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メタモル・ヴァンパイア

その2

作:Zyuka





「ヴァンパイアどもっ!! そこを動くなぁ!!」

 館の扉が一斉に開けられる。
 音楽がやみ、ダンスが止まる。

 ズラズラズラッ――!!!!!!!!

 外から入って来たのは神父やシスター……いわゆる教会関係者と思われる者達。それと一部、軍服姿の者もいる。
 彼らには影がある。すなわち、生きた人間……

「…………?」
「おい、なんだこいつら?」
「生きた、人間……?」
「何々?」

 死んでいる人間――すなわちヴァンパイア達がざわめきだす。

「おい、誰か芸人を呼んだのか?」
「いや、ごちそう……じゃないかな?」

 一人の男性ヴァンパイアが、好みのシスターを見つけて涎を垂らす……

「なんなんだ?」
「…………おかしな連中……」
 共にダンスを踊っていたアランと美少女姿のジャックも、突然の闖入者に目を向ける。
「教会関係者、みたいだな……」
「俺達に十字架が効くって信じている、おめでたい連中か……」
 ちなみに「ヴァンパイアに十字架が効く」というのは、全く、完全無欠、パーフェクトの迷信である。
 いや、キリスト教を信じ込んでいるヴァンパイアには効果があるかもしれないが、あいにくこの場にキリスト教徒のヴァンパイアはいなかった。
「何者ですか? あなた方は?」
 その場に居たヴァンパイア達を代表して、一人のマスターヴァンパイアが闖入者達の前に進み出る。
「今、我々は宴の真っ最中……本来なら、あなた方のような無礼者は許すことはないのですが、今宵は無礼講。非を詫びて帰るというのなら手は出しません」
「……お前達死者に、生者を許す権利はない」
 マスターヴァンパイアの言葉を遮り、1人の少年が闖入者達の中から進み出る。
「あなたは?」
 17、8才位だろうか? 闖入者達の中では一番若そうだ。それにつけても……
「美少年……」
 そう、その少年はまごうことなき美少年。均整のとれた肉体、美しく整った顔立ち。その顔を彩る長い金髪、灰色の強く輝く瞳――

 ほう…………

 女性のヴァンパイア達から(一部男性からも)、ため息が漏れる。
 その少年の美は、人外の美しさを持つヴァンパイア達から見ても、完成され、超えられない物に思えた。
 まるで、天使や、神のような……

 …………

 …………神?

 …………

 ま、まさか…………っ!?

「あなたは、もしや…………かみ――!?」
「その通りっ」

 少年の口から嘲笑が漏れる。「……俺は破壊神――ヴァンパイア・デストロイア様だっ!!」

 シュンッ――!!

 いつの間にか少年の手に握られていた剣が、マスターヴァンパイアを切り裂く!!
 五段階あるヴァンパイアの位階の中で、二番目の力を持つ「マスター」を――である。



 ヴァンパイアには、生まれて間もない『ニューポーン』――
 ヴァンパイアになってある程度がすぎた『ピープル』――
 百年以上の年月を生きた『エルダー』――
 エルダーの中でも一つの種族をまとめるまでの力を持った『マスター』――
 ……そして、人として生まれたときから赤きカルマを持ち、死してヴァンパイアの王となる『クリエイター』の五つの段階がある。
 ちなみにあの有名なドラキュラ伯爵はマスターで、その父、悪魔皇ドラクルはクリエイターに当たる。

 ……豆知識終わり。



「きゃああああぁっ!!」
「うわああああぁっ!!」
 そんなマスターが一撃で破壊されたのである。まだ若い、ニューポーンやピープル達に混乱が起こる!!

「全てのヴァンパイアを破壊しろ!!」
 破壊神が叫ぶっ!!
 その叫びに応え……教会関係者達が一斉に機関銃を取り出し、発砲するっ!!
 機関銃を乱射する神父やシスター……なんか危ない連中じゃなかろうか…………?
 しかも、彼らはそれが「正義」と信じているのだから始末に負えない。

「おわぁ!!」「ぎゃぁぁ!!」

 機関銃の弾が当たったヴァンパイア達が、苦しみだす。
「こ、これは……カルマ弾か!?」
「その通り」
 破壊神たる少年が、苦しみ始めたヴァンパイア達を見ながら冷淡に笑う。
「俺が持つ『白きカルマ』の力を込めた弾さ。白きカルマは多色のカルマを破壊する……赤きカルマでかりそめの命を保っているお前達には耐えられないだろう」
「くっ……」
 破壊神の言う通りだった。
 力弱きニューポーン達の中には、一発のカルマ弾だけで致命傷を負った者までいる。



「おいっ! 『致命傷』ってなんだっ? ヴァンパイアは『死んで』るんだから、致命傷といえないんじゃないのか!?」

 いちいちナレーションにつっこむなよ、はー君……

「勝手にニックネームをつけるな」

 いや、まだあとがきじゃないんだから……話を先に進めるぞ!!



 ニューポーンやピープルがどんどん倒されている中で、エルダー以上の力を持つ者達はまだ無事であった。
 もちろん、アランとジャックもである。
「お……おい、どうする?」
 アランは、側にいる美少女姿のジャックを守りながら言う。と……

 ブワァッ――

 ジャックはマトリクス・イータによる変身を解き、元の姿である男の姿に戻った。
「一気に守る気が失せるな……」「あ、ちょっと傷ついたぞ」
 二人は軽口を叩きながらも、機関銃の弾をよけるのを忘れない。
 いくら彼らがエルダーだといっても、カルマ弾を食らえば大ダメージは避けられない。
「しっかし、ほんと〜にデストロイアが来るとはなぁ。事実は小説より希なり――って、これ小説だよな……」
「何馬鹿なことを言っているんだジャック!! こうなったら蝙蝠にでも変身して逃げるんだ!!」
「……いや、それはできない」
「何で!?」
 ヴァンパイアにとって、蝙蝠変化など簡単なはずだ。
 なぜならヴァンパイアと蝙蝠は相性がいいらしく、一滴でも血を飲めばその形態を取り込むことができるからである。

「だって俺、蝙蝠の血飲んだことないもん」
「はあ?」
「イヤー、女の子のマトリクス・イータを完成させるために女性の血しか飲んでなかったからな。……こんな事になるんだったら、ずっと前エグジス嬢に進められたとき飲んでおくんだった」
「こぉの馬鹿ぁ…………」
 アランは一瞬、ジャックをほっぽりだして、自分だけ蝙蝠に変身して逃げようかと思った。
 しかし彼は紳士である。同性とは言え、自分のダンスパートナーを見捨てて逃げる事なんてできない。

『キキーッ!!』

 二人がごちゃごちゃやっている間に、同じ事を考えた数名のヴァンパイアが蝙蝠に変身して宙を舞う。
 ……だが!!

「逃がすと思うか……?」

 ブワァ――!!

 破壊神の背中から、真っ白な翼が現れる。
 持ち前の美しさも併せ持ち、その姿は完全なる神…………

 とんっ……

 軽い音共に、美しき神が宙を飛ぶ。
 そして、一瞬にして蝙蝠と化した者達の遙か上を取る……!!

 ズンッ――!!『キイイイイ……ッ!!??』

 館の床に大穴があき、蝙蝠と化した者達が地に落ちる。破壊神は何もしていない……?
「……これからするのさ」
 破壊神は手を天に掲げ、力を集中させる。
「クロノス・ブレイク!!」

 ズドドドドン――ッ!!

 破壊神の手から放たれた白きカルマが、巨大な破壊の力となりあたりを破壊する!!
 その力は凄まじく、攻撃した対象の『過去』にまで影響を与える……そう、「クロノス・ブレイク」を打つ前に空いた大穴も、落ちた蝙蝠達も、みなクロノス・ブレイクの『余波』にやられたのだ。

「……しゃ、シャレにならん」

 考えてみれば、赤きカルマを持つヴァンパイアが空を飛べるのだ。同じカルマ保有者であるデストロイアが飛べないなんて理由はない。
 それに、ヴァンパイアはカルマの大半を『生命維持』に使っているのだ。生者であるため、カルマで生命を維持する必要のない破壊神に、勝てるわけがない……
「も、もう駄目だ……おれたちはここで死ぬんだ……」
 生き(?)残った少数のヴァンパイア達が、絶望的なうなり声を上げる。
「いや、お前達は『死ぬ』んじゃない。『破壊』されるのさ……」
 もはや破壊神は、圧倒的な立場にいる……



「…………!!」
 アランはふと、あるものに気付いた。
 それはクロノス・ブレイクの影響で、壁に空いた小さな穴……
「おいジャック……」「なんだ、アラン」
 さすがのジャックも破壊神のすさまじい力に圧倒されて、腰が引けている。
「さっきの美女になってくれ」
「は……?」
「いいからさっさとしてくれ。俺は男にキスする趣味はないんだ」
「……?」
 赤い光が全身を包み、ジャックは妙齢の美女に姿を変える。と……

「あ――――――――っ!! ジェーン!!」

 破壊神と共に館に入ってきた人間達の一人……教会関係者ではなく、軍服を着た女が叫んだ。
「アレって、S国の警察機構の服……」
 美女姿のジャックが言う。
「知り合いか?」
「いやー、彼らには世話になったからな」
 軍服姿の女性は、ジャックを見つめなからつぶやく。
「いいえ、ジェーンは死んだ……じゃあ、あいつは『リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパー』!!」
 女性の目には、怨念の炎が宿る。
「セティ、屋根を破壊してっ!!」

 セティ?

「……分かったよ」
 破壊神の少年は手を上空に掲げ、力を集中させた。

 ドンッ――!!

 あっさりと、屋根は消えて無くなった。



 そういえば破壊神君の名前はまだ出てなかったな。……彼の名前は「セティ」という。

「それは略名。本名は総勢十四文字、今ここで教える気はない」

 どうも。



「…………」
 破れた屋根から、まん丸な満月が見える。軍服女性は、それを紫色の瞳で見た……
「……紫!?」
 と……彼女の身体から、紫色の光があふれだし――

「あ、あの子……あれもカルマ保有者じゃないか?」
 別のヴァンパイアが緊張した口調で言う。
「ああ、しかも紫……」



 カルマとは、「業」と書く。
 神話の時代、世界創造の大樹、『ユグドラシル(世界樹)』が、もう一つの世界創造の主『太陽』に出会う前に生み出した七つの木の実がその起源といわれている。
 そのためカルマは全て一様に、太陽の光に弱い。
 「七つ」とはすなわち、白、赤、青、黄、緑、紫、黒。
 白は破壊の色『クルースニック』――
 赤は不死の色『ウィエドゴニャ』――
 青は精霊の色『エレメンタラー』――
 黄は魔力の色『ウィザード』――
 緑は樹木の色『エルフ』――
 紫は獣の色『ライカンスロープ』――
 黒は夢の色『ナイトメア』――
 それぞれがすさまじい力と、様々な特殊能力を持つ。
 ちなみに赤が『ヴァンパイア』ではなく、『ウイエドゴニャ』となっているのは、『ヴァンパイア』は赤きカルマを持つ『死者』の名であり、『ウイエドゴニャ』は赤きカルマを持つ『生者』の名だからである。

 ……説明終わり。



 そして今、軍服女の持つカルマの色は『紫』、獣の色『ライカンスロープ』。
 そう、狼男! ……じゃなくて、狼女!!
「思い出した。あいつ、S国の特殊警察所属の狼女……リムリー!!」
『そうよ!! あなたに殺された多くの女性達……そしてジェーンの仇、討たしてもらうわ!!』
 紫色の巨狼と化したリムリーが迫る。
 彼女の親友ジェーンもまた、特殊警察だった。だからこそ、不純物が含まれていなかったのだ。
「ちぃ、グズグズしてられないか!!」
 危険を感じ取ったアランは、ジャックを抱き寄せその唇を奪う。
「……?」

 ごく……

 アランの口から、ある「形態」がジャックの中にはいる。
「それを使え!! いくぞ!!」
 ジャックから唇をはずし、アランもジャックに与えた物と同じ形態を使う。

(逃げられるか……あのデストロイアから?)

 一瞬の疑惑が胸をよぎるが、今は迷っている場合ではない。
「お前らも生き残りたかったから、俺達と同じことをしろ!!」
 生き残りのヴァンパイア達にそう叫び、アランとジャックは赤い光に包まれる。
「……何をする気だ!!」
 破壊神――セティが猛スピードで急降下してくる。
『逃がさないわよ、リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパー!!』
 リムルーも迫る。と……

『き――きゃゃゃゃあああああああぁっ!!』

 巨狼が情けない叫び声を上げて暴れだした。
「あ、おいこら!!」
 セティも彼女が邪魔で動きを止めてしまう。
『ね、ね、ねずみいいいいいいいいっ!!』
 そう、アランとジャックが使った形態は鼠だったのだ。
 これなら、壁に空いた小さな穴からでも逃げられるっ!!
 それに、リムリーが鼠嫌いだったとは思わぬ誤算だった……
「ええぃ、お前は某猫型ロボットか!!」

 ……あのねセティ君、確かにあの猫型ロボットは鼠嫌いの第一人者だけど――

 チチチ――!!

 アラン鼠とジャック鼠は、その隙をついて壁の穴から逃げ出す。
 それを見て、他の生き残りヴァンパイア達も一斉に鼠に変身し始める。
「逃がすかっ!!」
 セティは剣を取り出し、元のカルマに戻す。
 そう、彼の剣はカルマでできた結晶剣だったのだ。

 すぅ――

 カルマ結晶を身体に戻すと、それを一気に白き翼にそそぎ込む。
「奥義……ウィング・ワールド」

 ぶっ…………わぁ……っ!!

 翼が爆発したように拡散し、セティを中心に広がる。
 それはまるで、光でできた地球。

「ぐおおおお……っ」「ぎぃやぁ……っ」「どおおおおぉ…………っ」

 光の翼に飲み込まれたヴァンパイア達は、もはや何も抵抗できなくなり滅びる。
 リムリーもその変身の元である紫のカルマを破壊され、元の姿にもどる。
「ちぃっ、二匹逃したか」
 セティはその場に立ちつくす。
 「ウィング・ワールド」を使った後は、しばらくカルマは使えない。あれは、切り札的な技なのだ。
「ご、ごめん、セティ……わ、私のせいで……」
 元に戻ったリムリーが謝罪する。
「君のせいじゃないさ。俺の詰めが甘かったせいだ」
 セティは手にもう一度力を集める。

 ぽぉ……

 その手がかすかに光る。
「破壊神様」
 神父姿の老人が、破壊神の側まで歩いてくる。
「逃した二匹の死人の顔、覚えたか?」
「はい」
「では法王庁に連絡。早急に似顔絵を描き、全都市に指名手配をしろ」
「は……」
 法王庁に使える高司祭は、破壊神たる少年に、深々と頭を下げた。
「あなた様は、これよりどうなされますか?」
「今回破壊したヴァンパイアの中にクリエイターはいなかった。……だが、あれだけのヴァンパイアがいたんだ。おそらく、この近くにクリエイターがいるんだろう。
 ……そいつを、探す」
「そうですか……」
 そしてまた、一万ものヴァンパイアがこの世から消える。
 クリエイターの破壊は、一種族の滅亡を意味しているのだから……
「私は、奴らを追うわ……奴、『リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパー』は……逃さない」

 リムリー、頼むから銭○幸一警部のようなキャラにはならないでくれよ…………



 狂乱の館より数キロメートルの森の中……二匹の鼠が疾走していく。
「ここまで……逃げれば…………大丈夫じゃないか?」
 一匹の鼠が赤い光に包まれ、一人の男――ジャックの姿になる。
「……そろそろ夜が明ける……早いとこ地下に潜らないと太陽の光でおだぶつになるぜ、アラン」
 ジャックは足下の鼠――アランに声をかける。
「……アラン」
『ほっといてくれ……』
 アラン鼠は、小さな、小さな声を出す。
「俺はお前と違って、一度変身すると数時間は元に戻れないんだ」
「あ、そうなんだ……」
 ジャックはアラン鼠持ち上げる。
「ま、このまま地下に潜るとするか」
 ……と、その時、ジャックの頭にある悪戯が浮かんだ。
 赤い光が彼を包み……美女の、ジェーンの姿になる。
「な、何をする気だ?」
「う〜んアラ〜ン、さっきは鼠の形態をありがと。お礼に俺の形態を一つやるよ」
「……?」
 美女姿のジャックは、鼠アランの口に自分の唇を当てた。
 ジャックからアランに、一つの形態が渡される。



「お、おい、ジャック……」
「あははははは」
 ジャックは笑っている。アランは怒っている。
「なんだこの形態は」
「ああ、S国で手に入れた女の形態だ。ちょっと不純物を含んでいるんで、捨てようと思っていたんだ」
「そんなものを人に渡すな!!」
 ちなみに、今のアランの姿は……お腹の中に、大きな不純物を含んだ妙齢の女性の姿だった。
 言い方が悪かったかもしれない。つまり、その形態は妊娠していたのだ。しかも産み月間近――

「し、しかしそれは……ぎゃはははははははは!!」

 更に、その前の鼠の形態がまだ残っている。
 つまり、妊娠してる女性の姿に鼠の耳と尻尾がついた…………



 もうすぐ、夜が明ける。長い夜がもうすぐ終わる……

(了)






あとがき

「おい」
 …………
「おいっ!!」
 …………
「おおいぃっ!!」
 はっ、なんだセティか……
「なんだじゃないっ!! お前、俺の名前は出さないんじゃなかったのか!?」
 ふっ……人は変わる者よ……
 もういっこのTSヴァンパイアストーリー、『幽霊屋敷のお姉ちゃん』(副題:偏食吸血鬼)を書こうと思って、『メタモルヴァンパイア』の続編を書いてしまったものな……
「そんなことはきいとらん!! 第一、今回は本編でさえコメディをやりやがったな」
 いいじゃないか……名前のついているキャラはそのうち暴走する。これは俺の小説の特徴なんだから……
「そんなもの、特徴にするな!!」
 ちなみに君はその筆頭。
「…………!!」
 あ、黙っちゃった。
「…………もういい、しめろ!!」
 はいはい。では、Zyukaでした!!

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