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ハートのペンダント2
作:Marie




 第1章

「やっとみつけたわ。あとは証拠をつかむだけね・・・。」
 陽子は、有害な廃液を垂れ流している不法な会社組織であるトランス工業の前で今までの経過を思い出していた。

 環境ホルモン問題が一般社会でも浸透して注目されるようになり、政府は環境庁に警察なみの権限をもたせた「環境Gメン」を結成した。
 陽子はその中でも数少ない女性Gメンであった。専門の研究に携わっていたこともあり実力もあるのに職場の中では、あまり高い評価を得ていないことが不満であった。
 今までも何かにつけて二言目には、「女のクセに・・・」という言葉がついて回る。
 女にも仕事が出来る所を見せつけてやりたい。男に負けてたまるかと日夜努力していた。
 今回の件は立証すればかなりの実績につながるはずであった。
 高濃度の工場廃液が飲料水の取水に使われている川に流れ込んでおり、周辺の魚が遺伝子異常を起こしていた。その川にはもうオスの魚はいなかった。
 どのオスの魚も性転換して雌となっている。
 このままでは生態バランスが崩れて、飲料水から摂取された環境ホルモンが人体に蓄積されれば異常をもたらすことが予想される。
 陽子は川の上流を調査してついに、工業廃液を垂れ流しているトランス工業を見つけたのであった。勇気を出して工場の中に入っていった。

 事務所には、明らかにやくざと思われる風体の男たちがいた。
「環境庁のものです。お宅から流出している工場廃液が川を汚しているようです。浄化槽を調査させてくれませんか?」
「何だとぉ?てめえ、言いがかりをつけやがって!何の証拠があってそんなことを言うんだ?女は家庭でダンナの帰りを待っていればいいんだ。さっさと帰れ!」
 何人もの男達に囲まれてしまい、とても調査が出来る状況ではなかった。
 身に危険を感じた陽子は、今回は取り合えず引き下がることにした。

 トランス工業から去りながら陽子は、思った。
 ・・・いつもこうだ。女性ということでちゃんと話しを聞いてもらえない。
 男女同権なんて日本では、まだ夢のような話なんだよね?
 でもこれくらいのことで引き下がらないよ。いつか見てらっしゃい。
 きっと証拠をつかんで捕まえてあげるからね。

 陽子が帰ったあとに電柱の物陰からじっとトランス工業を見つめる少年がいた。
 手には黒い飛び出しナイフが光っていた。

 夜になりトランス工業に黒塗りのベンツが入っていった。
 その姿を確認して、少年は工場裏の壊れた金網から敷地内に侵入した。
 少年は工場の敷地内にある社長宅の庭の茂みでずっとチャンスを待っていた。
 やがて従業員の男たちが帰るのを待って、裏の窓を壊し建物の中に入った。
 奥のバスルームからシャワーの音が聞こえる。今ならきっと無防備なはずだ。
 ナイフを胸元に握りしめてバスルームに飛び込んだ。

「何だ、おまえ?ナイフなんか持って何のつもりだ?」
「今日こそ、兄のかたきを打たせてもらうぜ!」
「誰だ、おまえは?それに、かたきっていうのは・・・。」
「先日、空港でおまえの部下に殺された豊川の弟だ。せっかく警察に捕まったのに証拠不十分で釈放されるなんて許せないぜ!替わりに俺がおまえを殺してやる!」
「豊川? あのオカマ野郎か? オカマの弟ならおまえもオカマか? ははは、やれるものならやってみろ」
 オカマと言われて、少年は表情が変わった。
 少年は飛び出しナイフのボタンを押しながら素早く前に出て、身体を浴びせるようにナイフを男の胸に突き刺した。
 顔面に返り血が飛んで目の前に血の海が広がっていった。
「うぅ、ちくしょう、誰かいないのか?」
 男はバスルーム内に設置してある非常用連絡ブザーを押しながら前のめりに倒れた。

 少年は離れの方から数人がこちらに向かって走ってくる音を聞いた。
 あわててバスルームの窓から飛び出した。こんなに用心棒が残っていたのか?
 男たちは家の中と外に別れて捜し始めた。手には拳銃が握られていた。
 小年は、逃げようとして裏手の浄化槽を走り去ろうとしたときに
 蓋が開いていた浄化槽の水の中に落ちてしまった。怒号と共に足音はそこまで来ていた。
 しばらくはここに隠れているしかなさそうだ・・・。
 それにしてもこの水の強烈な匂いはなんだ・・。

 数十分後、男たちが敷地の外を探しに出たらしいので、浄化槽から出ようとすると身体がしびれて動けない・・・。この水には、毒でも入っているのか?
 少年はもがいて水を大量に飲みこんだ。だんだんと意識が薄れてきた。
 兄さん、僕ももうすぐそっちへ行くみたいだ。でも敵討ちしたよ。
 呼吸が出来ない苦しみが続いた後に、酸欠が原因なのか頭の中に不思議な幸福感が広がりゆっくりと眠っていった。

 その翌日、トランス工業は臨時の休業となり、工場には誰もいないようであった。
 機会を伺っていた陽子は夜になるのを待って、慎重に工場の中に忍び込んだ。
(今夜こそ浄化槽の中の廃液を採取して証拠をつかんであげるわ!)
 月明かりを便りに浄化槽に近づいた。廃液を採取しようとすると水の中になにか白い大きな固まりが浮いているのに気がついた。
「人間だわ!」
 陽子はゆっくりと手首をつかみ引き寄せてみた。脈がまだあるみたいだ。
 この少年は、生きてる。大変だわ!全力で少年を浄化槽から引き出した。
 以前に人工呼吸の方法を学んだことがあったので、胸をマッサージしながら気道を開けるような体勢で少年の口から飲み込んだ水を吐かせた。
 やがて少年は意識を回復した。

「ああ、よかったわ。今からすぐに救急者を呼んであげるからね!」
「・・待って下さい・・・。救急車は呼ばないで・・。」
 そう言って再び気絶した。少年はまだあどけない表情をしていた。
 見る限り悪い人ではなさそうだわ。それに似てるわ、私の・・・。
「しかたないわね。とりあえずあたしの家に連れていくしかなさそうね。」

 第2章

 陽子は知人である女医の十朱に電話して応急処置の方法を聞いた。
 取り合えず胃の洗浄が必要であるということなので大量の食塩水を用意し胃の中に残ってる廃液をはかせた。それからシャワーで汚れた身体を流してゆっくり入浴させた。
「う〜ん、臭いが強烈で取れないわね・・・。しょうがないわ、私の香水を入れて香水風呂にしてあげるわね。」
 大量の香水を入れたバスルームはローズの甘い香りに包まれた。
 少年の朦朧としていた意識もようやく戻ってきた。
 ゆっくり肌を見渡すと廃液の影響か、身体中の体毛が抜けており妙になまめかしい身体になっていた。また香水の香りも影響していてハイな気分になっていた。

 バスを出るとかごの中に純白のショートスリップとショーツが用意してあった。
「新しい下着の買い置きはこれしかなかったの。恥ずかしいかも知れないけど我慢してね。」
 女としては、大柄なほうである陽子と男としては小柄な圭一はサイズがぴったり合いそうであった。
「これを着るんですか・・・。」
「ずっと裸でいるつもりなの?死にかかったんだから欲は言えないはずよ。」
 陽子が気をつかって後ろを向いている間にショーツをはいた。
 思ったよりはきごこちがよかった。そしてレースを裾につかった可愛いスリップを頭からかぶった。ナイロンのなめらかな感触は、生まれて始めての快さであった。
「あれぇ、すっごく似合うよ?可愛いわ。」
「そんな・・。早く上に着るものを貸して下さいよ。」
「じゃあ、このスエットスーツがいいわね。」
 渡されたピンクのゆったりしたスエットを着た。
「こうやっていると女の子といっしょにいるみたいね。」
 圭一は恥ずかしくなってうつむいていた。

「ねえ、家に戻る途中にうわごとで人を殺したとか言っていたけど・・・・?」
「・・・・トランス工業の社長の胸を刺しました。」
「えぇ?あの犯人はあなたなの?今、組員があなたのことを探しているわよ?」
「でも僕の顔は誰にも見つかっていないはずです・・。」
「社長はまだ生きているのよ。致命傷にはならなかったの。」
「そんな・・。なんて悪運のいいやつだ。ここにいると迷惑が掛かりますね? 命の恩人にこれ以上迷惑をかけるわけには行きませんから、明日にでも出ていきます。」
「そんな衰弱した身体でどこへ行くつもり?ねえ、社長を殺そうとした理由はなんなの?よかったら教えてちょうだい?」

 圭一は小さいときに両親を亡くして、東京で働いてる兄のもとで二人で暮らしていた。
 兄はトランス工業で事務の仕事をしていたが数ヶ月前から、身体の異変を訴えていた。
 そのころから家の中でも圭一に顔を見せることが少なくなり、入浴するときも鍵をかけてするようになった。
 そのうちに夜の外出が増えて、てっきり恋人ができたのかと思っていた。

 高校での授業中に警察からかかってきた電話で兄の死を知った。
 最初は身元が解らなかったらしいが、歯形や電話番号を書いたメモから圭一のである豊川 悦子であることがわかったらしい。
 身元を確認するために病院の安置室で変わり果てた兄の姿はショックであった。
 膨らんだ乳房、綺麗にメイクされた顔、どこから見ても女性であった。
 兄は性転換していたのだ・・・。

 圭一が未成年であるため、田舎の親戚が呼ばれた。女性に性転換した姿で殺されたことが世間に知れると恥になるということで詳しい身元の報道も抑えられていた。
 結局、葬儀も身内だけの簡素なもので済まされた。

 圭一は学校を休学して兄の背景に何があったのか調べ始めた。
 兄の部屋から「咲玉大学」の婦人科の診察券を見つけ担当の女医に会った。

「お兄さまはたいへん可哀想な結果になって残念です。あのトランス工業から出る廃棄物の焼却ガスには、高濃度の環境ホルモンが含まれていたのよ。お兄さんはそれを大量に吸ってしまい身体の中の遺伝子が女性のものに変換されてしまったの。今の医療技術では男に戻ることは不可能なのよ。ずいぶんと悩んだみたいだけど、やっと女性として生きていく決心をしたの。あの飛行場にいたのは、香港の女性への移行を助けてくれる学校にしばらく行く予定だったのよ。」
「そうだったのですか・・。一度、家で兄とすれ違った時に女性の香水の香りがしたので、てっきり恋人が出来たのかと思っていました。あれは兄が女性となってつけていたんですね。」

「お兄さんは、・・悦子さんは正義感が強かったの。自分みたいな被害者をこれ以上出さないために内部告発をしたらしいのね。でも、政治家とトランス工業は裏でつながっていて、告発したことがばれてしまったらしいの。あの時にもっと詳しく教えてくれれば、なんとか止められたのに・・・。あなたのことも気にしていたのよ?」
「なんて言ってました?」
「兄が女性に変身したなんてことが知れれば、きっと学校でいじめられるだろう。弟は小柄で女性的な顔をしてるから小さいときから「女男」ってバカにされていたんだ。それが原因でぐれてしまったんだ。だからそっと出ていこうと思う。貯金はあるから生活には困らないようにしてあるって。」
 圭一は、そんな優しい兄のことを思いだして涙ぐんでいた。
 なんで言ってくれなかったんだよ?女の姿になっても僕にはかけがえのない家族だったんだよ・・・。きっと恨みを晴らしてあげるからね。

 話し終わったとき、圭一の瞼から一筋の涙が流れていた。
「そうだったの・・。わかったわ。しばらくここで身を隠していていいのよ。今、自分の家に帰れば連中に捕まってしまうものね。それで、あんな汚い廃液をたくさん飲んでしまったのだから、病院でよく検査をしてもらう必要があるの。さっき言ってた女医さんのことなんだけど・・ひょっとして咲玉大学の十朱先生のことじゃない?」
「えぇ?十朱先生を知っているんですか?」
「私の友人なのよ、彼女。あなたをここにつれてきた時の応急処置の方法も彼女に電話して聞いたのよ。じゃあ、明日さっそく咲玉大学付属病院に行きましょう。顔見知りなら話も早いわね。」
「迷惑をかけてごめんなさい。でもなんでそんなに優しくしてくれるんですか?」
「こんなことを言って失礼かも知れないけど、交通事故で死んだ私の妹にあなたは、そっくりなのよ。まるで妹が生き返ったみたいなの。よかったら、ずっとここにいてもいいのよ。」

 第3章

「おはよう、圭一くん。今日は病院に行きましょう。シャワーを浴びてきなさいな。気分がリフレッシュするわよ。」
 圭一は香水の香りが残ってるバスに入って熱いシャワーを浴びた。
 あれ?僕ってこんなに肌が綺麗だったかな?
 色が前より白くなったような気がする。
 身体を拭きながらなぜか以前と違う不思議な感触を感じていた。

 シャワーから出るとかごに新しいショーツとスリップが用意してあった。
 またあのすべすべした感触の下着が着られるんだ。
 下着を身につけて洗面台の前に立った。
 (ほんとだ・・。陽子さんが言ってたようにホントに似合う・・・。)

 二人は陽子の車で出かけた。圭一は帽子にサングラスという姿で顔を隠していた。

 咲玉大学の十朱先生には出かける前に電話しておいてあった。
 お忍びの行動であった。陽子は自分の保険証で受付をして名前が呼ばれると圭一を連れて診察室へ入った。
「あら、こんにちは、陽子さん。圭一さん、お久しぶりね? こんな形で再開するとは、思わなかったわ。今日はとりあえず検査します。」
 十朱は、看護婦に一通りの指示を与えて検査室へ圭一を連れていった。

「ねえ、陽子さん?その浄化槽の中の成分はどうだったの?」
「予想以上の高濃度の環境ホルモンが検出されました。」
「圭一くんは、そんな中に丸一日も浸かっていたのね? おそらくお兄さんと同じ様になるかも知れないわね・・・・。」
「同じって?まさか・・・・。」
「お兄さんの血液から採取した遺伝子は、特に女性ホルモンに影響されやすいものだったの。兄弟だからDNAの構成も似てるはずよ。」
 検査の結果は一週間後に出るということであった。

 帰る途中、圭一の住むアパートの前に通りかかった。
「ほら、見てごらん?あの電柱の陰にいる人は、あなたの帰るのをずっと監視してるみたいよ。予想外にしつこい相手みたいね。」
「もうここへは当分来られないようですね・・・。」

 次ぐ日からは、陽子の部屋にこもることになった。
 何もする事がないので陽子の集めたデータベースをパソコンに入力する作業の手伝いをすることになった。圭一の一連の出来事で職場を休んでいた陽子にとっても好都合であった。
 陽子から頼まれた情報の入力を終了した後、気分転換にパソコンの中に入ってる他のデータを覗いてみた。専門用語ばかりでほとんど意味が分からないものばかりであったが、「トランス工業」と書かれたファイルを見つけてクリックしてみた。そこには「環境ホルモン」に関する資料が書かれていた。
 読んでいるうちに「廃液の中には高濃度の環境ホルモンが含まれており、この液体を飲んだり皮膚に浴びたりすると男性が女性に性転換する事もあり得る」ということが説明されていた。
 (僕もこれに該当するのかもしれない・・・。)

 数日後から肉体の変化が始まった。身体が妙にだるく熱っぽい。
 胸がくすぐったくて下着の中に手を入れて掻いていた。
 あれ?この感触はなんだろう?今までと違うな。
 バスルームに行き上半身裸になって鏡に映してみた。
「えっ?なに、これ?」
 そこには成長期の娘のような膨らみかけた胸があった。
 ピンク色の乳頭が恥ずかしそうに上を向いていた。
 いよいよ女性化が始まったみたいだ・・・。
 圭一は、陽子と顔を会わせることを出来る限り避けていた。

 病院に結果を聞きに行く前日、陽子は仕事が早めに終わったのでいつもより早い時間に帰宅した。久しぶりに圭一とゆっくり顔を会わせた陽子は圭一の雰囲気がだいぶ変わっていることに気が付いた。
 髪が以前より急速に伸びている。顔立ちがふっくらと丸みを帯びており体つき全体に華奢な雰囲気が漂っていた。
「圭一君、身体の調子はどう?」
「・・別に変わりはないですよ。」
 その声がいつもよりずっと高い声が出たので圭一は驚いてしまった。

「ちょっと裸になってごらん?前にあなたの裸を見てるから、いまさら恥ずかしくないでしょ?」
 命令ともとれる陽子の強い口調に圭一はためらったあと、ゆっくりと服を脱いでいった。圭一のボディはなめらかな曲線的な姿に変わっていた。
「・・・圭一くん。せっかく男性用の下着をそろえたけど無駄になりそう。そのうち男の姿では外に出られなくなりそうね。」

 次の日、病院に検査結果を聞きに行くことになった。
 十朱先生の診察を受けるため、別室で服を脱いで待っていた。
 十朱が部屋に入ったときに思わず胸を押さえてしまった。
「私は医師よ。その腕をどけてちょうだい。」
 うつむきながらゆっくりと腕をどけた。その下から少女のような乳房が現れた。

 陽子に話があるという事で圭一は先に診察室を出た。
 検査結果を見ながら、十朱は陽子に説明した。

「やっぱり思った通りよ。身体の中で遺伝子がどんどん組み替えされているの。あと数週間で体内の男性ホルモンは女性ホルモンに変わるでしょう。」
「では、圭一くんも・・女の子になっちゃうんですね?」
「たしか暴力団に追われているんでしょ?お兄さんの事件の処理も手際が良かったから今の姿ではもう外を歩けないでしょうね。きっとこれも運命なのかも知れないわ。女性に変身させましょう。」
「そうですか・・。運命ですね?」
「次から女性としてここに通ってもらいます。カルテを作らないとね?名前は何にする?」
「圭一ですから、圭子にして下さい。」
「圭子ちゃんね?たしか、あなたの亡くなった妹さんと同じ名前ね?」
「わたし、あの子を見たときにまるで妹が生まれ変わって私の前に現れたような気がしたんです。妹として面倒を見てあげたいと思います。」
「うん、それがいいわね。女性への移行はかなりのストレスが伴うの。貴女がしっかりと支えてあげないとね。」
「はい、そうします。とりあえずどこから始めたらいいのかしら?」
「もう薄着の季節だからあの膨らんだ胸では外に出られないでしょう? ブラジャーを着けさせてあげなさい。」

 帰りの車の中で陽子は圭一に診察結果を話し始めた。
「圭一さん。自分でも気が付いているようにあなたの身体は女性に変化してきてるの。これから体内の男性ホルモンが女性ホルモンに変換されてもっと女らしい身体になるらしいのよ。」
「この前パソコンの中の環境ホルモンの情報を見て心配はしてました。・・・・もう戻れないんでしょうか?」
「トランス工業の社長は部下の暴力団を使ってあなたを捜しているわ。それに暴力団だけでなく警察も情報をつかんで動き出しているらしいの。もう、圭一としては外を出歩けないわ。」

 第4章

 夜になり、圭一は入浴しながら今後のことを考えていた。
 自分の肉体の変化は急速に進んでいる。この胸の膨らみも見るたびに大きくなっている。今日も病院から帰ってくる途中、敏感になってる乳首がこすれて痛かった。そのうち乳房と呼べるくらい大きくなるんだろうな・・・。ピンク色をした乳頭を見ながら落ち込んでいた。
 入浴が済み、着替えようとするといつものショーツとスリップの他に見慣れない下着があった。ブラジャーであった。

「陽子さん、これ・・・。」
「今日からブラジャーをお着けなさい。もう膨らんだ胸は隠せないはずよ。着けはじめのブラだから、トレーニングブラにしたの。カップが入ってないし後ろのホックもないからすぐになれるはずよ。」
「僕・・こんなの着けるのいやです!」
「一生そうやってだだをこねていくつもりなの?もっと現実を見つめなさい。」
 陽子は圭一のバスローブの前を開けて膨らんだ胸を露わにした。
「もう女であることは隠せないのよ。それともおっぱいを無防備のまま町を歩けるのかしら?」
 圭一は、いつのまにか涙ぐんでいた。

「僕、どうしよう・・・。」
 陽子は今では華奢なボディとなった圭一の身体を抱き寄せた。
「あなたは女になる運命なのよ。女になって圭一という男性の存在をこの世から消してしまいましょう。女の子に生まれ変わって別の人生を歩むしかないのよ。周りの人や近所には私の妹が田舎から上京してきたことにすればいいわ。もう暴力団や警察に追われることもなくなるわよ。」
「僕は、小さい時から”オンナオトコ”って言われてバカにされていました。悔しくって他のみんなに負けないように格闘技を覚えたんです。学校では裏番と呼ばれていました。僕のことを女みたいというやつは必ず叩きのめしてきました。そんな僕が女になるなんて・・。きっとあの時に死んだ方が良かったんだ。」

「何でそんな風に決めつけるの?女になるってそんなひどいことなの? わたしたち女性はそんな弱い存在ではないのよ。たしかに今までの風潮では女性は差別されてきたわね。でも今はそんな時代じゃないわ。努力すればきと男性と対等にやっていけるはずよ。」
「ごめん・・・。女性である陽子さんをバカにしてるわけじゃないよ。でも気持ちの切り替えがそんな簡単になんかできないよ・・。いつも一人だったから、これまで人に甘えたことがないんです。でも本当は・・・誰かに思いっきり甘えてみたかったの!」

 泣きじゃくる圭一を陽子は強く抱きしめていた。
「ゆっくり女の子に変身していけばいいわ。最初は身体が変わってくるの。そのあと脳も女性の脳に変わるから自然に女性になれるはずよ。さあ、両手をあげてごらん?ブラジャーを着けてみましょうね。」

 ブラを着けてあげたあとに、ピンク色のかわいらしいパジャマを着せてあげた。
 それから鏡台の前に座らせてゆっくりと乱れた髪をとかしてあげた。
「これからは私があなたのお姉さんになってあげる。もう一人じゃないわ。貴女を優しくて可愛らしい女の子に変えてあげるわ。たっぷりと甘えていいのよ、圭子・・・・。」

 次の日から女性としての教育が始まった。洗濯やアイロン掛けを教わり料理も少しづつ教わることになった。女性への移行を進めるために、男性時代の下着は残らず捨ててしまった。
 身体の変化はかなり進んでおり、トレーニングブラから大人用のカップのついたブラに変わっていた。最初は違和感があったブラジャーも今では、カップの中がいっぱいになるほどの乳房で満たされており、つけていないと落ち着かないようになった。そしてブラをつけている姿を鏡で見るたびに恥じらいが湧いて、仕草も少しづつ女性らしいものに変わっていった。

 変わったのは外見だけではなかった。食べ物の好みも以前は口にすることがなかった甘いケーキ類が無性に食べたくなった。
 テレビのドラマを見るときも今では女性の立場で見る習慣がついて、主人公に感情が移って涙を流すこともあった。そんな圭一を「泣き虫少女の圭子」と陽子は冗談混じりに笑っていた。
 ウエストのくびれもいつのまにか出来ており、今ではボーイッシュな少女のようであった。

「圭子、いつまでも家の中にこもっているの、飽きちゃったでしょう? いいニュースよ。私の出したデータがきっかけになり警察がトランス工業の社長を別件逮捕したの。家宅捜索をしたら事務所から銃や刀がたくさん出てかなりの重い罪になりそうなの。おまけにあの浄化槽の中には麻薬が隠してあったらしいのよ。もう刑務所から当分は出てこられないみたい。きっとお兄さんが天国から貴女のことを助けてくれたのよね。」
「そうなの?よかった。でもまだ部下が残ってるんじゃない?」
「今日、貴女の住んでいたアパートの前を通ったけどもう見張りはいなくなっていたわよ。暴力団なんてトップがいなくなるとすぐに離散しちゃうんですって。明日、気晴らしに出かけてくるといいわ。」
「うん、そうするよ。」

 第5章

「圭子、久々のお出かけでしょう?今日はこれを着て行きなさいよ。」
 ピンクの薄いセーターであった。身体の線が出るので膨らんだ胸が強調されて恥ずかしかったが、陽子は早く女性の暮らしに慣れさせるため、あえてその服を選んだらしい。
「ねえ、そろそろスカートをはいてみない?」
「まだ心の準備が出来ていないから・・・。今日はジーンズにしてよ。」

 陽子は圭子の長くなった髪を頭の上でまとめてあげた。
 それから眉毛メイク用の細いかみそりを取り出して、圭子の太い眉を少しづつカットし始めた。細く仕上がった眉のせいで印象がかなり変わった。
「わぁ、眉って顔の表情が変わるんだねぇ?」
「そうよ、メイクのコツは眉で決まるの。ずいぶん大人っぽい顔になったでしょ?」
「うん、ちょっと自信が出てきたよ。」
「あ、圭子?その格好じゃ胸元が寂しいわね?このペンダントをつけていきなさい。このまえ、お友だちからいただいたの。妹さんにあげてくれって。」
「ハートの形をした可愛いペンダントだね?」
「このペンダントをつけていると幸せになれるそうよ・・。」

 しばらくぶりになじみのCDショップを回り新譜を買いそろえた。
 以前ならヘヴィメタルが好きだったのに、今日選んだCDはほとんどがラブソングばかりであった。
「春の風が心地いいなぁ。新宿御苑にでも散歩に行ってみよう。」
 公園に入り、トイレに入った。前の感覚で男子用に入りそうになったけど、ためらってから女子用に入ることにした 。性器のサイズも今では幼稚園の男の子くらいのサイズに縮小しておりもう立って排泄することは難しかった。
 ジーンズをおろして、ショーツをめくりしゃがみこんで排泄した。
 今ではペーパーを持ち歩く習慣が付いてるので、股間に手を伸ばして前から後ろへ滴をふいた。女性になるって不便だなぁ・・・。

 トイレを出ると、若い男の子がベンチでうなだれていた。
 目が合うと、急に表情が変わり笑顔でこちらにちかづいてきた。
「ねえ、君のような人を捜していたんだ。少しだけ僕の話を聞いてくれないか?」
 圭子は強引に手を引かれてベンチに座らされた。
「僕は、風間 恭平っていうんだ。T大学の4年で新潟からこっちへ来てる。会ってすぐにこんな話しをするのも悪いんだけど、お願いがあるんだ。ちょっとの間だけボクの恋人のふりをしてもらえないだろうか?」
「え?ボクが?」
「許嫁みたいな女性が田舎から出て来るんだ。うちの親父は地元の政治家でね、世話になった代議士に頭が上がらないんだ。その娘っていうのが遊んでばかりいるどうしようもない女でね、無理矢理婚約させられそうなんだよ。それで、その子に僕には恋人がいるからって断ったらね、信用してくれなくて上京してくるんだよ。だからその子の前で恋人のふりをしてくれないかな?」
「きっとばれちゃうよ。ボクみたいな男っぽい相手じゃ・・」
「どんな子とつきあってるって聞かれたので、丸顔で小柄な女子高生と言ってあるんだ。君はぴったりなんだよ。なんとかたのむよ。」
「う〜ん、その日っていつなの?」
「来週の土曜の夜なんだ。すこしはおしゃれな格好で来てくれるとうれしいよ。」
「わかったよ。なんとかしてあげる。でも、ホントにボクみたいなブスでいいの?」
「君、すごくキュートだよ。可愛い君がいいんだ。」

 家に帰り陽子に今日の出来事を話した。
「圭子、うれしそうね。可愛い女の子って言われて。」
「そんな・・・。でも男の子だってばれたら悪いよね?」
「もうあなたはほとんど女の子よ。きっと大丈夫よ。」

 恭平のことを思うと胸が高鳴る・・・。ボク、好きになっちゃたのかな?
 圭子の女らしさは、ますます進んだ。近所の人にも可愛い妹さんと言われて気分はほとんど少女のものになっていた。

 数日後の夜、急激に激しい腹痛が起きた。陽子の付き添いで咲玉大学へ駆けつけた。
 十朱女医の念入りな診察が行われた。
「古い性器の細胞が壊死しており、成長した子宮が身体の中から押しだそうとしています。急いで古い性器を剥離する手術を行います。」
 圭子は裸になり、産婦人科特有の足を乗せる手術台の上に上がり股を開いた。
 そして、付き添いで立ち会っている陽子の顔を不安そうに見た。
「圭子、いよいよ女の子に生まれ変わる儀式が始まるの。もう男の子とはお別れよ。」
「お姉ちゃん、ボク・・・怖いよ・・。」
「大丈夫よ、私がずっと手を握っていてあげる。」

 十朱女医のメスが股間に一筋の切れ目を入れた。すると内部から紫色に変色した肉の固まりが湧き出てきた。ゆっくりと古い組織をはがし続けた。

「ふう、やっと終わったわ。患部を綺麗に洗ってください。」
 看護婦たちが、ぬるま湯を浸したガーゼで患部を丁寧に洗浄した。
 その後には、見事に縦方向にくっきりとした花びらが現れた。
 陰毛も生えていない女性性器は、無垢な少女のようであった。

「圭子、おめでとう。これで本物の女性になれたの。すごく綺麗な花びらが股間に咲いているわ。」
「お姉ちゃん、ボク・・・」
「もう、ボクなんて言葉はつかちゃだめよ。圭子は女の子になったんだから、あたしでしょ?」
「・・あ、あたし・・・女の子になったのね・・・。」

 次の日に咲玉大学付属病院で性別再判定が行われ、圭子は正式に女として認められた。二人は市役所へ行き手続きをした。戸籍を女性に変えるのと同時に圭子は陽子の養女として住民票に書き込まれた。
 学校の復学の手続きも済ませて、女子生徒として学校へ通うことになった。
 前の学校では、問題があるため女子校に転校することになったのである。

 第6章

「今日は彼とデートの約束の日だったわね。」
「デートってわけじゃないわよ。彼の許嫁みたいな人と別れるために、あたしが恋人のふりをするだけよ。」
「照れなくていいのよ、圭子。今日はどんなファッションがいい?」
「・・・・そろそろスカートをはいてみようかな?・・。」
「そうね。スカートは女の子の特権だもんね。あたしのスカートはどれもサイズが合うはずよ。気に入ったものをおはきなさい。」
「お姉ちゃん、選んでよ。あたし、まだわかんないよ。」
「そうね、じゃあ・・・これなんか可愛いよ。ちょっと子供っぽいデザインだから私はあんまりはかなかったけど。今の圭子にはきっと似合うと思うの。」
 陽子は衣装タンスから赤と紺のチェックのフレアースカートを取り出した。
「けっこうミニだね・・。」
「これくらいは当たり前よ。ええっと、これに合うブラウスは・・これね。」
 フリルがたくさん使った少女っぽいブラウスを選んで圭子に渡した。
「さあ、着替えてごらん?」

「・・どう、似合うかしら・・・?」
「すごくキュートよ。きっと他の男の子からも声をかけられちゃうわよ。さあ、鏡の前で見てごらん?」」
 そこには恥ずかしそうにうつむいてる可憐な少女が立っていた。
「これが・・・あたし・・・。」
 笑顔で陽子の方に向きなおったときにスカートの裾がふあっとひるがえった。
「どう?始めてのスカートは?」
「すごく・・素敵よ。これから毎日こんな可愛いスカートがはけるのね?」
「そうよ。圭子は女の子なんだから。」

「ねえ、圭子?ちょっと鏡台の前に座ってごらんなさい。」
 立ったままの姿勢でそのまま座ろうとした圭子に陽子は注意した。
「ほらほら、座るときはスカートの裾をもって座らないとだらしがなく見えるわよ。」
「はい・・わかったわ。」
「これからすこしづつお化粧を教えてあげるわ。」
「えぇ?あたしがお化粧?」
「今は女子高生でもみんなしてるわよ。とりあえず今日はピンクのリップよ。」
 圭子は唇を開けてゆっくりと描いた。薄い色であったが圭子の魅力があがった。
 陽子は圭子の髪をブラッシングして伸ばしてから、ポニーテールにしてまとめてリボンを結び目のところにつけてくれた。
「可愛いわよ、圭子。」
「お姉ちゃん、女の子の生活ってけっこう楽しいね。いろんなおしゃれが出来るし強がりを言っていないで、もっと早く女の子になればよかったわ。」
「あら、圭子ったらずいぶん変わり身が早いこと・・」
 二人は顔を見合わせて笑った。

 午後になり待ち合わせの場所である公園に向かった。
 始めてはいたスカートになれないため、つい内股気味に歩いてしまうのでいつもより歩くのに時間がかかってしまった。
「圭子ちゃん、こっちだよ」
「こんにちは、恭平さん。待たせてごめんね。」
「今夜の君はすごく可愛いよ・・。やっぱり女の子のスカート姿っていいね。」
「あら、可愛いのはスカートだけなの?」

 許嫁の麗子と会うまでには、まだ時間があった。二人は食事をしたりゲームセンターに行ったり楽しい時間を過ごした。
(こんなに楽しい思いをしたのは生まれて始めてよ・・)

 夜になり約束の喫茶店へ二人は向かった。まだ出会ったばかりなのにまるで昔からの恋人どおしのように見えた。
 喫茶店ではすでに麗子がふてくされて待っていた。
 ロングの茶髪に濃い化粧、派手なミニのドレスという姿は、純朴な恭平にはどう見ても不釣り合いであった。

「私との婚約をしたくないんですって?他に素敵な彼女でも出来たの?」
 麗子はゆっくり圭子の方を見てあざけるように笑いながら言った。
「まさか、この泥臭い小娘が相手なんて訳じゃないでしょうね?」
(あたしが泥臭い小娘だって・・。あったまくるな〜)
「そうだよ。この人が僕の恋人だよ。君と違って優しいいい子だよ!」
「まあ、なんてこというの?失礼ね!こんな小娘のどこがいいのよ!」
 麗子は圭子にむかってヒステリー気味にどなった。
 圭子はおもわず恭平の後ろに隠れた。
「とにかくもう僕は君と結婚する気はない。政略結婚なんてくそくらえだ!」
「おぼえてらっしゃい。私に恥をかかせてこのままですむと思わないでね。私のお父さんからあなたのお父さんに文句言ってやるわ。誰のおかげで議員になれたと思ってるの・・。」
 麗子は捨てぜりふを残して去っていった。
(失礼な女ね!あんな女に恭平さんを渡せないわ。あたし、負けない・・)
「ごめんね、気まずい思いをさせちゃって・・。また逢ってくれるよね?」

 家に帰り今日の出来事を陽子にうち明けた。
「ねえ、おねえちゃん?あたし、もっと綺麗になりたい。お化粧を教えてよ。」
「あら、どうしたの?恭平さんのことをホントに好きになっちゃたのね?」
「あたし、すっごく綺麗になって麗子さんを見返してやりたいのよ!」
「うん、わかったわ。お化粧はこれからじっくり教えてあげる。今夜から寝る前に化粧水と乳液をつけてから寝なさいね。」

 次の日、圭子は家事をしている時から、お腹が痛くなっていた。
 これまででは味わったことのない重たさであった。
 頭痛もして軽い吐き気まで催していた。
 陽子が帰ってきた時は、起きていられなくてベッドで休んでいた。
「おねえちゃん、おへその下のあたりが痛いの・・。あたし、盲腸かな?」
「ひょっとすると今夜あたり、月のものがくるのかも知れないわね?」
「それって・・生理のこと?あたしが生理になるの?」
「十朱先生の話ではもう来てもいいころなんだって。今、ナプキンを持ってきて上げるね。」

「さあ、おまたを開いて。ここに当てて、両側に接着面があるから・・。」
 陽子は説明しながら圭子の股間にナプキンを取り付けた。
「女の子って不便なんだね?こんな思いをずっとしていたんだ・・・。あたし、今までそんなこと知らなかったよ。」
「女の子の恥ずかしい部分だから、辛くてもみんな黙ってるものよ。圭子、このナプキンは夜用の横漏れ防止がついてるけど、念のために一度は替えることね。」

 夜中に圭子がトイレに起きて、なかなか出てこなかった。
 物音で目を覚ました陽子は、圭子に生理が来たことを知った。
「明日は、お赤飯か。お約束だもんね・・・。」

 第7章

 今日は、学校に復学する日であった。それも女子校生として。
 制服に袖を通してスカートをはき、白いソックスを上げた。
 台所に降りてフリルのついた可愛いエプロンをつけて、御弁当を作る準備を始めた。包丁の使い方も今では上手になっていた。

「おはよう、圭子。今日は早起きね?」
「おはよう、お姉ちゃん。あたしが朝食作ったのよ。食べてみて?」
「あら、美味しそうじゃない?さっそくいただくわ。」
 食事をとりながら圭子は陽子に相談した。
「ねえ、おねえちゃん?あたし、またいじめられないかな?」
「大丈夫よ、みんなと同じにしていればいいの。もう男の子時代のあなたは死んだの。女の子に生まれかわったのよ。」

 初登校は緊張したが、みんな優しく迎えてくれた。
「みなさん、始めまして。圭子です。田舎から出てきたばかりで世間知らずですからいろいろと教えて下さいね。」
 控えめな自己紹介が終わり新しいスタートを切った。

 帰り際に知穂という明るい雰囲気の生徒から声をかけられた。
「圭子、いっしょに帰ろう?あたしと帰り道が一緒でしょ?」
 二人は仲良く並んで歩き始めた。
「ねえ、圭子?ちょっと遊んでいかない?」
「え?どこへ行くの?」
「駅前のマクドへ顔を出して、そのあとゲーセンってコースよ。」
「オッケー!」

 知穂は駅につくなり圭子をトイレに引っ張っていった。
「圭子、そんなスカートを長くしてるとバカにされるわよ。
 さあ、あたしみたいに折り込みなさいよ。」
 知穂に教わりながらスカートを3回折り込んでみた。
「メイクの道具は持ってきたの?」
「・・・だって高校生でしょう、あたしたち?」
「まったく遅れてるわね〜。あたしなんか中学からメイクしてたよ?」
「道具は持ってるわよ。じゃあ、明日から持ってくるわ。」

 二人はマクドナルドに入り、いろんな話をした。
 好きなミュージシャン、アイドルの話、ボーイフレンドのことなど今までにない話題ばかりであった。でもすごく興味がでそう・・。

 遊びすぎて帰る時間が遅くなってしまった。知穂と別れてから暗い夜道を圭子は歩いていた。
(あれ?誰かずっとあたしをつけてるみたい・・。恐いよ・・・。
 足音はだんだん近づいて来る。ひょっとして痴漢かしら?)
 児童公園のそばに差し掛かったときに、いきなり後ろから抱きしめられて公園の中に引きずり込まれた。
「何をするのよ?やめてよ!」
 男は圭子を地面に倒してスカートをめくり上げた。
(どうしよう?もう男の子じゃないから、力では負けちゃいそう・・)
 圭子を押さえつけたまま、男の指はショーツにかかっていた。

 圭子は、以前に陽子に言われたことを思い出した。
「いい?女が弱いって誰が決めたの?女だって男に負けない能力はあるのよ。女だってことで弱気になっちゃだめよ。」
(そうよ、痴漢なんかに負けないわ!)
 冷静さを取り戻した圭子は、まくり上げられたスカートを相手の顔面にかけて目隠しの状態にして、ヒザで顔面を蹴った。
 相手がひるんだすきに、木陰に隠れた。

 腕力ではもう勝てそうにもないわ・・・。何か道具はないのかしら?
 そうだ、このソックスを使おう・・・。
 圭子は、砂場の回りにある小石を集めてソックスにつめ、ブラックジャックを作った。相手がきょろきょろしながら近づいてくる。
 ここは死角になってるのね?圭子はぶんぶんブラックジャックを振り回して攻撃できる準備をした。
 そして相手が前に出た瞬間、バックスイングをつけて相手の顔面にたたきつけた。やった!
 相手は顔面を押さえて悲鳴を上げながら去っていった。

 家に帰り陽子に一部始終報告した。陽子は圭子の勇気を誉めてくれた。
 入浴後、ベッドに入ったが恐怖と興奮がまだ抜けない・・。
 それで、枕を持って陽子の部屋へ行った。
「お姉ちゃん?あたし眠れないの。ねえ、今夜はいっしょに寝てもいい?」
「いいわよ。あんなことがあったんだもの、恐かったよね? もう男の子じゃないんだから、暗い夜道を歩く時は気をつけるのよ。」

 圭子は、陽子のベッドに入り今日あった出来事を楽しく話し始めた。
「圭子は、ずいぶんおしゃべりさんになったのね?始めてあった時とは大違いね。あら?ブラの肩紐が食い込んでるわね? ちょっと見せてごらん?」
「うん、このところちょっときついのよ・・・」
 圭子は、パジャマを脱いでからゆっくりブラジャーをはずした。
 すると、ぷるんと音を立てて立派な乳房が顔を出した。
「圭子、ずいぶん立派なおっぱいになったのね? きっとブラのサイズが合わなくなったみたい。もうBカップね?」
 陽子が乳房をなで回した瞬間に「あああ・・ん」と声をだしてしまった。感じる・・・。こんなに敏感になっちゃったのね・・。
 その夜は、陽子の胸の中で甘えながら眠りについた。

 第8章

 今日は日曜日。昨夜、恭平から電話があった。デートの誘いであった。
 朝のシャンプーのあとゆっくりタオルで髪を乾かして、ブラッシング。
 今日は何を着ていこうかな?元気にミニスカート?それともおしゃれなワンピースがいいかな?
 ヘアースタイルはどうしよう?結ぶ?編み込む?リボンは?メイクはどうしよう?綺麗って言われたい・・・。
 でも高校生だからあまり派手なメイクは嫌われるわね?
 リップは薄いピンクにしよう。目が大きく見えるようにビューラーでマツゲをカールして透明なマスカラがいいわ。
 マニキュアもリップにあわせてピンクがいいな・・・。
「圭子、いつまで考えてるの?遅くなるわよ!」
 陽子の声がドアの向こうで聞こえた。

 待ち合わせ場所は、いつもの公園。初めて出会った思い出の場所だもん。
「ごめん、待った?」
 結局、今日はワンピースにした。恭平さんどう思ったかな?
 可愛いって言ってくれるかな?
「今日の圭子ちゃん、すごく女らしいね。」
 やった!ワンピースを着てきてよかった。

 今日のデートは、映画を見に行く約束をしていた。
 あたしはレオの「ロミオとジュリエット」が見たいって言ったけど彼ったら、ホラー映画のリバイバル上映があるからいっしょに行こうって・・・。全く女心がわかんない人ね?

 映画を見終わり、喫茶店に入った。彼はあたしにケーキを頼んでくれた。
「今日はごめんね?圭子ちゃんがあんなに恐がりだとは思わなかったよ。ずっと抱きついたままだったもんね。でもうれしかったよ。」
「だって・・・。恭平さんの意地悪・・。」
 コーヒーが運ばれてきた。あたし、彼のカップに小さじ1つ分のお砂糖を入れてあげた。この前にあったとき、ちゃんと見ていたんだ。
 ケーキが来た。大きな口を開けて食べようとしたときに、お姉ちゃんの言葉を思い出したの。
「圭子、いいこと?女の子は大口開けて食べては、みっともないの。スプーンで切って少しづつ食べるのよ。」
 おっと、危ないところだった。

 それからあたし、二人で散歩したの。いっしょに歩く時は少し後ろから歩くようにしたのよ・・。えへへ、けっこう女らしいでしょ?
 別れる時に彼が次のデートを約束してくれた。ああ、楽しみだわ・・・。

 その後、デートのたびに二人は親密な関係になっていった。

「お姉ちゃん、ちょっと・・。相談にのってよ。」
「どうしたの?圭子?彼と喧嘩でもしたの?」
「ううん、彼のお父さんがね、上京してくるんだって。
 あの麗子さんも自分のお父さんといっしょに来るらしいの。
 婚約を破棄する条件として相手の女と逢わせろって言われたらしいの。」
「そうなんだ・・。それっていつなの?」
「それが明日なのよ。この前は泥臭い小娘って言われたし・・。」
「わかったわ、あたしに任せなさい。今夜は早く寝てお肌を休めておくのよ。」

 朝が来た。圭子は心配で昨夜はなかなか眠れなかった。
 いつもの様に朝のシャンプーをして髪を入念にブラッシングした。
 あたしのメイクじゃあ、自信がないな・・。
「圭子、今日はノーメイクのままでいいの。さあ、出かけるわよ。」
「えぇ?綺麗にお化粧してくれるんじゃないの?」
「勝負をかけるのよ。あたしの大事な妹をとびっきりの美女にしてあげるの。」

 二人は美容院に着いた。飲み仲間の香織のいるお店であった。
「香織さん、あたしの妹の圭子です。さっき電話したとおりにお願いね。」
「はい、うわさどおり可愛い妹さんね。じゃあ、こっちで着付けをします。」
 奥の部屋に通された。そこにはピンク色の振り袖が飾ってあった。
「これをあたしが着るの?」
「そうよ、さあ裸になって?ブラもはずしてね。」
 香織は手際よく、襦袢、着物、帯を着付けて行った。
「ねえ、着物は脇の所が開いてるでしょう?これはオトコの人が後ろから抱きしめた時に乳房を直接愛撫出来るためにそうなってるの。」
 圭子は恭平に後ろから抱きしめられた姿を想像して顔が赤くなっていた。
「さあ、今度はお髪とメイクよ。」

 髪をアップにセットしてから、入念なメイクが施された。
 ピンク系の明るい色のファンデーションを使い顔が明るい雰囲気になった。
 眉も綺麗に描ける様に短くカットされて、いつもより細く長めな眉にした。
 ビューラーで何回も動かしてマツゲにくっきりとカールがつけられた。
 それから繊維入りのマスカラを何度もつけてくっきりとした目元になった。
 アイシャドーは赤いものをまぶたにぼかしてから、ペンシルのアイライナーで二重の内側にラインを入れた。唇は紅筆で真っ赤なルージュを小さめに塗った。
 最後にオレンジ色のチークを頬にブラシでつけて出来上がり。

「さあ、どうかしら?すごく綺麗よ、圭子さん。」
「え〜、うっそ。こんなに大人っぽくなれるなんて・・・。」
 圭子は、あまりにも女らしく変身した姿に見とれていた。
(これがあたしなんだ・・・。これなら麗子さんに負けないわ!)

 第9章

 美容院の着付けとメイクは午前中いっぱいかかり、二人は待ち合わせのホテルに向かった。時間があるので軽い食事をとることになった。
「圭子、どうしたの?食事が進まないようね?緊張してるのね?」
「お姉ちゃん、着物の帯がきつくってそれどころじゃないわよ。」
「そうだよね?でも今のうちに食べておいた方がいいよ。人に会うときは、食べるのを控えめにしていた方が女らしく見えるよ。」
「うん・・・。」
 圭子は、せっかくしたお化粧がとれてしまうのではと心配で何回もコンパクトを覗いていた。
「おねえちゃん、あたし口紅がとれてない?」
「食事中に気にすることはないでしょう?気合いが入っているわね?」

 待ち合わせの時間の3時になった。陽子は気になっていたので壁の陰からどんな相手であるか見てから引き上げるつもりであった。
 ホテルの入り口から待ち合わせてる相手が入ってきた。
 けばけばしいドレスを着た厚化粧の女性がいた。アレが麗子さんね?
 相手を確認した圭子はゆっくり立ち上がり首をちょっと曲げて会釈した。
 すごく女らしわ。よく短時間でここまで女らしくなったわね・・・。
 やっぱりあの子はもともと素質があったのね。
 勝負に勝ったことを確信した陽子は、笑顔でホテルを出た。

 夜になり、陽子は久々に「スナック里沙」に飲みに出かけた。
 今夜はみんな常連が集まっていた。
 雇われママの里沙さんを囲んで、十朱女医、美容院でも逢った香織さん、ママの妹で最近妊娠した優子さん、優子さんの職場の同僚の由美さん。
 みんなフェミニズムの仲間だった。
「女ってなかなか社会で認められないわよね?」
「でも女だってことに甘えてる人も多いわよ?」
「法律で男女同権なんて言ってるけど、まだまだ男性社会よ!」
「あたしなんか、セクハラをしょっちゅうされてるわよ〜。」
 陽子は、気のあう仲間どうしで飲むお酒は美味しいと思った。

 一連の出来事を聞いたママの里沙は心配して言った。
「それで妹さんは、いまごろどうしてるかしらね?」
「連絡をよこすことになってるんだけど・・」
 香織が横から口を出した。
「きっと今頃、ラブホテルで楽しくやってるんじゃないの?」
「まあ、香織さんは相変わらず、口が悪いのね。」
 大笑いしてる時に、陽子の携帯が鳴った。

「もしもし、陽子です。」
「お姉ちゃん?あたし圭子です。恭平さんのお父様には大変気に入っていただいたわ。麗子さんも、あたしの振り袖姿を見てびっくりしてほとんど元気がなかったよ。婚約はあきらめるって。やっぱり馬子にも衣装ね?」
「そう?よかったわね。あれだけ美人になったんだもの、貴女の魅力よ。」
「それで・・。お願いがあるんだけど・・・。あとでブラウスとスカートを持ってきて欲しいの・・・」
「何?今、どこにいるのよ?」
「渋谷のラブホ・・・。着物を脱いだら着られなくなっちゃった。」
「まったく・・・、今は外でお酒飲んでるから明日の朝よ、行けるのは!」
「じゃあ、もう一回出来るね・・。明日の朝、また電話するね? それからハートのペンダントを下さったお友だちにお礼を言っておいてね。」

「香織さん、貴女の予言は当たるわね!」
 その日の夜は、にぎやかな女たちの笑い声が一晩中聞こえた。

(終わり)

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