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 ピピピピッ、ピピピピッ
 5月のゴールデンウィークが明けた直後の月曜日、俺は目覚ましの音で目が覚めた。
 その日は俺の高校2年生として学校に通う最初の日だった。
 本当であればその日発表されるクラス編成や久しぶりに会う友人のことで期待に胸を膨らませるところだろうけど、今の俺は憂鬱な気持ちでいっぱいだった。
 それでも俺は着替えるためパジャマを脱ぎ捨てると洋服ダンスを開けて中から詰襟の学生服を取り出した。が、俺はため息をつくと学生服をタンスに戻してその横にある紺の上着とチェック柄のスカートのブレザー服を取り出した。
 



俺達は女だ!!

(病院編)

作:ライターマン



 俺の名前は溝口浩介(みぞぐち・こうすけ)。サラリーマン家庭の長男として生まれ、小学生の頃までガキ大将。勉強は好きな方じゃないが、それでも中学3年のときは真面目に勉強して、新しく出来た私立美住台(みすみだい)高校に一期生として入学することが出来た。
 そんな俺が何でブレザー服を着ようとしているのか?それは俺の高校一年の最後、終業式に起きた出来事のせいだった。


 美住台高校は新しく住宅地として造成される予定である美住台のほぼ中央に建てられた学校だ。
 ただし、まわりはほとんどが雑木林で俺たちの学校と学校の隣に20年以上前からあったという化学研究施設の他は片側2車線の道路が何本か出来てるだけだった。
 本来、美住台には私鉄が通る予定で、学校から500メートルくらい離れた所に駅も出来ているのだが、途中の土地の取得に時間がかかったためにまだ開通していなかった。
 そのため俺達は少し離れた駅から学校が用意したバスを使って登校していた。
 終業式のその日、寝坊した俺は電車を降りるなりダッシュで駅の改札を抜け、ギリギリで間に合うためのバスに飛び乗ることが出来た。


 「……という訳でわが美住台高校も創立から一年。……」
 体育館の壇上では校長が全校生徒(と言っても一年生だけなのだが)の前で演説をしていたが、話の内容は起立して聞いている俺の右の耳から左の耳へと素通りしていった。
 とにかく眠い。
 校長の話は故事を引用した難解な内容で、しかも単調な喋り方は俺の、というより全校生徒の眠気を誘うに充分だった。
 しかも開いた窓から差し込んでくる春の日差しと心地よい風がよけいに俺を眠くさせる。
 俺は必死の思いで眠気と戦っていたのだが、ふと気がつくと外から流れ込んでくる風に妙な匂いが混じってきたのに気がついた。
 甘いような、酸っぱいような、不快ではないけど花の香りとは違う自然の物ではない奇妙な匂い。
 他の生徒や先生達も気が付いたらしく、体育館内がざわめきだしたのだが、次の瞬間

 ドカーン

 という爆発音とともに体育館の右側の窓にひびが入った。
 全員がしゃがみこみ、ワーとかキャーとかいう悲鳴であたりが騒然とするなか、開いた窓から白い煙が入ってきた。
 先程の匂いを何倍も強くしたようなその白い煙は体育館を瞬く間に満たし、それを吸い込んだ俺達はバタバタとその場に倒れ伏した。


 体育館での騒ぎから3時間後、俺は病院のベッドで目を覚ました。
 学校中の生徒や教職員がいくつかの病院に収容されているらしく、まわりでは医者や看護婦が走り回っていたが、駆けつけた母さんに聞くとみんなガスを吸って倒れただけでけが人とかはいないらしい。
 母さんの話の内容からすると、どうやら化学研究施設で爆発事故があったらしい。
 化学研究施設の方では爆発現場にいた研究者が一人死亡したようだが、風向きの関係で他の職員に被害はなかったそうだ。
 俺は体を起こそうとしたのだが、腹痛と関節炎が体を襲い、起き上がることが出来なかった。
 駆けつけた医者が俺を診察しながら言うことによると、既に気がついた人の中にも同じような症状を訴える人がいるらしい。個人差はあるのだが、どうもあの時吸ったガスのせいらしい。
 結局、命にかかわることはないだろうがしばらく様子を見るべき、と言う医者の指示で俺はしばらく入院することになった。


 最初に異変に気が付いたのは看護婦さん達だったらしい。
 事故の2日後から異常のない者は退院していったのだが、それがみんな女性で残っているのは男性だけになったらしい。
 入院4日目、病室にやってきた母さんは俺に会うなりパジャマに顔を近づけて匂いをかぎ始めた。
 「何すんだよ母さん!?」
 「いやね、さっき看護婦さんがそこで話をしていたのを聞いたんだけど、お前たちの『匂い』がおかしいらしいんだよ」
 「『匂い』?で、どう?何か変な匂いがする?」
 「うーん、別に異常じゃないとは思うけど……おまえの匂い、なんか女の子みたいだね」「女の子?」
 「そう、男と女では匂いが違うんだけど、お前のは男と女の匂いが混じっていてどちらかというと女の方が強い、そんな感じかしらね」
 「女の…匂い」母さんの言葉を聞いた俺は漠然とした不安を抱くようになった。


 母さんの言葉を具体的に実感したのはその日の夜からだった。
 病院では共同で利用するシャワー室があるのだが、俺がシャワーを浴びて出て行こうとしたとき、次に利用しようとした男性患者とすれ違ったのだが、その男性の匂いがいつもより強烈に感じたのだ。
 男が出す体臭を強烈に感じるということは自分の体臭が変わってきているのか?そう思った俺はベッドに戻ると自分の体を観察した。
 特に変わったところはない、と思っていたのだがよく見ているうちに俺はあることに気が付いた。
 (体毛がない)
 全くないと言うわけではなかったのだが、太めの体毛は抜け落ちたのか俺の体から消え失せ、産毛のような細かな毛のみが残っていた。


 翌日、俺を含めたあの事故による入院患者は全て尿検査や血液検査、断層撮影などの検査を受けさせられ、それまでの部屋から移動させられて一ヶ所に集められた。
 そこで俺は異変が自分だけでないことを知った。
 みんなの体は筋肉が落ち、代わりに脂肪がつき始めているようだった。入院生活のせいで太ってきたのかと思ったのだが、どうもそうではないようだ。ウェストの方は逆に細くなってきたのだから。
 そして心なしか肌の色が白くなっているような気がした。
 さらに翌日、着替えのためにブリーフを脱ごうとした俺は腰の下でちょっと引っかかるようになったのに気がついた。穿くときには全然そんなことなかったのに。
 俺と同じ病室の連中も、自分の身に起きている変化について少なからず気が付いている様だった。が、このときの俺達はそれほど深刻には考えていなかった。


 入院から一週間が経過した日、入院している生徒の保護者が集められ、俺と両親は診察室に呼び出された。そして医者は俺にこう告げた。

 「あなたの身体はもうしばらくすると女性になる」……と

 俺は信じたくなかった。その日はちょうど4月1日だったのでエイプリルフールだろ?と訊いてみたのだが、医者は深刻な顔を少しも崩さず首を横に振った。
 俺はショックで呆然とし、父さんは怒り出し、母さんはその場で泣き崩れた。
 もう何組も同じような光景を見てきたのか、医者はあくまでも冷静に俺の身に起きていることについて説明を行なった。
 それによると、あの事故で複数の化学物質が混合し、その結果生成された物質により現在の事態が引き起こされたらしい。
 検査の結果、俺の体内では男性ホルモンの代わりに女性ホルモンが分泌され、同時に遺伝子の変質、女性器の生成、男性器の萎縮が進行していることがわかったそうだ。
 そして問題の物質は事故後、拡散分解してしまい、また事故現場の研究員が死亡して研究資料が焼失したため物質の成分が特定できず、現在のところ女性化を食い止める方法はないと言われた。


 医者の説明の後、俺と両親はカウンセリング室に通された。
 そこには女性のカウンセラーがいて、「今回の事故は不幸な出来事だったけど、あなたが女性として生活できるようにサポートします」と言った。
 俺はカウンセラーに質問した。
 「……あの、男に戻ることは出来ないんでしょうか?」
 「残念だけどあなたの体はもう半分近くが男性じゃないの。手術などで進行を食い止められるかもしれないけど、確実じゃないし危険なの。それに女性でないというだけで男性でもない中途半端な存在になってしまうのよ。それよりはこのまま女性として生きた方が結婚できるし子供も作れるわ」
 「結婚……子供……って妊娠するんですか?この俺が!?」
 「経過を見ないとわからないけど、このまま症状が進めば普通の女性と何ら変わらなくなるそうよ。そうすれば生理も来るし妊娠も可能よ」
 カウンセラーの言葉を聞いて俺は思わず涙が出てきた。
 男の俺がもうすぐ女になる。胸が膨らみ、体が柔らかくなり、生理が来る。そして結婚すると男に抱かれて子供を産む。
 こんな事になるなんて誰が想像できただろうか?俺は自分の体がバラバラに打ち砕かれていくような気がした。
 その日俺は病室に戻るなりベッドにもぐりこみ、布団の中で夜遅くまで泣いていた。そしてそれは俺だけではなく同じ病室の連中、いやあの事故による入院患者全てが同じように泣いていた。


 医者の宣告を受けて以来、俺達の女性化は加速しているようだった。

 宣告の翌日から俺の男性としての象徴は目に見えて小さくなっていた。
 そしてそれと反比例するかのように俺の腰の部分は大きくなっていき、それまでのブリーフやパジャマが入りにくくなった。
 俺は母さんにもっと大きめの物を持って来るように頼んだ。しかし次の日、母さんが持ってきたのは女物のパジャマとショーツだった。
 俺は最初それが何か分からずに目の前で広げ、ショーツだと気がついたとたん恥ずかしさで顔が真っ赤になり、慌てて母さんにつき返した。
 母さんは「いずれ着ないといけないから……」と言ったが、それを着けるとその瞬間に自分が本当に女になってしまうようでとても穿く気にはならなかった。


 ある日、俺は鬱陶しくなった髪を切りたいと看護婦さんに相談した。
 入院してから俺の、いやみんなの髪は異常ともいえる速さで伸びていき、この頃には横の方の髪は耳を被い、後ろの方の髪は首の下に達しようとしていた。
 だが看護婦さんは
 「駄目よ、こんなにきれいな髪なんだからもう少し伸ばした方がいいわよ」
 と言った。
 「……」


 さらに数日後、朝目が覚めた俺は喉に痛みを覚えた。
 痛みは2日後にはなくなったのだが、声を出してみた俺は驚愕した。
 俺の声は一オクターブ以上高くなっており、女の子の声になっていた。
 それとほぼ時を同じくして病室では誰も声を出さなくなった。


 入院から2週間が経過した頃、胸の部分に痛みを感じるようになり、少しずつ膨らんできた。
 膨らみがパジャマの上からでもわかるようになると看護婦さんがブラジャーの着用を勧めたが、俺はこれも拒否した。
 だけど、隣のベッドの中島がパジャマを着替えるとき、シャツにブラジャーの線が浮かんでいるのを見てハッとなった。
 中島は反対側を向いていたのだが、以前に比べると肩幅が小さくなり、小さくなったウエストと大きくなったヒップが形作るその後姿は女性そのものだった。


 そしてそれは中島だけではなかった。
 夜中に目を覚ました俺は用を足すためにトイレに入った。
 このフロアのトイレは男女兼用となっていたが、この頃の俺は立って用を足すことが困難になっていたので個室に入って用を済ませた。
 そして多少寝ぼけた目で洗面所へ向かった俺は入れ違いに入ってきた女の子とすれ違った……と思ったら壁にぶつかった。
 「いてて……あれ?」
 少しうめいて目が覚めた俺はまわりを見回したのだが、そこに女の子はいなかった。……いや、いた。立ち上がった俺の目の前の鏡の中に……女の子は……俺だった。
 長くなった髪、白く滑らかになった肌、つぶらな瞳と細くなった顎が作り出した顔は多少昔の俺の面影を残していたが、完全に女の子のそれだった。
 「うっ……う、うっ……」
 俺は涙が止まらなくなり、しばらく洗面所で泣きつづけた。


 入院から3週間が経過したある日、俺のベッドに見知らぬ少女が訪ねてきた。
 いや、よく見るとそいつは同じ病室の小杉だった。
 小杉は白いワンピースを着て、長くなった髪を肩のあたりで切りそろえていた。
 「……お前、小杉か?どうしたんだその格好?」
 「ああ……今日で退院することになったからな。それで挨拶をと思って……」
 「退院……じゃあ……」
 「ああ、………来ちまったんだよ……とうとう……」
 そう言って小杉は苦笑いを浮かべた。


 2日前、検査を終えた俺は担当の医者から
 「もうすぐ君に月経、つまり生理が来るだろう。それが終われば症状は安定し、入院の必要はなくなるから退院できるよ」
 と言われた。
 つまり生理が来ると完全に女性になり、もう男には戻れなくなると言うことだった。
 そして小杉にはそれが来てしまったのだ。


 小杉は笑いながら、
 「この服、笑っちまうだろ?女の子みたいで…っつーか女の子なんだけどさ。……さっきお袋から『体が変わったんだから体に合う服装をしなさいって』渡されてたんだよ」
 と言って肩をすくめた。
 「でも……よく着れたな。嫌じゃないのか?」
 「それについては開き直った、って言うかヤケクソだな。だけど、体に合った服を着ないと体によくないのは事実だよ。下着についてもそれなりの理由はある。ま、もうすぐしたらお前にも分かるよ」
 「……」
 「俺は女になっちまった。……けど、だからと言ってすぐに『女性らしく』とか『女の子らしく』とかするつもりはないぜ。誰がなんと言おうと、俺は俺だからな」
 そう言って小杉は腰に手をやると、えへんと胸を張った。
 その姿に俺は少し笑ってしまった。そして小杉に手を差し出した。
 「強いな小杉は……ありがとう、少し元気が出たよ」
 「お前もこれからが大変だと思うが……がんばれよ」
 小杉は片手を上げ、「じゃあな」と言うと病室を出て行った。


 小杉の言う「大変」は、それから2日後にやってきた。
 その日の俺は具合が悪く、頭痛に続いて腹痛が襲ってきた俺はトイレの個室に入ると便器に腰をおろした。
 だが、いつもと違う感覚に便器をのぞいた俺は、恐れていた「あれ」が来たことを知った。
 「あ……あっ………」
 俺は叫びだしそうになるのを何とか我慢し、個室の中の呼び出しボタンを押した。
 すぐに看護婦さんがやってきてドアをノックしたので俺はドアを開けた。
 看護婦さんは状況を把握すると応急処置をして俺をナースステーションへ連れて行った。
 とうとう女になってしまった……その事実に俺はしばらくの間泣き続け、そんな俺を看護婦さんは優しく抱いて背中をさすってくれた。


 生理になった俺は生理用ショーツを着けることになった。
 女性用の下着を着けるのはすごく恥ずかしかったが、「貼るのと差し込むの、どっちがいい?」と言われたら他に選択肢はなかった。
 そしてそれは女性用の衣類に対する抵抗を和らげる効果があったのか、翌日母さんが持ってきたブラジャーを少しはためらったものの結局は身に着けた。
 着けてみると女性用の下着は意外に気持ちがいい事が分かった。
 今までの衣類は敏感になった俺の肌に合わなくなっていたし、動くたびにブラブラしていたバストがしっかり固定されたことで気分的に落ち着いたような気がした。
 ……胸を締め付けるブラジャーの感触にはあまり馴染めなかったけど。
 そして生理から3日目、俺は退院することになった。


 退院の日、俺は病院のベッドで母さんに渡された服を手にして硬直していた。
 「か、母さん……やっぱり……これ、着ないと……ダメかな?」
 「なるべく地味なものを選んだつもりなんだけど……いずれは慣れないといけないのよ」
 母さんにそう言われて俺はため息をついた。
 「はあ……分かったよ、母さん。着替えるから少し待ってて」
 と言ってカーテンを閉めた。
 10分後、着替えを終えた俺はカーテンを開けた。
 「お待たせ……お、おかしくないかな?」
 顔を赤くして訊ねる俺に母さんは
 「ううん、おかしくない。すごく可愛いわよ」
 と答えたものだから俺の顔はもっと赤くなった。
 そのときの俺の服装は白のブラウスに膝下までのブラウンのスカート、そしてピンクのカーディガンを羽織っていた。
 前の日に看護婦さんに髪を切り揃えてもらっていたので、どこからどう見ても俺は「女の子」にしか見えなかっただろう。
 すごく恥ずかしくなった俺は、病室の他の仲間や看護婦さんに簡単に挨拶するとタクシーを呼んでもらい、急いで家へと帰っていった。


 家に帰り着いた俺は母さんから入院している間の事情を聞いた。
 それによると、”被害者のプライバシーを守るため”に事故および事故の被害者である俺たちについては報道が厳しく規制されているということだった。
 それでも最初のうちは写真週刊誌や芸能雑誌とかが規制を無視して取材していたらしいけど、最近出来た法律によりそれらが摘発され発行禁止になってからは取材も来なくなったらしい。
 俺にはそれがどういう法律だかは知らないけれど、マスコミとかに騒がれないのは非常にありがたかった。
 そう言えば美住台高校を含む美住台一帯の土地は国会でもかなり力のある政治家のものだという事だったから、その辺の事情もあるかもしれない。
 それから学校の方は通常より1ヶ月遅れてゴールデンウィーク明けから1学期が始まることになったと連絡があったそうだ。
 制服については男女どちらの制服を着ても構わないという事だった。


 母さんの話を聞いた後、俺は1ヶ月ぶりに自分の部屋に戻ると部屋の中を見回した。
 以前と変わらず……いや、少しだけきれいになっている部屋。どうやら退院前に母さんが掃除をしたようだ。
 机やキャビネットの中が何もいじられていないことを確認した俺は洋服ダンスの扉を開けたのだが、そこには以前の俺の服の他にいくつか新しい服が隅の方に架けてあるのに気がついた。
 取り出してみると、それはやはり女物の服だった。やはり母さんが入れたのだろう。
 続いて洋服ダンスの中の引き出しを開けた俺は、以前入っていた男性用下着の代わりにショーツやブラジャーが詰められているのを見て慌てて引き出しを元に戻した。
 思わずドキドキしてしまったが、少しして落ち着いた俺は洋服ダンスの中から以前よく着ていたブルーのTシャツとジーンズを取り出して着替えてみた。

 (………に、似合ってない)

 鏡を見た俺は落胆のため息をついた。
 とにかく体型に合わないのだ。胸や腰の部分はパンパンに張ってきつくなっており、逆に肩やウエストの部分はブカブカにゆるくなっていた。
 仕方なく着ていた服を脱いでハンガーに架け直した俺は、新しく架けられた服の中にどこかで見たような紺色の服があるのに気がついた。
 それは俺の予想どおり、うちの学校のブレザー服だった。

 (俺……これを着なくちゃならないのか……)

 一応、学校からは男子学生服で来てもかまわないと連絡はあったが、恐らくはさっきの服みたいに似合わないだろうし動きにくいだろう。
 そう思った俺はしばらくためらった後、それを着てみることにした。
 袋に入ったブラウスのひとつを開けた俺は、左右逆になったボタンの位置に戸惑いながらも何とかボタンを留め、ブレザー服の説明書にあったとおりにリボンをつけた。
 そしてチェック柄のスカートに脚を通すと腰の位置まで引き上げてファスナーを閉め、紺色の上着を着てから鏡の前に立った俺は衝撃を受けた。

 (………か、かわいい)

 自分で自分のことを「かわいい」と言うのも変な話だけど、鏡の中の女の子は確かにかわいかった。
 整った顔立ち、長くて艶やかな髪、着ているブレザー服は女の子らしさを強調し、スカートの下からはすらりとした脚が伸びている。
 そして信じられないことだが、それは俺自身なのだ。
 その証拠に俺が右手を上げれば女の子が左手を上げている。俺が鏡に背を向けて後ろを向くと女の子も背中越しにこっちを見ている。そして俺がクルッとまわって首を傾けると女の子のスカートがふわりと舞い、髪の毛が流れ………

 (だぁぁぁ――――っ!!な、な、何をやってるんだ俺はぁぁぁ――――っ!!)

 我に返った俺は頭を抱え、心の中で絶叫した。


 その日の夜は仕事から帰ってきた父さんと3人で退院祝いをやった。
 テーブルの上にはご馳走が並んでいたが、茶碗にはいつもの白飯ではなく、お赤飯が盛られていた。
 父さんはため息をつきながら「まさか息子の『女の子の日』を祝う日が来るとはなあ」と苦笑いをし、それを聞いた俺はお赤飯の意味を知り顔が真っ赤になった。
 そのときの食事は確かに美味しかったのだが、すごく複雑な気分だった。
 そして食事の後、俺と両親は自分の名前について話し合った。
 女になってしまった俺の戸籍は当然書き換えられることになり、それに伴い名前も変更することになった。
 話し合いの結果、俺の名前は浩美(ひろみ)になることに決まった。
 それからも(母さんに服を買いに連れ出されたりとか)色々とあったものの、5月に入り俺は学校に通うことになった……女子高生として。


 美住台駅
 入院している間に開通した路線の電車に乗って俺は駅を降りると学校までの道を歩いていった。
 美住台一帯は本格的な造成が始まり、駅の周辺ではいろんな建物が建ち始めていた。
 学校に近づくにつれて学生の数も多くなっていたが、大半が女子生徒で男子生徒は2割くらいだったが、これは今年の一年生のようだった。
 女子生徒は学年によってリボンの色が分けられていた。
 以前配られていたプリントによると黄色系は一年生、赤色系は以前から女子だった二年生、……そして青色系は俺の様に事故で女になった二年生だった。


 「おはよう」「おはようございます」
 学校にたどり着いた俺は校門に立っていた女性教師と挨拶を交わした。
 新任の教師かな?と思ったのだが、どこかで見たような気がした俺は胸につけてあった名札を見て思わず声を上げた。
 「……え、えーっ!?川崎ってあの川崎先生なんですか!?」
 それは体育の教員で生活指導を担当していた川崎先生だった。
 確かに川崎先生なら朝に校門に立っているのは珍しくないのだが、以前は角刈りでジャージを着ていかにもスポーツマンという感じの先生だった。
 しかし川崎先生の今の格好は、グレーの上着とタイトスカートといった、ごく普通(?)の女性の装いをしていた。
 「ああそうだよ、お前達と同じ様にあの事故で女になってしまってな……で、こんな格好をしてる訳だ」
 川崎先生は苦笑いをしながらそう言った。


 「この服装、おかしいかな?一応いろいろと考えては見たんだが」
 「いえ、そんなことないです。とても似合ってますよ……と言っていいのかどうか。あ、もしかして昔からそういう趣味だったとか?」
 「そんな訳あるか!!お前達にそんな格好をさせておいて俺達教師が安易な方法に逃げたら、お前達を教える資格なんか無いじゃないか。そう思ってな」
 「え?じゃあ、俺達のために?」
 「それだけじゃないさ、俺達教師もこんな事になってすごく悩んでる。俺は独身だからまだいいが、結婚していた人も何人かいるからな。正直これからどうすればいいか、お前達をどう指導していいか、結論はまだ出ていない。
 それでも校長先生と他の教師と話し合った結果これだけは決めた。今回のことで俺達教師と生徒達が、自分の人生を否定的に生きることが無いようにしよう。そのためには俺達教師が前向きに生きていく姿を見せるべきだ……とな」
 「先生……なんか今の先生って、すごくかっこいいですよ」
 「ふっ、柄にもないこと言うな。お世辞を言っても何も出んぞ。もうすぐ始業式が始まるから早く行ってクラス編成を確認してこいよ」
 「はい」


 クラス編成を確認した俺は自分の教室に向かって廊下を歩いていた。
 二年生は全員女子クラスなのだが、よく見るとどうやら青リボンのクラスと赤リボンのクラスが交互に編成されているようだった。
 まあ体育の着替えとかを一緒にやるのはお互いに抵抗あるだろうし、これは今のところ仕方がないだろう。
 これからも色々困惑する事もあるだろうし、つらい事もあるだろう。
 それでもさっきの川崎先生のように自分を否定することなく前向きに生きていけるようになりたい。そう思いながら俺は目の前のドアを元気よく開けた。
 「おはよう。これから一年間よろしくな」

 こうして俺の新しい学年、そして新しい人生がスタートした。

(おわり)


おことわり

 この物語はフィクションです。作品中に出てくる人物、団体は全て架空の物で実在の物とは何の関係もありません。
 また、作品中の「法律」は「マスコミの取材を排除させるため」のでっち上げです。実際にはそんな法律ありませんし、審議中、検討中のいかなる法案とも該当しません。


あとがき
 どうも、ライターマンです。
 この話、以前真城さんの「子供の日」のあとがきで書いてあった「集団性転換とその後」のアイデアを基に新規にストーリーを作ったものです。
 ……が、変身の過程だけでこ〜んなに長くなってしまい、とりあえずここまでを「病院編」として出すことにしました。
 この後はいよいよ「学校編」、女になってしまった主人公達の学生生活を書く予定ですが、まだ具体的な内容は決まっていません。(^_^;)
 まあ、気を長くして待っていて下さい。

 それではまた。

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