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メタモル・ヴァンパイア

作:Zyuka





 その広い部屋には、四十から五十人の者たちがいた。
 わずかなろうそくの明かりしかないが、なぜかその姿ははっきりと見えた。
 なぜなら、彼らには「影」がないからだ。

 彼らは人間ではない。彼らは、死者……吸血鬼、ヴァンパイアなのだ。


「よお! 久しぶりだな!」「全然お変わりありませんね。まあ、当たり前でしょうけど……ホホホ」
 集まっていた人達はそれぞれに挨拶を交わす。男もいれば女もいる。それぞれが若々しい姿を保っているが、実年齢はいかほどなのか……?
 勇気がある者は聞いてみてほしい。だが、その時は彼らの眷属になるか、死か、二つにひとつしかないだろうが。


「やっほー!!」
 と、入り口の扉が開かれ、ひとりの少女が飛び込んできた。
 影がないところを見ると、彼女もヴァンパイアなのだろう。
「うーん……あ、いた、いた!!」
 彼女は部屋に集まった者達の顔を順繰りに見渡し、ひとりのヴァンパイアを見つける。
「アラン!! 久しぶりだなぁ!!」「……は?」
 アランと呼ばれたヴァンパイアは、少女の顔を見て首を傾げる。「……失礼ですがレディ、どこかでお会いしましたか? 私は今宵二百になりますが、一度見た女性は忘れないはずなんですが……」
「ククク……なぁにいってんだよアラン!! 俺だよ俺! ジャック様だよ!!」
「はぁ!?」
 アランは先ほどまでの紳士風のいい方から一転、素っ頓狂な声を上げる。
「じょ、冗談だろ? ジャックだって? ジャックは男だぞ!!」
「そうだよ」

 ぶわっ!!

 少女の身体から、突如赤い霧がわき出る。
 霧が晴れたとき、そこにはもう少女はいなかった。代わりに、落ち着いた感じの若い男が現れる。
「……ジャック、これはなんの冗談だ?」
「なぁに、ちょっとした余興さ。『マトリクス・イータ』が完成したんでね」
「マトリクス・イータ……?」
 形態食い……吸血鬼に詳しくない人間には聞き慣れない言葉かもしれないが、つまりはヴァンパイアの変身方法である。
 ヴァンパイアは、蝙蝠や狼に変身することができる。しかしこれはヴァンパイアになったばかりの者、いわゆるニューボーン(新生者)と呼ばれる者には不可能な特技なのだ。
 新生者にできることは、霧に変身できることくらい。これはヴァンパイアの力の源「赤きカルマ」によって自らの身体を分解することだからだ。
 では、蝙蝠や狼に変身するにはどうするか……それには吸血鬼が、吸血鬼たる方法を取る必要がある。

 そう、“吸血”。

 変身したい生物の血を自らに取り込む事によって、その生物の形態を自分の物にする。それが、「マトリクス・イータ」……形態食いなのだ。
 ちなみに、かの高名なるドラキュラ伯爵の父、悪魔皇ドラクルは竜に変身することができるという。これは竜の形態を食ったからなのだ。
(どうやったかは知らん。ドラクル本人に聞いてくれ。ただし、その時は……以下中略)
「しかしジャック、『マトリクス・イータ』といえば他の生物の形態を取り入れること……お前のように女に変身なんて事が……」
「おや、信じていないのか?」
 再び、ジャックの姿が女性の物に変わる。今度のは先ほどの少女の物ではなく、妙齢の美女の姿だ。
「これでも、何十人もの女性の血を浴びるほど飲んだからな。こういうこともできるんだぜ」
 ジャックは、ほんの少し意識を集中すると、身体は妙齢の美女のままで、顔を少女のものに変える。
「どうだ?」
「気持ち悪いぞそれ……」
「まあいいじゃないか。この少女と美女は、俺のお気に入りなんだ。なんせ俺達ヴァンパイアは太陽の下を歩けないからな。夜中に歩いている女に標的を絞らなきゃならん。そういった女って、ほとんどが不純物を含んでるからな」
「別に俺達は処女の血しか飲めないって訳じゃないだろう?」
「まあそうだけどな。でも、不純物はなんかいやだぜ」
「お前というやつは……そういえば、お前、浴びるほど飲んだって言ってたな?」
「ああ」
「まさか、S国で起こっているあの事件……」
「ああ、『リターン・オブ・ジャック・ザ・リッパー』とよばれている事件ね……お前の想像通り、あの事件の犯人は、このジャック様だよ」
「やっぱり……」
「人間って、時々勘がいいよな。俺をあの『切り裂きジャック』と同類にするなんてな。ちょうど俺の名前も“ジャック”だし……ククク」
 ジャックは、再び姿を変える。今度は、身体が少女で、顔は美女……
「いいかげんにしとけよ。最近、『デストロイア』が動いてるって話があるんだぞ。こないだも、ある地方のヴァンパイア種族が滅ぼされたって……」
「『ヴァンパイア・デストロイア』のことか? あんなの迷信だよ。俺達不死者を、どうやったら殺せるって言うんだ?」
「し、しかし……」
「ククク……まあいいじゃないか。それよりそろそろダンスが始まるぜ」
 ジャックは再び完全な少女の姿になる。
「一緒に踊ろうぜ!!」「ああ……」
 アランは、こんな事やってていいのかと思いながら、ジャックと共に歩き出す。


 ヴァンパイアは子供を作ることはできない。……なぜなら彼らは死者だから。
 だから、男女の差なんてものはあんまり考えない。それゆえ、同性同士のカップルというのは生者よりも多い。
 それでも、ダンスパートナーが女性の姿を取っているのは少しうれしいアランだった。






 古くさい音楽が聞こえてくる。この世ならざる者達が、享楽の限りを尽くしているのだ。
「『破壊神』様……準備が整いました」
 白い聖服を着た男が、1人の少年の前にひざまづく。
「そう……じゃ、行こうか」「は……」
 その場には、数十人の神父と、ほんの少しのシスターがいる。
 彼らは教会にいる聖職者達とはほんの少し違うところがある。
 武装しているのだ。槍や、弓矢や、剣や、銃で……


 彼らを従えている少年……年は一番若そうだが、一番偉そうだ。
 彼は白く輝く瞳で、前方の建物を見つめる。
 彼にとって、中にいるのが男だろうが女だろうが関係ない。
「一匹たりとも、逃がすなよ」
 そう……彼こそ「破壊神」、ヴァンパイア・デストロイア……
 一夜に一万ものヴァンパイアを滅ぼしたもの。
 ヴァンパイアの赤きカルマに反発する、白きカルマの持ち主、クルースニック。
「死者が、生者に害なすのは許されない。死者は、“殺す”のではない。“破棄”するんだ」


 部屋の中ではまだ、ダンスが続いている。
 最後の狂乱が…………





 あまり知られてないことだが、ヴァンパイアが本来の人間としての寿命ほども生きられないことなど珍しい事じゃない。
 そんな人間の寿命を超えた幸運なる者達…………だが今宵……

-了-







あとがき

 初にお目にかかります。Zyukaともうします。
 少年少女文庫様、大変楽しく読ませていただいております。
 それにしてもこれ、少年少女小説といえるのでしょうか……?
 ジャックの年齢はどう少なく見積もっても百才強……
 ま、いっか!!
「いいのかおい……」
 ああ、君は最後の方でちょろっと出てきた破壊神君!!
「こんなふざけたものを書いている暇があったら、俺が主役の長編小説をさっさと完成させろ」
 で、またどこかの出版社に送って没になれと?
「没になるのはお前の実力不足が原因だろうが!! 俺は世に出ればすぐに人気者になれる自信があるぞ!!」
 ……ひどい。ところで、アランとジャックのその後は……
「俺にあったヴァンパイアの末路なんて決まっているだろうが!」
 てことは……
「言う必要があるか?」
 …………
「もう行くぞ。これ以上やるとコメディになるからな!!」
 …………
 …………
 …………

 はっ!! どうなるんだったっけ……?

 …………
 どうも、Zyukaでした。

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