春休みのある日――
特に予定もないんだけど、僕は早く起きて朝ごはんを食べていた。
あ、もちろん男の姿のまま。……クラブもバイトもな・ん・に・も・ありませんからっ。
「司、そろそろ洸ちゃんも起こしてきて」
のん気にトーストをかじっていると、母さんにそう言われる。……うん、確かにちょっとお寝坊さんだな。
「ん……わかった」
食べかけのトーストをおいて、僕は二階へ上がった。
この春から僕と同じ後楽高校に入学する、従姉妹の洸ちゃん。
最初は、洸ちゃんのお母さんの妹夫婦さんの家から通学するという話もあったんだけど、こっちの方が近いからうちで暮らすことになった。
ちなみに彼女のお母さんは、現在単身赴任中。
お父さんである孟おじさんは、南米で「組織」と何かあるらしい……
「洸ちゃん、入るよ?」
「お……お兄ちゃん? ……ま、待って、ちょっと待って!」
慌てた洸ちゃんの声。……なんで?
「早くしないと朝ごはんなくなるよ」
僕はかまわず部屋のドアを開けた。
「……!!」
そこには下着姿で硬直している洸ちゃんがいた。水玉模様の可愛いパジャマはベッドの上。
「なんだ、着替え中か。……早く降りといでよ」
次の瞬間、硬直の解けた洸ちゃんは甲高い悲鳴を上げて枕を投げつけてきた。
着せ替え少年
Dress up boy10 〜シスター・プリンセス〜
作:城弾
この作品はフィクションであり、実在の人物、団体、地域とは一切関係はありません。
「ごめんっ! 本当に悪かった、洸ちゃんっ」
「……信じられないっ。着替えの最中に入ってくるなんてっ」
ダイニングキッチンで頬を赤らめむくれている洸ちゃんに、平謝りの僕だった。
「それだけならただの大ボケだけど……司、なんでその場ですぐに謝んないで平然としていたのよ?」
姉ちゃんの言うことはもっともだ。
「……いやぁ、それが――」
女の子の下着も結構見慣れちゃったし、最近じゃ学校でも(女子生徒として)一緒に着替えたりしてるから、抵抗なくなっちゃって……
「あんた本気で女の子化してるわね」
「う……そ、それはともかく」
実はちょっぴり気になっているんだけど、僕は強引に話を元に戻した。
「お願い洸ちゃん、許してよ〜」
女の子の着替え中に部屋へ入っていったのは事実なんだから、ひたすら謝るしかない。
「もう、しょうがないなぁ、お兄ちゃんはっ」
やっと怒りが解けてきたらしい。洸ちゃんはにっこり笑顔を浮かべて、「……じゃあ、あたしの言うこときいてくれたら許してあげる」
「ホント? 何でもするよ」
「それじゃあねぇ……東京見物。行きたかったところがあるんだ」
「わかった。それで? 渋谷? 原宿? 吉祥寺?」
「その辺りは何度か行ったもん。でもまだ行ったことのないところがあるの」
「……?」
……で、今は電車の中です。

「あの……洸ちゃん、どうして電気街なのです?」
「だって面白そうだったんだもん。街中にメイドさんやコスプレさんがいるんでしょっ?」
「それは歪んだ情報です。実際にはそんなでもないですわ。ですからわざわざ見に行くほどのものでも……」
「……着替えノゾいた」「う……」
半眼でそう言われては仕方ありません。
「わ……わかりましたわ。でも……なんで私までこんな格好なのです?」
今の私は女の子になっています。
春らしいピンクのワンピースに、髪の毛は長い房を後ろに回して、大きなリボンで留めています。
メイクもしてますが、軽いナチュラルメイク。……自分で言うのもなんですが、「お嬢様風」です。
「だって今日行くところでアルバイトしてたんでしょ? でもばれると着せ替え人形にされるって聞いたし……だから変装」
女の子だから、それだけで印象随分変わるし……なんて言っているけど、口実のような気がします。
ううっ、こんな姿で見知らぬ人ばかりの中を……
電車から降りると、駅のあちこちの柱にアニメのポスターが貼ってあります。
よく見るとDVDの告知で、発売が近いから宣伝みたいです。
改札手前の床には大きな広告がありました。アニメ美少女のようです。
「わぁーっ、すっごいねぇ」
洸ちゃんが無邪気に喜んでます。これだけなら「可愛い妹分」なんですけど。
天使なのか、それとも……
駅から出ると、凄い人ごみでした。リュックサックをしょった男の人たちがやたらに目立ちます。
「ねえ。おにい……つかさお姉ちゃん、この人たちが『オタク』なの?」
『お兄ちゃん』と言いかけて、今の姿に合わせて言いなおす洸ちゃん。
一日「お姉ちゃん」と呼ばれ続けたら、かなりその気になりそうで恐いです。
「必ずしもそういうわけではないと思いますよ」
私は小首をかしげて苦笑しながら、そう答えました。
電気街口を出ると凄い人ごみです。
コスプレの女の人たちが、あちこちでビラを配っています。中には男の人たちと、何か話し込んでいる方もいます。
もしかしたら、勧誘か何かされているのでしょうか? そんな雰囲気です。
なんて思っていたら、私たちのほうにも男の人と女の人の二人組が近づいてきました。
和風っぽい服装で、どっちも長い髪をしています。
女の人は美人ですけど……なんだかエッチな感じがします。
隣の男の人も凄い顔です。不細工じゃないんですけど、いわゆるジョニー・デップ系の『濃い』顔です。
「おなかをすかせて泣いてます……(わたしたちが……)」
……えっ? 今の、この女の人の声ですか? ずいぶん低い声です。男の人みたいです。
「ほんのちょっとだけしぼらせてください……(あなたたちのサイフの中身を……)」
今度は男の人が、やたらと高い……ずばり言うと女の人みたいな声で話しかけてきます。
「さぁ、版画を買ってください……」
「この契約書にサインをしてください……」
不気味な二人組が、ずいっと私たちに迫ってきました。ま……まばたき忘れていませんですかぁ?
「え……あ、あ、あのあのあの――」
……あうあう。これを断れる性格なら、服に着られて女の子になったりなんてしませんのに。
「つ、つかさお姉ちゃん……」
洸ちゃんが不安げな声を上げたその時、
「こらあああっ!!」
「雷を落とす」といった感じの怒鳴り声とともに、一人のおまわりさんが、左の拳を突き上げて走り寄ってきました。
「・・・このバカモノがぁっ!!」
熱血おまわりさんは私たちをガードするように立ちはだかるとと、二人組を睨み付けました。
「ポリか……」 「ポリめ……」
二人組はなんだかやたらに気味悪い、抑揚のない口調で言い返してきました。それに対して、おまわりさんはかなり怒っています。
対決ムードが高まる中、その二人組は何故かあっさり逃げ出しました。
「あっ、待てっ!」
「……追わなくていい」
トレンチコートを羽織った、目元の涼しげな男の人が駆け寄ってきて、おまわりさんを制止しました。私服の刑事さんのようです。
「暫木さんっ!」
声をかけられたおまわりさんは、やたらと嬉しそうな表情を浮かべます。
「残念だが、アレはあの段階じゃ何もできん。追っ払えばそれでいい。……行くぞ、等々力」
「ハイッすよっ。暫木さんとなら、もう地獄の底までついていくっすよっ!」
二人の体育会系なおまわりさんは、私たちに一礼すると、何処かへ行ってしまいました。
くいくい。
「つかさお姉ちゃん、電気街って恐いとこなのかな?」
「うーん……だ、大丈夫よ、きっと」
怯えたような表情の洸ちゃんに、私は若干引きつった笑みを浮かべて答えました。
根拠はありませんけど。
まだお昼前ですので、まずはいろんなお店を回ることにしました。
有名な西丸電気で、洸ちゃんはその販売量に圧倒されていました。
店頭でコスプレのお姉さんを見かけて、そのままつられるようにゲームセンターに入ります。
せっかくなので、ぬいぐるみ狙ってプライズマシンに挑戦しましたけど、二人とも取れませんでした。
「うー、ダメだったね。もうちょっとで取れたのに」
「そうですね〜。残念だったです……」
洸ちゃんがいかにも「妹」なせいでしょうか、私もなんだかどんどん「おっとりお姉さん」になっていきます。
まあ、男の子の時でも、実際に妹のように接してましたし。
「なんだかこれってデートみたいだね、つかさお姉ちゃん」
そうでしょうか? 従姉妹同士ですし……今は「女どうし」ですよ。
お目当ての「ひろこや」は夕方オープン。まだ時間がだいぶありますけど、少しお腹がすいてきました。
今は博物館の、機関車や新幹線の先頭部分が展示してある前にいます。
「あっ、お姉ちゃん、あそこに甘味どころがあるよっ」
歴史を感じさせる、風情のあるお店がありました。その雰囲気が気に入った私たちは、その店で甘いものを頂くことにしました。
「いらっしゃいませええぇ〜っ!」
店ののれんをくぐると、くりくりっとした大きな目の、作務衣を着た綺麗な女の人が出迎えてくれました。
でもそのけたたましいほどに甲高い声が、美人なイメージを壊してます。ちょっと損してるのではないでしょうか。
「さぁさぁ寒かったでしょう中にお入りください。ラッキーですねぇさっきまで団体さんがいらしてたんですがちょうどお帰りになられて。こちらにお座りくださいね〜今お茶をお持ちしますからその間に選んでおいてくださいね〜。なんですか? やっぱり電気街ですか? アニメビデオですか? それともゲームですか? 最近は良くこちらにも男のお客さんがお見えになるんですよ。お嬢さんたち二人というのは最近じゃ久しぶりですよ。しかもこんな可愛らしいお嬢さん方。いやぁ嬉しくなっちゃいます――」
「…………」
まさに言葉のマシンガンです。私たちが返事するヒマがありません。……と思っていたら、
「雛香、それじゃお客さんたちがしゃべれないだろう」
「あっ、父上。……いつの間に吉野から?」
店の奥からひとりの男の人が出てきました。ロマンスグレーで眼鏡をかけた、柔和な笑みを浮かべたおじさまです。おそらくここの店長さんなのでしょう。
「いらっしゃいませ。なにを召し上がりますか?」
「おしるこ二つ!」
元気に注文する洸ちゃん。
え〜っと私の意見は? まあ、別におしるこでもいいんですけど。
お昼過ぎからまたお店を色々と見て歩き、時間が来たので私たちは、「ひろこや」さんに向かいました。
結構久しぶりですし、それにここまで印象を変えたら、私だってわかりませんよね。
あのころはまだこんなに髪の毛も長くありませんでしたし……それが今ではショートカットのウィッグまである始末。
「いらっしゃいませ。……あら、女の子同士なんて珍しい」
「ひろこや」では、店長の宏子さん自らがお出迎えしてくれました。
大丈夫です。ばれてない、ばれてない……
私たちは案内されてテーブルにつきます。出されたお冷を口にして一息……
「ホント、久しぶりよね……つかさくん」
……お約束ですが噴き出しました。「な……なななな何ノコトデショウ? ワ、ワタシニハトント――」
「とぼけても無駄よ」
宏子さんが手にしていた携帯の画面をこちらに……えっ?
「これ……私?」
まさに今の姿が写っています。こんなことが出来るのは……
「みゆきって自分じゃ認めないけど、絶対にブラコンよね〜。あなたのことが可愛くてたまらないらしくて、何かというと写真を送りつけてくるのよね〜」
「す……すみません。急用を思い出しましたっ」
慌ててお店を出ようとしましたけど、扉にはカギがしっかりと……おまけに、ご丁寧に「準備中」のプレートがぶら下がっています。
「さぁて……あなたが来るって言ったから、みんな来てるのよね」
「「つっ・か・さ・くーんっ!」」
わわっ!? 店の奥からあの時の従業員の皆さんがぞろぞろと。
「つかさお姉ちゃん……以外と女の人にもてるんだ……」
「ち、違いますっ。あの人たちは、ただ私をおもちゃにしたいだけです〜っ!」
抵抗むなしく、コスプレパーティーに突入です…………はああ。
扉にカーテンをして、外から見えないようにされます。……まわりはみんな女の人ばかり(私も今は女ですけど)。
結局、諦めて着替えることにします(……滂沱)。
最初は女子高生の制服でした。赤いミニのプリーツスカートに、白のブラウス、リボンタイ。前を合わせるタイプのベストと赤茶色のブレザーです。
それから髪を二つに分けてツインテールにされ、目にはカラーコンタクト――それも左右で違う色をはめます。
「……で、これ持ったら完成よ」
手渡されたのが、は、「ハリセン」? ……え〜っとこれって…………あああっ、なんか無駄に元気がわき上がってきて、あの台詞を叫びたい衝動にかられてきたあっ!
「こらあああっ! ネギ坊主っ!! それとエロガモっ!!」
手にしたハリセンをびしっと前へ突き出し、空いた方の手を腰に当て甲高い声で見栄を切るあたし。
「……わぁっ! 本当にそのキャラになりきるのね〜」
拍手が沸き起こる。……全くもうっ、人をおもちゃにしないでよねっ。
「どのくらいなりきるのかしら? ……そうだ、これやってみてくれない?」
手渡されたのは、……英語の小テスト?
なによぉ、コスプレでどうしてテストなんてやらせるのよ?
「……2点。さすがバカレッド」
うそぉ……なんで? 頭のレベルもこのキャラになっちゃうっていうの?
ていうか、なんかこの姿の時はまともに問題解いたらいけないような気がする……
「……あああもうっ、なんかとび蹴りしたい気分よっ!!」
「じ……じゃあ、次はこっちね」
引きつった笑みを浮かべて、宏子さんがそう言った。
何故かメイクを落とされて、一度男に戻された。
そして渡されたのは男物のトランクスとランニング。どちらもまだ封を切ってない新品だった。もしかして、わざわざこのためだけに買ってきたんだろうか?
次に用意されていた衣装は、赤いチャイナ服風の道着と、下はゆったりしたカンフーズボン。……男物のようだけど。
「うん、よく似合うわね。それじゃ仕上げで……」
気をきかせて一度奥に引っ込んでた宏子さんが出てきて、僕の髪の毛にブラシを入れて、三つ編みに結っていく。
服装のせいか女の子にはならないけど…………これってもしかすると、あのキャラ?
「いやぁ、実は一回試してみたかったのよねぇ」
そう言うなり、宏子さんは手にしていたコップの水を僕の頭の上にかぶせてきた。
「冷てぇっ! ・・・なっ、なにしやがるっ!?」
あれっ? 今の声?
あ、女の子になってる。チャイナ服にお下げで、水をかぶるとくれば……
「きゃーっ、ほんとつかさちゃんて面白いわ〜」
「だから人をおもちゃにしてんじゃねーっ!」
ああっ、なんか今までで一番男っぽい性格だけど、このキャラって「体が女で心は男」って印象があるもんだから、ノーメークで男物着てるのに男の体に戻れねぇっ!!
「やっぱりねぇ……みゆきの奴、『弟は暗示で性別まで変わる』って言ってたもん。だったら洋服じゃなくても、別の「暗示」でもよさそうだし。だから……」
そう言うなり、今度は俺にやかんのお湯をかけてくる。
「あちあちあちあち〜っ!!」
熱湯ぶっかけられりゃ、たまったもんじゃねーっ!!
「……ほら、男の子に戻った」
「ひっ、人の体で遊ぶんじゃねーっ!!」
さすがにこれは特殊なケースだろうけどよ、これからチャイナとお下げの時は水をかぶらないようにしないといけないな。
「はいはい。……でもまだもう一つあるのよね」
お下げを解かれて衣装を脱いだら、素に戻った。……あ、この場に男は僕一人。なんか妙に恥ずかしい。
「とりあえず、これつけちゃってくれる?」
宏子さんが、大き目のカップサイズのブラジャーをひらひらとさせる。
「つ、つけますつけます」
なんだかこの状況が落ち着かない。女になったほうがましかもしれない……
改めて女性下着を付け直し、手渡された民族衣装風の服を頭からかぶる。……う〜ん、こんなものまでコスチュームとして扱われているとは。
着替えが終わると、今度は髪の毛を後頭部でまとめられる。
「……まだちょっと大人っぽさが足りないわね。見た目の足りない分を、匂いでカバーしちゃおっか?」
言うなり宏子さんは香水をひとふき。それだけで背筋がしゃんと伸びて、ぐんっと大人びた気持ちになっていく……
「じゃあ、顔のほうも」
改めてメイクを施される。眉を太く、ひし形のタトゥーシールを両頬と額の三箇所に貼られる。それから耳に、大きめのイヤリング。
「……完成! ほらっ、鏡を見て御覧なさい」
「あ……」
そこに映った姿は…………ああっ、女神さまっ。

私は長い服の裾をさばいて、ゆっくりと皆さんの前に進み出ました。
両手の指を胸の前で組んで、柔らかく微笑むと、おおっというどよめき声がまわりから聞こえました。
「それじゃ女神さま、何か一言」
このキャラクターにちなんでですか? うーん、どうしましょう? それでは……
「みなさんこんにちは〜っ。二村つかさ17歳で〜すっ」
「……」
「……」
「…………」
「「……おいおい」」
「そりゃ『声の人』の台詞でしょうが……」
今度はまわりからいっせいに突っ込みが入ります。
「だいたいつかさくん、あなた本当に17歳でしょうに……」
そうでした。……だけどなんだか、この台詞でないといけないような気がしまして……
さすがにこれ以上お店を閉めて遊んでられないということで、コスプレパーティはお開きになりました。
でもこれ以上ここにいたら、お店が暇になったとたんにおもちゃになっちゃいそうです。
私は元の服に着替えると、洸ちゃんと一緒に「ひろこや」を出ました。
「お姉ちゃん……なんか雰囲気違ってない?」
洸ちゃんったら、すっかり私をお姉ちゃん扱いです。でも、そう言って見上げてくるその表情が可愛いです。
「うふっ……ほのかちゃん」
私は彼女を優しく抱きしめていました。豊かになった自分の胸に、彼女の顔をうずめるように。
「お姉ちゃん」って呼ばれ続けたせいでしょうか? 本当にお姉さんの気持ちで、妹を抱きしめる感じです。
「つかさお姉ちゃんっ!」
洸ちゃんも妹が姉に甘えるように、私に抱きついてきます。
でもよくよく考えたら、人気のない通りといえど道の真ん中。そこで女の子同士で抱き合ってるのって……
私たちは逃げるようにその場をあとにして駅へ駆け込み、やって来た電車に飛び乗りました。
「ただいまぁ」
「お帰り。洸ちゃん、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ、みゆきお姉ちゃん」
みゆきお姉ちゃん……そう区別するってことは、私ももう「お姉ちゃん扱い」なんでしょうか?
「つかさ、お風呂沸いてるから入ってきなさい。……いい加減もう男に戻りたいでしょ?」
そうですね。……では失礼して。
洗面台で先にクレンジングしてお化粧を落とします。今日はマニキュアはしてないので、後は服を脱げば男に戻るはずです。
ワンピースを脱いで、下着も脱いで……うわぁ、我ながら大きな胸です。それなのにウエストはしっかりくびれています。
最初に髪を洗うのが、いつもの習慣なのです。
ロングヘアですから、先に体を洗ってぬらした状態で、長々と髪を洗っていると結構寒くなってくるからです。
そのとき私は、何も考えずにお姉ちゃんのシャンプーを拝借してました。……とってもいい匂いです。
髪を洗い終わって、身体も洗います。
特に胸の下の方は忘れがちですしね。ちゃんと洗わないと。
すべすべしたお肌に、ボディソープがよく滑ります……
「つかさぁ、大丈夫? のぼせてんじゃないの?」
どのくらい入っていたのでしょうか? お姉ちゃんが心配して来てくれたみたいです。
「……ん、今上がるぅ」
「ちょっとつかさ? その声?」
いきなり浴室の扉が開けられて、私は思わず悲鳴を上げてしまいました。
「きゃっ!」
あわてて胸を隠して、湯船に沈みます。扉の向こうには、お姉ちゃんが仁王立ちしていました。
「ち、ちょっとお姉ちゃん、いくら女同士でも……」
「なにが女同士よっ。アンタ、裸なのに男に戻ってないわよっ」
「……えっ?」
た、確かに胸もあるしあそこないし……でもぜんぜん違和感がありません。
裸になって、お化粧も落としたはずなのに、なにが私に暗示をかけてるのでしょう?
「ん? この匂い……」
お姉ちゃんが鼻をひくつかせて、私の髪の匂いを嗅ぎました。
「アンタ……あたしのシャンプー使ったでしょ?」
「あ、ごめんなさい。少しだけ……」
「だとしたらその匂いのせいね」
「でもお姉ちゃん。スキー合宿でも女物シャンプー使ったわよ。あの時もしばらくは女の子だったけど、夜にはちゃんと戻れたわ」
「そう言えば――」
そう言うなり脱衣所に戻って、今度は私の着ていたワンピースの匂いを確かめます。
「やっぱり。宏子の奴、香水使ったのね。そのせいで女の子になりきってたんだわっ。シャンプーはおまけよ」
「ええっ? それじゃあ、私、どうやって元に戻ったらいいの?」
「もちろん方法は一つよ。その匂いが取れるまであたしが洗ってあげるわっ!」
お姉ちゃんはお父さんのトニックシャンプーを手にすると、私を湯船から引っ張り上げました。
そしてシャワーの前に座らせると、いきなりシャンプーを大量にかけてきました。そして凄まじい勢いで頭を洗い始めます。
「きゃあ〜っ!! 痛い痛い痛い〜っ!」
「……『きゃあ〜っ』とか言ってるうちはやめないわよっ」
こうして二度三度と洗われて、香水の匂いも女性用シャンプーの匂いも取れたころに……僕は元に戻れた。
「ふうっ、やっと元に戻ったわね」
「わかったから出て行ってくれっ!」
男に戻ったら、姉ちゃんと風呂場にいるのがめちゃくちゃ恥ずかしい。
「だいたい姉ちゃん、ふだん僕のことを女の子にして遊んでいるのに、どうして今は……」
「決まってるでしょう!? あんたで遊んでいいのはあたしだけよ。……司、アンタはあたしの可愛い弟なんだから」
だ……だから、今裸だし、抱きつかないで欲しい。
実の姉相手に変な気持ちになったら、どうすんだよ?
「おね……お兄ちゃん、さっきお風呂場で何を騒いでいたの?」
「ああ、裸になっても男に戻れなかったからちょっと慌ててたんだ。……原因は香水とシャンプーだったけど」
「えっ? 匂いにも流されちゃうの?」
「そうみたい」
何気ない会話のつもりだったけど、洸ちゃんの目が微妙に光っていたのを、僕は見過ごしていた。
そして翌朝――
「お・姉・ちゃんっ♪」
ん……洸ちゃん? どうしたの? 僕は今男だからお姉ちゃんじゃ……
「……えいっ!」
寝ぼけていたら、霧状の何かを吹きつけられる。……ん? この匂いは?
「あ……ああっ!?」
あっという間に胸が膨らみ、股間のものもなくなって……
「きゃーっ、ほんとに女の子になったーっ!」
そう言うなり、洸ちゃんは私に抱きついてきました。
「あたしねー。ずっと前から歳の近いお姉ちゃんがほしかったんだ。それも優しいお姉ちゃん」
そんなことを言われても……どうしましょう? 男物のパジャマや下着なのに、香水の匂いが私を女の子にしてしまいました。
「ちょっと、朝っぱらからうるさいわよっ……て、なにしてんのよ? 二人ともっ」
「見ての通り。お兄ちゃんをお姉ちゃんにしたの」
同性になったせいか、洸ちゃんは遠慮なく擦り寄ってきます。
ああっ、お姉ちゃんの目が釣りあがってますっ。
「離れなさいっ! つかさをおもちゃにしていいのはあたしだけよっ」
「ふっふーん、香水さえあればあたしにだってできるもーん」
そんな……それじゃあ、私を変身させるのは、誰でも可能――と言うことですか?
受験も控えた三年生になるというのに……私の将来はいったいどうなっちゃうんでしょう?
まさか「お嫁さん」、なんてことは……
洸ちゃんの本格的参戦、というエピソードです。
東京観光は決めてましたが、場所をあそこにするあたりが僕と言うか……
かなり誇張したけど……大丈夫かな?
最初はコスプレショップで試着のはずでしたが、多分できるとは思えず。
そこで以前に出た「ひろこや」再登場。
今回は本当の意味でコスプレです。
アニメ作品からとるつもりでしたが、文庫さん向けで華代ちゃんのコスプレとかも考えて。でも結局アニメ作品のそれになりました。
チョイスは僕の好み(笑)。「おいおい」はお約束。
暗示で女の子になるから、お下げ、チャイナで水をかぶるとなってしまうと言うのは、ここではじめて考えたのですが、わりかし矛盾してはいないと思うのですがどうでしょう?
香水で変身というのは、みゆきみたいに素早く口紅を塗るなんかのスキルが無くても、誰でもつかさを変身させられるようにと設定しました。
僕自身は男性用すら使ったことないのですが、簡単に落ちるものじゃないですよね?
ゲストは和風テイストのあの作品から大挙して。
まずは毎回変わっていた敵の「養育係」のお二人。スーパーの付いていないほう。
そしておまわりさんと刑事さんは体育会系のギター二人。
それから甘味どころは鬼さんたちの拠点で。
ちなみにそのロケに使われたお店は、本当に電気街の近くにあります。正確には神田ですが。
今回もお読みいただきありがとうございました。
□ 感想はこちらに □