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これは夢オチ

第3話 「ナースコール」

作:Zyuka



「……ねえ、ユイムさん」
「あれ、どうしたのメグムさん?」

 TS夢担当のナイトメア、ユイムに話しかけたのは、同じナイトメアのメグムだった。
 ちなみに担当は少年の夢。

「あなたに、お願いがあるんですけど」
「なんですか? あたしにできることなら、できるだけ協力しますけど……」

 ナイトメア同士の協力は、けっこう良くあることだ。
 特に夢喰い『ばぐ』の被害にあったときには、何十人かのナイトメアが協力し合う。

「あなた、他人用に作った夢を違う人に見せたことがあるんでしょ?」
「!! そ、それは……」

 ユイムの脳裏に、TS夢担当にされた事件の映像が流れる。

「あううううっ、そのせいでトロイ様に思いっきり叱られたのよ……」

 トロイというのは、ナイトメアたちをすべるナイトメアキング。
 この世界に夢という概念が産まれた時に生を受けたという、ナイトメア達の王だ。
 でも、見た目はごく普通の青年風。とても何千年も生きているとは思えない。
 得意のハリセンでツッコミを入れる、楽しい男でもある。

「それを、やってほしいんですけど」
「へ……?」
「だから、他人用の夢を違う人に見せたいの」
「メ、メグム…………?」

 メグムは、ちょっとおっとりしたところがあるものの、ごくごくまじめなナイトメアだ。
 とても、違反を犯すとは思えない。

「あ、あの……メグムさん、それってあたしたちナイトメアの違法行為ってこと、知ってます?」
「もちろんよ。でも……今回の場合は仕方ないと思うの」



「げほっ……げほっ……」
「大丈夫? 進君?」
「うん……」

 進は、看護婦に背中をさすってもらう。
 ここは大きな総合病院の個室。
 今年14才の進は生まれつき身体が弱く病気がちで、ずっとここに入院している。

「お薬を飲んで、安静にしていてね」
「…………いっしょにいてよ……」
「え……?」
「いっしょにいてくれなきゃ、安静にしない」
「…………」

 看護婦は、ちょっと困った顔をした。



「どう思います?」
「なんか、生意気な男の子ね……」

 ユイムとメグムは、病院の進の様子を見ている。

「生意気なようでいて、かなりかわいそうな子なんです。
 彼は今まで、元気に走り回ったり、運動したりしたことがないのですから……」

 メグムは片手を上に掲げ、進の心の粒子を出現させる。

「だから私は、せめて夢の中だけでも元気に遊ばせてあげようと思ったんですけど……」

 メグムの手が、粒子を少しづつ組み合わせていき、ひとつの夢を作り出す。
 でもそれは、「健康」とか、「元気よく」とか、そういった部品がないため、不完全なものしかできあがらない。

「私も今まで散々努力してきたんですけど、これが限界です。
 ……本当は、ちょっとあきらめかけていたんですけど、あなたのことを聞いたんで」
「あの子に、別の人用に作った健康な夢を見せたい、と……」
「ええ……。あなたなら、できますでしょ?」
「…………いいのかな? そんなことをして……?」



「いいわけあるか!!!!」

 いつの間にか、第三者が二人の側にいた。それはもちろん……

「「ト、トロイ様!!」」
「いったい何の相談をしている? メグム、ユイムっ!」

 ナイトメアキング・トロイ登場……もちろん手にはハリセンを持っている。

「ええーと……あの……」
「病弱な子に健康な夢を見せたいと思って」

 もどもどしい口調のユイムと違い、メグムははっきりという。

「……それで他人の夢を見せようと? それが違法行為だと知っているのか?」
「でもっ、彼の心の粒子からは健康な夢は作れないですっ!!」
「あ、あの〜メグムさん、トロイ様……」
「ユイムならいざ知らず……メグムっ、お前がそんな行為をしようとするとはな!!」
「……でも!」
「それに、やろうとしても不可能だぞ」
「え?」
「見ていろ。」

 トロイはメグムの作った夢に手を入れ、それを壊す。

「ああ〜っ!」

 元の粒子のみになった少年の心のかけらを広げるトロイ。

「この中にには健康や元気といった部分がない。こんな心では、元気な他人の夢は受け入れないだろう」
「でも、ユイムさんが前にやったのは……」
「あれは両者に『画家』という共通項があったから上手くいったんだ。それがなかったら成功はしなかっただろう。」
「じゃあ今まで通り、彼には病のイメージをモデルとした夢を見せておけっていうんですか!?」
「そうは言っていない。あの少年に健康的なイメージを持たせたいなら、現実世界で何かあるのを待てばいい」
「……!!」
「あの〜ぉそれって、どういう意味ですか?」

 メグムにはわかっても、ユイムにはわからなかったらしい。

「つまりは、某プロ野球選手がお見舞いに来るとか、テレビで感動的なシーンを見るとか、タンジュンキッドの大活躍にあこがれるとか、そういったことを待てばいい。……彼の心に何らかの影響があれば、そこから新たな夢を作り出せる」
「それじゃいつまで待てばいいのかわかりません。タンジュンキッドならいざ知らず、プロ野球選手が見舞いに来ることはまずありませんし、テレビに関しては……彼はテレビを、異世界のようなものとしか考えていないんです……」
「じゃあ、別の方法を使うか?」
「え……?」
「まだ何か方法があるの?」
「ああ、このイメージの中から、彼に影響を与える夢を作ってやればいい」
「へ――――っ」
「そんなこと……できるんですか?」
「ああ、少し苦労するがな。……ユイム、お前も協力しろ」



「……この子が君の患者だ」
「え!?」

 ベットで寝ているのは、14歳の進という少年だ。それはわかる。でも……

「……これって、どういうこと?」
「がんばってね。新米看護婦さん!」
「彼って、ちょっとわがままだから……」

 二人の先輩看護婦が、新米看護婦に励ましの声をかけ、医者について病室を出て行った。

「ええと……」

 新米看護婦は混乱している。

「ぼ、僕は確か……」

 彼女は……新米看護婦は……本当は、このベットで寝ている……

「僕が、進だよ!?」
「…………ねえ、看護婦さん……」

 いつの間にか、ベッドで寝ていた進が目を覚ましていた。「ちょっと、風を入れてくれないかな」

「ねえ、ぼ、僕が進だよね、僕ならわかるよね……」
「窓を開けてよ、看護婦さん」

 ベッドのなかの「進」は、新米看護婦がなんと言おうと関係ないようだ。

「どうなってるんだ!?」

 ふと、病室にある鏡に目が止まる。
 そこには、自分によく似た顔の看護婦が映っていた。

「これが僕!?」
「ねえ、窓開けてよ看護婦さんっ。」
「どうなってるんだぁ――――――――!!」

 ベッドのなかの「進」はわがままを言い、看護婦の進は大混乱。
 このまま、夢は続く、覚めるまで…………



「ねえトロイ様……これで本当に良かったんですか?」
「うん?」
「あの子に、こんな夢を見せて……」

 病院の廊下を歩く、医者と二人の看護婦……いや、トロイとメグムとユイム。

「俺たちの仕事は夢を作るだけ。あの少年の中に看護婦というパーツがあったから、こういう夢になったんだ」
「……でも、本当に良かったのかなぁ?」
「夢の中とはいえ、看護婦の姿とはいえ、希望通り健康な身体を手に入れたんだ。
 ……これで何を得るかは、あの子しだいだ」
「う――――ん」

 メグムは、まだ少し納得できていないようだ。

「まあ、夢にできることなんて……たかが知れているけどな……」

END





あとがき

 あれ……
 ども。Zyukaです。
 なんか夏ばてで疲れています。
 これで終わります。





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