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 筋肉はぁぁぁぁぁっ、美っ!
 筋肉はぁぁぁぁぁっ、正義っ!
 筋肉はぁぁぁぁぁっ、世界を救うぅぅぅっ!!

 雄たけびあげて鏡の前でポージングをする吾輩。
 うむ。今日も絶好調。肌艶が良いな。
 鍛え上げた筋肉はそれだけで芸術品。だが吾輩はまだまだだ。
 風の噂に聞く『筋肉ダルマ』とまで呼ばれる漢(おとこ)。さぞかしすごいのであろうな。
 吾輩も精進せねば。
 よし。このままヒンズースクワットだっ。


 まったく……いつもながらうぜえ。
 タンクトップ姿で今日も鏡の前でポージングしてるのはオレのアニキ。
 筋トレにはまりすぎて全盛時のシュワルツェネッガー以上の体に。まだ19歳なのに妙なスメルまで醸し出してやがる。
 お約束で角刈り。

「おい。兵堂(へいどう)。お前もやらないか? 気持ちいい事」

 妙にホモくさい顔をこっちに向けて呼びかける。
 くせーんだよ。口臭も体臭も。こっち向いてしゃべんな。
 さすがに面と向かって言えないが。
「オレにはその気はねーよ」
 「兵堂」というのはオレのこと。ちなみに兄貴は「松千代」。
 マッチョにかかっているのは言うまでもない。
 まあ親父も母さんも時代物が好きで、こんな名前になったというのもあるが。
 アニキの場合、未熟児として生まれてきたとかで。一時は育つかどうかも怪しかった。
 それでたくましくなるようにと「マッチョ」にかけた命名だったらしいが……願いかない過ぎだろっ。
 オレは深いため息をついた。


「む。それはいかんな。お前もそんななまっちょろい体ではなく鍛えた方がいい。最低でも体を動かさないと変な気を起こしたままだろう」
「オレのどこが変だって?」
 わが弟ながら貧弱な坊やが反論する。
 吾輩が身長201センチ体重135キロなのに対し、こいつは165センチ55キロ。
 比較的端正な部類に入るが神経質そうだ。血を分けた兄弟とは思えんな。
 そう思わせるのはもう一つ要素があり……

「ねえ。今夜は何を食べたい?」

 11歳になる我が妹。まつりがひょこっと顔を出した。
 身長は153センチだったかな。
 体重は教えてくれないが、胸元はだいぶ大人になりつつある。
 ショートカットが快活なイメージだ。
 それを見てまたため息をつく弟。
「時って残酷だよな……あんなに愛らしかったまつりがこんなに老けちまって
「ちょっと!? 老けてるって何よそれ?」
 11歳で「老けてる」と言われて怒らないはずはない。
「うるせえ。年齢フタケタ過ぎたら女はみんなババアだ」
「そんなことばかり言ってるから『ぺド』なんて呼ばれるんだよ。ちいにぃ」


 ペドフィリアのどこが悪い?
 幼女を愛することが罪だとユートピア?
 女は一桁までが旬だ。
「なんだかよくわからんが、とにかくお前も体を鍛えろ。そうすれば男らしさに女の方から寄ってくるぞ。吾輩とともに筋肉を極めようっ!」
「それ以上うざくなる気かよ!?」
 今度はオレも「うんざり」した表情を隠さない。
 しかしこの脳みそ筋肉かつお花畑には皮肉も通じない。
「極めるのだ。果てなどないがそれを突き抜けるほどにな。そーれ。ふんっ。むんっ」
 アニキはまた暑苦しいポージングを始めた……

 が、突然爆発した。

「な、なんだ?」
 煙がひどい。オレとまつりはしばらく咳に苦しめられたが何とかそれが収まった。
「はっ? 松兄ちゃんは?」
「殺しても死ぬようにゃ見えないが……」
 とはいえ爆心地どころか爆発した本人。無事とも思えないが。

「二人とも大丈夫か?」

 突然、甲高い舌っ足らずな声……幼女!?
 麗しの幼女の声がするっ。
 どこだ? どこにいる?
 オレは兄貴のことなどきれいさっぱり忘れて幼女を探した。
「ちぃにい。あれ……?」
 戸惑うような、怯えたようなまつりの声がする。
「何だ? オレは今忙しい」
「でもあれ。松兄ちゃんが」
 はっ。そうだ。アニキはどうなった?

「おお。無事か。よかった」

 声の方を見ると、ぼろぼろのタンクトップに身を包んだ、可愛らしい幼女がいた。






突き抜け

作:城弾





「ようじょーっ」
 突如として兵堂が狂ったように吾輩に飛び掛かってきた。
 こらこら。無事を喜んでくれるのはいいが、そこまで騒ぐな。
 飛び掛かる弟が、大木にとまるセミの様に吾輩の体にしがみつくイメージが脳裏に浮かぶ。
 ところがあろうことか、吾輩は兵堂に押し倒された。
「な、なにぃ? 兵堂のどこにこんな力が?」
「はぁぁぁ。ようじょおー。あったけぇぇ。やわらけぇぇぇ」
 くんかくんか。はすはすはすはす。
 やたらに吾輩の匂いを嗅ぐ。
 いつもなら「くさいからこっちくんな」とか邪険にするのに。
「や、やめんかっ! 犬か。お前はっ」
「やめるもんか。ああ。なんと香しい匂い。花のようだ」
 くんかくんか。はすはすはすはす。
 勢いはまるで止まらない。体をあちこちまさぐられる。
 くそっ。なんで振りほどけない?
「まつり。助けろ」
 不本意だが妹に助けを求める。
「もしかして……松兄ちゃんなの?」
「吾輩が他の誰に見えるというのだ?」
 兵堂に「はすはす」されながら答える。
「あれ見て」
 まつりが指し示したのは、吾輩が先ほどまで自身の筋肉美を堪能していた鏡。
 そこに映るのは、見苦しく「くんかくんか」している兵堂。そして抱きしめられている幼女…………待て?
 これはもしかして、吾輩の姿なのか?
「ほら。ちぃにい。ちょっと離れて」
「はっ? オレは今まで何を?」
 やっと兵堂は吾輩から離れた。それで確認できるようになる。
 鏡に向かうとぼろぼろのタンクトップが剥がれ落ちて、裸の幼女。
 まつりと並んだ状態で映っているので、比較した感じ身長110センチ前後か。4〜5歳くらいに見える。
 背中までの黒髪。前髪ぱっつん。
 可愛い顔立ちの女児だ。どことなくまつりの幼少時を思い出させる。
 動いてみると吾輩と全く同じ動きをする。もちろんボディビルのポーズだ。
 それと寸分たがわぬポーズをとる鏡の童女。
「まさかこれ? 吾輩か?」
「……どうやらそうみたい」
 信じられない、といった口調でまつりが頷いた。


 そのままにしておいていいのに「いつまで裸じゃ可哀想」とかいって、まつりは幼女になったアニキに自分のTシャツを着せた。
 余計なことを……いや。これはこれで愛らしいか?
 まるでワンピースのようだ。
 ソファにちょこんと座って、そのぷにぷにしたあんよが……ああああっ。パンツが見えそうで興奮するっ。
「うう。なんという情けない姿に。この腕を見ろ。箸より重たいものが持てるのか?」
 そのほっそりとした腕をさすり、幼女と化したアニキが嘆く。
「何を言うアニキ。素晴らしい。素晴らしいよっ。まつりの胸がおぞましく膨らんで、素晴らしい時間が過ぎ去った絶望に世を捨てていたが、再びゴールデンタイムがこようとはっ」
「家の中だからって大声で恥ずかしいことを叫ばないでっ。ちいにい!」
「オレは讃えているだけだ。アニキ。いいよ。いいよ。ベリッシモ(いいよ)! ディ・モールド・ベネ(とてもいい)!!
「な、なんだか目つきが怖いぞ。兵堂」
 怖がる顔もかわいい。
 そしてその声。なんと愛らしい。
 例えるなら双子姉妹でいろいろだめだが、女子力は高くて人当たりもいい妹というか。
 金髪でうさ耳に見えるリボンの天才少女雀士というか。


「どうしてこんなことになってしまったのだ……? 男の中の男を目指して鍛練を続けていた吾輩が、何ゆえ童女の姿に?」
「うーん。『鍛え過ぎて』しまったとか? ……ほら。風船を膨らましすぎて破裂させたみたいに」
「男を極めちゃったんで、今度は女でやってみろということだったりして」
 他人事だと思って好き勝手なことを。
「どうすればよいのだ……親にはなんといえば」
 父は画家。母は小説家。
 吾輩が大学に進学したことで、この家を任せて海外に仕事の拠点を移してしまった。三人で暮らすには十分な生活費が送られてきてはいるが。
「なんとか元に戻す方法を考えないとね」
「そうだな……」
 相槌を打つと、吾輩は立ち上がった。
 こんな変化をしてもちゃんと生理現象は起きるのだな。


 トイレで吾輩は硬直していた。
 男のシンボルがなくった今、座ってするしかないわけだが……それではまるで女ではないか。
 いや……実際に女のようなのだが、それを認めたくない思いで躊躇を。
 とはいえしないわけにもいかない。諦めて腰を下ろしかけた時だ。
 突如として扉が開いた。……しまった。鍵をかけ忘れたか。
「アニキ。手伝ってやるよ」
「へへへへへへへ兵堂っ!? 何しに来た!?」
「だから手伝いだよ。女の子の体では初めてだろ。トイレ」
 いうなり吾輩を持ち上げる。こいつ、この細い体のどこにそんな力が。
 いや。そんな事よりおろせ。
 それを言葉にしたら、
「そうだね。おろしてあげるよ」
 それを吾輩の耳元でささやくように言う。そのまま耳に息を吹きかけてきた。
「ひゃうっ」
 どうしようもない感覚で脱力して、抵抗をやめた瞬間に「パンツ」をおろされた。
「ば、バカ。そうじゃなくて……早くおろせ。漏れる」
「うん。もう下半身は露出しているからしていいよ」
 そんな風に言うな。なんだか無性に恥ずかしいぞ。
 あ。だめ。限界。出る。
 水音がし始めた。
「しー、しーしー」
 兵堂がまるで赤ん坊にでも言うように口にする。
 くっ! 屈辱! 恥辱!
 まさか放尿を。それも女児としての姿でしているところを見られながらとは。
 涙が出る。
 それでも最後まで出し尽くして止まる。
「はーい。よくできました。それじゃキレイキレイしようね」
 吾輩の思考が停止している間に、兵堂の手が股ぐらに伸びた。
 畳んだトイレットペーパーらしいものをあてがわれた瞬間に意識が戻る。
「何をしとるか。きさまはぁ?」
「きれいにしてるんだよ。女の子は清潔にしないとね」
「自分でやるわぁっ!!」
「いいんだよ。アニキ。こんな体になって困ってるんだろ。助けてあげないとね」
「貴様が欲望を満たしたいだけだろがぁ――ひゃうんっ」
「あ。ごめん。手が滑った」
 き、貴様、とんでもないところまで触りおって。
「いやあ。でもさすがにまだ固く閉じてるなぁ。実にいい」
 これが本当の五歳の女児ならば何のことかわからず、きょとんとしているだけだろう。
 しかしいくら吾輩が朴念仁とはいえ、それが何を意味するかくらい分かる。
 そしてそれがひどくおぞましいと。
「へ、変態め」
「くくく。ありがとう。最高の褒め言葉だよ」


 いやあ。まつりが小さかった時は、オレも持ち上げるだけの力がなくてできなかった。
 けど、やっと「女児のトイレの後始末を手伝う」という悲願が成就された。
 しかしまだだ。こんなものでオレの心に燃え盛る炎は尽きたりしない。
 燃えろ! オレのロリコン魂!
 楽しいなぁ。次は何をしようかな?
 お風呂? お着替え?


「それじゃ夕飯のお買いものしてくるから。ついでに松兄ちゃんの服も買ってくるね」
「ま、待て。吾輩をこの変態と二人きりにするな。買い物なら一緒に連れて行け」
「何言ってんの? そんなかっこうで表に出せるはずがないでしょ」
 Tシャツをワンピース代わり。そこまでひどくはないと思うが、女性の美意識ではNGということか?
「それじゃ行ってくるから」
「た、頼む。吾輩も」
 懇願むなしく。無情にも妹は外に出てしまった。
「アニキ。二人きりだねぇ」
 邪悪な笑みを浮かべる兵堂。
 反面それが今までにないほど「いい表情」に見える不思議。
「よるな。変態。吾輩が無力になったとたんに報復か?」
「仕返しなんてむなしい事さ。兄弟なんだ。助け合おうぜ」
 これほど嘘くさいセリフも珍しい。
「さしあたって」
 いったいこの貧弱な体のどこにそれだけの瞬発力があるのか。
 まるでばね仕掛けのように一足飛びに吾輩の傍に。
 そして軽々と抱きかかえる。
「はなせーっ」
 手足をじたばたさせるが童女の肉体ではむなしく空を切るだけ。
 しかしなんだ? この力は。
 しっかりとつかんでいるが決して強すぎず。
 例えて言うならシートベルトのような感じ。
 女子ならブラジャーをたとえに出すかもしれない。
 そして存外なことに不快ではない。
「はぁはぁ……幼女。やわらけー。あったけー。いい匂いするなぁ。はすはすはすはす」
 ……前言撤回。思い切り不快である。
 そのまま吾輩は風呂場の脱衣所に連れ込まれた。
「な、何をする気だ!?」
「アニキ。だいぶすすけているから洗ってあげるよ」
 確かにすすけている。だが嘘だ。少なくとも動機は別だ。表情が物語っている。
「さあ。脱ぎ脱ぎしようねぇ」
 いうなりまた無駄な身体能力で、吾輩の着ていた衣類をはぎ取る。
「こんなこともあろうかとイメージトレーニングを積んでいたのが役に立った」
 すると、こいつは日ごろから幼女の衣類をはぎ取る妄想をしていたのか?
 あっという間に吾輩は生まれたままの姿……ではなく「生まれ変わった姿」へとされてしまった。
 そしてそのまま浴室に。
 くっ。今まで散々しごいた恨みで、吾輩が無力になったところを殺すつもりか?
 こんな体では太刀打ちできないが、むざむざ殺されはせんぞ。
「お待たせぇ」
 腰にタオルを巻いた状態で兵堂は中に……違う。
 なぜかタオルは腰に巻きつけられておらず。
 まるでハンガーにでもかかっているかのようにぶら下がって……何に? ナニにか!?

「貴様、何をたぎらせているんだぁーっ!!」

 悍ましい。なんと悍ましい。殺された方がまだましかもしれん。


 滾る? そうだね。滾らないはずはない。
 幼女とお風呂。はぁはぁ。
 まつりが一緒に入らなくなって以来、自分の子供ができるまで待つのかと絶望したが、こんな形で夢がかなうとは。
 これが滾らずにいられるか。
「はぁーい。それじゃきれいにしようねぇ」
「ギャーッ。どこに収める気だーっ?」
 どこって、洗いやすいように手元に寄せるだけだよ。
 そう。アニキを引き寄せ、オレの脚と脚の間に収める。
 ああ。つぼみの状態のアニキの股間が、オレ自身に当たって……し・あ・わ・せ。
「はなせぇーっ。『入ったら』どうするんだぁーっ」
 アニキも幸せなのか暴れていたのだが、不意におとなしくなった。
 あれ? 寝ちゃった?
 しょうがないなぁ。でもまぁ寝顔もかわいいからいいか。
 とても元があの兄貴とは思えない。


「はっ!?」
 吾輩は風呂に入っていたはずなのに布団で目覚めた。
 あまりの悍ましさに気を失っていたのか?
「あ。気が付いた? 松兄ちゃん」
「まつり……」
「もう。大変だったんだよ。兄ちゃんお風呂で気を失って。そこにあたしが帰ってきたから二人であわてて。救急車呼ぼうとあたしが言うのに『寝ているだけだ』と主張するから寝かせて……」
 あれだな。おのれの淫行がばれないようにしただけだろう。
「大丈夫? 晩御飯食べる?」
「すまないが食べたくない」
 こんな姿になったのだ。食欲などなかった。
 そのままてしまおう。
 すべて夢で、目覚めたら元通りならいいのに。


 夜。オレの目はフクロウのようにらんらんと輝いていた。
 一つ屋根の下で幼女が寝ている。ならばとるべき行動は一つ。
 オレはアニキの部屋へと向かった。
 思った通りだ。自尊心の強いアニキだ。
 絶対に妹に添い寝なんてさせない。読み通り一人だ。
 なら、弟ならどうかな?
 オレはそっとアニキの布団に忍び込み、優しく抱きしめて 条件反射で匂いを嗅いでいた。
 くんかくんか。はすはすはすはす。


 朝。な、なぜ吾輩は兵堂に抱きしめられた状態で目覚めたというのだ?
 以前など逆に添い寝を申し出たら断固拒否されたというのに。
「松兄ちゃん。起きてる?……何してんの?」
 様子を見に来てくれたらしいまつりが、目を丸くする。
「まつり。助けてくれ」
 もう恥も外聞もなく助けを求めた。
「この変態ががっちりつかんでて起きられない。にょ、尿意が切迫しているというのにっ!」
「それはいけない」
 いきなり覚醒した変態弟。狸寝入りかぁーっ!
 そしてまたそのままトイレに連れ込まれ、屈辱の場面を。


 ドタバタしたがまつりの要件は、国際電話だった。
 相手はわが父と母。
 そう。吾輩の異変を説明するために電話に出てくれというものだ。
 時差の関係でこんな時間に。
 父は信じてない口ぶりだったが、母はさすがに小説家。
 この突拍子もない話すらも「ありえる」と理解したらしい。
 状況を見るために緊急帰国をすることにしてくれた。


 三日後。親父と母さんが帰ってきた。
「兵堂? その子は?」
「オレの娘だよ。父さん。母さん」
「うそをつくなぁーっ」
 抱きかかえたアニキが暴れだす。
 まつりの買ってきた女児服に身を包んでいる。
 脚の長さがわからず、スカートのほうが無難という理由で、ボトムスはスカートだけというGJだ。
「こらこら。そんなに暴れるとそのちっぱいがオレの胸を刺激して、オレの股間がまた暴れん坊になるだろ?」
「ひっ!」
 途端におとなしくなった。
 元は男のアニキにとって、他の男のそれを眼前に突き付けられるというのはトラウマものだったらしい。
 これを口にするとおとなしく従うようになった。
 さすがに相手もいないのに「娘」は無理があるので、本当のことを話す。
 もっとも真実のほうがよっぽど信じがたいが。


「それではお前が本当に松千代なんだな?」
「何度も言ってるではないか。吾輩が島田松千代だと」
「ううむ。こんな幼い娘が、わたしたちをからかうためだけに、それだけのことを覚えてくるとは考えにくい」
 この時ばかりはこの童女姿に感謝だ。
「そうかぁ。お前が松千代かぁ」
「すっかり可愛らしくなっちゃって」
 笑顔になる二人。
 な、なんだ? どういうことだ?
「父よ。母よ。嫡男がこんな有様なのにどうして笑顔なんだ?」
 舌足らずな童女の声で思わず尋ねる。
 それに対する返答はあまりといえばあまりの物だった。
「いやぁ。海外に拠点を移したのも実をいうと」
「人間離れしたあなたが気持ち悪くなったからなのよねぇ」
 な、なんと……吾輩は実の親に見捨てられていたのか……あまりといえばあまりなことが、立て続けに起こる。
「しかしこれだけ可愛いなら話は別だ」
「ええ。今の仕事が終わったら帰国しましょう」
「そうだな。この見た目だと五歳くらいか。この際、幼稚園から女性としてやり直させよう」
「それはいい考えだわ。大体の学校に顔は聞くから特例でねじ込めるはずよ」
 二人の言葉など耳に入らなかった。
 男の中の男になるべく鍛えていたのに、それゆえ両親に忌み嫌われていたとは……
 くそう。こうなったら意地でも「むさくるしい男」に戻ってやる。


 パラダ〜イスっ!
 あと4〜5年はこの幼女がうちにいる。
 アニキのことだ。心まで女になるまいと思っているだろう。
 つまりピッチとかギャルなどにはなるまい。
 胸も膨らまそうなんて思わないだろう。
 楽しみだ。これから毎日が。


 それからの5年間は地獄だった。
 兵堂に匂いをかがれ、抱きしめられたり。
 さすがにトイレはもう大丈夫だったが、風呂は背の低いうちは一人で入れず。
 両親が仕事で不在がちなのは変わりなく、遅くまで家事をしているまつりは手が空かないため、吾輩の世話は必然的に兵堂が担当になった。
 最初はそれを拒否して、家事が済んでからまつりと一緒に入ろうとしたのだが、この体では夜遅くまでもちこたえることができない。眠ってしまうため兵堂の出番となった。
 それも肉体的に8歳のころには終わった。
 そして吾輩の胸が膨らみ始めたとたんに、兵堂は吾輩に興味をなくした。
 それにしてもどうやれば吾輩は男に戻れるのだ?
 いつ戻ってもいいように女の身でも鍛練を欠かさないが、胸筋を鍛えるつもりが乳房が膨らむ始末。
 腹筋を鍛えて幼児体型でなくなったのはいいが、必要以上にウエストが細くくびれて。
 腰もがっちりとしているというよりは安産体型だし。
 女の体ではいくら鍛えても元のようになれぬか。
 せめてもの抵抗で髪は短く。
 そしてスカートを断固拒否していたが。
 それでもこの肉体は確執に大人の女へと変わりつつある。
 ずいぶん女らしくなってしまった……

 待てよ?

 この肉体はどれだけ抵抗しても女のそれになってしまう。
 ならば逆転の発想。
 男を鍛えすぎて突き抜けて女になった……というなら「逆」もありではないのか?


 あー。終わったか……素晴らしい時間が。
 ロリコンの定めと言えど、幼子の成長が早いのには世の無情を感じる。
 ええい。この滾る思いをどうして鎮めてくれようか?
 いつしかオレは、滾る思いを発散させるため、かつてのアニキ同様に体を動かすのが趣味になっていた。
 幼女なアニキの世話をしてつくづく感じた。幼女相手はパワーがいる。
 鍛える必要性を認めたわけだ。


 さらに5年が経ちました。
「千代は準備ができましたわ。まつり姉さま」
「ねえ兄さん。『姉さま』はやめて。あたしが妹なのよ」
「でも肉体上はわたくしが15歳くらいで姉さまは21──」
「実際はアラサーでしょうがっ! あんたはっ!」
 ひと通り怒鳴り散らしてもまだ収まりません。
「それにいつも思うけど……その口調は何とかならない? 女らしいのもほどがあるんじゃ」
「まだまだですわ。わたくし、今度は女を極めて突き抜けようと思ってますの」
 吾輩……この一人称は男に戻るまで封印です。
 わたくしは五年前から方針を変えました。女の肉体では男のように筋肉はつきません。どうしても男のようにはなりません。
 でしたら、わたくしが男を極めようとしたその結果として、突き抜けて女の子になったときのように。今度は女を極めて突き抜けて再び男に戻ろうと。
 だから11歳から女らしいといわれることはすべて手を出してまいりました。
 華道に関してはちょっとしたものになった自信がありますの。
「まぁどのみち戻れないにしても、女らしくしとけば無難だけど……着物はちょっとどうよ?」
「そうですか? 普段華道で使っているものですが。失礼のないようにしないと」
「おまわりさんにはね」
 わたくしたちはとある警察署へと、身元引き受けのために参りました。









「出ろ。お迎えが来たぞ」

 オレは警察官に連れられて席を立った。
「兵堂兄様!?」
「もう。なにやってんのよっ!? ちいにい」
 ふん。やはり迎えに来たのは年齢二桁のばばあどもか。
「何やっただって? 幼女たちが関心を持つであろうものを見せてあげただけだか」
「とかいってまたズボン脱いだんでしょう」
 まつりはズバリ言い当ててきた。
「せっかく鍛えたんだ。見せたくなるのは人情だろう」
「まったく……懲りてないわね」
「ほんとにね。さっさと連れて帰ってください」
 警官がなんか呆れたように言う。もとより理解されるとは思ってない。
 ロリコンは孤高の存在よ。
「わかりました」
 着物姿の千代(対外的に呼んでいたのが定着してしまった)がオレにしがみついてくる。
「さあ。帰りましょう。お兄様」
「ええい。離せ。その膨らみ切った胸を押し付けるな。ふん。女は胸が膨らんだら終わりだな」
「兄様。まだそのようなことを」
「ロリコンのどこが悪い? 幼女が好きだと犯罪か? そこまで言うなら逆にオレは幼女好きを極めてやるわあああっ!!」

 次の瞬間、オレは爆発した。


「けほっ。けほっ。兄様? 兵堂兄様?」
「兄さん……あれ?」
 まつり姉さまのさす方角。そこには兄様がいたはずなのに、なぜか一人の幼女が。
「な、な、な?」
 おまわりさんがびっくりしています。
 それに対してまつり姉さまは、経験者ですので落ち着いてます。
「あー。今度は『そっち』で突き抜けた結果、ちいにいが幼女になったのね。それとも天罰かしら?」
「な、何? お、オレが幼女にだと?」
「はい。兄様」
 わたくしは手鏡を差し出しました。
 そこに映る姿を見て自分の姿を確かめてます。
「そ、そんな。オレ自身が幼女にだと?」
 そしてようやく自分が「突き抜けた」と認識したらしく、気が遠くなってしまったようです。
「あら。いけない」
 倒れ込む前に支えました。
「あの、婦人用のお手洗いはどちらになりますか?」
 まだ驚いて声の出ないおまわりさんは、震える手で方角を指さします。
「ありがとうございます。おもらしなど粗相をしてはいけませんからね」
 わたくし、あの時の屈辱を忘れてませんのよ。









 それから20年。
 最初こそびっくりしたあたしだけと、自分自身が幼女となった喜びに満ち溢れてきた。
 しかも幼稚園からやり直しで合法的に一緒に着替えたりできる。
 なんと素晴らしい。ロリコン冥利に尽きる。
 しかしそんな素晴らしい時間ほどあっという間に過ぎる。
 あたしの胸も悍ましく膨らんで、嫌味なほど女の体形になる。
 ロリコンの宿命と言えどあまりに華の命は短い。
 それならば常に新しい花があればいいのよ。
 あたしは一念発起して勉強して、同時に優しい女の人になるべく自分を変えた。
 その甲斐あってか現在は新米ながら保育士さんをやっている。
「松恵せんせい。さよーならー」
 女としての名前である「島田松恵」。下の方を可愛らしい女の子たちが呼んでくれる。
「はい。さようなら」
 あたしはにこやかに返礼した。
 子供にやさしい、いい先生だと保護者の間でも好評だ。
 下の世話も嫌がらないと。
 合法的に幼女の下半身に触れるのに、誰が嫌がるものですか。
 ああ。毎日幼女と過ごせて幸せだわ。
 例え性別が変わっても、この部分が変わらないかぎりあたしはあたしだわ。
 千代姉も早く割り切ればいいのに。


 わたくしはすでに肉体的に35歳。今では華道の師範として身を立てていますが、男に戻ろうとしているため独身を貫いてまいりました。
 けど、割り切って女としての人生を歩んだ方がよかったのでしょうか?
 もうすっかり口調も仕草も女そのものなのに、未だに男への未練を引きずって。
 ああ。こんな風に悩まずに何も考えず、ただ鍛練に明け暮れたあのころに戻りたい。
 それが戻れないからこうして苦しむ羽目になっているとは、皮肉なものですわ。


 どこまで女を極めたら、もう一度突き抜けて男に戻れるのでしょう? そしてその時は極めたほどの『女』に未練はないのでしょうか?



−完−





あとがき

 まずこの作品は「コミック電撃だいおうじ」連載中(2014年3月現在)。
 柚木亮太先生の「hshsさせろ」にインスパイアされたものであることを明言します。
 とはいえど副主人公が「ロリコンをこじらせている15歳」という点と「美幼女に見える存在の体臭を嗅ぎまわる」点でですが。

 プロレスラーのような大男が、一転して幼女にまでなったら?
 しかも一つ屋根の下に厄介な人物がいたら?
 そんな感じで進めてみました。

 タイトルの「突き抜け」ですが、実際にこれを書いた頃にどんづまって、気分転換で普段やらないようなタイプの話と。
 その意味で「突き抜け」たものをと。
 またどん詰まりを「突き抜け」たいという意味も。

 オチは「逮捕」と「弟も幼女化」と別にしていたのですが、まとめることもできるなと思ってこうしました。
 それに下手に「逮捕」で終わらせると、なんかまた言いがかりつけられそうなんで。

 いともたやすくえげつなく行われるdisるという行為(笑)

 ネーミング。
 松千代はホントにマッチョから。
 当初は「まっすぐ」という名だけど誰もが「マッスル」と呼ぶとしてましたが、松千代のほうが弟の名前と揃うし、千代という女性名にも通じるので。
 その弟。兵堂は言うまでもなく『ぺド』(笑)
 ペドフィリアですね。
 妹のまつりはあまり意味はなく。
 ただ女児服の提供者にして幼女・松千代の味方と。

 お読みいただきまして、ありがとうございます。

 城弾

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