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これは夢オチ

第6話:「マーメイドリーム」

Zyuka





 大きな波が来る……
 今年一番の大波だ!!
 俺はそれに挑む!!
 俺は伝説のサーファーになる!!
 俺は……!!

 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザアアアアアアアアアアア……………

『う、うわぁぁぁぁぁ!!』



 がばっ!!

 男は飛び起きた。
「ゆ、夢か……」
 そうつぶやいて、自分の両足をみる。
 そこには、包帯でぐるぐる巻きになった自分の足があった。

「……くぅっ!」
 先ほど見た夢は、過去の現実だった。
 サーファーである彼は、半月ほど前、伝説といわれたビッグウェーブに挑み……玉砕したのだ。
 命を落としてもおかしくはなかっただろう。
 だが、彼は助かった。
 両足骨折、全治2ヶ月の重傷とともに……
 彼は絶望していた。



「ううーむ」
「何うなってるの? シーム?」
 ユイムは、同じナイトメアの同僚、シームに問いかけた。
「ああ、ユイムか……いや、この人の夢をどうしようかと思ってね……」
 シームは海の夢を担当するナイトメア。そしてユイムはTS夢の担当。共通点は少なそうだが、なぜか仲がよかった。
「この男の人?」
 両足に包帯を巻かれて病院のベットに寝ている男。
「そうさ。この前、波乗りに失敗して両足を折って……その時の夢ばかり見てるんだ。心に受けた衝撃が強すぎてね――」
「ふーん」
「何か、いい方法はないかな…………別の夢でも見せてやれば、気でも晴れるんだろうけど……」
「……そういえば彼の今の姿って、何かに似ているわね――」



 大きな波が来る……
 今年一番の大波だ!!
 俺はそれに挑む!!
 俺は伝説のサーファーになる!!
 俺は……!!

 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザアアアアアアアアアアア……………

『う、うわぁぁぁぁぁ!!』
『……どうしたの?』
 突然、かわいらしい声が聞こえてきた。
 そっちの方を向いてみると、少女が波間に浮かびながらこちらを見ている。
『!? 人魚……?』



 そこには、下半身を魚の姿に変えたユイムがいた。
 そしてもう一人、こちらも人魚……
『……何で僕までマーメイドになんなきゃならないんだ?』
 彼女――マーメイドに姿を変えたシームがそうぼやいた。
『さあ、行きましょ』
 マーメイド・ユイムが、男の手を取った。
『行くって……どこへ……?』
 彼の姿もまた、変化していく。両足が一つにまとまり、包帯がぐるぐる巻かれていく。
『ひっ……!』
『大丈夫よ』
 ユイムがそういうと、包帯は包帯でなくなり、美しい鱗を持った尾鰭となった。
 体も女性化し、彼――彼女は一人のマーメイドになった。

『ああ、これって……』
『行こうよ。あなたが挑戦し続けた海の世界へ――』

 3人のマーメイドは、深く美しい海の中へと潜っていく……



 珊瑚礁の海の中で、珊瑚にいたずらする海星(ひとで)を懲らしめた。
 青い南の海で海豚(いるか)と競争した。
 赤い夕日を追いかけて、西に一直線に進んでゆく。
 沈没船の中から、財宝を引き上げてまた沈めた。
 巨大なタコやイカに捕まりそうになり、サメに追いかけられた。
 嵐の中で、思いっきり泳いだ。
 今まで見たこともない巨大な波も、人魚にとってはただのアトラクションだった。



 楽しいときはすぐに過ぎ去り、彼は目を覚ました。
 彼の絶望は取り払われていた。

 ちゃんとリハビリをしよう。もう一度、あの世界に挑戦するために……

 彼は新たな道を歩み始めた。



「ユイム……僕まであんなことをする必要はなかったんじゃないか?」
「え? でも、似合っていたじゃない?」
「そうはいってもなぁ――」
 シームは男性のナイトメアだ。女性の姿になるのはちょっとばかり抵抗がある。
「まあ、いいじゃない。彼も立ち直ったんだし、また何かあったときは手伝ってあげるわ」
「……それでまたあんなかっこをするのか?」
「さーってね」
 ユイムは笑ってそう答えた。



終了

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