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おかしな客(前編)

作:アカトリ

 

 ピンポーン。ピンポーン。

 「はい、何か用ですか?」

 そう言いながら、僕がドアを空けるとそこには女の子が立っていた。

 「ひさしぶりー」

 そう女の子は僕に言った。そう僕にだ。だけど。

 「あの、どちら様でしょう? すみません……。覚えていないのですが」

 「いいの、いいの。そっちの方が普通なんだと俺は思うぜ。こんな風になったら誰も分からないって」

 「じゃあ、誰だか教えてください」

 「誰だか当ててみろよ」

 僕は過去13年前からの女の子に関する記憶を探ってみた。だが、彼女に似ている女の子は一人もいなかった。

 「あの、やっぱりおし……、あれ?」

 いつのまにか彼女は僕の前から姿を消していた。

 「おじゃましてますよー。へえ、お前こんな家に住んでたんだな。結構綺麗じゃん」

 家の中から声がしてきた、どうやらいつのまにか家の中に入られたようだ。

 「ちょっと、勝手に入らないで下さいよ。あいさつだってまだなんですから、という訳で……初めまして」

 「ちょっと他人行儀すぎないねえか?」

 「だって、本当に分からないんですよ?」

 「お前……本当にわかんねえのか? じゃ、特別にヒントやるよ。鈍いお前の為にな。昔さ、おれ達この近くの海でよく遊んだじゃねえか」

 「ふむふむ」

 「浮き輪使わないと泳げないのにむちゃくちゃ泳いだんだよなぁ、おれ。どうだまだ思い出さないか」

 「あっ!!」

 「どうだ!! 思い出したか!!」

 「いや、お客がきたってのに僕はまだコーヒーの一杯も出して無かったよ。すみません、しばらく待っててください」

 「ガクッ。そうじゃねえだろっ!!」

 

 

 数分後、僕は彼女の為にコーヒーを入れてきた。もちろん僕の分もある。

 「はいどうぞ。おいしいですよ」

 「お前さ、まだわかんないわけ?」

 「はい、わかりません」

 もちろんなんの努力もしなかった訳ではない。コーヒーを入れながらさっきよりも思い出そうと努力した。だけど、僕は彼女の事を思い出せなかった。彼女も僕に幾つもヒントを与えてくれた。よく昔二人で虫取りをしたこと、昔二人でザリガニを取ったこと。本当に色々とヒントを与えてくれた。

 だけどやっぱり僕は彼女が誰なのか思い出せない。

 「ようし! そんなにお前がおれのことを思い出せないのならっ!!」

 そう言うと、彼女はコーヒーを一気に飲み干し、僕の手を握って外へと連れ出した。

 「あのっ! 一体何処へ行くつもりですかっ!」

 「お前が一気におれのことを思い出せるような場所へ連れてくんだよッ!!」

 

 

 そして数分後、僕は彼女に近くの神社の前に連れてこられた。

 「どうだっ!! ここでなら……、ここでなら思い出せるだろうっ!!」

 彼女はそういったが僕にはまるでここがどういう場所なのかわからなかった。だから僕はその事をそのまま彼女に伝えた。

 「あの……、ここどういう場所なの? 君と僕に何か関係があるの?」

 「そんな……そんなことないだろ……。うそだっ! うそだと言ってくれっ! おれの事なんてすっかり忘れちまったのかトモキっ!」

 その一言で僕はなんで彼女の事が全くわからないのか、やっとわかった。

 「あのー」

 「なんだよっ!」

 顔を涙でぬらしながら彼女は返事をした。なんだかとっても言いにくい。

 「僕は……、トモキではありません」

 「へ?」

 彼女の涙が止まった。 

 「僕の名前は九院はりと言うのですが……」

 「あの…それって…さ?」

 「はい、人違いです」

 彼女は人違いをしていたのだ。

 「僕は前の人が出ていってからあの家に住んだんです。だから…そのトモキと言う人は前の住人なのだと思うんですが…」

 「はぁ、人ちがいか…。最後の治療の前に会いたかったんだけどな…、しかたないか」

 彼女の肩が目に見えて落ちた。

 「がっかりさせてすいません」

 「いいんだよ、べつに」

 気の落ちている人を見るのはどんな人でも辛い。僕は彼女に別の話をする事にした。

 「あの、さっき『最後の治療』と言ってましたよね。という事はそれが終わったら何かの病気が治る、ってことですよね? おめでとうございます」

 「なんだよ、突然。…まあいいか。まあな、それが終わったら俺は健康体、見事退院ってわけだ。…入院前との違いを大目に見ればな…。まあ、だからトモキのヤツに会いたくなったんだけどな。…きいてくれるか? おれの話をさ?」

 彼女は神社の前の階段に腰掛け僕のほうを見ながらいった。

 「はい、あなたが話したいと言うのなら聞きます」

 僕がそう言うと、彼女は自分にあったことを話し出した……。

 (後編へ続く)

 

 

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