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ミィちゃんと呼ばないで
(第七話)満夫の選択
作:薪喬


ミィちゃんの入学もあと少し。やっぱり面倒みてくれる子が必要よね。ついでに「ミィちゃん」と「お姉ちゃん」も解禁したいな、秘密兵器の投入準備しよう♪これで両方の問題も一気に解決!先ずは子分に連絡しよーっと。

『あらっ、日生先輩、新入部員歓迎会の時はお世話になりました』

「どういたしまして。ところで頼みがあるんだけど…、今年入学した娘であんたのサークルに亜季代ちゃんって娘がいたわね。紹介して欲しいのよ」

『えー!?可愛そうですよ〜。あの娘まだ入学してから1ヶ月も経ってないのに…』

「へっ??…こらぁ!!どう言う意味よー、まだ何も言ってないじゃないの!!」

『あっ、済みません、つい…』

(由美ちゃん、君は高校時代に何やってたんだ??)

「まったく!人の事を何だと思ってるのよ。まあそれはいいとして、実は私の妹がね…」

『えっ、妹さんがうちに入学?海外で療養していたんですか。15歳で三年に編入…、さすが先輩の妹さんですね。じゃ勉強は問題無いですよね。』

「そうね。ただ、学生生活って経験が無いから来年卒業するまでだけでも経験してみたいんだって。女の子らしい事も療養中では経験してないしね、面倒見て欲しいのよ。それとね、同じ年頃の友達もいた方がいいと思って…」

『なるほど、それで彼女を…。でも何で亜季代ちゃんを御指名なんですか?あっ!まさか妹さんも先輩と同じ趣味…』

「だからぁ〜、その話題からは離れなさいよねっ!私の妹はね、小さくて可愛いのっ!亜季代ちゃんと気が合うんじゃないかと思ってさ…」

『はぁ、そうなんですか…。ところで妹さんの写真って見せてもらっていいですか?』

「もちろん!今画像データ送るからね、可愛いんだから」

えーと、やっぱりこれかな、最初にミニスカート穿いた時のと、お母さんの制服着て撮ったの、あとはエプロンドレス着た時の、着物姿は外せないわね(千歳飴持ったのは止そう)。

『あ、来ました。わぁー♪本当に可愛い、お人形さんみたい。私もこんな妹欲しかったです。確かに亜季代ちゃんと気が合いそうですね。あの子も友達欲しがってたし、これなら安心して紹介できます』

『安心して』ってどう言う意味よっ(怒)まあいいか…。うふふふ、早速仕込みに入りますか、たのしみだな〜。

でも一つだけ…、将来進む道だけは満夫さんが自分で決断しないとね。どんな結論になってもしっかり受け止めなければ。

(おいおい、言ってる事とやってる事が矛盾してるだろ?)

『いいのよ♪「満夫さん」の件は将来の事。「ミィちゃん」の件は今の事なんだから矛盾なんか無いわよ〜』

(あっ、そう…)

 

(少々時間は遡って午前中の研究所内)

【選択】

目の前に腕が揺れている。ボクの、いや、坂崎満夫のクローンの腕が。腕を見てから数ヶ月しか経っていないのに、もう何年も前の様な気がする。

「これ見た帰りに事故にあったんだよね」と由美。

「そうだね、でも事故の事は語るのは止そう、時間が戻る訳じゃないからね」

「うん…」

由美が自分の運転の判断に関して悩んでいたのは知っている。つい最近までハンドルを握れなかったんだ。でもこれは早く忘れて欲しい。

ボクのリハビリは実質的には終了している。あとは、クローンボディの発育状況の確認と、脳移植時に神経系統の調整に使ったナノマシンの取り出しを残すのみとなっている。身体の発育に関しては遅れているが、これはボクのクローンを女性化した際に母さんの遺伝子の影響が大きかった為らしい。アルバムでも判った事だが、母さんは発育が普通より遅く16歳を過ぎたあたりからやっと人並みに成長出来た様だ。

ボクの身体も検証の結果、母さんとほぼ同じ成長過程を辿る物と予想されていて、これは問題無しとされた。当分由美の着せ替え人形にされそうだな。まあ、最近は抵抗ないけど…

検査が終わって自分の部屋に戻る前に、ふと気になって『ボクの腕ってまだあるんですか?』と聞いてみたら、あると言う返事だったので、日生おじさんの(あ、今は一応ボクの父親ね)後について実験室に寄ってみた。そして今、ボク達の目の前に自分が坂崎満夫だった頃の証である腕のクローンパーツが培養液の中で微かに揺れていた。

なんだか、いきなり現実に引き戻されたみたいだな…、最近は女の子としての生活が当たり前に感じ始めていたから。実際には手術後に目覚めてから4ヶ月、女の子である自分と正面から向き合ったのはリハビリの途中からで1ヶ月半しか経過していないのに、まるで昔の様に思える。それだけボクが女の子に染まってしまっていたと言う事か…

「この腕が無かったら今頃ボクはリハビリの途中で、まともに歩く事も出来ないでいたんだろうな」

「そうね、この腕があったおかげで、オリジナルと女性化の身体の神経系統の差が検証できて、修正データが作り易かったものね。緊急事態だったから、脳神経と身体の神経とのシンクロを行わない状態での移植になってしまって、どうなるかと思ったもの」

「だから、奥の手って言ったろ」また出た、おじさんの笑えない冗談。

「ところで、どうするかね?この腕。既に実験用としては役目を終えているし、君のリハビリ用のデータ取りの必要も無くなった訳だが、希望があればこのまま培養しておくよ。男性化、と言うより満夫君のオリジナルボディの再現は可能性が0と言う訳じゃない。いつになるか保証は出来ないけどね。その際には脳とのシンクロデータのある腕の存在は、リハビリに大きな効果があるのは今回で証明済みだからな」

「暫く考えさせてください」とだけ答えてボク達は実験室を後にした。

由美は黙ってボクの後をついて来る。今は何も話しかけてこないでくれるのがありがたい。

部屋に戻って雑談をした時も彼女はこの件には触れなかった。ただ、由美が帰り際に『周りに気を遣う必要は無いのよ。自分の事だけ考えてね、満夫さん』と言って部屋を出ていった時、彼女もまた自分なりにボクの出す結論を受け止める心構えである事を改めて思い知らされた。(満夫って名前で呼ばれたのは、久しぶりだな)

彼女としては、ボクが僅かな望みを捨てきれずに一生を過ごすのは見ていられないのだろう。一生懸命女の子に馴染ませようとするのはボクに余計な事を考えさせない様にする為、自分も同様に余計な事を考えない様にする為だろうな。もっとも由美の場合、妹が欲しかった事もあるから半分は楽しみでやってるんだろうけど。いや、半分以上かな…

但し、最終結論はボクの判断を尊重して口出しする気はない様だ。たとえそれが彼女の希望と異なるものとしても…。それが彼女なりのけじめのつけ方と言う事か。

(美津子と由美が立ち去った後の研究室)

「坂崎か?ああ、本人は今帰っていったよ。そちらの状況は予想通りか、今更隠す必要も無くなったと言う事だな。腕?ああ、当分は培養しておくつもりだけどな、対抗手段と言うよりは保険ってやつかな。ところで、週末の検査報告会は…、本人には後で説明するのか?由美には先に聞かせる。…そうか、週末は由美の為の報告会になるかもしれんな」

 

(再び美津子の部屋)

「男性としての復活か…、本当に出来るんだろうか?」

おじさんの言葉も気休めに過ぎないかもしれない。可能性が0ではないと言っても、人間そのもののクローン再生は違法行為だから、機密漏洩の危険性を考えれば今後再び出来るかどうかは全く見通しがたたない。今回のボクのケースは極めて幸運(と言うしかないな)にも母さんの為に取っておいた戸籍と、例の怪しげなソフト“Fittre”のおかげで治療名目の全身クローンが出来たけど、次も同じ様に都合良く条件が整う保証など何も無いんだ。例の怪しげなソフトも調査中とは言え、現在のところ正体不明で次に役立つかは判らない。

それに脳移植の成功例はボクの1件だけで、過去にはボクの母さんのケースがあるけど移植手術に至る前に失敗している。

何だか悲観的だな、男性としてのボクの復活は…。でもこのまま運命に流されてしまうのも嫌だ、自分の将来は自分自身で選びたい。

(傍目から見ると、既に流れ去ってる様な気もするけど…)

ん?何か聞こえた様な、気のせいか…
万に一つの可能性を信じて数年先の男性としての復活を目指すのか、成り行き任せで男性に戻れる時が来たら考えるか、生涯を日生美津子として過ごすのか…。どの道を選んでも数年先までの女性としての生活は同じだけど、あくまで男性としての復活を目指すなら今の身体はボクの魂の仮の宿でしかない。女性としての生活も常に仮面を被って偽りの自分を演じて行く事になる。そんな生活に何年もの間、何の保証も無しに精神的に耐えられるだろうか…

残る二つの道は比較的気が楽だ、取り敢えずは今の境遇を受け入れてしまえば良いのだから。但し、どの道を選んでも大きな共通の問題点がある。

今のボクには過去が無い、語るべき友人もいない。取り敢えず学校に入る事にはしたけど、同級生とどうやって付き合って行けばいいのかな…。転入生だから聞かれるだろうな、前の学校の事、恋人は?とか…。そんな時どうやって答えれば良いんだろう?おまけに発育不良の小さな身体で三年に編入するのだから虐めとか…。あーっ、駄目だっ!前の時もそうだったけど、一人になって考え込むと落ち込むばかりだ。でも結論は自分で出したいし…

取り敢えずは目先の問題から片付けていかないと…、先ずはクローン腕の処理だな。もしも日生美津子としての生涯を選ぶなら未練が残らない様にクローン腕の培養は止めてもらう様にしたい。

もちろん、腕のクローン無しでも、DNAデータや細胞サンプルからクローン製造は可能だ。だからクローン腕の廃棄は儀式でしかないけど、自分の意思を示す為にも重要な儀式と言える。研究施設を出るのに一ヶ月もない。別に日時を切られている訳ではないけど、ずるずると結論を先延ばしにするのも嫌だからそれまでには結論を出したいな。

ドアをノックする音が聞こえてきたのは、そんな事を考えている時だった。誰だ?由美が戻ってきたのかな…

「入っていい?」と綾子おばさんの声。何だろう?とにかく入ってもらおうかな。あれ?何か荷物持ってるし…、変な事しないでよね。最近「あっちゃん」のスイッチが入っちゃったから何考えてるのやら、なんか不安。

「お邪魔するわね。ちょっと〜、逃げ腰にならなくてもいいじゃない(笑)あなたのお父さんと打ち合わせをしてきたのよ、その時の話をね。あなた、あれからお父さんと会っていないでしょう?」

ボクの治療も実質は終了なので、今後は経過観察に移行する事になる為、その内容を打ち合わせてきたと言う。その際に話のついでに、今でも割り切れない思いを抱えている父さんに、過去の実験とボクの件は自分達が積み上げてきた研究の成果であり失敗と考えてはいけないとの話をして、なんとか納得してもらった言う事だった。どんな話をしたか細かいところは話してくれなかったけど、二十年以上の付き合いだからこそできる話もあっただろうな。

「だから、今度家に帰った時は、娘として迎えてあげなさいよって言っておいたからね。あなたも無理に男っぽくしなくていいのよ」

うへっ、ボクの父さんが「お帰り、美津子」なんて言うのかな?想像つかないよ。ボクが躊躇っている間にも周りはボクの女の子としての生活環境を整えようとしてくれている。決して迷惑と言う訳ではないけど、プレッシャーを感じる事も確かだ。

「あ、そうそう、あなた家に帰った時お母さんの日記見ている途中だったでしょ?そのまま由美に連れ出されちゃったのよね。日記と他の荷物も預かってきたから」と言って持ってきたバッグを渡してくれた。

中には日記、アルバム、アクセサリー、と服…、何これ?小学生が着そうなフリルの付いたミニのワンピース、これ母さんの?確かにサイズは合ってるけど丈が短いからこれじゃパンツ見えちゃいそうだな。でも、これって何処かで見た様な…。あっ、おばさん期待してるような目つき、なんかヤバそう…

「あはは、それね、なつかしいから持ってきちゃった。これ由紀枝ちゃんに着せて、子供料金で遊園地に入ってお小遣い浮かせたの。その時、あなたのお父さん遊園地でバイトしてたから見られちゃってね、後で『ばかーっ!』って泣きながら怒られちゃって、機嫌直してもらうのに大変だったのよ。でも、あなたのお父さんと付き合うきっかけになった記念だからね。着てみる?似合うと思うけど」

「やだ…」

(少し残念そうに綾子が部屋を出ていった後、美津子は暫く母親の想い出の服を見つめていた)

もーっ、おばさん…、由美が見ていないと母さんの想い出話でボクの事おもちゃにしようとするんだもん。悩んでる暇もありゃしない、でも…

そうか、この服が日記の…

綾子おばさんが帰った後、母さんの想い出の服を眺めていたけど、結局着ちゃった。あーあ、これで女の子の生活を受け入れるのに躊躇ってる、なんて言っても信じてくれる人はいないよね〜。

うわー、確かに良く似合うけど、パンツ見える寸前…、見た目小学生なら周りはどうと言う事無いだろうけど、着てる本人は思いっきり恥ずかしいよね、なにしろ、当時高校一年なんだから。これで知り合いにでも見られたら顔から火が出る事間違い無し、しかも気になっている男子にでも見られたら…(お母さん、お察し致します)

でも、この時の一件が付き合うきっかけになったと言う事は、父さんってロリコン?いやいや、自分の親を疑ってはいけない。成長した母さんは童顔と言う訳でもないし思い過ごしだよね、うん。でもこれ着て家に帰ったら父さんどんな顔するかな?腰抜かしたりして、あははっ。

うー、結局女の子の生活楽しんでるじゃないか。もう結論は半分出てるみたいな…。日記を見る前に着替えようっと、制服の時は由美に見られて写真まで撮られちゃったからな。さすがにこの服着た写真は残されたくないよ。服も由美に見つからないように隠しておこう。

(もっとも、その手の話を聞き逃す由美ではない。後日見つけられて「ねえ、着て見せてよ♪」と迫られて結局着せられてしまうのであった)

あらためて日記を読んでみる。やっぱり学生時代のしか読む気になれないんだよね、何でだろう?他に気になると言えば「みっちゃんの記録」だけか…、家に行った時に読もうとして由美に連れ出されちゃったから、取り敢えずこれだけは読んでおこう。

ふーん、名前を考えてるところからか。

『最初の赤ちゃんは女の子がいいな。名前は…、そうね、亡くなったお母さんのお気に入りの香水「ミツコ」から取ろうかな。充子、光子、満子、美都子、美津子、三津子、長女なら三津子は無しよね、美津子か美都子がいいかな。男の子ならミツオ、ごめんね手抜きじゃないよ、香水の名前を少しでも残したいの。光雄、満夫、美津夫・・、どれがいいかな』

ボクの名前って女の子の名前が先だったのか、美津子だって…。

『小さい時はどう呼ぼうかな、まあ「ミッちゃん」が妥当なところね。男の子でも女の子でも、とにかく元気に産まれていらっしゃい、ミッちゃん♪あら?男女の双子だったらどうしよう、両方ともミッちゃんね…。うーん、それなら男の子の時は「ミッちゃん」女の子なら「ミーちゃん」か「ミィちゃん」ね、どちらも聞けば同じに聞こえるけど「ミィちゃん」かな?子猫みたいで可愛いじゃない?うん「ミィちゃん」にしよう』

…ミィちゃん。母さんが欲しかった女の子…美津子、ミィちゃん…。美津子の名前は偶然じゃないはずだ。元々ボクの戸籍は母さんのクローン用に用意されてた物だから、名前を付ける時に母さんが欲しがっていた女の子の名前にしたと思う。結局母さんのクローン再生は中止になり、結果としてボクの戸籍となった訳だが、その為に僕は母さんが欲しがっていた女の子の美津子(ミィちゃん)になった訳だ。不思議な巡り合わせだな。母さんのクローン再生が成功していれば15歳相当になる年に、ボクが事故で死亡(身体だけ)して、脳を移植された培養途中のクローンボディは15歳前後、女性化されたボクのクローンは身体も顔も母さんに生き写しなんて。

オカルトマニアが聞いたら「母親の霊に引かれたんだ、そのうち魂を乗っ取られるぞ」なんて言う事間違いなしかな。そんな事はないだろうけど、この件に関わった父さんと由美の一家は何らかの運命の悪戯を感じた事だろうな。実際に偶然の一致は、戸籍年齢と培養途中のクローンボディの年齢が同じだっただけで他は説明がつくけど、ボク自身はやはり運命の様な物を感じていた。母さんの写真を見たり日記を読んだりしているうちに、ボク自身と母さんの子供の頃を重ね合わせて考えるようになっていたから…

もういいかな?無理するのは。母さんの想い出の品を眺めて以来、母さんの様な女性にあこがれてる部分がボクの心の中に育ってきて、日々それが大きくなっている事は否定できない。最近は日記を読むとリアルに情景が心に浮かぶ様になってきたほどだ。それに、母さんが女の子を欲しがっていた事もある。今、ボクは姓は違っているけど娘の美津子になった訳だし、喜んでくれるよね。

どうせ何年かは否応無しにこの身体と付き合う事になるんだから、もしも男に戻れる日が来たらその時にまた考えればいいさ。後戻り出来なければそれでも構わない。

取り敢えず今するべき事は…

由美の部屋に行ってケーキ食べようっと♪さっき買ってきたの見てたもんね〜。なんか最近甘いものが好きになっちゃったな、このへんも母さんに似たのかな?

(むしろ、お気楽なところは由美に似てきたみたいな…)

 

【出合い】

(由美の部屋)

おじゃましま…す。あれ、誰か居る。お客さんかな?ケーキ全部食べないでよね。

「あっ、美津子ちゃん、ちょうど良かった。今呼ぼうとしてたのよ」

なに?じゃあお客さんはボクに用事なの?

「こんにちは。おじゃましてます」

可愛い声の方に目を向けると(あっ可愛い、小さい…)そこに居たのはボクと同じくらいの小柄な女の子だった。小学生?じゃないよね。どこかで見た制服を着てるし、中学生?優しそうな目をしてるな、すごく可愛い。まさか由美、この娘にも手を出して…

(美津子に見つめられた由美が慌てて手を振って『違う』との合図。由美ちゃん、君って信用無いね)

「初めまして、美津子さんですね、今度うちの高校に編入される…。私、一年生の朋田亜季代です」

ペコリと頭を下げたところも可愛いな。あっ、制服…、見た筈だよ今度通う学校のだもん。でも何で面識も無いボクに会いに来たんだろう?

「私が頼んだのよ。美津子ちゃん、制服まだ出来ないから亜季代ちゃんに替えの制服貸してもらおうと思ってね。早く着てみたいでしょ?」

みたいでしょ?って、着せてみたいのはあんたでしょ…

「あなたの事話したら会ってみたいって言ってね、学校の帰りに寄ってくれたの」

亜季代ちゃんは小さくて可愛い事もあって、中学時代からクラスメイトや上級生のマスコットとして可愛がられていたけど、いつもお子様扱いで親友と呼べる相手がいなかった様だ。そんな訳で由美に話を聞いた時、自分と同じ様に小柄で同じ年齢なのに飛び級で三年に編入するボクに親近感と憧れを抱いたって事らしい。

「学年は違うけど仲良くしてあげてね。先ずは美津子ちゃん、制服着てみなさいよ」

「はい、これ。きっと良く似合いますよ♪」

亜季代ちゃんが嬉しそうに制服を差し出した。何だか最初からボクに好意を持ってくれてるみたいだな。

亜季代ちゃんの嬉しそうな顔を見たらなんだか本当に着るのが楽しみになってきた。チェックのミニスカートに丈の短めの上着『赤のリボンはプレゼントです。良かったら使ってくださいね』だって。早速着替えてみる、リボンは由美が結んでくれた。制服は体格が同じ事もあってぴったりだった。由美も亜季代ちゃんも『良く似合ってるわよ』『可愛いです♪』と喜んでくれたし、自分でもすごく気に入った。もちろん由美にはしっかり写真を撮られちゃったけど、亜季代ちゃんと一緒だったから、それもいいかな。

(美津子の部屋)

「へー、病室って聞いてたけど普通のお部屋みたいですね」亜季代ちゃんが目を丸くして部屋の中を見回している。

『二人で話したい事もあるでしょう、美津子ちゃんの部屋に案内してあげたら?』と由美に言われてボクの部屋に連れて行ったんだけど、部屋の中を見て驚いたみたい。

まぁそうだろうね。由美の仕業なんだけど秘密保持の為に、空きのあった家族向け職員住宅を特別病室の名目で一棟借り切ったのを良い事に家具まで運び込んじゃった「どうせ何ヶ月もリハビリにかかるんだから良いでしょ」なんて言って勝手に…。おかげで今やすっかり女の子の部屋になってるもんなー。この部屋を見たら、ここが研究所に併設された病室なんて思えないだろうね。由美自身も自分用にしっかり一部屋確保してるし、こんなに勝手な事してていいのかなぁ…。まさか例のソフトを使って予算を引っ張り出した、なんて事はないだろうね(あまり深く追求しないでおこう…)

「ネコさん…」

あれ?亜季代ちゃん、ボクのお気に入りのネコの縫いぐるみを抱き上げてる。気に入ったのかな?でも可愛いな、縫いぐるみを抱いてる亜季代ちゃん。

…そうか、由美から見たボクもこんな風に見えるんだ。これじゃ恋人なんて意識は全然無いだろうな。そんな事を考えて少し寂しくなった時、

「ねっ、美津子さん、このネコさん抱いて寝てるんですよね?」うっ…(汗)

まっ、まさか由美、縫いぐるみ抱いて寝てる時の写真見せたんじゃないだろうな。恥ずかしいじゃないかー。

「あたしも好きだから、なんか判るんですよね〜。あっ、今度あたしの家にも来て下さいね。あたしのお気に入りの縫いぐるみも見て欲しいです」

ほっ、どうやら由美がバラした訳では無いみたいだな。それから後は学校の事、彼女の家の事とか様々な事を話してくれた。彼女は最初からボクに親近感を抱いていたみたいだけど、会ってから改めてその思いを強くしたらしい。自分の事を話しながらも一生懸命にボクの事を知ろうとしているのが良く判る。ボク自身の事はさすがに本当の事は言えないので、由美が考えた「病気で海外で療養」のストーリィに沿って話しをしていたんだけど、結果として騙しているのが可愛そうになってしまった。

いい子だな、この子と友達に…、母さんと綾子おばさんみたいな親友になれたらなぁ。

嬉しそうに話しかける亜季代ちゃんを見ていて『この娘と友達になれたら』と思い始めた自分に気が付いて唖然としてしまった。『彼女にしたい』じゃなく、同性の友達が欲しいって自然に考えていたんだ。最近は特にそう感じるんだけど、ボクって頭の中まで女性化してきたのかな?それでもいいや、亜季代ちゃんとは本当に友達になりたいんだ。彼女もそう思ってくれてるみたいだし、でもそれなら敬語なんか使って欲しくないな。

「ねっ、亜季代ちゃん、同じ歳なんだから、あたしには敬語なんて使わなくていいのよ」

う〜、ついに初めてに女言葉を意識して使っちゃった。日頃うっかり使う事はあっても、いざ意識して使うとちょっと恥ずかしい…。まあいいか、女の子が女言葉で話すのに変に思われたりする訳ないもの。

「えっ、でもやっぱり美津子さん三年生ですから…」

「いいのっ!あたしは亜季代ちゃんとお友達になりたいの。だから敬語なんか使わないでね、あたしはアキちゃんって呼びたいんだから」

言っちゃった、これって本当の気持ちだよ。でも、この一言が墓穴を掘る事になるとは…

「いいんですか…、じゃなくて、いいの?それじゃぁ、んーーとね…、あたしはミィちゃんって呼んでいい?」

(うぅ…、それがあったか)

もしかして由美のやつ、やってくれたな…『ミィちゃんって呼んであげてね、同じ年頃の友達いないから喜ぶわよ』なんて言ったかもしれない、いや、きっとそうだ…

先に言われる前に『あたしの事はミッちゃんと呼んで』って言っておけばよかった〜。今からでも『ミィちゃんじゃなくてミッちゃんにして』って言えば変えてくれるかもしれないけど…、もしもがっかりされたらどうしよう。あぁーっ、亜季代ちゃん期待に満ちた目で見ないでよ〜。しょうがない、白旗揚げます…

「うん、いいよアキちゃん」

亜季代ちゃんの顔がパッと輝いた。

「ありがとう、ミィちゃん!」

あーあ、言っちゃった〜。でも新しい暮らしで初めての友達だから大切にしなきゃ。
その後はお互いに打ち解けて何年も前からの友人の様に時間も忘れて語り合った、…と言っても亜季代ちゃんが話しかけてくるのが大部分だったけどね。話しかけてくる亜季代ちゃんも本当に嬉しそうで、話すたびにくるくる変わる表情も可愛い。そんな彼女を見ているボクも嬉しかった。久しぶりだなこんな気持ち『外に出なければ駄目よ』って言われてたけど本当だね。学校に行く決心をして良かったな。と、ここまでは良かったけど、

「ミィちゃん、今度は一緒にショッピングに行こうね」

「うん、またね、アキちゃん」

亜季代ちゃんを見送って部屋に戻ろうとしたら…。何なのさ、嫌〜な予感…

「ミ〜ィちゃ〜〜〜ん♪」わー!やっぱり〜(泣)

由美が嬉しそうにボクを見てるじゃないかー、今のしっかり聞かれてた訳ね。

「ミィちゃんって呼んでいいよね、ねっ!もしも亜季代ちゃんだけ呼ばせて私は駄目なんて言われたらお姉ちゃん悲しい…」

こらこら!泣きまねするな。しょーがないなー、もういいよ…

「ミィちゃん♪」

「んー」

「なによー、気のない返事ね。ミィちゃん」

「ハイ、ハイ」

「ハイは一回よ。ミィちゃん」

「へーい」

「なによー!立ち聞きしたのは悪かったけど、そんなにむくれなくてもいいじゃない!」

とか言っておいて、自分がむくれて部屋に帰っちゃったよ。仕方ない「ミィちゃん」も「お姉ちゃん」も解禁にしてあげますか、亜季代ちゃんを紹介してくれたお礼の意味もあるしね。

 

(その日の夕刻、研究所内)

「おーい、今週の分の廃棄サンプルだけど、これも追加だ」

「いいのか?それって教授が当面は残すと言ってた筈だけど…」

「その教授からのメールで『廃棄』と言ってきたのさ。まあ、持ち主は既に死んでるから保存義務も無いし、廃棄手続きはメール一本で簡単なものさ。娘さんの為に残しておいたのだろうけど、個人的感情だけで長いこと培養してる訳にもいかないだろうからな」

「それもそうだな…」

(二日後、廃棄サンプルは全てマイクロ波焼却炉に投入され、何の支障も無く正常に『処理』された。『廃棄』を命じたメールの送信者は日生教授であったが、送信者の書いた文面と受信者の読んだ文面が同じ物であったか、その時点では誰も知り得ない事であった)

 

【初めての…】

(その日の晩)

ついでに今日も由美の部屋に泊まろうっと。最近は少なくなってきたとは言え、変な夢をみて眠れない時がまだあるんだけど、由美と一緒だと何故か大丈夫なんだ。それに今日は何だか身体がだるくて余計に変な夢見ちゃいそうだし。

由美に貰ったネコの縫いぐるみを持って彼女の部屋に入ると、一瞬由美は嬉しそうな表情になったけど、すぐにプイッと横を向いちゃった。ふふーん、無理しちゃって本当は嬉しい癖に。

「えー、縫いぐるみの代わりに御用はありませんか?」と言うと、ちょっと拗ねた様に、

「どーしよぉーかなー。だって縫いぐるみより重いしね」

素直じゃないね。よし、それなら…

「ふーん、でもあたしの方がお姉ちゃんより軽いよぉ」

「なにー!気にしてる事…、えっ?今何て言ったの」

「しらなぁーい」

「ね、もう一度言ってよ」

「え?なんのこと」

「こら!とぼけないで」

ありゃ、いきなり抱きかかえられちゃったよ。ま、からかうのは止めるか。

「あたしの方がお姉ちゃんより軽いって言ったの」

ボクを抱く腕に力が入った。

「ミィちゃん…」

「はい」

「いいのね、本当に私の妹になって。このまま女の子の生活に馴染んでしまったら、将来男性に戻れるような機会があったら悩む事になるわよ」

「その時が来たらまた悩めばいい、他人には経験出来ない贅沢な悩みだしね。どちらを選ぶかなんてその時にならないと判らないよ。ただ、どちらを選んでも後悔したくないから、今は女の子の生活を経験してみたいんだ」

「そう…」由美は優しくボクの頭を撫でて小さくつぶやいた。

これでいいよね、腕のクローンも無理に残さなくてもいいや。ついでに当面の悩みも解決しておきたいな。

「あのね、夢の事なんだけど…」

変な夢がまだ続いている事と、日常の生活でもそれが頭に浮かんでくる事を話した。

「そうなの、ちょっと気になるわね。最初の内は事故のショックで記憶が混乱しているだけだと思ってたけど、日常生活でも頭に浮かぶなら問題ね。まあその件は週末に、お父さんたちとミィちゃんの検査報告会があるから前回の心理試験データも見られる事だし、ある程度判るんじゃないかしら。それで気分はどうなの?夢を見ている時や覚えの無い記憶が甦って来る時って」

「それが不思議、最初の内は不安だったけど最近はなんだか逆に落ち着く様になってきて『これが本来のあたし』なんて思える様になってきたの。自分の記憶が確かにあるんだけど、なんだか少しずつ記憶が混ざって来る様な感じ。時々、自分の記憶と夢が混ざって何処までが自分の記憶か判らなくなってくるんだけど、そんな時もあまり不安が無くなって…」

「ふーん?やっぱり気になるわね、明日にでもデータを見直して問題にしておかないとね。ところでミィちゃん?あなた気分はどうなの、なんか調子悪そうだし熱でもあるのかな」

「う…ん、なんだか今日は夕方からね…、あっ、お姉ちゃん手ぇ離して!トイレいきたい」

「えっ?なによー、そんなに我慢してたの、ふふっ、お姉ちゃんが連れてってあげようか♪」

そんなのじゃないんだよー(泣)あっ…やだ…、流れてきちゃった…

「ミィちゃん…、あなた」

「お姉ちゃん、ごめんなさーい」ひーん、みっともないよー。

「初めてなのね、おめでとうと言うべきかしらね。あなた立派な女の子よ」

えっ、えっ?あっ!由美のパジャマに赤い染み…、ボクのパジャマにも…、うわぁー!これって生理じゃないかぁー!何で今なんだよ〜。

「初めてで驚いちゃった?いらっしゃい、手当て教えてあげるね」

「う…ん」

恥ずかしいけど由美の言うとおりにするしかなかった。

「パジャマ汚してごめんね」

「いいのよ、でもこれからは毎月のように付き合わなくてはならないものだから慣れないとね。まあ、あなたの場合しばらくは不安定かもしれないけど」

そう言えば今まで無かったのが不思議だけど、気にもしてなかった。いざなってみると面倒なものだな。でも、何だろう?また記憶の底から何か浮かんでくるような…「良かった」「不安定だったけど」「これからは」断片的な言葉が頭に浮かんでくる。生理に関した夢の断片かな?何故か不思議と不安は無かった、生理が来るのは女の子として自然だし、今まで来なかった事が不安の種になっていたのかな?

―由美―

うふふふ〜♪作戦大成功!やっぱり秘密兵器は効果ありね。今日、亜季代ちゃんに来てもらう時に『あの子、療養生活が長くて同年代の友達が居ないからミィちゃんって呼んであげて』って頼んでおいたもんね。ミィちゃんも亜季代ちゃんの事、一目で気に入ったみたいだから絶対に嫌って言えない事は確信してたんだ。おまけに『お姉ちゃん』も解禁だし、ミィちゃんの制服姿も可愛いし、亜季代ちゃんにも『ミィちゃんと知り合えて良かったです』って感謝されちゃった。ホント、今日は良い日ね〜。

おまけにもう一つおめでたい事もあったし…。ミィちゃん、お姉ちゃんのパジャマ汚した事なんか気にしなくて良いのよ、真っ赤になって恥ずかしそうにしてるんだから可愛いわね。考えてみれば、体は小さくても15歳相当なんだからあっても当たり前か…。明日お赤飯炊いてあげるね♪

ただ、気になるのは『変な夢』。最近は減ってきたみたいだけど、その代りに普段の生活の中でも夢の中のシーンが頭に浮かんだりするらしいし、記憶の混乱も…。こればかりは無視する訳にはいかないようね。それに、何か一つ心に引っ掛かってる事があるんだけど、なんだろう?何か大事な事を忘れている様な…

―美津子―

何故か由美の部屋に泊まったのに、この日はいつもの夢をみたようだ。『ようだ』と言うのは夢の内容を良く覚えていなかったから。ただ、不安になる夢ではなく、ジグソーパズルのピースの様な断片的な夢が次第につながって行く様なイメージだった気がする。朝起きた時には何だか忘れ物を取り戻した様な落ち着いた気持ちになっていた。

自分の腕のクローンを見て事故当時の事を思い出したり、初めて生理を経験したりといった刺激で我に返ったとでも言うべきだろうか、気が付いてみると最近のボクは『女の子の頭』で物を考えてたみたいだ。その間、別に自分の『坂崎満夫』としての記憶が無い訳ではない。『満夫』の記憶を持った女の子として行動していた様だ。

今思い出しても、最初の頃から何だか自分の中に『男』の自分と『女』の自分が同居していた様な気がする。それが日を追う毎に境目がはっきりしなくなってきて、男の自分と女の自分の間を行き来するようになってきたみたいだ。それと関連があるのか『変な夢と記憶』は当初ボク自身を不安に陥れるばかりだったのが、最近は夢に違和感が無くなってきた。ある筈の無い記憶も、時々『あれ?これは覚えていて当たり前だよね、自分の記憶なんだもん』と思える様になってきた。

「朝御飯できたわよ」由美の呼ぶ声。

そうか、昨日…。何だか恥ずかしくて顔を合わせ辛いけど仕方ない、食べにいきますか。何が出てくるかは想像できるけど…

「お赤飯炊いたのよ。やっぱりお祝いしなくてはね」

あっ、やっぱりね、でも小学生じゃないんだよ…、まあ、遅い子は15歳位って聞いた事もあるけど。

昨夜の夢…、断片的な夢が一つに繋がって行くイメージ…。これってボクの中で分裂している男と女の心が融合するって事なのかな。生理になったと言う事は、より女の子に近づいたと言う事だよね。『男』であった部分は融合と言うより吸収されちゃうのかしら…、だめだ!また女言葉。自分がどう生きるかは『坂崎満夫』として選択したい。でも…、生理って決定的だよな。何だか後戻りの出来ない一歩を踏み出してしまった気がする。そして、自分の中にそれを歓迎する心があって、それに抗えなくなる事が判っていても、さほど不安に感じていない自分がいる事も知っているんだ。

「ボクは『あたし』になるんだろうな」

口に出してみると少し淋しさを感じた。

その日の朝のお赤飯は複雑な味がした。

(続く)


薪喬です。はぁー、やっとの事であと一話、最終第8話を残すのみ。6話までは遊んでばかりいたので、最終話に向けて軌道修正をしようと思ったら由美ちゃん一人だけ相変わらず遊んでるし…。やはり連続物はきついですね、慣れない事はするもんじゃないとしみじみ思います。
さて、「ミィちゃん」も解禁され、満夫君も当分開き直って女の子の生活を楽しむ事にした様ですが、なにしろ絡んでいるのが“Fittre”ですから満夫君に最終的に何をもたらすのか?
最終回は「fit…」の美紀ちゃんに登場してもらう事にしました。彼女は何を語るのか?そして「ミィちゃん」の運命は…。語るのは満夫の父親の坂崎教授。さあ教授、白衣の用意は宜しいか(それじゃ昔の○宝の特撮映画。古っ…)

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