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 俺の名前は、黒崎健二。

 家は、ごく普通のサラリーマン家庭。会社へ行く父と母。あと………兄貴がいた。


 俺の趣味はギター。

 それから、ナンパにバスケにマージャンに… etc

 ………嫌いなものは、勉強。



 そして、俺の目標は………兄貴。






The voice of ours

作者 : 水無月

番外編 「TVの向こうの小さな恋人」






 「…まったく!せっかくの休みなのに、なんで健二に会うんだ!」

 「ハッハッハ!そう言うなよ! 普段着の瞳ちゃんも、なかなか可愛いぜ!」

 「……(ムカッ!!)」



 とある休みの日。 することもなく暇だった俺は、街でナンパをしていて…、

 そして、雪野に出会った。

 ………いや、正確には、ナンパした女の子が雪野だった。(笑)



 「間違えて俺をナンパするなんて! 恥ずかしい奴だ!」

 「いや待て!それより、休みなのになんでお前、女装してんだよ!」

 「う…それは、その…… たまたまあそこの映画館が今日がレディースディで、どうしても見たい映画があったから…」

 そう恥ずかしそうに言い分けをする雪野の姿は、間違いなく女だ。

 見かけに騙されてはいけない。コイツの本名は雪野潤。れっきとした男だ。


 高校に入って、俺はコイツと出会った。

 女みたいな顔のおもしろい奴だな… 最初の印象はそれに尽きる。

 ギターを弾いていると聞いて仲良くなったが、こいつの本当の実力を知ったのは、しばらくしていっしょにカラオケに行った時だった。 俺はその時、はっきり言って驚いた…。

 俺は雪野と康祐に、いっしょにバンドを組まないか?と誘われた。 雪野の声を聞いた後だったので、その誘いは嬉しかった。

 そのバンド活動も、今は休止中。

 「なんだよ!つれないなぁ。だったら、俺を誘ってくれればよかったじゃないか!」

 「それは……」

 「いや〜、それにしても嬉しいなぁ!休みの日を、こんな可愛い女の子といっしょに過ごせて!」

 「………だから、誘いたくなかったんだよ…」 雪野は頭を抱えてため息をつく。

 そうは言う俺だが…。 確かに雪野は可愛いが、本物の女ではないので、実はそれほど喜ばしいものでもない。

 だって、最後までいけないんだぞ!!(爆)

 雪野の今の姿は、ジーンズに赤いパーカー。ユニセックスな服なのだが、かつらを被った雪野の姿はどこからどう見ても女だ。

 その被っているかつらも問題で、いつもとは違う茶髪のかつら。ゴムとヘアピンで髪をまとめている。 これ、雪野が自分でやったんだよな…。普通、男にはできんぞ。

 俺も気をしっかりもたないとな。たまに、こいつの横顔にドキッとすることがある。 コイツ、なんだかんだと言いながら女装を楽しんでる節があるからなぁ。

 「ナンパの前に、普通、俺だって気づくだろ!」 雪野が俺に向かって言う。

 「気づくか!! 髪色も違うし… それにお前今日、化粧もしてるだろ。」

 「(ぎくっ!!) アハハ…… あ、そうだ!今から何か食べよう!俺、お昼まだなんだ!」 女声で笑って誤魔化し、先に歩いてゆく雪野。

 あ。雪野の服、後ろにでっかく『LOVE(はあと)』とかって書いてやんの。

 「よし、そうしよう! ………雪野のおごりで」

 「じゃあ、あそこのお店で! ……って!!なんで俺がお前におごらないといけないんだ!?」

 振り返り、俺に向かって怒鳴る雪野。 あまいな!

 「お前、この間のテスト、俺に負けたよな?」

 「(ぎくぎくっ!!) いや、最近、レッスンで忙しくって…」

 「負けたよな?」

 「………(汗)」

 「………」

 「………払わせていただきます(涙)」



 ギターをしていると聞いて仲良くなった雪野だが、はっきり言って、最初のコイツのギターの実力には呆れた(笑)。ロクにコードも読めないやつがなんでここまで弾けるのか、俺は思わず笑ってしまった。 本人の話によると、親の実家の物置から親父が昔使っていたのを発見して、親父に少し教えてもらって後は独学だったらしい。

 まったく、コイツの軌道修正にはホント苦労したよ。音感とかはバツグンなんだが、コードもなかなか覚えないし指もギコチないし…。雪野はけっこう不器用だから、アイツは他の楽器は使えないな。

 それにくらべて… いや〜塚原の指導は楽だったなぁ〜(笑)。物覚えもいいし、ピアノしてたから指もよく動くし。あっさり雪野追い抜いて、すぐベースまで弾きこなすようになったからなぁ。

 (※ ギターとベースは完全に別物です。そのあたり、ごっちゃにしないように…。 それから… ベースはあまりモテないとか、ジャンケンで負けたからベースをやるとか、そういった印象を持っておられる方。 そんなこと思わないでください!全然、そんなことは無いですので)

 雪野もだいぶ上手くなったが、最近は歌のレッスンの方が忙しいらしい。 うん、オマエは無い才能をがんばるより、ある才能を伸ばした方がずっといいぞ。

 「あぁ…今月のお金が……」

 その雪野は、少し軽くなった財布を見てぶつぶつと呟いている。 ハッハッハ!いつも、俺が負けておごらされてるんだ。いい気味だ!

 俺は仕方なくファーストフードで合意し、買ったハンバーガーを持って近くの公園へ。

 「それにしても…。雪野!お前、レディースセットなんか頼むなよ!」

 突然店員さんに「あ、店員のお兄さん!私はレディースセットで…♪」なんて言うから、かなり焦った。

 「あそこはレディースセットの方がお得なんだよ。少しでも出費を抑えないと!午前は映画も見たんだし…」

 「いや、だからって…。お前は男…」

 「ふ… 街ではな、何かと女の方が得なんだよ!店員さんもサービスいいし」

 お前はそれでいいのか?


 公園のベンチに座って、おいしそうにハンバーガーを頬張る雪野の横顔を見る。

 …クドイようだが、こいつは男だ。

 胸は少し膨らんでいる。見た感じAカップだろうか。 一応詰め物をしていると本人は言っていたが、外見は本物と全く変わりないので、見る立場から言えば嬉しいことに変わりはない。(笑)

 雪野のこのジーンズはメンズだろうか?レディースだろうか? 本物の女とは違うので、お尻がデカイとか、腰がイイとか、幸いにもそういうものはない。 とゆーか、雪野の腰がいい具合にくびれていれば、俺もおちるぞ! 雪野、足細いなぁ。 靴は某メーカーのスニーカー。

 俺の視線に気づいた雪野。俺に向かって言う。

 「…何、ジロジロ見てんだよ」


 「雪野の胸とケツ」


 「………(怒)!!」


 パシッ!!

 っと、雪野が俺の顔目掛けて投げつけたハンバーガーをキャッチ。 こら雪野!食い物を粗末にするな!

 俺は受け止めたハンバーガーの包みを開いて食べ始める。 少し潰れてやんの。

 「…ったく! 女みたいな反応しやがって」

 「んなとこジロジロ見られたら、誰だって怒るぞ!」

 本人はいたく真面目に怒っているのだろう。 だが…

 雪野は気づいているのか? 女声で、女装姿で男の口調で怒鳴るのは、むしろ可愛いぞ!




 ハンバーガーもフライポテトも食べ終わり、コーラの残りをズズズっと飲む。

 休みの午後の公園。 いい陽気だというのに人影もほとんどなく、エサを求めて近くに鳩が集まってくるくらい。 う〜ん、絶好のデート日よりだな!(笑) 横の雪野は、ポテトの残りを鳩にあげている。

 何気なく、公園内を見渡すと…。

 公園の、俺たちの座っている少し先。一見すると、ただの小学生ぐらいのガキが集まって遊んでいるようにも見えるが…。

 「…いじめだな」

 「……そうだな」

 一人の男の子を、三人の男の子達がいじめているらしい。嫌がるその一人の少年に、何かを強要しているみたいだ。

 「……あーもう! しょうがない!」

 何かを決意したようで、雪野はそちらの方向へスタスタと歩いていった。 う〜ん、雪野ってこういう決断力は強いんだけどなぁ。

 雪野はその少年達に近づき女声で話し掛ける。なんだ?という顔で雪野を見上げるいじめっこの三人。

 「あのねー君たち? その子、いやがってるでしょ! やめてあげ…」

 「うっせーな、ババア! てめーは関係ねーだろ!!」


 「…ほう(ビキッ!)」


 わー!あのバカ! 小学生相手にキレるなー!!

 「わー!! クソババアが鬼ババアになったー!!」 一目散に逃げるいじめグループの少年達。

 「まて〜!! 誰がババアだ!誰がーー!!」

 …叱るべきところはそこじゃないぞ、雪野。



 「くっそ〜!逃げ足の速いやつらめ! …あっと! キミ、大丈夫だった?」

 雪野が泣いているその男の子に話し掛ける。俺も雪野に追いつき、その男の子のもとへ駆け寄る。

 「……うっうっ…ひっく… あ…ありがとう……」

 なかなか落ち着かず泣き続けているその子を、雪野が優しく介抱してあげる。こうして見ると、雪野も優しい女性に見えてくるから不思議なもんだ。


 しばらくして、だいぶ落ち着いたその子を見送ったあと…

 「なぁ雪野。これで本当によかったと思っているのか?」

 「何が? あの子をいじめの現場から助けて… これでよかったんじゃないのか?」

 「いじめはあの子自身の問題だ。いつも、オマエみたいなやつに助けてもらえるとも限らん。何も解決にはなってないぞ」

 「そりゃそうだけどさぁ…」

 「あまり、よけいなおせっかいは止めた方がいいぞ」

 俺の言葉に、雪野は少し気落ちしたようだった。



 雪野にそんなことを言いながら、俺は自分の昔を思い出していた。

 小学校の頃、俺もいつも、あんな風にいじめられていたことを…。









 小学校の帰り道。

 僕はランドセルを五つも持って、みんなの後を追いかける。

 「ねぇ〜みんなぁ〜! みんなも持ってよー! 一人じゃ無理だよぅー!」

 「うるさい! モンク言うな! ジャンケンで負けただろ!!」

 「負けたけど…。でも、それは最後の一回だけじゃない!」

 「ツベコベ言うな! ケンジ!!落とさないように、全部持ってくるんだぞ!」

 アッハッハッ!!

 そんなぁ〜〜!


 みんな、ヒドイんだよ! 僕が勝っても、僕が負けるまでいつまでもジャンケンを続けるんだもん。

 「あ!……」

 ドサッ!!

 道の段差につまずいてしまった。必死で抱えていたランドセルが道に散らばる。

 向こうでみんなが笑ってる…。

 ふえ〜ん! なんで僕だけ。



 みんなに遅れて、なんとか近くの小さな公園に到着。

 「ねぇ…今日は何をするの?」

 「よ〜し! 今日は鬼ごっこをするぞー!!」

 「ケンジが鬼だ〜!! みんなー!逃げろーー!!」

 なんでまた僕が鬼なんだよ〜!

 みんなは僕一人を残し、遠巻きに僕を見てる…。

 い、いやだよぅ〜! みんなの目が冷たい!

 「あ!泣くぞ! ケンジが泣くぞ!!」

 泣くもんか!!

 僕はそう言い返してやりたかった。

 でも僕には、そんな強がりを言うこともできなかった。

 「…うっ……うっ……」

 「ほら泣くぞ!泣くぞ!!」

 そんな声を聞いて、僕はもっと悲しくなってくる。

 「…う…ううっ………うわ〜〜〜ん!!うわ〜〜ん!!!


 みんな笑ってる…。 いやだよう!!もう、こんなのやだよー!!

 僕にはもう、涙を止めることも、涙を止めようと考えることもできなかった。



 「お前らー!!何やってんだーー!!」

 「ヤベ!ケンジの兄貴だ!! みんな逃げろ!!」

 どこからか声が聞こえてきた。その声を聞いて、みんな逃げていったみたい。

 誰かが僕に近づいてきた。

 「ケンジ、大丈夫か! なんだまたいじめられたのか?!」

 あ、お兄ちゃん…。

 涙目でぼんやりとだけど、僕の目の前には、僕を心配そうに覗き込むお兄ちゃんの顔があった。

 それで僕は…

 嬉しくなって、安心して、またお兄ちゃんにしがみ付いて泣いてしまった。

 「うわ〜〜ん!!うわ〜〜〜〜ん!!!」

 「ああ!もう安心していいから! ほらもう泣くな!」

 また強く泣き出してしまった僕を見て、お兄ちゃんは慌ててるみたい。



 少し泣いたら落ちついた。

 しばらくして、何人かの人がやってきた。お兄ちゃんの友達らしい。

 「なんだよ、黒崎!急に先に行っちまいやがって!」

 「アハハ!ごめんよ!」

 「何、この子?黒崎くんの弟?」

 僕に気づいた茶髪のお姉さんが、僕を見る。

 他の、お兄ちゃんよりもっと背の高い人や、派手な格好のお姉さんまで…。なんか恐い…。

 「キャー!かわいい〜!! 黒崎君にしがみついちゃってる〜!」

 「コイツ、人見知り激しいんだよ。さっきもまたいじめられてたようだし…。まったく誰に似たんだか…」

 「お前に似たんだろ? おい黒崎!!酒持ってこい!酒!!

 「………なんなら、俺がお前をイジメてやろうか…?」

 お兄ちゃんは、手に持っていた大きなものを身構える。

 「わー!ば、ばか!!冗談だ!冗談に決まってるだろ!!」

 みんなが笑ってる…。さっきとは違う、みんな本当に楽しそうに。お兄ちゃんも笑ってる…。


 「さぁ、そろそろ行くぞ! …黒崎、お前はどうするんだ?」

 「ああ。コイツをうちに送ってから行くよ!」

 コイツというのは僕のこと。

 「わかったわかった。 いいか!今夜は遅れるんじゃないぞ!いいな!!」

 「はいはい、わかってるって。 じゃ、また後でな!」

 お兄ちゃんを残し、そのお兄ちゃんの友達は行ってしまった。

 最初気づかなかったけど、みんな、何か大きなものを担いでいるみたい。

 お兄ちゃんも持ってる。 ギターだ。

 「ん?アイツらか? アイツらは、俺のバンド仲間だよ。今夜、ミニライブをやるんだ!」

 僕に説明してくれる。

 かっこいいなぁ〜! そんな話をするお兄ちゃんも、とっても楽しそう。



 僕には、年の離れたお兄ちゃんがいる。

 いつもいじめられてた僕を、何度も助けてくれる。

 バンドもやっていて、かっこいいお兄ちゃんは、いつも僕の憧れだった…。







 ……気持ち悪ぃー。

 とある日。俺はまた、公園に来ていた。

 今日も天気が良く、暖かな日差しが心地良い。 だが、打って変わって俺の気分は沈んでいた。

 原因はわかっている。 …夢を見たからだ。

 俺は、夜寝ていても滅多に夢を見ない。 …いや、朝になると、何を見ていたのかほとんど覚えていない。

 昔から俺はほとんど楽しい夢を見たことがなかった。もし見たとしても、夢の中にいる時は楽しくとも、朝目覚めてしまえば余計に辛くなるだけだ。

 もっと前向きに現実を生きよう、そう決意したある頃を境に、俺は夢を全く見なくなった…。

 こういう気分の時には、必ずと言っていいほど起こる事がある。

 ……ギターの弦が切れた。

 はぁー 憂鬱だ…。



 俺が普段使っているギターは、アコギというやつだ。(アコースティックギターの略:生音で演奏するギター。簡単に言うと、エレキじゃないやつです(笑)) 昔、兄貴が愛用していたギターだ。それほど高価なものではないが、俺にとっては何よりも大切なもの。

 一応、エレキも持っている。(エレキギター:生音ではなく、アンプを通して電子的な音を出します) 主にバンド用。 とゆーか、エレキでストリートライブはめんどくさいんだよ。

 まぁ、弦が切れるということは間々あることだ。 ギターの弦は消耗品だ。できれば月一ぐらいで弦の交換ができればいいんだが、そうはなかなか…。俺は、無い金叩いて必死で維持している。

 ペグを回して弦を巻いて…

 ポロ〜ン♪  よし!

 続いて俺は、三本目に取り掛かる。 てゆーか、一気に何本も切れるなよ!!


 ……実は、夢を見た原因も分かっている。

 俺の座るベンチの前を、トボトボと通り過ぎる少年が一人…。

 俯いているので表情はよく分からないが、その姿はこの良い天気とは対照的だ。その背には暗いオーラを背負っている。 俺と同じように…。

 え〜い!!ムシャクシャする!!

 「うぉい!こら!! そこのガキ!!」

 目の前の少年は、ビクッと反応し、辺りをキョロキョロ見回す。

 「そう、オマエだ!オマエ! 短パンに黒いランドセルを背負ったオマエだ! ちょっとこっちに来い!!」

 俺と目が合うと、更に脅えた表情を見せる。 さっきまで泣いていたのだろう。目が赤い。

 その少年は、突然の事に目を見開いて驚いているようだ。なかなか動こうとしない。

 「いいからここに来い! そこになおれ!!」

 ビシッ!と言ってやると、意外にも素直にこっちに来た。

 さっき以上に涙目だ。 う〜ん、ただ単に俺に怯えただけらしい。(笑)

 「え〜い!別に取って食おうってワケじゃねェー!! とりあえずここに座れ!」

 泣きそうな少年をベンチの隣に座らせる。

 この少年には見覚えがある。 先週、雪野が助けた少年だ。

 …そして、俺が夢を見た原因だ。


 俺はギターの弦の交換作業を再び始める。 手を動かしながら、俺は少年に質問をする。

 「お前、今日もいじめられてたんだろ?」

 少年は俯いたまま。 だが、しばらくして小さく頷いた。

 「いじめられてる原因はわかっているのか?」

 「………」

 少年からは、何の反応も返ってこない。

 「…まぁ原因が何だろうと、俺には関係無いんだがな」 所詮、原因がわかったところで、どうするかは少年次第なのだ。

 俺は弦の長さを合わせる。大体こんなモンだな。パチンとニッパーで弦を切る。

 「…だがな、これだけは聞いとけ!
 いいか! 自分の気持ちを隠すな!自分を偽るな!いやなものはいやだと言っちまえ! そうじゃないと、親友は…本当の友達は出来ない。
 何も言わないやつは、ただ嫌われるだけだ…」

 ハッとしたように、少年は顔を上げた。驚いたように、こちらを見る。

 「…でも、何て言っても、相手は僕に心を開いてくれないもん」

 「当たり前だ。自分のことを信じてくれないやつに、誰が心を開くもんか。 まずは、自分から相手のことを信じてみることだ」

 「でも…!!」

 おや? 何かを言いたそうに、声を張り上げた少年。 なんだ?実は、いじめの原因に気づいてるんじゃないのか?

 「まずは、自分から相手のことを信じてみることだな。 いやだ!と言ったところで、相手にすぐ嫌われることは無いんだからな…」

 俺は作業を中断し、少年を見る。 少年は、開きかけた口を閉ざしたようだ。

 「………わかった。もう少しだけ、がんばってみるよ」

 「そうか…」

 少年の目からは、少しの希望が垣間見えた。

 「俺の話というのはそれだけだ。 じゃあな。もう帰っていいぞ」

 そして俺は再び作業に没頭。

 だが、少年は俺を見つめたまま動こうとしない。 なんだ? まだ帰らないのか?



 じゃら〜ん♪

 よし!オッケー! チューニングも終わった!

 隣の少年は、なぜか俺の作業が終わるまで、俺とギターをじっと見つめていた。

 「…なんだ? 何か聞きたいのか?」

 俺の問いに、その少年はコクコクと首を縦に振る。

 しゃーない! せっかくだから、何か聞いてけ!

 ジャーーン♪

 雪野ほどじゃないが、俺も少しは歌える。 お金が溜まるということは、別に下手なわけではないのだろう。

 ちなみに、うちのチームのカラオケランキングは、一位がダントツで雪野。二位・三位が俺か早川で、四位が塚原。五位が康祐…。 いや、別に、そんなに康祐が下手ってわけじゃないんだが。

 歌う曲は、俺たちが『ノルン』で作った曲だ。

 ギターに合わせ、俺は歌い始めた。







 ベッドに座って、ギターを抱え、楽譜を見ているお兄ちゃん。 ギターを軽く鳴らして歌う。

 と言っても、その歌に歌詞はない。

 ん〜♪ラララ〜〜♪ こんな感じ。

 かと思えば、次は、その持っている楽譜に何か書き込んでいる。 何してるのかな?曲作り?

 しばらくして、お兄ちゃんは顔を上げ…

 「ケンジ、いるんだろ? 出ておいで。」 お兄ちゃんは優しそうに笑う。

 エヘへ。見つかっちゃった。 ドアの隙間から覗いていた僕は、お兄ちゃんの横へ行く。

 楽譜を覗き込む。 意味わかんないや。

 「ねェ、なんか歌ってよ!」

 「ハハ…またか。 …そうだな。じゃあ、この作りかけの曲を、聴いてくれるか?」

 こうやって、お兄ちゃんの作った曲をいつも一番に聞かせてもらってる。



 僕は一度だけ、お兄ちゃんのライブに行ったことがある。

 お兄ちゃんは、来るな来るな!と言うけれど、どうしても行きたくて、お母さんに無理を言って内緒で連れていってもらった。

 お兄ちゃんはメインボーカルではないらしい。でも、ライブハウスに響いていたお兄ちゃんの声を、僕はよく覚えている。 お兄ちゃん、かっこよかったなぁ〜。

 ただそのあと、恐そうなお兄さんに睨まれて大泣きしてしまい、結局、お兄ちゃんに見つかってしまった。







 な〜んか、気分がすっきりしない…。

 俺は、ボーっと空を見上げ、タバコをふか………おっと!今のは聞かなかったことにしてくれ!(←注 未成年の喫煙はいけません!)

 俺が今いるのは、いつもの公園。…ヒマだ。

 雪野とは連絡取れんし。他の連中も、今の時期はインターハイ目指して猛特訓中だからなぁ。 俺も何かクラブ部にでも入ろかなー。



 ………視線を感じる…。

 …またか。 俺は後ろを振り返り、

 「いるんだろ? 出てこいよ」

 木の陰から出てきたのは、この間のいじめられていた少年。

 説教(?)をして以来、幾度か顔を見せていた。 …なんでだ?


 「いじめはなくなったか?」

 「…ん………少しは……」

 最近は、だいぶコイツも表情を見せるようになってきた。最初の頃は、ただじっと見てくるだけだったもんなぁ〜。

 「そーいや、名前…聞いてなかったな。俺は黒崎健二。お前は?」

 「………アキラ…」

 「そうか。 アキラ、いつも聞いてるだけじゃつまらんだろう。 ギター、やってみるか?」

 そう言ってやると、パァーっと嬉しそうな顔を見せた。

 俺はギターを手渡す。 …が、

 「……重い」

 小柄なアキラには、抱えることができなかった。

 「ワッハッハ!そうか、俺も昔そうだったなぁー! どうする? 歌でも歌ってみるか?」

 「……恥ずかしいからヤダ」

 「ワッハッハッハ! それぐらい恥ずかしがってたら、いじめはなくならないぞ! ……じゃあ…そうだな」

 俺はギターケースの裏から、布に包まれた小さな物を取り出す。

 「……これは?」

 「ハーモニカ」

 なぜか持ってんだよな。俺は滅多に吹かないけど。

 ファ〜♪ うん、ちゃんと音出るな。って、そりゃ当たり前か。

 「吹いてみろよ」 アキラにハーモニカを手渡す。

 アキラは、手渡されたハーモニカを吹こうとして、はっ!としたように顔を上げた。

 「………間接キス…」

 ………。

 「……いやまぁ、そりゃそうだが…」

 アキラはすぐ近くの水道の所へ、ハーモニカを洗いに行ったようだ。

 ………ってヒデーな、オイ!!(笑)








 「なぁ、雪野」

 「………」

 「なぁ、雪野」

 「………」

 「なぁ、ゆき…」

 「だーー!!何度も何度も雪野って連呼するなー!!仮にも、オマエは今、雪野潤なんだぞ!」

 「そうは言うけどさー。本当に大丈夫なのか?俺とオマエって、それほど似てるとは思わないが…」

 「サングラスしてれば問題無い!顎の骨格は似てるからな。黙ってたら初対面ならわからないさ………たぶん」 おいおい!たぶんって…。

 「でもさー、俺とお前、身長差が…」

 こう見えても、俺は一応175はある。もう少しで180。ちなみに康祐は、今年の身体測定で180を越したとかなんとか。 それに対して雪野は…雪野って、170あったっけ?

 うるさい!撮影の時とか、靴で身長誤魔化してるから、大丈夫なんだ!!」

 あ!雪野は、少し身長が低いことを気にしているらしい。別に気にするほどでもないと思うんだけどな。



 俺が今、何をしているかって?

 ここは都内某放送局内。俺は雪野潤になりすまし、女装した雪野…雪野瞳といっしょにスタジオへ向かっている。カモフラージュなのだそうだ。

 雪野は「全部俺が喋るから、健二は黙っていればいい」と言っているが。 本当に大丈夫か?

 「テレビじゃなくてラジオだから。心配ないよ〜」

 近くに人影があるので、雪野はいつの間にか、それとなく女っぽい口調になっている。

 「まぁまぁ! 局に来れば芸能人にも会えるんだし。そこをなんとか…」

 「『シオン』のお二人さんだね!今日はよろしくね〜!」

 「は〜い!よろしくおねがいしますぅ〜!!」

 通りかかったスタッフさんに突然話し掛けられ、雪野は女声で愛想良く笑顔を振りまく。 ずぞぞぞぞ〜!! せ、背筋を何か寒いものが…!!

 「…ん? どうした、健二?」

 「………ってオイ!雪野!! 素の時とのギャップが…!!」

 「あ、静かに。そろそろ、スタジオに入るぞ!」

 雪野に手で口をおさえられ、俺はスタジオ内に連れてかれる…。




 ふー、やれやれ…。

 収録は終了。と言っても、俺はただ黙って座っていただけ。隣の焦る雪野を、ただ眺めて笑っていただけ。(笑) まぁ、生放送なのでちょっと焦ったが…。

 (※ 放送の様子は本編第六話参照)

 俺は一人、休憩所の椅子に座っていた。 誰もいないからな。サングラスも取ってしまおう。 雪野は、俺に先に帰るように言い、なんとかっていうDJのところへ文句を言いにいったようだ。

 それなりに広さがあり、ここ唯一の喫煙ルームである休憩所には、今は誰もいなかった。知ってる芸能人一人ぐらいいないかなと、少し期待してたんだが…。 まぁ世の中、そう都合のいいもんでもないさ。 俺は椅子から立ち上がり、壁際の自動販売機のもとへゆく。

 紙コップに入れられたコーヒーを飲みながらボーっと椅子に座っていると、何人かの人がちらりと俺を見ながら通路を通り過ぎてゆく。ここのスタッフの人たちだろうか。

 おお!あれは、歌手の○○さん!!

 ああ!あれは、売れないタレントの××さんだ!!(笑)

 見ていると、どっかで見たことあるような人も通り過ぎていった。 一応、芸能人見れたなー。でもなー、もっと有名な人とかいないかなぁ。 そう、俺憧れのギタリスト 矢吹(やぶき)さんとか、矢吹さんとか、矢吹さんとか、、、。

 しばらくして、突然、小さな女の子が通りかかった。まだ小学生くらいだろうか。

 へ〜 こんな子もいるんだー。 妙に感心しながら眺めていたが、その少女の顔を見て俺は思い出した。

 「あ、理枝だ!」 俺は思わず口にしていた。

 この女の子には見覚えがある。今一番人気のある子役で、理枝(りえ)だ。いろいろなドラマに出演しており、俺も何度か見たことがある。

 おおー!超人気子役の理枝だーー!! なぜか感激しながら、俺は理枝を見ていた。

 不意にこちらを向いた理枝は、俺の視線に気づき…

 っ!!

 ハッと目を見開いたように驚き、走り去ってしまった。

 ………あれ?

 …一つ言っておくが、俺は別に小学生相手に色目は使ってないぞ。(爆)

 おっかし〜なー! 俺の顔、何かおかしかったっけ? こんなことなら、サングラスつけて雪野潤になりすましていた方が、注意を引き付けれたかなー。

 その後、しばらく(サングラスをつけて)ねばってみたが、結局、それ以上知っている芸能人を見ることはできなかった。







 …ううっ……うっ……


 気がついたら、うちに着いていた。

 どこをどう帰ってきたのか覚えていない。何が悲しかったのかも、もう覚えていない。それでも、涙を止めることはできなかった。


 うっ…ひっく……


 泣きながら階段を上がる。二階にある、僕の部屋に行くために。

 この時間、家には誰もいない。お父さんとお母さんは会社。お兄ちゃんはまだ学校に行っているはず。

 誰もいないはずだった…。


 「ケンジか? 帰ってきたのか?」

 「あ…お兄ちゃん……」

 部屋の前でお兄ちゃんに会った。

 いつもならこのまま部屋に入って、布団を被って、泣きたいだけ泣く。思いっきり声を出して、気が済むまで泣く。

 そうすることで、僕は今の自分に耐えてきた。いじめられている自分に我慢を続けてきた。

 でも、この日は部屋まで行けなかった。

 お兄ちゃんはいつもと変わらない優しそうな顔で、心配そうな顔で僕を見る。僕は、もう抑えることができなかった。

 「…う…ひっく……おにいちゃ〜ん…」

 僕はお兄ちゃんにしがみ付いた。しがみ付いて、お兄ちゃんの服に顔を埋めて泣いた。


 「もういやだ! 学校なんか、行きたくない!」

 学校に行っても、いじめられるだけだから…。

 お兄ちゃんは僕が言うことを、ただ黙って聞いているだけだった。

 しばらくして、お兄ちゃんは僕に質問をした。

 「…ケンジ。自分が、なぜ自分がいじめられるのか、考えたことはあるか?」

 何度も考えたことがある。今の状況を少しでも変えようと必死になって考えたこともあった。 でも結局、答えは見つからなかった。

 「わかんない!考えてもわかんないよ! 僕は何もしてないのに…」


 「…何もしないから、いじめられるんだ」


 「…え……」

 お兄ちゃんがぼそりと言った一言に、僕は驚いた。

 「ケンジは、何かしろと言われて、いやだと言ったことはあるか?」

 「………」 ほとんど言ったことがない。

 言えない。そんなこと言えば、もっといじめられるから…。

 「ケンジ、友達…親友ってのはどういうものかわかるか?」

 「…親友? …どうなのかな? いっしょに喜んだり、いっしょに笑ったり…そんなのじゃないの?」

 「…本心で言い合える友達、それが親友だ」

 なんかお兄ちゃんの表情がいつもと違う…。

 「本気でケンカすることのできる友達、それが親友だ。 ケンジは、誰かに本心をぶつけてみたことはあるか?」

 「………ない、と思う…」

 言えない。

 「どうして言えないんだ?」

 だって!

 「だって、そんなこと言ったらもっと嫌われるよ! いやだなんて言ったら、もっとみんなが離れていっちゃいそうで…」

 何もいじめる子ばかりではない。僕に話し掛けてくれる子、優しい子もいる。 そんな子たちに何か言われて、ノーとは言えないよ。

 「…それじゃ親友は作れないぞ」

 ………。

 「ケンジ、自分の意志をしっかり持つんだ。自分の気持ちを相手に伝えるんだ。 ハイとしか言えないやつに、本当の友達はできない。いやなものはいやだと言うんだ」

 「…で、でも! そんなこと言ったら、もっといじめられちゃうよ!みんなに嫌われちゃうよ!」

 「構うもんか! いじめられたら、殴られたら殴り返してやれ! …最初はつらいかもしれない。でも、しっかりとした自分の意志を持ってるやつをいじめようとするやつはいない。 そうすればそのうち、自然に友達だってできるさ」

 「………うん」

 お兄ちゃんの言うことには、どこか説得力があった。

 「どうだ? 俺と、もういじめには屈しないと約束できるか?」

 「……うん!」

 僕とお兄ちゃんは、指きりをした。


 自信があったわけではない。 でも、お兄ちゃんに言われ、お兄ちゃんとの約束で、僕の中に少し勇気が湧いてきたような気がした。







 俺はまたいつもの公園にいる。

 俺のこと、ヒマなやつだなって思うだろ? ああ、そうだよ!その通りだよ!

 『ノルン』の活動はほとんど止まってるし、ナンパも空振るし…。

 ナンパが空振るのはいつものことだって? 失敬な!これでも何度も、成功してるんだぞ! 数打ちゃいつかは当たるがナンパの原則。失敗を恐れてどーする!

 でもな〜…。 そろそろ真剣に彼女を一人、つくろかなぁー。



 「なぁアキラ!たのむよー!」

 「……ヤダ!もうやんない!」


 この間、なんとなくアキラを連れてストリートライブをし、無理矢理にアキラに歌わせた。

 そうしたところ、なんと客に馬鹿受け! 女子高生の間からは可愛い可愛いと黄色い声が飛ぶわ飛ぶわ…! おかげで俺の懐は……ムフ♪

 「そんなこと言わずにさー!もう一回だけ頼むよ!」

 「………恥ずかしいからヤダ!」

 そんなこと言ってるくせに、アキラはけっこういい声で歌うからなー! 初めて聞いたときは、けっこうビックリした。こんな内気なやつにあんな声を出せるとは。

 この公園に来ると、ほとんどいつものようにアキラが来る。 アキラも俺といっしょでヒマなやつなんだろう。(笑)

 アキラはよく笑うようになった。

 話によると、いじめもマシになってきたらしい。

 「……ボクは自分が歌うよりケンジ兄ちゃんの歌を聞く方がいい」 そう言うアキラ。

 「…だって、ケンジ兄ちゃんが即興で作る変な歌、おもしろいんだもん」 変で悪かったな!変で!!


 ケンジ兄ちゃんか…。

 アキラはいつの間にか、俺のことをケンジ兄ちゃんと呼ぶようになっていた。

 ……ま、お兄ちゃんと呼ばれるのは少し嬉しいんだけどな…。

 アキラを見ていると、つい昔の自分を考えてしまう。 俺が兄貴にひっついていた時、兄貴はこんな気持ちだったんだろうか。

 「……ねぇ、ケンジ兄ちゃん。あの女の人はどーしてるの? 最近見かけないけど…」

 「あの女って?」

 「…前、ケンジ兄ちゃんといっしょにいた人。 あの人、ケンジ兄ちゃんの彼女でしょ?」

 ぶーっ!!

 あ、あぶない…。何か口に含んでたら、噴き出していたところだ。

 「ア、アキラ! だ、誰が誰の彼女だって…?!」

 「…ほら! あの、ずっと前に、ボクをいじめから助けてくれた人」 ああー!やっぱり雪野のことだー!!

 「ゆ…雪野は彼女じゃねーよ」

 まぁ、ああいう彼女がいればいいんだけどな…。

 「あいつは男だ」

 一瞬、何を言ったのか理解できなかったのだろう。アキラはキョトンとしている。

 「……………え!うそ…?!」

 しばらく間を空けて驚くアキラ。 珍しいな〜、アキラがここまで驚くのは。 普段、表情をあまり見せないやつだからな。

 「……冗談だよ」 と言う俺。実はこれがウソ。

 「あいつは、俺の親友の妹だよ」 ホントは、妹ではなく親友の方。

 「……そ、そうだよね。あんな綺麗な人が、男なはず、ないよね…」 そーだよな〜!普通、そう思うよな! まぁ、俺の視点から言えば、綺麗ではなく可愛いの部類だが。

 「とゆーことで、今俺に彼女はいない。 いたら、今ここで、おまえといっしょにはいねーよ」

 俺がそう言うと、アキラは少しトーンを落としたように返事をした。

 「……そっか。そうだよね…」 なんだ? アキラの含みの入った返事が気になるが…?

 「…実は俺、本気で恋愛ってしたことないんだよな。 あえて言えば、小学校の保険の先生が初恋ってぐらいで…」

 いつもいじめられて、泣いていた俺を励ましてくれた保険室のお姉さん。ある頃からは、慰めるではなく、よくケガの治療をしてくれたんだが…。 …って! なんで俺が初恋の話をしないといけないだ!!

 「俺の初恋なんかどうでもいいんだよ!! アキラは好きな子いるのか?!」

 「……わかんない。学校では、いつもいじめられてたから」

 淡々と話すアキラ。なんか、ホントに気にしたことないって感じだな。

 「別に学校で、とは言ってないんだがな。なんかいないのか? 近所に住むお姉さんがいいとか…」

 俺の初恋の話だけさせといて、アキラの話を何も聞かないってのも悔しい。 なんとか聞き出そうと、俺はアキラに詰め寄る。

 と、次の瞬間、ハッとしたようにアキラは顔を上げ、そして顔を真っ赤にして目を伏せてしまった。 ハッハ〜ン! 誰か心当たりがあったようだ。

 「お! おもしろい反応見せるじゃないか! おい!誰なんだ?!」

 問い詰めてみるが、俺と目も合わせようともせず、必死の逃げようとするアキラ。 おもしろい! アキラがこんなに必死になるなんて!

 「アキラ!悪いことは言わん! それが近所の綺麗なお姉さんなら、俺に紹介しろ!」(←小学生の初恋を取るんじゃない!)


 結局、アキラから初恋の相手を聞き出すことはできなかった。



 アキラは本当に明るくなった。

 俺によく表情を見せるようになった。

 学校のいじめも、もう俺が気にすることではない。アキラ自身がなんとかするだろう。









 いつもと変わらない朝。いつもと変わらない登校。

 いつもどうりの学校、授業風景。

 …でも、僕は違う!

 もう今日からは違う!自分を変える!そう決めたんだ!!



 「よー!ケンジ!!今日もいっしょに帰ろうな!」

 き、きた! 僕は身構える…。

 そんな僕の気持ちもまったく知らずに、数人の男の子達がニヤニヤと僕の周りに集まってきた。

 「そーだよな、ケンジ! まさか、いやだ とは言わないよな?」

 取り囲む男の子達に圧倒され、僕は思わず うん と言ってしまいそうになる。

 …だ、だめだ!ここで負けちゃいけない! そう、お兄ちゃんと約束したんだ!!


 「……い、いやだ…僕は行かない」


 僕が何を言ったのか分からなかったのだろう。みんなは、え?という顔をしている。

 「…ケンジ! おまえ、今、何つった?」

 僕に聞き返してくるのは、いつもみんなをまとめているリーダー格の子。こいつに負けなければ…。


 「…いやだ! 僕はもう、おまえたちなんかとはいかない!! 僕は、おまえらのおもちゃなんかじゃないんだ!!」



 一瞬の沈黙があった。静まりかえる教室。 だが、そんな沈黙は長く続かない。


 「…ケ、ケンジのくせに、生意気だ!!」


 バシッ!!


 僕は殴り飛ばされ倒れこんだ。後ろの机や椅子がガタガタと音を立てる。 遠巻きに僕らを見ていた女の子達が悲鳴を上げた。

 「…ハッ! どうだ、思い知ったか!! ケンジのくせにそんなこと言うから!」

 僕は、殴られた左頬を抑え、なんとか立ち上がろうとする。

 …イ、イタイ! 殴られたところが、熱くて痛い!! な、涙が、目に熱いものが込み上げてくる。

 泣きたい! このまま、声を上げて泣いてしまいたい! そんな誘惑が、どこからか押し寄せてくる…。

 …だ、だめだ! ここで負けちゃだめだ!!

 お兄ちゃんの言葉を思い出す…。

 『構うもんか! いじめられたら…殴られたら殴り返してやれ!!』



 僕は立ち上がった。

 「…な、なんだよ、おい!ケンジ! …な、なんだよ、その目は!?」

 僕は、ゆっくり…だが力強い足取りで、そのリーダー格の男の子のところへ近づいてゆく。


 うわぁぁぁーーー!!


 バシッ!!!






 思いっきり叫んだつもりだった。 でも、声は出てなかったんだと思う。

 僕はその時、相手の頬に思いっきりパンチをぶち込んでやった。

 相手がひどくゆっくり倒れていったように見えた。 映画のスローモーションみたいに…。

 でも、そこからの僕の記憶は曖昧だった。

 僕は無我夢中だった。

 最初はいじめグループの子達も、リーダーに加勢しようとケンカに加わってきた。 だが、僕は怯まなかった。

 誰が最初に逃げたかなんて分からない。いじめグループの子は、数が少しずつ減っていた。 また一人、また一人、と…。

 そして、いつの間にか、僕とそのリーダーの子だけになっていた。

 誰かが先生を呼んだのだろう。 気がついた時には、僕は先生に押さえつけられ、相手は、向こうでキズだらけで泣いていた。

 そのあと、僕は担任の先生に思いっきり叱られた。 でも、あんまり覚えていない。 ただ覚えているのは、その時担任の先生は、叱りながらも嬉しそうに僕を見ていたこと。

 でも、そんなのはどうだっていい。

 覚えているのはこれだけでいい。


 僕が勝った。




 やった!やったぞ! いじめに勝ったんだ!!

 僕は走って家に帰る。 気持ちいい! こんな気分は初めてだ!

 早くお兄ちゃんの伝えたかった。 『お兄ちゃん、僕は勝ったよ!』って…。



 家まであと少し。あの十字路を曲がったら。

 そこまで来て、その十字路に何か人だかりが出来ているのに気がついた。 …何かあったのかな?

 その時、先を急ぐ僕の耳に、おばちゃん達の会話が聞こえてきた。


 「事故だって!交通事故! なんでも、あそこの女の子…ほら!あの、門脇さんとこのリサちゃん! あの子を庇っての事故だったらしいわよ」

 「恐いわね〜! なんでも、あそこの黒崎さんとこの……うん、高校生のお兄ちゃんの方が……」




 ………えっ…












 その後、俺は病院で、もう目を覚ますことのない兄貴と会った。

 たかが交通事故! …だが、兄貴は打ち所が悪かったらしい。

 そこで、俺はいじめに勝ったことを兄貴に伝えた。

 その夜俺は、学校でも、その病院でも流さなかった涙を、一人布団の中で流した。

 病院で泣かなかったのが不思議だった。

 たぶん、もう兄貴には涙を見せたくなかったのだろう。


 あの日から、俺は涙は見せないと決意をした。

 そして、その日を境に、俺は一人称を『僕』から『俺』に変えた…。







 どこでどう間違ったんだろうなぁ〜。

 あの日の俺の決意は、兄貴のように強くなること。兄貴のようにかっこいい男になること。

 …で、今の俺がコレ。

 ああ、現実ってキビシィー!!(泣)



 とある休みの日の午後。 俺はアキラに、ここへ呼び出されていた。

 まったく、最近の小学生ってのは!

 どうやって俺が呼び出されたかって? アキラに俺のケータイ番号を教えてたんだよ!

 なんと、アキラは携帯を持っていた。 くそー!このやろう!小学生の分際でケータイを持つなー!! 俺がこのケータイ買うのに、どれほどお金を稼いだことか…!! まったく!これだから金持ちのガキってのは…。

 つい数日前、アキラから電話があったのだ。 今日、この日の夕方、ここへ来てほしいと。


 ここというのは、いつもの公園のことではない。

 まさか、アキラがこの小学校に通っているとはな。 俺は、足元に転がっていたバスケットボールを拾い上げる。

 懐かしい…。

 俺がいるのは運動場の端、体育倉庫の脇、バスケットゴールの下…。

 この小学校は、俺が昔通っていた学校だ。 見覚えのある石垣。懐かしいブランコ。 俺がいたころは、このバスケットゴールはなかったんだけどな。




 ダム… ダムッ……

 ……ッ!

           …ガコン!!

 あ、外した…。


 まぁアキラには特に場所を指定されてないからな。

 再びシュートを打とうと、ボールを頭の上に構え……と、突然俺は呼び止められる。

 「…あの子の言うケンジさんは、あなたのことだったのね。黒崎健二君」

 振り返る…。 そこにいたのは、懐かしい昔の担任の先生だった。

 「先生…」


 この先生は、あの年の、兄貴が死んだ年の担任の先生だった。

 いろいろとお世話になった先生だ。 へ〜 まだこの小学校にいたんだ。

 「もう、校長だけどね」 そーなのかぁ。

 あの頃もけっこう年のおばちゃんだったが、いっそう年をとり、もうおばあちゃんと言ってしまってもいいだろう。 それにしても。話し方も何も変わってないな。

 「もうねェ、年をとってしまうと、人間あまり変わらないわ。 …あなたは変わったわね、健二君」

 「俺は何も変わっませんよ。 変わったのは、あの日です」

 「……そう、そうだったわね…。 それでも、あなたは本当に変わったわ…」

 俺と先生は、並んで花壇の前を歩く。 花壇の横には、俺の知らない手洗い場があったり、あったはずの小さな池が無くなっていたりと、何年かの時を感じさせる。 ただ、古びた校舎の外観だけが、今も昔も変わらない。 校舎ってこんなに小さかっただろうか…。

 「今日はね、あの子が自分を変える決意を言うの…。健二君、あの子とはいったいどこで?」

 「公園でたまたま。 アイツ、いじめられてたんだろ?」

 「そうなの…。 でもね、あの子、ある頃から徐々に明るくなっていってね。最近は、もうほとんどいじめも無いみたいなの」

 そうか。それはよかった。

 「それはね、きっとあなたと、健二君と出会ってからだと思うの。 あの子、あなたの話をいつも嬉しそうにするのよ! 公園に変な歌うお兄ちゃんがいるって」 オイ! 変ってなんだよ!変って!!

 「明るくなって、よく笑うようになったわ。でも、あの子の問題はそれだけじゃないの。 健二君、どうか、あの子の気持ちを聞いてあげて」

 わかってるさ。そのために、今日ここへ来たんだ。



 俺は先生と、体育館の入り口に来ていた。

 靴を脱ぎ、中へ入る。 中はカーテンが全て締め切られており、真っ暗だった。

 「先生、コレは……って、あれ? どこいった?」

 振り返ると、先生はいつの間にかいなくなっていた。

 真っ暗な体育館は、異様なほどに静まり返っていた。 外の明るい夕日のせいでなかなか目を凝らせなかったが、徐々に暗闇に慣れてきた。

 薄暗い体育館の中は、何も無かった。 いや、よく見ると、真ん中より少し前、舞台のちょうど正面に、たった一つだけ椅子が置いてあった。

 ゆっくりとそこへ近づく。その椅子には張り紙が付いていた。

 『 ケンジ様 御予約席 』

 可愛らしいその文字に、思わずニヤリと笑ってしまう。

 あるのはそれだけではなかった。 端に小さく、何か書いてある。

 『P.S. 未成年なのに、タバコ吸っちゃダメです!』

 その下にはキャンディが一つ…。 う、うるせー!ほっとけ…! 包みを開き、アメ玉を口に放り込み、そのままボリボリと噛み砕く。

 俺は椅子に座る。 さて、何が始まるのか…。




 ビ――――ッ!!

 開演を告げる音が鳴る。

 そして、ゆっくりと幕は上がる。俺は一人、精一杯拍手をした。


 舞台の上には、少女がいた。広い、何も無い舞台の上に、たった一人、少女がいた。 俺が見たこともないような、美しい少女だ。

 …いや、俺はあの子を知っている。

 テレビで何度も見たことがある。あの子は、今一番の人気子役、理枝だ。

 舞台の上の理枝は俺の姿を確認すると、優雅にお辞儀をした。

 「ようこそ! 本日はこの公演を見に来てくださってありがとうございます。 演出も…何もないステージですが、どうか最後まで、ごゆっくりご覧ください。

 …これからお話しするのは、ある一人の少女の物語です」

 理枝は、ゆっくりとした足取りで舞台の上を移動する。 少女たった一人には、大き過ぎる舞台。端まで歩くだけでも、数十歩を要する。 理枝の美しいドレス…スカートの裾が、軽くブローされたきれいな長い髪が、揺れる…。



 「その少女の家庭は、芸能一家でした。事務所社長である父、現役女優である母。少し年の離れた姉も、子役の時代を経て、今は大女優への道を歩んでいます。

 その少女も、物心付いた頃から、当然のように芸能界への道を進みました。

 ですが、少女は芸能界での仕事が好きではありませんでした…」

 舞台の端まで辿り着いた理枝は踵を返し、また舞台の中央へ歩き始める。 チラリとこちらを見た少女の物悲しげな表情に、俺は思わずドキリとした。

 理枝はその小さな身体とは思えないほどの、とても澄んだ響く声、この大きな体育館の端にいてもはっきりと聞こえてくるような、しっかりとした声で話す。 もし他に人がいてざわざわと雑談をしていても、この声が聞こえてくると思わず会話をやめて話に聞き入ってしまう…そんな声だ。

 「そんな彼女の気持ちとは裏腹に、彼女の子役としての人気は上がり、彼女の子役としての名は売れていきました。

 傍目には華やかな彼女の生活。 …ですが、彼女は幸せではありませんでした。

 年若くして、早く大成してしまった彼女には、友達がいなかったのです。



 一人、先に売れてしまった彼女には、周りの芸能界の同世代の子には一歩引かれ、近づいてくる子はただ彼女を利用しようとする子だけ…。学校でも、冷やかされたり執拗に苛められたりしました。

 彼女は一人、孤独に陥りました。


 どうして私が苛められるの? 私が有名人、だから…?


 彼女は自分のことが嫌いでした。有名人である私、苛められている私…そんな弱い自分が、嫌で嫌で溜まりませんでした。

 …こうして彼女は、自分を偽る事にしたのです」

 理枝はクルリとこちらに背を向けた。その小さな手を、髪にかける。

 髪は、サラリと音も無くおちた…。 その長い髪はかつらだった。

 「彼女は、姿を偽り、男として生きることにしたのです」

 また、クルリとこちらに振り返る。その姿は…

 「……アキラ!」



 再び、理枝――アキラは、舞台の上をゆっくりとした歩調で歩き始める。

 「姿を、名前を偽った彼女には、学校でのいじめは無くなりました。しばらくして、友達もできました。

 …ですが、仕事の忙しい彼女は学校も休みがちで、できた友達とも話が噛み合わなくなり、徐々に離れていってしまいました。

 彼女はまた、一人になってしまいました。

 そして追い討ちをかけるように、一人俯いている彼女をいじめようとする子がまた現れてきました…。


 幼い頃からそんな仕事をしていた彼女は、素直に笑うことが出来ませんでした。

 彼女からは、完全に笑顔が消えてしまいました。

 そんな時、彼女は、ある一人の男性と出会いました…」

 そう言って、理枝――アキラは、こちらを、俺を見た。

 アキラの表情は、決して笑ってはいない。 だが俺には、そのアキラの目が、嬉しそうに笑っているように見えた。

 「その男性は、その少女…姿を偽っている少年に、こう言いました。


 自分を偽るな! 自分の気持ちを隠すな!!
 そうじゃないと、本当の友達は出来ない…


 彼女は驚きました。 まるで、自分のことを全て分かっているみたいだ…!

 その男性は、また、こうも言いました。


 まずは、自分から相手のことを信じてみることだ…


 その男性の話すことには、どこか説得力がありました。

 彼女は、もう一度だけがんばってみようと決意しました…。


 こんな芸能界で育った彼女は、なかなか人を信じることが出来ませんでした。


 こんなことを言ってるけど、本当は…?!
 もし、私がこんなことを言ったら…?


 …でも少女は、その男性の言葉を信じ、がんばって偽りの無い自分の気持ちを相手に伝えていきました。

 そして、徐々にいじめは無くなっていったのです。


 ある時、彼女は、あの男の人を見つけました。

 彼は、歌を歌っていました。

 その場で、即興で作るその歌は、その時の自身の気持ち、歌ってあげるその相手の気持ちをそのまま表す歌でした。

 そんなおもしろい歌、彼に彼女は惹かれていきました。

 そして、その男の人といっしょにいる内に、彼女は笑顔を取り戻していきました…」

 理枝は、手に持っていたかつらを再び被った。 少年は、また少女に戻った。

 「学校でのいじめは無くなりました。

 …ですが彼女はまだ、自分の全てを、人に、最近できたばかりの友人達に見せてはいません。





 自分を偽るのは、今日で止めにします!


 健二さん… ありがとう……
















 とある休日。今日はアキラといっしょにいる。

 いつも公園では、待ち合わせをしたことなんて一度も無い。いつも、俺がその日公園へ行くと、どこからともなくアキラが現れる、そんな感じだった。

 今日はアキラが、どうしてもこの時間にこの場所へ来てほしいというので、行ってみると…

 そこにいたのは、女の子らしい格好で、少し頬を赤く染めた理枝だった。



 なるほど。こうして見れば、確かにこいつも女だ。

 少年の格好の時と、全く変わらない短い髪。ただいつもより、服装が少し女の子っぽくなっただけ。 だがその姿は、どこからどう見ても、年相応の女の子のものだ。

 いったいいつも何が違うんだ? 俺は首をひねるばかり…。

 「アキ――じゃなかった! リエ!どこへ行きたいんだ?」 俺は隣を歩く理枝に聞く。

 いつもは公園で、俺がギターを弾いたり歌を作ったりして過ごしていた。だから、こいつといっしょにどこに行って何をしようって、特に何もないんだが。ましてや、女の格好したこいつとなんて…。

 「……うん…………」

 ………。

 「………って、オイ! 『うん…』じゃ、わからんだろう!!」 なんだコイツ? 前に増して何もしゃべらなくなったんじゃないか?

 「……うん。どこでもいい! どっかにつれてって!」

 一番言ってほしくなかった返事…。

 「どこにでもって言ったってなぁー……」 どこ行きゃいいんだよ。

 俺はボリボリと頭を掻きながら、理枝を連れて歩く…。



 「……体育館に来た時、私が女だって分かった時、あんまり驚かなかったね」

 理枝がぽつりと呟いた。

 「知ってたからな…」

 「………え?…」

 確信したのは、ラジオ局で見た後。だが、アキラが女だということは薄々気づいていた。どちらかと言えば、その女のアキラが有名タレントの理枝だということに驚いた。

 「……え? それっていつから…」

 「あ〜!リエじゃないの!!」

 理枝の質問を遮るように、女の声が聞こえてきた。

 理枝の方から目線ずらし声のした方を見ると、そこには二人の女の子がいた。 声をかけてきたのは背が少し低い方の女。 そして、少し背の高い方の女の顔を見ると………げ! ゆ、雪野!!

 な、なぜに雪野がここにーー〜!!

 いつもの黒髪で、制服ではない私服(女装)姿の雪野は、俺と全く同じように『うっ! なぜおまえがここに!!』と顔をしかめている。

 「リエ!! こんなとこで、何してんの?」 雪野ではない、もう片方の女が理枝に聞く。

 「……お姉ちゃん…」 なにー!

 なるほど、これが噂の芸能一家のお姉ちゃんか。どうりで、どっかで見たことあるような顔だと思った。 胸が大きく少し幼顔のお姉ちゃん。見た感じ、年は俺たちと同じくらいだろうか。

 その噂のお姉ちゃんは俺の顔を見て、スッと目が鋭くなる。

 「へー! これがリエの言ってた、噂の公園の変なお兄ちゃんね…」 だから変って言うなー!!

 「……あ!紹介するね。 こちらが黒崎健二さん」

 理枝に紹介され、俺は頭を下げる。

 「…そっちが…」

 理枝の言葉の前に、本人が自己紹介をする。

 「理枝の姉の水越香奈枝です。よろしく〜。 瞳、これが私の妹の理枝よ」

 理枝のお姉ちゃんは俺に頭を下げた後、雪野に妹を紹介。

 「でね、黒崎さん! こっちがね! なんと、あの『シオン』の雪野瞳よ!!」

 …知ってるって。(笑)

 「オイ! ゆき…」

 はじめまして!! 雪野瞳です! 黒崎さん、よろしく!」

 ………コイツ!! あくまで、初対面を装うつもりだな…。 見覚えのあったらしい理枝は、あれ?っと首を傾げている。

 そして、雪野は理枝の前まで来て身を屈み込み、

 「はじめまして、リエちゃん! …リエちゃん、年、いくつ?」

 「………八歳」

 「「はっ、八歳ぃー!!」」 驚いて声を上げたのは、俺と雪野。

 八歳だって!! せめて、小学校高学年ぐらいだと思ってた…!

 うへぇ〜!! 八歳にしてこの大人びた妹に、胸のでかい童顔の姉…。 こ、これは将来が楽しみだ…!!

 今の内に手懐けておくか?!(笑)

 …やめよう。あと6年は手が出せそうにない。

 「…リ、リエちゃん。悪いことは言わないから、こんなロリコンのお兄ちゃんとはいっしょにいない方がいいよ」 雪野が理枝に言う。

 だ、だれがロリコンだ!!だれがー!!!

 「そうよ、リエ! 確かに顔は悪くないけど、こーゆー頭の悪そうな人はやめといた方がいいわよ」

 だから、頭悪そうなって言うなーーー!!!

 「……ケ、ケンジ兄ちゃんはそんなんじゃないよー!」 そうだ!! 理枝、もっと言ってやれ!!



 まったく! 理枝は、舞台やドラマでは別人のようにハキハキと喋るのに、普段はなんでこんなに声に覇気が無いんだ!

 更に口数が減ったのは、男を演じるのをやめたからとかって、そーいうのはないだろうなぁ?!







 今日もテレビをつけると、理枝がドラマで役を演じている。

 最近の理枝の演技は変わった。 どこが?と言われてもわからないが、そう感じているのは俺だけではないらしい。 理枝の人気はまだまだ上がるだろう。

 …理枝がいつから女だって気づいてたかだって?

 連れションしにいったら、あいつ逃げたんだよ!(笑)

 なんかアキラの行動がいろいろと怪しかったもんで、ある時後をつけてみたら、案の定あいつは公園の女子トイレに躊躇いもなく入ってったんだよ!(←ストーカーまがい…)

 何かあるなとは思っていたんだが…。まさか、あの理枝だとはな…。

 理枝が男装をやめてから、俺たちが会う回数はめっきり減った。 …俺が少し避けているからだ。

 あの休みの日に雪野たちと会って以来、なぜか雪野は俺にリエちゃんはどうのこうのと話し掛けてくる。 だからなぜだ?!



 雪野が言うには、もうすぐあいつは九歳の誕生日を迎えるらしい。

 しゃーない! お金はないが、何か贈ってやるか。




 一つ、言っておくが…

 あいつは俺の恋人じゃないぞ!

 あいつは俺の……










〜あとがき〜

 私の人生の教訓には、世間は狭いという言葉がありますが…(笑)


 TSも無い話でしたが、ご覧いただきありがとうございました。

 なんか中途半端にクサイ話だったかも(汗) 別に、いじめられっ子の話を書きたかったわけではないのですけどね…。

 (番外編1もなんですけど)この番外編、一話に短くまとめるつもりで書いたので、もっと容量を倍にするぐらいのつもりでじっくり書ければ、もっとちゃんとした感動があったのかもしれない…。


 黒崎健二。彼の一週間は、一日は学校でバンドの練習、二日で路上でお金を貯めて、二日で麻雀でスッカラカン。あとの二日はナンパか公園でヒマしてる…。 彼、家に一人帰りたがらないタイプなんですね(笑)

 こんなおバカな彼と少し無口なリエのセットって、なんか不思議です…。

 リエのお姉ちゃんの話は、本編の方でお楽しみください。

 それでは…

       水無月





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