戻る

 


ミィちゃんと呼ばないで
(第四話)鏡の中の…

作:薪喬


ミィちゃんのリハビリも順調だけど歩くのは結構大変みたいね。私の世話になるのが恥ずかしいのか自分だけで無理に歩こうとするから転んでばかりいるじゃないの。せっかくのきれいなお肌が痣だらけになっちゃうじゃない…。ここは何か手を打たなきゃね。

それはそれとして、まだ女の子である現実を認めたくないのかなぁ。せっかく可愛い服買ってきてあげても着てくれない…。まあ、自由に出歩ける訳でもないから強制はしていないけど、本人もそれを逃げ道にしてるみたいな…。やっぱりここは本人の為にも強く勧めてみようかな…、あっ!これって両方の問題を同時に解決できるかも〜♪

(由美ちゃん、本人の為って言うけど、自分の為の間違いだろう…)

 

【鏡の中の現実】

リハビリはやはり面倒なものだった。
俺の場合成長途中で調整前の身体に入った事と、自分のクローンとは言え女性体に変換された身体では四肢の神経からの信号がオリジナルの身体とは異なるので、身体を動かすには非常な困難が伴う。なにしろ俺の脳が「これは自分の身体ではない」と認識してしまっているからだ。

おかげでコップ一つ取るにも空振りしてしまう始末。まあこれもリハビリの一環で、反復練習するうちに脳の中で新しい身体のコントロール回路が形成される訳だけど…

それでも幸いな事に俺の場合は救いがあった。日生教授(由美の父親)の作った俺の腕のクローンの存在だ。これは俺の女性化クローンが出来てしまったので、事のついでに比較データを取ろうとして腕だけ作ったらしい。(やっぱり訳ありだったな)
おかげで現在の腕と元の腕のデータを比較して推測データを作り、四肢の神経の調整を行う事が出来た。これが無かったら俺は歩行訓練以前に立ちあがるのも苦労していたろう。それでも推測値は推測値でしかなく、実際に身体を動かして見ると、どうしてもぎこちない動作になってしまう。そもそも身長が30cm以上も低くなっているので感覚のずれが極めて大きい事もある。

歩くのは本当に大変だった。筋力が無いこともあり、バランス取りだけでなく筋力トレーニングも併せて行う為、体力的にも辛かった。おまけに由美のやつ、俺を幼児扱いで「はい、上手ね〜」なんて言いながら俺の手を取って歩かせるんだ。頭にきて自分で勝手に歩行練習を始めたものだから最初のうちは転びまくった。それでも練習の度にデータ補正を行ってきたので、なんとかふらつきながらでも歩ける様になった頃、由美が、

「外に出てみましょうよ。部屋の中だけじゃ退屈でしょ?」と言って俺を研究所の庭に連れ出してくれた。まあ、庭と言っても大学病院の広大な敷地内に併設された研究所なので、ちょっとした公園並みの広さがあるけど。

由美に手を引かれて庭に出てみる。
へー、部屋の中から見える景色と実際に外に出て眺める景色ってこんなに違うものだったのか…
あらためて壁ばかり3ヶ月近くも眺めていた日々を思い出す。今までの俺って、落ち込んだままで壁の模様と外の景色の区別をつけるのも面倒になっていたんだ。

そんな俺にとっては、目に映る物は皆なにもかも眩しく新鮮に映った。季節はもう春、花壇の花を見て感動したのは始めての経験だった。桜の花も蕾が大きく膨らみ始めている。

「今度お花見しましょうね。お弁当作ってあげる」と由美。

それはいいけど…。おーい、由美ちゃん何で写真なんて撮ってるのさ?

「だって、春の花をバックに佇む美少女なんて、やっぱり絵になるじゃない?」

美少女ねえ…

「いいじゃないの、記念写真と思えば。男性に戻れた時に面白い想い出になるじゃないの。普通は経験出来ないもんね」

…嘘つけ、自分のコレクションにする気だろう。

それにしても、いつかは男に戻れる日が来るのかな。なにしろ成功例は俺の一例だけの上、全身クローンは違法行為だし、いくら例の怪しげなプログラムで都合の良い様にデータを書き換えても、短期間に二度も全身クローンを作ったら機密も保てないだろう。遺伝子データとオリジナルの腕のクローンがある以上、可能性は0じゃないだろうけど今はこの身体に慣れないと…、男に戻れるまで寝たきり生活なんて御免だからな。

「はい、じゃあ次は花に顔を寄せてみてね」

あっ、はいはい…っと。えっ?いつのまにか由美に言われるままにポーズ取ってた…。うわー、どんな写真になったんだよー!?想像したら恥ずかしいじゃないか〜。まさかパンチラは撮られてないよね。

なにしろ今着ている服って由美が用意してくれたんだけど…、ピンクのブラウスはともかくフレアのミニスカート、それも屈むと丸見えになりそうな短いのは困ったな。風でも吹いたらどうするんだよ。

最初に「はい、これ着てね」って渡された時、

「やだよー、最初はスカートじゃない方がいいよ。それに、これって思いっきり短いじゃない」と言って断ったんだけど、

「駄目よ!最初が肝心なの。恥ずかしいからってスカート履くのをためらっているといつまでたっても馴染めないわよ」と言われて、仕方なく…

うー、今までパジャマかトレーニングウェアだったし、日常的な生活で常に両足の肌が触れ合っている感覚って味わった事無いんだよね。それに、下から風が入って来るような感覚も…、スース―して落ち着かないよ。

「わぁ〜、可愛い〜!」

由美が部屋に入ってきた時、俺はスカートの裾が気になって下に引っ張ってみたりしている時だった。

「あらあら、ウエストの位置が違うわよ、女の子はもっと上よ、仕方ないわね」って、只でさえ短いスカートが更に上に直されてしまった。

「えっ、あのー、これじゃ…」見えちゃうじゃないか〜。

「大丈夫よ、任せて。ほらこれでいいわよ。髪は後でリボンでまとめて、はい出来ました。姿見で見てみましょうね。まだ女の子の服着た自分自身って見たことないでしょ?私だって今日初めて見たもの」

由美の一言で改めて思い出した。俺って女の子の身体になった後、積極的に自分で鏡を見に行っていない事を。朝、顔を洗う時に洗面所の鏡でちらっと見る程度で、風呂に入った時も同じだ。自分でも意識しない内に認めたくないと言う心理が働いていたのかもしれない。でも今度は待った無しだな。今の「女の子である自分自身」と向き合わなければならない。

「ねっ、自分でも可愛いって思うでしょ?」由美の嬉しそうな声に姿見を見る。

…この娘、誰?

鏡の中の女の子は由美に肩を抱かれていた、スカートの裾を手で押さえながら。うつむき加減の顔で上目使いに俺を見ている。
身長143cm、由美より20cm以上低い。、十四、五歳の年齢としては発育は遅れ気味で十一、二歳位の感じか。でも確かに可愛いよな…。由美が「子猫みたい」って言った印象は確かにそうかもしれない。自分が中学生くらいの時、こんな女の子を見かけたら暫くは頭の中から離れないと思う。顔が赤くなってきた。何で自分に見とれてんだよ…

これが今の自分、女の子の…、由美の妹の…、これが現実なんだ。

うん?でもこの顔どこかで見たよな、夢の中に出てくる俺みたいな?でも女の子の服を着たのは今回が初めてだよね。夢の中の俺は私服の時も制服姿の時も女の子の服を着ていた。事故のショックに依る記憶の混乱が夢にも影響しているのかな?でもそれだけじゃない、この顔には夢の中以外で記憶があるような…

そういえば俺って母さん似だって言われてたな。もしかしたら女の子になって、もっと似てきたんじゃ…、今度家に帰ったら母さんの子供の頃の写真見てみよう。

「ど〜したの〜、ミ・ツ・コちゃん?可愛いんで見とれちゃった?」

あっ!由美が嬉しそうな顔して覗きこんでる。

「え、違うよ。考え事してたんだよ」

「はいはい、そーゆう事にしておきましょ」

「だからー!」

「じゃ、行きましょ」「えっ何処へ?」

「久しぶりに外に出てみましょうよ、部屋の中だけじゃ退屈でしょ?」

「えーっ、これ着て出るの?」

「パジャマで出る訳にいかないでしょ、それに研究所の庭の中だけよ」

「でも…」「いいから行きましょ」

由美に手を引かれて行く時にチラッと鏡を振り返る(あっ、ミニスカートと髪のリボン似合ってて可愛いかも…)

そんな事があって結局連れ出されてしまったけど、やっぱり外って気持ちいいね。普段はもう少し寒いんだけど、今日は特別暖かいからって出ることになったみたい。

と、突然由美が「今日はここで歩いてみましょうね」

えっ、ここで?

「気分が変わっていいでしょっ。じゃあ待ってるね」と俺を置いてさっさと行ってしまった。

どうしよう…。室内の平らな床なら何とか歩けるけど砂利や土の凸凹の道を歩いたことはない。ぶっつけ本番と言う訳だ。由美のやつ、甘えないでやってみろと言う事か。よし!それならやってやろうじゃないか。

う、やっぱり歩きにくい。筋肉に不自然に力が入る(明日の朝も筋肉痛だな)由美はまだ先だ。いつもの距離の3倍以上に感じる。それにしても何故ミニスカートで歩行訓練なんだよ?これで転んだら丸見えになっちゃうよ。あっ、風でスカートの裾が…、押さえなきゃ。恥ずかしいなー。

くそ!何で恥ずかしいなんて思うんだよ、自分の姿を見せられた所為かな。自分でも「あっ、可愛い」とか思ったからな〜。これで転んでお尻丸出しになった所を想像したら自分でも恥ずかしくなってきた…

由美に次第に近づいてくる。由美を見ると心配そうな顔、大丈夫頑張って見せるさ。

ついに到着!なんとか歩ききった。

「はい、良く出来ましたぁ♪」と言いながら由美のやついきなり抱きしめるもんな。

「だからさ〜。幼児に歩き方教えてるんじゃないんだよ」

「だって、やってる事って同じでしょ」と言いながら今度は頭を撫でるし…

もー、子供扱いして…。文句は言ったものの由美の胸に抱きしめられて頭を撫でられるとなんだかいい気持ち。疲れている事もあって離れたくないな…。ま、それは良いとして…

「あの〜由美ちゃん?」

「なに?」

「今日、庭に出たのは歩行訓練が目的だったの?」

「そうよ」

「だったら何でミニスカートなのさ?ズボンの方が良かったんじゃない?」

「嫌い?ミニスカート。良く似合って可愛いじゃない」

「あのねー由美!俺の言いたいのは…、きゃっ!」お尻叩かれた〜。

「こらっ!私の事は『お姉ちゃん』か『由美ちゃん』って呼ぶんでしょ。それに『俺』じゃないでしょ、ミィちゃん」

「嫌だ〜!!ミィちゃんって呼ぶな〜」

「はいはい、美津子ちゃん。とにかくお疲れ様」

お互いの呼び方はいろいろ話したけど、由美の「とにかく!俺と言うのだけは止めて」と言われたのが最初だった。まあ、確かに今の身体じゃ「俺」は似合わないな。かと言って普段「あたし」とは言えないし「ボク」で妥協してもらう事にした。

由美の呼び方は、本人はもちろん「お姉ちゃん!」だったけど、暫くは「ユミちゃん」で良い事にした。あとは俺の(いや、もうボクにしよう)呼び名だけど…

「ミィちゃん♪」

「やだよ、ミツコかミッちゃんにしてよ、それにミッちゃんなら小さい頃から呼ばれてたし…」

「だから駄目なの。ミッちゃんだったら男の子の時に言われてるから女の子の自覚が出来ないじゃない。ミィちゃんの方が可愛いよ、子猫みたいで」

「だから、ミィちゃんって言われると自分がすごく幼く見られてるみたいで嫌なんだよ。実際ずっと幼児扱いしてきたじゃないか」

「いいじゃない、可愛いんだから」「そうじゃなくて…」

話しが噛み合わないまま由美は仕方なく美津子ちゃんとか言う様になったけど、諦めきれないのか事ある毎に「ミィちゃん」って言うものなぁ。もちろん人前で話す時は「姉さん」「美津子ちゃん」でボクは「あたし」と言う事に決めている。まさか外で話しをする時に呼び名で揉める訳にはいかないからね。

「風が冷たくなってきたね、部屋へ戻りましょう」由美がボクの手を取る。

特に力を加えている訳でもないのに、由美と手をつないでいると殆どふらつかないで歩けるのが不思議だった。不安がなくなるんだよね、あれからずっと頼りっぱなしだからな。

「歩き方がしっかりしてきたね」嬉しそうに由美が話しかける。

「あーるき始めたミィちゃんがー♪」こらっ、歌うなーっ!お前は保母さんか!?

【由美の日記】

うふふふふっ、今日はミニスカート作戦成功!恥ずかしそうに裾を気にしながら歩いていたわね。
だってミィちゃんたら、早く歩ける様になりたい気持ちは判るけど無理して転んでばかりなんだもの。それならと思って試してみたけど、さすがにあの格好で外で転んだらって考えたら無理は出来ないよね。

でも、良くあのミニスカート履いたわねぇ。さすがに短か過ぎたから嫌がったら少し長めのって思っていたけど「最初が肝心よ」って言ったら以外と素直に履いてくれたもの。もっとも、最初は裾を掴んで恥かしそうにしてたよね。でも良く似合って可愛いんだ♪
本人も姿見で自分の姿を見たら顔を赤くしてもじもじしてたり…、少しは女の子意識してきたかな?歩くほうも大分慣れてきたみたい。本人は気がついているのか私と手をつないでいる時って殆どふらつかないのよね。心理的な影響って大きいのかな。好きなだけお姉ちゃんを頼ってくれていいのよ〜♪

相変わらず慣れてくれないのは「ミィちゃん」。もう慣れてくれたっていいと思うけど、最初にあの娘が自分で上手く動けない時期に「ミィちゃん」って呼びかけながら赤ちゃん扱いしちゃったから傷ついているみたい。

でも、ミィちゃんって呼びたいよー。

 

【幼い頃の記憶】

一度まともに歩ける様になると神経調整と学習効果で急速に歩行は上達して、1週間もすると軽いランニングもこなせる様になってきた。もともとボクは運動神経はいい方だ、予定より早く運動時の違和感が無くなってきたな。

「今度はテニスや水泳をやってみましょうよ、走るだけでは飽きるでしょう?特に水泳は関節に大きな衝撃を与えないで全身運動になるからね。美津子ちゃんとしては、早く自由に動ける様になりたいんで一所懸命やってるのは判るけどオーバーワーク気味よ。関節の負担が大き過ぎるから運動量を増やすんなら水泳の割合を増やしたほうがいいわね」

ふーん、なるほどね。

「テニスも水泳もウエアは私が可愛いの選んであげるね」

はいはい、結局目的はそれですか…

「手先の繊細な動きも大事だから、そのうち料理とお裁縫も教えてあげる」

「えー!そんなのいいよ」

「駄目!家事は女の義務じゃあないって意見も正しいとは思うけど、自分の大事な人においしい御飯作ってあげるのも幸せの一つの形よ。それに、家事、仕事、勉強全部出来れば無敵よ、うん!」

あのー、ユミちゃん?なんで両手を握り締めて気合を入れてるの?九年前を思い出しているのかな。

―暫くして、浴室―

はぁー(深いため息)

料理かぁ、由美のやつ19歳にして家事全般得意だもんなー、特に料理は。

「ミッちゃんの家の御飯は私が作る!」って由美が夕方やってくる様になって九年、今や我が家のおふくろの味そのものになってるよな。あの修行の成果を教わったら…えらい苦労だよ、本気なのかなぁ?

九年前に亡くなったボクの母親は料理が得意な人だった。家族ぐるみの付き合いだった為、日生おじさん夫妻も由美も母さんの料理を楽しみに家に来ていたものだった。でも、母さんが亡くなった後の食事は一転して外食や出前で済ますような味気ない物に変わってしまったんだ。由美のお母さんが時々夕飯に呼んでくれたけど、おばさん自身仕事が忙しくて毎日と言う訳にもいかない、そんな時だった。

「ミッちゃん、お母さんのおいしい御飯食べられなくなって可愛そうだから、あたしが作ってあげる」と言って由美が夕食時に来る様になったのは。

彼女自身も両親とも忙しい為、出前で夕食を取る事が多かった。ある日、ボクが夕食に呼ばれた時もおばさんの予定が急に変わって出張に出た為、結局出前で済ます事になってしまった。

「ごめんなさいね、今日はお母さん御飯作れなくて」

「いいよ、ボクはいつもだから慣れたよ」

「ミッちゃんのお母さん、御飯おいしかったね」「しょうがないよ…」

そんな会話をしながら食事をしている時、由美は何か考えこんでいるような様子だった。それから数日後だった、彼女が夕食時に来る様になったのは。

もちろん小学生に最初からおいしい料理が出来るわけ無いけど、指を傷だらけにして頑張るうちに腕を上げて母さんの料理に負けないくらいになったよな。由美のお母さんが「この子私より上だわ!」と言うのに1年もかからなかったもの。既にそのときには、仕事で帰りの遅い母親の代わりに自分の家の食事を作り、その後ボクの家に来て夕食を作る事まで…、しかもそれぞれの家の味付けで作ると言う事までやってのけていた。

それから今まで、家事全般、ずっと由美に頼りっぱなしだったな。それでいて学業の方はと言うと高校1年で、全教科を終えてしまい、その気があれば飛び級で大学進学も出来るほど…、いったい何時勉強してたんだろう。
学校そのものは「制服が気に入らない」とか、ぶつぶつ言ってたけど、学校のレベルが高い事と、家に近い事が便利なので、日生、坂崎両家の家事を一人でこなす身としては我慢して通っていたみたい。その割には、何故か飛び級はしないで高校は三年間通ってたけど…
そう言えば『絶対にやらなきゃならない事があるの!』って気合入れてたな、三年間何してたんだ?

ま、とにかく一度目標を決めたらひたすら前進あるのみ、と言うのが彼女のすごいところだな。…と言うことは、うーん、彼女の今の目標はボクの女の子修行と言うことで、これはどう考えても中途半端に終わらせるつもりはないな。最終目標は花嫁修行なんて事になったらどうしよう?あーあ、先が思いやられる。まぁ、考えてもしょうがないな、茹だってしまう前に出よう。

『髪…、伸びたね』風呂上りで鏡を見ながら髪の伸び具合をチェック。やっと肩から背中にかかりそうな程に伸びてきた。身体の急速培養は神経の負担が大きいことから脳を移植した時点で停止されたけど、髪だけなら問題は少ない様で、かなり早目に伸びる様にしてもらってる。

『伸ばすなら今まで使っていたカツラと同じ、背中まで伸びた髪がいいな。あと少し…』

今度は胸が気になってきた。

『胸も発育不良だな、もう少しあれば子供用じゃないブラだって』

ふう、…ボクは何考えてんだろ。

始めて女の子の服を着た自分と向き合って以来、ふと我に返る時こんな事を考えている自分に気がついて呆然としてしまう。
どうせ由美に話しても「やっと馴染んできたのよ♪」なんて嬉しそうに言うに決まってるんだ。

でも何かが違う…。馴染んだと言うのは確かにそうなのかもしれないけど、それは女の子である自分に馴染んだのではなく、女の子である自分を思い出した様な…

その事自体が訳が判らない。ボクが女の子であった事実など無いのは判っているんだけど、事故以来見続けている悪夢の中から、女の子である自分の欠片を訳も判らずに少しづつ拾い集めていた様な気がする。そして、鏡に映った自分の姿を見た時に拾い集めた欠片の意味が理解できた…、そんな感じなんだ。恐らくこんな事を由美に打ち明けても、事故の時の記憶の混乱で訳の判らない夢を見ていると言われるだけだろうな。

悪夢…、終わらないかなあ。

普段の生活、これは由美の影響が大きいんだけど、座る時スカートの裾を気にしたり、膝が開いていると慌てて閉じたりする。ベッドの上に座っている時なんか、お尻だけペタンと落とす『女の子座り』になってたりした事も…

そんなボクを見て由美は嬉しそうに微笑んでいる。

あーあ、こんな風に馴染んで行くのかな?本当は女の子に近づいているのが自然なんだろうけど、自分自身の中ではまだ気持ちの整理がつかないんだよね。でも、リハビリは順調で研究所の施設を出て由美の家に入り、正式に由美の妹になる日も近い。クローンへの脳移植手術を短期間に繰り返す事はデータが無い以上危険と判断されていて、数年間は観察期間が必要との事だったから、当分は女の子としての生活をするしかない。もしもこのまま女の子に馴染んでしまったら、男に戻れる日が来た時にボクはどちらを選ぶんだろう?

まあ、それはともかく自分の家に一度戻ってみよう。亡くなった母さんの子供の頃の写真も確かめたいし、親父(あ、女の子としてはお父さんと呼ばなければね)にも挨拶しなくては、最近あまり会う事も無くなってるし…
それから…、あー考えるの止め!とにかく一度家に帰ろう。由美に送ってもらおうっと…。やっと車の運転が出来る様になったみたい。ボクが元気に動き回れる様になるまで車の運転が怖くて出来なかったらしいね。
頼みに行くついでに今晩は由美の部屋に泊めてもらおう。まだ変な夢は続いているんだけど由美の部屋で寝る時は大丈夫なのが不思議だな。

お姉ちゃん待っててね、今日は縫いぐるみ無しよ♪…なんてねッ。

 

【女学生?】

「いらっしゃーい♪」

ボクが枕を抱えて部屋に行くと由美って本当に嬉しそう。

「ユミちゃん頼みたい事が…」家に帰る話しはOK。週末に送ってくれる事になった。

「取って来る荷物はあるの?」

「うん、服は男物だからね。本は送ってもらうし、持ちかえるのは手荷物くらいかな?」

それだけしか無いんだよね、今のボクと満夫の時との接点は…

「お父さんともお話してきなさいね。私はいない方がいいでしょう、後で迎えに行くからね」

それからは軽いお喋りで時間をつぶした。ボクは枕を両腕に抱いたままベッドの上に女の子座り、ベッドの上ではこの方が安定するんだよね。枕を抱いているのは元々は由美がすぐに抱きつきたがるんで防御する為だったんだけど、由美はどうやらこのポーズがお気に入りらしいね。嬉しそうにこっちを見てる時「ん、なーに?」って首を傾げると「あはは、何でもないのよっ」って顔を赤くしてる。

こっちだって、ツボは押さえてるもんねー♪ユミの照れた顔をみるのも少し楽しい。

「ところで、学校はどうするの?入るなら高校からよね」と由美。

まあ、目標も無しに家に閉じこもっているのは嫌だし、取り敢えず学校には行きたいけど…

「そうだね、でも今更って気もするし、検定試験受けて直接大学に入るかな…」

「えー?女学生の生活も経験してみると楽しいよ…、美津子ちゃんの学力なら三年間通う必要ないし、三年に編入して来年春には卒業だろうけど、10ヶ月位でも経験してみなさいよ。私の母校だったらお父さんが話しをすれば、すぐにでも編入できるよ。知ってる後輩もいるし、嫌なら辞めればいいんだし、ねっ?」

「うーん、どうしようかな?」あれっ?そう言えば…

「ユミちゃんって確か学校の制服嫌ってたよね。こんな可愛くない制服の学校なんて嫌だって。その割には飛び級で卒業しないで三年間通ってたのは不思議だったけど、その嫌いな制服の学校にボクを入れたいの?」

確か由美の学校の制服って、学校の方針で体型を目立たせない様なデザインが今まで生き残っていたみたいで「前世紀の遺物よ!!」って由美は怒ってた筈…

「あのね、最近あそこの制服って変わったのよ。スカートもチェックのミニで色も数種類選べるし、ブレザーもスマートなデザインになって生徒の評判がいいんだから。それにね、週に一日は私服で通学できる様になったのよ」

「ふーん…。あっ、何となく判っちゃった」「え?なっ何よ…」

「ユミちゃん三年間で『どうしてもやりたい事があるの!』って張りきってたよね?」

「えっ?えーとそんな事もあったかなあ」あっ、反応あり。

「三年間かけて制服改革運動やってたろ?そうでもなけりゃ、あれだけ嫌ってた制服の学校なんか1年で卒業しちゃったんじゃないの?」

「えーとぉ、制服改革?そう言えば聞いた事があるような…」

「とぼけても無駄だよー。なんでボクを入学させたいのか判ったもんね。制服が変わったのは自分が卒業してからだから、代わりにボクに着せたいんでしょ?」

「えっ?あ、そうじゃなくて、あくまで美津子ちゃんの学生生活の想い出を作ってあげたいと…、それなら制服も可愛いほうがいいでしょ?まあ、私だって間に合えば着たかったけど」

やっぱりね。

「へー、そんなに着たいんなら自分で着てみたら?もっとも二十歳近い歳で恥ずかしくないんならね」

「わーっ!言ったな、許せーん!」由美が捕まえにきたけど、そう簡単につかまらないよ〜。

「いや〜ん」

「こらー!いきなり女の子の演技するな」

 

「捕まえた〜♪」二人でじゃれあっているうちに由美に抱きかかえられちゃった。

「ねっ、いこうよ、きっと楽しいよ。先行き不安なのは判るけど一年くらい遠回りしたっていいんじゃない?」

抱きしめられて頭を優しく撫でられながら言われると弱いんだよね…。子供扱いは嫌だけど気持ちいいな…。いつもこうやって寝てるから眠くなってきちゃった。ふぅ、考えてみれば思いっきり甘えてるよね。これで「お姉ちゃん」て呼んであげないのは悪いかな?

「うーん、考えてみようかなぁ?」

その日は話しはそこまで。「夜更かしは美容の敵よ」って由美の一言で終わり。お休みなさーい。

 

【由美の日記改題→ミィちゃん日誌】
ミィちゃん、自分自身とお別れする決心がついたのかしら?一度家に帰りたいんだって。
女の子の服を着始めてからは仕草も女の子っぽくなってきたし…。うふふっ、やっと馴染んできてくれたかな〜♪

お父さんともお話した方がいいよね、それに亡くなったお母さんにも報告を…
どんな気持ちなんだろう、別な人間になって(それも性別まで変わって)今まで暮らしてきた生活の場を眺めるって…、しかもそこには自分の居場所は既に無いのに。
新しい人生、大変でしょうけどお姉ちゃんがついてるから頑張ってね。

学校も行かせてあげたいな、家で一人きりで検定試験まで時間を潰すなんて淋し過ぎるよ。それに、このままじゃ新しい友達も出来ないし…
絶対説得するもんね!やっぱり、抱きしめ、頭撫では有効かな?私の部屋にお泊まりの時いつもやってるんだけど、本人は「子供扱いしないでよ」って言ってるわりにあまり嫌がらないよね。すぐに力が抜けて気持ちよさそうにしてるもの。
制服着せてあげたいな、きっと似合って可愛いわよ、うふっ、楽しみ。…あら、結局こっちの話になっちゃった。まあ、いいか。

それにしても最近のあの子の言動って少し幼くなってない?自由に動けない時から私が生活全部面倒見てあげた為かな?生活環境の影響って大きいのかしらね。おかげで一段と可愛くなって嬉しいけど…

今日のミィちゃん、枕を両手で抱えてベッドの上にちょこんと女の子座り。「ん?」なんて首傾げながらニコって笑うと…、うーん可愛過ぎるよー。いつそんな仕草覚えたのよ?そのポーズで枕なんかつまらないよ、お姉ちゃんが可愛い縫いぐるみ買ってあげるからね。

 

【後日談】
ボクが家に帰るって言った二日後、由美の部屋に泊まった時「はいこれっ、枕より抱き心地がいいわよ」ってネコの大きな縫いぐるみをプレゼントしてくれた。なんでだろうね?まぁいいか、さっそく枕代わりに抱いてみる。へー、ふかふかして気持ちいいね、由美が縫いぐるみ好きなのも判る気がするな。

結局、その縫いぐるみはボクのお気に入りになって試しに抱いて寝たりして…
ただ一つの不覚は、縫いぐるみを抱いて寝ている時、朝起こしに来た由美に見つかってしっかり写真を撮られちゃった事。あとで「私の宝物ー♪」って写真見せられてものすごく恥かしかった。

「今度引き伸ばしてパネルにしてあげる♪」

あっ、悪夢だ…

(続く)


薪喬です。第3話と比べると満夫君(ミィちゃん)急速に女の子化してますねぇ、本文中で鏡の中の自分を見て以来、云々の部分がありますが、これは今後のストーリイの幹になる様な…
さて、次回第5話ですが、満夫君(ミィちゃん)自分の家に戻ります。そこで何を見て、何を知るのか、そして美津子の戸籍の由来は?  次回第5話(想い出)です。

戻る

□ 感想はこちらに □