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とらぶる☆すぴりっつ

四杯目 呑まれたら小さな恋
作:城弾





 そろそろ夏という六月下旬の土曜日。けだるい昼下がりも過ぎ、太陽が西に傾く頃。
 本来なら休みであるのだが、吉野桜子、山崎きらら、そして酒井真澄の三人は休日出勤で仕事をしていた。
「よーし、終了」
 25歳のOL、桜子の声が明るく響く。
「こっちも終わった」
 同じ歳の男性社員、酒井真澄も答える。
「それじゃ、みんな完了だね」
 もう一人の男性社員、どことなく酒井に似ている山崎きらら。彼だけは年がやや上。
「まったく『月曜にプレゼンやるから資料頼む』なんて簡単に言わないで欲しいわよね」
 肩を叩きながら桜子が言う。OLなので制服姿。
「まぁまぁ……それよりどうかな? 夕食には早いけど、こっちなら」
 きららは杯をあおる仕草をする。こちらはグレーのスーツ姿。ただし上着は椅子にかけてある。
 そろそろ冷房の欲しい頃だ。
「いいわね。お疲れ様ってことで」
 酒井と山崎のふたりはこの支社に来てまだ日が浅いが、それでも打ち解けていた。
 それは山崎の仕草に現れている。
 酒井真澄と山崎きららは男性、吉野桜子は女性だが、色っぽい関係にはなかなかならない。
 飲み友達になってしまっている。
 もっとも酒井は、もっぱら巻き込まれてであるが。
「俺は勘弁してくれ。何度も同じ失敗をしているんだ」
 濃紺のスーツの酒井が、その忌まわしき「体質」ゆえに渋面で言う。
「あらあら。それじゃ一人で帰ってご飯。寂しいわね」
 からかっている、あるいは挑発するかのように桜子が言う。
「そんなのはいつもだよ。あんたらにつきあうと大変なのは学習している」
「まぁまぁ酒井君、君はご飯を食べるということでどうだい? それとも従兄弟の僕の言うことでも聞いてもらえないかな?」
「う……」
 そう、互いにこの支社で出会うまでは知らなかったが、この両名は従兄弟であり血縁関係である。
 そして血縁ゆえに共通する「こと」がある。それを酒井は忌み嫌い、山崎は楽しんでいた。
「そーよー。それに一人下戸がいると後は安心して飲めるしね」
「ブレーキ役かよ?」
 と、突っ込んだものの、ふと考える酒井。
(確かにこいつらだけだと、何しでかすかわからん。かかわりたくはないが)
 むちゃくちゃながらも楽しそうに食べて呑む二人と、一人でご飯の自分。
 それをイメージしてしまい寂しさが募る。翻意する。
「わかったよ。ついていってやる……だがあまり無茶するんじゃないぞ」
「さすがは僕の従兄弟。話が早い」
「それじゃ片付けに掛かりましょ」


 会社を出た酒井と山崎はスーツ姿のままだが、制服姿だった桜子は通勤用の私服である。
 休日だが、出勤ということでクリーム色のレディスーツ。
 ただ暑くなってきたのと休日出勤ということもあり、ストッキングまではない。
 ブラウスも薄いピンクと平日は着ないようなものだ。
「さぁ、いくわよ」
 本来なら休みのところを拘束していた仕事から解放され、その鬱憤を晴らすべく、彼女は力強く進んでいく。
 むしろ酒が彼女を呼んでいる?
 ついていく酒井は苦笑するだけであった。


 午後五時。
 たいていの飲み屋の開店時間だ。
 桜子の先導で、一同は古ぼけた居酒屋に来た。三人は店の看板を見上げる。
「『きりやま』? 変な屋号だな」
 飲み屋には向いてないのではないか? そう酒井は思う。
「単純に店主の名前じゃないのかな」
 従兄弟が続く。
「名前なんてどうでもいいでしょ。ここは肴もお酒もいいのがそろっているのよ。あなた達をいつかつれてこようと思っていたの」
 言うなり先導する。
「こんばんわぁ」
「まだ五時だよ、吉野さん」
 店内からだみ声の返答がくる。ここの店主か?
「あははっ。呑みに来たからつい『夜の挨拶』になっちゃったわね」
 桜子が扉を開け、明るく挨拶して中に入る。ここの店主とは懇意のようだ。
 山崎。そして酒井も暖簾をくぐる。
 テーブル席に案内される三人。若い男性店員が注文を取りにくる。
「二人はなにを飲む?」
「僕は明鏡止水をロックで」
 山崎の言うのは焼酎の銘柄。別に飲んでも『スーパーモード』に突入するわけではない。
「俺はウーロン茶でいいよ」
『ウーロン』ね。わかったわ」
 何か含む笑顔の桜子。店員をスルーして、明るい声でカウンターの主に注文をする。

「きりやまたいちょ……ごめん、かんじゃった。大将、明鏡止水をロック。それと『ウーロン』。あたしはいつもの」

「なにっ!?」

 壮年の店主は振り返って尋ね返す。
「だ・か・らぁ。彼は『ウーロン』ね」
 疑問点が解消されたらしく、店主は仕事に掛かる。


 それぞれの飲み物が運ばれてくる。
 山崎の前には透明な液体に、氷の入ったグラス。
 桜子の前には一升瓶まるごと。
「豪快だね」
 山崎も驚いている。
「いちいち注文する面倒なくていいでしょ」
 笑顔で答える桜子。
「女は肝臓が小さくて、男より酒に弱いときいた覚えがあるが、例外というのはどこにでもあるものだな」
 ジョッキに氷とともに入れられた「ウーロン」を手に酒井が言う。
「それじゃ乾杯しましょ」
 桜子は手酌で中身をコップに注ぎ込む。
 飲めない……正確には「飲みたくない」酒井はともかく、両名ともに「とりあえずのビール」を飛ばしていきなりこれだ。
「おしごとおつかれさまぁ」
 こういわれたら乾杯に応じるしかない。
 酒井もグラスを鳴らし、そして飲み物を飲む。
(なんかえぐい味だ。まぁウーロン茶ってそんなものか)
 そういう意識があり、『味の違い』に気がつかなかった。
 そして山崎が最初の一杯を空ける前に、酒井に異変が起きた。
 足元から煙が上がり、仕事帰りのOLという感じの美女に変貌した。
 長い髪。イヤでも目に付く大きな胸。化粧した顔は酔いのせいで、目元がとろんとしていた。
「な……なんれ? あたしお酒飲んでないのに」
 呆然として言う。
「ふっふっふ、真澄君、君はウーロン茶を飲んでいたと思っていたようだが、世の中にはウーロンハイと言うものがあるんだよ」
 まるで探偵物の主人公のように「種あかし」をする山崎。もっとも仕込んだのは桜子だが。
 真澄が口にしたのはウーロンハイ。チューハイの一種でウーロン茶で割る。
 ちなみに単に『ウーロン』と注文したらアルコール飲料。
 『ウーロン茶』ならお茶がくる。
 だから店長は確認のために聞き返した。
 酒井はその辺りを理解していなかったので、引っかかったのだ。
「そろそろ僕も……ひっく」
 続くように山崎も美女へと変身した。
 こちらはまるでホステスである。金に近い茶髪。ボディライン浮き出しのワンピース。ハイヒール。そして「夜の蝶」らしい厚化粧。
 度数が強いにも関わらず、山崎の変身が遅かったのは単に酒に強いからだ。


 酒井真澄と山崎きららの先祖は、普段はマジメだが酒癖の悪い男だった。
 酔った勢いで村娘に対して、今で言うところの「セクハラ」をしていた。その結果として娘達の「のろい」を受け、酔うと女になる体質にされてしまった。「身をもって女の思いを知れ」ということだった。
 そしてそれは末代まで続く呪い。つまり子孫の男子達も、酔うと女になる体質なのである。
 ついでに言うとセクハラぐせも受け継がれているらしく、やたら淫靡になる傾向がある。
 素面だとマジメな酒井とて例外ではない。


 これはまるで酒に酔ってのそれとよく似ていた。
 酒に酔うとリミットブレイク……ではなくリミットが外れてしまう。
 たがが外れてしまうのだ。
 そして真澄ときららの場合は性転換まで伴う。
「…………」
 目を丸くして驚いている若い男性店員。「たいちょ……大将、見ましたか? 今のお客さん達、男が女に──」

「なにっ!? そんなバカな話があるか、北登(ほくと)」

「本当です。僕はこの目で見たんです」
「……いいから仕事しろ」
 大将はなじみの桜子の印象だけ残っていたのだ。まして同性相手に興味がなく、それで覚えなかったのだ。


「もうっ、だますなんて、ひどいじゃないですかぁ」
 やたらと可愛らしい声で抗議する真澄。あまりに可愛くて、「ぽんこつ」と表現したくなるタイプの声だ。
 動物の尻尾にむやみやたらと興味を示しそうだ。
「ええやん。これで女三人。気楽に飲めるタイ」
 きららは生まれ自体は東京なのだが、十歳から大学卒業、そして就職して現在の支社にくるまで、福岡で過ごしていた。
 それゆえか女性化すると博多弁が出る。生粋の博多っ娘じゃないからか、あるいは酔うからか怪しげな方言だ。
 きららは自分の体質を、父親を見て知っていた。
 そしてこの性転換を楽しんでいる。実を言うとベッドの相手は男の方が多い。
 対する真澄は、やはり本郷支社に春からの移動。その歓迎会で生まれて初めて酒を飲み、そして初めて変身した。
 当然ながら部署の人間は驚くが、妙に冷静な上司の計らいもあり、受け入れられていた。……厳密に言うと桜子の「おもちゃ」になっていた。
 真澄もきらら同様、酔うと淫乱になるのは同じだが、やや「清純派」。もっとずばり言うと「カマトト」「ぶりっ子」といえるタイプ。
 女に言いがかりをつけられるタイプの女になるのだ。
「それじゃあ女三人で飲み明かしましょー!」
 吉野桜子は二人と違い、生粋の女性である。だが三人の中で明らかに一番ひどい「のんだくれ」である。
 高校時代は文武両道の生徒会長を務めていたような声だ。
 現在は合気道師範をする、のんだくれプリンセスという感じである。
「あたしそんなに飲めないのにーっ」
 ジョッキを両手でもって、可愛い声で叫ぶ真澄。
 とはいえど、この二人にかなうはずがない。
 既に変身してしまったのだ。その点だけならもう構わない。だから結局、押し切られて飲み始める。
「ほら真澄ちゃん、これ美味しいわよ」
「とみの……ほうざん? お酒ですか?」
「鹿児島の焼酎よ」
 きららからボトルを渡される。ラベルで確認……確かに鹿児島産だ。
「へぇー、なんだか美味しそうですね」
 産地のイメージに左右された。
「おじさまぁ、コップくださーい」

「なにっ!?」

 場違いな「おじさま」と言う呼びかけに照れる店主。
 真澄のイメージでジュース用とでも思ったか、カーリーヘアの丸メガネの、目つきのきつい女性キャラの描かれたタンブラーを運ばせた。
「それじゃぁ……」
 真澄はまるでミネラルウォーターでも注ぐように、半分まで焼酎をいれる。
(うわぁ!!)
 美人ばかりのテーブルに、他のテーブルの男性客がなんとなく視線を寄せていて、そしてこの様子に心中で声をあげていた。
 真澄は注いだそれを、氷もお湯もなくそのまま口にする。
 その瞬間、激しくむせた。当然の結果である。
「無茶よぉー」
 といいつつ「面白そう」と静観していたきらら。
 桜子に至ってはビデオカメラで撮影までしている。
「さ、桜子さぁん、いつもそんなの持ち歩いてるんですかぁ?」
 息を落ち着かせて真澄が尋ねる。
「だってあなた達といたら面白いことばかりだもん。撮影しない手はないわよぉ」
「見世物じゃないですぅ」
 年齢的には真澄と桜子は同じなのだが、どういうわけか、肉体に伴って精神も女性化した時は、年下であるかのように振舞う。
 これも可愛く見られたい「女心」と思われる。
「さぁさぁ明日は休み。今日は飲むわよぉ」
 桜子のこの言葉、単なる乾杯の音頭ではないのが後にわかる。















 五時から始めてゆうに四時間。午後九時を回ったところ。
 この時間から店に来た場合、既によそで飲んできているケースも多々ある。
 それだけに、多少のことでは動じない。
 しかし、美女三人(正確には桜子ときららの二人)が甲高い声で下ネタを展開していたのには、酔客達もさすがに引いてしまう。
 真澄はおとなしくちびちびと飲んでいる。ノンアルコールを頼むと、二人が勝手にキャンセルして、もっと強い酒を頼んでしまうのだ。
「大将〜、アブサン頂戴〜っ」
 そう桜子がオーダーした時は、何故かやたらに長いバットがもってこられたりしたが、とにかくもっと強い酒を飲まされるので堪らない。
 だから比較的度数の低いものを、ちびちびとなめてつきあっている。
 テーブルには酒だけではなく「肴」も並ぶ。ビールだと定番のソーセージなど。
 それをきららが手で掴む。かなり大きなソーセージである。
「だからぁ、こう……こうしたほうが気持ちええんよ」
 言うなりきららは茹でた特大ソーセージを縦にくわえた。そして噛み千切らず、その先っちょを嘗め回す。
「「…………」」
 男性客はあまりのどストレートな “光景” に、逆に言葉を失っている。
「えー、そりゃあなたは、知っているでしょうけど」
 もちろんきららの正体を知るゆえの桜子の発言だ。彼女は「気持ちよさ」を体験のしようがない。
「……ところでそのときあなたは男? 女?」
「男にきまっとるたい」
「きゃーっ」
 黄色い声を上げる腐女子。
「あ、いうとくけど相手は女の子よ」
 もちろんその時点できららは男だからなのだが、聞き耳立てていた他の客は仰天する。

(お……女同士でそんなことを?)

「なんで? どうして男同士じゃないのよ」
 桜子は筋金入りの「腐女子」である。基本的には二次元好きだが、この時点じゃ単なるバカ話のせいか三次元でも平気な様子。
 顔色が変わってないものの、したたかに酔っ払ってもいるせいでもあろう。
 別に女性が下ネタを口にしていけないわけではない。ただ、例えば男性であれ、程度によっては引かれる。
 ましてや女性となると、なおさらである。
 この場合きららは本来男でわからなくはないが、相手を務めていたのは元から女性である桜子である。
 真澄が赤いのは、酔いのせいか羞恥のせいか。
「……きららさん、その──男の人とも、その………」
 頬を染めて言いにくそうにしている姿が、先刻のきららの「ソーセージ」とは別の “精神攻撃” を男性客にヒットさせた。
(か…可愛い……)
 清純派に見えたせいだ。
「なんね。あんた、まだやったんかいな」
 上から目線のきらら。
「ど、どうせ私は、おこちゃまですよーだ」
 可愛い声で拗ねると、余計に可愛らしい。ただしもっと幼く見えるが。
「なんならここのお客さんに、相手してもらったらどう?」
 きららのとんでもない提案に、むせ返る男性客。
 むしろ「ソーセージ」の件といい、からかって遊んでいる節がある。
「んー、それいいかも」
 真澄は立ち上がって、歩き出す。
 実行に移す彼──彼女もかなり酔っ払っている。


 別テーブルにいるサラリーマンの一団。スーツを椅子にかけ、ネクタイを緩めてラフな感じである。
 やはり仕事を終わらせ、翌日が休みで飲みに繰り出した、そんなところだ。
 そこに真澄がふらふらと歩み寄った。
 ただ歩いているだけなら気にも留めないが、明らかにこちらを目指しているので、目を向けてしまう。
 ましてや正体はともかく、今は可愛いタイプの巨乳美女。思わずチラ見してしまうような相手が、向こうからやってくる。
 さらには一番手近な男性客、メガネの細身にしなだれ掛かってくる。

「おにいさぁん、私とおつきあいしてくれませんかぁ」
「……!?」

 赤く染まった頬、潤んだ瞳で上目遣い。高めのややロリータ気味なアニメ声でこんなことを言われたらたまらない。
 だが、さすがにいきなり「食いつく」わけはなく、ただ戸惑うばかり。
「えっ? えっ? い、今なんて?」
「もぉっ、恥ずかしいんだからぁ、二度も言わせないでください〜」
 当然の反応、そして予想の斜め上のリアクション。
 言いながらメガネのサラリーマンのワイシャツのボタンを、その細指で外していく。
「ちょ、ちょっと──」
 掟破りの逆レイプか? 身の危険を男の方が感じた。
「お、お客さん、やめてくださいっ」
 店員が止めに入った。
「あん、もうっ」
 文句を言いかけた真澄だったが、店員の顔を見てにまっと笑みを浮かべる。

「あらぁ、あなたも結構可愛いかも……おねが〜い、私を〜女にしてくださ〜い。まだ経験がないんですの〜」
「「……ぶっ!!」」

 その場で酒を口に含んでいた全員が、一斉に吹き出した。
 それももっともだ。
「……吉野さん、つれて帰ってくれる?」
 三人はとうとう「きりやま」のたいちょ──もとい大将に店を追い出されてしまった。他の客達の迷惑だ。
 しかし、そんなことで堪える桜子ではない。
「きゃはははっ、いいモノ見せてもらったわぁ。それじゃ河岸を変えましょうかぁ?」


 メストラ三匹が出ていった店で、誰かがぼそっとつぶやいた。
 「痴女がいた……」と。





 まだ十時で宵の口。次に三人が訪れたのは、きららの案内した店だ。
「ここって……」
 店の看板に、男性の写真がいくつもでかでかとはってある。タイプは違えど美男子ばかりだ。

「そっ、いわゆるホストクラブやね。女ならではの遊び」

「いいわね〜、一度は来てみたかったのよね〜」
 一番先頭に立ちそうな桜子だが、いつも飲んでいるうちに「行こう」という意識をなくしてしまうので、まだ来たことがなかったのだ。
 当然ながら、本来は男の真澄もホストクラブは初めてだ。


 その「初めて」がもろに出てしまった。真澄は体育会系のホストに愛想よく言われてメロメロになっていた。
「可愛いね、君」
 もちろん女性客をもてなすのが仕事の彼らである。容姿を誉めるのは当然だ。
 真に受けないものの、悪い気はしない……しかし、それは最初から女性に生まれ育ったからこそだ。子供時代をすっ飛ばして、いきなり成人女性になった真澄は、その言葉を真に受けた。
「ほんとう?」
 やたらに潤む瞳で、上目遣いでホストを見上げる。
 プロである彼も、一瞬だったがどきりとさせられた。
(やべっ、この客マジ可愛い……ヤバイな)
 傍目にも敬遠にかかっていたが、真澄本人はその「酒癖」もありどんどんと迫っていく。
 また追い出されてはたまらない。桜子がさすがに押しとどめた。
「はいはーい、さか──真澄ぃ、飲みましょ。これなんて美味しいわよぉ」
「で、でもいい男が……」
 頬の赤みは酔いか恋心か。とりあえず、「本来は男なのに女として色々やらかして恥入っている」というのは、現時点では女心ゆえにないが。
「まぁまぁ、まずは景気付けに一杯やりましょ」
「えーっ、さっきのお店であんなに飲んだのに〜」
「この店じゃ、飲まないとホストが相手してくれないわよ〜」
 あながち嘘でもない。完全に「イケメン」に目がくらんでいる真澄は、しぶしぶアルコールを口にした。そして、
「やだこれ!? 美味しい」
「でしょう? とっても高いシャンパンよ」
「これなら私でも飲めま〜す。……あ〜ん美味しいっ」
 一瞬で関心を切り替えた辺り、桜子の酔っ払いのあしらい方はかなりのものだった。
 「酔っ払いは酔っ払いを知る」とでもいうところか。


 ちなみに真澄達を「おとり」にして、きららは可愛いタイプのホストを押し倒し、速攻で唇を奪っていた。
 同性相手という意識はないから、まったく躊躇いはなし。完全に自意識が「女」であった。


 ホストクラブを出た時は、午前三時。
 飲み口のよさで深酒になってきた真澄は、かなり危なっかしい状態だ。
「まったく……あのくらいで情けないわね」
 桜子が責めるが、この場合で普通なら「飲みすぎよ」と責めるところだ。正反対である。
「はいはーい、うちは飲み足りないっちゃ」
 どこかの鬼娘を彷彿とさせる言葉遣いで、きららが言う。ホストにかまけていたので、さほど飲んでないのである。
「うーん、でも今からじゃ半端よね……それじゃ始発まで」
 桜子を先頭にコンビニエンスストアへ行き、そこでさまざまな種類のアルコール飲料とつまみを買い込んだ。
 そして女二人は手近な公園のベンチで酒盛りを始めた。真澄はその横でダウン中。
 そのまま桜子ときららも酔い潰れてダウン。とうとう朝日を拝む羽目になってしまった。















 朝の六時。とある集合住宅の一室。
 野球帽をかぶった細身の少年がそっと出てきた。ジャージ姿である。
 十歳くらいだろう、ごく普通の子供だ。髪は短め。スポーツ少年という感じた。
 しかし未来ある少年とは思えない、どこか落ち込んだ表情であった。それを振り払うように首を振り、そして自らを鼓舞するように走りながら階段を降りていった。
 朝のロードワークは彼、武本雅彦の習慣なのか、家人は誰もそれを不審には思わない。


 それから三十分後。
 徹夜で飲んでいた桜子ときららは、酔い潰れてベンチで爆睡中。
 通りに面したベンチなのが幸いしてか、暴漢などにも襲われずにすんた。
 真澄の場合は元々強くないのに、飲みすぎて既に二日酔い状態。脱水状態から強烈な喉の渇きをおぼえて、目を覚ます。
「…………」
 アルコールの残る頭は、彼女を未だ「女性」としての精神状態にとどめていた。
「…………お水」
 公園だから水飲み場はある。だが、桜子の傍らにカラフルな缶飲料があるのに気付く。
 ウーロンハイを知らなかった真澄である。缶チューハイをジュースと勘違いするのも不思議ではない。彼女は何の疑問も持たずに飲み口を開け、そして中身を一気に飲み干した。
「うっ、やだこれ……」
 飲み終わってからアルコール飲料と気がつく。そして足元から煙が上がった。


 雅彦少年は公園から煙が上がったのを見て、普段はジョギングのコースに入っていないそこに入り込んだ。
 大人の女性二人が酔い潰れてベンチで寝ている。それだけならともかく、何故か自分より年下の女の子がそのそばにいた。
 ツインテール──というより、もっと短いキャンディヘア。ワンピース姿が可愛らしい。
 そして何より、人懐こい笑顔を浮かべていた。初対面である少年に笑顔を向ける。
 少年・雅彦もつられて笑みを返した。そして、恥ずかしさを誤魔化すように質問する。
「君のお姉さん達?」
 少年はまず単純に考えた。この女の子はだらしない大人二人の世話をしていたのでなかろうかと。
「ううん、お友達」
「え?」
 雅彦は混乱した。彼の少ない人生経験でも、酔い潰れた二人が二十歳台だと見当がつく。
 しかし一方、どう見ても自分より年下の女の子。それがなんで友人関係?
「僕、武本雅彦。君は?」
 しつけがよいのか、相手の名前を尋ねる前に名乗る少年。
 その童女は元気よく返答した。
「さかい ますみです」


 先祖にかけられた呪いゆえ、酒に酔うと女性化する酒井一族の男子。その中でも変り種だったのか、真澄は「もう飲めない」というところからさらに飲むと、肉体(と精神)の年齢退行を引き起こす。
 推測では「これ以上、飲まされない姿」ということで子供になるのではないかと思われている。
 真澄もきららも女性化すると、酔いも手伝って精神も完全に女性化するのだが、真澄の場合はさらに年齢にあった思考になる。
 平たく言うと、現在の真澄は心身ともに7歳の少女そのものになっているのだ。
「ねえおにいちゃん、なにしてんの?」
 まだ、早朝のラジオ体操の時間ではない。
「トレーニング。でも……やっても仕方ないかな」
「なんで?」
 無邪気に尋ねる童女。少年はつい「他人に言っても仕方ないこと」を話しだす。誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
「この前の試合でエラーして……監督にレギュラーから外すって言われたんだ」
 少年野球の二塁手である彼は、前回の試合でタイムリーエラーをしてしまった。そしてセカンドのポジションを争うライバルが、次の試合のスタメンとなった。
 それで落ち込んでいたのだ。
「あいつ上手いからなぁ。僕、もうレギュラーに戻れないかも知れないし……」
 「野球、やめようかな」と言いかけてたら真澄が抱きついてきた。
「わっ!? ま、ますみちゃん?」
「おにいちゃん……かわいそう……」
 感受性の強さで同情してしまい、真澄は思わず少年を抱きしめて涙してしまった。
「こ……困ったなぁ……」
 以前にも慰められたこともあったが、まさかここまでしてくる相手がいるとは思わなかった。それも初対面で。
 雅彦は困惑するが、それでもこの優しい少女の心遣いに暖かいものがこみ上げていた。


 そして……それをこっそり見ている酔どれ女が二人。
「目が覚めたら面白いことになってたバイ」
 そうつぶやきながら缶チューハイを口にするきらら。彼女のは場合は、女姿の維持のためだ。
「持っててよかったわぁ……」
 桜子もさりげなくビデオカメラを回していた。「ラブシーン」を余すところなく収めている。


「おにいちゃん、げんきだして」
 涙の残る目で、少年を下から見上げる真澄。
 まだ「色恋沙汰」には目覚めていない雅彦少年だったが、さすがにドキッとなった。

 もしこれで “目覚め”たら、「男相手」に──ということになるのだが、知らぬが仏。

「そうだ、おおきくなったらますみがけっこんしてあげる。だからげんきだして」
「け、結婚!?」
 いくら子供でも、言うことが突拍子なさすぎる。

 しかし、それも当然である。童女の姿ゆえ忘れてしまうが、酒井真澄は現在絶賛酔っ払い中なのである。

 酔っ払いの理屈に、まともな理論など存在しないし通用しない。


 ベンチの二人にも聞こえる高い声での結婚宣言。
「確かこの前もあんなこと言ってなかったかしら?」
「見境無しとはさすがあたしの親戚タイ」
「酒井君って中年好みかと思ってたらあんな子供に……むしろショタだったのね」
 好き勝手にいっているが、現状では言われても仕方ない。
 大声でキャーキャー騒ぎたいのをこらえて、静かに盛り上がるきららと桜子だった。


「え……ええええ!?」
 人生経験の浅い少年でも、「結婚」の重さは理解できる。言葉ではなく感覚で。
 そして反応は大人の男と同じ──たじろぐ雅彦少年。
「おにいちゃん、めをつむって」
 可愛らしく言う真澄。童女ゆえに「色気」はないが「可愛さ」ならある。
 それにやられたのか、それとも半ば思考が麻痺していたのか、少年は言われたままに目を閉じる。
「しゃがんで」
 それに従ってしまうのは、彼の素直さゆえか。
 おかしな状況に不安をおぼえていたら、とどめとばかしに唇に柔らかいものが押し付けられた。
(……!?)
 思わず目を開けると至近距離に真澄の顔があった。あわてて引き離す。
「な、何するんだ?」
「えへへへ、およめさんになるならチューしてもいいんだよ〜」
 子供ゆえの短絡思考ではない。酔っ払いの「つながらない思考」である。



小学生真澄ちゃん(illust by MONDO)



 ベンチのメストラ二匹は、そろそろ寝たフリがきつくなってきた。
 体勢もあるが、あまりに真澄の行動が面白すぎた。
「もうーかわいいなぁ、ちっちゃな恋人。ほんとに嫁に行けばいいのに」
「酒井君ってあの年でもキス魔なんだ」
 完全に野次馬ゆえに、無責任な感想を述べていた。
 そうこうしているうちに新たなる展開……真澄に「くちびるを奪われた」雅彦少年は、混乱して悲鳴じみた声を上げ、逃げ出してしまった。
「……根性なしやね。そんなんじゃ将来女を押し倒すこともできんとよ。あたしなんかこの前シャワー浴びてる最中にもう始められて」
「しょせん男ってそうなのよね……いざとなると逃げ出すし」
 本当に好き勝手な「ガールズトーク」だった。


 少年に逃げられた真澄は、しょぼんとしてベンチに戻ってくる。
 きららと桜子は寝たふり。それを起こそうともせず真澄もそばで眠ってしまう。
 男の子がいなくなった事で緊張が解けたか、眠気が戻ってきたようだ。
 あるいは逃げられたことで不貞寝しているのか? とにかく可愛い寝息を立てて、眠り始めた。
 入れ替わりに桜子ときららが身を起こした。
「あたたた……体がバキバキいってるバイ」
「ほんと。でもいいもの見せてもらったわぁ」
 桜子はビデオカメラを取り出した。次いで眠る真澄を見る。
「可愛い唇なのに、もう男を知っているのね」
「……桜子さん、それはちょっと──」


 雅彦は自宅に戻って、朝食を摂っていた。
 食べながら公園での出来事を振り返る。
(びっくりして逃げてきちゃったけど……悪いことしたのかな?)
 優しい少年であった。
 ほとんど通り魔にあったようなものなのに、相手のことを案じていた。
(ちっちゃな子だったから、きっとよくわかってなかったんだ……どうしよう? 謝った方がいいのかな?)
 そう考え出すとそちらに傾く。
 彼は急いで朝御飯を食べると、また家を飛び出した。


 時刻は八時を回ったところ。
 きららの膝の上ですやすやと眠っている童女の真澄。
 それを見つめるきららからいつものけたたましさが消え、優しい目つきになる。
「母と娘みたいね……あんた達」
 桜子の感想。実際は男同士なのだが。
「うふふ。あたしが子供産んだら、こんな感じなのかなって思ってたばい。行為だけなら何度もしているけど妊娠はしたことないし」
「してたらまずいでしょうが」
 そんな会話をしていたら、真澄が目を覚ました。
「……おしっこ」
「ああ、お手洗いはあっちやね」
「うん」
 小さな体でとてとて走るさまは、本当に可愛らしい。
 そこへ入れ違いに、雅彦が公園にやって来た。仰天するきららと桜子。
「な、何であの子また?」
「単に地元なんじゃない? 誰か探しているのかしら? まさか酒井君?」
 桜子の見た通り、雅彦はさっきの女の子──真澄の姿を探していた。その視線がトイレに向いた時、そこから黒いセーラー服の少女が出てきた。
 背中までのロングヘア、長めのスカート。そしてやたらにきつい顔つき。
「あらぁ? トイレの中で少し戻った見たいね」
「いっぱい寝とったもんなぁ」
 そう、この少女は真澄が女子中学生になった姿だ。
 飲みすぎてしまうと防御のため飲まされない姿へと変貌する、それが童女姿。そして酔いが醒めてくると、少しずつ本来(?)の大人の女性姿に戻っていく。この中学生バージョンはその途中というわけだ。
 そして真澄本人が中学生に抱くイメージが「反抗的」というもののため、それがそのまま自身に反映されていた。
 要するに、「やさぐれ」ていた。
(あのお姉さん怖そう……係わり合いになりたくないな)
 雅彦少年の反応はもっともだ。彼はさりげなく視線をそらし、その場を去ろうとした。
「逃げてんじゃねーぞ、ガキ」
 童女の時と打って変わってやたら攻撃的な口調だ。雅彦は震え上がってその場に立ち止まった。
「そうやって逃げ回るのか? エラーしたことから、レギュラー争いから逃げるのか?」
「えっ!?」
 雅彦はぎょっとなった。なんでこんな見ず知らずの女子中学生が、そのことを知っているんだ?
 よく見ればこの怖そうなお姉さん、さっきの女の子と顔が似ている。
(ますみちゃんのお姉さん?)
 同一人物とは思うわけがない。きわめて常識的な回答を導き出した。
「だってあんなエラーしたら……もう使ってもらえないよ……」
 半ばトラウマになりかけていた。
「バッキャロー! てめぇ、それでも男かっ」
 まだ大人になりかけの、「幼さ」が残る声で怒鳴りつける中学生真澄。思わず顔をしかめる雅彦。
 まわりにいた人は観て見ぬふりだ。


 しかし見ぬふりどころか桜子はきっちりビデオカメラを回していた。




中学生真澄ちゃん(illust by MONDO)



 真澄はしゃがんで、雅彦の目の高さに視線を合わせた。
「男だったら欲しいものは奪い取れ。こんな風になっ」
 言うなり彼女は雅彦の唇に、自分のそれを押し付ける。
 逆に雅彦は「奪われた」。
「…………」
 たっぷり一分は唇を重ねていた真澄が、やっと少年を開放する。
「どうだ? こんない女がキスしてやったんだ。少しは元気が出ただろ?」
 いい笑顔だが、完全に「ヤンキー」そのものの真澄。対して、一日に二度も見知らぬ少女達に唇を奪われた少年は青ざめる。
「わぁぁあああ〜っ!!」
 彼のしたことは「脱兎のごとく」逃げることだけだった。
「ちっ、なんでー、根性なしが……てめーら見世物じゃねーぞっ」
 野次馬を威嚇する真澄。見るなと言うのも無理な相談だが。
「あっ? てんめー!」
 桜子のビデオカメラに気がつき、真澄は怒りの形相を浮かべて大股で歩み寄っていく……が、その足元から煙が生じた。
 それが晴れると、そこにはブレザー姿の女子高生がいた。
「あ、やだぁ桜子さんったらっ……撮ってたんですかぁ? もうっ、恥ずかしいなぁ」
 さらに一段階年齢が戻り、今度は女子高生になった。
 この姿の時は17歳らしい。箸が転げてもおかしな年頃であるため、ビデオカメラで撮られていたことも「恥ずかしい」で流してしまった。
「可愛く撮ってね♪」
 桜子の構えるビデオカメラに、ピースサインまでするほどだ。
(よかったぁ……おとなしい娘になって)
 確かに攻撃的なところはない。だが本性はあくまでも「淫乱娘」である。たまたま女だけだからでないが、ひとたび男が現れたら……そう、まだ「男」と呼ぶのにためらいを覚えるような少年でさえ彼女のターゲットだ。
「とりあえず、帰りましょうか」
 ベンチで寝ていればあちこち痛い。桜子の提案に賛同する二人。
「ジュースもらっていいですかぁ?」
「あ、それは──」
 ジュースでなく缶チューハイだ。真澄は返答を待たずに、ベンチに置いてある袋からそれを取り出して飲み始めた。
「いいの?」
「うーん……だいぶ戻ってきているし、多少ならあの姿を維持するのにいいんちゃう?」
 気分よく飲んでいるところを取りあげられるのは堪らない……これは酒飲みの気持ち。
 それがわかったのでほっといた。おかげで真澄は女子高生姿を維持したまま。


「あらいけない……雅彦、おつかい行ってきて」
 母親が、雅彦に駅前の店へお使いを頼んだ。
(駅前か……公園は通らないから、あの怖いお姉さんいないよね)
 二度もキスされて怖かったが、方角が違うので雅彦は素直におつかいに出たが──



高校生真澄ちゃん(illust by MONDO)



 まさかのエンカウント。雅彦はまた真澄と出会った。
 ただし真澄は女子高生姿。だから雅彦は別人だと思ったのだが……
「あらあらまあまあ、偶然ねぇ、雅彦君」
「え? どうして僕の名前を?」
 雅彦は猛烈に嫌な予感……「悪寒」がした。女子高生の真澄はそんな彼にお構い無しに近寄っていく。
「元気出たみたいね。お姉さん、心配していたのよ」
 まるで流れるように、少年をその豊満な胸元に抱き寄せる。
 その感触に眠っていた「男」が目覚めたか、頬を染める雅彦。
「がんばる男の子大好きよ。これはお姉さんから御褒美」
「…………」
 ニコニコとしながら顔を近寄せていく真澄。
 少年は何をされるかもう悟っている。そして桜子は横でビデオカメラを回している。
 雅彦少年は、またも真澄に唇を奪われた。
「あ、あ、あ……」
 彼の生涯において一日に三度、それも全て別の女性に唇を奪われるなど、これまでも……そしておそらく今後もないだろう。
 もしそれが全て同一人物、加えて「正体は男」だと知ったら、彼の中のいろいろな何かが崩壊するのは想像に難くない。
 赤くなったり青くなったり。

「う……う、うわあああああああああああんっ!!」

 そしてリアクションも同じだった。雅彦は『痴女』から逃げ出した。
「まぁ? どうしたのでしょう?」
「そりゃあ……いくら小さくてもこうも立て続けになすがままにされたんじゃ、男のプライドはずたずたやね」
「そうなの? 男の子って」
「あんた達もほんとは男でしょうが……はいはい帰って寝直すわよ。月曜からまた仕事なんだから」
「そうやね」
「はーい」
 三人は再び駅へと向かう。
「あ、その前にちょっと待っててくれる? 本屋さんで買い物」
 桜子は真澄たちから離れた。その際に邪悪な笑みを浮かべて。















 休み明けの月曜日。
 雅彦は元気に家を飛び出していった。
 野球の試合でのレギュラー落ちのショックは、日曜日に出会った「痴女」達の痴態で吹っ飛んだ。
 結果として、気持ちのリセットに成功した雅彦少年であった。


 そして……そのリセットをした当人はというと。
「見てご覧、酒井君。とてもいい表情しているよ。君、こんな可愛い表情も出来るんだね」
「…………勘弁してください」
 休憩中にポータブルのビデオ再生機器で、日曜日のことを見せる山崎。
 酒井は「己が醜態」を見ないように目を逸らしているが、既に当日の痴態を思い出して赤面している。
(どうしてオレは酔っ払うとこうなるんだ……)
「はいはーい。酒井君のためにいい物を持ってきたわよ」
 桜子が持ってきたのは、年齢一ケタ台の男子子役の写真集だった。「……いやぁ、それにしても酒井君がショタとは思わなかったわ。今度はどこかの小学校にでも行ってみる?」
 からかっているが効果は覿面。酒井は耳たぶまで赤くした。

「だぁぁぁぁぁっ! もう二度と酒なんて飲むものかぁぁぁぁぁっ!!」

 そう決意表明するものの、
(それって……二日酔いした奴が一度は言うセリフなんだよなぁ……)
 「二日酔い」が身に覚えの同僚達は、その宣言がカラ手形というのがよくわかっていた。


あとがき

 今度は二年も間が空きましたが四話目をお送りします。

 三話目で出てきた年齢退行の設定を生かした話と思い、当初は英国の取引先が日本滞在中のメイドを探しているとなり、そこでスコッチウイスキーをたっぷり飲まされイギリス風メイドになり切った真澄が、翌日童女になって……という展開でした。
 しかしどうもまとまらず。メイドは諦めて年齢退行だけに絞り今回のようになりました。

 「富乃宝山」のくだりは2011年9月25日に行われた「@manbow」のイベント。
 『Happy Smile 17』内で披露されたVTRで、実際に声優の井上喜久子さんがやってしまったことから。
 見ていて本当に「うわぁ……」と思いました(笑)。

 ゲストキャラクターの雅彦君。
 まだ性に目覚めてない少年では「うはうは」とは行かなかったようで(笑)。
 まして相手が「実は男」と知ったら愕然とするか、別なものが目覚めそうです(笑)。

 三話目では出来なかったウルトラパロ。
 今回は隊長さんから。
 やはり名セリフは「なにっ!?」と思い(笑)。
 それから元・パン屋の運転手さん。

 次は……合間を空けずお送りしたいと思いますが(前回もそんなことを)。

 お読みいただきましてありがとうございます。

城弾

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