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 あなたは自分の顔に興味がありますか?
 私は大いにあります。
 なぜって? だって私達は鏡に映らないんですもん。
 だから、絵に描いてもらうしか自分の顔を確認する手段がないんです。
 だから私はこの部屋に来ます。
 ここは私のお気に入りの場所です……






メタモル・ヴァンパイア

その3

作:Zyuka





 『絵画の地下室』

 七業(カルマ)の聖地、ユグドラシル・リヴァーの法王庁の地下に、そう呼ばれる部屋がある。
 その部屋の壁には、所狭しと『ある者達』の絵画が飾られている。
 古今東西、古の時代から現在の作品まで、東はジパングから西はウエストランドまで、ありとあらゆる者たちの手によって描かれた人物画の大群だ。
 製作者不明、素人画、手配書のように大量生産された絵……そういったものが主流だが、中には有名芸術家の未発表作品や歴史的資料になる物まである。
 しかし、ここは一般人立ち入り禁止。
 ここには入れるのは法王庁の認可を持った者と、ある仕事をしている者達だけだった。

 なぜなら……この絵のモデル達は、今もなお存在しているからである。

 『ヴァンパイア』。死してなお生き続ける不死者たち。七大カルマがひとつ、赤のカルマを持つ、この世の真理の冒涜者……
 それがこの地下室の絵のモデル達。
 ここは、法王庁が把握している吸血鬼達の手配書の保管室であり……また、大掛かりな『トラップ』でもある。



「ああ〜ん、いつ見てもいい女……」

 一般人立ち入り禁止のはずのこの部屋に、なぜか一人の女性がいた。
 すさまじい美貌の持ち主だ。オニキスによって作られたのではないかと思われる黒髪、真珠を溶かしても造れそうにない白い肌、芸術化が魂を込めて作り上げたとしか思えない整った顔立ち、ルビーのような赤い瞳……
 そして、そんな彼女の身体を覆うのは、また黒く美しいドレスだった。
 その彼女をモデルにしたと思われる絵がいくつか、この部屋には飾られていた。
 しかしそれらも、オリジナルには遠くおよばない。
 唯一、レオナルド・ダ・ヴィンチのサインの入った絵だけが、彼女の美貌の寸前まで迫っていた。
「ううーん……この美しさ……芸術性…………いつ見てもあきないのよねぇ……」

 カッ!! 「そこまでだ!! 吸血鬼っ!!」

 突然部屋の照明がすべて点灯し、中は真夏並みの明るさとなった。
 そして猟銃を持った神官達がどやどやと出現し、彼女を包囲する。

「あら……ご苦労様」

 彼女は、別に何もないというように、神官達に挨拶をする。
 彼女の顔を見て神官達の大半は凍りつく。ある者は彼女の美貌に圧倒されて。ある者は恐怖のために……

「エグジス・ウォン・ヴァレス…………」

 ひとりの神官が、その名をつぶやいた。



 『絵画の地下室』には、ヴァンパイア退治を生業とする者たちに情報を与えるという役目の他にもう一つ、重要な役割がある。
 それは、この部屋に入ってきたヴァンパイアを滅ぼすこと……
 ヴァンパイアは鏡に映らない。これは、ヴァンパイアの力の源である『赤のカルマ』が鏡を嫌うからだ。
 同じ赤のカルマの使い手である『ウィエドゴニャ』の場合でも、赤のカルマによって起こされた現象は鏡に映らない。
 『ウィエドゴニャ』の場合、生者であるがゆえその生命維持にカルマは必要なく、生身の体でもあるのなら鏡に姿を映すことは可能である。
 しかしヴァンパイアは、その存在自体が『赤のカルマ』によって引き起こされた “現象” である。
 永遠の命も、カルマと他人の生命力なしでは一瞬たりとももちはしない。ゆえに、鏡に姿を映そうとしても映りはしない。
 だからこそ、『絵』という手段をとるのだ。
 ヴァンパイアは絵に描かれたものでのみ、自分の姿を確認できる。
 そしてこの部屋は、ヴァンパイア達の絵の宝庫。
 自分の姿を知りたいヴァンパイア達は、何とかしてこの『絵画の地下室』へ入り込もうとする。
 そして中に入れば逃げ道はなく、武装した神官兵達に消滅させられることとなる。
 だがそれは「エルダー」以下、中級ヴァンパイアまでの話。
 「マスター」や「クリエイター」などの上級ヴァンパイアが相手の場合だと……



「す、すぐにカルマ保有者に連絡をとれ!! ……破壊神様だ!! セティ様に、ヴァンパイア・デストロイア様に!!」
 別の神官が叫ぶ。
「……あら? セティ君がここにいるの?」
 その神官の前に美しい女性が……エグジスが一瞬で移動する。
「よ、寄るな…………サウザント・レディ!!」

 ダンッ!!

 鈍い音とともに手にした猟銃が火を吹く。……だが、銀の弾丸は当たらない。
「あーあ、かわいい女の子の顔に傷がついちゃった♪」
 弾丸はエグジスの真後ろにある、真新しい手配書に命中していた。
「うん? 何これ……? 三枚の手配書がくっついているじゃない?」
 エグジスはちょっと興味があるなって顔で手配書を見る。
 そこにはハンサムな男を中心に、右に幼い美少女、左には妙齢の美女の絵がくっついている。
「名前は……ジャック……男の名前ね? ……S国の連続女性吸血事件の犯人、『リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパー』……」

 ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 サッ……フイン…………

 エグジスが動きを止めたのを見て、他の神官たちが一斉射撃を始めるが、弾丸はエグジスに届かない。
「……静かにしてよね、まったく」
 見るものが見れば、エグジスと神官たちの間に赤い壁が見えたであろう。
「ふむふむ……思い出した。この子、女の子に対する『マトリクス・イータ』を完成させるとか息巻いてた子ね」
 くすくす笑いながら、エグジスはその手配書をはがした。「……暇つぶしにはなりそうね。……少なくとも、あなた達以上に」

 ……数秒後、その部屋に動く者はいなかった……




「にゃにゃ〜の猫ちゃんに〜♪ ワンワンの犬ちゃんに〜♪ きっき〜の猿ちゃ〜ん♪」
「何の歌なんだ、ジャック?」
「あ、生前から覚えてる子守唄だ」
「そうか……」
 人気のない夜の街道を、一人の男と一人の少女が歩いている。
 男のほうはアラン。女のほう……本当はこっちも男なんだが……はジャック。
 二人は吸血鬼。この世にあらざる者だ。
「男の声で歌うとまったく気持ち悪いんだが、女の声ならぴったし。う〜ん、気持ちいねぇ……」
「女のマトリクスばっか集めてないで、蝙蝠とか狼とかの形態も手に入れろよ! こっちは徒歩しか出来ないお前に合わせて、わざわざ歩いているんだからなっ!」
「あのなあ、そんなの体に入れたら完成度が低くなるだろ? ……俺の女性変化はパーフェクトじゃないとなっ」
「……ジャック、お前ってやつは……。ところでいいのか? そろそろ恒例行事が来るぞ」
「あ、もうそんな時間か?」

 ブワッ!!

 ジャックの体から赤い霧が吹き出る。その霧が消えたとき、そこには端正な顔立ちの男が立っていた。
「彼女、今度はどんな芸当を見せてくれるんだろうな?」
「そうだな」

「見つけたわよ!! リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパー!!」

 そんな叫び声と共に、一人の女性が街道にあらわれる。
「やあリムリー! 相変わらず元気そうだね」「そんなに明るく挨拶しないで!! ……今日こそジェーンの仇を取ってやる!!」
 リムリー……S国の特殊警察官。
 紫のカルマを持つライカンスロープの彼女は、満月の夜に狼に変身するという特殊能力を持つ。
 だが、今夜は満月ではない。
「……てなわけで今日はバズーカ砲を持ってきたわよ!!」

 ズシャ!!

 どう見てもか弱い女性にしか見えないリムリーが、とんでもない大きさのバズーカ砲を軽々持ち上げる。
 ライカンスロープは変身していなくても、身体能力は人並み以上なのだ。
「フフフ……これでコナゴナにしてあげるわ」
「相変わらずだね、君は……」
 アランとジャックは、あきれたようにリムリーとバズーカ砲を見つめる。
「そんなこと言っていられるのも今のうちよ! 食らいなさい……ファイヤ!!」

 バシュウン!!

 巨大な音とともに、バズーカ砲からロケット弾が発射される。

 シャアァァァァッ、……ドウン!!

 地面に大きなクレーターができあがる。
「……!!」
 だが、アランとジャックは着弾する寸前に、赤い霧と化してそれをかわした。
「……逃がさない!!」
 リムリーは次弾をバズーカ砲に詰め込む。
「まったく……たいした女性だよきみは」「そんなもの、僕達には通用しないよ……」
「そんなの、やってみなくちゃわからないでしょ!!」

 バシュウン!!

 二発目のロケット弾が発射される。
「……ハッハッハッ! 僕を倒したいなら、デストロイアをもう一回つれてくるんだね」
「おいジャックっ! あんなのにもう一回こられたら、今度こそ俺たち命はないぞ!!」
「すでに死んでる存在のくせに何を言う」
 三発目発射!! …………と……あたり一面が真っ暗になった。
「え……?」
 夜といっても今日は星がきらめき、半月が明るくあたりを照らしていたはずである。それが突然真っ暗になるとは……?



「エグジス・ウォン・ヴァレス……? ……やつが……?」
「はい、間違いございません。生き残った者たちの証言からすれば……」

 『絵画の地下室』に控えていた神官兵30名のうち、24名が絶命していた。
 残り6名の中で3名が意識不明、2名が錯乱状態……
 最後の一人が、かろうじて発言できた。
「エグジス・ウォン・ヴァレス。あなた様もご存知でしょう、あのサウザント・レディ……“千年の女” を」
「ああ、何度かあったことがあるよ。……そのたびに逃げられている」
 少年は、その部屋に飾られているサウザント・レディ……エグジスの絵画を見る。
「エグジス・ウォン・ヴァレス……かの悪魔皇『ドラクル』の娘……千年の時を生き、なお存在し続ける最高位のヴァンパイア……『サウザント・レディ』という異名の他に、すべての世紀を生きし者の意『オール・センチュリー』、または単にドラクルの娘という意味を持つ『ドラキュラ・ガール』という異名を持つ……」
「それくらいは知っているよ」
「彼女は人にあらざる長い時を生きたもの。……ゆえに、常人では考えられない行動をとるときがあります。我ら法王庁でも彼女を何とかして捕らえようとしているんですが……」
「……そのたびに犠牲者が増えているってわけか」
「恥ずかしながら……」
 そこまで聞いた少年は、壁のある一か所に手を当てる。
「ここにあったのは、どいつの絵だ?」
 壁一面に掲げてあるヴァンパイアたちの絵……少年が手を当てたそこは、なぜかぽっかりあいていた。
「そこは、先日あなた様が逃したヴァンパイアの絵が張ってあったのですが……」
「逃した……?」
 少年は、ふと考え込む。「ああ、あの廃屋からねずみになって逃げた連中か。確かリムリーが追っていたな」
「はい。何でも女に変身する能力を持った男のヴァンパイアだという話です」
「ふうん。ま、そこには興味はない。……いや、エグジスはそこに興味を持ったのかもな」
「と、いいますと?」
「千年以上生きるのに必要な物ってわかるか? それがエグジスの行動理由さ」
「……それはなんです?」
「刺激……悪い言い方をすれば、『暇つぶし』ってことになる」
「暇つぶし?」
「ヴァンパイアになったばかりだと、まず力をつけ生き残ろうとあがく。力弱き死者は生者にあっさり敗れてしまう。少し力をつけると、不死者となった自分を楽しむようになる。そして、自分の子……つまり、自分の血を飲ませた新たなヴァンパイアを作り始める……そして新たなヴァンパイア種族のマスターとなる。
 それが『クリエイター』……人間として生まれた時点で赤きカルマを持つウイエドゴニャ以外の、ヴァンパイアの行動だ」
「我らは、それを防ぐために行動しています」
「だが……それをすべて終えてしまったものは……新たな種族のマスターとなり、神話の神にも匹敵する力をつけたものはどうなるか……自ら設定した目標をすべて達成したヴァンパイアはどうするのか……?
 ……ほとんどが、そうなる前に俺たちクルースニックに滅ぼされるけどな」
「それで、どうされるつもりなのですか……」
 神官長……この法王庁内でも、法王や大神官に次ぐ地位を持つ男は、目の前の少年を見ながらつぶやくように問うた。
「……セティ様?」




「な、何……?」

 リムリーは困惑した。
 一瞬にして暗闇があたりを覆った理由。……それはすぐにわかった。
 『龍』だ。
 巨大なドラゴンが上空にいる。その影に自分達が包まれたのだ。
「なんだあれ……?」「さあ……」
 二人のヴァンパイアにも、それが何なのかわからなかった。
 すると……

「見いつけた!」

 という、かわいらしいがとてつもなくでかい声が上空から降ってきた。そして、龍の影が消える。
「やっほぅジャック〜久しぶりっ!!」
「え……エグジス嬢!?」
 そこに現れたのは黒いドレスに身を包んだ美しいヴァンパイア・レディ、エグジス・ウォン・ヴァレスであった。
「な……な、なんですって!? エグジス!? 何でそんな残虐ヴァンパイアがこんなところにくるのよ!?」
「アーラ、失礼ね!」
 エグジスはトコトコとリムリーに近づく。
「誰が残虐ヴァンパイアなのよ?」
「……って、知ってんだからねっ! エグジスって言ったら、一人の少女の血を飲むために一つの町を炎の渦に放りこんだり、王子の血が飲みたいとか言って戦争を起こしたりとか!!」
「そんなの私のやったことの百分の一にも過ぎないわよ……あなた、瞳が紫色ね。……ということはライカンスロープなのかしら?」
「そうだけど?」
「じゃ、興味はないわ。ライカンスロープなら昔、リュオン君で散々遊んだし」
「!! ……お兄ちゃんを知っているの!?」
「へえ……なんだ、リュオン君の妹なの? そうなの……まあ、今は関係ないか」
 そう言い捨てて、エグジスはジャックに向き直る。
「エグジス嬢、なぜここに?」
 ジャックとアランは、エグジスとはそれほど交流はない。
 エグジスは千年というとんでもない時を生きる者。比べてジャックもアランも生きてきたのはたかだか二百年前後だ。
「ん? あなたに用があってきたのよ」
 エグジスはにっこりと笑う。
「ねえジャック……あなた、女の子のマトリクス・イータを完成させたそうね……」
「え……? あ、はい……」
「見せてくれない?」
「え……?」
 ジャックは自分の欲望のためにそれを完成させた。しかしそれが、こんな超上級ヴァンパイアの気を引くなんて、予想外のことだった。
「だってさあ、女の子に変身するヴァンパイアって面白そうじゃない!」
「お、おもしろそう……? それだったらアランのねずみ耳妊婦のほうが面白いと思うけど……」
「ジャック! それを言うな!!」
 2話のラストのいやな思い出を忘れるため、叫び声を上げるアラン。
「あのね、漫才なんてもう飽きてるの。……見たいのはTSよ」
「ちょっと、私を無視しない!!」

 バシュウン!!

 本日四発目のロケット弾! と……

 パシッ…… 「ええっ!?」

 あろうことか、エグジスは飛んできたロケット弾を軽くつかんでしまう。
「……静かにしてよね、ライカンスロープ……」
 エグジスが冷たい笑みを浮かべてリムリーを見る。
「ひ……っ」

 ポイッ……

 軽く投げられたロケット弾は、リムリーの足元で爆発する!! 「……きゃあぁっ!!」

 ドウン!!

 吹き飛ぶリムリー……服は少々こげているが、体は傷一つない。
 だが、このまま地面に激突すれば大怪我はまぬがれない!!

 ガシィ!!「……!?」

 リムリーは上空で、何者かに助けられた。「……セ、セティ様!?」
「大丈夫か、リムリー?」
 背中から美しい純白の翼を出し、少女を助けた破壊神…………ヴァンパイア・デストロイア、参上!!
「あら、セティ君」
「久しぶりだな……エグジス」
 ゆっくりと地上に降り立つセティ。
「久しぶりって……半年前に会わなかったかしら? あなたが一万人もの私の子達を滅ぼしたときに」
「生あるものには、半年って結構長いんだぞ」
「そういうものかしら?」
 にらみあうヴァンパイア・デストロイアとサウザント・レディ……
「まったく……お前、いつまで現世にしがみつくつもりなんだ?」
「ふふ……飽きるまで、かしらね……」
「……だったら今すぐにでも飽きてもらおう」

 ヴィン!!

 セティの右手に、白きカルマで作られた一振りの剣が現れる。
「やあよ。だってこれからTSヴァンパイアで遊ぶんだもん」
「あの、エグジス嬢……?」
 “遊ぶ” という言葉に、ちょっとだけ危険を感じたジャックがつぶやく。
 エグジスの言う遊び、いわゆる「暇つぶし」がどんなものかは、少々のうわさを聞いている。
 頑健で知られた狼男……ライカンスロープ界でも1、2を争う力を持つリュオン・トゥウルーン(リムリーのお兄さん)が、三ヶ月間エグジスの暇つぶしに無理やりつき合わされ、以降一年間まったくの再起不能になっていた……そんな話がいくつもある。
「問答無用……いくぞ!!」
 剣を振るうセティ。
「だからあなたと遊んでる暇なんてないのよ……わからないかしら?」
 セティの剣をよけると、エグジスも似たような剣を自分の手の中に出現させる。

 キィン!!

 二つの剣が交わった時、澄んだ音があたりに響く。
「まったく……あなたとの闘いはいつも命がけなんだよね…………逃げちゃおうかな……」
「…………逃げられると思うか!!」
 剣が輝き、あたりに破壊の力を撒き散らす!!
「いいっ! とっとっと……」「うわっと……!」
 ほんの少し触れただけでも吸血鬼は致命傷になる光。……この闘いは、静かに傍観することすら許されないのだ。
「広範囲破壊技……さすがに戦いなれてるわね、あなた」
 至近距離から放たれたにもかかわらず、無傷でその光をかわしたエグジス。
 ただ、盾代わりに使われたエグジスの剣はボロボロになっている。
「本当にやばいわね。クリエイターすらも倒せる破壊神なんかと戦うのは……」
 エグジスはチラッとジャックを見る。
 彼女一人なら、セティと戦っても大丈夫だろう。
 セティはたとえ女といえどもヴァンパイアには容赦しない。必殺技はボカスカ使ってくるし、隙を見せたら超必殺技も使う。
 普通、超必殺技を使うにはゲージを満タンにする必要があるが、彼はいつでも満タン状態だ。

 ……って、これは格闘ゲームかいっ!!

「仕方ないな……あれ使うとカルマを大量に消費するんだけどね……」
「ドラゴン変化か? 言っとくが、あんなの役に立たないぞ」
「あら、聞いてたの?」
 こんな状況下でも会話ができる二人。さすがというか、なんと言うか……
「ドラゴン変化は超高速移動の最たる物だけどね。あなたは空も飛べるし、的が大きいと巨大な力を持つ技をボカスカ使ってきそうだし……今回はやめとく。
 今夜使う逃げ技は……これよ!!」

 タンッ……

 エグジスは一歩後退する……といっても、様々な飛び道具系必殺技を持つセティ相手に、1、2メートル離れただけじゃすぐやられてしまう。
 彼女の一歩は、実に50メートル近くあった。
「食らいなさい…………ダンシング・グール・フィーバー!!」

 シュッ!!

 エグジスの右手が、地面に入り込む。
「!!」

 ボコッ……ボコッ……ボコッ……ボコッ…………

 地面が盛り上がり、いくつもの “人間” が現れる。
 それらは生きた人間ではない。……ヴァンパイアでもない。
「グール!!」
「なにそれっ!?」
「死者……完全なる死者に赤きカルマを与えてできるモンスターだ」
「赤いカルマを持った死者って、ヴァンパイアじゃ?」
「違うわよ。ヴァンパイアは生きている間に赤のカルマをもらわないといけないの。死んじゃってから赤のカルマを与えられると、魂も知能も……理性さえない食人鬼、グールになるの」
 しかし、本来のグールはゾンビみたいな物だ。知性も何もないため、体が崩れて気持ち悪い存在である。
 なのに……このグール達はきちんと整えられており、服まで着込んでいる……
「だがグールは……ヴァンパイア以上に弱いぞ!!」
 セティがそう言うと同時に、出現したグールの何体かが崩れ落ちる。
「クロノス・ブレイク!!」
 余波が過去に現れる上級技、時空爆裂 “クロノス・ブレイク” が炸裂し、グール達をなぎ払う。だが……
「何これ……? どんどん出てくるよ!!」
「!!」
「……フィーバーだもん!」
 エグジスがそう言う間にも、グールが出現しまくる。
「セ、セティ様!! どうしよう!!」
「安心しろ。グールは太陽が昇れば滅びる。こいつらに地中に逃れる知能はない!!」
 セティは鋭い剣さばきで多数のグールを切り裂き、まっすぐエグジスを目指す!!
「覚悟っ!!」

 ズシャッ!! 「やった……」

 セティのカルマソードがエグジスの喉を切り裂く…………が!!
「これは……グール!?」
 いつの間にか、エグジスは彼女そっくりのグールにすりかわっていた。
「くすくす……どれが本物かわかるかしら?」
 その声と同時に、二人の周囲にエグジスそっくりのグール集団が……
「おのれ妖怪……」
「なんかハーレムみたいだね……」
 グールを形作っているのは人間の死体……大体骸骨達だ。中には男性だった物もあるだろう。
 気味が悪いが、これも……
「そんなこと言ってる場合か!!」

 チュウウウウウウン!!

 業を煮やしたセティは、無差別に白熱カルマ球を打ちまくる。
「わわ……ち、ちょっと、セティ様!! 私にも当たっちゃうよ!!」
 リムリーは必死になってセティの攻撃をかわし……気づいた。
「あっ、リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパーがいない!!」「……何っ!!」
 セティは周囲を見渡す。確かにまわりにいるのはエグジスにそっくりなグール達だけで、ジャックもアランもいない!!
「ちっ……逃げられたか!!」

 ブワッ!!

 セティの背に翼が出現する。「つかまれ、リムリー!!」
「は、はい……」

 シュウ――――ンッ!

 あっという間に二人は上空20メートルあたりまで舞い上がった。
「ほっといていいの? あれを……?」
 眼下には、多量のグールがひしめいている。
「太陽が昇ればすべて消滅する。それまでほおっておけばいい」
「そう……」
「また逃がしてしまったな……やつを……」
 セティは残念そうに、そうつぶやいた。



「さあ、デストロイアからも逃げ切ったことだし、早速TSキャラで遊んでみましょうか!!」
「あ、あの……エグジス嬢……」
「何、ジャックちゃん?」
「遊ぶって、何やるんですか?」
「うんとね……」
 千年女性の膨大な知識から選ばれる“遊び”の内容は、二百歳前後の男には理解できない物だった……
「哀れだな……ジャック……」
 こうなった以上、アランはジャックの平穏を願うしかなかった。




「そういえばセティ様……タイミングよく助けてくださいましたけど、どうして……?」
「うん? ああ、お前に仕掛けられている発信機の信号を追ってきたんだ」
「発信機!?」
「リュオンがお前を心配してつけたそうだ」
「…………お兄ちゃん……今度あったらただじゃすまないわよ……」


★☆★了★☆★






あとがき

 にゃ〜、久しぶりのヴァンパイアだにゃ……

「その割にはコメディ色が強いな、これ……」

 やあ、セティ君、飛車渋り……

「飛車渋り……? 久しぶりといいたいのか?」

 うん、そう……

「……もういい。お前には付き合わん」

 じゃあ、皆さん、ごきげんよう……

「終わるのかよ……」

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