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 大昔の日本。
 関東のとある村に五兵衛という名の男がいた。
 普段はまじめに畑仕事をこなし、村人との友好関係は良好だったが、唯一の楽しみである酒。
 これがいけない。
 いわゆる酒乱。今でいう「セクハラ」をするのである。

 その被害にあった女たちは怒り心頭だった。
 さりとて突き出して処刑というほどでもない。
 一番良いのは五兵衛に酒をやめさせることだが、唯一の趣味を取り上げるのはいささか難しい。

 そこで「のろい」がかけられた。
 酒を飲むと「身も心も」女になる。
 つまりその身で「女の痛み」を知れという意図である。

 初めて五兵衛が女になった時は、そのまま行きずりの侍と肌を自分から重ねに行ってしまった。
 それほどまでに女になる。
 それを恐れた五兵衛はきっぱりと酒をやめ、以後はまじめに働いたという。

 だがこの「のろい」は末代まで続いていた。
 これはその末裔たちの現代における話である。



とらぶる☆すぴりっつ

五杯目「呑まれたら夜明けのコーヒー」

(全年齢向けバージョン)


作:城弾

 七月。
 夏も本格的になってきた。
 空調が効いているとはいえど、やはりオフィスも暑い。
 そうでなくとも「節電」で冷房設定は二十八度を奨励されている。
 二十八度は十分に暑い。のどの渇きもすさまじい。

「ねー。今日みんなでビアガーデンいかない?」
 吉野桜子がオフィスなのにこんな提案をした。
「吉野さん。仕事中」
 酒井が真面目に正す。
 というか彼の場合はその体質で飲み会は避けたい。
 しかし流されることが多い。

 そう。酒井真澄は「五兵衛」の子孫だった。
 彼の父もその流れ。ゆえに酒に酔うと女性化する。

「あー。いいね。きゅっといっぱい」
 こともあろうにその場のトップが賛同する。
「課長! 明日も朝から仕事ですよ」
 飲みたくない酒井は何とか回避しようとする。
 自分だけ抜けるのはためらいないが、まず引っ張りまわされる。
「まー軽くならいいだろう」
「軽く済んだためしが今までないでしょ」
「いやぁ。それが飲み会の怖いところで」
 身に覚えのある他の男性社員が話に乗る。
「そうそう。軽く喉を湿らすだけのつもりが、気が付いたら朝まで飲んでいたりするし」
「ブレーキがかからないというより『壊れる』感じで」
「わかっているのならやめましょうよ」
 必死に止める酒井。

「まーまー。これでも飲んで落ち着いて」
 吉野桜子がグラスに入った液体を差し出す。
 琥珀色だった。
「……」
 酒井はぷいと横を向いた。
 さすがに学習能力はある。それに匂いで洋酒と分かる。
「それじゃ甘いものは?」
 包みのチョコレートを桜子が差し出した。
(チョコなら)
 安心して口に放り込んだ酒井。
 口の中でそのチョコが『壊れて』液体が飛び出たときに彼は失策を悟った。
 あわててはこうとするものの、いとこの山崎きららに顎を持ち上げられて液体を飲み込んでしまう。
「よ、吉野さん。今のは?」
「そう。ウイスキーボンボン。お酒入りのチョコよ」
 説明されて飲んだのがアルコールと認識したからか、酒井は酔ったと思った。
 その瞬間、足元から爆発音とともに煙が吹き上がる。
 濃紺のワンヒースにフリルのついた純白エプロン。
 長い髪を頭上でまとめている。
 化粧はあくまで身だしなみとして。
 酒井真澄はメイドの女性へと変身していた。
 桜子がつぶやく。
「このウィスキーボンボン。イギリス製だったのね」

 この変身体質。酒の原産地のイメージがものを言う。
 イギリス製のものを飲むと真澄の場合、衣装含めてメイドになってしまうのである。

 メイドと化した真澄は絶対服従となった。
 そのため会社の仕事をこなしながら家事に類することもしていた。
 そしてお茶代わりにちびちびではあるが、スコッチウイスキーを飲まされていた。
 これも「ご主人様の命令」ゆえに断れない。
 ずっと飲んでいる。だから酔ったまま。
 抜けるわけはなく、むしろ蓄積されていく。


 五時を回り勤務終了。
 結局ビアガーデンに繰り出すことにした一同である。
「ああ。ちょっと待って」
 冷蔵庫から缶ビールを取り出す山崎。
「おいおい。これから飲みに行くのに気が早いな」
「それに接待用だろ」
 とある「お得意様」の「相談役」が頻繁に来る。
 事実上トップに君臨するその老人を接待するのは、女性化した真澄の役目だったが、場合によってはきららがするケースもある。
 この冷蔵庫のビールは経費で賄われていた。
 だから接待以外で飲むのは憚られる。

「自腹ですよ。ただ冷蔵庫は借りたけど」
 いうと山崎は缶を開けてそれをあおる。
 アルコール分は5〜6%とはいえど酔える。
 彼。山崎きららも爆発音とともに女性へと変身した。
 ボディラインの浮き出たワンピース。それも派手なヒョウ柄だ。
 強めのウェーブのかかった髪。
 胸の二つの丘。いや。山!
 蜂を思わせるほど細いウエスト。
 それは大きなヒップも無関係ではない。
 何より自己主張の強い顔。まるで舞台メイク。
「さぁ。飲みに繰り出すタイ」
 10歳から博多にすみ、この支社に配属されるまでいたので博多なまりが出る。どういうわけか女性化した時だけである。

山崎きらら(illust by MONDO) 姓こそ違うが酒井真澄と山崎きららは五兵衛の子孫である。
 この一族の男たちは酒に酔うと身も心も女性化する。
 この時点では真澄もきららも完全に女性である。
 思考も、嗜好も女性そのもの。
 恋愛対象すら男性を異性としてみなしていた。


 飲むだけに当然だが公共交通機関。
 しかしイケイケなきららはいざ知らず、メイドの真澄は人目についた。
 ちょっとした羞恥プレイだった。

 ちょっと足を延ばして池袋。そのデパートの屋上ビアガーデンへと出向く。
 池袋といえばサブカル方面ではいわゆる「乙女ロード」もある。
「女性向け」の「薄い本」を求める腐女子が多い。
 それゆえかちょっと気合の入ったファッションの女子が割といる。
 それでもさすがに「メイド」は目立つ。
 秋葉原や中野ならいざ知らず池袋となると別だ。
 なるべく人目につかないように移動する。
「あー。新刊入ったかしら?」
 その手の本屋に寄ろうとする桜子。
 彼女はいわゆる腐女子である。それが池袋。
 どうしてもハイテンションなる。
 すでにハイテンションなきららとあわせて、どうしても人目を惹きつける。


 なんとか屋上ビアガーデンで陣取る。
「かんぱーい」
 合わせられるビアジョッキ。
 宴が始まるがメイドの真澄は立ったままだ。
「自分はメイドですから」というのが建前だが、飲みたくないのもあるようだ。
 しかし酔っ払いに理屈は通じない。
 まして姿は変われど同僚。それを一人だけ立たせて飲ませもしないなんてできない。
「しかし私は…」
「何よ!? ご主人様の命令が聞けないっていうの!?」
「……いただきます」
「そうそう。ここには本場イギリスのビールも置いてあるのよ。今のあなたにちょうどいいじゃない」
 こんな要領で真澄は飲まされていく。
 それも限界近くなるが、誰も止めない。

(も…もうだめ。のみたくない)

 そう思った瞬間。真澄は二弾変身をした。
 これは彼女だけの現象である。
 もう飲めないところまで飲まされる。
 ゆえか「絶対に勧められない姿」へと転じる。

 今の真澄は6歳くらいの童女だった。
 しかもイギリスのメイドからなったせいか、金髪碧眼の美少女だった。
「不思議の国のアリス」が絵本から抜け出たようだった。

「きゃーっ。可愛いーっ」
 桜子。そして二人のOL。沢野いずみと宇良かすみ。本来は男のきらら。
 はては近くの無関係の女性客まで騒ぎだす。
 腰に達する長い金髪。
 海のような青い瞳。
 華奢な、そして小さな体。
 庇護欲を掻き立てて仕方ない。
 愛らしい美少女が場違いな場所に現れた。

 真澄は女たちにもみくちゃにされる。
 こうなるともう落ち着いて飲んでなどいられない。
 翌日も仕事ということもありあっさり解散。それぞれ帰途に就く。
 ただし幼女化した真澄を一人で帰宅させるのは危険と判断し、飲ませた桜子が世話をすることになった。
 それがいやいやならともかく、妙にやる気のありすぎる…鼻息の荒い状態なのが気になったが、現時点で同性のうえ童女なら問題あるまいと判断して託した。

「なんやね。ウチは全然飲み足りないちゃ」
 そうつぶやくのはきららである。
 「彼女」は自分の体質を知っても驚かなかった。
 何しろ父親が常に変身して見せていた。
 だから「覚悟」はできていた。
 むしろこの男女切り替えを楽しんでいた。
『童貞』より「処女」のほうを先に喪失したほどである。
 そして幾人もの男が「彼女」の上を通って行った。

「しゃーないわ。一人で飲み直したい。やけん一人じゃさびしいけん、どっかでいい男がナンパでもしてもくれんかな?」
 もちろん「最後まで」行くつもりである。


 夜の七時半。きららは池袋西口の繁華街をふらついている。
 結構飲んでいるのである。足元が危なっかしい。
 だがふらつくヒップが男を誘う。
 頬が上気して桜色に染まり、潤んだ瞳と相俟って色っぽい。

「ねーねー。おねーさん。どこに行くの?」
「俺らと遊ばない」

 さっそく食いついてきた。
 ともに二十代前半くらい。
 片方はアポロキャップにタンクトップ。夜というのにサングラス。ディスクジョッキー…DJ風の男。
 もう一人は金髪。ピアス。派手な半袖シャツ。
 どちらも下心が顔に出ていた。

(んふ)

 ガッツポーズをかろうじてこらえて、きららは男たちに向き直る。
「ええよ。飲み足りなかったんよ。どこかいいお店に連れてってくれるん?」
「そりゃあもう」
「酒場でも天国でも」
 もちろん天国というのは別の意味である。体の内側から湧き上がるそれである。

 きららと二人の男は夜の街に消える。


 六時にビアガーデンで飲み始めて、わずか一時間で解散。七時に帰途に就いた。
 八時の時点ではアパートについていた桜子である。
「おねむ」の真澄をいったんソファで寝かせ、来客用の布団を敷いてから改めて横たわらせる。
 見れば見るほど本当に「お姫様」だった。
「眠り姫ね」
 規則正しく寝息をしている。そのたびに薄い…まっ平らな胸が上下する。
 不思議なもので男の平たい胸は何の感情も呼び起こさないのに、女子のそれはなぜか劣情を起こさせる。
 そしてそれは「同性」でも例外ではなかったらしい。
 いや。逆に桜子か例外だったのか。
 あるいはその宿した母性と相乗作用で「おかしな気持ち」になったのか。

 桜子は眠る真澄の頬に軽くキスをした。
 それは母親が子供にするようなもののはずだった。


 同時刻。
 池袋を根城とするナンパ男二人組だったのもあり、西口側に出て飲み直しだった。
 二弾変身は真澄だけの特異体質であり、一族のほかの男にはない。
 このきららにもそんな「危険性」はない。
 そもそもきららは真澄よりはるかに酒に強い。
 並みの女どころか男でも太刀打ちできるかどうかの強さだ。
 ビアガーデンでは一時間のうちにジョッキ五つはあけたが、彼女にしたら物の数に入らない。

 ナンパ男二人はきららがなかなか酔いつぶれないので焦りと驚きで見ていた。
 もちろん酔い潰してから『同意』を得てホテルに連れ込むつもりだった。
 ところが計算違い。強すぎる。
 まるで水のようにウイスキーを飲んでいく。
「ねえねえ。ドンペリないの? あったらちょーだい」
「わあああああ。出すな。そんなのだすなっ」
「俺たちに払えるわけねーだろ」
 ドン・ペリニオン。通称ドンペリ。
 高級クラブやホストクラブでやたら高い酒として描かれるシャンパンだ。
 この店でもボトル八万で置いてあった。
「なぁーんや」
 さして興ざめという感じでもないきらら。
 むしろここからが本番らしい。
「それならドンペリの代わりにミルクちょうだい」
 一見可愛いこと言っているが
「あんたらの」
 もちろんこれが何を意味しているか二人は瞬時に理解していた。
 何のことはない。双方合意だったのである。
 気が変わる前にとあわてて勘定を済ませる。
(がっつくのはなかなか微笑ましくて嫌いじゃないな)
 慈母のような笑みだが、内心は淫乱そのもののきららだった。


酒井真澄・金髪少女(illust by MONDO)「……お姉ちゃん?」
 とろんと寝ぼけた眼だが、真澄は目覚めた。
 現在の真澄は心身ともに7歳の童女。
 それでいて事務処理などもこなす能力はそのままだから不思議である。
 まぁ「酒に飲まれて性転換」よりはまだ理解可能だが。
 話を戻すが現在の真澄は愛らしい少女なのである。
「真澄ちゃん」
 うるんだ瞳で見つめる桜子。
「ざる」とまで言われるほどの底なしの酒飲みである彼女だが、それなりに酔っている。
「ここどこ?」
 不安そうな真澄。
「お姉ちゃんのおうち。真澄ちゃん。今日はお泊りしよ」
「うん」
 満面の笑顔で答える金髪の天使。
 桜子は表情が崩壊するのをかろうじてこらえた。
(は、破壊力ありすぎ。前に酒井君がショタと笑ったけど、私も人のこと言えないわ。女なのにロリコンなのかしら? ううん。こう見えて酒井君は男。25歳の立派な男子。だから同じ年の女である私が変な気起こしても不思議じゃないわ)
 まだアルコールが残っていたらしく、妙な理屈で自分を正当化していた。
 くぅー。
 可愛らしい空腹音が響いた。
「お姉ちゃん。お腹すいたぁ」
「あー。そういえば酒井君。メイドで飲まされてはいたけど食べる方はそんなに」
 それで余計にアルコールが効果を発揮した。
「わかったわ。作ってあげるから少し待っていてね」
「うんっ」
 桜子はいそいそと台所に向かう。
(9時か…今食べると太るなぁ。でもま、可愛い真澄ちゃんがお腹すかせているんじゃ可哀そうだわ)
 完全に母性本能に支配されていた。


 九時。
 ベッドに腰かけているきららとDJ風。
 濃厚なキスを交わしている。
 それもリードしているのはきららのほう。
 DJ風はガウンを身にまとっている。
 相棒。金髪ピアスはシャワールーム。
「んっ」
 吐息とともに糸を引きながらはなされる唇。
「だ、大胆すねぇー。おねーさん」
 完全にペースをつかまれている。軽口が精いっぱいの虚勢だ。
「ごめんね。あなたがシャワー浴びている間に彼にキスしちゃったの」
「ああ」
 むしろ「始められて」なかったのが意外だった。
「だから公平にね」
 可愛らしくいう。
いつものハスキーボイスだがそれがやたらセクシーな響きを持つのはその「低さと落ち着き」ゆえか。
「お、おねーさんっ」
 文字通り辛抱出来ず押し倒そうとする。
 しかしヒョウ柄のワンピースのままきららは軽やかに躱す。
「だーめ。うち、まだシャワー浴びてないっちゃ。汗臭いのは恥ずかしいっちゃ」
 半ば演技。それまでのケバさからギャップのある「清純派」ぶりが効果的だった。
「それにね、ウチはきららいうんちゃ」
「き、きららさんですか? 随分と可愛い名前ですね」
 本名である。しかも男としての。
 この一族の男は酒に酔うと女性化するのだ。
 ゆえに最初から女性でも通じる名前を付けるのが慣習化していた。
 もちろん「酒井真澄」も例外ではない。

 しばらく待ち、金髪ピアスが出てきた。
「それじゃ最後はうちやね。なんなら二人で先に始めていてもええよ」
 そろって高速で首を横に振る二人。
 そもそもそんな趣味なら美女をナンパなどしない。
 もっとも、今夜のお相手は今までで一番「セクシー」で、そして今までで一番「ダンディー」なあいてだった。

 衣擦れの音が響き、水音が響きだす。
「なぁ。あの女…きららさん。逃げなかったな」
「ああ。それどころか見ろよ」
 酒瓶が転がっている。
「ほとんど飲みやがった。もうワンカップしかねーぞ」
 二人は交代でシャワーを浴びて、相棒にきららが逃げないように監視させていた。
 しかしきららは逃げるどころか、いきなりそれぞれにキスして、揚句酒を飲み続けていたのだ。
「もしかしてさぁ…ガールハントしたつもりが」
「ああ。狩られたの俺らかもな」


 十時。
 それまで眠っていた真澄はさすがに寝つけず。
 食後のまったりした時間を桜子と過ごしていた。
 現在は桜子の隣でともにテレビを見ていた。
(結婚して子供できたらこんな感じなのかなぁ。酒井君に似た感じの子供…って、これ当人じゃない。それにどうして酒井君を意識するの?)
 酔いはすでに抜けているが思考がぐらつく。
「あー。もう大丈夫ね。汗臭いし、お風呂入ろうか」
 「大丈夫」は酒のこと。難しい言い回しだと残留アルコール。
 入浴で血行が良くなるのは通常においては健康に良いが、飲酒時はむしろ悪酔いを誘うので推奨できない。
 しかしさほど飲んでないうえに時間も経っている。
 問題ないと判断した。
(この子は…この状態だとまだ酔っぱらっているのよね)
 隣の真澄を見る。思考ですら「この子」と完全に童女扱いだ。
(まぁぬるま湯浴びせるだけならいいかな。汗はとってあげないと)
 桜子は風呂の準備を始めた。

 同じころ。こちらはシャワーから出てくるきらら。
 ガウンではなくバスタオルを裸身に巻きつけたセクシーな姿だ。
「!!」
 思わず生唾を飲み込む二人。
 その二人の間に割って入るように腰かける。
 そのまま背中から倒れ込めばベッドにダイブする。巻きつけたバスタオルがはだけてわずかに肌が見える。
「とって」
 その瞬間。二人の男は野獣と化した。人がひとであるための「理性」が、今の一言で吹っ飛んだ。
 きららの身をくるんでいた大きめの布ははがされ、文字通り一糸まとわぬ姿となる。
「きゃーっ」
 嬌声。むしろ遊園地で遊ぶようなそんな声。三人はくんずほぐれつという状態になる。

 ぼん。桜子の家の浴室から爆発音が起きた。
 幸いにしてガス爆発の類ではない。
 真澄の二弾変身は一気に童女化するが、酔いがさめるに従い通常の大人の姿へと戻る。
 7歳から一気に14歳に。
 背も伸び、胸も含めて体はあちこち脂肪で丸みを帯び一気に女らしく。
 だが愛らしい表情はみじんもない。
 もちろん「成長した」というのもあるが、真澄のこの二弾変身はまず先刻の童女姿に。
 そこから段階を経て大人の女性へと戻るが、その第二段階が中学生相当。
 どうも本人が中学生に若干偏見を抱いているらしく、反抗的な女子となって現れるのだ。
「あー。戻っちゃったか」
 可愛かったのになぁと残念がる桜子。
 現時点でまさに生まれたままの姿。何しろ入浴中。
 そして真澄の場合、本来は男なので「生まれたまま」とは言えないが、そのままアイドルになれそうな美少女になった。
 金髪碧眼はそのままなのだ。なぜか中学バージョンはいつも髪が短い。
 イギリス風と相俟ってパンクなイメージだ。

「何じろじろ見てんだよ。おばさん」
 露骨に歓迎されてない態度だったのもあり、なおさら反発のきつい真澄。
「前から思っていたけど、あんたほんと年上に対して態度悪すぎ」
 カチンときた桜子が切り返す。
「いい機会だわ。裸の付き合いでそれを正してあげる」
「はん。お説教なら…ひゃうっ」
 いきなり可愛らしい高い声を上げる真澄。
「な、なにしやがる?」
 完全に声が裏返っている。
「やっぱり知らないわよねぇ。あんた女になるのはトータルでも一か月もないでしょ」
 桜子は素早い動きで真澄の脇腹をなでたのだ。
 そして読み通り『弱い部分』だった。ヤマ勘という方が近いが。
 だからこそ出るこの言葉。
「こっちは生まれた時から四半世紀も女やってんだから」
「な、なんだよ。それ」
 真澄は見本として教科書に資料として掲載したいくらいおびえている。
 されたことと、未知の感触に対して。
「普通の女ならだれでも知っている『女体の神秘』を、ちょっとあなたにも教えてあげないとねぇ」
 桜子の指の動きが昆虫の足を彷彿とさせて、真澄は気持ち悪かった。
「んっふっふ。女子高で三年ももまれていたら、ブラ外しだのこの程度の指使いはできるようになるわよ。それにあたしはそれなりに男と付き合ったこともあるし」
(もっともすっぽんぽんの女の子相手というのはさすがに初めて。あ。変な扉が開きそう)
「さぁーて。何度言ってもわからないなら、ちょっと体に教え込もうかしらね」
「や、やめろ変態。女同士だぞ」
「あなた本当は男だからセーフよっ」
「今は女よーっ」
 しかし桜子は逃さない。触られた。
「はうっ」
 腰砕けになる。すでに息が荒い。涙目だ。
「それじゃきれいに洗ってあげようかしら。元々そのつもりだったし。こんな大きな子を相手になるとは思わなかったけど」
 右手にボディソープをたっぷりと乗せて近寄る。
「やめて。来ないで。おばさん…じゃなくてお姉さん。お姉さま!」
 低姿勢になっても遅かった。







 密室で女同士。そして別の「爆発」も起きた。
 絶頂に達したと同時に、中学生から高校生になった。
「だ、大丈夫。酒井くん?」
 心配して駆け寄る桜子。
「はいっ。大丈夫ですっ。おねえさまっ」
 それに素っ裸で抱き着くJK真澄。
「お、お姉さま?」
「ええ。私知りませんでした。こんな素敵なことを」
 晴れ晴れとした表情でいう。
 そりゃあ達すれば気持ちもいい。
 だが桜子は軽く絶望していた。
(しまったぁっ。酒井君に余計な事を教えたわっ)


 池袋のラブホ。
 二人の男右腕と左腕を枕にしてきららが横になっている。
「よかったやん。二人とも。いやぁ、男の子二人がかりじゃさすがのウチもひとたまりもないちゃ」
「き、きららさんも相当タフですぜ」
「一対一じゃ俺らだけダウンしていたって感じで」
「それじゃ今度はそうしようかねぇ」
「はい?」
 真意を聞く前にきららはベッドから降りて、洗面台に行く。
 そして歯磨きと薬品によるうがいを始めた。
 あっけにとられる二人をしり目に歯磨きを進めていく。
「あの…なんでいきなり歯磨き?」
「んー。そりゃ金髪君も自分のモノ咥えとった口でキスばされたらいややろ」
 二人は悟った。「まだやる気だ」と。
 こうなると本当に自分たちのほうが獲物だったのかと認識を。


 そして桜子のアパート。
 風呂からは出たが桜子とJK真澄はまだ服を着ていなかった。
 何もまとわぬ姿でベッドに二人。
「素敵…お姉さまが私に触るたびに気持ち良くなるの。なんで私は今までこれを恐れていたのかしら?」
(男だからじゃない?)
 ある意味で形勢逆転。
 すっかり「目覚めた」真澄が寝かせてくれない。
 触るように要求してくるし、触っても来る。
 完全に知ってしまった。
(まぁいいか。朝になれば酔いもさめるし。その時が見ものね)
 少し意地の悪い表情になる
「お姉さま?」
「ううん。なんでもないわ。さぁ。もう寝ましょう」
「はぁい」
 服も着てないとか、朝の時点で真澄が男だった場合とか考えるのも面倒になって、そのまま消灯する。
「うふ」
 真澄が笑いをもらす。決して嘲笑とかではなく、どちらかというと「幸せな未来に思いをはせて」という笑いである。
「どうしたのよ?」
「いえ。このまま朝を迎えて、コーヒーを飲んだらそれがいわゆる『夜明けのコーヒー』になるのかなって」
「間違いでもないんじゃない?(女同士なのを除けば)」
 もう本気で面倒になってそのまま寝てしまう。

 朝になって真澄が男に戻っていたら?
 いいじゃないか。その時はいっそ「ノーマル」でやってしまうのも。
 もうあそこまでやった仲だ。
(あー。酒井君が変身解けた後でいろいろ後悔するのはこんな感じなのかな?)
 桜子は眠りに落ちた。


 そして朝。
「な、な、な」
 金髪美人は変わらないが成人女性になった真澄。
 そして心は一足先に男に戻ったようだ。
「おはよ。酒井君。昨夜は楽しかったわね」
 自分が全裸なのもさておいて、一糸まとわぬ桜子が隣にいたことに驚愕したのだ。
「え…覚えてない。まさかオレ、やっちゃった?」
「その状態でどうやって突けるのよ」
 真澄の足の付け根には「貫くもの」が未だなかった。
「でも、くんずほぐれつではあったわね」
 その一言で思い出した。
 自分が、自分たちが何をしていたか。
(と、とうとう女としてそんなとこまで…男として恥ずかしい)
 女子なら『可愛い』でも男性だとちょっと…な行動な数々。
 真澄は恥じ入った。結果、
「吉野さん。悪いけど一杯もらうぞ」
「あら? 仕事あるのに朝酒? あたしもしょっちゅうだけど、酒井君もそこまでいけるようになった?」
 気をよくした桜子は何も考えずにビールの大瓶を持ってきた。
 それを二人であおる。真澄はまるで薬を飲む水のようにビールを流し込んだ。
 表情が一変した。きらきらと桜子を見つめている。
(なんかヤバ)
 そう思った時は遅かった。
「おねえさま」
「ちょ、ちょっと酒井君。こういうのは男の時に」
「それじゃ私が気持ちよくないじゃないですか」
 男の心なら恥ずかしいが、女になってしまえばそれもないと思った真澄はわざと酔った。
 ただ女に「戻った」途端に「百合」にも。
 もっとも本来の性別でいえば欲する相手は間違いだはないが。
「せめて心だけでも男でいてよ。あなたがほしがっていた夜明けのコーヒー入れてあげるから正気に戻ってぇ」


 池袋。
 眠りこけていた金髪ピアスは眼前に男の背中を見た。
「……ああ。そういや3Pだった」
 二人でナンパしてやり続け眠りこけ、その際に位置が変わっていたなど珍しくもない。
 相棒だろうと思った。だが
「だ、誰だ? お前」
 かなり「恐怖」を含んだ声が「DJ」から。
(え? それじゃこれは…)
 それに夕べナンパした女はどこだ?
 パニックに陥っていると当の男が目を覚まして体を起こした。
 二枚目がさわやかな声で言う。
「やあ。昨夜は楽しかったね」
 数多くナンパして『夜明けのコーヒー』を何倍も飲んできた彼らも、このセリフを「男」に言われたのははじめてだった。
「誰だよ。いつの間に入り込んだ」
「てかみせんなそれ。あてつけか」
 山崎のは「立派」だった。
「ああ。そうか。これは失礼」
 山崎は冷蔵庫から最後に残った日本酒を取り出し、それをあおった。
 少し待ったら足元から煙。そして
「はぁい。お二人さん」
 水商売風の女がいた。
「「な!?」」
 あんぐりと口を開けるナンパ師コンビ。
 酒に酔うと女性化し、醒めると男に戻る。
 そう。三人で寝ているうちに、酔いが醒めてきららは男に戻っていたのだ。
「あッ。そうや。コーヒー頼んで夜明けのコーヒーとしゃれ込む?」
 笑顔で近寄る。
 なんだこいつ。男だったり女だったり。
 そして正体が男というなら、俺たちは男だけで3Pしていたというのか!
 いろんな思考で混乱する。
「それとも…まだ時間があるからまた三人でする?」
 正体を知らなきゃその誘いは断るはずもない。
 だが正体が男。それもこの得体のしない変身能力。それに恐怖した結果
「わひゃおわあぁぁぁぁっ」
 服を持って逃げ出した二人。
 残されたのは呆然としている裸のきらら。



 そしてオフィスにて。
「酷いと思わへん? 課長。散々楽しんどいて男と分かったとたんに逃げるなんて。人を化け物みたいに」
(いや…男だった時点でそりゃアウトでしょ)
 泣きながら課長に愚痴をこぼすきららを、同僚たちは冷ややかに見ていた。さらに
「かちょおー。なんとかしてくださいよぉ。この子。仕事になりませんっ」
「おねえさまぁ」
 べったり甘えた真澄が桜子に抱き着いている。
 その際に胸をもんだりあちこち撫でまわしたり。
 今までになったパターンだ。
(あー。覚醒させちゃったんだ。あの一族の本性を)
 今まで真澄は「乙女」だったが、一気に「淫乱」にまで持っていかれた。
「課長。聞いているん?」
「かちょおー」
「おねえさまぁ」
 詰め寄る三人…真澄だけは桜子相手だが、とにかく手で制した二村課長。低い声で告げた。
「とりあえず三人とも。コーヒーでも飲んで落ち着いてきなさい」

 これもある意味で『夜明けのコーヒー』だった。

六杯目に続く。


あとがき

 「とらぶる☆すぴりっつ」の久方ぶりの新作をお送りします。
 この作品は2013年夏のコミックマーケットに出す同人誌。
「城弾シアターR18 花火」に収録された18禁バージョンを全年齢向けに修正したうえで先行公開するものです。

 もともと温めていたネタで。
 せっかく出したきららが機能してなかったので彼女メインと。
 真澄と違って性転換を楽しんでいるきららの「夜」はどんなかと。
「酔った勢いでベッドまで」というのもない話ではないですし(笑)

 ただ主役をないがしろにもできませんし、この後のための布石もあるので真澄のほうもああして。

 ビアガーデンというのはせっかくアルコールがキーアイテムなんで、一度くらいは出したかったと。
 それに劇中の季節の流れも夏に差し掛かってますから。
 そして掲載時期もビアガーデン盛況のころだし(笑)

 今回はここまで。
 六杯目はそんなに間をおかずに披露できるかと思います。

 お読みいただきまして、ありがとうございます。

 城弾

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