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更に後味悪くしてどうする?
意味が解らない人は前回のを読んだ後この作品を読んで下さい。逆でもいいです。


狩人 - 吸血鬼 (前編)-
作:DEKOI



 この世には人知のしれないものが『ある』。
 霊といわれるものが。化物といわれるものが。魑魅魍魎といわれるものが。悪魔といわれるものが。神と呼ばれるものが。
 また魔法といわれるものが、魔法としか思えないほど進んだ科学が。
 
 それは確かに『ある』のだ。
 「それら」は人間の前に殆ど現れない。だが人間に「彼ら」が牙むいた時、人間に太刀打ちできる術はない。
 だが、「それら」を「狩る」事を目的とした「者」もまた、確かに『いる』のだ。

 その事知る者は、彼等を尊敬と畏怖をこめて「狩人」と呼ぶ。



SCENE PROLOGUE(序章)

 夜。
 今日は曇りなのだろう。厚い雲に空は覆われていて、星も月も何一つみることができない。
 まるで黒のカーテンが降りているかのごとく、辺りは闇に覆われている。
 12月に入ってまだ幾ばくもたっていない。この辺りは温暖な気候といえど、もう暖房器具をつけてもおかしくない時期だ。
 しかも今は日のでていない夜だ。好き好んで寒い思いをして外にでるものはいないだろう。
 しかし、今、道に一つの人影を見る事ができた。

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・
 男が走っている。
 男は今、逃げていた。
 男は自らの迂闊さに後悔していた。
 夜、外にでるのは危険であるのは解っていた。『奴』に襲われるからだ。
 だが、家の外に出してある灯油を取りにいくぐらいなら大丈夫だろう。ほんの一分程さ・・・。
 男はそう思って外にでた。甘かった。気がつくとすぐ傍らに男のほうを向いて『奴』が立っていた。

 『奴』の体は間違いなく「人」の形をしていた。
 身長は160もないのではないか?小柄な体格だ。
 ブロンドの髪は肩のところまで伸びている。顔は良く見えない。
 肌は文字通り、透けるように白い。辺りに全く明かりが無いのにも関わらず、そこだけランプが照らされているかのごとく、白い体がくっきりと浮かんでいる。
 その体は胸のところがふっくらと盛り上がり、双丘を形成している。
 腰にくびれがあり、対照的に臀部が膨らんでいる。股の箇所には男性を象徴するものは一切みられない。
 そう、そのような事が確認できるように、『奴』は一糸まとわぬ裸体でいるのだ。
 その姿は裸の少女だ。
 身体の調和はまるで計ったかのように見事な黄金律を形成しており、腕のよい彫刻家が真っ白な大理石から彫った少女の裸身像かと錯覚させる。
 しかし、その手には、長い爪が・・・ねじくれ、いびつにゆがんだ、鈎ヅメといっていいものがあった。
 不意に『奴』の右手が動いた。
 そして『奴』の鈎ヅメが男の右肩を切り裂いた。鮮血が空を舞う。
 男は混乱したのだろう。悲鳴をあげながら家の中ではなく、外に飛び出していた。
 そしてずっと、道沿いに走りつづけていた。

 ぞくり・・・

 男の背に悪寒が走る。
 次の瞬間、彼の背中に鋭い「何か」が突き刺さった。
 そして「何か」は男の背中を上から下に引き裂く。
 男は苦痛の悲鳴をあげて道に倒れた。
 『奴』が追いついたのだ。『奴』の鈎ヅメが男の背中を引き裂いたのだ。男の内に今までの人生のなかで最も大きな「恐怖」という感情がうまれでていた。
 『奴』が男を押さえつけた。男は逃げ出そうともがくがびくともしない。男のほうが『奴』より体格的にはるかに頑健にも関わらず、だ。
 男は恐怖のあまり泣き出していた。
 『奴』の口が開いたようだ。男の目には4本の犬歯・・・人では到底ありえない大きさの真っ白な犬歯が『奴』の口にあるのが辺りが真っ暗にも関わらず、見えた。
 男がその犬歯で何が行われるのかわかった。男の「恐怖」はさらに大きくなる。
”やめてくれ、やめてくれぇ!!”
 男はそう叫ぼうとしたが恐怖のあまりか、その口からは
「うわぁぁ、ああう、ひいぃ。」
 と意味のなさないわめき声がもれでるだけだ。
 『奴』の顔が近づいてくる。
 その時、雲がほんのわずかに開き、月の光が男の周辺を照らした。
 そして男は『奴』の顔をみた。
”なんて、”
”なんて悲しそうな顔をしているんだ。”
 男はそう思った。

SCENE VISITOR(来訪者)

 フランス。
 この国はEUの農業総生産額の21.3%を占めるEU最大の農業国である(1996年時点)。
 フランス北部にあるパリ盆地はあらゆる種類の耕作に適した土壌であり、農業に最適な地域である。
 特に小麦は世界有数の生産量を誇る。
 そのフランス北部における片田舎といってもよいある村は、村総出で小麦を生産している。
 人口は1000にも満たない小さな村だ。とは言っても一農家あたりの敷地は50haぐらいあるのだが。 (1ha = 1万平方メートル)
 村人は自分達の仕事に誇りを持っており、また子供達も親の仕事を誇りに思っている。
 経済的だけでなく、心においても豊かさがある、そんな村だ。
 しかし、今そんな村にある奇怪な事件が起こっていた。

 収穫期がすぎた11月の初頭にそれは起こった。
 道に死体が転がっていたのだ。その人物は46の誕生日を迎えたばかりの1人の農夫であった。
 だが、その死体はあきらかに不自然だった。
 干からびていたのだ。農夫の身体から血が完全に抜き取られていた。そして首筋には4つの小さな穴が開いていた。

 −− 吸血鬼の仕業だ −−

 村人はそう噂しあった。
 その翌日から立て続けに事件は起こった。犯行は夜にのみ行われた。
 朝が来る度に、道に干からびた死体が転がった。
 警察も警備に当ったが、警備にあたった者が被害者になるだけだった。
 最初の事件の日から一月が経とうとしていた。被害者は計20名を超えていた。
 村には恐怖が広がっていた。人々は夜を恐れ、夜がくると同時に戸を閉めて夜が去るのを待った。
 この事態に村長はある決断をした。
”狩人を雇う”
 と。

 12月も中頃に入った日、村長のピエール=ファランコスの庭に一台の車が駐車していた。
 ランドクルーザーだ。TVでパリ・ダカールラリー等で走っているのを見た事があるような無骨で、骨太な馬鹿でかい車だ。
 そしてピエールは居間にて1人の人物と向かいあっていた。
 ピエールは今年で68になる。6歳の頃から親の手伝いをし、この歳になるまで一貫して小麦栽培を行なってきた熟練の農夫だ。妻は2年前に亡くし、現在一人暮らしをしている。
 あの地獄ような戦争も体験した、老いも若きも経験している1人の男だ。ちょっとやそっとではびくともしない度胸を持っている。
 そんな彼が、目の前の若い男に気押さされていた。
 その若者は25、6歳ぐらい見えた。身長170少しこえたくらいか。バランスのとれた筋肉と脂肪がついた身体をしてる。戦うのに適した身体を、その若者は保有しているのだ。
 上には全体が薄い藍色に染められ左胸の所に赤い何かのマークが刺しゅうしてあるポケットがついた長袖のシャツを、下には黒色の綿製の薄手のズボンを黒の革製のバックル形式のベルトで絞めた状態で着ている。
 ピエールはその若者を日本人だと聞いていた。だが本当に日本人なのか彼にはわからなかった。
 若者の肌の色は黄色人種らしく、黄色がかっている。しかし、その髪の色は白だ。ピエールの髪もかなり白くなっているが、それを上回る純白と形容してよい色をしているのだ。その髪はうなじの上で刈り上げられており、額の真ん中らへんで中分けの状態でまとまっていた。
 そして、目だ。猛禽類のごとく鋭く、切れ長の黒い目だ。その目の奥には冷たく、暗い何かが潜んでいるようにピエールには感じた。
 顎が鋭く尖っており、鼻も高い。口もあまり大きくなく、すっきりとした形をしている。案外、モデルで食っていけるかもしれない整った顔をしている。その暗く鋭い目さえなければだが。

「坂上 蘇芳(さかがみ すおう)です。」
 若者はそう名乗った。丁寧な言葉づかいだ。低いが良く響く声だ。
「このような本来ありえない職業柄、名刺はないのですが。」
 そう言うと、蘇芳は自嘲ぎみに笑った。
「メールで大体の事情を書いて頂きましたが、もう一度直接お話頂けませんか?」
「あ、はい。わかりました。」
「よして下さいよ、こんな若造に丁寧な言い方する必要ないですよ。」
 蘇芳は苦笑した。
「まだ私は貴方の3分の1も生きてないんですから。」
「え、じゃあ貴方おいくつなのですか?」
「18です。今年で19になりますが。よく老けているって言われるんですけどね。」
 そう言って笑った蘇芳の顔は確かに歳相応の、18ぐらいの青年の顔に見えた。
「まぁいいか。とりあえず説明をお願いします。」
「わかりました。」

 事情を聞いた後、蘇芳は熟考しているかのごとく黙っていたが、暫くしてピエールの方に顔を向けた。
「恐らく吸血鬼でしょうね。この事件の犯人は。」
「やはりそうなのでしょうか・・・。」
「多分ね。聞いたところ最初の犠牲者の目立った外傷は首筋の穴だけなんでしょう? たったそれだけで人体から完全に血を抜き取るなんてこと、普通はできないでしょう。」
「そうでしょうね。あぁ、なんで私たちの村が吸血鬼なんかに襲われなければならいんだ。」
 ピエールは盛大に溜息をつきながら沈痛な表情で顔を伏せた。
「まぁあっちの事情はよくわかりませんから。こればっかりは、ね。」
 蘇芳は困った顔をして頭を掻いた。しかし、すぐ真剣な表情になって、ピエールに質問を投げかけた。
「ところでこの辺りに吸血鬼の言い伝えとかありませんか。」
「いえ、そのようなものはないのですが・・・。」
 ピエールは顔をあげながら、困惑しているような、悲しんでいるような何とも複雑な表情を浮かべた。
「が?」
「実はこの事件が発生する直前に、1人の少年が行方不明になっているんです。」
「ほぅ。」
 蘇芳はその話に興味を持ったようだ。
「彼の名前はクロードと言います。この辺りで昔から農業を営んでいるデスタン家の1人息子です。」
「彼の家族はどういった構成をされているのですか?」
「父親のジャンと、メイドのマリーだけの筈です。母親のオフェリーは四ヶ月前に車の事故で亡くなっています。」
 そう言うと、ピエールはかなしげに、顔を横に振った。
 蘇芳は「事故で亡くなる」といった所で少々顔をしかめたが、すぐに顔を戻した。
「ジャンも妻を亡くしたせいか家に閉じこもりっぱなしだし・・・。あんないい家族がなんで立て続けに不幸な事が・・・。」

 その時、蘇芳の胸になにか嫌な気配が感じられた。何がどうというわけではない。漠然とした不安感だ。直感といっても良い。
 この業界では理論よりも直感のほうが重要なのだ。相手は人知を超えた「モノ」なのだ。理論だった考えなど混乱の元でしかない。
 そして、蘇芳は今回の事件とその家族に何か関わりがあるように感じた。根拠はないが、やはりそう感じられずにいられなかった。
「すいませんが、彼らの写真でもありましたら見せて下さいませんか?」
「ああ、いいですよ。」
 ピエールは居間をでていき、少ししてアルバムをかかえて戻ってきた。
「ええと・・・これです。」
 その写真にはピエールの他に3人写っていた。
 1人は40才ぐらいの角張った顔をした頑健な体格の男性だ。恐らくジャンなのだろう。
 その隣に34、5程のほっそりとした顔立ちに、少々切れ長の目をした美しい女性が立っている。彼女がオフェリーと思われる。仕事しやすいようにする為か本来は背中にも届きそうな長い髪を頭の上で結っている。
 その間挟まれるように1人の子供が立っていた。その子供は瞳は少々大きいが、女性によく似た顔をしていた。髪はショートカットのようになっており、体つきも線が細く、少年というようも少女のようだ。
「この子がクロードですか?」
「ええ、そうです。なんか女の子みたいでしょう。オフェリーなんか、よく『なんでこの子は女の子じゃないんだろう』って言ってましたよ。」
 写真の中の3人とも幸せそうに微笑んでいる。
 だが、蘇芳はその写真を鋭くみつめながら質問を続けた。
「この写真はいつとられましたか?あと、クロード君はおいくつですか?」
「確かオフェリーが亡くなる三ヶ月前ですから、半年程前の物ですね。クロードはまだ15才の筈です。」
「そうですか・・・。」
「あの、蘇芳さん。」
 写真を鋭くにらめつけている蘇芳に、ピエールは不安そうな表情を浮かべながら話しかけた。
「まさか、クロードが吸血鬼になって村をおそっているというのでは・・・。」
「もしかしたらそうかもしれない、と思っています。」
「まさか!あんないい子が他人を命を奪うような事なんてしませんよ!」
 ピエールは憤慨したかのように叫んだが、蘇芳は苦笑しながらピエールの方を向いた。
「まぁ確かに早計かもしれませんが。」
 そう言うと再び鋭い視線を写真の方に向けた。

「可能性は捨て切れないでしょう。」


SCENE METAMORPHOSIS(変態)

 暗い石作りの部屋に『彼女』はいた。
 着衣を身に付けておらず、かわりに両手足には鉄の輪をつけられている。その輪は鎖が溶接されており、鎖は壁に埋め込まれていた。
 『彼女』は拘束された状態のまま泣いていた。
「何故なの、何故なのお父様・・・・。」
 『彼女』−−−− クロード=デスタンはそうつぶやいた。

 オフェリーが亡くなってからジャンはおかしくなってしまった。仲の良かった2人だ。ジャンのショックは息子のクロード以上だった。
 正直者で、働き者だったジャンは部屋に閉じこもり、酒浸りになってしまったのだ。
 ところが、オフェリーが亡くなってから2ヶ月がすぎた辺りから奇妙な、常識では考えられない事がデスタン家に起こり始めた。
 メイドのマリーの様子がおかしくなってきたのだ。マリーは既に50に手が届こうとしている、どっしりとした体型の女性だった。
 喜怒哀楽が激しく、クロードにとっては赤子の頃から世話をしてもらっている、心から信頼のおける人物であった。
 そのマリーが日に日に感情が無くなっていき、動きもぎごちなくなっていったのだ。まるで人間が人形に変わっていくかのように。
 クロードは徐々に変貌していくマリーに恐怖をいだいていた。
 そんな日が一ヶ月程たったある日の晩に、クロードは偶然ジャンの部屋の前を通った時、部屋の中からジャンの声が漏れてきた。

『そうなんだなオフェリー。そうすればお前は戻ってきてくれんだな。その為なら俺は何だってしてやるぞ!』

 その内容、そしてその声に含まれる狂気にクロードは戦慄した。
”この家にいてはならない。”
 そう思ったクロードは自分の部屋に逃げ込み、愛用のバックをかつぐと、すぐに飛び出そうとした。
 とりあえず村長のピエールの所にいって今の状況を相談しようと思ったのだ。
 だがそれは叶わなかった。部屋のドアを開けた時、目の前にマリーが立っていたのだ。

「お坊チャま、こんナ夜更ケにどウなさサれマしたか。」
 まるで機械が喋っているようなその声にクロードは嫌悪感をいだいた。
「友達の家で勉強会があるんだよ。すぐいかなくちゃならいんだ。マリー、そこをどいてよ。」
「ゴ主人様ガお呼びでス。」
「帰ってきたら聞くよ、そこをどいて!」
 だがマリーは動こうとしない。
「ゴ主人様ガお呼びでス。」
 マリーは再度同じ事を言うと、クロードの手をつかんだ。クロードはゾッとした。マリーの手はとても暖かかった筈だ。でも今のマリーの手はまるで鉄で出来ているかのごとく冷たく、固かった。
「コチラでス。」
 マリーはクロードを引きずって進んでいった。
「離して、離してよ、マリー!」
 クロードの叫びにマリーは全く反応せず、そのままジャンの部屋までクロードを引きずっていく。クロードは逃げようともがくが、びくともしない。
「連れてマイリまシタ。」
 クロードはマリーに引きづられながら父の部屋に入った。
 実はここ一週間程、クロードはジャンと同じ家にいながら会っていなかった。
 一週間ぶりの父を見て、クロードは「それ」が父だと解らなかった。
 ジャンは頑健な、筋肉質の男だった。だがクロードの目の前にあるのは似ても似つかない脂肪の固まりだ。
 体重は軽く500キロを超えているみたいだ。目と口があると思しき箇所には細い線が入っているだけだ。
 醜悪という言葉を思わず連想してしまうようなおぞましい姿だ。
「とう・・さん?」
 クロードは思わず呆然とつぶやいていた。マリーの手は外れていたが、逃げ出そうという気が何故か起きなかった。
『よく来たな、クロード。』
 その肉塊から放たれた声はくぐくもっていたが、確かにジャンの声であった。
『喜べ、母さんが戻ってくるぞ。だがその為にはお前の協力が必要なんだ。』
「何言ってるんだよ、父さん。それにその姿は一体どうしちゃったんだよ?」
 クロードは混乱していた。その事に構わず、「ジャン」は語りつづける。
『母さんが戻ってくるにはたくさんの人間の血が必要なんだ。お前にはそれを集めてきてもらいたいんだ。』
 「ジャン」はそう言うと口を大きく開いた。その口には全く歯が生えていなかった。
 その口から毒々しいピンク色の肉塊が吐き出された。肉塊はクロードに張り付くと、口の中に侵入しようとうごめいた。クロードは必死に拒んだが、及ばず、肉塊は口をこじ開け、体内にもぐりこんだ。
 クロードは吐き出そうとするが、肉塊は蠕動運動をしながら食道を進んでいく。そのまま胃にたどり着くと、あっという間に溶けてしまう。
 次の瞬間、クロードの身体に激しい痛みが走った。余りの痛みに、床に倒れてしまう。

「ああ、う、ああがぁああ・・・」

 体中の骨が作り替えられていく。一本一本の骨がある意図を持ってある物は細くなり、ある物は厚みましていく。
 腰の箇所がゴキゴキと音をたてながら持ち上がっていく。骨盤が変形し、脚を強制的に内股に変形させる。
 ウエストの箇所にあった脂肪が上下に流れていき、括れていく。余分になった皮はねじくれ、必要な分だけに削られた。
 下に流れた脂肪は臀部にたまり、そしてなだらかな曲線を持った豊かなヒップを作成した。
 上に流れた脂肪は胸部に集まる。乳首が倍ぐらいの大きさになり、胸を押し上げ、ふっくらとした、柔らかそうな乳房を形成していく。
 肌は色素が抜けるかのように白く、そしてきめ細かになった。
 そして全身の皮下脂肪を増していき、クロードの身体が柔らかそうな物に変わっていく。
 腕と指が細く、しなやかな物になる。脚も太股にふっくらと脂肪がつき、それでいてしなやかで細長いものに変わった。
 頭全体が小さくなる。顎に丸みがおび、眉が細くなる。睫毛も急速に伸びる。
 瞳は大きくぱっちりしたものになり、唇が小さくなっていき、ふっくらとしてくる。
 元々少女のようだった顔がさらに愛らしく、可愛らしいものに変わっていく。
 男性の象徴が体内に入っていく。最後には、完全に体内に吸収され、代りに小さな割れ目が作成された。
 男性の象徴は体内で変形し、女性の特有の器官になった。
「うっ!ううぁぁぁ・・・」
 悲鳴も先ほどまでのテノールではなく、美しいソプラノになっていた。
 そして、小さくかわいらしい口に鋭く尖った4本の犬歯が伸びていき、手の爪が伸び、ねじくれ、いびつな鈎ヅメを形成した。
 数分後には、そこにはクロードという名の少年の姿はなく、いびつな鈎ヅメを生やした1人の美しい少女が気を失い、床に倒れていた。

「う、うぅん・・・。あ、あれ?僕一体・・・。」
 意識を取り戻したクロードはなんだか胸に違和感を感じ何気なく手を置いた。
 そこにありえない柔らかい感触に、クロードの意識は急速に覚醒する。
「え、何これ!?なんで胸が膨らんでるの?・・あ、まさか・・・。・・・無い!僕の(検閲削除)が無くなっている!」
 身体のあっちこっちを触りまくる。その身体は先程までの自分の身体と異なり柔らかく、細くなっている。
 そうこうしているうちに、自分の指にあるおぞましい鈎ヅメに遅まきながら気付いた。
「なにこれ・・・。父さん!一体僕になにおっ」
 その瞬間彼−−−いや彼女に酷い「渇き」を襲った。
 その「渇き」は水やジュースでは癒せないのが、彼女には何故かわかった。そして「渇き」が癒せるのが何がなのかも。
 しかし・・・・
「いやだ・・・。血なんか、人の血なんか吸いたくない・・・・。」
 必死になって自らの吸血衝動を押え込もうとする。
「僕は人間だ・・・。人の血なんて吸うもんか・・・!」
『ふむ、なかなか強情な奴だな。しかたあるまい。マリー。』
「はイ。」
『クロードをつれて村に行き、村人の血を回収してこい。』
「かしコマりまシた。」
 そう答え、マリーは無表情のままにクロードに近づく。
「やめて!お願いマリー、正気に戻って!」
 クロードが懇願する。だが、マリーは何も反応せず、彼女の身体を軽々と抱えると、部屋の外に向かっていった。
「いやだ。いやぁ・・・・」
『くくく、待っていろよオフェリー。必ずお前を「戻して」やるからな。』
 「ジャン」はその脂肪で形成された顔を笑みのような形にした。

 ポール=ジャニソンは上機嫌だった。今年は収穫も上々、その事を祝って昔からの友達の家で酒を飲み明かし、家路につく途中だった。
 その彼を見つめる4つの瞳があった。人外の化物と化した、クロードとマリーだ。
「さアお嬢さマ、あノ男ノ血を吸うのデス。」
「ポール伯父さんの・・・。冗談じゃない。誰が血なんか吸うもんか。」
「しかタありマせン。でハオ嬢サまノ行動をこチらデコントロールさセてもラいマす。」
 そう言うとマリーは懐から糸巻き棒を取り出した。そして、おもむろに糸の先端をクロードの首筋に張り付けた。
 するとクロードの身体がビクンッと一回、痙攣を起こした。
”えっ、何?・・・あれ?なんで身体が動かないの?声もでない?なんで?”
 クロードは顔が驚きの表情に作る。しかし、顔の表情以外は彼女の意志どおりには全く動こうとしない。
「サァお嬢さマ、アの男の血を回収しテきて下サイ。」
 すると、クロードの意志に反して脚が勝手にポールに向かって動き出した。
”やだ、なにこれ?止まって、お願い止まってよ!”
 だが、脚は止まらず、逆に飛ぶようなスピードでポールに接近していく。
 そして、彼女はポールに襲い掛かった。
”ポール伯父さん、逃げて!”
「うわっ、なんだあ?」
 クロードはそのままポールを道に押し倒した。ポールは驚いて、彼女を押しのけようとするが、びくともしない。
 そしてクロードは、彼女の口が自らの意志と関係なく開こうとしているのを感じた。
”駄目!お願い、マリー、止めてぇ!”
 心の中で絶叫するクロード。しかし、無情にも彼女の口は完全に開かれてしまう。4本の鋭い犬歯が露になる。
 そして、クロードはポールの首に犬歯を突き立てた。

 ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ・・・

”あぁ、なんて美味しいの、それに、「渇き」が消えていく・・・・”
 今の彼女にとって血は最上の飲み物だ。その今まであった事の無い美味による恍惚感と、激しい「渇き」が消えていく開放感に想わず、酔ってしまった。
 だが押さえつけているポールの身体が徐々に小さくなっていくのを感じて、クロードは恍惚感は消え失せ、逆にいいえぬ恐怖感が生まれてきた。
 必死になって吸血動作を止めようとする。しかし、マリーに完全に自由を奪われたその身体は、吸血を止めようとしなかった。クロードの眼から悲痛の涙がこぼれでた。
 ・・・・ポールの身体から血液が完全になくなるまでに要した時間は、ものの3分もかからなかった。

 マリーに連れられて、いやマリーに身体を操られた状態でクロードを帰宅した。クロードの顔は深い悲しみで沈んでいる。
 そのまま、異形に変貌した「ジャン」の前に連れてこられる。
『戻ったか。ちゃんと血を取ってきてくれようだな。いい子だ、ほんとぅにお前はいい子だなぁ、クロード。』
 「ジャン」はその線だけで構成されたような顔を笑みのような形に歪めた。クロードはその顔をみて、本当に目の前にある肉塊が父なのか、実は父の名を語っている別の「物」ではないか、とういう考えが浮んできた。
『こっちに来い、そして母さんの為に手に入れてきた血を俺に提供してくれ。』
 「ジャン」の妙なほど高揚したその言葉に反応して、クロードはふらふらと「ジャン」に近づいていく。「ジャン」の前に立つと勝手に口が開いた。
”な、何が始まるんだ?”
 困惑するクロード。そうこうしていると、「ジャン」の口も開かれ、静脈血のような赤黒い触手が口から這い出でてきた。
 その触手は開かれていたクロードの口に滑りこんだ。
 クロードは、口に突っ込まれた触手を通じて血を吸い取られていくのを感じた。
 凄まじい屈辱と嫌悪感が生まれた。父親が憎いと生まれて始めて思った。
 いつのまにかクロードは「ジャン」に抱きかかえられていた。前に父に抱きかかえらえられた時、父の身体は固く、それでいて自分を守ってくれるような暖かみがあった。今の父の身体はぶよぶよとし、「ヌトリッ」といった湿り気をおび、怖気がおきる程の冷たさがあるだけだ。その感触に、父が本当に別の何かに変わってしまったと、クロードは直感した。
”嫌、こんなの、いやああああぁぁぁぁ!!”
 ・・・・クロードにとって悪夢としか言いようがない日々の始まりであった。

 ポールを手にかけてから一ヶ月が過ぎようとしていた。クロードはその後何度か逃げ出そうとしたが、そのたびにマリーに捕まり、今いる石造りの地下室に閉じ込められた。
 この一ヶ月で自分が村人を殺しているという罪悪感が、クロードの心を絶望の淵に追い込み、クロードの性格を完全に弱気な少女に変えてしまっていた。
「誰か、助けて・・・。お願い、誰か・・・私を・・・。」
 今の彼女にできるのは救いを求める呟きを口にする事しかできない・・・・。鎖で拘束され、泣きつづける、哀れなほど打ちのめされた少女の姿がそこにはあった。
 地下室のドアが開かれる。そこにはマリーが立っていた。
「お嬢サマ、血ヲ回収スるオ時間でス。」
「マリー、お願い。こんな事しちゃいけないの。元の優しいマリーに戻って。」
 その言葉に全く取りあわず、いつものようにマリーは糸をクロードの首筋に張りつけた。途端にクロードは身体の自由を奪われてしまう。
 ふらふらとした足取りで外に向かうクロード。その顔には絶望が濃く刻まれている。
 
”誰か・・・助けて。私を・・・・殺してぇ!!”


SCENE ENCOUNTER(遭遇)

「クロードの奴どうしたんだろう。」
 夕暮れの時間、自転車に乗って家路につきながら、リック=カウマルはそう想わずつぶやいていた。
 リックとクロードは小学校からの友達同士だ。見かけは女の子っぽいが、負けん気が強く、喧嘩も強いクロードとリックは一緒に何度か小旅行に行くぐらい仲が良かった。親友と言ってもいいだろう。
 その親友が一ヶ月前、突然行方不明になったのだ。心配するなというほうがどうかしている。だが今村の関心は同時期発生した連続殺人事件の方に向いていた。
 無論、クロードが心配でない筈がないが、行方不明者探索より連続殺人犯を捕まえる方を優先するのは仕方がないだろう。
 リックは不満ではあったが仕方がないか、と今の事態については半ば諦めていた。彼ができるのはただクロードの安否を願うだけであった。
「クロード、無事でいてくれよ・・・・。」
 そう呟きながらリックは自転車を動かし続けた。その時、自転車の前輪が石の上に偶然のっかってしまった。
 
 パンッ!
 
 あっ、と思った時には既に遅く、自転車の前輪タイヤは見事にパンクしていた。
「っちゃ〜。パンクしちゃったよ。ってまずいぞこれ。」
 リックは最初気まずい顔をしたが、ある事が思い立って、顔がみるみる青ざめていった。
 今いる所は家まで自転車で20分ほどの所だ。だが歩くとなると間違いなく1時間はかかる。そしてそれまでの間に確実に日は落ちる。すなわち、夜が来てしまうのだ。
 一番近い家まで行って、事情を説明して一晩止めてもらう事も考えたが、この辺りはやたらと広い農地のせいで一件一件の間があきれるほど離れている。大体実家と同じくらい時間がかかるだろう。
 このままここで悩んでいても事態は良くならない。少しでも家に向かって走ったほうがいいだろうと判断すると、自転車を放置してリックは家に向かって走り出した。
 
 その頃、蘇芳はランクルの中で武器を用意していた。助手席に無造作においてあるアタッシュケースを開き、その中にある一丁の拳銃を取り出した。
 Desert Eagle 50AE。それが拳銃の名前だ。米マグナムリサーチ社の依頼でイスラエルの兵器メーカーIMI社が開発した大型ハンドガンだ。
 デザートイーグルの口径は357mag、41mag、44mag、50AEの四種類がある。蘇芳が今手にしているのはその中でもその中でも最大口径の50AEだ。12.7mmの弾頭を44magと同等の初速で撃ち出すため、絶大な威力を発揮する。その威力は人間の頭を文字通り、西瓜の様に一撃で粉々に吹き飛ばす。世界最強のハンドガンだ。
 装弾数は7発。アタッシュケースの中には15ものカートリッジが入っている。計105発、この仕事の為に蘇芳は用意していた。
「もっともこいつはあくまでサブにしかすぎないがな・・・。」
 そういいながら左肩にホルダーをつけ、デザートイーグルに1カートリッジ装填すると、ホルダー中に収めた。その上にケブラー製の黒いジャケットを着込み、ポケットの中にカートリッジを入れていく。
 
 コンコン
 
 窓を叩く音が聞こえてきて、蘇芳は顔をそちらに向けた。そこにはピエールが立っていた。
「どうかしましたか?」
「もう日が暮れます。家に入られてはどうでしょうか。吸血鬼が襲ってくるかもしれません。」
 その言葉に蘇芳は苦笑した。目の前の老人は自分が何者なのか忘れているのだろうか?・・・・いや、理解してはいるが、若い自分を心配しての台詞なのだろう。蘇芳は目の前の老人の心づかいに心の中で感謝した。
「なら好都合ですよ。敵が来てくれるのならこっちが待てばいいだけなのですから。元々自分が囮になっておびき寄せるつもりでしたしね。」
「あの・・・恐くないのですか?蘇芳さんは。」
 ピエールはしどろもどろに思わず質問していた。
「恐くない、と言ったら嘘ですね。でも私にはやらなければない事がありますから。」
「やらなければならない事?」
「・・・・仇をね。探しているんですよ。」
「仇?」
「私の目の前で生きたまま妹を食い殺した奴を、ね。」
 蘇芳の顔から表情が消えていた。その眼は遠くに去っていった二度と戻らない何かを、それでいて自らの内に潜む暗い何かを見つめているようだ。ピエールはその顔をみてそのような質問をした事に後悔した。この若さでこのような仕事をしているのには何か訳があるのではないかとは薄々感じていた。そのような理由だとは思わなかった。そして蘇芳の眼に宿る暗さと冷たさの正体に気付いた。それは怒り、悲しみ、憎しみ、そして−−復讐。
「蘇芳さん、すいません。このような事聞いてしまって・・・。」
「気にしなくていいですよ。別に。」
 そう言いながら蘇芳は微笑んだ。
「私のような思いを他の人にして貰いたくないですしね。」
 ピエールはその言葉を聞いて理解した。この青年は優しいのだと。恐らく今ままで自分が会ってきた誰よりも優しく、そして繊細な心を持っているのだと。
 そうでなければ仇のみ追い求めている筈だ。仇討ちという目的があるにも関わらず、見ず知らずの他人の為に命をかけて戦う必要がどこにある?ここで命を落としたら彼は目的を達成できないにも関わらないのに。自分以外の人が自分と同じ思いをして欲しくない、ただそれだけの為に彼はここにいるのだ。
 ピエールは思わず涙が出そうになったが、蘇芳に失礼だと思ってなんとか塞き止めた。
「ピエールさん。もう日が暮れました。早く家の中に入って下さい。」
「わかりました。蘇芳さんも気を付けてください。」
「大丈夫ですよ。それに、」
 蘇芳はランクルから降りながらピエールに笑いかけた。
「私には他の人にはない『力』がありますから。」
「『力』ですか?」
「ええ、まぁ大した物ではなっ」
 そこまで言うと、蘇芳の状態が突然一変した。目つきが険悪なものになり、全身から強烈な殺気が放たれる。
「ピエールさん、家の中に早く入って下さい。」
「えっ?」
「敵がでたようです。」
 そう言うと、蘇芳は走り出した。ピエールは眼を見張った。蘇芳はとんでもないスピード、時速100kmぐらいのスピードで走っているからだ。あっという間に蘇芳の姿は見えなくなってしまった。
「あれが、彼の『力』なのか?でもあんなスピードで走れるなら・・・。」
 そう言ってピエールはランクルを見た。
「車、いらないんじゃないのか?」
 
 リックは日が落ちた事がわかった。だが家まであと15分も走ればつけるところまで来ていた。今日は良く晴れていて、月明かりもいい。道に迷う事もなさそうだ。あと15分襲われなければ・・・・。
 しかしその願いは無残に砕かれた。気がつくと前方に、真っ白な人が立っていた。リックは思わず足を止めた。そして思わず・・・凝視していた。
 その人物は少女だった。肩まで伸びた美しいブロンドヘアー、ぱっちりとした大きな瞳、小さく、ふっくらとして軟らかそうな唇・・・美少女という言葉がぴったし似合う少女だ。その少女が全裸で立っているのだ。そのつつましげとは言え半球状で柔らかそうな乳房も、腰の括れも形の整った臀部も(検閲削除)も はっきりと見えた。
 リックも年頃の少年だ。そんなもの見せられて興奮しない訳がない。事実、彼の股間はちょっぴし自己主張していた。しかし、その少女の手にはねじくれた鈎ヅメが生えているのが見えて、一気に冷めてしまったが。
”こいつがあの吸血鬼なのか?こんな可愛い女の子が?”
 そう思ってもう一度少女の顔を見た。良く見るとどっかで見た事ある顔に似ている。じっと少女の顔を見詰めていると、突然頭の中でリックの行方不明になった女顔の友達の顔と目の前の少女の顔が重なった。
「まさか・・・お前・・・クロードなのか?」
 呆然とリックは呟いていた。少女の顔が、強張った。
 
 「・・・クロードなのか?」
 その言葉を聞いてクロードは戦慄した。今、目の前にいるのが親友のリックだとわかったからだ。そして今彼女は−−正確には彼女の身体を操っているマリーだが−−リックの血を吸おうと・・・命を奪おうとしているのだ。
”逃げて!リック、お願い逃げてぇ!!”
 クロードは叫ぼうとしたが、声は全くでない。彼女は半狂乱になっていた。もしリックを手にかけたら・・・間違いなく自分の心は「壊れる」。それが彼女にはわかった。彼女は必死になってこの場から離れようとした。
 だが現実は非情であった。クロードの身体は彼女の意志どおりに動こうとしない。完全にマリーのコントロール下に落ちていた。
 そしてついに、クロードはリックに向かって襲いかかった。
「うわあ!」
 とっさに右側に倒れ込んでクロードの突進を避けるリック。しかし、クロードはすぐさまリックに向き直り、左手の鈎ヅメを縦に振るう。鈎ヅメが浅くリックの胸をかすめ、一瞬走った胸の痛みにリックは注意を奪われた。そこにクロードは右手の鈎ヅメを振るった。リックの左肩から脇腹付近までが引き裂かれた。
「ギャア!」
 悲鳴をあげつつ倒れ伏した。クロードがリックに覆い被さり、押さえつけた。今のリックの方が、クロードよりも体格的には頑健に見える。にも関わらず、リックはクロードを払い除けようともがくが、びくともしない。
 クロードの口が開かれる。口に4本の長い牙が生えているのがリックには見えた。
「何でだよ、どうしちまったんだよ、クロード!」
 そう叫ぶリックの顔に、突然数滴の雫がかかった。それはクロードの眼からあふれてくる涙だった。その眼は深い悲しみと絶望が表れていた。リックはいままで、クロードのそんな悲しそうな顔を見た事がなかった。
”止めて、お願い止めてぇ!!このままじゃリックがぁ!”
 心の中で絶叫するクロード。だが彼女の叫びとは裏腹に、リックの首筋にを牙突き立てようとクロードは顔を近づけた。
 次の瞬間、彼女は右脇腹に強烈な衝撃をくらい、吹っ飛んだ。
 
 蘇芳が駆けつけた時、血まみれの少年を全裸の少女が押し倒し、首筋に食らいつこうとしていた。なんか危なっかしいシチュエーションだが、そんな事いっていられない。
 蘇芳は全力でかけよると、少女の脇腹めがけて蹴りを叩き込んだ。少女はその衝撃で吹っ飛び、少年から離れた。少女と少年の対角線上に、蘇芳は割り込む。
 少女が立ち上がる。蘇芳は少女の口から4本の牙が生えているのがはっきりと見えた。少年の方を見てみると、左肩から脇腹にかけて引き裂かれている。致命傷ではないが、決してほっといていい傷ではない。
”メインがないのにやるのか・・・だがやるしかあるまい。”
 そう判断すると、蘇芳は全身の筋肉に念力を放った。
 念動力。これこそが蘇芳の『力』だ。しかし、彼の念力は少々特殊だった。殆どの念動力者は外部に対して力を発する。だが彼の念力は自分の身体を媒介にして発動する。そして自らの肉体を数十倍近く強化する。いうならば念力を肉体強化に使用しているのだ。さらに念力を各部分−−腕や足等−−で「爆発」させることで、巨大な破壊力を生み出す事も出来る。その気になれば素手でイージス艦をスクラップにする事も可能だ。はっきし言って蘇芳は肉弾戦に関しては、人類最強といっても過言ではない力を持っているのだ。
 少女の顔が見えた。蘇芳はその顔に見覚えが何故かあった。怪訝に思っていると、少女の顔が先程見た写真の少年の顔に良く似ているのに気付いた。もしあの少年の顔をもっと少女っぽくすると今見ている少女の顔になると思えた。
”・・・いや、彼女は恐らくクロード君本人だ。何故少女に、しかも吸血鬼になったのか理解できないが・・・。”
 少年の方に再び眼を向ける。少年の息は荒くなってきている。危険な兆候だ。治療を急いでしないと、手後れになりかねない。
 蘇芳は両腕を胸の前まであげると、軽く拳を握った。足のスタンスを肩幅ぐらいまで広げ、少年を守るように立った。
「クロード君。」
 少女の顔が驚きの表情に変わる。蘇芳は殺気を込めて少女・・・クロードを睨む。
「君を・・・・「狩る」。」
 
 その言葉を合図にしてか、クロードの身体は蘇芳に突撃した。左手の鈎ヅメで突き刺そうとする。蘇芳は冷静に右に大きく周りながらその突きを回避すると、左手でクロードの左手をつかんだ。
 ぎゅっと掴めば折れてしまいそうな、小さな、可憐な手だ。蘇芳はその手を躊躇なく握り潰した。
 クロードの顔に苦痛が走る。そのままクロードの左腕に右ひじを叩き込む。左腕が間接がない所が本来ありえない方向に折れ曲がる。
 蘇芳は右足でクロードの左足を踏み、逃れない様にする。両手で頭を押え込むと左膝で腹部に強烈な一撃を与えた。
 クロードの口から血が吐き出される。蘇芳はクロードを離すと腰を存分にひねり、勢いを付けた右拳を乳房の上らへん・・・首と胸の丁度境目めがけて叩き込む。そしてインパクトの瞬間、右腕で念力を「爆発」させた。
 ゴキベキ。骨が砕ける音をたてながら、クロードは吹っ飛んだ。100メートル近く彼女は飛び続け、そして道に激突した。とんでもない一撃だ。いくら軽そうな少女とはいえ、人間をパンチ一発で100メートルも飛ばす事など普通はありえない。地面と激突した衝撃で全身の骨の殆どが砕けた。
 蘇芳はホルダーからデザートイーグルを抜くと、クロードに素早く近づいた。そして照準を彼女の頭にさだめた。
「これで終わりだ。」
 デザートイーグルの引き金に指をかけた。
 
「これで終わりだ。」
 目の前の白髪の青年はクロードに拳銃を突き付けながら言った。
”ああ、やっと終わるのね。”
 身体中に激痛が駆け巡っているにも関わらず、彼女は歓喜した。この地獄の日々から解放されるのだ。これ以上喜ばしい事はない。
 この青年には感謝せずにはいられない。リックを自分の魔手から助けてくれただけではない。彼女もこの悪夢から救ってくれるのだ。
 クロードは生きている事に絶望していた。村人を殺し、父だった「モノ」に辱められる日々。そこには一欠片も希望を見出す事はできなかった。ただひたすら汚れきった自分の死だけを望み続けていた。
”早く、早く私を解放して。楽にして。”
 クロードは女性になって始めて笑った。それは安らぎに満ちた笑顔だった。
 
 蘇芳は少々混乱していた。クロードが笑ったからだ。それも安堵の笑顔をだ。
 どういう事だ?何故安堵の笑みをする?まるで殺してもらえる事で救われるかのようではないか?
 そう考えていると、蘇芳の目がクロードの首筋から細い、細い一本の糸が伸びているのをとらえた。不思議に思った瞬間、蘇芳の左側から大きな「影」が襲い掛かってきた。とっさに背後に跳び、避ける。それは女性だった。50前後と思われる。かなり太目の体格だ。蘇芳は知らなかったが、「影」はマリーだった。左手に糸巻き棒を持っており、その糸がクロードの首筋に伸びている。
 不意にマリーは右手を蘇芳に向ける。驚くべき事に、その手から白い数本の糸が現れ、蘇芳に向かって伸びていった。不吉な予感が蘇芳の身体によぎり、再度後ろにジャンプして糸を回避する。
 その隙にマリーはクロードを抱えると、蘇芳とは反対側に駆け出す。蘇芳はマリーに銃をかまえ、撃とうとした。だがマリーは再度糸を蘇芳に向けて放った。とっさに糸を躱す蘇芳。その時、蘇芳の視線とクロードの視線が偶然、交差した。
 その目がある言葉を語っているのが蘇芳にはわかった。−−−−「助けて」と。
 蘇芳は体勢を整えると再度銃を構えた。しかし既にマリーの姿は米粒程の大きさになっていた。明らかに銃の射程距離外だ。
 蘇芳は追おうとしたが、後ろで倒れている少年の事を思いだした。彼の治療の方が大切だ。そう判断するとリックのもとに駆けつけ、まだ息がある事を確認し、ジャケットの裏ポケットに入れてある包帯で止血を施した。リックを近くの民家に運ぼうと辺りを見渡したが、視界内には家が見られない。やむなく、蘇芳はリックを背負うとピエールの家に向かって走りだした。




 <あとがき>という名の戯れ言
 
   ビバ鋼鉄ジーク!ビバ勇者王ガオガイガー!!
   第二次αの広告見てあげた叫びより抜粋。
   
   以上後書き終わり(ぇっ)。


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