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ハートのペンダント
作: Marie


(第1章)姉と弟


「優、今夜の夕飯は、もう作ってあるから電子レンジで暖めて食べてね。」
化粧をしながら姉の里沙は、笑顔で優に話しかけた。
優は、姉の化粧で変わっていく姿を見るのが好きだった。
「お姉ちゃんのすっピンの顔を見たら、みんな驚くだろうな・・・。」
「それって、どういう意味なの?」

里沙と優は、血のつながっていない姉弟であった。複雑な家庭環境で育った二人は、親の死去、後の再婚、そして昨年の飛行機事故で新しい親を亡くし、たった二人きりの家族であった。
今では事故で親を亡くしたショックから立ち直り、お互いの絆を深めていた。明るい性格同士なのでふだんから冗談を言い合って、事情を知らない人は本当の姉と弟であると思っていた。
里沙のほうが優より5歳も年上であったし、以前は生活費を稼ぐために水商売に勤めていたこともあり、優にとっては母親のような存在でもあった。

優は、高校2年生の17歳。学校では水泳部に所属していた。小柄な体つきにコンプレックスを感じていたので、他のスポーツでは体格の差が目立ってしまう。でも、水の中に入ればみんなと対等になれる・・・。負けん気だけは、誰にも負けない男の子であった。

「優、俺またラブレターをもらっちゃったよ。ラブレターって古風だけど、いいよな。」
同じ部活の仲間で親友でもある雅夫が、笑顔で話しかけてきた。
「いいなぁ、俺なんかこの身長だろう?女の子なんか誰も振り向いてくれないもんね。」
「まあ、いつかおまえにもいい彼女が出来るさ。」
「こんな身長なら、いっそのこと、女の子に生まれてくればよかったかな?」
「うん、おまえ、可愛い顔立ちしてからきっとモテるぞ。」
「ははは。もし女の子に生まれ変わったら、雅夫の彼女になってあげるよ!」

優は雅夫と別れて家に帰る途中であった。
ふと見た電柱に貼ってあったアルバイト募集の張り紙に気がついた。
「時給1,500円。機械掃除の簡単な仕事です。トランス工業。」
(うん、この時給はおいしいぞ。これなら新しいパソコンが買えるな・・)
さっそく張り紙の工場へ電話をかけてみた。前にいたアルバイトの学生が急にやめてしまったので、すぐにでも来てくれとのことであった。

それから学校が終わると、毎晩遅くまで「トランス工業」でアルバイトをする毎日が続いた。仕事は、工場で出たゴミを燃やしたカスを片づける簡単な作業であった。
そこの従業員は、なぜかそのゴミの焼却室を嫌っているらしく誰も近寄らなかった。
そのかわり、誰も監視していないので、ゴミが燃え切るまではそばでマンガを読んでいてもよかったので気楽であった。

ある日、焼却室のドアが開き、可愛らしい顔立ちの男の子が入ってきた。
「ねえ、あなたは・・君は新しいアルバイトなの?」
「うん、優っていうんだ。」
「僕は、カオルっていうの。前にここのアルバイトをしていたんだ。今日は最後のバイト代をもらいに来たのよ・・・。」
(この子、変なしゃべり方だな。声も高いし。顔つきも女の子みたいだ・・)
「こんないいバイトは、他にないよね。なんでやめちゃったの?」
「・・身体の具合が悪くなってね・・。君も長くやらない方がいいよ・・・。
 もうどれくらい、バイトしてるの?」
「もうすぐ1ヶ月くらいかな・・・」
「・・1ヶ月か。そろそろ変わってくるはずね。」
「え?変わるって何が?」
「そのうち、いやでもわかるよ。もし僕みたいに身体を壊したら、咲玉大学付属病院の十朱先生を訪ねると・・・いいわよ・・・。」
そう言って去っていくカオルの背中に、ブラジャーの線がくっきり映っていたことに優は、その時はまだ気がつかなかった。

帰る時にタイムカードを押すために事務所に顔を出したら、いつも親切にしてくれる庶務の豊川さんがいた。
「ねえ、豊川さん?さっき、カオルくんという男の子が来たけど・・」
「ああ、さっき最後のバイト料を取りに来たんだね。可哀相にあんなにやせて・・。」
「前は、たくましい身体だったの?」
「たしか、前は高校の柔道部だったって言ってたよ。それがバイトが1ケ月くらいしたころから身体の調子が悪くなったみたいだね。今日、久しぶりに見たけど別人だったな。最初見た時は、女の子だと思ったくらいだよ。」
「あんな身体つきでは、もう柔道は無理だよね。あれなら僕も勝てるよ。」
「うん。寝技を掛けたくなるような身体だな。ははは。」
「バイトの人がやめていたときは、誰があそこの掃除をやっていたんですか?」
「俺がやっていたんだよ。カオルくんがやめてから1ヶ月以上やってたな。
 まあ、あれだけならいいけど他にも仕事があるからね。」
豊川は、頼りになる兄といった性格で、いつもえっちな体験談をしてくれるのでバイトが終わったあと、豊川と話しをするのが楽しみであった。

「優くん、今日のズリネタを持っていきなよ。今週のエロ本は行けるよ。」
「いつもありがとう〜。」

優は、自分のベッドに入ってから、豊川さんにもらった週刊誌を取り出した。
いつもならすぐにでも、下半身が充血して自慰を始めるところだったが、このところどうも元気がない。自分のモノを明るい所でじっくり観察したら、どうもサイズが一回り以上小さくなってる事に気がついた。自分では立派な持ち物と自負していたのが、まるで中学生のころの包茎状態に戻っている。不安な気持ちが下半身をよぎった。


(第2章)男の子の終わり


バイトを始めてから5週がたった。いつものように事務所に顔を出して豊川さんにコーヒーを入れてもらいくつろいでいる時のことであった。
なぜか豊川の様子がいつもと違う。この暖かい時期なのに、不自然に厚着をしてる。
それに顔半分も隠れるようなマスクをかけていた。
「豊川さん、風邪ですか?前より体つきが細っそりしたように見えますよ。」
「ああ、私、ちょっと具合が悪いのよ・・」
「そんな、女みたいな言葉使って・・・。冗談きついですよ・・」
「あ、ごめんなさい・・・」
(なんか今日の豊川さん、ヘンだな。声がかすれてるだけでなくて、話し方も弱々しい・・・)
「あ、優くん?この前、君があったカオルくんなんだけど・・・今日、偶然に会ったよ」
「あの女っぽい可愛い男の子だね?まさか、オカマっぽくなっていたとか?(笑)」
「・・それが、ホントにそうなのよ。スカートをはいていて、胸も膨らんでいたの。
 向こうから声を掛けられなければ、分からなかった・・。あんな風に変わるとはね・・」
「何か言ってませんでした?僕のことを」
「ええ、君の身体の調子はどうなのかって心配していたみたいよ。
 もう兆候が現れるはずだって。ひょっとすると優くんも私やカオルくんみたいに・・。
 あ、何でもないわ・・・いや、何でもないよ。」
「ねえ、僕が処理しているあの物質は、いったい何ですか?」
「ここの極秘になってるの。私も気になってるので、知り合いの保健所の人に調べてもらっているのよ・・。」
「今日の豊川さん、ヘンですよ〜。」

次の日の学校帰りに本屋さんによって暇をつぶしていった。ふと、週刊誌の表紙に「環境ホルモン汚染」という見出しが目についた。このところよく見かける言葉であったが、興味がなかったので無視して他の雑誌を読みあさっていた。

本屋を出て、駅に向かうと豊川が前を歩いているのに気がついた。
相変わらず、厚着であった。まるで外からみるとどんな身体つきであるかを隠すような・・・。
ちょっと驚かしてやろう。
そう思って、しばらくあとを歩いていた。そのうち、トイレの前であたりを伺っていた豊川はトイレに入っていった。大きなバッグを持っていた。
(あ、豊川さん・・・。そっちは女子トイレだよ。ひょっとしてビデオで隠し撮りでもするのかな?よ〜し、待っていてみよう)

しばらくしてドアの空く音がして誰か出てきた。あれからだれも女子トイレに入った人はいないから収穫ゼロだな。慰めてやろう・・・)

トイレから出てきたのは、優の知ってる豊川ではなかった。長身の綺麗な女性であった。
盛り上がったバスト、スカートから見えるスタイルのいい足、綺麗にお化粧した顔・・・
よく見ると、目元に豊川と同じほくろがあった。
(まさか、この女性は豊川さん?そんな・・・・)

しばらく後ろをついて行ってみた。豊川は咲玉大学付属病院に入っていったのである。
(どっかで聞いたことがあったな。あ、カオルくんが言っていたところだ・・・)
優は、気になりあとから病院へ入っていった。いったいどこにかかるのだろう?

「豊川 悦子さん、3番窓口へお入り下さい」
アナウンスの声を聞いて、女性の姿の豊川は診察室に入っていった。そこは婦人科だった。
優は、自分の目を疑った。いったいどうしたんだろう・・

「うぅ・・・・・」
病院を去りながら、優は自分の胸を押さえた。このところ異常に敏感になり、胸が下着にこすれるたびに、くすぐったいような感触がある・・・。

カオルの言葉のとおり、身体の異変が始まっていた。
体つきが以前より華奢になってきている。顔が丸みを帯びて、自分では太ったのかなと思っていた。でも、体重計に乗ると何キロも体重が落ちていた。
ジーンズのウエストが妙に緩くなってきたが、逆にお尻の部分はパンパンに張っていた。

その夜、胸がすごく熱く感じた。そのうち胸全体に痛みが起きてきた。
流し台に行き、服をめくって鏡を見ると、明らかに胸が大きくなっていることに気がついていた。乳首も勃起してしる。
・・そういえば、この所電気かみそりを使ってないなぁ。ひげが全然生えてこない。
顔をこすると、しっとりとして、すべすべした肌に変わっていた。
(なんだよ、これ・・。悪い病気にでもかかったのかな?)

身体の変調のため、しばらくバイトを休んでいた。久しぶりにバイトに行ってみると豊川は、急に退職していたのであった。
事務所にいた市原さんというオバサンが優に話しかけた。
「ほんとに急にやめちゃうって言い出して、豊川さん、どうしたのかね?」
「なにか変わった様子は、ありませんでしたか?」
「うん、変なモノ見ちゃったのよ。このところいつも厚着で出勤して、けっして服を脱がなかったの。今日は珍しく薄着だったけど・・・ブラジャーを着けていたよ。」
「え?ブラジャーを?」
「そうなんだよ、女のあたしが見たんだから間違いないよ。それに、女性用の化粧品の匂いをさせていたよ。なんでここで働いている人は、みんなあんな風になっちゃうのかね?あんたの前にバイトしていた子も女の子になっちゃうしね。」
「それってカオルくんのこと?」
「あの子は、家の近所なんだよ。ここのバイトをやめてしばらく顔を見ないと思ったら次にあった時は、化粧してスカートをはいてたよ。それにあの子の家の洗濯物なんだけど、このところ2階に若い娘の下着が干してあるんだよ。あそこの家には、たしか娘はいないはずだよ。」
「まさか・・・・信じられない。」
「あんたも気をつけた方がいいよ。もっともあんた小柄で可愛いから女の子になったほうがお似合いかもね。」

 不安な気持ちが心の中に広がっていった。ここに自分の身体の変化の原因がきっとある。
でも高いバイト料は魅力であったので、優は相変わらずやめないで続けていた。

このところ髪が伸びるのが早くなってるような気がする。それにトイレにいくたびに自分のモノが小さくなってる・・。もう小学生のおちんちんくらいに縮んでいた。
それにくらべ、胸の膨らみはどんどん大きくなってきている。
お尻もどんどんと大きくなっている・・。優も豊川のように身体の線が出ないように外出の時は、自然と厚着になっていった。

学校へ行くときは胸の膨らみを隠すために、家にあったサラシを巻いて行った。
体育の授業はずっと休んでいたし、水泳部の部活もずっと休んでいた。
「優?このところ元気がないな。身体、ずいぶん悪いのか?」
学校帰りに雅夫から声をかけられた。
「ああ、かなりひどいよ。俺、当分学校を休むかもしれないよ。」
もう水泳部の練習に参加することは、無理であった。
筋肉質であった自慢のボディからは、すっかり筋肉は落ちていた。
その変わりに胸の膨らみが、いつのまにか成長してきた。
もう人前では、裸にはなれないだろう。

数日後、バイト先であったトランス工業が営業停止になったとのニュースを聞いた。
なんでも保健所の査察が入り、危険な物質を燃焼させていたことがわかった。
詳しいことは明らかになってないが、なんでも内部告発があり、その告発者は先日より失踪しているらしい。
(豊川さんだ・・・。今頃どうしているのだろう・・)

その日の夜、豊川から優の元へ連絡があった。
「優くん?わたし、豊川です。」
「あ、豊川さん!失踪したって本当ですか?」
「ええ、もう前の姿では人前に出られない身体になってしまったからなの。」
「・・豊川さん?しゃべり方が変ですよ?まるで、女の人みたいです。」
「優君?あなたも胸が膨らんできているでしょう?あの物質のせいなの。
 なんでも環境ホルモン汚染というやつに私たちは、犯されてしまったみたいよ。」
「なんですか?それ・・」
「あの会社のバックには、暴力団が絡んでいたのよ。どうも化学的に覚醒剤を作っていたらしいの。それで、その残りカスを燃焼してる時に女性ホルモンのエストロゲンに似たガスが発生してそれを吸い込んだものは、身体が女性のようになるの。」
「そんな・・もう僕は、2ヶ月以上も吸ってるよ。」
「今、詳しいことは言ってる時間がないの。あの内部告発が原因で私、追われてるのよ。
 暴力団が必死で私を捜しているらしいの。それで私は、女性の姿で逃げてるのよ。
 ちょうど身体が女性のように変化してるから好都合だけど。
 とにかく、優君も早く病院で見てもらいなさいね。わたしはこれから、海外へ逃げます。もう会うことはないと思うけど、元気でね。」
それだけ言い残して、電話は切れた。
(豊川さんも身体が女性化していたのか・・・。僕はこれからどうなるんだろう・・・)

翌日のトップニュースは、国際空港での殺人事件であった。ある会社の内部告発が原因で海外に逃亡しようとしていた女子事務員が殺されたとの報道であった。
テレビに映ったその女子事務員と紹介された女性は、まさしく豊川の女に変身した姿であった。犯人はすぐに捕まり、組織ぐるみの犯罪が明るみになった。
優は、このあともニュースの続報を待っていたが、その後はマスコミもこのことについては、ぴたりと報道をやめてしまった。結局、豊川は女性事務員ということのまま処理された。

おかしいな・・・。身体を調べれば、男だったということがわかるはずだ・・。
まさか、完全な性転換手術を受けたのだろうか?それともあの物質のせいで自然に身体が性転換していったとすると・・・今度は僕の番だ。

いやだよ、女になるなんて。この社会は男が動かしているんだ。女みたいに弱い存在になるなんて・・・。


(第3章)恥じらい


「優、このところ元気がないわね?」
家で休んでいると、帰ってきた姉の里沙が心配して声をかけた。
優は、不安で仕方がなかった。誰かにうち明けて力になってもらいたい。
もう恥ずかしいなんて言っていられないよ。

「お姉ちゃん、俺、身体が変なんだよ・・・」
その声は、以前よりもずっと高い声だった。電話で聞いたら年頃の女の子の声としか聞こえないであろう。女の子の声で男のように話している姿は不自然であった。
「・・・この前、優がお風呂から出るときに見ちゃたのよ。膨らんだ胸を・・・。
 まさか、女性ホルモンなんかやってないよね?」
「なんでそんなもの、僕が飲まなくちゃならないんだよ?」
「だって、あなたの身体はまるで、成長期の女の子みたいだったわよ・・・。」
優は、以前会ったカオルのことを思いだして里沙に話してみた。
「一度、その病院へ行ってみましょう。」

姉に付き添われて咲玉大学付属病院を訪れた。十朱先生を訪ねたら、なんと婦人科の女医さんらしかった。待合室で診察を終えた女の子とすれ違がった時に、むこうから声をかけられた。
「あのう、優さんじゃありません?」
「はい、そうです。貴女とはどこかで会いました?」
「やっぱり来たわね。あたしとは、トランス工業で会ったでしょう?
 カオルよ。もっとも今では香織って名前だけどね。」

目の前にいるのは、花柄のミニのプリーツスカートをはき、栗色のウエーブがかかったセミロングの髪を持った美しい女性であった。唇の赤いルージュがセクシーであった。
盛り上がった胸は、Cカップ以上はあるだろう・・・。

「豊川さんの事件、聞いたわ。可哀相な結果になったわね。
 私、今つき合っている彼がね、マスコミ関係者なの。それであの事件のことを聞いたら環境ホルモン汚染は、身近な所ですごく広まっているらしいのよ。
 あまり詳しいことを世間にばらすと住民がパニックになるおそれがあるでしょう?
 それに小さな町工場なんかは、公害防止装置つきの焼却装置は高くて買えないからほとんどの所が営業停止になるはずよ。こんな景気の悪い時にそんな話しがばれたら大変でしょう?それで政治家が裏で動いて、情報を操作したの。マスコミは、それに従うしかないらしいの。放送権というやつを取り消されるからね。」
「カオルくん、いや香織さん。男から今では女性として生活してるのですね?」
「そうよ。最初は親がショックで寝込んじゃったけど、今では娘が出来たって、お母さんは喜んでいるいるわよ。」

カオルは、優の手を取り、自分の胸をさわらせた。そこには柔らかい膨らみがあった。
「優くんも、もうすぐあたしみたいになるのよ。」
優は、目の前が真っ暗になった。
「なんであの時にもっと詳しく教えてくれなかったんだ・・」
「あの時は、もう1カ月以上たっていたでしょう?もう、あの時で手遅れだったのよ。
 それにね、あなた、小柄で可愛い顔立ちしてるからきっと女の子になってもうまくいくと思ったのよ。あたしなんかよりずっとお似合いかもしれなくてよ。」
1ヶ月前に見たカオルとは、まったく別人で言葉使いもとても女らしかった。
「ここの十朱先生は、日本での性転換のエキスパートなの。あたしもこのところカウンセリングを受けているのよ。もう、男には戻れないしね。でも女になってみるとこんなに楽しいものとは思わなかったわ。毎日が夢のようなの。きっと貴女も気に入ると思うわ。
 じゃーね、優子ちゃん。」

「今の子は、優の知り合いかしら?素敵な女の子ね。」
里沙は、カオルが帰ってからそっと話しかけた。
(お姉ちゃん?もうすぐ僕もあんな風になるらしいよ・・・・。)

レントゲンや血液検査を終えて、診察室へ入った。
女医の十朱先生は、中年女性の魅力をもった素敵な人であった。まるで自分に母親がいたらこんな感じかなって思うくらい優しそうな人であった。
優は、姉といっしょに、今までの経過を話した。
「そうなの?このところ、多いのよ。男の子が女性化しているケースは。
 さっき出ていった女の子も1カ月前までは、男の子だったのよ。」
里沙は、驚きで目を丸くしていた。
「私の弟もあんな風になっちゃうのですか?」
「彼女の経過とまったく同じ症状が出ていますから、おそらくそうなるでしょう。」
「弟になにか治療の方法はないのですか?」
「身体の中の男性遺伝子が急速に女性の遺伝子に変わっています。一度破壊された男性の遺伝子はもう、もとに戻れないのです。このまま、女性に移行するしか方法はないでしょう。女性として今後生きていくほうが社会生活に適応するはずです。」

(僕は・・僕は・・女になるんだ・・・・)

「私は、アメリカの病院で性転換希望の男性の女性化移行をお手伝いしていました。
 貴女ならきっと、可愛いレディになれるわ。私やお姉さんと同じ女性になるのよ。」

ショックを受けた優は先に待合室にいた。里沙は、女医と今後のことについて話していた。
「お姉さんは、一番身近な女性です。貴女の役目は弟さんが自然に女の子になる手助けをしなければならないわ。弟さんは、これから女として生きなければなりません。
 今回の性転換は、身体が先に女性化していき、そのあとに心も女性になっていきます。
 精神が不安定な状況になると思うので、優しく見守ってあげて下さいね。」
「はい。まず何から始めたらいいのでしょうか?」
「すぐにでもブラジャーを着けさせた方がいいわね。あの胸ではもう人前には出られないでしょう?それに、女性の下着を身につけることで自分が女性になったことを身体で認識されることが必要です。」
「ブラですね?わかりました。今後ともよろしくお願いします、私の妹を・・・。」

しばらくして出てきた里沙は、優を元気づけようと無理に明るい表情で言った。
「別に命に別状がある訳じゃないから、心配ないわよ。私に任せてね。」

優の女性化は急速に進んでいた。髪の成長が早く、髪の質も柔らかくなっていた。
顔立ちもより、ふっくらとしたフェミニンな顔立ちと変わっていった。
なにより、胸の膨らみは隠しようがなかった。外へ出ることもいやになり、ずっと家の中で過ごすことが多かった。

「今日、学校に休学届けを出してくるわ。もう、その姿では行けないものね。」
「お姉ちゃん?胸がこすれて、痛いんだ。どうすればいいのかな?」
「私にまかせなさ〜い。」明るく里沙は答えた。
「それから、十朱先生から身体のサイズを報告するように言われているの。
 ちょっと裸におなりなさい」
「そんな、はずかしいよ・・」
「何言ってるの? もう私たちは、姉と妹でしょう?」
 里沙は、うつむいている優をせかして、服を脱がした。
「あら?形のいいおっぱいじゃない?乳首も大きくなってるのね?」
里沙は、指で優のピンク色の乳首をなで回した。
「あああ〜ん・・・。いや・・・」
優は、甘えるような声を出して悶えている自分が信じられなかった。

里沙が帰ってきたのは、優が入浴から出たころであった。
「お姉ちゃん、お帰り。」
バスタオルを膨らんだ胸に巻いたその姿は、もう女の子のようであった。
「優、今日からこれを着けなさい。」
紙袋の中から、白いブラジャーを取りだした。
「それって、・・・ブラジャーじゃない・・・。僕が着けるの?」
「その胸では、もう人前に出る時はブラジャーなしでは無理よ。膨らんだチェリーが服の上から目立ってもいいの?」
「・・・うん。もう、覚悟できてるよ。」
「これはスポーツブラっていうのよ。アメリカでは成長期の女の子の胸の発育を妨げないため、着け初めにトレーニングブラを使うの。日本では、着け初めはこんなカップがない楽なブラジャーから始めるといいのよ。優もこれからもっとおっぱいが大きくなるからね。さあ、腕をお出しなさい。」

 数分後、優は真っ赤になってブラジャーをつけていた。
どこかに逃げ出したいくらい恥ずかしい気持ちでいっぱいであった。
ただ、着け心地が予想外によくって、少しうっとりしていた。

「もう少し胸が大きくなったら、普通のブラジャーに替えるわ。こんどは、後ろにホックがあるから付け方が変わるのよ。今度は、これに履き替えなさい」
里沙は、ピンクのショーツを取り出した。
「胸が女の子なのにトランクスではおかしいでしょう?それに貴女の股間は、もう前あきの下着はいらないようですものね。」

たしかに何日から前から、立って排泄することが難しくなっていたので、しゃがんで排泄する癖がついていた。優は悔しかったけど、もうどうにもならなかった。
里沙が渡してくれた下着は、肌触りが良くて予想外にフィットした。
「ねえ、優?急に女の子になれって言われても難しいと思うの。
 あたしみたいに生まれつき女の子は、小さいころからスカートやブラウスを身につけていたから、自然に女らしくなっていったわ。貴女はまだ、女の子になり始めたばかり。ゆっくり女性に移行していけばいいって十朱先生も言ってたわよ。」
「僕がスカートをはく姿なんての想像出来ないよ。きっとみんな笑うだろうな・・」
「そんなことないわよ。女の子の貴女ってきっとキュートで魅力的よ。優子ちゃん。」

 数日後、ゆっくり自分の身体を調べて見ようと思い、入浴の時に身体をじっくりさわってみた。胸はもう大人の女の乳房と言ってもいいくらいに成長していた。
ピンク色の乳首も倍くらいの大きさになっている。ウエストはずいぶん細くなった。
くびれと言えるほど、腰とのサイズが違っていた。ゆっくり股間に指をおろしていた。
このところ、まったくふれていなかった。指をゆっくり滑らせると・・・・ない!
あるべきものがない。そのまま指を下に動かすと、谷間が出来ており指がすいこまれそうであった。さわるとくすぐったい気がした。優は頭の中が変になりそうだった。手鏡をもって、股を開いてみた。
優はショックで悲鳴を上げた。
「きゃ〜・・」
優の悲鳴を聞いた里沙は、あわててバスルームに入ってきた。
「どうしたの、優子?」
「お、お姉ちゃん・・・。僕の股間が・・・。イヤだよぉ、こんなのイヤだよぉ。。」
里沙は裸のままで泣き叫ぶ優を、ずっと抱きしめてあげた。
(いいこと、優子?女の子のすばらしさをこれからだんだんと教えてあげるからね。)


(第4章)女の子への変身


優の女の子化計画は、里沙の優しい愛に包まれて少しづつ進んでいた。
「優子、伸びた髪が目の中に入ってうっとうしくない?」
「うん。いちいち髪を掻き上げるのが面倒だね。」
「ちょっと、こっちへおいで。」
里沙は、ぼさぼさに伸びた優子の髪をブラシでとかしてあげた。髪をいじられることはすごく気持ちがよかったので、優は思わず目をつぶってされるままでいた。
髪の横の所に何か着けた感触があったので目をゆっくり開けた。
そこには、前髪をおろしてサイドをピンで止めた女の子らしい髪型に生まれ変わった優子がいた。
「お姉ちゃん・・・・。こんな女々しい髪型・・僕恥ずかしいよ・・・」
「いいこと、優子ちゃん?貴女はもう女の子なのよ。女々しいとかいう言葉はおかしいの。どう、鏡を見なさい。ここに映っているのは誰?
 男の子?それとも女の子?どっちかしら?」
「・・・女の子としか見えないよ・・。」
「どうせ女の子になるなら可愛いほうがいいでしょう?それともブスでいいの?」
「うん・・。可愛い方が・・いいよ。」
「じゃあ、素直に自分を受け止めなさい。いつまでも強がりを言っていないで、甘えていいのよ。貴女はあたしの大事な妹なんだからね。」
「うん、わかったよ・・。」
姉が部屋から出ていったあと、優子はずっと鏡を見つめていた。
女の子になった僕は、たしかに可愛い・・・。女の子になるのも悪くないかな?

着け初めのころは違和感があったブラジャーも今では、Aカップのブラを着けている。
まったく気にならないばかりか、今ではブラを着けていないと落ち着かない気がする。
タンスの中にあった下着は、全て女性用に替わっていた。ピンクの可愛い下着が綺麗に並んでいる。姉に言われて部屋の模様替えもした。カーテンもパステルカラーのおしゃれな物に替えられていた。もうこの部屋は、女の子の部屋であった。
今日の格好は、丸い襟のブラウスにスラックス、それにピンク色のカーディガンを
羽織っていた。髪は、昨夜に姉が三つ編みに編み込んでくれていた。

姉から肌の手入れを怠ってはダメと言われたので、化粧水をつけるために鏡台の前に座った。コットンを使って、念入りに化粧水をつけ終わったあと、台の上にピンク色の薄づきのリップが目に入った。
・・つけたらどんな感じになるのかな?ちょっと試してみたい。
そっとキャップを開けて、ゆっくりと塗ってみた。
「えぇ〜?うっそ・・・」
リップひとつ塗っただけなのに、あまりにもキュートな顔立ちになったことで驚いていた。
優子は可愛らしい自分に変身したことがうれしくて笑顔になった。
それから首をちょと曲げて微笑んだポーズやほっぺを膨らませて、怒ったような顔をしたり、ずっと鏡の前から離れられなかった。

 今日は、病院で診察をする日であった。朝起きて、ブラジャーを肩に通した。
いまでは、着けてないと不安な気持ちがするほど慣れてしまった。乳房がカップに入るように下を向いてブラをつけることを姉から聞いていたので、今日は一人でやってみた。
胸の谷間を見ると、複雑な気持ちがした。見せたいような、隠したいような・・。
誰に会うか分からないのでキャップを目深にかぶり、オーバーオールのジーンズを着て病院に向かった。

「松本 優子さ〜ん?3番の診察室へお入りください。」
(・・・・、あ、僕のことだ。婦人科の診察のために姉が書き換えたのだったのね・・・。)

母親のような優しい十朱先生が診察室で待っていた。
「これから診察をするから、上半身の服を脱いで裸になってちょうだい。
 もう女どうしだから恥ずかしくないでしょう?」
オーバーオールを脱ぎTシャツの下から、キュートなピンクのブラジャーが現れた。
優は、膨らんだ乳房をうつむきながら恥ずかしそうに押さえていた。
今では盛り上がった乳房、くびれを持ち始めたウエスト、まるく膨らんだヒップと見事なボディラインであった。

「さあ、優子ちゃん。その胸をどかして見せてちょうだい・・・。
 あら、もう立派な乳房ね。この前のレントゲンで確認したけど、貴女の乳房はもう乳腺が発達してきているわ。子供を産んだ時には、自分の胸で赤ちゃんにおっぱいが上げられるのよ。よかったわね。」
「え〜、子供を産めるってどういう意味ですか?」
「こちらへいらっしゃい。」
カーテンで仕切られたベッドは、開いた足を載せられるような産婦人科用独特のベッドであった。
「さあ、今度は下半身の下着をおろして、この上に乗るのよ。」
優子は、恥ずかしそうに後ろ向きになって、ゆっくりピンクのショーツをおろした。
まるまると盛り上がった白いヒップが現れた。

台の上にのり、ゆっくり足を上げて開いた。股が全開の状態ですごくはずかしかった。
「優子ちゃんが、もう完全な女になったことを身体で感じなさい。」
(うぅ、な〜に、この感触・・)
「優子ちゃん、いいこと?貴女にはもう膣があるの」
(僕の股間に膣がある?そんな・・・)
「レントゲンで確認した結果、貴女のおなかのなかに子宮が確認されたの。
 順調に成長しているから、あとは生理がくれば子供を産めるのよ。」
(ショック・・・。もう、僕は・・完全な女性なんだ・・・。)
「いつか貴女も母親になる日がくるわ。やっぱり子供は女にとって大事なものですから。」
優は、目から大粒の涙が出てきた。
「ねえ、先生・・・。もう男の子に戻ることは不可能なの?・・・」
「ええ。貴女はもう完全な女性に生まれ変わったの。早く自分を受け入れたほうが苦しまなくて済むわよ。」
十朱先生は、優子にゆっくり触れた。
「ああ・・・・。変な気持ちになっちゃう・・・。」
「あなたの身体は、女になった自分を喜んでいるわよ。貴女もほんとうは、女になれてうれしいはずよ。」
さっきまでの悔し涙は、いつの間にか歓喜の涙に変わっていた。
診察が終わり着替えを始め、ブラジャーの肩紐を調節してる時に、まるで追い打ちをかけるように十朱先生は言った。
「これからも何回かこんな診察をするの。診察が楽になるように今度からスカートをはいてくることね。」

優子は、病院の帰りに歩きながら、さっきの診察のことを思い出していた。
まだ身体が火照っている・・・。
女医に触れられた時の不思議な感触・・・・・。そして、膣の存在。
僕は、これから女として男に抱かれるのだ・・。
まして、子供を産むなんて・・今はまだ、信じたくない。
別れ際に言われた言葉が気になっていた。
「あまりに急激な変化が貴女に起きたから、今はとまどいがあるかも知れないわね。
 でも、そのうち、女性ホルモンが脳の中にシャワーのように降り注ぎ出すでしょう。
 きっと女心に目覚める日もそんなに遠くないはずよ。そのうち、男の子のことが好きになるはずよ。素敵なボーイフレンドが出来たら紹介してね。」

気がつくとブティックの前のショーウインドーに飾ってある花柄のキュートなワンピースが目に入った。
(綺麗・・・。私にも似合うかな・・・・)
自分がそのワンピースを着て笑顔でデートしてる姿を想像していた。
そのうち、はっと我に返った。そんな・・ワンピースを着てみたいなんて・・・。
もう、脳の女性化が始まったのかしら?


(第5章)女の子の目覚め


「お姉ちゃん、ずいぶん前から床屋に行ってないよ。そろそろ髪を切りたいの。」
「そうね。でも優子も行くところは、もう床屋じゃないの。美容院よ。」

「この子は、あまり気を使わない子だから、髪が伸び放題なの。なにか似合う髪型はないかしら?」
里沙は、20歳代後半のちょっと化粧の濃いリーダーの女性に頼んでみた。
「ショートのボブスタイルなんかどうかしら?色もちょっと明るい茶色に染めてみたらいかがかしら?」
「そう?お願いするわ。ついでに眉も整えてあげてね」
数時間後、鏡の前には、見違えるように女の子らしい姿に変わった優子がいた。
特に細くカットされた眉は、顔のイメージをまったく変えてしまった。
もう誰が見ても「ボーイッシュな女の子」にしか見えないだろう。
優子は、内心そんな女の子らしい髪型が気に入っていた。
ただ、自分の心の中に男の子のこだわりがまだ残っていて、素直にそれを認めようとは、しなかった。

ある晩、寝ている時に股間が妙に熱くて目が覚めた。下着の中に指を入れてみるとどろっとした物が指先にふれた。あわてて電気をつけて確認すると、それは血であった。
「お姉ちゃん、大変だよ。血が、股から血が出てるよ・・・」
寝ているところを起こされた里沙は、真っ赤に染まった優のパジャマを見て、にっこり笑った。
「そんなにあわてなくていいのよ。生理が始まったのね。さあ、シャワーで流しておいで。」
シャワーからでると、姉が新しい下着と小さなビニールに入った袋を手に持っていた。
「今夜から、ナプキンをおつけなさい。ずれないようにテープがついてるから、ショーツに着けるのよ」
優は言われたようにナプキンを装着した。
「なんだか、おしめをつけているようで気持が悪いね。」
「これからずっと、毎月生理がくるのだから早く慣れる事よ。
 じゃあ、もう遅いから寝なさい。寝不足はレディのお肌に毒よ、優子。」
ベッドに入り、この前十朱先生に言われた言葉を思い出した。
もう妊娠することが出来る。避妊に失敗すれば、私は母親になるんだ・・・。
その夜は、素敵な旦那様といっしょに子供を抱いている母親の姿を夢に見た。
その母親の姿は、自分であった。

優子は、なかなか家に閉じこもることが多かったので、気晴らしに渋谷へ出かけた。いつものように体型がわからない格好で出かけようと思ったら、服が見つからない・・・。
里沙にどこへしまったのか聞いてみると、洗濯してまだ乾いてないとのことであった。
替わりに出された衣装は、赤いサマーセーターとレディスジーンズであった。
仕方なく着替えると、ブラのせいで胸が強調されたボディラインがあった。
「優子、このペンダントをつけていきなさいよ。胸元のアクセントになるわよ。
 それにこのペンダントは、恋のキューピット役をしてくれるの。
 きっと素敵な彼が見つかるわよ。」
里沙は、ハート型のペンダントを優子の首から下げてくれた。
「こんなの・・・いらないよ!」優子は、すぐにはずして、ポケットの中に閉まった。

電車に乗って駅に降りたあと、あのペンダントのことを思い出していた。
(けっこう可愛らしくて似合っていたな・・)
ポケットから取り出して、ペンダントをかけてみた。たしかに胸元のアクセントになり、少女らしさを増しているようであった。
(・・可愛い・・・)もうはずすことはなかった。

胸元のペンダントを見るたびに、自分がキュートな姿であることを思い出して、自然にしぐさも小さくなっていた。歩く歩幅も短くなり、無意識のうちに内股になっている。
CDショップでお気に入りのものを捜しているうちに、隣にいた男の子とぶつかった。
おもわず、「あら、ごめんなさい・・」と優しい口調で謝っている自分がいた。
その相手は、昔の遊び友達の雅夫であった。

「雅夫!久しぶりだね?」
「え?君は誰?前にナンパしたことあったっけ?」
「僕だよ、優だよ。」
「・・ほんとに優か?・・・・どうみても可愛い女の子にしか見えないよ」
(可愛い?僕が・・?)

その後、喫茶店に入り、これまでのいきさつを話した。
「・・そうなのか。もう女の子になっちゃったのか。いろいろ悩んだだろう?
 でも、もう開き直って女として生きていくしかないよ。けっこう可愛いよ。」
「おい、まだ僕は男のつもりだよ・・。」
「そんな意地を張るなよ。そのペンダント、すごく似合っているよ・・。」
(え?そうかしら?・・・優子は、心の中でつぶやいていた)

「今度、ブルー・ゼッペリンが来日するだろう?よかったら、いっしょにライブに行かないか?実は、彼女といくつもりでチケット2枚買ったのだけど・・この前、振られちゃって。」
「あ、そうなの?じゃー、僕も連れてってよ。」
「今度の土曜の夕方の5時に東京ドームの3塁側入り口前で合流しようよ。
 こんな可愛い女の子といっしょにいけるなんて、ついてるな、俺」
「・・だから、まだ僕は男だってば・・・」
「その、僕って言葉、今のおまえには、似合わないぞ。」
雅夫と別れたあと、優子はすごくコンサートが待ちどおしかった。


(第6章)始めてのお化粧


「お姉ちゃん、僕にお料理を教えてくれない?」
「あら、どうしたの?ボーイフレンドでも出来たの?急に女の子らしくなって?」
「・・・そんなこと、いいでしょう?」
「はい、いいわよ。じゃーこのエプロンをおつけなさい。」
優子は、花柄でフリルがたくさん入ったエプロンを着てみた。
「うん、優子、似合うわよ。すっごく可愛いよ。」
「え?そう。はやく料理を教えてよ。」
優子は、雅夫のためにお弁当を作っている自分の姿を想像していた。

コンサートまではまだ何日かあった。今日は、暇つぶしに部屋のお掃除を始めていた。
前は、部屋が散らかっていても気にしなかったクセに、この所きれいずきに変わっていた。それに、掃除という作業自体が楽しく思えてきた。
無意識のうちにアイドルの歌を口ずさんでいた。そして、里沙が帰って来たことに気がつかなった。

「優子?もうすぐ彼とデートなんでしょう?楽しそうね。」
「そんな、デートだなんて・・・。ただいっしょにコンサートへ行くだけだよ」
「初めてのデートなんだから、少しはおめかしをして行きなさいよ。」
「・・・うん。」自分でも雅夫にまた可愛いと言われたい気持ちがあった・・・。

「そうだ、私がお化粧を教えて上げる。」
「お化粧?まだ、僕には早いんじゃないの?」
「そんなことないわよ。私も高校生の時にお化粧を覚えたのよ。さあ、ここにお座りなさい。よく見ておくのよ。」

化粧水で顔を整えたあと、コンパクトを取り出して、ファンデーションを塗り始めた。
優子は、どんどんと変わっていく自分の顔を呆然と見ていた。
眉ずみで眉を書き始めた。
「いい?一本、一本植えるように描くのがコツなのよ。」
若干、アーチ型に描かれた眉は前より長くなっていた。以前は、自分の目と同じくらいの長さであった眉は、今では何センチか長くなっていた。

「まつげをカールさせるから、ちょっと上を向いてね。」
ビューラーで何回もずらしながら、まつげは綺麗にカールされていった。
「今度は、マスカラよ。付け終わったら、乾くまでしばらくは瞬きしちゃだめ。」
カールされたまつげにそって、マスカラが塗られていく。
終わった時には、目元がぱっちりとした目になっていた。
「えー、すごく変わるんだね、お姉ちゃん」
「ちょっと、アイラインを入れようか?目立たないようにするには、まつげの内側に塗るの。」ていねいに目尻のあたりにラインが描かれていった。
「うーん、アイシャドウは、何色がいいかしらね?可愛いらしくピンクにしよう。」
瞼にそって、シャドウが塗られていく。
「ルージュは、シャドウにあわせてピンクにしようね。」
紅筆で丁寧に唇が塗られていった。ちょっと小さめな唇は、もうピンク色に彩られていた。塗った後、ティッシュで抑えることも教えられた。
「仕上げに チークを軽くいれましょう。濃すぎると下品に見えるからね。」
明るい色のパウダーが顔に塗られていった。

「うん、なかなかいいぞ。そうだ、このイヤリングをつけてごらん?
 小さくて、ピアスみたいでしょう?」
耳たぶには、可愛く光るイヤリングが飾られた。
「さあ、出来上がりよ。どう、優子?ずっと、女らしくなったでしょう?」
「・・うん。・・・ぼ、ぼ・く・・・わ・た・し、別人みたい・・」
(・・・どうしたんだろう?男の言葉が出てこない・・・。)

「こんな素敵なレディがオーバーオールのジーンズでは、もったいないわよ。」
里沙は、洋服ダンスからレースずかいの丸い襟のブラウスと、ふわっとしたフレアーのロングスカートを取り出した。
「さあ、着替えてみなさい。きっとお似合いよ。」
優子は、ちょっと照れながら着替えてみた。初めてはいたスカートは、とてもここちよいものだった。鏡を見るのが怖い。もし似合ってなかったらいやだわ・・。
鏡の前に立ち、ゆっくりと目を開けてみた。
そこには、恥ずかしそうにうつむいている可憐なお嬢さんが立っていた。
「え?これが・・あたし?信じられない・・・。」
(もう無意識のうちに女言葉がわき上がっていた・・)
「そうよ、やっと女言葉を使う気になってくれたわね。とっても自然よ、優子。」
「あら?そうかしら・・。」
あまりにも変わった自分に驚きながら、おもわず口元に手が行っていた。
「はい、わかったわ。あたし・・ねえ、お姉ちゃん?あたし、もう強がりを言うのやめるわね。自分の今の姿を素直に受け止めることにするわ。」
優子は、女言葉を使うことで、前より優しい自分になれるような気がした。
そしてこれからは妹として、姉に甘えようと思っていた。


(第7章)愛のプレリュード


女に目覚めた優子は、次ぐ日からスカートを毎日はくようになった。
今日は、紺色のミニのタイトスカートに黒のタイツをはいていた。
いつものように花柄のエプロンをつけて、台所にやってきた。
「おはよう、優子。すごく似合ってるわよ・」
「ありがと。あたし、今日からお洗濯やアイロンかけもやらせてね。」
「やっと、女の子に目覚めたな。」
里沙は、照れてる優子のおでこを指でつんっと押した。
優子は、こんな甘い生活にどこかであこがれていたのかも知れない。
(あたしって、本当は甘えっ子なんだね・・・。)

食事をしながら里沙は、優子に話した。
「高校の編入の手続きが済んだから今日は、制服を買いに行こうね。」
「あたし、どこの学校にいけるの?」
「白百合女子学園よ。」
「えぇ?あそこはたしかセーラー服だわね。あたし、早く着てみたいな。」
「うん、今時セーラーは、珍しいからきっと男の子にもてるわよ。」
「あたし、スカートを3回くらい折り込んで、ミニスカにしちゃおうっと。」
「まあ、優子ったら。」

コンサートの当日、優子は下着を選ぶのに迷っていた。もしも・・の事態に備えて、可愛らしい下着を選んでいた。いつもはピンクの下着であったが今日は、白の下着を選んだ・・・。

「今日は、どんなファッションで行くの?」
「うん、あたしはあまり女らしい格好よりも、活発なほうが似合いそうだから赤と黒のチェックのプリーツ・ミニスカートにしようと思うの。」
「あ、あれは優子にお似合いね。今日はお化粧して行くんでしょう?」
「今、迷ってるの・・・。あたし、どうしよう?」
「ふふふ、今日のために毎晩、お化粧の練習していたの見てたのよ。」
「まあ、お姉ちゃんたら・・・。じゃあ、あたしお化粧してくるね。」

30分後に見違えるようにキュートになった優子が降りてきた。
「優子・・。とっても綺麗よ。」
「ありがと、お姉ちゃん。」
照れる優子を見ながら、里沙は微笑んで言った。
「今日はこれも持っておゆきなさい。」
化粧直し用のファンデとルージュを入れた化粧ポーチをバッグに入れてくれた。
「時々、お化粧直しをするのよ。鼻のまわりのファンデはとれやすいし、何か飲んだり食べたりしたあとは、必ずルージュを塗り直すのよ。」

ポシェットの細いヒモを肩から下げて、優子は今ではか弱い少女に変身していた。
膝上20cmのミニスカートのせいで股間が落ち着かなかった。
コンサート会場に向かう途中、優子は少し不安だった。
このファッション、気に入ってくれるかしら?
「彼女、一人かい?いっしょに見に行かないか?」
不良っぽい男の子から声をかけられた。
「あのう、・・あたし、彼と待ち合わせなんです・・。」
「そうなのかー、こんな可愛い彼女といっしょに歩ける彼氏がうらやましいね。」
去っていく男の子を見ながら、優子の心の中はどきどきしていた。
(あたし、ナンパされたんだ・・・。)

待ち合わせの時間になった。雅夫は、あたりをきょろきょろしている。
(あたしのことがわからないんだわ・・)
「雅夫くん?」
振り向いた雅夫は、優子を見て一瞬驚いたような顔をしていた。
「優子ちゃん・・なの?」
優子は、にっこり笑って言った。
「えへへ。あたし、お化粧してきちゃった。どう、似合う?」
「・・・まあね。」
雅夫は、優子のあまりの女らしさに照れていた。
その後の雅夫は、いつもに比べてすごく優しかった。
いろいろと気も使ってくれた。
(やっぱり、お化粧してきてよかったわ。お姉ちゃん、ありがとう・・・)

昔は男同士で気がつかなかったけど、今こうして女の子になると、雅夫がとてもハンサムなことに改めて気がついた。そしてすごく優しい性格であることに気がついていた。
コンサートは盛り上がって終了時間がかなり遅くなり、終電に間に合わないかもしれない時間となっていた。
「ねえ、優子ちゃん?・・・今夜は君と、ずっといたいんだ。ずっと前から君のことを知ってるはずなのに、もっと君のことを知りたいんだよ。」
「・・・・いいわ。」
雅夫がそっと手を握ってきた。優子も握り返した。
「ねえ、甘えていい?」
優子は、雅夫の胸の中に顔をつけて雅夫に甘えてみた。
(あ、雅夫くんの心臓がどきどきいってる・・。)
二人は、手をつないだまま、ラブホのある通りに出ていた。
「ちょっと寄っていこうか?」
「あなたにお任せします・・・。優しくしてね・・・。」

優子は、先にシャワーを浴びて、ベッドに裸のままもぐり込んだ。
(あたし、もうすぐホントに女になるんだわ・・・・)
ルージュがとれかかっていた事に気がつき、紅筆で丁寧に口元を直してみた。

雅夫がシャワーを終えて戻ってきた。
優子は、目をつぶった。顔が近づいてきた気配がしたので、そっと唇をあけた。
すると雅夫の暖かい舌が口の中に入ってきた。
長い長いキッスのあと、ベッドに横になった。

雅夫は、優子の乳房にキッスを始めた。
(ああ、なんて気持がいいの・・。)
優子は今、女としての満足感を感じ始めていた。舌がだんだん下腹部から、股間に下がってきた。
その日は、優子にとって長い夜であった。

優子は、それから女子高校生として女の子の生活をエンジョイした。もともと明るい性格の優子は、すぐにクラスの人気者になった。週末になるとお友だちの家に泊まり込みおしゃれの話しや彼氏の話題で盛り上がった。夜や週末は、ファーストフード店のレジで元気にアルバイトをしていた。制服のミニスカートから見える綺麗な足が目当てで、高校生の男の子がわざとテーブルを汚して、優子が掃除にくるのを楽しみにしているグループもあった。今では自分が昔、男の子であったことを忘れていた。

優子はその後、会社に就職してとしてOLとして社会人のスタートを切った。
里沙からは女子大に行くことを勧められていたが、いつまでも姉に甘えているのでは申し訳ないと思っていたからであった。ピンクのベストスーツ姿は、とても魅力的で会社の男子からあこがれの的となっていた。

お茶くみのために台所で同期入社の由美とおしゃべりをするのが楽しみだった。
「ねえ、優子?女って損だよね。あたしたち、まともな仕事を預けてもらえないでしょう?」
「たしかにあたしも由美もお茶くみとコピーばっかりだもんね。」
「やっぱり女って損よ。次に生まれてくる時は、あたし、男がいいな。」
「そうかしら?あたしはこの次も絶対女に生まれたいわよ。」
優子は、コンパクトを取り出して、とれかけていたルージュを塗り直していた。

相変わらず、雅夫との関係は親密であった。今では、誰にでも恋人と紹介できるくらいであった。そして20歳の記念である成人式がやってきた。

里沙は、ピンクの振り袖を優子に買ってくれた。美容院で着付けとお化粧をしてもらい出てきた優子は、とても素敵なレディに変身していた。
「優子・・。よくここまで女らしくなったわね。すごく綺麗よ。」
「お姉ちゃん、ここまであたしを女らしくしつけてくれてありがとう。
 あたし、女になれて本当によかったわ。」

成人式の会場では、雅夫が先についていて優子を待っていた。
優子がタクシーから降りた姿を見て、そのあまりにあでやかな姿に惚れ直していた。
式が終わり、二人で公園を散歩することになった。
「優子、大事な話があるんだ。」
「なあに、雅夫さん?」
「俺の・・・俺の嫁さんになってくれないか?」
「え〜?そんな急に言われても・・・それにあたしは戸籍がまだ・・・」
「そのことなんだけど、役場に行ってるオヤジが今年で退職するんだ。
 最初は、おまえのことを話したときは、すごく驚いていたけど、なんとか説得してわかってくれた。それでね、住民記録の戸籍を改ざんしてくれた。
 もう、優子は戸籍も女になったんだよ。」
「・・・・雅夫さん。あたし・・・」
優子は涙が止まらなかった。
「そんなになくと化粧がとれて、美女が台無しになるよ。」
「雅夫さん。あたし、ずっとあなたについていきます。あなたのために一生尽くします。あたしを・・お嫁さんにして下さい。」
二人は今は日も暮れて、夕闇のなかでずっと抱き合っていた。
ピンクの晴れ着の下には、女として始めて雅夫に抱かれた時に身につけていたハートのイヤリングが首から下がっていたことを雅夫は知らなかった。
優子は思った。いつかこの人の赤ちゃんを産みたい。そしてこの幸せが永遠に続いてくれるようにペンダントに祈った。

おわり

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