これは夢オチ
第10話:「空へ……」
Zyuka
「空を飛びたい……」
少年は、そうつぶやいた。
目を覚まし、足を見る。そこには、ギブスで固定された両足があるだけだった。
「空を飛びたい……」
『って、そう言う夢はあなたの担当じゃないですかテンム!』
『いやあ、確かにそうなんだけどさあ、ユイム……』
病院のベッドで寝ている少年を眺めながら、二人のナイトメアが話し込んでいた。
テンムは、空の夢を担当するナイトメアだ。
一口に空といっても、実に様々。
飛行機、ヘリコプター、ハングライダーなどの乗り物の夢から、自力で空を飛ぶ舞○術みたいな物から背中に羽を生やして飛ぶなど、色々な夢を作る。
ファンタジーなものなら、雲に乗って飛ぶというのもある。
『あの子が空を飛びたいんなら、あなたがそう言う夢を作ってあげればいいじゃないですか』
『いや、それなんだがなぁ』
テンムが言葉を濁しながら、いう。
『あの少年は、夢と現実の区別がつかないんだ……』
『え………』
『あの両足の骨折、どうしてああなったと思う?』
『………?』
『俺が一度空を飛ぶ夢を見せてやった時、飛べると思って二階から飛び降りたんだ』
『あらら……』
『まあ、というわけで、俺は考えた。通常ならありえない状況で空を飛ぶ夢を見れば、あきらめるんじゃないかなと!! だからユイムちゃん呼んじゃったってわけ』
『ああ、なるほど。つまり……』
『私と魂の波動を同じくする人間よ……私は妖精のファロ……あなた方が住む世界とは異なる世界より呼びかけています』
赤毛のツインテール、木の葉の髪飾り、胸に大きな花のついた緑の服……背中には白いトンボの羽……身長25cmぐらいの妖精少女、ファロ……
『……って、ここ、真一さんの夢の中じゃない〜〜〜〜〜!!』
『ごめんね、ファロちゃん。ちょっと付き合ってよ』
本来は、非日常夢的井戸端会議、非日常外伝的井戸端会議、ツイン・ツイン・ツイン……ツインズのキャラクターです。興味のある方はそちらも見てみてください。
『つまり、この子のように空を飛ぶ女の子になる夢を作ればいいわけね』
『それはそうだけど、いちいち別小説のキャラクターをつれてくるなよ』
『それに、妖精よりも、天使がいいな。みんな集めて、美少女天使団を作ってみよう!』
『じゃあ、メグムちゃんたちに連絡取るね……もちろん、シームにも』
『? シーム? 何で?』
『それはこっちのお楽しみ。テンム、あなたも覚悟しておいてね……』
テンムは空の夢のナイトメア、海の夢のナイトメア、シームとはあんまり親しくはない。
『ところで、私の出番もう終わりなの? ユイムちゃん?』
『ごめんねファロちゃん。今度、レイリー君やアストリア君達と“夢見飯店”でパーティでもしようよ』
『別にいいんだけど、じゃ、また非日常夢的井戸端会議で』
こうして、ファロは物語の扉の向こうへ去っていった。
『じゃあ、ユイム。夢作りを始めようか!』
少年は、手元のリモコンでテレビを消した。
もう、病院の消灯時間だ。
「空を飛びたい……」
そういって、少年は目を閉じる。
『そんなに空を飛びたいんなら、飛ばしてあげようか?』
『え……?』
少年に声をかけてくるものがいた。
少年にはわからないが、ここはもう夢の中だ。
声をかけてきたのは白い大きな翼を背につけたユイムだった。
そして、その横に同じく翼を生やしたメグムやリンムなどがいる。
…………もちろん、同じような姿……つまりは女性の姿をしたテンムとシームがいた。
『うう、何でいつもいつもこんな姿にならなくちゃいけないんだ……?』
嘆くシーム。まあ、これはお約束。あきらめるほかあるまい。
そしてテンムは……
『……これって、結構面白いのかもしれない』
『テンム……?』
『お姉さん達は……?』
『私達は天使だよ』
少年の問いに即答するユイム。
『天使……本当にいたんだ。いいなぁ、空が飛べて』
『あなたも、私達の仲間になる?』
『え……?』
ユイムが、少年に手を伸ばす。
その手をつかんだ少年に、変化が起こる。
もともと白っぽかった肌はさらに白くなり、やせ気味だった体は柔らかみを増し、特に胸が膨らんだ。
そして、極めつけは背中に出現した大きな翼。
『ハイ、鏡だよ……』
メグムが持つ鏡には、かわいらしい少女が映し出されていた。
『え、これだれ?』
『君だよ!』
『僕も、お姉さん達と同じ、天使になれたの?』
『そうだよ。じゃあ、行こうか』
そういって、一行は窓から飛び立った。
空の旅は快適だ。
雲に入れば周りが見えなくなるが、実は綿菓子のように食べられたりするのだ。
鳥の大群と一緒に飛べば、きれいな羽毛をプレゼントされた。
雨雲に水をもらい、太陽からは元気をもらう。
夜空に浮かぶ星は、美しいアクセサリー。月の鏡で確認する。
すべては、夢の中の出来事。
テンムの力によって作られた、幻想的な空の夢。
夢を見ている少年も、そしてユイムたちも、いつしかこの世界を楽しんでいた。
最後に、天空に浮かぶ島・ラピュター島に到着する。
この島にある城に住んでいるのは……
『あ、トロイ様……』
そう、ここはナイトメア・キング、トロイの別荘だった。
やがて、現実の世界の夜が空ける。
楽しかった夢を見た少年が目を覚まし……
自分の背中、そして胸を確認して落胆した。
「あの姿になれば、空が飛べるのかな……」
『おーい。ユイム』
『うん、どうしたの? テンム』
『この間の少年のことだけどな』
『?』
『あれから、性転換手術を希望しているそうなんだ』
『はぁ、何それ!?』
『医者も困りまくっているらしいからさ、お前もう一度いって女の子になる夢を見させてきてくれないか?』
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