふっ飛ばしてくれ。」
 なるほど、よく見てみると右側の壁にコンセントがあり、そこから電気が流れているようだ。
 俺は左手を天井にくっつけたまま右手で器用に構えると、引き金を引いた。
 強烈な爆発音がなり響いた。もうもうと立ち上る煙が収まると、さっきまで鳴っていた電気音が消えていた。どうやら電気コードも上手く切れたみたいだ。
 俺達は廊下を降りたつ。蘇芳さんの剣でシャッターを壊すと、俺達は先を進んでいった。
 
 その音は廊下を進んでいると聞こえてきた。車輪の音、そして機械の駆動音。
 それが丁度直角な曲がり角の向こう側から聞こえてきた。
「どうやら次の障害のようですね。」
 俺はわかりきっている事を思わず口にしていた。
「ここの工場は応用すれば大概の物が作れるらしい、恐らく戦闘用の何かを・・・・。」
 蘇芳さんは剣を構えながらそう答えてくれた。俺もバズーカーを構えて臨戦態勢を取る。
 曲がり角から現れた物、それは
 鉄板を溶接する為の腕型の機械に車輪をつけたような物だった。それは俺達の方にゆっくりと接近しながら腕を俺にむける。
「危ない!」
 蘇芳さんが俺を押し倒す。あぁん、そんな積極的な行動されると、佳枝困っちゃ・・・・うががががががが。
 機械の腕から激しい破裂音が鳴り、俺が立ってたらへんの空気を焦がす。後ろの壁に当り焦げた臭いをあげる。
 ってレーザー? あれはレーザー砲を装備した移動砲台ってことですか? うげげ、なんて物こさえてくるんだこの工場。
 曲がり角から別の車輪が聞こえてくる。うわ、まだ来るのかよ。
「佳枝君はここにいてくれ。」
 蘇芳さんは立ち上がると移動砲台に向かって走り出した。
 速い!比喩でもなんでもなく、弾丸のような速度だ。
 砲台がレーザーを発射する。それを剣を横に薙いで弾いてしまう蘇芳さん。嘘ぉ!?
 接近すると同時に一閃する!「ゴキ」という音をたてて砲台は斜めに断たれた。あっさりと沈黙する砲台。
 そのまま蘇芳さんは曲がり角に向かって走っていく。
 何発かの破裂音が響く。そして幾線ものレーザーが蘇芳さんを襲う!が、それをあっさりと身を捩ってかわしてしまう。
 そのまま曲がり角の向こうに行ってしまう。何度か破裂音と鉄に鉄を叩き付けたような音が鳴り響いた。それらの音は1分もたたずに収まった。
「佳枝君、もう来て大丈夫だよ。」
 曲がり角の向こうからそんな声が聞こえてきた。俺は立ち上がると曲がり角に向かった。
 向こう側には8台もの砲台が待ち受けていたみたいだ。それらは全て鉄屑に変わっていた。見たところ殆ど一撃で壊されている。
 ・・・・・蘇芳さんが強いってのは知っていた。だがここまで凄まじいとは。
 飛んでくるレーザーを剣で弾いたり、レーザーの集中砲火を身を捩って最小限の行動でかわすだなんて、とてもじゃないが俺には無理だ。
 そんな超絶強い蘇芳さんだが、スクラップにした砲台の一つを探っていた。するとその顔は驚きの表情に変わる。
「どうか、しましたか。」
「これを見てごらん。」
 蘇芳さんは砲台の一部を指差した。その箇所を見てみると、一枚の紙切れが張ってあった。それには「Sehem-hamphorasch」と書いてある。
「・・・・・? 何でしょうかね、これ?」
「これよりも「emeth」の方が有名だろうね。」
 「emeth」・・・? どっかで聞いた事あったような? 俺は少し悩んだ、がすぐに思い出した。
「確かゴーレムを作成する時に使う言葉でしたよね?」
 ゴーレムってのは魔法によって作られる動く人形で、主人の命令だけを忠実に実行する召し使いのような存在だ。ヘブライ語で「胎児」を意味していた筈だ。
「そうだ、「emeth」は「真理」という意味、そっちのは神の名前だ。」
 へえ、そうなんだ。勉強になるなぁ。・・・・うん? 待てよ、という事は、
「こいつらはゴーレムだった、て事ですよね?って事はまさかこの事件には、」
「そうだ、魔導が関わっている。それもかなり高度な。」
 なんてこった。まさかハイテクな技術が使われている工場の暴走の原因がオカルトだなんて誰が想像できるってんだ。
「どうやら私達が雇われたのは正解だったようだね。一般の人が魔導になんて対処できようがない。」
 そのとうりだ。一般常識どころか物理法則まで無視するからな、魔導ってのは。だが、俺達「狩人」なら・・・。
「佳枝君。原因を見つけて「狩る」ぞ。」
「はい、わかりました。」
 俺は肯いた。こうして俺達は本格的な「狩り」をする事になったのだった。
 
 
 俺は暇だった。つーのもたくさんの障害が俺達に襲いかかってはきてはいるのだが、全て蘇芳さんが突破してしまっているからだ。
 例えば、
 天井から熱い蒸気が吹き出した。蘇芳さんは剣で壁に大穴を開けて蒸気を逃がした。
 突然鉄で作られた身長2mは軽く超える人型のゴーレムが襲いかかってきた。蘇芳さんの一振りであっさりと鉄屑になってしまった。
 何匹もの犬型ゴーレムが襲いかかってきた。蘇芳さんが剣を乱れ切りする事によって全て動かぬ鉄塊になった。
 柱が倒れてきた。蘇芳さんのメガトンパンチでぶっ壊された。
 山羊の頭を持った異形の化物が襲ってきた。蘇芳さんによって一刀両断された。
 階段を上っている時に下からでっかい鉄球が転がり上がってきた。蘇芳さんのアッパーパンチ1発で天井にめりこんだ。
 ・・・・・いや、楽って言ったら確かに楽なんですが。ここに俺がいる必要がないよーな気がひしひしとしてくる。最初のトラップの時以外全く役にたってねぇ。つうかこの人マジで強すぎ。
 さすがアタシが惚れたオ・カ・タ☆ もう、佳枝いつでもこの人にすべてを捧げちゃう準備OKなのにこの人ったら気付いてくれないとかじゃねえだろ、俺なに考えてんだよ!
「佳枝君、疲れたのかい?少し休もうか?」
 いえ、肉体的には全然疲れてません。精神的には追いつめられてますが。
「大丈夫です。それよりも早く閉じこめられている人を助けないと。」
「そうだね。しかし、妙だな。」
 蘇芳さんは眉間に皺をよせた。ああ、端正な御顔がそのような表情をされるだなんて、なんて勿体無い。
 ・・・・・・うぐぉぉぉぉぉぉ。
「本当に大丈夫かい? やっぱり休んだ方が・・・。」
「いえ、本当に大丈夫ですので気にしないで下さい、マジで。それより妙な事ってどういう事ですか?」
「ああ、どうも襲ってくる障害がぬるすぎるんだ。」
 ・・・・いや、ぬるいってアンタ。俺にとっちゃ全て洒落になってないほど危険な事ばかりだったんですが。
「1つずつしか襲ってこないってのは幾らなんでも妙すぎる。こういう場合は複数の障害を同時に襲わせた方が効果的なのに。」
 あ、そう言われてみればそうだ。
「まるで・・・・私達の力量を試しているかのようだ。」
「そんな事してなんの意味があるというのですか?」
「考えられるのは2つ。1つは力量を探ってこの先に突破できないような強力な仕掛けを作る為。」
 ふんふん。
「もう1つは・・・・テストだ。」
 ・・・・・・はい?
「え。どういう意味ですか?」
 すると蘇芳さんの足が止まった。俺も足を止める。そこは廊下だった。辺りに何個ものドアが見れる。
「どうしました?」
「感じないかい? 強烈な悪意が近づいてきている・・・!」
 次の瞬間、俺を抱きかかえると蘇芳さんは後ろに跳んだ。同時に俺達が立っていた付近のドアが吹き飛んだ。そして異形の者が這い出てきた。
 それは人間で3mを超す巨人を作ったもの、といえばいいのだろうか。両腕は肩から逆立ちにぶら下がった人間で出来ていた。脚は2人が抱き合わさったような形で融合しており、計4人で両足を形成している。
 そして胴体は少なく見積もっても5人の人間がぐちゃぐちゃに混ざり合って形を作っていた。顔は1人の顔の左右に別の顔がへばりついている。
「フレッシュ・ゴーレムか!」
 フレッシュとは肉の事。本来ゴーレムは土とか鉄といった無機物で作られるのが一般的だが、動物の死骸を用いて作られる事もある。どちらかと言ったらゾンビに近いかもしれない。
 ゴーレムの両腕を形成している人の口が開かれる。その口から緑色の液体が吐き出された。
 俺達はその液体を跳んで避けた。液体は廊下にあたるとジュウジュウと音をたてた。どうやら強力な酸のようだ。
 蘇芳さんはゴーレムに突っ込んだ。ゴーレムは腕を振るって蘇芳さんを迎撃しようとするがあっさりと躱した。
 蘇芳さんの剣がゴーレムに叩き付けられる。その一撃によってゴーレムは両断・・・・されない?まるでゴムに叩き付けたかのように剣が弾かれてしまう。どうやら肉体がかなり弾力があるように作られているみたいだ。
 再びゴーレムは腕を振るって蘇芳さんを襲う。蘇芳さんは体勢を崩しながらもその一撃を辛うじて躱した。そこに俺は援護の為にバズーカーを打ち込んだ。
 爆発音が鳴り響く。しかしゴーレムは揺るぎもしない。だが一瞬動きを止めるのには成功したようだ。その隙に蘇芳さんは体勢を整えていた。
 ゴーレムの三度目の腕攻撃が振るわれた。その攻撃を上に跳んで躱す蘇芳さん。そして大上段から剣をゴーレムの頭めがけて振りおろす! ってそいつには刃物が通じないんじゃ・・・・!
 と、思ったら。
 俺が想像していた肉が刃物を弾く音も刃物が肉を切り裂く音もしなかった。「グジャァ」といった何かが叩き潰されたような音。
 ゴーレムを見てみると頭から股間にかけてが無くなっていた。そして振り下ろされた蘇芳さんの剣の下には大量の肉が落ちていた。
 身体の真ん中を失ったゴーレムはゆっくりと倒れていった。どうやら倒したみたいだがどうやって?
 ・・・・そうか、そういう事か。
 蘇芳さんは剣でゴーレムを切ったんじゃない。叩き潰したんだ。
 剣の平といったらいいのか甲といったらいいのかよく知らないが、刃物のついていない箇所でハンマーを叩きつけるかの如く思いっきりぶん殴ったのだろう。
 とんでもない無茶をするもんだ。刃物で物を叩き潰すだなんて。
 考えてみてみるといい。カッターの刃でダンボールは切れても叩いて潰す事なんて普通はできないだろう。逆に刃が折れてしまう可能性もある。
 ゴーレムが切れないと判断して叩き潰す事を考えたんだろうけど、発想すごすぎです。
 蘇芳さんは祈るようにゴーレムに黙祷している。? なんで?
「どうかしましたか? 蘇芳さん。」
「このゴーレムが形成していた人達に黙祷をね。」
 蘇芳さんはそこで溜息を一回ついた。どことなく、疲れた感じに見える。
「どうやら任務の一つは失敗に終わったようだね。」
 俺には蘇芳さんが言ってる事がよくわからなかった。
「恐らくこのゴーレムは閉じ込められていた人達で作られていた筈だよ。こうなったらもう元には戻せないしね、だから倒したんだが。・・・・結局、私は彼等を救えなかったって事か。」
 そういう・・・事か。蘇芳さんの顔には苦渋が表れていた。恐らく、俺もそうだろう。
 俺は目を閉じると、彼等の魂の冥福を祈る為に黙祷を捧げた。
 
 
 「制御室」
 見ている場所案内板にはそう書いてあった。恐らくその中にこの事件の黒幕がいる筈だ。
 ここから100mもない場所にその部屋があるようだ。
 だが、その前に俺達は目の前の障害を突破する必要があるようだ。
 総勢20名はいるだろうか。身長2mを超す巨人達が制御室に向かう為の通路を塞いでいる。
 男性だけでなく女性もいる。その全員が異常な程筋肉が発達しており、見ていてむさ苦しいぐらいだ。
 全員、毛髪がなく、更に目に意識が見られない。そしてその目で俺達の方を見ていた。
「蘇芳さん、まさかこの人達も、」
「ああ、恐らくは工場に閉じ込められた人達だろう。なにをしたのかは知らないが生物兵器に改造されてしまっているようだな。」
 蘇芳さんは剣を構えた。その顔には悲壮感すら見えた。
「・・・・せめて・・・・彼等をこれ以上苦しませない・・為にも、彼等を、「狩る」ぞ。佳枝君。」
 それは彼等を殺すという意味。そして残念だが俺達にはそれしか彼等を救う方法は持っていない。
「わかりました。」
 俺はバズーカーを構えた。そして彼等に向けて引き金を引いた。
 大きな爆発音が辺りに響き渡る。その音と同時に蘇芳さんは彼等に突撃する。襲いかかってきた彼等に剣を振るう。その一撃は彼等の1人を唐竹割りにした。
 俺もブースタードリルのスイッチを入れた。ドリルが回転してノズルから炎が噴きだす。その炎が生み出す噴出力を利用して低空で飛び、彼等の1人に特攻した。
 ドリルが彼の肉をえぐった。そのまま大穴を開ける。
 しかし彼は痛みを感じてないかのように無表情のまま俺に腕を振るった。手が俺の髪に触れる。その箇所がまるで刃物で切られたかのように切断された。
 だが俺はその事に気にせず、彼の頭にバズーカーを向けた。そして俺は再度引き金を引いた。
 
 3分もかからずに彼等を全て倒す事ができた。だが俺達には勝利した時の高揚感が全くなかった。
 蘇芳さんは彼等に黙祷を捧げていた。俺も、それにならった。せめて彼等の魂に安らぎが訪れる事を願って・・・・。
 
 
 ついにここまで来た。「制御室」と書かれたドアが俺達の目の前にある。
「ここに、このふざけた真似した奴がいるんですね。」
 俺は怒りを含んだ声で呟いた。
 許せない、絶対に。あんな非道な事をする奴なんて俺は絶対許せない。
「希望的観測だがね。だが気をつけるんだよ、佳枝君。恐らく相手はかなり強力な魔導師だろうからね。」
 対して冷静な声で蘇芳さんはそう答えた。だがその言葉には静かな、それでいて烈火の如き怒りが含まれているのは気のせいではない筈だ。
 蘇芳さんは腰だめに剣を構えた。俺もバズーカーを構える。
 そして、蘇芳さんはドアをあけた。
 
 パパンパーンッ
 
 クラッカーの音が鳴り響いた。俺達を色とりどりの光を照らし、紙ふぶきが空を舞う。
「ウェルカーム!」
 その男はそう言った。身長は180いくかいかないかといった所か。歳は60は超えているのか、皺だらけだ。切れ長の目とまるで鷹の嘴のように尖った鼻、黒い髪を中分けにしている。背筋をまっすぐに伸ばして白い燕尾服を着ており、上から黒いマントを纏っている。
 男は大きく手を広げて笑っていた。目をアーチ状に歪め、口も三日月を形作っている。見ていて嫌悪感が何故か沸いてくる。
「ようこそ坂上蘇芳クン、そして可憐なお嬢さん。僕が考えた遊戯を超えてよくここまでたどりついてくれました。」
 男はお辞儀をするとそう言ってのけた。
 「遊戯」?「遊戯」って言ったのかこいつは。あれを。
「テメエ、遊戯ってどういう事だよ。工場を暴走しただけでなく罪のない人をあんな化物に変えて・・・!」
 俺の叫びに対して男はまるでたしなめるかのように指を立てて左右に振る。
「チッチッチッチ、いけないなあ、お嬢ちゃん。君のような可憐な人がそんな汚い言葉を使っちゃいけないよ。」
 男はくるりと後ろを向いた。再度両手を大きく広げる。
「それに多かれ少なかれ誰だって罪を持っている者だよ。僕のお遊びに付き合ってもらえたんだ、別にいいじゃないか。」
 ・・・・ふざけてる、こいつ本気でふざけている。人の命を何だと思ってるんだ。
「遊戯か、あまりおもしろくなかったな。それで、私達の力量を確かめて何が目的だったのだ?」
 蘇芳さんは男に剣を突き付けた。その顔には色濃く怒りが見えた。
「正確には君の力量をだよ、蘇芳クン。こんな事件に首を突っ込んでくるお人良しな「狩人」は君ぐらいしかいないと思ったしね。まあそのお嬢ちゃんは誤算だったが全然役にたってなかったみたいだし。」
 やかましい、人が気にしてた事を。
「・・・・私の力をだと?どういう意味だ?」
「蘇芳クン、まーだ気が付かないのかい? 僕の声を聞いた事がある筈だよ。」
 男は俺達の方を向きながらあの気味の悪い笑みを浮かべた。白い歯とピンク色の歯茎が口から見える。
「ほら、この声だよ、君はよーく知ってる筈だよーん。」
 蘇芳さんは最初は合点がいかないような顔をしていた。が、その顔は愕然とした物に変わった。
「ま・・・・・・さか、貴様は・・・・・楓を・・・・!」
「そうだよーん、僕は君の妹を食い殺した男だよーん。」
 なっ!なんだって!?
 男は胸を抱きしめるかのように腕を組んだ。そして思い出にふけるかのような表情を浮かべる。
「今でも思い出せるよ、楓クンの肉の旨み、そしてあげていた悲鳴の甘美なる響き。」
 男は笑みを更に深く浮かべる。もうそれはすでに人間のではないように見える。
「そしてその光景を見ていた君の絶望的な目をねぇぇぇ。」
 蘇芳さんの身体が小刻みに震えている。その身体から白い湯気が立ち上ってきた。凄まじい熱気が蘇芳さんから発せられている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「おおっと、まだ僕は君とやり合うつもりないんだよ。」
 男は右手を上げると指を鳴らした。
 次の瞬間、俺の身体は壁に叩き付けられた。見えない手で押さえつけられたかのように壁に張り付けられる。
 ・・・息がっできっない・・・!
「佳枝君!」
「そう、これが君の弱点だ。人質がいると戦えない。君は戦士としては優しすぎるのだよ蘇芳クン。」
 蘇芳さんは男を睨み付ける。だが飛びかろうとはしない。・・・・俺という人質がいるから。
 チクショウ、俺は役にたてないどころか足を引っ張っている・・・・!
「蘇芳クン、ゲームをしよう、人類の命運をかけたゲームをねぇ。」
 そして男はげらげらと笑った。
「ゲームだと?人類の命運をかけた?」
「君は知ってるだろう? この世界以外に『魔界』という世界がある事を。」
 確かに俺達人間が住む『人間界』の他に確かに魔物が住むという『魔界』があるらしい。その他にも神々が住む『神界』と妖精と精霊が住む『妖精界』があると聞いている。どれもいった事が無いので真偽は知らないが。
「いまから丁度1年後、僕は魔界の門を開く。そして魔界の七王の1人グリードを召喚する。もし召喚に成功すれば人類は終わるだろうねぇ。」
「何故そんな事をする!それに何故、私にそれを教える?」
 蘇芳さんの問いに対して男は顎に手をかけながらさも面白そうに笑う。
「言っただろう、これはゲームなんだ。やる者がいて止める者がいる。そういうドキドキ感があるからこそ、ゲームは楽しめるんだよ。」
 男は踊るようにして蘇芳さんの周りを歩いている。蘇芳さんは殺気だった目で男を睨み続ける。
「蘇芳クン。君は選ばれたんだよ、世界を救う勇者に。もっと喜ばないと駄目じゃあないか。」
 男は蘇芳さんに顔を近づけてニタニタと笑う。蘇芳さんは歯ぎしりするも、手がだせない。俺のせいで。
「例え私が受けなくてもゲームは勝手に貴様が始めるという事か・・・!」
「さすが蘇芳クン、物分かりがいいねぇ。そういう所が僕は大好きだよ。」
 男は蘇芳さんから離れていくと、指を鳴らした。
 その途端に俺の身体が床に落ちる。息ができるようになり、思わず咳き込む。
「佳枝君!」
 蘇芳さんが俺の方に駆け寄ってきた。心配そうに俺を見る。
「大・・・丈夫です。」
 俺は大きく息をしながらそう答えた。だがまだちょっと身体がしびれていて上手く動けなさそうだ。
 それ以上に俺は今までにない屈辱感を味わっていた。目の前の男に手も足も文字道理だせないだなんて・・・!
「1年だよ蘇芳クン、1年以内に僕を見つけて儀式を止めれなければ人類は滅びる。」
 男は笑いながらマントを翻した。
「僕は君の事を知っているが君は僕の事を知らない。だから君にヒントをプレゼントしよう。僕の名前はヴァルドル。そして僕が経営する組織の名前はアガルガンだ。これをヒントに僕を探してみたまえ。」
 男−−ヴァンドルが指を鳴らす。その途端に部屋の天井が爆発した。瓦礫が落ちてくる。
「佳枝君、危ない!」
 俺に直撃しようとする瓦礫から蘇芳さんは身を挺して守ってくれた。一際大きな瓦礫を手で支える。
「ははははは、頑張って僕を見つけてくれよっ、勇者クン!」
 その言葉と共にヴァンドルの声が遠ざかっていった。
 
「・・・・・消えた、か。」
 蘇芳さんはポツリと呟いた。悔しそうな表情をうかべたまま。
「すいません、俺のせいで・・・。」
「気にする事はない。君が無事だったんだ。それだけで充分さ。」
 蘇芳さんは左右に顔を振る。そして上を向いた。
「・・・さてと、まずこの瓦礫から脱出しないとな。」
 蘇芳さんは身体を起こして瓦礫を除去しようとしている。あ、小さな瓦礫が落ちてこようとしている。
 危ない!頭に瓦礫が落ちてきますよ!
「痛っ!」
 頭に瓦礫が直撃した蘇芳さんは俺の方に倒れ込んできて、
 ・・・ん?
 蘇芳さんの顔が俺の顔に接触して。
 で、口が何故か防がれていて。
 で、この様子から見ると俺の口と蘇芳さんの口が接触しているみたいで。
「うわっ!すまない!」
 ・・・・・・・
「すまない、事故だったとはいえ女性の唇を奪うような真似してしまって。」
 ・・・・・・・
「・・・・・? 佳枝君??」
 キスしちゃったキスしちゃったキスしちゃったキスしちゃったキスしちゃった、蘇芳様とキスしちゃった。
 これってやっぱりAなのかしら。そうよこれは事故じゃないは、神様が作ってくれた運命なんだわ。
 Aって事は次はB?ううん途中をとばしてCかしら?あ〜んそんなのアタシったら恥かしいわ!
 でも蘇芳様とならアタシ、怖くないわ。貴方様にすべてを捧げる覚悟、もうとっくに出来ているもの。
「佳枝君??????」
 んもう、君づけなんてしないで。よ・し・えって言って。
 式をあげるのは教会がいいな。緑に囲まれた場所でアタシ達は永遠の愛を誓い合うの。
 子供は3人以上欲しいな。1人は女の子はいて欲しいな。男の子だったら貴方様のように強い子だといいな。
 一軒家を建てて庭にはポプラとか植えるの。そして毎日お水をあげるの。
 それから・・・
「佳枝君、ショックなのはわかったから、スキップしながら泥鰌すくいは止めた方がよいと思うよ。人間として。」
 ・・・・・・・・・えっ?
「佳枝君、本当に大丈夫かい?」
 壁に凄まじい勢いで顔面ぶつけている俺の横で、蘇芳さんは心配そうに尋ねてきた。
 
 
「それじゃあここで。」
 蘇芳さんは俺を家まで車で送ってくれるとそう言った。
「お金は後で振り込んでおくよ。ありがとう、手伝ってくれて。」
「いいえ、俺、全く役にたてなかったですから。」
 事実、俺は全く役にたってねえ。逆に足をひっぱる始末だし。
 ・・・・せっかく蘇芳さんの妹さんの仇にあえたのに、俺のせいでみすみす逃がす事になってしまったし。
「蘇芳さん。」
「ん、なんだい?」
 俺はどうしても尋ねたい事があった。今しか聞く機会はないだろう。俺は思い切って聞くことにした。
「蘇芳さん、あのヴァンドルって奴のゲームに乗るんですか?」
 蘇芳さんは暗い顔になった。だが、
「ああ、そのつもりだよ。恐らくあいつは本気でやるだろうからね。」
 そう答えてくれた。
「そう、奴はこのゲームを本当にやるだろう。わざわざ相手役の私がそれに見合う力を持ってるか確かめる、ただそれだけの為にあんな事件を起こしたんだ。・・・・奴は本気だろう。本気で魔界の門を開くつもりだ。」
「でも何で1年だなんて言ったんでしょうか?」
「恐らく魔界の門を開くのに必要な儀式の準備に1年くらい日数が必要なんだろう。それと私が奴を見つける為の、私が奴に遊びに来るのを待つのに飽きない時間が1年くらいだって事だろうさ。」
 ふざけてる。アイツは本気でふざけきっている。
「蘇芳さん、俺も手伝います。俺も一緒に・・・。」
「駄目だ。」
 蘇芳さんは俺の申し出をキッパリと断った。
「俺が、弱いからですか?」
「現時点の君では、ね。それに君には家族がいる。私にはもういない・・・。私は、守れなかった。だからその分、君には家族を大切にしてもらいたいんだ。」
「蘇芳さん・・・。」
 蘇芳さんの顔は凄く悲しげだった。今まで見た中で、一番。
「・・・何か情報が見つかったら報告します。それくらいは、協力させて下さい。」
「わかった。よろしく頼むよ。」
 蘇芳さんは車に乗り込むとエンジンをかけた。
「それじゃあ、また会おう。」
「はい、またお会いしましょう。」
 そして車は走っていった。俺は車が見えなくなるまで見送った。
 
 蘇芳さんは俺とは2歳、いや数え年では3歳違う。そうだ俺とは3歳しか違わない。
 なのに今日、あの人は全世界の命運をその肩に背負う事になってしまった。
 俺があの人に対して出来る事。それは微力でもいいから力を貸す事。今以上の力を手にしてあの人をサポートする事。
 しばらく元の姿には戻れないかもしれない。でも、あの人の過去に、そしてこれから背負う運命に比べればそんな事は微々たる事だ。
 あの人の力になりたい。俺はその時、心の底から思った。



 <あとがき>という名の戯れ言
 
 (以下の事を試して警察、病院に連れて行かれたとしても当方は一切責任を取りません)
 
 〜〜〜 役にたつ筈がない正しくないTS小説の書き方 〜〜〜
   
 1:断食する
   小説を書くというのは神聖なる行為。そこで貴方が高次の次元に達する為に断食をする必要があります。
 人が死んでからあの世に行くまで49日この世に滞在すると言われています。そこで貴方も49日、飲まず食わずで過ごしましょう。
 
 2:徹夜する
 起きている事で常に外気を取り入れ内気を吐き出しています。それによって体内の不浄な物を浄化する事ができるのです。
 寝るという事は不浄な物を体内に留めてしまいます。そこで常に起きていましょう。49日。
 
 3:修行する
 貴方が更なる高次の次元に達する為には上記の事だけでは足りません。そこで高次の次元に達っせれるように修行を行いましょう。
 滝にうたれる、山の中を行脚する、針の上に座る、溶けた銅を飲むとかするとよろしいでしょう。結跏趺坐をして連続ジャンプも効果的です。
 
 4:体毛を剃る
 身体に付いている毛は不浄の表われ。髪の毛、睫毛、髭、体毛、下の毛といった物は全て剃ってしまいましょう。
 脱毛クリームなど用いてはいけません。剃刀を用いましょう。
 
 5:実家に帰る
 貴方が幼少の頃から過ごしてきた家には子供の頃に残してしまった気が大量に残してしまっています。そこでそれを取り入れる為に実家に戻りましょう。
 尚、父母にも貴方の気がたくさん残っている事が多いです。父母が実家にいる時に帰るようにして下さい。
 申し遅れてしまいましたが上記の事を全て終えてから帰るように。気を取り込む力が全く違います。
 
 6:自室に閉じこもる
 貴方が過ごした部屋には家の中でもっとも多くの気が溜まっている所です。
 会話をするという事はせっかく溜めた貴方の清浄な気が漏れてしまう恐れがあります。
 家に帰ったら会話をせずに自室に閉じこもりましょう。
 鍵をかけるという事は貴方の心に歪みを生んでしまいます。ドアに鍵をかけてはいけません。
 
 7:女装する
 TS小説には女性がつきもの。そこで心を同調させる為に女装をしましょう。
 着るもののお勧めはピンクハウス。かつらは金髪のカールのかかった物を推奨します。
 無論下着もしっかりと着けましょう。化粧も念入りに行いましょう。
 すべてが終わったら等身大の鏡を置きましょう。そして鏡の前でくるりと1回転して鏡に向かってパッチリウインク。これで完璧です。
 小首をかしげて「ウフッ」と言えれば更によいです。
 
 8:執筆する
 上記の事が全て終わったら執筆に取りかかりましょう。
 キーボートに魂を刷り込むようにして一文字一文字心をこめましょう。
 その時呪文を唱えると更に効果的です。
 お勧めの呪文は以下の物です。
 
 寿下無寿下無後光のすり切れ、海砂利水行の水行末風来松雲来松、食う寝るところに、住む所、薮ら小路に武ら小路、パイポパイポの秋霖が、秋霖がの宮輪台、宮輪台のポンポコピーのポンポコナーの長久名の長助
 
 これを低い声で呟くように唱えるのが最も効果的です。
 
 (上記の事を行って警察、病院に連行されたとしても当方は一切責任を負いません。御了承下さい)
 
 
 
 
 さあ心気一転して。ぱーっと上の事は忘れて下さい。お願いします。
 
 DEKOIです。狩人−凶悪−を届させて頂きました。
 
 最初の副題は −乙女心は超暴走− で、思いっきりギャグで進めようと思いましたが、あるネタを思いついて超絶暗くなってしまいました。
 
 あるネタとは。そうヴァンドルです。悪役を書くんなら思いっきり悪党にというわけでここの文庫読み漁って文庫史上、最も嫌みったらしい悪役にしてみました。どうだったでしょうか。
 
 ここで一発ネタばらしを一つ。
 
 気付いた人は気付いたかもしれませんが作中にでてきた巨人。第一作目のT-001と同型です。そう、あの時の「組織」の経営者こそ・・・・と、いうわけです。
 
 この回を始点にして「組織」は活発に動き始める予定です。
 
 果たして「狩人」は「組織」を止めれるでしょうか? 作者もどうなるか全然考えてませんが。
 
 ではここらで筆をおかしてもらいます。
 
 by DEKOI


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