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TS細胞2
作:丑寅


病院のベッドは白い。これは常識だ。少なくともボクは黒や紫のベッドなど見たことがない。それと同じように男が女に生まれ変わるという話も初耳だ。
「ああ、元の身体に戻れたらなぁ」
窓に映るもう一人の自分に向かって独り言を呟く。ガラスの中に浮かび上がる少女の顔は思わず息を呑むほどに美しく、窓から差し込む月光と相まって神々しい雰囲気すらまとっていた。
(ああ、こんな綺麗な子と付き合えたらなあ〜)
口に出すと虚しくなるので夢想するに止めるが、頭の中では昔の僕と窓に映る少女が、二人で腕を組んで歩くさまを想像していた。
入院中の退屈を紛らわすために最近は空想することが多くなった。
(そうそう。朝、目が覚めるといきなり男に戻っていて夢か〜なんてさ。そんで、町で見かけた今のボクにそっくりな女の子と目が合って、思わず声をかけちゃったりして・・・・・・)
悲しい哉、まったく現実味のない想像を思い描きつつ、ベッド脇の小物入れから手鏡を取り出す。
(可愛いなぁ)
鏡の中の少女を見て溜息をつく。
「今の顔のまま、男に戻ったら結構持てるかな?」
前の自分の顔も嫌いではなかったが、今の顔に比べると月とすっぽん。これで男だったらものすごい美少年じゃないか。
真正面からこちらを見据える顔は湖面に反射する月のように幻想的で美しい。
自分の顔を眺めているうちに、神話の中で美少年ナルシスが水面に映る自分の顔に見惚れて溺れ死んでしまったという話を思い出した。
「はは、何やってんだろ、ボクは。これじゃあ、ただのナルシストじゃん」
自嘲してみたがほかに退屈を解消する方法がないのも事実だ。自分に与えられた病室は一人部屋でテレビがない。母さんに買ってきてもらった漫画はもう飽きてしまった。せめて誰か見舞いに来ればいいのに、どうして誰も来ないんだろう?
医者からは病室から出ないように言われたが、こう暇ではじっとしていられない。
ボクは病室を出てみることにした。あとで何か言われるかもしれないが、身体のほうはなんともないのだ。ちょっとなら大丈夫だろう。
スリッパを履いて病室の扉を開け廊下を見渡す。廊下には誰もいない様子だった。
「よし」
すばやく廊下に出て、後ろ手にドアを閉める。万が一、迷子にならないように部屋番号を確認する。と、ドアの張り紙が目に入った。《面会謝絶》の四文字。
(なんで?性別が変わったからかな。どうりで誰も見舞いに来ないはずだよ)
ボクは深く考えず、その場を離れた。向かうあてがあるわけではないが、病院には娯楽施設があったはずだ。そこならテレビが見られるし、人もいるだろう。
幸い、これといって迷うこともなく娯楽室に着いた。天井から案内板がぶら下がっていたからだ。娯楽室、といっても部屋ではなかった。廊下を広くしたような場所に十人くらいの人が集っている。予想通りテレビがあったが映っていたのは野球中継だった。
ほとんどの人は中年のおじさんか、おじいさんで、同年代の人間は隅っこで麻雀をしている高校生が二人ほど、彼らもボクに気付いて声をかけてきた。
「ねえ、君。麻雀のルール知っている?」
「あ、ゴメン。知らないんだけど」
「そう。教えてあげるからやろうよ。金賭けてないしさ」
そういって、男の一人が席を譲ろうとすると、一緒の卓に座っていたおじさんが退いてくれた。ボクはおじさんにお礼を言うと椅子に腰掛ける。正面に座るのはずいぶんと元気そうな浅黒のお兄さん。隣にはさっき声をかけてくれた短髪の男で年を訊ねると案の定、同い年だった。
三人目は気の良さそうなおじさんだが笑い顔には元気がない。とりあえず、おじさんの病気のことには触れないことにした。
「俺、浅田徹。君の名前は?」
「裕紀・・・由紀、です」
「由紀ちゃんか。可愛いなあ」
浅黒のお兄さん、徹さんが呟く。
「俺は松田博則。ヒロ、って呼んでくれよ」
「よろしく。ヒロ」
というのは同い年の男、ヒロが自己紹介をし、牌をジャラジャラと混ぜ始めた。その音でおじさんの自己紹介はかき消された。
「ねえ、君はなんで入院してるの?」
極力触れないつもりだったが向こうから訊ねられた。やっぱり入院患者同士だと気になるのだろう。
「あ、ボクは、えっと盲腸だよ」
「へえ、君は自分のことボクっていうんだ。好きだなぁ、そういうの」
「浅田さん、彼女いるじゃないですか。ちなみに、俺は食中毒なんだけど。浅田さんは痔なんだよ」
「ばらすなアホ。この病棟には軽い病気の人が集まってるんだ」
「そうなんだ。じゃあ、おじさんも」
ボクが話を振ると他の二人がしまった、という感じに目を逸らした。
「え?なに?」
おじさんの表情は地の底に沈みそうなほど暗く落ち込んでいた。
「まあまあ!今夜は無礼講、無礼講!盛り上がっていこー」
「よっしゃー、しまってこー」
「お〜、ははは」
雰囲気を明るく盛り上げようとした二人に続いておじさんの力ない声が上がる。ホントにこの人、何の病気なんだろう?
その後、ボクらは消灯時間が近づくまで騒いでそれぞれの病室へ戻った。おじさんだけが違う病棟へ向かったのが非常に気になるのだけど。
次の日も、娯楽室へ寄るとやっぱり浅田さんとヒロがいておじさんも後から遅れてきた。
その日は無断で病室を抜け出したことがばれたが、退屈だと駄々をこねると医師はにやけた顔をして許してくれた。
ボクは退院が近づくまでの間、毎日のように娯楽室へ通い、ヒロたちとずいぶん打ち解けたが、ただ一人、おじさんだけは日に日に顔色が悪くなっていき、ある日を境にぱったり姿を見せなくなった。だから、気になるんだってば。

「ねえ、先生。ボクはいつ退院なの?」
医者が回診に来たとき、思い切って訊ねてみた。浅田さんも退院した頃だしそろそろボクも回復してきたはずだ。
「ん?退院したいのかい?」
「そりゃしたいですよ。ヒロが退院したらまた暇になっちゃうし」
「実を言うと、今の君は健康そのものなんだ。日本の医療技術をなめたらいかん。今まで君の退院を先送りにしてきた理由は戸籍の書き換えのせいなんだ。社会的に男の君は死亡して代わりに塚原由紀という名の女の子になった。面会謝絶にしていたのもそのせいだ。希望するなら義父さんに迎えに来てもらうといい」
「ちょ、ちょっと!僕が死亡って男に戻ったときはどうすんですか」
「おや、男に戻れるなんて夢みたいなこと考えてたのかい?はは、可愛いなぁ由紀は」
「やっぱり戻れないんだー。そんなぁ」
「まあ、悪いことばっかりじゃないよ。新しい君に生まれ変わるってことは、いいことなんじゃないかな?戸籍にもちょっと細工をしてあげたからきっと君も気に入ると思うよ」
「細工って?」
「家に帰れば分かるよ。それまでのお楽しみってとこかな?それから、学校その他の環境は今までと一緒。ただ、君は転入生扱いだからそこのとこ気をつけてね」
ボクは翌日、退院することになった。でも、その前にヒロに会ってお別れを言っておこう。
ボクは正午過ぎに例の娯楽室へ向かった。思ったとおり、そこにはヒロがいた。
「ヒロ、ボクねえ、明日退院だって」
「えっ、本当に?俺もあさって退院なんだ。はは、夏休みの大半がベッドの上だったよ」
「お互い気の毒だったねえ。でも、退院できるんだから良いんじゃない?」
「そうだな。もう還ってこない人もいるんだもんなあ。いい人だったのに・・・・・・」
なぜかヒロは麻雀卓を見つめてしみじみと呟く。おーい、なんか気になるんだってば。
別れは案外湿っぽくなかった。退院なんてめでたいことなんだから当然かな?ともかく、ボクは先生や看護婦さん、ヒロにも一応、お礼の菓子折りを渡して退院した。
久しぶりに歩く太陽の下は気持ちがいい。なんといっても突き抜けるような青い空は病院の中じゃ見えないもんなあ。不健康に見えるほど白かった肌も日の光を浴びて、生命の力強さを感じさせる。せみの鳴き声も病院の中と外では全然違って聞こえる。
今のボクの外出着はスリムなジーンズに袖なしのシャツ。履いているのはサンダルだ。長く伸びた髪は明日にでも切る予定。父さんには反対されたけど夏だからちょっと短いほうがいいし、ショートカットにするつもりだ。
「ねえ、母さん。僕の前に持ってた服はどうしたの?」
隣を歩く母さんのほうを向く。ボクはそうでもないのに、母さんは額にびっしり汗をかいていた。
「ゆきちゃんの服はもう着れないから、悪いと思ったけど古着に売ってしまったわ。お陰で新しい服が買えたし。そうそう、学校のブレザーも買わなきゃ行けないんだけどサイズ計ったほうが良いらしいから、これから寄っても良いかしら?でないと間に合わないもの」
そういえばもう八月二十九日。幸い、転校生として編入するボクに夏休みの宿題など無い。
母さんの言うとおりだと判断して、ボクは学校へ寄った。学校には中古のブレザーが保管されているのだ。最初に全身のサイズを測って合う服があるか確認する。ボクは平均的な身長なのですぐに見つかったようだ。ビニールに包まれていたが中古ということはやはり誰かが袖を通したのか、何故だか前の持ち主に申し訳ないと思いつつ、自分も袖を通す。
「どうですか?」
担当のおばさんから尋ねられてボクは姿見に映った自分を見つめた。
ほっそりとした体つきだが、全体的に柔らかな印象を受けるボクの今の姿。
改めて全身を見渡すと足が長くてスタイルが良い。
制服は臙脂色で、スカートは同系の色合いに黒のチェックが入っている。スカートの中が頼りない感じはするものの生地は厚めでしっかりしている。なんか、痴漢に好かれそうな制服だけど。
その日は買い物の後、家に帰って父さんに抱きつかれて蹴っ飛ばして寝た。



始業式の朝。ボクはみんなより一足早く学校に来ていた夏休み前はD組だったのに今学期はA組。北見とクラスが別れてしまった。
「それじゃあ、これ。学生証と教科書一揃いだ。重いけど大丈夫か」
「はい。こう見えてもけっこう力はあるんですよ」
ボクはポパイの真似をしてみた。担任の先生は体育担当で事故に会う前まではこの人にずいぶんしごかれた。
新担任の先生は、以前はあまり好きではなかったけれど、こうしてみると意外といい人に思えた。
(生まれ変わるのも案外良いかも)
女になってからというもの、ずいぶん人に優しくされた。これならクラスが変わってもうまくやっていけそうだな。
そんなこんなで始まった転校生の紹介。
まず、先生が教壇に登って挨拶をする。
「あー、これからクラスの新しい仲間を紹介するッ。塚原ッ」
はい、と答えて教室の中へ入ると四〇人の生徒たちが皆いっせいにこちらに注目した。
正面の開け放たれた窓から涼しい風が吹き込み、ボクを迎えてくれる。風にたなびく髪に女子が羨望の眼差しを、ふわりと舞い上がるスカートに男子は興奮の雄たけびを。
賞賛の溜息が流れ、しきりに「可愛い」「綺麗」との声があがるのにはちょっと照れた。
黒板に大きく書かれた「塚原由紀」の文字を背に、ボクは改めて挨拶をする。
「初めまして。塚原由紀です。ええと夏休み中にこっちに引っ越してきたばかりです。よろしくお願いします」
上手く言えた。ほっと胸をなでおろしてクラスの顔を見渡すと知ってる顔もちらほら。同じ中学の知一、同じサッカー部の達也と和也。あとは・・・・・・
「「あ!」」
病院で知り合ったヒロがいた。
「なんだ。知り合いでもいたか?」
本当はクラスの半分近くの人が顔見知りだがそれは内緒。にしてもヒロが同じ高校だったとは意外だった。ヒロはなにやら冷やかされている様子で困っていたのでボクが事情を話す。
「ボクが入院中知り合った友達です。えーとボクは盲腸で入院してたはずです」
盲腸というのはヒロと知り合ったときについた嘘だ。所詮嘘なので記憶が定かでない。
「じゃあ、質問です。盲腸の手術って下の毛を剃るって本当ですか」
と、馬鹿な質問をしてきたのは同じ中学の知一。後ろの席の奴から頭をはたかれてる。
「他にマシな質問は無いのか。第一印象悪くする質問をしないほうが良いぞ」
知一が小さくシマッタ、と声を上げる。
「はい。塚原さん彼氏はいるんですか?」
これは女子からの質問。
「いいえ。いません。でも、彼氏は募集してないです」
念の為、クラスの男子のナンパを牽制しておく。
「じゃあ、趣味はなんですか」
「うん・・・とゲームとカラオケかな」
その後もいくつか質問され、無難な回答で乗り切る。と思ったら、HRが終わったあとにも質問責めがあった。男子からも女子からも取り囲まれ特にヒロとの関係については根掘り葉掘り。
「ねえ、ヒロとはなんで知り合ったの」
「えっと麻雀で」
「麻雀できるんだ。じゃあ、今度一緒に打とうぜ」
怒涛の質問責めにボクが困っていると見かねた隣の席のヒロが助け舟を出してくれた。
「お前ら、初日から騒ぎすぎだ。あんまり由紀・・・塚原さんを困らせんなよ」
「お前、今、由紀って言ったな。そういう関係か?」
「違うって。知り合ったときは苗字知らなかったんだ」
「怪しいな〜。松田君、本当は塚原さんに惚れてるんでしょ」
「ねえねえ、塚原さん。俺も君の事、由紀って呼んでいい?」
「あ、どうぞ」
男子から歓声が上がる。なんにしても可愛い女の子と名前で呼び合う権利、というのは得難いものらしい。ボクとしては単に「塚原」の名が呼び慣れないだけなのだが。
(でも、なんで塚原なんだろ)
まったく聞き覚えの無い苗字に首を傾げつつ、始業式は幕を下ろした。当初立てていた予定ではこの後、北見にあって事情を話すつもりだったが、今日は何かと注目を集めてしまったので早めに帰ることにした。
学校から帰る途中、例の落雷のあった場所を通った。行く途中は焦ってよく見ていなかったのだが、今改めて見てみると良く生きていたと思う。
「あの先生にも感謝しなくちゃな」
どうも、あの医者を見ていると下心があって助けたようにしか見えないのだが、腕はBJ並みに確かだ。死人さえ蘇らせる、という話はあながち嘘に聞こえない。
「ただいまー」
玄関の扉を開けて挨拶をすると急にほっとする。
「お帰りなさい。学校どうだった」
「あ、母さん。えっとね、今日は疲れたよ」
「あらそう、大変だったわね。そうそう、今日から新しい家族を紹介するわ。博士さ〜ん」
母さんが申し訳なさそうに居間のほうへ声をかけた。
(新しい家族?猫じゃないよな)
「やあ、お帰り。疲れただろ。後でマッサージをしてあげよう」
「な!アンタは」
危うく顎が外れるところだった。驚いたことに居間から顔を出してきたのは例の医者じゃないか。
「塚原博士(つかはら ひろし)さん。あなたの旦那様よ」
そう継げる母の言葉を聞いて、不治の病を宣告された人の気持ちが実に良く分かるボクだった。


居間でボクは母と父、それに医師の四人で向かい合って座っていた。
気分を落ち着けるために、と用意された香茶も、所詮カモミール、今のボクの混乱を収めるにはカモミールでは役不足だった。どうせなら酒に酔いたい。
「で、ボクがなんで結婚を?」
主に、父親と医者に向かって詰問する。ボクとしては睨みを効かせているはずなのだが、二人ともにやついているところを見るとボクの怒った顔は迫力に欠けているらしい。
「どこから説明しようか。まず、君は不慮の事故で女性に成り代わってしまった。それは納得したね?」
「ええ、一応は」
「それに従って、君の戸籍を男性から女性のものに入れ替えた。それも分かるね?」
「はい」
「で、名前も女性に似合う名前にしなくてはならない」
「それも分かります」
「そうだ、どうせ戸籍を書き換えるなら、ついでに結婚もしてしまおう。これも当然解ってくれ・・・・・・」
「解るかっ。怒阿呆!」
気付くとボクは医者の顔にカモミール茶をぶちまけていた。
「こら、由紀。旦那さんになんてことをするんだ。そんな娘に育てた覚えは無いぞ」
「娘として育てられたつもりも無い。大体、なんでボクに内緒で結婚決めてんのさ」
「驚かせようと思ったんだ。ホラ、退院祝いに私からのプレゼントだ」
「嬉しくない。ボクは男だ」
「由紀、人に聞かれて誤解されるような言い方は止めなさい」
「なんでボクが怒られてんのさ。だって事実」
「ハハハ、博士君。由紀は照れてるんだよ。この子は昔から照れ屋でね」
「そうですか、ハハハ。じゃあ、私ももっと積極的にいかなきゃなあ」
親父、母さんが隣で泣き始めたぞ。
「ああ、それからもう一人新しい家族がいるんだ」
「いなくていいよ」
「おーい、ゆっきー!」
医者が天井へ向かって叫んだ。すると
「はーい。ママ、おかえりぃ」
二階の階段からトコトコという体重の軽そうな足音とともに可愛らしい声が聞こえてきた。無邪気な子供のように、ボクの足元へ駆け寄ってきたそれは、子猫ほどの大きさのぬいぐるみの格好をした少女だった。
「紹介しよう。君の余った細胞から複製して作った我らの愛の結晶。ホムンクルスのゆっきーちゃんだ」
「ホ、ホムンクルス!」
なんて非人道的なものを。こんな危険人物がこれからボクの夫か?
禁断の科学技術で作られた人造人間の女の子は小さな手を使ってボクの膝まで上ってきた。手にはミッキぃマウスのような手袋をはめ、頭にはキテイのような赤いリボンと耳飾り?をつけている。動かなければ精巧な人形のようだ。
「この子、生きてるの?」
ボクがゆっきーちゃんの頭をなでてやると、この子は嬉しそうに鳴いた。
「ああ、もちろんだとも。まあ、試作品だから長くは生きられないかもしれんがね」
「な!ひどいじゃないか。こんな人の道に反するようなものを作って」
「そういうけどねえ。我々医者は自然の摂理に逆らって人を生かすのが仕事だ。今更、人の道を踏み外したところで、なんら痛痒を感じないね」
「こんな奴と結婚だなんて、絶対に嫌だ」
「わがままを言うんじゃない。博君が一生面倒を見てくれるんだ。お前も安心じゃないか」
「父さんのバカ!」
ボクは席を立って玄関へ向かった。ゆっきーが驚いてボクの膝から転げ落ちた。
「こら、どこへ行くんだ。話は終わってないぞ」
「こんな家、出ていく!」
ボクは乱暴に玄関を開け外へ出て行くと、ゆっきーがおぼつかない足取りでとことこボクの後をついて来る。
「まってよ、ママー」
「お前もついてくるの?」
見捨てていくわけにもいかず、ボクは人懐こいホムンクルスを拾い上げてブレザーのうちポケットに入れた。ゆっきーが不思議そうな顔でボクを見上げてくる。
「お前には何の罪も無いからね」
行く宛ては無かったのだが、ボクたちは北見の家へと向かった。

由紀が出て行った後、彼女の両親と担当医は仲良く談笑していた。母親が申し訳なさそうにタオルを手渡している。
「いいお子さんじゃないですか。物事の善悪をきちんとわきまえてる」
と、塚原医師。
「はは、あれでも自慢の息子でしてな。嬉しく思っとります。しかし、なんですな。先生を悪者にして申し訳ない」
「いえ、理由はどうあれ、私のやったことは人の道に反していますからね。だが、私は私自身の誇りにかけて、彼女の身に起きた謎を解明してみせます」
「先生がそういってくれるなら心強い。あの子に真実を伝えたいところですが」
「ES細胞装置は実用化が始まったばかりです。この後どんな副作用を見せるか分からない」
「そのために、由紀の複製をあえて作ったわけですな。万が一のときに、血清を作るために」
父親が、医師の言葉を引き継いだ。彼女の身の安全を護る役割を持った者が例の人造人間、ゆっきーである。
「私は、医者というものは患者の病気を治すだけが仕事じゃないと考えています。これから、由紀さんは常人よりも遙に険しい道のりを歩かなければいけません。結婚、社会環境への適応、その他もろもろ。男性から女性への性の変化は大きな悩みを彼女にもたらすでしょう。彼女が生きていくには我々の支えが必要となる」
「しかし、いいのですか?」
「何がです」
「戸籍のことです。由紀が我々の庇護の下を離れなければいけないとはいえ、あなたにそこまでのご迷惑を」
「いえ、構いませんよ。私のせいでもあるのですし、なにより、社会保障を受けるのに家族がいなくては、彼女は就職や学校生活もできませんからね」
由紀は知らぬことだが、実際の戸籍には兄、塚原博士。妹、塚原由紀と記されていた。
結婚というのはもちろん冗談だった。日本において戸籍の変更は容易ではない。
試みたものの前原裕紀の戸籍を書き換えることが出来なかったのだ。
代わりに、アメリカ国籍を持つ塚原の実の妹として登録した。私権の発達した米国には戸籍制度がなく、出生届も母と子の関係だけが記録される。身分証の代わりとしてSSNが発行されるがこちらの改ざんは比較的容易なのだ。つまり、米国で生まれ、日本に戻ってきたことにすれば役所の目を欺けるのである。
「あなたのような先生がいてくれて助かります。あの子にもお礼を言わせたいのですが」
「はは、結構ですよ。私も可愛い妹が出来て楽しませてもらっていますから」
この三人が実は由紀のためを想って手を尽くしていたことを彼女はいまだ知らない。
親の心、子知らずである。


北見は深い悲しみを抱いて憂鬱の中に沈んでいた。
親友の死。それは今朝のホームルームで聞かされた。何度も病院を訪れ、その度に面会謝絶といわれ追い返された。それでも、アイツが死ぬような奴ではないと信じていた。
現実は残酷だ。いい奴に限って儚い命を持つ。いまだ、人の死に直面したことのない北見にはこの現実がいまだ受け入れられなかった。小中高といつも一緒にいて悪いことの一つや二つは道連れにしたし、けんかもした。だが、それ以上に助け合って、支えあって生きてきた。だから、裕紀の死は支柱の一本が外れてしまったかのようで、いつ自分が崩れるか不安になる。
仰向けに寝ている北見の目に蛍光灯の冷たい光が飛び込んでくる。ベッドの傍らで騒々しいロックを奏でるコンポの歌声が妙に白々しい。人生が、急につまらないものに見えてくる。
(なんだ、自分はこんなくだらない世界を生きていたのか)
裕紀の死で現実世界の残酷さを知ってしまった今、北見はひたすら無気力だった。こういう時、一人暮らしは寂しい。無性に人恋しくなるのだ。だから、うるさいロックの音量にかき消されることなくチャイムの音を捉えることができた。
「客か?いったい誰だ?」
ちらり、脇の時計を見ると午後四時、九月でこの時間帯なら怪しい人物でもないだろう。北見は直接玄関へ行って来客を確かめる。
「誰だ?」
誰何の声も戸惑い気味だった。それは今朝、美少女との噂になったA組の転校生がなぜか自分の家の前にいたからだった。
(転校生ってことはまさか隣に越してきたのか?いや、そんな物音はしなかったし・・・)
「あ、北見。ボクが誰か分かる」
「あ……なんだっけ?ゴメンわかんねーや」
クラスが違うから名前を知らなくても無理はないのだが、それにしてもこの娘はなぜ自分の名前を知っているのだろう。北見は訝る。
「驚かないで訊いて欲しいんだけど、ボクは裕紀だよ。前田裕紀。嘘じゃないよ」
「裕紀・・・・・・」
北見は信じられぬ、といった表情で溜息をつき、ゆっくりと玄関のドアを閉じた。
「ちょ、ちょっと、話を聞いてよ。一から説明するから」
閉めようとしたドアに少女が割り込んで入ってくる。
(いったい、この女はなぜ俺をからかうんだろう。やって良いことと悪いことの分別くらいつかないのだろうか)
「転校生、お前名前は?」
「一応、塚原由紀っていうのが今の名前」
「じゃあ、由紀ちゃん。もう帰りな。事情は知らないが、死んだ人間の名前を冗談で口に出すな。アイツは俺の親友なんだ。本気で怒るからな」
「あ、それ、ちょっと嬉しい。でも、身体が変わったのは本当。詳しく説明するから入れて?というかもう入っちゃったけど」
由紀はすでに靴を脱ぎ始めていた。制服姿のままなのに鞄は持っていない。
「へへ、家出してきちゃった」
少女は照れたように笑う。笑顔は可愛いが親友の名を騙ったのはいまだに許せない。
「いいよ、入りな」
少女が笑う度、北見は苛つく。こっちは悲しんでいるというのに何を能天気に笑っているんだ、と。少女を中へ入れたのも信用したからではない。話を聞くためでもない。
(バカな女だ。俺を怒らせるとどういう目に遭うか、よく教育してやる)
北見が何を考えているかも知らずに、由紀は勝手知ったる家のごとく、我が物顔で寝室兼居間のベッドに腰掛けた。
(そこは裕紀の席だ!お前が座るな)
憤りを押し殺して、北見は少女に向かい、由紀の肩を両手で強く掴む。
「ちょっと、痛いよ。北見。離せってば」
北見は言葉を無視してそのまま少女の身体を押し倒した。軽い、小さな身体。長い髪がシーツの上にふわっと広がる。初めて、少女の顔に不安が宿る。
「ど、どうしたの?怒ってるの?事情を話すから聞いてよ」
「黙れ」
低く、押し殺した声で威圧すると少女が息を呑むのが聞こえた。
「何も知らないくせに、お前なんかが裕紀の名を騙るな。アイツは俺の親友なんだ。恨むなら、俺を怒らせた自分を恨みな」
細い腕を片手で押さえ、開いた右手でブレザーのボタンを外していく。
「ちょ……っとやめてよ!北見!」
身の危険をようやく悟ったらしく、短い絶句の後、少女が悲鳴を上げた。北見は彼女の唇を塞ごうと自分の唇を近づけ・・・・・・
「う〜ん、むにゃ、ママーもう着いたの?」
妙な所から声が上がる。視線を移すとはだけたブレザーの胸ポケットから小さな人形が顔を覗かせていた。
(子猫?人形?いや、まさか人間か!)
凝視していると、なにやら分からない物体Xと目が合う。「それ」の目が大きく開く。
「ふにゃーーーーーーーーーーーー!」
ガリッとどこから出てきたのか分からない爪で顔を引掻かれた。
「痛っ、な、なんだこいつは?おい、塚原?」
返事の代わりに頭突きが来た。身長差のせいで由紀の頭が自分の顎に当たる。くらっとしている間に体勢を入れ替え、北見の上に由紀が馬乗りになる。
「ありがと、ゆっきー」
「にゃー、どぅいたしましてー」
「さて、北見。話を聞いてもらえるかな?怒らないから」
勝ち誇ったように自分を見下ろす少女の微笑みは、歳不相応な妖艶な笑みに見えた。

それから延々と由紀のいや、裕紀の身の上話を聞かされ、ようやく北見は信じ始めた。
落雷に遭ってからどのような経緯があったか、二人でよく行った駄菓子屋、ゲームセンター、それにけんかの話や恋の悩み。女の子はあまりよく知らないはずの男の生理現象等。
塚原医師より説明は上手だと自負する由紀だが、なぜか北見の飲み込みは遅い。
「もうっ、どうして分からないかなー」
「かなー」
由紀のポーズをゆっきーが真似る。北見はゆっきーを指差し質問一つ。
「ゆき、そいつは何者なんだ?」
「この子?ホムンクルスのゆっきーだって。ボクの主治医がひどいやつでさー」
「お前の旦那って奴か?」
「そうなんだよ!ボクは男なんだ。なのに結婚だなんて、父さんもグルだし」
「で、俺にどうしろと?」
「冷たいなあ。だからさ、ここに泊めてもらおうかなーと」
「はあ?」
「だから泊めて?」
可愛く、由紀が首を傾げる。つぶらの瞳に圧迫される。武器の使い方は飲み込みが早いようだ。素質はある。
「お前、女のままでもいいんじゃないのか?」
「北見までなんてことを!」
由紀は思わず叫んだ。


窓ガラスをチュンチュンと雀が叩く。以前から北見が非常時のおかずにと餌付けしていたせいで今では十羽ほどの雀が毎朝ここを訪れる。一般に人には懐きにくいといわれている雀だが、彼らの北見に対する信頼は高いらしい。
北見の家に泊まったのはずいぶん久しぶりの気がする。なぜだろう、全身を見下ろすと胸の位置でなだらかな双丘が薄いTシャツを押し上げている。裾からのぞく太ももはすべすべとして真珠のように美しく、筋肉の盛り上がりがまるで見られない。
「あ、おはよ」
ふと、ベッドの上から声が掛けられる。北見が起きたらしい。
「しっかし、一晩寝て夢が覚めてると思いきや、まだ女でやんの。しばらく信じられそうにないな」
北見が自分をジロジロ眺め回していったその言葉でようやく、由紀も自覚した。
「そうか、ボク、女の身体なんだ・・・・・・なんか寂しいなぁ」
由紀がはしたなくTシャツの裾をまくって自分の股間を見つめる。北見はあわてて目を逸らしていた。
「あ、学校どうしよう。教科書と鞄・・・・・・」
「取りに行けよ。俺も付き合ってやるから早めに家を出ようぜ」
「いいの?北見の家から遠回りじゃん」
「別に良いって。それよか、お前料理作れたよな」
「材料があればね」
由紀はとりあえず了承の返事をして台所へ向かう。その後姿を見つめる北見だが、由紀のTシャツは後ろが捲れていた。
「今日は、ストライプか」
朝から元気発進の北見であった。

幸い、朝食の材料は卵や豆腐などがあり、朝の食卓はなかなか賑わいを見せた。北見が特に気に入ったのはツナの入ったオムレツだ。
美味しそうに頬張る北見を見ていると、自然、由紀も相好を崩す。その足元でゆっきーは小皿に取り分けられたツナをぱくついていた。


 家を出たのは七時半だった。ちょっと遅刻が心配だが、家の自転車を二人乗りすれば間に合う。ゆっきーもついでに家に置いてこよう。
「早く、早く」
「急かすなって」
「だって遅刻しちゃう・・・・・・あ」
北見の手を引きながら走り出そうとした由紀だったが、その足が止まった。
「やべっ、達也か!」
玄関先でばったり会ったのは双子のサッカー部員、和也か達也だった。妙な言い方をするのは彼らが瓜二つの双子だからで、今目の前にいるのが和也なら口が堅いから安全、だが、もし達也なら「ショック!」とか叫びつつ学校中に吹聴して回る可能性がある。
果たして、目の前の男子学生から漏れた言葉は・・・・・・
「ショック!」
残念。二人は頭を押さえて呻く。
「達也かー。最悪だ」
「なんてね。僕は和也だよ。達也がこんな時間に学校来るわけないじゃないか。安心して、ショックなのは事実だけど口外はしないよ」
「ほんとに和也?」
由紀が瞳を覗きこむようにして確認をとる。
「へえ、なんか昔から僕らのことを知っているみたいな言い方だね」
「え、これは・・・その・・・」
由紀がちょっと慌てる。和也になら話しても良いと思うのだが今は時間がない。
「ゴメン、詳しいことは後で、今急いでるから行くね。それと、ボクたちのこと誤解しないで」
「分かってるよ。塚原さん、北見、じゃあ学校で」
和也がさわやかな顔で去っていく。成績優秀でサッカー部のエース。出来すぎなくらい良い奴なのだ。こういう奴に限って案外交通事故に遭って、少女の身体に精神転移・・・・・・あるわけないか。
由紀は気を取り直し自宅へと向かった。鞄の中には教科書一式が入っている。駆けること約十分、北見はともかく入院生活の間に身体のなまった由紀は、息を切らし、膝ががくがくになってようやくたどり着いた。
「ただいま!」
火照った身体に鞭打って階段を上り、自室から鞄をひったくっていく。
「由紀、ご飯は?」
「食べてきた」
「そう?なら、いってらっしゃい」
「母さん、アイツは?」
「先生のこと?朝早くから病院へ出勤したわ。急患で呼び出しですって」
(ちゃんと仕事してるんだ。アイツ)
この忙しいときになんであんな奴が気になったのか。由紀は考えを振り払って庭からマウンテンバイクを引っ張り出すとサドルに跨った。
「由紀、俺が漕ぐ」
ハンドルを握って北見が言う。由紀は、素直に従った。
それからひたすらペダルを漕いで何とか二人は間に合った。自転車置き場で別れ、それぞれの教室へ入る。

「おはよー」
挨拶をすると沢山の返事が返ってきた。遅刻ギリギリだったせいでほとんどの生徒は教室に入っていたのだ。注目を浴びてちょっと照れつつ、由紀は自分の席へ向かう。ヒロの隣だ。
「おはよ、ヒロ君」
「ああ、おはよ。今日はずいぶん遅かったね」
「ちょっとね」
あまり会話をする時間もなくHRは始まった。担任の体育教師が威勢のいい挨拶を交わす。前は好きではなかったが、改めて接してみるとなかなか生徒思いのいい先生なのだと気付く。 
最近、人の優しさに気付かされたり、呆けているときにふと、北見やヒロ、ひどいときには塚原医師の顔を思い浮かべることさえある。北見なんてしばらく会ってなかったせいか以前と違って見える。悪友だと思っていた北見が実は自分のことをあんなにも想ってくれていたし、今まで気付かなかったけれど北見やヒロはかなり精悍な顔つきをしていることも発見した。
「ねえ、どうしたの?ぼうっとして、HR終わったよ」
「え、ああ、ごめん考え事していて」
「夢の続きでも見ていた?」
「まあ、そんなところ」
ボクは曖昧に笑って教科書を机の上に置いた。
(ほんとに、この生活自体が悪夢だよ)
五分後に授業が開始されたが、学力に不自由はなかった。特に国語は以前よりできるようになっていた。
昼休みは女子グループに食事に誘われた。四人組でうち二人は可愛い娘だった。
「ねえ塚原さん。ヒロ君と仲良いのね」
「そうだね。入院中はいっつも一緒に話してたし」
「ふふ、あっさり肯定するのね」
と、話す女の子は寺田麻弥子と名乗った。田舎っぽい顔つきだが、それが可愛く見える。以前は綺麗な人が好きだったのだが、最近は女の子の趣味も変わった。可愛い、というか優しいとか話しやすい人に惹かれるのだ。会話も途切れることがないし、同性だから気兼ねなく声を掛けられる。
「ねえ、どうしたら男の子と仲良くなれるの?」
「え、寺田さんもてるでしょ?可愛いもん」
「そんなことないよ〜。奥手だし、男子の目はみんな塚原さんに向いてるよ」
「そうなの?う〜ん、仲良いのは認めるけど、それは同性としてだからなぁ」
「えっ?」
「あは、なんでもない。でも、男なんて女子から話しかければ喜ぶんじゃない?」
ボクが当てにならない助言を授けると寺田さんは納得してくれた。
「そういえば由紀ちゃんて男子と話題が合うよね。野球とかゲームとか。ひょっとして男兄弟がいるの?」
「まあ、一応」
西野さんという女の子が家族の話題を振ってきた。兄弟はいないけど、あの医者は兄弟ということにしておこう。
「兄さんならいるよ」
「いいなあ、由紀ちゃんのお兄さんならきっとハンサムだよね」
「う・・・ん。たしかに。危ない人だけど」
医者の顔が脳裏に浮かぶが、あの男も言われてみれば端正な顔つきをしている。
「大学生?」
「いや、お医者さん。国立中央病院で働いてるの」
「え〜!じゃあ、超エリートじゃない。国立中央ったら世界一有名な病院よ」
「そうなんだよね〜。あの若さで」
「いいなー、紹介してよ」
「やめたほうが良いよ。あの人平気で・・・・・・」
忘れてた。ボクは恐る恐る胸のポケットを覗いてみる。そこには、ゆっきーがいた。
「どうしたの?」
「え、いや、なんでもない」
「あ、ひょっとして学校に持ってきちゃ行けないものを、うっかり持ってきちゃったとか」
(学校どころかこの世に存在したら不味いものなんだけどね)
「大丈夫よ。持ち物検査とかやんないし、ごにょごにょ」
西野さんが耳打ちしたことをボクは急いで実行することにした。ゆっきーが眠っている今のうちに・・・・・・
「にゃ?おはよー」
遅かった。食堂から教室へ向かう途中、ゆっきーが起きてしまった。胸の中でゆっきーがもぞもぞと動く。
「こ、こら、動くな。ゆっきー」
くすぐったくて身をよじる。しかも、間の悪いことに人影が。
「ヒ、ヒロ」
「由紀、もうお昼食べた?」
「う、うん」
胸の中でせわしく動くゆっきーを、ばれないようにさりげなく胸に手を当てて隠す。
「なんか顔赤いけど大丈夫?」
「へ、へいきだ、むにゃー、なんちゃって」
ゆっきーの鳴き声をあわてて誤魔化す。
「ちょ、ちょっと、トイレ!」
他に誤魔化しようはなかったのか、今になってみると情けないけどボクはあわててトイレに駆け込んだ。うしろで、ヒロが赤面しているのがなんとなくわかった。

「可愛いなあ、由紀ちゃん」
走り去る由紀の背中を見送ってヒロが呟く。何気なく取り出した生徒手帳の裏には二枚の映画チケット。
「勇気を出して、デートに誘おう!」
淡い恋心を寄せるヒロであった。


後書き

なんかいろいろやってしまったなーという感じです。
医者の反響が良かったせいで再び登場させましたが、病院では出番が少ないので家族にしてしまいました。当初は由紀の旦那として考えていましたが、さすがにやりすぎたと思って、実は兄弟という種明かしをしています。二人はアメリカ国籍ということですがアメリカには戸籍制度がないそうです。だから誤魔化せるかなーと思ったんですけど、実際にはそう上手くいかないですよね。
他に作中に「ゆっきー」という小娘を出してしまいましたが、私はこういうキャラ苦手です。まあ、ホムンクルスは寿命が短いから良いのだけど。彼女の役どころはアルジャーノンとよく似ています。ES細胞装置は実用化が始まったばかりの医療装置、彼女の身にどんな障害が残っているかまだ分かりません。予想される病気や、体調の変化に対処するために、塚原医師はあえて人道に反して由紀のクローンを作ったわけです。こんなことをして由紀の為だなんていませんからマッドサイエンティストを演じているのですが地で行ってます。
由紀は彼が自分の旦那だと紹介されて怒っていましたが、本当は結構いい人。
恋の争奪戦は三つ巴を予想していますがヒロはキャラが弱い。同じクラスで席も隣なんだから頑張れよといいたいのですが、彼の存在自体、筆者も忘れがち。
設定では野球部の一年生エースということですが、由紀にはあまり関係なさそう。
北見は親友という足枷があって、塚原医師には肉親という首枷が。ヒロには惚れた相手が実は元男という落とし穴が。

パソコン初心者なんでメモ帳の使い方が分かるまで苦労しました。保存だけは出来るようになったのですが。
まあ、もうちょっと続くみたいなんで次回もよろしくお願いします。


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