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 「全く…。 無茶するよ、雪野くんは…!」

 「いや…。 若林さん、あれはちょっと怒りで我をなくしてしまって…。」

 「自分が怪我してたら、どうするつもりなんだい!」

 「大丈夫ですよ! これでも高校男児ですから!!」

 「その格好で、高校男児と言われてもねぇ…。どこからどう見ても、女子高生だよ…。 それに、声を女に変えてくれないかな。その格好じゃ、違和感がありすぎるよ。」

 「はぁ〜い♪ わっかりました〜、慎也さん(はあと)」

 「……///(赤面)///

 「赤くなっちゃって、かわいい♪」

 「お、大人をからかうな!! それに、きみは男だろ!!」

 「そうですよ〜♪ 赤くなるのは勝手ですけど♪」

 「……………//(再び赤面)//

 「それはそうと、これからどこへ向かうんです?」

 「あ、ああ…。 歌とダンスの指導をしてくれる先生のところにね。」

 「ふ〜ん。 …で、なんでまた、女装しなければいけないんですか……(怒)。」

 「そ、それはね………。」

 「……?」




The voice of ours

作者 : 水無月

ACT . 4  The first single






 それは、ここへ来る電車の中でのことだった。



 俺は、若林さんとの待ち合わせのため、電車で向かっていた。

 それにしても、瞳ちゃんで行くことになろうとは……。 これについてはあとで話そう…。

 休日とはいえ、この時間は通勤通学者が多く、電車の中は混んでいた。平日の朝のラッシュに比べれば、まだましと言えようが。

 俺はいつものように女装姿だった。  なぜ『いつものように』なんだーー!!  俺は朝から気分が重たい……。

 座ることのできなかった俺は、吊り輪に手をかけ、立っていた。

 ふと俺は、隣に立っている女の子が、震えているのに気がついた。年は俺と同じか少し下だろう。顔が青ざめている。 どうしたんだ?

 「あのー、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」 気になった俺は声をかけてみた。もちろん、女声で。

 「あ、いえ……。 なんでもないです…。」 びくっと震え、彼女は答えた。 なんでもないわけがないだろうに…。

 その時、背後で動く影に俺は気づいた。

 さわさわ!

 !!っ

 ……そういうことか…。 背後の動く影は、痴漢だった。俺は今、痴漢にお尻を触られている。

 隣の彼女は、少しほっとした顔をしている。 どうやら、標的が俺に代わったらしい…。

 実は、この格好でいるときに、すでに何度か痴漢にあっていた。 男のケツを触ってるなんて馬鹿なやつだ!と内心嘲笑っていた。 今までは、遠慮するようにちらちらとしか触らないやつらだったので、放っておいた。

 だが、この痴漢は違っていた。

 しばらくして、俺が抵抗しないことをいいことに、この痴漢はスカートの中に手を入れてきた!

 ぞくっ!!  こ、こいつはーー!!

 さらに中へ入れようと、ついにはショーツのゴムに手をかけてきた!!

 ぞくぞくぞくっ!!  こ、こいつ!許せん!!

 しかし、ゴムに手をかけてきたとき、

 「○○駅〜、○○駅〜…」

 駅に着くようだ。 痴漢が手を戻す。 こいつ、この駅で降りる気だ!

 すぐ駅についてしまう。 犯人は分かっている。真後ろの中年だ。 周りの乗客達が動き始めた。 まずい!今動かれては逃げられてしまう!

 咄嗟に俺は振り返り、その犯人の腕を掴み、

 「キャー!! 痴漢よーー!!!」

 と、男声で叫んでみた。(爆)


 固まる車内………。(笑)


 犯人も、逃げることを忘れ、ギョっと俺を見る。 ふっ…!かかったな!!

 その瞬間、俺はその中年の腹に拳をいれる。

 そして、犯人が悶絶する前に、ドアが開いた瞬間を見計らい、ホームへ(股間から)蹴り飛ばす。

 ホームで、のたうち回る中年。 俺はその中年の正面に立ち、睨みつける。

 「無抵抗なのをいいことに、女のお尻を触るとは! 許せん!!」 俺は女声で言い放つ。

 俺は蹴りをもう数発入れようと近づこうと……いや、やめておこう。代わりに、状況を判断した周りの男達が、その中年をボコボコにしていた。

 「あ、あの… ありがとうございます! お強いんですね………(ぽっ)」 突然話しかけられた。話しかけてきたのは、先ほどの少女だった。

 そのときになって、俺はようやく気がついた。

 犯人を見る一部の軽蔑の視線……と、俺を見つめる尊敬とも羨望とも感じる多くの視線………(汗)。 俺は、怒りで半分、我をなくしていた。

 その後、取り押さえられた犯人は、かけつけてきた警察に、俺とその少女の証言をもとに引き渡され、御用となった。

 話によると、その少女は毎日のようにその痴漢にあっていたらしい。 痴漢がいなくなって、本当に安心しているようだ。

 そして、遅れると連絡を入れていた若林さんがやってきた。

 「雪野くん、こんなところで何してるんだよ…!」



 少女と別れ、立ち去ろうとすると、

 「あの、あなたのお名前は?」 少女が尋ねてきた。

 「雪野瞳だよ。」

 「この子ね、もうすぐアイドルとしてデビューするんだ! CD出たら、よろしくね!」 と、若林さんが宣伝活動をしていた。





 そして今、若林さんと俺は、本来の目的地へと向かっている。



 年も明けて、一月の中旬。

 休み明けのテストも終わり、再び、学校へ通う日常が始まった。 そんなとき、俺は若林さんに呼び出された。 それも、いつもと違う場所に、瞳として…。

 どうも女をすることに慣れてしまった俺は、かなり自然に女子高生を演じている。

 周りに何度も女装を強要され、正月には、母さんに振袖まで着せられ、俺は女装を恥らうのに疲れてしまっていた。 『なぜ俺は、一人無駄に疲れているんだろう』そう俺は悟った。 この姿なんだから、この時は女の子してやろうと、かなり開き直っていた。

 「雪野くんは、見かけによらず、度胸あるね……。」

 別に俺は、喧嘩が強いわけではない。体力も力も強い方ではない。 しかし、あの程度のおっさんぐらい、どうってことはない! 真剣に抵抗されれば危ないかもしれないが、用は、相手に隙を作らせればいいのだ。喧嘩は、怯まなければなんとでもなるものだ。

 「で、慎也さん♪ どうして瞳じゃないといけないんですか?……(怒)」

 瞳のときは、苗字ではなく、名前で呼んであげる。 赤くなるので、なかなかおもしろい♪

 「…それはね……。 その歌とダンスの先生が、早乙女先生の紹介だからだよ。」

 !!っ

 げげっ!! なにーーー!!!

 「きみが早乙女先生に指導されてたって聞いたから、早乙女先生にどんなものだったか聞きに行ったんだ。そのとき、この人を紹介されてね。どんな人物かと調べてみたら、かなりの人物でね。社長も知っているようで、かなりお勧めらしいんだ。

 きみを雪野潤として知らない早乙女先生は、瞳ちゃんとして紹介していてね…。その人は、何人もの大物アイドルを育ててきた人で、女の子アイドル専門らしいんだ…。」

 ガ〜〜〜ン!! な、なんてこった!ネ、ネクロマンサーめ!!

 た、たしかに早乙女先生はすごいと思うし、世話になったと思っている。 だからって、ここまで世話をやかなくても………。

 「わ、若林さん! なんとか他の先生に変えてもらうことは…!!」

 「残念だけど、それは無理! あの人ほどの先生は、他にはなかなか見つからないし。社長や早乙女先生の顔もあるからね。

 女声で練習してても、男声もよくなってたらしいじゃないか。 というわけで、がんばってね! 大丈夫だよ!あの人なら立派な美少女アイドルにしてくれるよ(笑)。」

 ………(涙)。



 その先生のいる、ビルに到着。 ………。

 着いたところは、至って普通のスポーツジムだった。

 二階と三階がスポーツジムになっていて、四階にそのダンス教室はあった。

 「さぁ、いくよ…。」 若林さんに続いて、その教室に入る。



 奥から声が聞こえる…。

 「ワン、ツー♪ ワン、ツー♪ はい!もっと早く…!!」

 奥では、大きな鏡を前に、五人の女の子達がダンスの練習をしていた。 そして、その生徒達の前に、その先生はいた。

 …その先生は、大きなおばちゃんだった。

 声も大きく、そして、その見た目にそぐわないすばらしく軽快な動きで、ダンスの指導をしていた…。 俺の三倍はあろうかというその肉が、その動きとともに跳ねる……(汗)。

 な、なんなんだ〜〜!この人は〜〜〜!! この人を一言で表すなら……
  『踊る肉団子の甘酢かけ!』(←意味不明)

 「す、すみません! 頼んでいた雪野瞳ですが…!」 若林さんが、恐る恐る声をかける。

 「あー、はいはい!! でわ、みなさんは!…」 生徒達に自主練習をするように言い、その先生はドスドスと近づいてきた。

 「まぁ〜!!あなたが瞳さんね! 早乙女さんが言う通り、可愛い子ね♪」

 この先生は、天童と名乗った。 一応、こちらも自己紹介をする。

 するとまず、その天童さんは、俺に声を出してみるように言う。

 ア〜〜♪ ア〜〜♪ ア〜〜〜〜♪ いつもの発声練習のように、声を出す。

 「…早乙女さんの紹介というだけあって、なかなかの素材だわ!! 扱き甲斐がありそうね♪」

 そして、俺の地獄の日々は始まった…。



 「ぎゃーーー!! 痛い痛いーーー!!」

 「あなた、硬いわね〜♪」

 今は柔軟体操中。 俺は、天童さんのその巨体から、のしかかりを受けていた。

 そう… 俺は、体が硬かった。 ってか、ここの人達が、みんな柔らか過ぎるんだーー!!

 「わ、若林さ〜ん! なんで私が、ダンスしないといけないんですか〜?!」 帰らずに、端で練習の様子を見ていた若林さんに、涙声で訴える。

 俺が雪野潤であり、雪野瞳である。 当然、ステージで二人いっしょに歌うことも踊ることも無理なはず…。

 「うん。アイドルたるもの、何事でもこなせないとね。」 えらくのんびりした口調で言う若林さん。

 「そんなぁ〜〜〜!!(涙)」

 「瞳さん! そんなに硬くては、うまく殿方にも抱いていただけませんわよ♪」

 『俺は男だーーー!!』と、叫ぶわけにもいかず……。

 「あ゛ーーーーー!!!」

 俺の、誰にも届かぬ悲鳴がこだまする………。







 翌朝…。



 ………朝になった(ようだ)。

 「瞳ちゃーん♪ 朝よーー♪ 起きなさーい♪」

 「う、う〜ん…」

 「瞳ちゃん♪ 朝よーー♪」

 「う、う〜ん……」

 「瞳ちゃん! 起きなさい♪」

 「う〜ん、う〜ん………」

 「潤!! いいかげんに起きなさい!!!」 仏の顔も三度までだった。(笑)

 がばっ!! ぐいっ!!

 「ぎゃ〜〜〜〜!! イタイイタイ!!!」 母さんの一撃の下に起こされる。

 といっても、母さんは俺をただ引っ張り起こしただけのようだ。 俺のあまりにもの痛がりように、あれ?っという顔をしている。

 「か、母さ〜ん! き、昨日の練習で、体中が痛いんだ!!」 そう、とてつもない筋肉痛の痛みに、俺は起きれなかったのだ。

 「そうなの? でも、早くしないと遅刻するわよ!」

 げげっ!やばい!! 俺は痛む体を引きずりながら、準備を始めた。



 昨日の練習は、本当に地獄だった…。

 少し発声練習や、発声法を直してもらったが、ほとんどは柔軟だけで終わった。

 ただ一つ良かったことといえば、他の練習していた女の子達と仲良くなったことだ。

 最初に会った時は、なぜか睨まれ、発声練習をすると、よりいっそうその視線は強くなった。そう、いわゆる、ライバルへの視線だった。

 だが、柔軟体操で悲鳴を上げていると、その視線はいつの間にか、なくなっていた。う〜む、俺はもはやライバルではないと思ったのだろうか…?

 休憩時間に入り、少し話をし始めると、すぐに打ち解けてしまった。 女同士の会話に、普通に参加できる自分が怖い……。俺が男だと知ったら、あの子達はどう反応するんだろう…(汗)。

 練習するのに、着る服は自由なので、俺は体のラインが目立たないジャージを着ていた。 …間違っても、天童先生のようなレオタードは着ない。

 おかげで、俺を男と疑う様子は全くなかった。 …喜んでいいことなのだろうか……。



 俺は結局バスに間に合わず、遅刻をした。

 一時間目の途中に教室に入った。 先生には、遅刻をきつく注意されただけで、あとは何もなかった。



 そして、休み時間になった……。



 「よっ!潤!! どうしたの!朝から、遅刻なんかしちゃって!!」

 あずさがやってきて、ぐったりしている俺の背中を叩く。

 バン!

 「あ゛ーーー!! 痛い〜〜!!」

 ギョッとするあずさ。ギョッとする周囲の生徒達。

 「ど、どうしたの? 私、そんなに強く叩いてないわよ……(汗)」 こ、このやろう…(涙)!!

 「はぁ、はぁ…。 じ、実は昨日……」 痛みの少し落ち着いた俺は、昨日のことを説明した。

 「ふ〜ん。そうなの。 …どうでもいいけど、次、体育よ。」

 ガーーーン! 今の体では、普通に歩くことさえ無理だった。

 「……け、見学にしてもらおう…。」



 一応、着替えは済ませ、体育教官室へ向かう。

 ………もちろん、着替えは男子更衣室だ。 誰が何と言おうと、俺は男だ!クラスの男子も、それは認めている(はず…)。 ただし、他クラスや他学年の子は、完全に俺が男装している思っているらしい。(新聞部宮沢先輩の調査より)

 「失礼します!」

 体育教官室に入ると、男子体育の松井先生と女子体育の森先生が、談笑していた。

 「あの、八組の雪野です。」

 「おー、雪野か! どした?」

 「…じ、実は、体調が悪いので、体育を見学にしてほしいのですが…。」

 「おや? いったいどうしたんだ?」 松井先生が不思議そうに聞く。 すると、横から森先生が、

 「いやですわ、松井先生! 乙女にそんなこと、聞くもんじゃありませんよ!」 わかったように言う。 ……?

 「ん? ………おー!そういうことか! そりゃ聞いてすまなかった! いいぞ!見学で!」

 「は?…… あ、あの… 何か、勘違いしてません…?」 い、いやな予感が…!

 「勘違いって…。 雪野さん。あなた、生理なんでしょ?」 森先生が、さも当然のように言う。

 「ちっっがーーーーう!! 俺は男だーーーー!!」 何言ってんだーー!!

 「雪野さん!あなたのどこが男よ!! …松井先生、そろそろこの子も女子の体育に入れないと!」

 「そうですね。 いつまでも、この子のわがままを許してやるわけにもいかないですね。」 えらくまじめな顔で話す二人。

 「だから、俺は男だーーーー!!!」

 昨日のことを話し、俺が男だと納得させた。(いや、完全には納得していないようだが…)

 …ホントにいいのか!こんな教師ばかりで!!







 二月に入った。

 天童先生のジムには、ほとんど毎日通っている。

 最初はつらかった柔軟体操も、毎日家でもやっていた所為か、今では大分ましになっていた。それでも痛いものは痛いのだが。

 ついに、あの歌のレコーディングが終わった。 試しに聞かせてもらったが、すごくいい仕上がりだった。さすがは、本物のスタジオだ。

 その完成した歌は、とあるCMで使われることになった。清涼飲料水か何かのCMだったかな? しばらくCMなどで流した方が、話題性もよく、売上も上がるらしい。

 そして、しばらくして、そのCMは流され始めた。



 学校にて…。


 朝、いつものように登校。(くどいようだが、当然俺は男の格好で、だ!)

 ………? またなんか、騒がしいぞ?どうしたんだ?

 教室に入る…。 すると、何人かのクラスメート達が駆け寄ってきた。

 「おはよ!雪野! CM見たわよ!」 「歌すごいじゃない!」

 あれ?例のCM、昨日からだったっけ? 俺はTVを見ていなかった。

 このCMの話は、学校中で騒がれていた。



 そして、その日の放課後…。

 今日は天童先生のレッスンがあるため、このあとジムへ行かなければならない。 しかし、行くためには女装をしなければならない。

 俺は、前に体育の着替えの時に使っていた部屋で、瞳になっている。 なぜなら、途中で着替えれるところがないのだ。

 駅などのトイレだと、入る時か出る時に、必ず恥ずかしいことになってしまう。 もう少しジムが家に近ければ、家で着替えて行くことができるのになぁ。

 というわけで、俺はかなりめんどくさいことをしていた。

 このことを知った周囲の人間は、「だったら、女の姿で学校に通えばいい!」と、皆口をそろえて言う。

 確かにその方が楽である。

 だがしかし!誰が何と言おうが俺は男だ! できるかぎり、女装は避けたい。

 瞳になった俺は、いつものように電車でジムに向かった。 ちなみに、あの痴漢事件以来、俺は痴漢にはあっていない。ただし、なにかいろんな視線は感じる…。どうやら、巷の痴漢達に警戒されている(?)らしい。

 ジムに到着。ジャージに着替えるため、更衣室に入る。



 ………ところで。

 俺がジムで着替えをしているのは………そう、女子更衣室だ。 はっきり言って、これはかなり危険である。 この姿なので、もちろん男子更衣室は使えないので仕方ないのだが…。

 最初の時はかなり恥ずかしく、男が主張を始めそうで、かなりやばかった。(もちろん下は、サポーターあり) だが、いつの間にか、問題なくこなせるようになっていた。 ……慣れとは怖いものである。 男に見えない体付きが悲しい…。

 もし俺が男だとばれたら………俺は、刑務所行きかな………(汗)。



 「あ! 瞳!CM見たわよ! あのCMの歌、歌ってるの瞳でしょ!」 更衣室にはすでに、二人の先客がいた。話しかけてきたこの子の名前は、吉住綾根(よしずみあやね)。俺とは違い、ダンスのうまい子だ。

 もう一人は、水越香奈枝(みずこしかなえ)だ。演技がうまく、どこかの劇団に入りたいらしい。 二人とも、ここでいっしょに天童先生の指導を受けている子だ。

 この二人は、歌をがんばるつもりの俺とは、また違った舞台を目指している。 そして、なぜか俺は、この二人と特に仲良くなっていた。

 「あれ?もうわかっちゃったの? 実は私、まだ見てないんだよねー。」 この子達は、ノルンを知らない。だから、歌を聴くのも初めてのはずなのに、なぜすぐにわかったんだろうか?

 「わかるよ〜! あんな声出るの、瞳だけじゃないの〜! いつも聴いてるから、すぐわかったわ!」 香奈枝が言う。

 「…ところで、あの男の声は誰なの?いっしょのグループなの?もしかして、彼氏?」 綾根が、興味津々といった顔で聞いてくる。 し、下着姿で、そんなに迫ってくるなー!!

 「ち、ちがうよ〜!あれは双子の兄さん! 私達は、二人でデビューするんだ。」 ということになっている。

 「へ〜、双子のデュオか〜! あの歌もなかなかいいじゃないの! CD出たら、私、買うわ!」 「私も!」

 「ありがと!」

 俺達は着替えを終え、練習を始めた。



 「痛い〜!! いたいーーー!!(涙)」

 「瞳って、ホントに体硬いわねぇ〜。」 なぜか楽しそうな香奈枝…。

 俺は、香奈枝に手伝ってもらい、柔軟をしている。 さすがに、初日ほどは叫ばなくなっていた。

 毎日やっているとはいえ、たかだか数日で、柔らかくなるはずもない。この地獄は当分続きそうだ…。

 「ほら!あと、もう少し…♪」

 ああ゛ーー!!痛い痛い!! そ、それに、背中に香奈枝のDカップの胸が〜〜!!!

 そんな俺たちの横では、綾根が天童先生から、ダンスの個人指導を受けていた。

 ここの生徒達の中で、綾根は抜群にダンスがうまい。 そして、綾根はただ一人、天童先生のダンス上級者コースについていける人間だ。

 「では綾根さん。さっきのところから、もう一度踊ってみましょう。」

 「はい!」

 綾根の体が、軽やかに舞う。 うわぁ〜!かっこいいなぁーー!! あの綾根の姿を見れば、どんな男でも見惚れてしまうだろう。

 「違います、綾根さん! いいですか?ここは……」

 天童さんの体が、軽やかに舞う。 ………こ…この人はいったい何者なんだ……(汗)。 この天童先生の姿を見れば、どんな男でも…………いえ…もう聞かないでください………。

 さ、さすがは『踊る肉団子の甘酢かけ!』。あの体で、どうやってあそこまで動けるんだろう…。 あれだけ動いて、どうして痩せないんだろう……。

 「綾根さんは、今のところをしっかり練習するんですよ! それでは…」

 げ…!! 天童先生は、迷うことなく俺の方を見た……(汗)。

 「それでは瞳さん♪ がんばりましょう♪」 天童先生…なぜにそんなに楽しそうに………。

 ああ〜〜〜!!(涙)

 俺の地獄は続く………。







 CMが流され始めて、二週間ほど経った。

 ある日俺は、若林さんに再び呼び出されていた。なにか仕事が入ったとのこと。 というわけで、平日にもかかわらず、俺は学校を休み事務所へ来ていた。 これは、決してサボリじゃないぞ! 学校の許可も取っている。

 事務所に入る。ここは大手プロダクションということもあって、けっこう大きい。 たまにロビーなどで、知っている芸能人とすれちがうこともある。初めてのときは、かなり興奮していた。

 しかし、俺が潤であり瞳であるということを知っているのは、ごく一部の人間だけらしい。

 ちなみに、今日は潤とも瞳とも指定がなかったので、もちろん男の格好だ。

 「悪いね、急な呼び出しで。」

 「かまいませんよ。 それで、仕事というのは?」

 「うん。 実は、あの歌の反響がすごくてね!問い合わせの電話が殺到してるんだ!ラジオなんかのリクエストもすごいらしいんだ! だから、CDの発売が、急遽早められてね。 というわけで、今日はCDのジャケット撮影をしてほしいんだ。」

 「撮影ですか…。」 新聞部を思い出し、なんとなく重たい気分になる。

 「でも、きみが潤であり瞳であるということは、できるだけ隠しておかなければならない。 そこで、信頼できるプロを雇ってあるんだ。」

 若林さんと、撮影スタジオへ向かう。 スタジオは、事務所から少し行ったところにあり、徒歩で向かう。

 薄暗いスタジオへ入る。 そこでは、五人の人影が作業していた。

 「おや? きみが雪野君だね! 私は、写真家の渡辺だ。よろしく!」

 「私はメイク担当の、宮本よ! よろしくね、雪野君!」

 俺を見て、すぐにこの二人が話しかけてきた。 渡辺さんは白髪混じりのおじさんだった。社長より少し若いくらいかな?

 そしてもう一人の宮本さんは、言葉だけ見てもわからないが、どう見ても三十前後の男の人だった。俺みたいに声を変えることはなく、完全に男の声でおかま口調だった。……さすがに引いてしまうが、その奇抜なファッションは、たしかにセンスがいいと言えるものだった。 だが、俺の瞳と、決して同類とは思いたくない………(涙)。

 「渡辺さん、宮本さん。 雪野の秘密をお願いしますよ。」

 「それは大丈夫だ! ここには、かなり信頼のおける助手しか連れてきていない!」

 「そうよ!私達は、口が堅いわよ! それに、あなたのとこの社長さんには、たいへんお世話になったからね!」

 「そうですか。 では、よろしくお願いします。」

 「それでは雪野君。 ……あなた、かわいいわね♪ じゃあ、いきましょう♪」

 「は、はい………(汗)」

 ………どうも俺の周りには、どんどん危険なキャラが増えていくらしい……(涙)。



 パシャ! パシャ!パシャ!!

 「ふー。まぁ、こんなものでいいだろう。 では、しばらく休憩をしてから、雪野君に女になってもらい、続いて雪野瞳の撮影を行う。 雪野君、着替えてきてくれ。」

 「は、はい。わかりました。」 潤の撮影がこれで終わった。 渡辺さんはそう言うと、コーヒーを飲み始めた。

 「さぁ、潤くん! 女の子になりましょう♪」 とっても楽しそうな宮本さんに、連れていかれる…。



 数十分後……。



 「あなた、女の子だったのね! 私、すっかり騙されていたわ!」

 「違いますって! 俺は男です!!」

 俺は、宮本さんと言い争いながら、スタジオへ戻る。

 「おお、来たね。 では、撮影を再開しよう、雪野く………  ……雪野くん…? ……雪野くん……なのか…?」

 「はい、そうですけど…。」 俺を一目見て、言葉に詰まっている渡辺さんに、俺は女声で答えた。

 「……信じられない…。 声まで変わっているようだが…?」

 「声は自分で切り替えれるんですよ。」 俺は男声に戻し答えた。そして、再び驚く渡辺さん。

 「………確かにこれはすごいな…。 社長の気持ちがわかったよ…。」

 プロのメイク師にメイクされた俺は、自分でも驚くほどの美少女になっていた。 もう今更、女をするのに恥ずかしさは残っていないので、周りの人の反応を見る余裕がある。他の助手の人達も、かなり唖然としているようだ。 う〜ん、これはなかなかおもしろいかも♪

 「で…では、撮影を再開しよう…。」 気を取り直して、渡辺さん達は撮影を開始した。



 撮影がすべて終わったのは、夕方だった。

 女装姿のまま、事務所へ戻る。男に戻ろうとしたら渡辺さん達に反対され、戻させてくれなかったのだ…。

 事務所で最後に少し打ち合わせをして、今日の仕事は終わりだ。

 事務所に入ろうとしたら…、

 「あら! 瞳じゃない!!」 そこでばったり出くわしたのは、綾根と香奈枝だった。

 「仕事〜?もう終わったの〜?」 香奈枝が聞いてくる。

 「うん…。とりあえず、だいたいは…。」

 「ねぇ、今からいっしょに、夕飯食べに行かない?」 綾根が言う。

 「え…! でも、今から打ち合わせが…。」

 「瞳ちゃん! 別に打ち合わせは、たいしたこと話すわけじゃないから。 いいよ。行っておいで。 今日はそのまま帰っていいから。」 若林さんが、俺の気持ちも知らずに言う。

 「い、いや、でも…。」

 「いいじゃない!行きましょう♪」

 そのまま、引っ張られていく…。  あう〜…。お、男に戻れなかった…。




 ふー……。 なんとか適当な料理屋に入り、俺はひとまず落ち着いた。

 ここに着くまでの間中、俺は多くの視線を感じていた。

 今いっしょにいる綾根と香奈枝は、はっきり言って、かなりかわいい。

 凛とした雰囲気を持つ美少女の綾根。 どことなく、のんびりとした雰囲気を持つ美少女の香奈枝。

 さすがはアイドルを目指しているだけあって、二人とも、顔もスタイルも並ではない。

 したがって、いっしょに歩いていると、かなりの視線を集めることになる。 俺も女の子をしているため、当然、俺たちは多くのナンパをうけていた。

 いくら女に慣れたからといっても、この視線はかなり気になる。

 だが、綾根と香奈枝は、そんな視線を物ともせずに歩いてゆく。 さ、さすがだなぁ…。

 「はぁー…」 俺は思わず、ため息をついてしまう。

 「どーしたの?」 オムライスを食べながら、香奈枝が不思議そうに聞いてくる。

 「別に…」 俺は、一人疲れた動作でミートスパゲティーをフォークにからめている。

 きのこの和風スパゲティーを食べていた綾根が、俺の顔を見ながら、

 「それにしても、今日の瞳は一味違うわね!いつもよりかわいさ倍増って感じで♪」

 「ああ…。 それは、今日は撮影だったから、化粧をしてもらったからだよ…」 そう!それも、視線を集める大きな原因の一つだった。

 「ふ〜ん… って、瞳! あんた、普段は化粧してないの?!」 驚いたように、綾根が返してきた。

 「う、うん…」 ちょっと勢いに押されつつ、俺は答えた。 当然、俺に、化粧ができるはずがない。

 「うっそ〜! ノーメイクであの顔は反則よ!!」

 「そーだよね〜! すっぴんであの顔だから、こんなきれいな顔になるのね〜!今日は、瞳が一番視線を集めているようだし〜。」

 げげっ! そんなばかな…! いや、確かに俺を見る視線が、多いようには感じていたんだが…。

 「瞳! あんた、普段はどうして化粧をしないの?」

 「い、いや…、やり方がわからないから…(汗)」 詰め寄ってくる綾根に、俺はそう答えるしかなかった。 『俺は男だから化粧なんて必要ないし、そんなめんどくさいことしたくない!』と、正直に言うわけにもいかない。

 「なんだ、そうだったの。 だったら、お姉さん達が瞳ちゃんに、お化粧のやり方をレクチャーしてあげましょう♪」 嬉しそうに綾根が言う。

 「私は別に、化粧ぐらいできなくても…。」

 「何言ってんですか、瞳ちゃんは! お化粧は、乙女の大切なアビリティの一つですよ〜!」 香奈枝が言う。

 「というわけで、毎回のレッスンの時に、お化粧のレッスンもしてあげるわ♪」

 ………。

 こうして、歌とダンスのレッスンに、メイクのレッスンが加えられてしまった。 ………なんか、ホントに泣きたい気分だ……(涙)

 そのあと、(頼んでいないはずの俺の分まで)デザートのプリンやシャーベットが運ばれてきた。 この二人、けっこう食うな…。

 デザートも食べ終え、帰ろうとした俺は、二人に引き止められ、そのままいろいろなところへ連れ回された。 もう、いいかげんにしてくれ〜!!(涙)







 俺の苦労とは関係なく、時は進み、三月になった。

 ついに、俺のCDが完成した。

 CDのタイトルは、『蒼の願い』。 これは、康祐の作った歌詞を、俺が一部変えて出来たものだ。

 CDのカップリングには、『蒼の願い』の潤と瞳、それぞれのソロヴァージョンが収録されている。

 潤と瞳、二人としてのユニット名は、『シオン』に決定した。

 CDのジャケットやポスターには、潤である俺と、瞳である俺がいっしょに写っている。

 この二つの俺の顔は、自分でも同じには見えない。髪形も化粧の感じも全く違い、潤の時は身長も少し誤魔化している。この二人は、はっきり言って別人である。双子と言われて、ああそうか!と思わず頷いてしまうだろう。

 そして、CDは、いよいよ発売される…。






   シオン

    『 蒼の願い 』

      3 / 14  on sell . . .











 『それでは、今週の一位は…!! 先週に引き続き第一位! シオンで、「蒼の願い」!!』

 あー、また一位だって…。

 俺は居間のソファーに座り、ボーっとテレビを見ている…。

 CDが発売されて、二週間が経った。

 俺は、天童先生のレッスンや学校が忙しくて、気がついたらCDが出ていた、という感じだ。

 とりあえず学校の授業は終わり、何事もなく春休みに入った。 ただし、CDが出たことでまた騒がれたことや、レッスンがきつくて、学年末テストがあまりにも酷かったことを除いてだが…。

 一度、学校の帰りにCDショップに寄ってみた。 棚には大物アーティスト達のCDが並んでいた。 だが、俺のCDは並んでいなかった。

 なんだ、全然売れていないのか… とがっかりしたが、レジの横のカウンターを見ると、そこには、俺の大きなポスターとともに、俺のCDが山積みにされていた。

 これには俺も、かなりびっくりした。 驚いたとともに、かなり恥ずかしくなってしまった。

 それからは、いろんなお店や、テレビでもよく聞くようになった。

 今もこうしてテレビで流れている。 だが、あれは本当に俺なのか?と、俺はふと考えてしまう…。なんか、実感湧かないなぁ。

 シオンはプロモーション映像を作っていないため、テレビでは、潤と瞳の写真のみが使われている。

 取材や番組への出演依頼が多いらしいが、若林さんが全て断っているらしい。 ホントに大丈夫なんだろうか、それで…。

 事務所が、うまく俺の情報を隠しているため、学校や俺の周囲では、何の変化もなかった…。



 プルルルル〜♪

 「瞳ちゃ〜ん! 電話出てー!」

 「………」

 「潤!! 電話〜!!」

 「母さんが出てよ!」 俺はボーっとテレビを見続けている。 いいじゃないか!レッスンの無い日ぐらい…!

 「まったくもう!電話ぐらい…!」 母さんがぶつぶつと言いながら、電話に駆け寄る。

 「もしもし、雪野です! ……あら、担任の先生! 潤がいつもお世話になっています。」

 ん?新見先生〜? なんで先生が…? 俺はテレビを見つつ、途切れ途切れに聞こえる話し声に、聞き耳をたてる。

 「……はい………まぁ…。 そうなんですよ……私達が不甲斐ないばかりに………。」

 何を話しているんだ…? いや〜な予感が……。

 「………ええ…。 では、あの子をどうかよろしくおねがいします。 …………そうですよねぇ!瞳も、もっと女の子らしくしないと…♪」

 !!っ 瞳だって!!

 俺は寛いでいたソファーから飛び起き、母さんの電話のところへ駆けつける。

 「…はい…はい。 それでは……」

 「あ〜〜!!母さん、ちょっと待てー!!」

 ガシッ! 母さんから受話器を奪い取る。

 「もしもし!新見先生!!にいみ……」


 ツー ツー ツー…


 「………」 手元を見ると、母さんが電話を切っていた…。

 「ふっ……(ニヤリ)!」 顔を上げると、そこには、勝ち誇った母さんの顔………。



 「母さん!!新見先生と、何を話したんだよ!!」

 母さんに詰め寄る。俺はかなりキレ気味。

 それに対し母さんは、

 「何をって…。 こんなにかわいい瞳ちゃんが、自分は男だと信じて聞かないって…! 少しも女の子らしくしてくれないから、母さん悲しくって……(涙)!」

 「だれが瞳ちゃんだーーー!!!」

 しかし、泣き崩れた母さんは、俺の言葉も全く聞かず、

 「嗚呼!! こんな子に育てた母さんを許しておくれ〜!!(涙涙)」

 「だれが許すかーーー!! 俺は男だーーーーー!!!」

 俺は、いつものように、母さんに怒鳴り散らす。



 しかし、俺はまだ、この電話の重大さに気づいていなかった…。





〜あとがき〜

 またもや、おちを掻っ攫ってゆく母さんです…
(こんな母さんですが、一応、制限あるんですけど… なんか、母さん自分でリミッターを外しそう…/汗)

 男としての私生活を保ってきた潤も、そろそろ限界のようです♪

 なんとか早い展開で、CD発売まで漕ぎ着けました。 でも、こんな早い展開で、ネタがもつのでしょうか…?(汗)

 初登場1位ってのも、どうかな…?って、思ったんですけど、めんどくさ……いえいえ、ここは『雪野だから!』ということで♪

 『踊る肉団子の甘酢かけ!』については…
昔、タレントのIさんが、Kさんに名づけたもの。 あまりにもイメージにぴったりだったもので(^^; ってか、知ってる人、いませんね(爆)

 ところで、私は芸能界に特に詳しいということはありません。 ですから、大体こんなもんかな、という想像の部分が大きいですので…。

 それでわ〜 また、次回に♪


    水無月




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