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イマジン  by Reika Marie


(CHAPTER-16)

智恵子と高倉は香港旅行がきっかけで交際が始まったようだ。
お互いに若くないので派手な交際にはならないが、大人同士の秘めた恋は
周囲のものにとってとてもほほえましく思えた。
女としての生活にも落ちつき心にも余裕が出来てきた純子は今までいろいろと
心配をかけてきた母に何とか幸せになってもらいたいと思っていた。

そんな矢先、結婚式場から電話が来た。以前に結婚披露宴を予約しておいたのに
事故騒ぎでキャンセルするのを忘れていたらしいのだ。
純子はキャンセルしてもらう前にあることを思い出した。
それは純子が性転換手術を受ける直前に母と交わした言葉だった。

「出来ることなら形だけでも結婚式を上げてみたいよ。」
「いいわよ、純。さっそく式場にウエディングドレスを2着予約しましょうか?」

純子は母への恩返しを思いついた。
「ねえ、美穂?あたしの計画を聞いてくれる?」
美穂は純子の奇抜な企画を聞いているうちに顔がほころんできた。
「お姉ちゃん、本気でやるつもり?でも、お母さんと高倉さんを結びつけるには
 いいかもしれないね。いいわ、やってみましょう。なんだかどきどきする・・。」

翌日、純子は甘える口調で母に告げた。
「お母さん、あたしが手術を受ける前に言った言葉を覚えてる?」
「ああ、あなたがウエディングドレスを着て結婚式をあげる話ね?」
「あたし、好きな人ができても相手の親に元男性だとばれたら結婚なんて
 一生できないかも知れないでしょう?一度はウエディングドレスを着てみたいの。
 結婚式場にはまだ予約が入ったままになってるらしいので美穂と形だけでも
 結婚式をあげさせてもらえないかしら?
 防衛隊の仲間が除隊した記念のパーティを開きたいって言ってるし、
 美穂があたしたちの家族になったことも祝ってあげたいわ。
 それに新しい戸籍ができる日はあたしにとって女としての誕生日なのよ。
 ねえ、あたしのわがままを聞いてくれない?」
智恵子は複雑な表情で純子の話を聞いていたがやがてうなずいてくれた。
「いいわ、あなたと美穂ちゃんが仲のいい姉妹としてこれからやっていくためには
 一度、一区切りをつけるのも良いかも知れないわね。」
「ありがとう、お母さん!」

数日後、純子はパーティの招待状を持って防衛隊を訪ねた。
「みんな、あたしが女に生まれ変わった記念のパーティをするの。
 予定していた結婚式は出来なくなってしまった。
 あの時の婚約者は今はあたしの妹になったのよ。
 せっかくだから妹と話して結婚式のまねごとをすることになったの。
 あたしのウエディングドレス姿を見てちょうだいね。」
以前の同僚はあまりに変わってしまった純子の姿に最初は唖然としていたが、
やがて美しい女として純子を受け入れてくれ新しい人生を祝福してくれた。

かつて純子のライバルであった中井は言葉を失っていた。
手術直後のはれぼったくてあか抜けない姿しか覚えていなかった中井は純子が
あまりに美しく変身したことが信じられないようだ。
ウエーブのかかったしなやかな髪をなびかせ、上品なワンピースに
身を包んだ目の前の美女があの気の強い純だったなんて・・。
「純・・・女にされた今のお前は幸せなのか?」
「ええ、あたしは男でなくなったことを少しも後悔していないわ。
 むしろ女になれてよかったと思っているの。あたしはこうなる運命だったのよ・・。」
純子はあたりに甘い香水を漂わせて去っていった。
中井はいつまでも純子の艶やかな後ろ姿に見とれていた。

純子は高倉を訪ね招待状を渡しながら言った。
「おじさま、今回のパーティでは演出としてあたしは花嫁さんになるんです。
 花嫁には父親の介添えが必要なんです。
 お願い、あたしの父親替わりになっていただけないかしら?」
高倉は甘える純子の姿に照れてながら承知してくれた。
「い、いいか?あくまでも父親の替わりだからな・・・。」
真っ赤になって興奮気味に話す高倉を見て純子は可愛いと思った。

いよいよパーティの当日になった。
純子と美穂は別々に別れて結婚式場の控え室に入った。
二人とも花嫁姿で登場するという変則的なパーティに式場の関係者は混乱していた。
智恵子は花婿側控え室で待機している美穂の元に向かう前に言った。
「あたしは美穂ちゃんの介添えをするからあとはありさちゃん、お願いね?」
今では純子の親友となったありさはにっこり笑ってVサインを出した。

「さあ、純子ちゃん。服を脱いで着替えましょう。」
純子は身につけていた服をすべて脱ぎ去り、肩のラインを綺麗に見せるためブラジャーを
ストラップレスのものに変えた。コルセットでウエストを締めた後、ドレスにボリュームを
出すためにペチコート替わりにパニエをはいた。
ドレスは長いトレーンでスカートもボリュームがあった。
パフスリーブのやわらかな量感は優雅さを強調し、光沢に富んだサテンのドレープは
純子を可憐な花嫁に変えていた。

「純子ちゃん、素敵よ。お化粧してもらってもっと綺麗になろう?
 美容師さん、純子ちゃんを世界一綺麗な花嫁に変えてください。」
ありさに手を引かれた純子はメイクをしてもらうためにイスに座った。
美容師は純子の髪をアップにしてメイクを始めた。

化粧水を含ませたコットンが純子の顔をたたき始めた。
毎日手入れを欠かさない純子の肌は今ではとてもきめ細やかになっていた。
リキッドファンデーションのついたスポンジが顔をなでて行き純子は
透明感のあふれる肌に変わっていった。
眉は描きやすいように入念にカットしておいた。
アーチ型の細い眉が純子の女らしさを引き立てていく。
目元にパープルのアイシャドーを塗ってからピンクのシャドーでグラデーションをつけていき、
目元は立体的になった。リキッドのアイライナーがひんやりとした感触で目の縁を彩った。

晴れの日のメイクなのでつけマツゲがマツゲの上に乗せられ、純子の目は女優のようであった。
瞬きをするたびにマツゲが揺れた。ルージュが紅筆にとられて、唇が赤く塗られていく。
オレンジのチークがブラシで頬に色を付け、純子は美しい花嫁になった。
派手なイヤリングと銀色のネックレスは花嫁の魅力をさらに引き立ててくれた。
髪飾りをつけたのちに純子の頭にベールがかぶせられた。
純子は鏡の中に映る美しい花嫁姿にうっとりとしていた。
「あたし、綺麗・・・。」

(エピローグ)

ありさは女になる手術直後に不安で怯えていた純子が今ではこんな素敵な花嫁姿に
なれたことが自分のことのようにうれしかった。
「今回花嫁さんの練習をしておけば、本番の時にも戸惑わないわね。
 本番が来たときにはあたしがまた手伝ってあげるよ。
 純子ちゃん、女になってよかったね。」
「ええ、あたし本当の結婚するわけじゃないのにすごく感動してるの。
 いつかはあたしも女の幸せをつかんでみせるわ・・・。」

白いロングの手袋をつけ薔薇のブーケを手に持った純子は廊下で待っていた高倉と合流した。
「純子、綺麗だ・・・。こんな綺麗な花嫁さんは見たことがないよ。」
「ありがとう、おじさま。」

披露宴の会場に向かう廊下を歩きながら外を見ると雨が降り出してきた。
高倉は昔を思い出してつぶやいた。
「ジューン・ブライドか・・。家族を失ってしまった俺には縁のない世界だと思っていたから
 こんな経験ができてうれしいよ。」
「ねえ、おじさま?花嫁の持っているブーケを渡された人は
 次に幸せなお嫁さんになれるって話は知ってるでしょう?
 あたし、このブーケを誰に渡すのかわかる?」
高倉は首を傾げていた。誰だろう?ありさちゃんからはまだそんな話を聞いていないし?

「このブーケを受け取る相手は・・・あたしのお母さんよ。
 おじさま、今回の介添えを機会にあたしのお父さんになってくれないかな?
 お母さんはずっとおじさまのことを慕っているの。
 おじさまもお母さんのことは嫌いではなさそうでしょう?」
「純子、まさかこのパーティの目的は俺と智恵子さんを結びつけるために企画したのか?」
「ばれちゃったようね。おじさまが再婚相手なら亡くなったお父さんもきっと許してくれるわ。」
「そうだったのか、ありがとう・・・。」
高倉は感激して純子の手を強く握りしめた。純子は小さい声でそっと言った。
「おじさま、お母さんを幸せにしてあげてね・・・。」

純子はブーケを握りしめ、深呼吸して式場のドアの前に立った。
やがてドアが開くと、向こうに立っているウエディングドレス姿の美穂が見えた。
二人は目で合図を交わしながらお互いに悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
その手の中には新しいハートのペンダントが隠してあった。
二人は式の前に約束していたのだ。今度は高倉と智恵子の胸にかけてあげようと・・・。

会場に音楽が流れ始めた。純子の想い出の曲であるジョン・レノンの「イマジン」だ。
自分の幸せな気持ちを世界中の人達に分けてあげたい。
そして世界中が愛にあふれることができれば二度と人々は争うことはなくなるだろう。
この数ヶ月間に自分に起きた出来事を思い浮かべながら純子は女になれた幸せをかみしめていた。

純子はトレーンを引きずりながら、一歩づつヴァージンロードを歩き始めた。
やがて祝福の拍手が鳴り響く中、二人の花嫁は一つになった。

( FIN )

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