ぐっいーぶにん、れでぃーす・えん・じぇんとるめん。
もしお時間いただけるようでしたら、このお話の経緯について簡単にご紹介いたしましょう。
え?その前に、お前は誰だ、って?
これはワタクシとしたことが、失礼しました。
私はいわば、このお話の案内人。愛称をこめて「ミスター・インヴァイト」とでもお呼び頂ければ、これに勝る喜びはございません。
さて皆さん、このお話の主人公「コウサカ=クスト中尉」はある特殊な性質を持っております。
彼の愛機「テンペスト」のOS「ナデシコ」を起動してしまうと、アラ不思議。なんと彼は12時間の間「コウサカ=クミコ」という白人女性に変身してしまうではありませんか。
この辺の謎は本編に譲るとして、ここでは気楽に話を進めましょう。
実はクストには、親友のグエンがいるのですが、実は彼、クミコの正体がクストだとは全く知りません。
さてさて、二人は一体どうなってしまうのやら。なにやら、とっても危ない予感がするのですが・・・・・・。

という訳で、彼と彼女の平凡な一日を、今回は番外編という形で見ていくことにしましょう。

それでは、肩の力を抜いて、のんびりとご鑑賞くださいませ。

 


機動妖精撫子
作 TRACE


 

エクストラフライト1.時間に厳しい女 

 

「クミコさん、待った?」
 私服姿のグエンが満面の笑みを浮かべ、息を切らして駆けてくる。シッポがあれば、はち切れんばかりに振っているであろう。
「いいのよ、グエンさん」
 ワンピース姿のクミコは少々恥ずかしそうにグエンに笑い返す。
(俺が誘ったようなもんだからな・・・・・・仕方ない)

 

 そもそもの元凶は、たしかにクミコ自身にあった。
 グエンたち103小隊は偵察中に同じく偵察中だった敵部隊と偶然遭遇、小競り合いを演じたのち何とか引き上げてきたのだ。双方に人的被害はなかったが、その際にグエンをかばって部隊の仲間が負傷した。責任を感じたグエンは妙に落ち込んでしまい、何とか彼を元気付けてあげようと思ったクミコは、トイレ掃除の帰り際にこんな事を言ってしまったのだ。

「今度私が付き合ってあげますから、そんなに気を落とさないで下さいよ」

 いまさら自分の発言を悔やんでも仕方ない。それに、そうでもしないと本当にグエンは落ち込んだままだったかもしれない。実際、クミコと「デート」の約束をかわして以降、グエンは非常に上機嫌だった。
 そして今日、二人が非番の日、見事に初デートと相成ったのである。本来は非番でも軍服のはずだが、それでは気が散るということで私服を調達したのだ。クミコとしては、ミニスカの軍服、白いワンピースドレス、どちらでも大して変わらなかった。
「なー?おかしな話だろ?ジャック=イブ=クストーにあやかった名前なのに、当のクストが活躍している活躍の舞台は空。まるで正反対じゃん」
「あはは、そうですね。変なの」
 二人は喫茶店で軽食を採りながら、とりとめのない会話をしていた。
 ところがいつの間にか会話の話題が「コウサカ=クストの名前の由来」にすり替わっていた。
 ジャック=イブ=クストー(1910〜1997)とは20世紀中ごろの海洋探検家で、スキューバ(アクアラング)の開発者でもある。1953年には著書「沈黙の世界」がベストセラーとなり、56年には映画「沈黙の海」を製作、カンヌ映画祭グランプリ、アカデミー賞を受賞している。また環境破壊を警告し、シラク大統領の核実験再開にも激しく非難。「世界でもっとも有名にしてもっとも愛されたフランス人」と賞賛されている。
 なおクストの父親は50近い今でも宇宙でスペースデブリ等のサルベージを稼業にしているらしいので、ある意味クストの名前の由来にも納得できるかもしれないが。
「・・・・・・あちっ」
 気を紛らわすように慌ててカップを口にしたクミコ(クスト)は舌を火傷してしまう。
「大丈夫かい、クミコさん?」
「は、はい・・・・・・ごめんなさい」
 グエンから受け取ったナフキンで口元を拭きつつ、クミコはチラリと左手首を見る。
(あと6時間54分・・・・・・)

 

「・・・・・・ん?」
 クミコはふと空を見上げた。鼻先に、何か水滴が触れたような気がしたのだ。
 そして、それは正しかった。隣で歩いているグエンも手の平を開き、空の様子を窺っている。
「一降り来そうだな・・・・・・」
 それから数分も経たずして、空は雨模様となった。
「マズイな・・・・・・傘なんて持ってきてないよ」
 グエンが辺りに雨宿り場所を探し始めた一方で、クミコは手さげバックの中身をまさぐってみた。

 ・・・・・・あ。あった。

 折り畳み傘を持った覚えはない。とすると、可能性は絞られる。
(ギアナか、コマツ軍曹か・・・・・・)
 どの道、傘はひとつだけ。もう一本買っても別にいいのだろうが・・・・・・
「あー、あのー、クミコさん・・・・・・」
 もったいぶった声音でグエンが告げた。顔も少々上気している。
「・・・・・・アイアイ傘、します?」
 お約束である。

 

 妙な気分だった。
 クミコ(クスト)としては別に男同士なのだから、全く恥ずかしがる理由はないはずなのだが、今は何故か妙に恥ずかしい。
 こんな妙な感覚を味わったのは、初めてのことだった。
「降ってきましたね」
 クミコは自分の気持ちを紛らわすように話を切り出した。
「・・・・・・」
「グエンさん?」
「・・・・・・あ、ごめん。自分で言っといて変だけど、なんだか恥ずかしいね」
 彼も恥ずかしいのだ。
 そんなグエンに、クミコは自然と優しく微笑んでいた。
(でも、なんか妙に安心できるような・・・・・・)
 そんな気持ちになったのも、初めてのことだった。
「あ、ホラ、あそこの店で雨宿りしよっか」
 そう言ってグエンが指差した先は比較的規模の大きなデパートだった。「阪神百●店 ユエ店」とある。一時代前のようなシックなつくりが印象的だ。
 店内に入る直前、クミコは左手首をチラリと見やる。
(あと3時間21分・・・・・・)
「どうしたの?クミコさん」
「(どきっ!?)い、いえ、別に。あはは・・・・・・」

 

「雨、止みませんね」
 最上階の窓の外の景色を見つめながら、クミコはため息をついた。その右手にはナイフ。左手にはフォーク。机の上の皿には、手の平ぐらいの大きさがある分厚いステーキ。女の子が食べるには、ずいぶんゴツイ食事だ。
「・・・・・・食べるね、クミコさん。そんなに食べたら太るよ」
 少々呆れ気味のグエン。
 そんなギアナを尻目に、クミコはさらにオーダー。それにしてもよく食べる。これも「ナデシコ」の力なのか?それとも「ナデシコ」の力にはこれだけの食事が必要なのか?
「おじさーん、これが終わったらチョコガナッシュ持ってきてね。二人分ね」
「・・・・・・ねぇクミコさん」
「ん?」
「その食べっぷり、どこかで見たような気が・・・・・・」
「(げっ!?)」
 そうなのである。クストも良く食べるのだ。オマケに、甘い物も大好きである。
「気、気のせいでしょ・・・・・・ねぇ」
 気をそらすように苦笑するクミコ。その視界に、ふと壁時計の針が映った。とたんにクミコの顔色が変わる。
(あと2時間10分!?)
「どうしたのクミコさん?」
「(うっ)い、いえ、雨・・・・・・早く止めばいいのにな、って・・・・・・」
 半分は本当だった。早く雨が止んでくれないと、とっとと帰れないのだ。そうなれば、タイムオーバーである。タイムリミットは、あと2時間10分。いや、2時間09分。

 

「まだ止まない・・・・・・」
 そろそろ悪夢物語ではなくなってきた事態に、クミコは愕然としつつあった。
 スコール。
 普通のスコールなら短時間で収まる。しかし西暦からの環境異変の影響なのか、長時間の豪雨が続く時も珍しくはなかった。
 そんなクミコを嘲笑うかのように、スコールはますます勢いを増した。雨粒が激しく地面を打ちつけ、会話も聞きづらいくらいだ。
「クミコさん・・・・・・」
 申し訳なさそうなグエンの声がする。雨音もあって、聞き逃してしまいそうな声だった。
「あの、ヒジョーに言いづらいんだけどさ、こんな雨じゃとても基地に帰れないし、かと言って大してお金もないし……」
「・・・・・・何?」
 クミコはなんとなくイヤーな予感がしていた。
(まさか、この雨の中を突っ切って行くって言うんじゃ・・・・・・)
 いや、そのほうがまだマシだっただろう。
「・・・・・・泊まってく?」
 彼はそう言って、町の一角のネオンを指したのである。
 豪雨の中でも輝かしく点滅するピンクのネオン。
 クミコには一瞬、その光が救いの灯し火に見え・・・・・・なかった。

 ホテル 真冬の温泉紀行な

「・・・・・・『な』?」
 一瞬、クミコの思考回路が停止する。その思考回路が復旧したとき、クミコのあご関節が外れた。
「な・・・・・・なななナニ考えてんだアンタは!?」
「わぁっ!?ご、ごめん!でも、そういうつもりじゃないんだ。だって、いまの僕の持ち金じゃ、泊まれるのはあんなホテルぐらい・・・・・・」
「だ、だ、だ、だからって何もラブホテルに!!てめー、俺を犯す気か!?」
「ごめん!絶対何もしないって誓うから!!おちんちん切り落として神に誓ってもいい!!!」
「い、いや、そー言うことじゃなくて・・・・・・ん?」
 いつの間にかクミコは自分が涙を流していることに気付いた。だが、グエンとラブホテルに泊まることに泣いているのか、正体がばれそうなことに泣いているのか、もう訳が分からなかった。
「ごめんクミコさん!本当にゴメン!!でも、このままじゃ・・・・・・」
 隣ではグエンがひたすら頭を下げている。クミコとしても、彼がそんな不逞な男ではないことは分かっているのだ。
 だからこそ、彼に自分の正体を知られたくはない。このまま一緒に夜を明かしてしまっては、間違いなくクミコはクストに……
(そういえば、あと何分だ?)
 涙を拭くついでに、彼女は左手首をチラリと見た。
 で、結果は。
(あと32分・・・・・・)
 デッドエンドである。もうどうすることも出来ない。
 しかし、屋根の外は大嵐。
「・・・・・・」
 彼女は心を決めた。
 自分の正体を知られないため、そして何よりグエンを傷つけないため、彼女はペタンコの革靴を踏み出した。
「グエンさん、ごめんなさい。私・・・・・・」
 クミコの顔が濡れていた。涙のせいだったのか、それとも大嵐のせいだったのか、彼女自身にも分からなかった。

「・・・・・・さよなら!」

「クミコさん!?」
 彼女は大嵐の中へ飛び出していった。
 グエンの声にも振り向かず、打ちつける雨の中、か細い足を懸命に走らせて――――転んだ。
「・・・・・・あ」
 スカートが足にまとわりついたらしい。
 彼女はグエンに向かって恥ずかしそうに笑い、気を取り直して再び走り出した。そして、夜の闇へ消えていった。

 

 数十分後。
 グエンは相変わらず屋根の下で立ちすくんでいた。
「ああ、俺がホテルなんかに誘うから、クミコさんは・・・・・・」

 キィッ。

 タイヤを軋ませ、一台のジープが止まる。
「グエン、そこで何やってんだ?」
 ジープの上から男の声が飛んできた。
「クスト・・・・・・」

 

 グエンが知る由もないのだが、別れたクミコはその後すぐに基地のギアナに連絡を取り、ジープを回してもらったのだ。当然、クストの軍服も一緒に運んでもらい、着替えてジープに乗り込んだのだ。繰り返して言うが、グエンには知る由もない。
「フられたよ・・・・・・」
 後部座席で、彼はボソッとつぶやいた。
「やっぱラブホテなんかに誘っちまったからだ。なんであんな事を言っちまったんだ、俺は……」
「グエン、多分そうじゃないよ」
 助手席から振り返って慰めるクスト。幌付きのジープに乗っていたにもかかわらず、彼はびしょ濡れだった。その理由は・・・・・・言わずもがなだ。
「クミコさんはグエンが嫌いになった訳じゃないって」
「どうしてそう言えるんだ?」
「(あ・・・・・・)」
 それは俺がクミコさんの正体だから、とは口が裂けても言えまい。
「あ、その、だからさ、多分、彼女、何か用事があったんだと思うよ」
「そっか。クミコさん、やけに時計を気にしてたもんな」
 素直なのか鈍いのか、グエンはアッサリと納得した。
(良かった、どうにかグエンを丸め込めた・・・・・・)
「おいクスト」
 と、運転席のギアナが小声で話しかけてきた。
「時間があったら、一緒に寝てあげても良かったんじゃないか?(ニヤリ)」
「勘弁してくれ・・・・・・」

 

 翌日。
 オーディス基地の女子トイレにて。
 先ほどから、体重計の上で立ち尽くしている女性がいる。青みがかった銀色の髪と、透き通るような白い肌が美しい女性だ。
 彼女は体重計の数字を憎たらしそうに眺めていた。ちなみに数値は、秘密である。
「昨日だけで2キロも太った・・・・・・ダイエットしなきゃ・・・・・・」

 


 

今回は番外編という訳で、戦闘を一切省いてみました。
おかげでずいぶん読み切りっぽくなったかも。
そもそもこの話はフライト3のオマケとして書いていましたが、それではファイル容量がデカ過ぎる・・・・・・という訳で、こんな番外編と相成りました。
今回は割とオーソドックスですが、もし番外編をまた出すとしたら、いろいろ本編とは関係ない「自爆」をやっていきたいと企んでおりますので、どうぞよしなに。
たとえば、キャラだけ流用した別の話とか。テンペスト3機の夢の合体変形とか。なんかとっても某CDドラマみたいですが。

 

(個人的なこと)
今まで参戦するとは思ってなかった「勇者王(剣も持ってないのに「勇者」?)」や「宇宙海賊」の参戦によって、いよいよ「ダブルフェイク」、いや「パトレイバー」の参戦も夢ではなくなってきたぞ。アルフォンスとグリフォンの合体技を是非・・・・・・
あ、でもその前に「キングゲイナー」を是非!BGMはもちろん「あの曲」で!!ね?バン●レストさん。(「あの」ゲイナーは出るのか?)

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