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 「女の子の幽霊? そんなのがこの学校に?」
 昼休み、弁当を食いながら話を聞いていた俺は思わずクラスメイトの井口に訊き返した。


 「いるというかいたというか……とにかくそういう話があるんだよ。4年に1度、サッカーのW杯の時期になると現われるらしい」
 「なんだいそりゃ? 女の子の幽霊とサッカーのW杯とどういう関係があるんだよ?」
 「うわさじゃその女の子、サッカーが上手くてW杯に出たかったらしいんだけど」
 「女じゃ無理だよな。でもオリンピックを目指せばいいじゃないか」
 「いや、これは女子サッカーがオリンピックに採用される前の話だから。で、その女の子ってこの学校にいるときに交通事故で死んじゃってね。その無念でこの時期になると学校の男子の1人に取り憑くんだそうだ」
 「取り憑く? 取り憑かれるとどうなるんだ? 急にサッカーを始めるとか?」
 「いや、それが……取り憑かれるとその男子、女の子になるんだそうだ」


 「……ぶぁははははっ!! なんだよそりゃ、全然意味ねえじゃねえかよ。思いっきり嘘くせえよそれ」
 俺は大声で笑い飛ばすと中断していた昼食を再開した。



乙女くん(前編)


作:ライターマン


 俺の名前は松井省太(まつい・しょうた)、16歳のごく平凡な高校2年生。
 親父は単身赴任中で現在はブティック(と名乗っているが実際はただの洋服屋)をやってるお袋との二人暮らし。それ以外は特に変わり映えのしない普通の家庭の普通の人間である。



 井口から女の子の幽霊(?)の話を聞いた翌日の朝――

 「う、うーん……あれ?」
 目覚ましを止めた俺はベッドの中で背伸びをする。いつもやってることなのだが、今日はちょっと様子が変だった。
 自分の出した声が変に高く聞こえたのだ。風邪ひいて声がおかしくなったのかそれとも耳鳴りなのか?
 それにパジャマや下着が少しごわごわした感じで身体のあちこちがちょっとむず痒い。
 特に胸のあたりが……と胸に手をあてる

 フニッ

 「あ……な、何だ今のはっ!!」
 手から、そして胸から感じた異様(?)な感触に俺の眠気は一気に吹き飛んだ。
 ベッドから飛び起きパジャマとシャツを脱ぐと、俺の目に上半身裸になった俺の姿が飛び込んだ。
 小さな、ほんの小さなものではあるが、俺の胸には2つの丸い膨らみがあった。……まるで女の子のような。
 「な、何だよこれ……ま、まさか……まさか下も?」
 俺は震える手をゆっくりとパンツの中に……

 「なっ・・・・・・!!」

 そこにあるはずの男の象徴は跡形も無く消え去っていた。
 衝撃で思わず叫びそうになったのだが、俺は何とか必死で我慢した。
 家の中ではお袋が既に起きていて朝食の準備をしているはずだ。ここで大声を出せばすぐにこの部屋へ駆けつけて大騒ぎになるだろう。
 俺は……俺の身体は……女になっていた!!


 「ど、どうしてこんなことに……」
 鏡で自分の身体を確認しながら俺は呆然と呟いた。
 よく見ると変化しているところは他にもいくつかあった。
 まず目についたのは髪。恐らく5センチ程度だろうが髪が伸びていて、髪型がなんとなく俺の顔をを女の子に見せていた。
 次に喉、喉仏がきれいさっぱりとなくなっていた。そのせいかさっきから俺の口から出る言葉はいつもより高くなっている。
 下半身の体型も少し変わってるみたいでパンツがちょっときつくなってるにもかかわらず、ウエストのゴムの部分が緩くなっていた。
 「何で俺が女なんかに? …………あ、まさか昨日井口が言っていた?」
 俺は井口が言っていた学校に出る幽霊の話を思い出した。あの時は笑い飛ばしていたが、他に心当たりはなかった。
 「……行ってみるか、学校に」
 小さく頷き呟きながら俺は顔を引き締めた。



 「省太、朝ご飯出来てるわよ」
 台所からお袋の声がする。
 「ちょ……ちょっと待って」
 俺は慌てて声を低くして返事をする。よし、ちゃんと意識すれば何とか以前と同じ感じに喋ることは出来そうだ。
 机の中からハサミを取り出すと髪を切ってごみ箱へと捨てる。多少不揃いなのはしょうがない。
 「ええっと確か……あった!!」
 半年前に自転車で転んで肋骨を痛めたときに使ったサポーターを引き出しの奥から引っ張り出した。胸の膨らみは掌で簡単に隠せる程度なので、こいつを巻いてマジックテープで止めとけば大丈夫だろう。
 後は以前使っていたサイズの小さなパンツを無理やり穿いてベルトは強く絞らずに……と。
 「これでOK……かな?」
 よく見れば違いが判るかもしれないが、とりあえずはこれで何とかなりそうだった。
 「省太!!」
 「ごめん、もう遅いからこのまま行くよ」
 怒りながら部屋までやってきたお袋に俺はそう言って慌てて外へ出ると学校へと向かった。



 井口の奴は俺が学校に到着してからしばらく後、朝のホームルーム直前になってやってきた。
 「井口、それより聞きたいことがあるんだが」
 「なんだ松井? ……お前、声が少しおかしくないか?」
 「ちょ、ちょっと風邪気味で……」
 冷や汗が出てきた俺だったが、幸い井口はそれ以上追求することはしなかった。
 「昨日、幽霊の話をしてたよな。取り憑かれたら男が女の子になるっていう」
 「ああ、『乙女くん』の話か」
 「乙女くん?」
 「女の子になった男子のことをそう呼んでいるらしいよ。まあ、先輩がそのまた先輩から聞いたって話だけどね」
 うーん、又聞きの又聞きなのか。
 「そうか……で、その『乙女くん』というか女の子になった人ってどうやったら元に戻るんだ?」
 「どうやったらって……確かW杯で日本が決勝トーナメントに進むと元に戻るって言ってたかな?」
 「な、なんだそりゃ?」
 俺の発した声に井口がギョッとなる。し、しまった、気を抜いてしまって女の子の声になっていた。
 「お前……その声」
 「気にするな!! そ、それより今回みたいに日本が決勝トーナメントに進めなけりゃどうなるんだ?」
 「そりゃあやっぱり一生女の子のままじゃ……」

 「うそおぉぉ―――っ!?」

 頭から突き抜けるような黄色い悲鳴が教室内に響きわたった。



 「心配するな、そいつはデマだ。基本的に4年おきに起きているがそうでない時もあったからな。女の子になる現象とサッカーのW杯との間には何の関係もない」
 「そ、そうですか」
 職員室で担任の教師の言葉を聞いて俺はホッと胸を撫で下ろした。
 俺が教室で悲鳴を上げたのとほぼ同時に担任が入ってきた。そして騒ぎ始めた教室内で一喝するとそのまま俺を職員室へと引っ張っていった。
 「それにしても……こんなことが本当に起きるとはな」
 「え? 先生は見た事はないんですか? 4年前とか」
 首を傾げる俺に担任は苦笑いをしながら答えた。
 「あのな、私立と違って公立じゃ3年程度で学校を移っていくんだ。教師でも実際に見た者は校内にはいない。俺だって2年前にこの学校に来て、前にいた先生からこの話を聞いたんだ」
 ……うーん、ということは井口よりも少しはまし、というところだろうか?


 「えーっと、たしかこの辺に……」
 担任は自分の机の奥の方を探ってA4の大きさの2、3枚の紙を取り出した。
 「あったあった。そのときにもらった資料によるとだな、この現象は学校内では『乙女現象』と呼ばれ、女子になった男子生徒の事は『乙女くん』と呼ばれているそうだ」
 「それは井口から聞きました。でも何で『乙女くん』なんですか?」
 「それはこの現象で女子になった男子は乙女であることを強制される。だからそう呼ばれているそうだ」
 「うーん、解かったような解からないような……」
 「この現象は戦後この学校が作られた当時からあって、原因は戦前に権利を主張して弾圧された女性の恨みとか、戦国時代に男として育てられた姫の心残りとか色々説はあるけどはっきりしていない」
 「原因なんかどうでもいいですよ。それより元に戻る方法を教えてくださいよ」
 「心配するな。放っておけば1ヶ月以内に元に戻るそうだ」
 「そうですか。とりあえずは一安心だけど……」
 それまでは今の状態が続くのか。そう思い俺は溜息をついた。


 「『ただし、女でいる間は乙女にあるまじき行為は控えること。特に以下の3つのタブーを破らぬように注意せよ!!』と書いてある」
 「そのタブーってなんです?」
 「タブーの1つ目は……」
 と、そこで担任の顔が大きく歪む。
 「どうしたんです?」
 「それがな、1つ目のタブーというのが……『女になったことを隠さないこと』なんだそうだ」
 聞いた瞬間、俺は机に顔を突っ伏した。
 「俺、そのタブー思いっきり破っちゃいましたよ」
 「そ、そうだな。ここには『タブーを破った者はペナルティが課せられる』と書いてある」
 「ペナルティって……一体何が?」
 「それなんだがな……」担任がそう言って神妙な表情でゴホンと咳払いをする。
 俺の喉でゴクリと唾を飲み込む音がした。
 「そこから先はプリントなくしちゃって判らんのだ」
 頭を掻きながら苦笑いする担任に俺は椅子から転げ落ちた。
 「こ、この役立たず!!」


 「と、とりあえず、クラスのみんなと他の教師へは俺が知らせておく。お前は1度帰った方がいいんじゃないか? 女子用制服とか用意しないといけないし」
 担任の呟きに俺は驚いた。
 「ちょ、ちょっと待って下さい。身体が女になったことを知らせるのは仕方ないにしてもなんで俺がセーラー服なんかを?」
 「だって1つ目のタブーが……」
 「身体が女だからってセーラー服なんか着たくありません。今までどおりこの制服で……」
 と、そのとき、俺は胸と腰の部分が窮屈になっていることに気がついた。
 そりゃたしかに体型を誤魔化そうときつくはしていたのだが……この窮屈さは尋常じゃない。
 「い、痛たたた……」
 身体中の関節や筋肉が痛み始める。
 サポーターや下着が俺の身体を締め付ける。いや、俺の身体のサイズが変わってきているのだ。
 それだけじゃない。耳から肩のあたりがざわざわする。伸び始めた髪の毛が肩に触れ、さらに伸び続けていく。
 やがて……

 ブチッ!!

 制服の下でパンツの裂ける音がした。と同時に胸のサポーターのマジックテープも圧力に耐えかねて外れてしまう。
 ようやく痛みがおさまった自分が目にしたのは髪が腰のあたりまで伸び、ベルトの部分は隙間だらけなのに胸と腰の部分が張り裂けそうになった制服に身を包んだ俺自身の姿だった。
 「そんな、これじゃあ制服が……って、声もっ!?」
 変化は声にも及んでいた。さっきまでは低めのアルト声だったのだが、今はかなり高めのソプラノになってしまい男の声が全く出せなくなってしまった。
 「もしかして……ペナルティって」
 女の子であることを隠そうとすると逆に隠せないように身体つきがより女の子らしくなる。ペナルティってこのことだったんだ!!
 「せ、先生……」
 思わず涙が出そうになるのこらえて震える声で担任を見た。すると担任は慌てたように「ゴホンッ!!」と咳払いをした。……先生、なんか顔が赤くなってません?
 「と、とにかく……家に連絡を入れたほうがよさそうだな」



 「省太……」
 連絡を受けて学校に駆けつけたお袋は俺の姿を見て立ちつくした。
 まあ自分の息子が突然女の子になったんだからやっぱりショックなんだろうな。
 ……と思っていたら突然お袋は俺をギュッと抱きしめた。

 「きゃあぁ――っ!! こーんなに可愛くなっちゃって。お母さんは嬉しいわ」

 …………えっ!?
 「ね、お家に帰ったら店で飾ってる花柄のワンピースを着てみない? きっと似合うわよ。それにもうすぐ夏だからタンクトップやキャミソールなんかも着せてみたいわあ。そしたらスカートは当然ミニよね。いっそのこと……」
 あのー、もしもーし?
 当事者の困惑を気にせず、お袋は脳内で俺を着せ替え人形に見立ててはしゃぎまくっていた。
 「お袋っ!! それより俺の着替えは?」
 少し大きな声で怒鳴るとお袋は動きを止めて少し恥ずかしそうに照れ笑いをした。
 「ごめんなさい、つい……。着替えならほら、ちゃんとここに持ってきてるわよ」
 そう言って俺に少し大きめの紙袋と小さな袋を見せる。
 早速受け取り着替えようとした俺だったが、お袋がその動きを止めた。
 「馬鹿ね、女の子が男の前で着替えるなんてしちゃいけないでしょ。すいません、ちょっとそこの部屋お借りしますね」
 母さんは担任にそう言って職員室横のロッカールームへと俺を連れて行った。


 「それにしても……省太が今度の『乙女くん』とはねえ」
 恥ずかしいので反対側を向いて服を脱いでいる俺の背後からお袋がしみじみと呟く。
 「え? どうしてお袋が『乙女くん』のこと知ってんの?」
 「あたしもこの学校の出身だからね。今朝、お前の声とか様子が変だったからもしかしたらと思ったんだけど……」
 うーん、そうだったのか。だったら今朝正直に話して相談に乗ってもらった方がよかったかも。
 「あたしとしては娘が欲しかったから省太にはずっとこのまま女の子でいて欲しいわ。ね、女の子になったら省太って名前変でしょ? 新しい名前どんなのがいい?」
 ……訂正、やっぱり相談しなくて正解だったようだ。
 「あのな、しばらくすれば男に戻るんだから新しい名前なんか必要ねえよ」
 「そっか……じゃあ最初はこれからね。手を後ろに出して」
 俺は右手を後ろに出すして母さんから最初の着替えを受け取ると目の前で広げ……
 「お、お袋っ!! こ、こ、これ、女の子のパ、パ……」
 パンティ、ショーツ……つまりは女の子用の下着、男の俺が身に着けるような物じゃなかった。
 「そうよ、あなたは今女の子なんだから当然でしょ?」
 「で、でも……」
 「男物の下着を身に着けるのは1番目のタブーを破ることになるでしょ」
 そりゃまあ確かに……無理に男物を身に着ければさっきみたいな事がまた起きるかもしれないし……
 「破り続けると一生女の子のままよ」
 「ええっ、本当!?」
 「本当よ。けっこう元に戻れない子が出ているから気をつけなさい。もっともあたしはその方がいいけどね。どうする?」
 「……穿くよ、穿けばいいんだろ?」
 俺は観念してショーツを広げて脚を通した
 「男物のパンツとそう大した違いはないわよ」
 俺はショーツをゆっくりと引き上げ……

 ピタッ

 ……嘘つき、全然違うじゃねえかよ!!


 「はい、じゃあちょっと両腕を上げてバンザイして」
 言われるまま両腕を上げるとお袋は素早く俺の胸にブラジャーのカップをあてた。
 「ひゃあぁっ!!」
 「変な声を上げない。うーん、もう少し大きいサイズの方がいいかな?」
 そう言ってお袋は別のブラジャーを取り出して再び胸にあてた。
 「うん、これでよさそうね。じゃあ手をこう後ろに……」
 お袋は俺の手をとって背中の方へと回した。
 「お袋、そんな所に手が回るわけ……あれ?」
 「女の子の身体は柔らかいんだから。さあ、ブラのホックを留めて」
 「そんなこと言ったって後ろに目があるわけじゃないんだし」
 「しょうがないわねえ」
 お袋が俺の背中でブラジャーのホックを留め、あちこちを調整していく。
 「はい、これで終わり。家に帰ったら1人でできるように練習しましょうね」
 胸の形を「調整」させられたときの感触で顔の赤くなった俺はお袋の言葉をただ黙って聞いているしかなかった。


 「ううっ、何で俺が……」
 「なってしまったものはしょうがないでしょ。せいぜいタブーを破らないように気をつけなさい」
 「そのタブーってなんなんだよ? さっき先生から1つ聞いたけど……手遅れだったがな」
 「『乙女は自分が女であることを隠してはならない』ね。後の2つは『乙女は男子の前で下着を見せてはならない』『乙女は女性の秘密を男子に明かしてはならない』よ」
 「なんか……お袋ってやたらと詳しいな」
 「ま、まあ、うちってわりと学校に近いし女子用制服も扱ってるでしょう? だからそういう情報も自然に入ってくるわけ」
 なるほど、それなら入れ替わりの激しいここの教師どもより詳しいのも頷ける。
 更衣室の壁には大きめの鏡があり、そこに下着姿の美少女(?)が映っている。
 これが……これが俺だなんて……
 「さあ、自分の下着姿を堪能したら……」
 「してねえよっ!!」
 お袋の言葉に怒鳴り返す。頬のあたりが熱く心臓がドキドキする。
 「あらそう? まあいいわ。さあ、早くこれを着なさい」
 「お袋、それは……」



 「えー、というわけで松井はしばらくの間、女子の姿で過ごすことになる。みんな、すまないがよろしく頼む」
 と担任が状況を説明しているのだが、教室中のざわめきからしてとても素直に聞いているとは思えない。
 担任の横で俺は今朝登校した時と違い夏用のセーラー服に身を包んで立っていた。お袋が店の売り物から持ってきた、この学校の女子用制服である。
 おかげで授業を休まずにすんだ訳だが、はたしてそれが幸運だったのか不幸だったのか……
 ついさっきまで男子だったやつがセーラー服着た美少女(……だと思う)になって目の前に立ってりゃそりゃあ俺だって心穏やかではいられないだろう。それが俺自身じゃなければ……なんだが。
 はっきり言って恥ずかしさ大爆発である。
 「先生、体育はどうするんですか?」
 男子の鈴木が手を上げて質問する。
 「うーん、松井はどっちがいい?」
 「どっちかと言えば男子の方が気が楽……」
 その瞬間、クラス中の男子が「おおっ!!」とどよめく。
 「じゃ、着替えも俺たちと一緒に……」
 「するかっ!!」
 立ち上がり、期待感一杯の鈴木の言葉に俺は叫び返す。
 それは第2のタブーに引っかかる行為だ。というかはっきり言って飢えた野獣の檻の中に入っていくようなものだ。俺にはそんな度胸はない。
 「じゃあ着替えは職員用の更衣室でするんだな」
 俺が頷くと男子どもががっかりした顔をした。
 「まあ色々と不都合はあるだろうが、その都度考えていこう。じゃあ松井は席についてくれ。これから授業を開始する」



 「ふうーっ、ただいまあ」
 「あらお帰りなさい」
 家に帰り着いた俺に店の方からお袋が声をかけた。
 我が家は店舗も兼ねている。店舗の裏側に玄関があり、1階が店舗と倉庫、住居部分は主に2階になっているのだ。
 「どうだった? 女の子初日の学校は」
 「散々だったよ」
 俺はぐったりした顔で答えた。
 当然かもしれないが、とにかく注目を浴びまくりだった。
 休み時間の度に質問攻め。「女の子になった気分は?」「突然変わってびっくりしなかった?」という普通のものから「今夜一発やらせろ」という欲望丸出しのものまで様々だった。
 それは学校を出てからもしばらく続いていて、俺としてはもううんざり、という感じだった。


 「明日になれば落ち着くんじゃない? それよりも早く着替えたら?」
 「もちろんそうするよ」
 そう言って俺は自分の部屋へ向かう。
 ようやくこのセーラー服、というかスカートから開放される。こいつは足もとが少し頼りない感じだし、椅子に座ったときのプリーツの感触がいやでも俺にスカートを穿いてることを伝えてくるのだ。
 「早く着替えたい……」
 呟きながら俺は自分の部屋へと入り……3分後に勢いよく飛び出した!!
 「お袋っ!!」
 「あら、まだセーラー服のまま? よっぽどそれが気に入ったのね」
 「そんな訳あるかっ!! それより何なんだよあれは? 俺の部屋を勝手に模様替えして服まで片付けやがって!!」
 ピンクのカーテンにベッドカバー、綺麗に片付けられ窓には花が飾られていた。
 そしてタンスの中身はショーツやブラジャー、ワンピースやスカートに置き換えられていた。
 たった半日の間にどうやってここまでの事ができるんだ?
 「いつも穿いているジーンズは?」
 「片付けたわよ。だってあれを穿くと第1のタブーを破ることになるでしょ?」
 「ええっ!? で、でもいまどきジーンズを穿く女性なんてそこら辺に……」
 「でしょうけど、それがタブーに引っかかるかどうかを判定するのは私でもなければ省太でもないわ。あなたがズボンを穿き続けて1ヵ月後に男に戻るかそれとも……楽しみね」
 そう言ってニヤリと笑うお袋を見て俺は言葉に詰まり……
 「ううっ……くそっ!!」
 唸り声を上げながら俺は自分の部屋へと戻っていった。



 「これで……いいかな?」
 着替えを終えた俺は問題がないかどうか店にいるお袋に訊ねてみた。
 ストライプ柄のTシャツに膝丈のスカート、せめて上だけは男物と変わらない物にしようと思ったのだが、胸の膨らみが目立つこと目立つこと。
 「まあいいんじゃない? じゃあ店の方手伝ってもらえる?」
 「ええっ!? そんなこと今まで一度もやらせたことないのになんで急に?」
 「うちは女性がメインターゲットでしょ。男に手伝わせるのは抵抗あったけど女の子ならね」
 「俺は男だ!!」
 「見た目が女の子なら問題ないわよ。それに部屋の模様替えのために店の商品を持ち出したから働いて返してもらわないとね」
 「勝手にやったくせに!!」
 「ほらほら、お客さんが来るわよ。これからが稼ぎ時なんだから少しは手伝いなさい。……いらっしゃませ」
 「い……いらっしゃいませ」


 「今日は助かったわ。省太が店を手伝ってくれたおかげで売上も伸びたし夕食の準備も早めにできたし」
 晩飯の間、お袋はずっとこんな感じで終始ニコニコしていた。
 俺はといえば顔を少し赤くして俯きながら晩飯をかきこんでいた。
 手伝いの間、店を訪れる客がみんな俺の方をじっと見てるような気がして恥ずかしくてしょうがなかった。お袋は「あなたが綺麗だからよ」と言っていたが、そんな事言われてもちっとも嬉しくなかった。
 「……御馳走様」
 食事を終えて立ち上がった俺をお袋が呼び止めた。
 「ちょっと待って。片付けてる間にこれ着てくれない?」
 そう言って隣の部屋の扉を開けるとハンガーにかけられたブラウスにジャケット、少し長めのスカートを取り出して俺に見せた。
 夕食と一緒にこんな準備もしてたのか?
 「嫌だよ、これ以上女の格好なんかしたくない」
 「あら、今だってスカート姿なのに? あたし娘とおしゃれを楽しんだり買い物をしたりするのが夢だったのよ」
 「あのなあ、おれは娘じゃなくて息子だろ。今だって恥ずかしいのにメリットもなしにこれ以上そんなのなんか着られるか」
 「……着てくれたらお小遣い5千円」
 「任せろ」
 俺はお袋からハンガーを受け取り自分の部屋へと向かった。


 「ほら、これでどうだ」
 ようやく着替え終わって台所へ戻ってくると、お袋の方は既に後片付けを終えニコニコ顔で椅子に座っていた。
 ちなみに着替えに時間がかかったのはブラウスのボタンの位置が左右逆だったので留めるのに手間取ったためである。
 「いいわね。ちょっとそこでくるっとまわってくれない?」
 「……こうか?」
 言われたとおり右足を軸に身体を回転させるとスカートの裾がふわりと広がった。
 「いいわいいわ」
 お袋は手を叩きながら大はしゃぎをしていた。
 「じゃあ次はこれね」
 そう言ってお袋がテーブルの陰から取り出したワンピースに俺は驚きに目を見張る。
 「まだ着替えるのかよ?」
 「あら、たった1回着替えるだけで5千円なんて虫が良すぎると思わない?」
 俺は言葉に詰まる。……たしかに少々考えが甘かったかもしれない。
 「ね、お願い」「……くそっ」
 ワンピースの架かったハンガーを持って俺は再び自分の部屋へ向かった。


 再び着替えて戻ってくるとお袋はさらに別の服を用意して待っていた。
 「はい、次はこのタンクトップと」
 「…………」
 「じゃあ今度はこのサマードレスをお願い」
 「このキャミソールとミニスカートも似合うと思うのよねえ」
 「じゃあ次はメイド服……」
 「か、勘弁してくれえっ!!」
 次々とお袋が取り出してくる服を前に俺は悲鳴を上げてその場に座り込んだ。
 甘かった……つくづく俺が甘かった。



 「はあ……疲れた」
 風呂から上がり、服(最初に着ていたTシャツとスカート)を着ながら小さく呟いた。
 ファッションショー(?)の後で風呂に入ることになり、そこで俺は女になった自分の裸をまともに見ることになった。
 判っていたこととはいえ、それはあまりにも衝撃的だった。
 ショックを受けていた俺に追い討ちをかけるようにお袋が風呂場に入ってきた。女の子の身体の洗い方を教えるのだという。
 「男の時と同じように洗ったら髪やお肌が痛んじゃうのよ。それに……」
 お袋はそう言って俺の身体のあちこちを説明しながら洗っていったのだが……あまりそのときの事は思い出したくない。



 「もう寝る」
 「あらそう、じゃおやすみなさい」
 俺の呟きに風呂場に残っていたお袋が何故か嬉しそうに言う。
 首を傾げながらも俺へ自分の部屋へと入り、ベッドの上に置いてある物を見て硬直した。
 そこにあったのはベッドカバーとほぼ同じ薄いピンクの柔らかい生地でできた物体だった。
 全体的にゆったりふわふわとした感じで花柄の模様が入っていて首や袖口にレースの飾りがついている。胸の下の部分にゴムが入って絞られているが締め付ける程じゃない。そしてそこから下はふんわりした感じで足元まで伸びている。
 それは……いわゆるネグリジェだった!!
 「お袋……お、俺にこいつを着て寝ろっていうのかよ?」



 俺の「乙女くん」としての日々はまだ始まったばかりである。

(つづく)


おことわり

この物語はフィクションです。劇中に出てくる人物、団体は全て架空の物で実在の物とは何の関係もありません。



あとがき
 どうも、ライターマンです。

 今回の物語、いかがだったでしょうか?
 サッカーのW杯に間に合わせたかったんですが……(笑)
 タブーに関する部分は春に見たテレビ番組を見て思いつきました。
 ただ文章の流れからこの辺で切った方がいいと思い前後編にしました。
 学校に伝わる伝説、3つのタブー、選ばれてしまった(?)主人公の運命は?
 楽しんでいただけたら幸いです。

 それではまた。


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