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碇ユカ物語
FILE2
作:caviar


<翌朝、ネルフ独房>

「ふわぁーーー」

独房ではシンジが目覚めたらしい。あくびをしてシンジは立ち上がった。
そして、体を眺める。

「はぁ、戻ってないか・・・」

シンジは薬が切れるのを待っているのだ。
もっとも、リツコ本人はその可能性は無いと断言しているのだが。


しばらく、辺りをうろついてシンジの動きが止まる。

「今、何時かな?」

そう思って辺りを見渡すが、時計も窓も無い薄暗い独房で時間を推測するには至難の技だ。

「はぁ、暇だな・・・」

いくら、こっちに来てから独房にはよく入っているとはいえ、この薄暗い部屋は何もする事が無い。
さらに暗くて不気味だ。どこかの無人島に置き去りにされたような気分になってしまう。
元のならならまだしも、今は女の子の身体である。余計に不安になってくる。
シンジはそんな気持ちを必死に堪えていた。









リツコの独房。

その頃、リツコの独房ではリツコが泣きながら寝ていた。
別に一人で寂しいとか、怖いとかそんな物ではない。ゲンドウに捨てられた事やボーナスや昇進
がない事に対して泣いているのだ。一見、リツコは金持ちだと他の職員達には思われがちだが、
MAGIの特許のお金はネルフの運用の為、ゲンドウにあげてしまっているのだ。さらに、階級を持たない為、
給料はミサトの給料の半分ほどのお金しかもらっていない。そのかわりボーナスはミサトの2倍あるのだが、
彼女にとってはボーナスカットは死活問題である。それがついにゲンドウの手によってされてしまったのだ。
リツコの家が借家ではないので、家賃を払わなくて良かったのはせめてもの救いであろう。

「母さん、私は捨てられたわ。親子そろってバカね」

・・・・

・・・・

その時、リツコがぱっと泣き止む。

「(碇司令に復讐できないのなら、シンジ君を使ってあげるわ。そもそもの原因はあの子が薬を多く飲んだ事だし、
  シンジ君の解毒剤を作らないとでもいえば、碇司令だって・・・)」

そこで、リツコはゲンドウがそんな子供思いの父親でない事を思い出す。

「(駄目ね。こうなったらシンジ君を・・・。)クックックック」

リツコの独房からは不気味な笑い声が聞こえていた。
どうやらシンジにはまだ災難が待っているようである。






同時刻、ネルフ公務室では・・
ゲンドウはいつもの司令公務室で将棋をしていた。

「冬月」

「何だ?」

当然のゲンドウの声に聞き返す冬月。

「今何時だ?」

「10時だがそれがどうした?」

「11時に釈放だ。そしたら私はシンジと一緒に墓に行く」

「(シンジ君が女の子になっただけで物凄いかわりようだな。)ユイ君に似ているからか?」

「・・・・そうだ・・・・」

「(なんという奴だ!このエロ髭眼鏡め!!)」

そう考えた後、冬月は動いた。

「どうした、まだ10時ではなかったのか?」

「トイレだ。(貴様と一緒にするな!)」

「問題無い」

「(何が問題無いんだ?)」






そして、一時間後

「はぁーー。まだかなーーー」

さっきから狭い独房をうろうろとするシンジ。
いや、この場合、ユカだろうか?

とにかく彼女は退屈そうに歩いていた。



そして、その時

独房の自動ドアが開き、男がドアを開ける。
そして、中にいるユカ(シンジ)に言う。

「釈放の時間だ」


そういって男が近づいてきて、ネルフ名物(?)三連手錠をかける。
三連手錠とは手に三つの手錠を同時にかけると言うある意味、無意味な拘束方法である。
なぜ、釈放なのに手錠をかけるかというと手錠をかけ、あの広い総司令公務室に連れて行き
本当に罪を認め、反省しているか見極める為に手錠をかけるという。



手をモゾモゾさせる彼いや彼女だが、女の子になり胸が大きくなって間も無いユカ(シンジ)にとって
胸に手が触れると言うのはなんとも言えない違和感である。
ユカ(シンジ)はできるだけ胸に手が触らないように胸から手を離そうとする。

しかし・・・

「何をしている?静かにしていろ」

と、男に言われてしまった、ユカ(シンジ)だった。








総司令公務室

広いこの部屋のドアが開かれた。

「碇司令。碇ユカを連れてきました」

男の後ろには手錠をかけられ俯いたままのユカ(シンジ)がいる。

それを確認したゲンドウが言う。

「よし、下がってよし」

「ハッ!」

一度、敬礼をした後、
男が総司令公務室から出て行った。








そして、ゲンドウはシンジの手錠を外す。

ゲンドウは外れた三つの手錠を机の中にしまうと、出口の所へ歩いて行く。

「シンジ、行くぞ」

「えっ、あ、うん(行くってどこに?)」

不思議そうな顔でゲンドウを見つめるシンジ。

「いいからついて来い」

そう言ったゲンドウの顔が少し赤くなっていたというのは冬月しか気づかなかったという。

後に残された冬月副司令のコメントは

「ユイ君が言ったとおり可愛い奴だな」

だったそうだ。





















一時間後、墓地の前に一機のVTOLが着陸してくる。

尾翼にはNERVという赤いロゴが入っている。

シンジとゲンドウがVTOLから降り、VTOLは、空へと舞い上がっていった。

「三年ぶりだな」

「そうだね・・・。僕はあの時逃げ出して・・・それから来てない」

「・・・」

「母さんの写真とか残ってないの?」

先日、見たのだが面白半分聞いてみる。

「残ってはいない。この墓もただの飾りだ」

「先生の言ってたとおり全部捨てちゃったんだね」

「人は思い出を忘れることによって生きていける。ユイはそのかけがいのない物を教えてくれた。
 今はそれでいい。だがシンジ、じきにユイが戻ってくる。その時は家族そろって暮らそう。
 レイを含めてな・・・」

「と、父さんそれどういうことだよ!」

ユイが戻ってくると、意味のわからないことをゲンドウに言われ反論するシンジ。

その時、ゲンドウの背後に先ほどのVTOLが降りてきた。

「そのうちにわかる。」

そう、一言だけ言うとゲンドウを乗せたVTOLは空高く舞い上がって言った。

後に残されたシンジは墓地に呆然と立ち尽くしている。

「(母さんが戻ってくるって、どういう事だよ父さん!)」











葛城邸

ネルフが管理するこのマンションに久々にシンジが足を踏み入れる。
もちろん、あくまで体はユカでありシンジと言うのはシンジと認識させてという意味であるが・・・

「ただいま、って誰もいないか・・・」

シンジがリビングに入って硬直する。
そこには二人の女性が家事と言う宿敵と戦った痕跡が残っていたのだった。

「何だよこれー?」




総司令公務室

「どうだった、ユカ君との墓参りは?」

「ふっ、問題ない」

「しかし、ユイ君やユカ君、いやシンジ君達は本当にこの計画を望むだろうか?」

「問題ない。我々の計画は老人達のスケジュールのような人類破壊計画ではない」

「しかし、失敗したら彼等の思う都合になってしまうぞ。そうすれば、サードインパクトが・・・」

冬月が将棋の手を止めゲンドウに向かって言う。

その後も司令公務室は静まり返っていた。

「冬月、逆らう気か?」

「そうではない、考え直してみればどうかと聞いているのだ。」

「ユイを助けるための他の方法はない」










葛城邸

掃除が終わったこの家からチェロの音色が聞こえてくる。

ずいぶんと昔の音楽(クラッシック)のようだ。

パチパチパチパチ

一通り演奏が終わると、シンジの背後から拍手が聞こえてきた。

「あんた、そんなもの持ってたんだ?」

「五歳のときから初めてこの程度だからね。それに先生に言われて始めたことだし」

「何で、止めなかったのよ?」

「止める理由がなかったからかな?」

そう言ってシンジは後ろにいるアスカの方に振り向く。

アスカはというと、すでに自分の部屋に入って寝転んでいた。

「それで、どうだったの?」

「つまんない男!ジェットコースター待ってる時に帰ってきちゃった。」

「それは酷いんじゃぁ・・・」

「それで、あんたはどうだったの?営倉の感じは・・・」

「ただ、暇なだけだよ。・・・その後、父さんと一緒に母さんの墓に行ってきたんだ・・・」

途中からシンジの声が小さく、それなりに低音になる。









総司令公務室

「冬月、久々に飲みに行くか?」

何を思ったのかゲンドウが隣で帰る支度をしている冬月に向かって言う。

「どういう、風の吹き回しだ?お前と飲むなど京都で飲みに行ったきりではないか?」

当然の結果、疑問を懐いた冬月がゲンドウに聞き返す。

「ただの、気分転換ですよ。冬月先生」

「なら、つきあわせてもうよ。六分儀君」

語尾を強調した二人はそのまま、鞄を持って立ち上がる。





赤木リツコ私室

照明がついていないこの部屋の唯一の光源だるパソコンのモニターを
不気味な眼つきで除いている、赤木リツコ博士。

「ふっ(これでシンジ君に仕返しして私を捨てたゲンドウさんにも仕返しが出来るわ)」

怪しい計画書をパソコンで作っているリツコ。タイトルは「碇家崩壊計画」と書かれている。

計画の中にはまずレイの身体(予備)を破壊し、次にユカ(シンジ)とレイとアスカを監禁し
ゲンドウから司令の座を奪おうというちょっと無茶な作戦を立てていた。

もっとも実行できるかは謎だが・・・。


そして、それからもこの赤木リツコ私室からは不気味な笑い声が聞こえていた。








葛城邸

「はい、葛城です。あ、ミサトさん」

シンジが受話器をとって喋る。どうやら相手は結婚式に行っていたミサトのようだ。

「えっ、は、はい。わかりました」

そういって受話器を置いた。


「何だったの?ミサトでしょ?」

「うん、今日は遅くなるからって・・・」

「えっ!?朝帰りってことじゃ、ないでしょうね?」

「まさか、加持さんも一緒なんだから・・・」

「だからでしょ・・・」

相変わらず、鈍感のシンジに、みかねたアスカは小声で返した。







「そういえば、あんた学校はどうするのよ?」

「一応、来週から転入するように父さんに言われてるんだけど」

「ふーん。って、どうするのよ。皆にどうやって説明する気?」

「父さんは秘密にしろって・・・」

「それで碇ユカで転入するってわけ?あんた、一発でバレるのがおちよ・・・」

「そうだけど、父さんも頑張ってるんだから僕だって・・・」

「じゃぁ、私が喋り方を教えてあげる。この前のはバレバレだったわよ。それじゃぁ、まず自己紹介から」

ユカ(シンジ)は一回肯くと喋り始める。

「ぼ、私、碇ユカです。」

だが、アスカから返ってきたのは言葉ではなく、手だった。

パッシャーーン!!

「なにが、『ぼ、私』よ!!前より酷くなってるじゃない!」

「私、碇ユカです」

「はい次」

「趣味はチェロです。内罰的な私だけどどうか仲良くしてください」

「あんたバカぁー!?シンジと同じじゃすぐばれるでしょ、顔は同じなのよ!!
 繰り返し!!」

「趣味は・・・特にありません。前いた学校では友達がほとんどいなかったけど、
 今度はいっぱい作りたいのでみんな、仲良くしてね」

簡単なジェスチャーをしウインクまでするユカ(シンジ)。

「・・・・・(これは、クラスの男子がほっとかないわね。)・・・」

少し顔を赤くしユカ(シンジ)を見ているアスカ。そんな彼女にユカ(シンジ)は
聞き返す。

「どうしたの?アスカ」

「え、あっ、うん。な、何でもないわよ」

「そう?」

アスカを笑顔で覗き込むユカ(シンジ)。だがこの行為はアスカを戸惑わせる為の
行為にすぎなかった。

さらに顔を赤くするアスカ。

「うっ(何て顔をするのよ、女の私でも見惚れちゃうじゃない。ユカ!勝負よ・・・)」

「どうしたの、アスカ。さっきから変だよ?」

「いや、そんな事ないわよ。それよりぜーったいに鈴原や相田に近づいたら駄目よ!!」

「だから、何でだよ?」

「『だから、何でよ?』でしょ!!」

「うっ、だから何でよ?」

アスカに間違いを指摘され言い直すユカ(シンジ)。

アスカはシンジの質問に答えず次の課題を与える。

「はい、鈴原と相田の事呼んで!!」

「(何か、アスカって赤鬼みたいだ。)す、鈴原君とあ、相田君」

「はい、次!」

かくして、特訓は夜まで続いた。












-翌日ー

頻繁に襲来する使徒の為に疎開した生徒達。
しかし、疎開したのは生徒だけではなく、学校の先生もだった。

都会の学校にしてはありえないほど寂しい職員室。

そこにユカ(シンジ)はいた。

「碇ユカです。よろしくお願いします」

そんな彼(彼女)に老教師は言う。

「話は碇司令から聞いてるよ、何か危なくなったら私に相談すればいい」

想像もしなかった老教師の返事にシンジは声を疑問の声をあげてしまう。

「えっ?」

「私は学校の教師でもありネルフのC級勤務者でもある。他の教師も皆同じだ。
 本部勤務ではないが、皆ネルフの関係者だ。赤木博士が説明すると言っておったがまだ
 言っていなかったのだな?」

思わぬことを聞き、目を見開く。

「(この先生って気弱そうなのにどうやって軍隊でもあるネルフに入ったんだろ?)」

などと、本人が聞いたら怒りそうな事を考えている。

「言ってしまったものはどうしようもないが他のチルドレンには黙っておいてくれ・・・」

「は、はい」

「それでは、後は生徒と先生の関係じゃ。ついてきなさい」






「トウジ、今日。転校生が来るんだってさ」

「転校生ちゅうと惣流以来やな・・・。
 ひょっとしてシンジ、休みすぎたから再度転校しなおしてくるんとちゃうか?」

「まさか、シンジはネルフで訓練中に怪我したんだろ?」

「そういや、そうやったな?それで男か女か?」

「職員室で先生と一緒にいたのを見たという奴の情報だと、可愛い女の子らしいぞ」

「なんやて、ケンスケ。ようやく俺達にも春が来たなぁ!」

大声で大騒ぎするケンスケとトウジ。

そんな様子をアスカは笑いを堪えながら見ていた。レイはと言うと
無反応であり。理由は「(命令だから)」だそうだ。







「えぇと、今日は転校生が一人います。入ってきてください」

さっきまでの感じと全く違うのんびりとした喋り方で老教師は喋る。

ガラガラとドアが開く。

そこからは一人の女の子が恥ずかしそうに入ってきた。

わぁぁーーー!!などと男子生徒が喋る。

女子生徒も「可愛い」などと、アスカが来た時以上の反応を示していた。

アスカが入ってきたときは女子生徒はアスカを睨むなり対抗意識を燃やしていた。

しかし、ユカ(シンジ)の場合、女子でも可愛いと思うほどの物があるのだ。




だが、皆が素直に喜べたのはそこまでだった。

「い、碇ユカです。よろしく!!」

そのとたん、急にクラスが静まり返る。

中には「碇だと?」などと隣と話している奴もいる。

「え、えぇと皆さんが知っている碇シンジは私の兄です。」

シンジに妹なんていたか?

碇君も可愛い感じだけど、妹さんはもっと可愛いかんじね。やだ、私ったら、そんな趣味は無いのに・・・」

などなど、小声が聞こえてくる。


「それでは、碇さんは向こうの席にお願いします」

「は、はい」

そして、この日、ユカ(シンジ)は一日中送られてくるメールに対処する破目となった。


▼作者より▼
碇ユカ物語FILE2のお届けです。
最後までお読みいただければ幸いです。
また、こちらの公式説明ページにはユカちゃんの画像やこの物語を
同人誌にしたRetouchEditionの説明があります。是非一度どうぞ!
また、この小説は他のサイトでも読めます。

新世紀エヴァンゲリオンは(株)GAINAXの作品です。
碇ユカ物語の碇ユカはcaviarによって考え出されたオリジナルキャラクターです。

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