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彼の長い一日がやっと終った。


第2宮家

第三章 代理者の謎

作:starbow


T氏(P)は、周りのざわめきを感じて、目を覚ました。時刻は、ちょうど8時を過ぎたところだった。
ちょうど、ボスが出社してきた所だった。
「きみ、資料はできているかね。」
「はい。いまここへお持ちします。」
「うむ、大枠はこれでいい。」
ボスは、パラパラと資料をめくり、ざっと見て、内容をチェックした。
「あと、この絵をもう少し右に寄せてバランスをよくし、その下の文字を少し大きくしろ。」
「はい。至急修正しておきます。」
T氏(P)は、いそいそと自分の席に戻り、資料の手直しにかかった。
「いちから、すべて作らせるのではなく、もう少し、自分で作ればいいのに。批判しかしない人だ。
。。。。
それにしても、もう昼近くになったな。これでいいか。」
パソコンに向かっていた体を椅子ごと回転させてから立ち上がると、事務所の離れたとこにあるプリンタに印刷した資料を取りに行った。
そして、手直しした資料をボスの机の上に置いて自分の席に戻った。
T氏(P)は、徹夜明けである意味感覚がシャープになりながら、周りを見渡して独り言をいった。
「人の苦労をわかっていないな。ほんとに。」


昼過ぎにボスは、資料を持って会議に出かけた。
会議が終ったあと、ボスは、上機嫌で戻ってきた。
「きみの作成した資料は、なかなかの評判だった。俺の面目も立ったというものだ。」
そういって、ボスは立ち去っていった。
あれやこれやしているうちに、夕方になり、帰宅する時刻になった。
T氏(P)は、徹夜の疲れからか、居眠りがちであった。
そこに、同じ職場の女の子が周りに来て、T氏(P)を起こした。
T氏(P)は、眠い顔を指で擦りながら、周りを見渡し、人だかりでびっくりした。
「なんだい、僕は見世物じゃないぞ。」
「指にはめているその指輪はどうしたんですか?」
「え!?そんなものしてないよ。」
「指にはまっていますよ。ボケていないで。」
「本当だ。どうしたのかな。昨日までは、指にはまっていなかったのに。」
T氏(P)は、無意識に話題を逸らし、あれこれ詮索されるのを避けた。
「今日は本当に眠いな。さっさと帰ろう。」
そういうと、T氏(P)は帰宅してしまった。

***

そのころ、玉司宮ことT氏は、AZ研究所に戻ってきたところであった。
戻ってきたところで、リングが点滅し始め、直にハーフモードのタイマーが解けて、T氏の意識が表に出てきた。
T氏は、気が付くと知らない場所で女装して立っているのにびっくりしていた。(もちろん今は女性なので、これが普通なのだが。)

姿見の前に立っていたので、鏡にはかわいいSさんがきれいないでたちで立っていた。
服装は、宮中に行くために正装していた。
頭にはティアラを着け、白いドレスに身を包んでいた。
髪は、ロングでつやつやしていた。
姿に見とれて、ボーとしてしまっていた。

しかし、総理と陛下との会見のことを思い出し、混乱してもいた。
「預言書にかかれていることで、Sさんが関係していることとはなんなんだろう。」
記憶のそこからさらい出した事実は、恐るべきものだった。
「こんなことを俺ができるのだろうか?」
そこに、ヨウ君が現れ、言った。
「どうれあろうが、あなたが実行しないと、この次元の地球は破壊されてしまいますよ。
そのためにも、能力と記憶を引き継いだあなたが、一刻もはやく、本格的に活動を早く行えるようにならないといけません。」
「ハーフモードがあればべつにいいんでは。」
「ハーフモードは、始めの一週間だけしか効きませんよ、また、一回あたり4時間が限度です。それを過ぎると自動的に解除されます。」
「この身が持たない状況をどうすればいいんだ。」
「練習あるのみです。それでは早速練習を始めますので、まず、化粧を落として、普段着に着替えてください。その後、練習ですよ。いいですか。」

玉司宮は、鏡台を前に座り、化粧の落とし方を記憶から引き出していた。
「まず、クレンジングして、化粧を落とすか。」
手のひらにクレンジングを取り、頬、おでこ、顎、鼻の順番に指先でくるくると肌に馴染ませてから丁寧にコットンでふき取り、ぬるま湯でよく洗う。
「次は、洗顔で。」
洗面所に移り、まず、洗顔料を手のひらの取り、きめ細かく泡立てる。
その後、鼻、おでこで一番最後が頬の順番で指でらせんを描きながらやさしく洗い、最後にぬるま湯で洗い流して、やわらかいタオルでおさえるようにして水分をとる。

「ふー。いろいろと手間がかかり、時間がかかるなー。」
「文句はいわない。毎日のケアが肌のためには必要なんですよ。」
「次は、着替えか。」
玉司宮は、四苦八苦しながら、ドレスを脱ぎ、乱雑に脱ぎ捨てて、ヨウ君に散々文句をいわれながら、ドレスをハンガーに吊り、ティアラを小物入れにしまった。
その後、シャワー室に入った。

T氏は、姿見に映った今の自分の体を見ながら、やっぱり女性になってしまったのかと落胆していた。
姿見には、モチモチとした肌で体毛も少ない体が映っていた。
胸には、二つの大きな膨らみがあり、臍のあたりはくびれていた。
それにしても、体格のわりにバストが大きいかな。
指で乳首を摘んでみると、とたんに体がしびれ、熱くなり、意識がボーとなってしまった。
気を取り直して、シャンプーをし始めた。
「ちゃんと、シャンプーしてトリートメントしてからリンスを使うんですよ。」
「判っている。」
「シャンプーは2回ですよ。」
「判った。」
長い髪を順番にシャンプーし髪と頭皮の汚れを落としていき、トリートメントで傷んだ髪を労わり、最後にリンスで髪にコートするんだ。

洗い終えたあと、バスタオルで体を包み、水気をとり、髪にタオルを巻いて部屋に戻った。
その後、パンツとブラジャー、キャミソールを身につけてから、ドライヤーで長い髪をほぐしながら乾かしていった。
「パンツは、おしりにフィットするんだ。」
「とうぜん。」
「ブラジャーをしないといけない。」
「形を整えるためにあるのですから、必要です。」
「しょうがないな。」
「ブラジャーをするときは、ストラップを肩に架けて、上体を前かがみにして、バストをカップのなかにいれて、ホックで止める。」
「そのあと、キャミソールと。」
「ちゃんと着てくださいよ。パンツの中にいれない。」
「わかったよ。」

「髪を乾かすのが面倒だ。」
「いいかげんにしたら、髪が傷みますよ。」
「わかったよ。」

髪を乾かし終わり玉司宮は、既に疲れ果ててしまっていた。
しかし、ヨウ君は、容赦なかった。

「次は、普段着ですよ。」
「まず、スカートか。」
「ファスナーの部分を前にして、足を入れて、ファスナーを閉じたら、くるっと回して」
「はいはい。」
「ウエストは、臍の上ですから、もう少しあげて。」
「こうかい。」
「前後ろが逆ですよ。」
「直せばいいんだろう。」
「最後にシャツですよ。」
「簡単じゃないの。」
「裾は、中にいれない。」
「判ったよ。」

文句を言いながらも、着こなしていく玉司宮であった。

「次は、歩き方、座り方などです。」
「判ったよ」
「まず、歩き方は、踵ではなく、つま先で歩くんですよ。」
「こうかい。」
「スカートに足を取られるよ。」
「もっと、歩幅を小さくして。」

履き慣れないパンプスでかろうじて歩きながら、玉司宮は四苦八苦していた。
「重心を調整して。」
「えーと、これでいいかな。」
「つま先で歩いて。」
「ふー。」
「背筋を伸ばして。」
「なかなか大変だ。」
「次は、階段の登り降りです。」
「降りるのが怖い。」
「やるんです。」
「ふー。」
「もう少しおしとやかに降りるように。」
「はいはい。」
記憶を探しながら、何とか歩けるようになった玉司宮であった。

その間に、ヨウ君は、次の過程の用意をしていた。
「次は、椅子の座り方です。」
「簡単じゃないの。」
「それじゃ、座ってみて。」
「よっこらしょと。」
「座るときに声を出さない。」
「うー。」
「後ろに手をやって、スカートを揃えて座る。」
「こうかい。」
「あと、膝を揃えて。」
「昔からの癖で股が開いてしまうんです。」
「練習あるのみです。」
「他には。」
「膝を斜めにして座る。」
「ふー。」
座り疲れてしまった、玉司宮であった。

外出用の服をヨウ君は、いつのまにか用意していた。

「次は、お出かけ用の服ですよ。」
「まだあるの。」
「今日は、次で終わりですから。」
「しょうがないな。」
玉司宮は、普段着を脱いで、お出かけ用の服を着ていった。
「ストッキングは、片方ずつ伸ばしていき、最後にズズーと上げるんですよ。」
「こうかい。」
「気を着けてください。爪を立てると破れます。」
「おそる、おそる。」
「ワンピースは、肩のパッドに気をつけて。」
「後ろが留められないけど。」
「手を上からもっていって、止める。」
「はいはい。」
「最後にイヤリングです。」
「耳たぶが痛いのだけど。」
「もう少し、留め金を緩める。」
「疲れたよ。」

玉司宮は、疲れたのか、そのままスヤスヤと眠ってしまった。
「しょうがないな。しかし、そういうところがいいのかも。」
ヨウ君は、人の形に変身すると、玉司宮を寝室に抱いていった。
「おやすみなさい。」

***

数日後、玉司宮は、なんとか女の子らしいしぐさができるようになっていた。
「今日は、玉司宮のお披露目パーティーですから、言動に注意してくださいよ。」
「わかっているよ。」
「だめ。」
「はい、判っていますよ。ヨウ君も気をつけるのよ。」
「よろしい。」

いつものように、玉司宮は、祭壇に立ち、空間を接続すると、宮中に道を開き、中に進んでいった。


目をあけると、そこは、以前と同じ宮中にある開かずの間であった。
中は、同じように祭壇があり、周りは、薄桃色一色であった。
そのとき、外から声がかかった。
「お見えになられたかな?」
「はい、ここにおります。」
「それでは、宮の住まいに案内しますよ。」
「はい。宜しくお願いします。しかし、陛下に案内していただくとは恐れ多いことです。」
「なにをいいなさる。それは、逆ですよ。あなたさまのお役にたてて光栄ですよ。」
迷路のような宮中の廊下をいくつも渡り、やっと新築で真新しし趣の建物にたどり着いた。
「ここですよ。気品があって清楚で趣があるでしょう。」
「こんなに立派なものを短期間で作っていただき、なんと言って良いか、ありがとうございます。」
「いいえ、あなたさまが使われるものですので、限度はつけませんでしたから。」
「宮中にあるような、開かずの間もありますのかしら。」
「はい。ありますよ。」
「あなたさまの寝室の隣にあつらえておきました。」
「細かいことに気を配っていただき、ありがとうございます。」
「それでは、宮に使える女官に会っていただきますよ。」
「はい。」
陛下は、鈴を鳴らして、女官たちを呼ばせた。
「ここにいるのが、玉司宮である。皆は、この方に、真心を込めて尽くしてくれ。それでは、あとは、任せたからな。」
陛下は、そういうと、ゆっくりと去っていった。

玉司宮は、女官に言葉をかけていった。
「わたしが、玉司宮です。皆も今日からしっかり勤めてください。ところで、ここの長官はどなた?」
「ここにいます。」
「わかりました。なにかありましたら、必ずわたしの耳にいれるようにしてください。」
「仰せのままに。」
「それでは、皆も忙しいと思いますので、個々の持ち場に戻ってください。」
女官たちは、静々と退席していった。あとには、玉司宮と長官だけが残っていた。
「宮様、今日の予定を申し上げます。」
「聞かせて頂戴。」
「今日は、20:00から赤坂にてお披露目パーティーがあります。18:00には、お支度を始めますのでご用意をお願いします。」
「判りました。それでは、わたしは、執務室にいますので。」
玉司宮は、背筋をぴんと伸ばして優雅に絨毯がひかれた廊下を歩いていった。

執務室には、既に情報収集担当からいくつかレポートが集まっていた。
「殿下は、最高の人材を集めてくれたようね。」
「もう、こんなに日本各地の遺跡の変異が徐々に始まっているのね。」
玉司宮は、情報を整理して、女官たちに次の仕事をテキパキと指示していった。
その様子は、T氏のイメージとだぶるものがあるようであった。

***

各国の大使や政財界の大物も出席して、お披露目パーティが始まった。
玉司宮は、陛下に同伴され、現れた。
お召し物は、薄桃色を基調としたドレスであった。指にはT氏(P)との接続用の指輪をしていた。
「わたくしが、このたび第二宮家を創設させていただきました玉司宮です。」
誰もが舌を巻くほど優雅に振舞っていた。
彼女の実態が、T氏であるとは、到底想像もできないものであった。
「日本のプリンセスにふさわしい優雅さですね。」
皆が我を忘れて見入っているなかで、玉司宮は、皆に暗示を掛けていたのであった。

そのころ、T氏(P)は、ボスに呼ばれていた。
「きみを今度の定期昇進時に部長に昇格することが内定した。おめでとう。」
「え。わたくしがですか?」
「そうだよ。きみの作成したあの資料に書かれている事業を君の手でやってみたまえ。健闘を祈っているよ。」
そういうと、ボスは去っていった。ひとりT氏(P)は、残されたのであった。


翌日、玉司宮のところに差出人不明の封書が届いていた。
その中には、なぜか数字しか書かれていなかった。



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