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妖精の湖

作:Marie


(第1話)
「朝御飯が出来たよ! 暖かいうちに食べようよ。」
 玲一は食事の支度を終えて濡れた手をエプロンで手を拭きながら2階の行典に声をかけた。
「今行くよ、兄貴!」
 高校生になってからすっかり色気付いた行典は、ヘアースタイルを気にしながら降りてきた。

「兄貴、今日のスクランブル・エッグはいい味だね?
 エプロン姿も板に付いてきたし、このまま行くといい嫁さんになれるんじゃないの?」
「バカなことを言っていないで早く食べないと遅刻するよ!」
 玲一が病気で入院している母の変わりに台所に立つようになってもう1ヶ月くらい経っていた。
 最初は恥ずかしくてエプロンをつけないで食事を作っていたが、一度着けてみると予想外に快適であるし、母のエプロンをつけて作る食事はいつもよりおいしく作れるような気がした。

 玲一たちがまだ小さい頃に離婚した母は女手一つで子供たちを育ててきた。
 この4月に玲一が大学を卒業して就職が決まると急にほっとした母は今までの心労が一気に出てきてのか、倒れて入院してしまった。
 二人暮らしになった玲一は家事をいっさいこなしており、まるで働く主婦のようであった。
 早起きして家事をこなすことは不思議にいやではなかった。
 それよりも今まで母が大変な仕事をこなしていたことがわかり、母に感謝する気持ちでいっぱいであった。
 そして今までは軽い存在で見ていた働く女性の気持ちが理解できるような気がした。

「なあ兄貴、今度の金曜日に群馬県に出張に行くんだろう? 俺も連れていってくれないか?
 先生の研修で学校は休みだし、行ってみたい所があるんだ。」
「ああ、いいよ。で、どこに行くつもりなんだ?」
「小平川っていう場所なんだ。
 何でも先日の大きな台風のあとに蛍が異常に発生してるって新聞に出ていたろう?
 たくさん蛍をつかまえたいんだよ。」
「遊び好きなおまえが、いつからそんな趣味になったんだ?」
「俺が欲しいんじゃないんだ・・。
 お袋が入院してる病院で知り合った女の子がね、一度も蛍を見たことがないって言ってたので見せてやりたいんだよ。」
「そうだったのか。いいいよおまえも恋をするようになったんだね。」
「兄貴、そんなんじゃないよ。まだ小学生の真由子ちゃんだよ。
 廊下を歩いているときに寂しそうに外を見ていたところを俺が話しかけてね、それで時々話し相手をしてあげているんだ。
 もうすぐ大きな手術をするらしいので、少しでも元気づけてやりたいんだよ・・・。」

 金曜日になり二人は群馬へ向かった。
 行典は玲一が仕事をこなしている昼間は地元の博物館で暇をつぶしていた。
 蛍の現れる夕方になり二人は合流し小平川へ向かった。
 現地に着いたときはあたりはもう薄暗くなっており、川の水面に霧が漂っていた。
 台風が増水した川はまだ水量がかなり多かった。
 心配になった玲一は蛍狩りを止めようとしたが、せっかく来たからと行典は元気に川に向かって降りていった。
 2時間後に戻ってくることを約束した玲一は、今日の報告書を作るため市街地まで降りていった。

 玲一の仕事は建設会社の営業であった。
 特に将来の当てもなかった玲一は親類の紹介で就職したが仕事の内容は少しも楽しいものではなかった。
 自分が本当にやりたいことは何か模索している毎日であった。
 行典と別れた玲一は駅前にある喫茶店に入り、ノートパソコンに向かい資料作りに没頭していた。
 一時間半後にやっと資料を作り終えた玲一は、店のすぐそばにあるISDN対応の公衆電話ボックスからデータを送信し、ほっとしていた。
 喫茶店に戻りながら信号待ちをしていると目の前をサイレンを鳴らしながら消防車と救急車が何台も山の方向へ向かっていったのを見た。
 玲一はなぜか不吉な胸騒ぎがした。

 喫茶店に戻ると、店主は不安そうな顔で電話の受話器を握っていた。
「はい・・。・・ええ、なんだって?それは大変だな・・」
 心配になった玲一は、喫茶店の店主に電話の内容を聞いてみた。
「ダムのすぐ上で大規模な土石流が発生し、大量の土砂が流れ込んでダムが決壊する危険性が出てきたのです。
 そのため何度か大量の水を緊急に放流したのですが川に螢狩りに来ていた人が何人か流されて行方不明になってるらしいですよ。」
「まさか・・。僕の行典も小平川という所に螢狩りに行ってるのですよ?」
「なんだって?行方不明者が出た場所はその小平川ですよ。
 ダムのすぐ下流だから放流すると急激に水位があがってしまうんです・・・。」
 玲一はあわてて喫茶店を出て小平川に向かって車を走らせた。
「行典、無事でいてくれよ・・・」

 約15分後、行典と別れた場所に着いた玲一は車から降りると顔から血の気が引いていった。
 川は既に水位が1メートル以上も上がっていた。
 現地にすでに駆けつけていた消防署の職員といっしょに濁流となった川伝いを歩き行典の姿を探したがどこにも見つからない・・。
「あんたの弟さんを早く見つけないと大変なことになる。
 一時間後にまた大量の放流を予定しているらしいよ。
 放流前にサイレンが鳴るからあんたも気をつけないと流されてしまうよ。」
 そう言うと消防暑の職員はまた行方不明者の捜索に戻っていった。
 玲一はショックと捜索疲れでその場に座り込んでしまった。放心状態がしばらく続いた。
 気が付くと、夜の8時はとっくに過ぎているはずなのに辺りが急に明るくなったような気がした。
 見ると大量の蛍が宙を舞っており、辺り一面が青白い光に包まれていた。
 玲一はその幻想的な姿に見とれていた。やがて蛍の群は一筋の道となっていた。
 無意識のうちにその道に沿って歩き出した玲一はかなり川の下流まで降りていった。
 すると蛍が岩肌の亀裂から吹き出している場所を見つけた。
「あれは・・・人が倒れている!」
 川が蛇行して水がぶつかりえぐりとられた岩肌に人影を見つけた玲一は木の枝に捕まりながらゆっくりと人影の元に降りていった。

 そこには流れてきた木に挟まれた格好で40歳前後の婦人が倒れていた。
「しっかりして下さい!今、助けてあげますからね?」
 下半身を水の中に浸かりながら、玲一は流木をはねのけてその婦人をなんとか助け出すことに成功した。
 水しぶきを浴びて若干化粧がはげてはいたが、中年女性の熟した色気に満ちた魅力的な女性であった。
 また水に濡れた洋服に貼り付いた下着からは豊満な胸の谷間が透けて見えていた。
「・・ありがとう。これ以上増水したら溺れてしまうところだったわ。
 私は朝田 美代子といいます。あなたは地元の方なの?」
「いいえ、違います。弟が蛍狩りに来ていて行方不明なんですよ・・。」
「ねえ、あの靴はひょっとして弟さんのものではないかしら?」
 美代子はすぐ先の岩の亀裂の所を指さして言った。
「あ、あれは・・行典の運動靴にそっくりだ!」
「この奥に洞窟があるのよ。そこに流されていれば弟さんは助かっているかもしれないわ。
 私ね、昔にこの洞窟に入ったことがあるのよ?行ってみましょう。」
 玲一はすがる思いで足を怪我していた美代子に肩を貸しながら、蛍が吹き出してくる不思議な洞窟に入っていった。
 蛍の灯す明かりで青白く光る洞窟を歩きながら美代子は語り始めた。

「私はこの土地の出身なの。あなたの弟さんと同じく新聞で蛍の大量発生の記事を見たの。
 ちょうどこの近くに来る用事があったので久しぶりに川へ来たら、蛍がまるで私を導くようにここへ連れて来てくれた。
 そこに流れてきた流木に足を挾まれて動けなくなってしまったの。
 まるで20年前におきた不思議な出来事と同じようだったわ・・。」

 美代子は話しを続けた。
「私が高校生の頃、この川に釣りに来ていたの。
 雨が強く降っていたけど夢中で遊んでいたら川が急に増水してね、大水で流されてここに迷い込んでしまったのよ。
 ここはずっと塞がっていたのに大きな地震が来て隠れていた入り口が姿を現したみたいね。
 この先には青白く光る湖があったわ。
 どこかに地上との通り道があるのか、そこには怪我をした動物達が水に浸かりに来ていたの。
 すると私の目に羽根の生えた妖精が見えてね、水の中においでって手招きをしている姿が見えたの。
 私は魅せられたように服を脱いで湖に入っていったわ。
 水は少し冷たかったけどとても肌に心地よかったわ。
 私は当時、病気がちだったの。それが水に浸かっているうちに身体の中の悪い部分が消えていくような不思議な感覚になっていった。
 それからしばらく動物達と水の中で遊んでいたの。
 なぜか、みんな雌ばかりであったのが不思議だったけど・・・
 あとでその原因がわかったわ。
 ここの湖は水に浸かった者を美しく変身させる妖精の湖だったのよ。
 きっとあなたの弟さんも今頃、生まれ変わる準備をしているのかも知れないわね。」
「生まれ変わる・・?」
「そうよ。私は、20年前まではキヨシという名の男の子だったのよ・・・」

 キヨシはその出来事の1ヶ月後あたりから肉体に変化が現れてきた。
 胸が膨らんで身体つきが女性のように変化していったのだ。
 その姿に驚いた母親は大学病院に連れていって検査をしてもらった。
 その結果、キヨシの身体の中の男性ホルモンが急速に女性ホルモンに変わっており、あと数ヶ月で完全な女性の姿になるだろうと言われた。
 息子の変身に一度は心を痛めた母親は決心してこの地を離れ、キヨシを美代子という名前の娘に変えて新しい生活を始めることにした。
 美代子はなれない女の生活に最初はとまどったが、なれてくるうちに女性の生活に喜びを覚えるようになった。
 そして女子高校に編入したあとに好成績で女子大に進み、今では輸入物の婦人下着を扱う会社の社長となっていた。

「そんな・・。信じられません。貴女のような女らしい人が男だったなんて・・。」
「当時、私を診察して興味を示した医者はここの水を採取していろいろと調べたの。
 その結果ここの水の成分に高濃度の女性ホルモンが含まれていることがわかったわ。
 原因は昔、上流に化学工場があってそこで流していた廃液が地表からしみこんでいくうちに化学分解を起こして女性ホルモンに変わったらしいわ。
 今、話題になって環境ホルモンのようなものだったのね。
 それでそのお医者さんはこの魔法の水を使って一儲けしようとしたらしいのだけど、ここが次の夏に来た台風の洪水でふさがれてしまいこの世から姿を消してしまったの。
 それっきりここは誰も知らない場所となっていたのよ。」

 やがて地底の湖にたどり着いた。
 大量の蛍に照らされて青白く光る湖はこの世のものとは思えない幻想的な世界であった。
 見ると湖の中心のところに大きな木がそびえたっておりそこに何か白いものが引っかかっていることに気がついた。
「あれは、行典だ!」
 水の中に入ろうとする玲一を美代子は止めた。
「この水に浸かればあなたは女になってしまうのよ?とりあえず私が助けにいって見るわ。」
 美代子はそう言って着ている服をその場で脱ぎ始めた。
 下着も全部脱ぎ去った美代子の身体は中年の女性にしては見事なプロポーションであった。
 盛り上がった円錐型の乳房は垂れることなく乳首は上を向いていた。
 そして下半身のビーナスの丘は綺麗な形をしていた。
 雑誌なので女性の裸を見たことはあったが実物の女性の裸を見ることは初めてだった。
 玲一は女性ってなんと美しいのだろうと思った。

 美代子は静かに水の中に入りゆっくり浸かっていった。
 すると怪我をしていた足はいつの間にか不思議な力で治癒されていった。
 美代子はゆっくり湖の中心へ泳いでいった。
 やがて行典のいる場所にたどり着き救助を試みたが、湖の中に生えていた大木と流された木の間に行典の身体が挟まり、一人ではどうにも出来ないというサインを玲一に送ってきた。
 玲一は迷った・・・。
 自分が助けに行かなければ行典は助けられない。
 でも水に浸かれば自分は女性に変身することになる・・。
 決心が決まらない玲一の耳に遠くのほうでサイレンの鳴る音が聞こえてきた。
 あの音は・・またダムの放流だ!
 早く助け出さないと行典だけでなく美代子まで危険な目にあうことになる。
 ああ、どうしたらいい・・?

 すると目の前におぼろげな光が輝きだして、やがて可愛らしい妖精の姿となった。
 美代子が昔見たという妖精と同じなのだろうか、体長は15cmくらいで輝く羽根を羽ばたかせて玲一に話しかけてきた。。
「何をしているの?さあ、はやくお行きなさい。
 生きるってことは、ほかのどんなことにも替えられないのよ。」

 玲一は覚悟を決めて服を脱ぎ、水に飛び込んで行典の元に泳いでいった。
 そして美代子と二人掛かりでなんとか行典を挾まった木から引き離すことに成功した。
 そして美代子と二人で湖の畔まで行典を運び服を身につけていると、美代子は湖に浮いていた流されて来たと思われる小振りなペットボトルを見つけて、湖の水をその中に詰めた。
「あなたのお母さんと弟さんのお友だちの少女に飲ませて上げるといいわ。
 きっと病気がよくなるはずよ・・・。」
 そこから二人は行典を抱きかかえて入り口に向かって走り出した。
 外が近づくにつれて上流の方から轟音が聞こえてきた。
 あわてて対岸に渡りきったころには濁流が押し寄せてきた。
 今度の放流は前よりも水位が高く洞窟の中にいたら全員おぼれていたかもしれない。
 間一髪3人は助かった・・・。

 まだ意識を失っている行典を車に運び込んだ二人は、やっと落ち着いた。
 車に積んであった冷えた缶コーヒーを2本取り出した玲一は美代子にひとつを渡しながら川の土手に腰をかけた。
「ねえ、美代子さん?このことはしばらく秘密にしてくれませんか?
 行典は僕と違い気が強くて自分が女性に変身することを知ったらきっと気がおかしくなってしまうと思うんです。
 肉体が女らしく変化してきて自分でその現実を認識するまで黙っていてあげたほうがいいですよね・・・。」
「そうね、私もあの時は一度は自殺を考えたことがあったわ・・・。
 でもね、私は少しも後悔していない。むしろ女になってよかったと思ってるの。
 貴女もこれから女になる運命になったけど、悲観しちゃダメよ。
 二人で励まし合って新しい人生を切り開いてお行きなさい。
 出来ればずっとあなた達についていてあげたいけど、私はこれから当分の間、ヨーロッパでお仕事をすることになっているの。
 私の替わりにあなた達の女性への移行を手伝ってくれる女性を紹介するわ。
 このメールアドレスに連絡しなさい。
 きっと力になってくれるはずよ。」
「そうですか、ありがとうございます。
 でも僕たちは病気の母親を抱えている状態ですからあまりお金はないんです。
 大丈夫でしょうか?」
「あなたは私の命の恩人だから資金は私が出してあげる。
 それにあなたって・・・ 私の男の子時代にそっくりなの。
 まるで昔の私を見ているような錯覚を覚えるのよ・・。」
「いつか働いてお返しします。ねえ、美代子さん?
 ・・・・女性になるってどんな感じなんですか?」
「とても素晴らしいものよ。こればっかりはなってみないとわからないと思うの。
 私は男の子の時の数倍は人生が楽しくなったわ。
 それからお金は返さなくてもいいわよ。
 ねえ、あなたはこれから女になるの。もう今の職場では働けないでしょう?
 私が半年後に帰ってきたら私の会社に来なさい。私のパートナーになってほしいの。
 あなたなら有能な女性秘書になれそうよ・・。」

 メールアドレスを書いたメモを受け取り二人は再開を約束してその場で別れた。
 帰りの車内で目を覚ました行典は溺れてからの記憶はまったくなかった。
 玲一から今までのいきさつを聞いて驚いていた。
 そして自分がこれからどんな運命を歩むのか知らずに無邪気な笑顔を見せていた。
「ねえ、行典には妖精の姿は見えたかい?あの羽根の生えた可愛い妖精だよ?」
「なんのことだい?妖精なんてファンタジーの世界の作り物だよ。
 まったく兄貴はロマンチストなんだからな・・。」
 明るい会話が続く車内で、二人は体内で少しづつホルモンが別の姿に変わり始めていたことにまだ気がついていなかった。

 川で起こった出来事から最初の一週間は二人の身体に何事も変化がなかった。
 きっとあそこで起きたことは幻であったに違いない・・。玲一はこれから先に起こることの不安感を打ち消すように自分に言い聞かせていた。
 ある日、病院の医師から母のことで呼ばれた。
「あなたのお母さんの病気はかなり進行しています。
 病院としてもできる限りの処置はしたのですが・・
 あと半年くらいしか生きられないかもしれません。」
 玲一は努めて元気に装い母を見舞いにいった。
 前から比べるとげっそりとやせており寝たきりの状態で、昔の美しい母とは別人のようであった。
 玲一は家に帰ってから母のことを思い泣いていた。
 お母さん・・・小さいころ僕はお化粧で綺麗に変わっていく貴女を見るのが好きだった。
 時々、口紅をいたずらしてるのを見つけて怒られたよね。
 一度だけ、僕の唇に塗ってくれたことがあったろう?
 あの時はうれしかったことを覚えてるよ・・。
 小さいころは甘えてばかりだったのに、大人になってから照れてあまり話しをしなくなっていたね。
 きっとおしゃべりをしたかったんだろうな。
 いろんな苦労をかけてここまで育ててもらったのに何もできないなんて・・。
 ああ、母さん・・・。なんとか元気になってよ・・。

 その夜、玲一の夢の中に湖で出会った妖精が現れた。妖精は玲一に告げた。
「湖から持ち帰ったお水でジュースを作りあなたのお母さんに飲ませて上げなさい。
 きっと病状がよくなるよ。」
 目が覚めてからも玲一は妖精の言った言葉をはっきりと覚えていた。
 痛みを伴う治療で毎日苦しい思いをしている母が少しでも楽になるなら、どんなことでも試してあげたい・・・。
 玲一は妖精の言葉を信じることにした。
 その日、玲一は湖で採取した水でミックスジュースを作り病院に持っていった。
「お母さん、このジュースは魔法の水なんだ。僕を信じて飲んでみてくれないか?」
「ありがとう、玲一。いただくわ。」
 おいしそうにジュースを飲む母を見て玲一はこれから自分がどうなってもいい、母を助けてやってくれと心の中で妖精に祈った。

 病院に同行した弟にも余分に作っていったジュースを病気で悩む小学生の女の子に飲ませてあげるように勧めたが、現実的な考え方の弟は妖精の話しを聞いても信じないだけでなく、玲一をバカにしてそのジュースをゴミ箱に捨ててしまった。
 数日後、母から電話が来た。
「ねえ、玲一?あのジュースを飲んでからとても身体の調子がいいのよ。
 もう自分で立って電話できるようになったの。
 お医者様も急に具合がよくなって驚いているのよ。ありがとう、玲一。」
 玲一は電話を切った後、あの水の魔法の力が本物であることを確信した。
 そして妖精に感謝してこれからは妖精の言葉を信じて言うとおりに従おうと思った。

 あの出来事から2週目に入ったある日のことであった。
 玲一は仕事中、妙に気持ちが落ち着かなくなっていた。
 重要な書類にミスがあったらしく上司に呼ばれていた。
 朝から不機嫌な上司は玲一に当たりちらした。
「おまえはこんな書類も満足につくれないのか。もっとしっかりしろ!」
「・・はい、申し訳ありません・・。」
 自身がなさそうにか細い声で謝った玲一に上司は調子に乗って怒鳴っていった。
「もっとはきはきしろよ。おまえはまるで女の腐ったようなやつだな。」
 玲一はいつになく感情が不安定になっていた。
「そんな・・僕だって一生懸命やっているんですよぉ・・・。」
 そう言って両手で顔を覆い、その場で泣き出してしまった。
 周りにいた社員は唖然として玲一を見ていた。
 涙を拭いながら席に戻った玲一に先輩のOLが話しかけた。
「ねえ、玲一くん?あなた疲れているんじゃないの?
 それに少しやせたみたい。顔色も悪いわよ・・・」
「だって・・僕・・。」
 玲一は自分でも気持ちのコントロールが出来なくなっていた。
 先輩OLに甘える姿は周囲からまるで新人の女性職員のように見えていた。

 仕事を終えて家に戻る途中、胸にかすかな痛みを感じた。
 気になってシャツの中に手を入れて見ると・・乳首が敏感になっていた。
 そして胸全体に弾力性が出てきたように思えた。
 いよいよ変身が始まったらしい・・。
 不安な気持ちで鏡を見るといつもより顔つきが変わっていることに気がついた。

 夕飯の支度をするためエプロンをつけようと探したが、いつものものは洗濯したまま乾いていなかった。
 それで母のタンスを探すとフリルのついた可愛いらしいものが見つかった。
 お母さんはこんな可愛らしいエプロンを持っていたんだな。
 ちょっと恥ずかしいなけど・・仕方ないや。
 玲一はエプロンの紐を背中で蝶々結びにして台所で料理を作り始めた。
 前かがみでの作業をしているうちに髪が顔に掛かってうっとおしい感じがした。
 ちょうど輪ゴムがあったのでポニーテール風に頭の後ろで無造作に結んでみた。
 このところ髪が伸びるのが早いな・・。

 しばらくして行典が学校から帰ってきた。
「あれ、兄貴だったの?後ろから見たら女の子が料理しているように見えたよ?」
 たしかに気がつかないうちに玲一のヒップは前より大きくなっており、フリルのエプロン姿は女性のようにも見えた。
 仕事でのこともあって女性的に見られることはショックであった。

 玲一は行典が美味しそうに食事をしている姿を頬杖をついて見ていた。
「どお、今日のお料理はおいしい?」
「・・兄貴、そんな女っぽいしゃべり方をするのはよしなよ・・」
「あ、そうだよね。」
 照れ笑いでその場はごまかしたが、女っぽい行動をしないように意識しているつもりなのに気がつくと女性的になっている自分がいた。
 食後のコーヒーを二人で飲んでいる時に行典がいつもと違い暗い表情で語りかけた。
「このところ、俺の身体が変なんだ。やせて筋肉が落ちてきているんだよ。
 今日のバスケの練習でも前みたいに力が出ないんだ・・。
 なにか悪い病気にでもなったのかな?
 それにね・・・・あそこが元気がないんだよ。
 いつものように友達と女子の着替えを覗きにいったんだけどね、ちっともあそこが固くならないんだ・・・。」
「きっと湖で溺れた時に悪い水でも飲んだのかもしれないね。しばらく様子を見てごらん?」

 それから数日後、玲一は女性的な行動が目立つようになってきた。
 気がつくと内股気味になっていたり、コーヒーを飲む時の仕草も小指を立てて飲んでる自分がいた。
 動作の一つ一つが以前より静かなものに変わっていた。
 自分では意識して男らしく振る舞っているつもりなのに身体の奥から女性的な仕草を誘発するような衝動が起きるのであった。

 そして入浴している時に気がついた。身体が女性化している・・。
 ズボンがゆるくなったと思ったら、ウエストがかなり細くなっていた。
 それに比べお尻は丸くなってきた。なにより胸が膨らんできたことがショックであった。
 下着替わりにT・シャツを着るともうはっきりと胸の膨らみが露わになっていた。
 そして動くたびに敏感となってる乳首が痛く感じるのであった。

 このところ行典はバスケットの練習もしないで学校からまっすぐ帰ってきているようだ。
 口数が減って、部屋にこもったきり出てこない。
 行典の変化が気になっていた玲一は弟が入浴している所をそっと覗きにいった。
「ああ・・・・」
 バスルームから行典のため息が漏れていた。そっとドアの隙間から見ると鏡の前で泣いている弟の姿があった。
 もう自分と同じように女性的なボディになっていたのだ。
 その胸にはピンク色をした可愛らしい乳首が立っていた。
 玲一の心にこれから起きることの不安感が広がっていった。
 気分を紛らわすためにあまり強くないワインを飲んでみた。
 疲れがたまっていた玲一はすぐにその場で眠ってしまった。
 そして夢の中に再び妖精が現れた。
「ねえ、なにをためらっているの?はやく綺麗な姿に生まれ変わろうよ。
 もっと自分の心に正直になりなさい。もうあなたは女になる運命なのよ。」

 目覚めた玲一は以前に美代子からもらったメモの女性のことを思い出していた。
 パソコンのメールソフトを起動して、湖で起きた出来事を一部始終報告した。
 そして文章の最後の言葉を書くときはうっすらと涙がこぼれてきた。
「・・・わたしを女にしてください。」
 玲一は送信ボタンを押した・・・・。




(第2話)

 玲一が送った電子メールは世界中の何ヶ所ものサーバーを瞬時に駆けめぐり、送信相手に届いた。
 そして次の晩にパソコンのスイッチを入れて真っ先にメールをチェックすると返事が来ていた。

「玲一さま、あなたのことは朝田さんから聞いております。
 湖で起きた出来事は普通の人なら信じないかもしれませんが、
 私は環境ホルモンの影響で自然の力で男性から女性に性転換していった人を
 何人も見ておりますから、あなたの身に起きる現象を素直に受け止めております。
 あなたの報告によると弟さんはかなりナーバスになっているようですね。
 お二人とも女性に変身することは避けられないようです・・。
 兄であるあなたがしっかりとした覚悟を持たないといけません。
 まずあなたが先に女になってお手本を見せてあげることがよろしいと思います。

 私はこれまで何人もの事情がある男性を女性に性転換させた実績がありますから、
 今後は私のアドバイスに従って下さい。あなたを素敵なレディに変えてみせます。
 これからステップを踏んで少しづつ女性に移行していきましょうね。
 恐らく今の仕事を続けるのは不可能と思われますので、会社に辞表をお出しなさい。
 今日から2週間後には、女性としての生活を始めていただきますのでそれまでに
 今のお仕事に切りをつけるのです。

 なお、弟さんが取り乱すようであれば、遠い場所に住んでいる親戚に預けることを
 お勧めします。思春期の少年にとって女性に変身するところを友人に見られるのは
 つらいことでしょう。
(PS)変身にかかわる資金については、朝田さんから事前にいただいておりますので
    心配はいりません。安心して女性になることをお考えになってください。
    今夜から毎晩メールを開いてくださいね。
                        性転換請負人     マリア」

 玲一はマリアからのメールを読み終わるとしばらく目を閉じたまま放心状態になった。
 僕はこれから女に生まれ変わるんだ・・・。

 次の日、玲一は一身上の都合ということで辞表を提出した。
 上司は今まで辛くあたったことを詫びて慰留に勤めたが、もう戻れないことを玲一は覚悟していた。
 そして、2週間後に退職する手続きを取ってもらった。

 定時に仕事を終えて家に戻ると、行典は学校から帰ってくるのと同時に部屋へこもり泣き出していた。
 心配した玲一は弟の部屋に入り事情を聞いてみた。
「兄貴・・・、おれ・・変な病気にかかったみたいなんだ。
 身体がまるで女の子みたいになってるんだ。
 おっぱいみたいなモノが身体についているんだよ?
 それに今日、トイレでおしっこをしようとしたらうまく出なくて下着を汚してしまったんだ。
 もう立っておしっこが出来ないんだよ。
 これから毎日しゃがんでやるなんてイヤだよ。
 どうしよう、学校へはもう行けないよ・・。」
「・・行典。おまえだけじゃないんだ。僕もそうなんだよ。」

 玲一は弟の前で後ろ向きになり服を脱ぎだして裸になった。
 振り向いた時に胸の前を両手で隠してあった玲一はゆっくりとその手を離した。
 そこには少女のような乳房が膨らんでいた。
 また陰部には男の姿はもう見えなかった。
「あの湖に入ったときに私たちは女性に変わる運命になったみたいなの。
 そのうちに男ではいられなくなる日が来るのよ。」
「兄貴、俺イヤだよ・・・。女になんかなりたくないよ・・。」
 両手で顔を押さえて泣いている行典の仕草もすでに女性っぽい感じに見えた。
「ねえ、行典?しばらくおばあちゃんの家に行ってきなさい。
 そこであなたは女の子に生まれ変わるのよ・・・。」
 優しく行典を抱きかかえた玲一は自分が女性のような言葉使いになっていることにまだ気がついていなかった。

 自分の部屋に戻った玲一はパソコンにスイッチを入れてメールをチェックした。
 予定通りマリアからの指示が来ていた。

「あなたの身体がどの状態か把握したいので、ボディのサイズを調べて送ってください。
 胸のサイズの正しい計り方は次のとおりです。
 まず、乳房の膨らみが最も高いところ、これがトップバストです。
 次に乳房の膨らみのすぐ下のところがアンダーバストとなります。
 メジャーをちゃんと水平にあてて計ってくださいね。

 今後は荷物をあなたに送ります。受け渡しは駅のコインロッカーを使うことにします。
 あなたの自宅の最寄りの駅を教えて下さい。              マリア」

 行典は学校に病気療養で当分の間欠席する届けを出した。
 夏休みを絡めるので、勉強にはそれほど影響はないだろうということであった。
 顔はすでに女性的に変わっていたので大きなマスクをつけて行った。
 また膨らんだ胸は朝方、出かける前に玲一にサラシを巻いてもらいなんとか隠すことは出来ていた。

 所属していたバスケット部の同級生に別れを告げるのはとても辛かった。
 特に仲のいい友達である光一は行典の雰囲気が違っていたことに気がついていた。
「ユッキー、必ず戻ってこいよ。またいっしょにバスケをやろうぜ!」
「うん、俺達は名コンビだもんね。じゃあ、またな。」
 後ろ髪をひかれる思いで部室を出るとマネージャーの陽子が追いかけてきた。
「行典君、しばらく会えなくなるのね。あたしずっと待ってるからね・・。」
 陽子は行典のガールフレンドであった。
 性格が明るくて気が効く陽子にはいろんなわがままを言って困らせてきた。
 異性であることを意識しないでつきあえる大事な女友達であった。
 でもそんな関係もこれで終わりなんだね・・。
「陽子、僕の病気はめったにない変わったものなんだ。
 今度君に会うときは、違った姿になってるかもしれない。
 それでも友達でいてくれるかい?」
「ええ、どんな姿になってもあなたはあなたよ。ずっと待ってるわよ・・。」
 行典は自分の身体を変えることになった運命を憎んでいた。
 あの時に蛍狩りに行かなければこんなことにはならなかったんだ。
 学校を去りながら悔しさで震えて、やがて涙が止まらなくなっていた。
 このところ涙もろくなっていたのは、性格が女性化していったことが原因であった。

 今夜のマリアからのメールは玲一のこころを揺れ動かした。

「こんばんは、玲一さん。あなたのメールを見て驚きました。
 あなたの住んでる街は私の住んでいる場所と同じだったのですよ?
 駅のコインロッカーのA-11に荷物を入れて置きました。
 今からさっそく取りにお行きなさい。
 鍵は駅北口の正面にある右から3番目のフラワーポットに隠して置きました。
 荷物の中に手紙が入ってます。
 なお鍵はあった場所に戻しておくこと。 いいわね?        マリア」

 玲一は心がときめいていた。
 アパートの階段を降りていくと、ちょうどすぐ下の部屋の女性も出かけるところであり階段でいっしょになった。
 30代半ばの化粧の濃い女性で水商売に努めているようであった。
 性格が潔癖で世間知らずであった玲一は以前なら水商売の女性を見ると、はしたないと感じていた。
 しかし母が昔は生活に困って水商売の経験があったことを病院に見舞いに行ったときに聞き、今では妙に親近感を持っていた。
 その女性とは一度も口を聞いたことがなかったのに、今夜は気持ちが高揚しておりなぜか声をかけていた。

「こんばんは、お姉さん。すてきなワンピースですね?」
「あら、ありがとう。男の子って女性に比べておしゃれが楽しめないから可哀想ね。
 たしかあなたのお母さんは病気で入院しているんでしょう?
 家の用事はあなたがこなしているのね?若いのに偉いわね。がんばりなさいね。」
「はい、ありがとう、お姉さん。」

 玲一さっそく駅に行ってみた。
 鍵を見つけコインロッカーを開けると大きな紙袋が入っていた。
 荷物を引き出し、鍵を再びポットに戻した玲一はこれから起こることへの不安感と妙な期待感が入り交じっていた。

 紙袋を開けると中には女性ものの下着が何枚か入っていた。
 中には手紙が添付されていた。

「あなたのボディサイズをチェックしました。
 階段を上がり降りするときには、乳房が揺れているでしょう?
 もうブラジャーをつける必要があります。
 ではブラジャーを取り出して下さい。装着方法を教えます。
 まず、肩紐を腕に通して両肩にかけて、カップ下のアンダーの部分を両手で
 持ちます。上体を前に倒しておくと装着がうまくいきます。
 次に、乳房をカップの中にきちんと入れて、後ろのホックを止める。
 それから、上体を起こして乳房が腋に流れていたら、
 寄せるようにしてカップの中に納めます。
 最後に肩紐を調節し、カップにしわが寄らないように整えます。
 腕を折り、肘から肩先の中央にバストのトップがくるようにするのが目安です。
 今日からは毎日、ブラジャーをつける習慣をもちなさい。
 なお、ブラとペアのパンティも入れて置きました。
 もう男の子の下着は必要ないはずです。すべて捨ててしまいなさいね。

 本来なら弟さんも女性の下着をつける時期になっているのですが、
 今は無理を言わないほうがいいようですね。
 確か、親戚の家で当分暮らすことになっていたはずでしたね?
 弟さんは自分から女性に目覚めるのを待ちましょう。       マリア」

 手紙を読み終えた玲一はレースを使ったピンク色のブラジャーを取り出した。
 これをつけたらまた自分は一歩、女性になる道を進んだことになる。
 少しためらった。しかし、心の奥で早く着けなさいと催促する声がした。
 覚悟を決めて、手紙に出ている付け方を参考にして鏡の前で着けてみた。
 始めてのブラジャーは玲一の胸にぴったりとフィットした。
 身体を動かしても布で固定された胸は揺れることがなかった。
 玲一は不思議な満足感を感じていた。気持ちがなんだか落ち着く・・。
 続けておそろいのデザインのパンティもはいてみた。
 丸く膨らんだお尻をキュートに包み込むパンティはとても肌触りがよかった。

 その夜は女性用の下着を着けたまま眠った。
 次の朝、起きた時には違和感はなくなり、身体の一部のようになっていた。
 家事をするにも膨らんだ胸が揺れないのでとても快適であった。
 食事の支度が出来て行典が起きてくる前にブラを外してサラシを巻くことにした。
 きっとまだ行典の前では刺激が強すぎると思ったからであった。
 ブラを外すと落ち着かない気分になった。玲一はずっとブラを着けていたいと思った。
 そしてサラシの中の可愛い乳房がいとおしく思えた。

 それから毎晩マリアから女らしくなるコツがメールで送られてきた。
「ハーレクインロマンス」のような女性が主人公の小説を読むこと、雑誌もノンノやJJのような女性誌に変えなさいなどと指示が出ていた。
 玲一の心はどんどん少女のような純情なものに変化していった。

 二人は田舎に行く前に病院に顔を出していった。
 母は病状がかなりよくなっており、退院も早くなりそうであった。
 玲一はまだ母には心配をかけられないと思い、変身のことは黙っていた。
 玲一たちは当分見舞いに来られないことを告げて、病室を出た。
 行典は同じ病院に入院している小学生の真由子の部屋にも寄っていった。
 彼女はかなり病状が悪化して起きるのもつらそうであった。
「お兄ちゃん、また会いにきてね・・・。」
 再開を約束して二人は病院を出た。そして祖母のいる田舎へ向かった。
 久しぶりに会った祖母には玲一が事情を説明した。
 最初は驚いていたがやがて可愛い孫と当分いっしょに暮らせることを喜んでくれていた。

 家に戻るとさっそくパソコンにスイッチを入れた。メールは来ていた。

「いつものコインロッカーにまた新しい荷物を入れて置きました。
 その衣装を身に着けなさい。              マリア」

 今度はどんな衣装が入っているのかな?
 今では荷物が届くのが楽しみになっていた玲一は駅から帰るとさっそく袋を開けてみた。
 そこには、ピンクのTシャツ、クリーム色のショートパンツ、レースを使ったハイソックス、そして女性用のスニーカーが入っていた。

 もう行典もいないし、誰にも気兼ねはいらないよね・・。
 はやく身につけてみたいな。
 さっそくシャワーを浴びて気持ちを切り替えて着替えてみた。
「わあ、可愛い・・。」
 お尻を強調したショートパンツはとても活発な感じに見えた。
 カジュアルな衣装は玲一を男からボーイッシュな女性に変えていた。
 袋の奥に小さな包みを見つけた開けて見るとピンク色のリップクリームであった。
 鏡の前に向かい、さっそくつけてみた・・。唇をちょっとすぼめて塗ってみるとキュートなピンク色に変わっていた。

 この髪型では変だな・・。髪をブラッシングして女っぽくしてみよう・・・。
 以前にマリアから教わったように髪に膨らみを持たせるようにブラシをかけて毛先をゆっくりとカールさせてみた。
 ・・・・綺麗。私ってステキ・・。玲一はうっとりして鏡を見ていた。
 無意識に足をぴったりと閉じて座っている自分に気がついた。
 玲一の心は女になることに喜びを感じ始めていた。

 気がつくとパソコンにメールの着信のランプがついていた。
 さっそくメールを開いてみた。

「どう、女の子の服ってステキでしょう?
 あなたは明日でお仕事を退職するはずよね。
 もう人の目を気にしてためらうことはありません。
 これからは、フルタイム女性として生活してもらいます。
 これから始まる第2ステップは私といっしょに生活し、直接女らしさを学んで
 もらいます。新しい生活に移れるように荷物をまとめておきなさい。

 明日の夜にお会いしましょう。
 今日の衣装を着て夜の8時に駅のロッカーの前で待ち合わせをします。
 明日の夜から貴女は女になるのよ・・。              マリア」

 次ぐ日の朝、胸にサラシを巻きながら、こんなことをするのも今日が最後だ、明日からは毎日ブラジャーをつけたまま生活が出来るんだと思った。
 職場に行き最後の仕事を終えた玲一は感慨深いものがあった。
 もうこれで男の生活とはお別れだよね・・・。

 夜になり、決心を決めて衣装を着けた。
 ピンクのリップを塗り髪型を女性らしく変えていった。
 Tシャツから膨らんだ胸はボーイッシュなギャルのようであった。
 玲一は人目を避けて裏道から駅に向かった。知ってる人に会ったらどうしよう・・。
 どきどきしながら暗い道を歩んでいた。
 柱の物陰に潜んで時間になるのを待ってコインロッカーの前に出た。
 ずっと下をうつむいていると声をかけられた。
「あ、・・貴女は・・。」
 マリアは同じアパートの下に住んでいる女性であった。お互いに驚いていた。
「まあ、あなただったのね?こんなにすぐそばに住んでいてメールのやりとりをしていたなんておかしいわね。
 さあ、おうちに戻りましょう・。」
 彼女は明るい道を歩き始めた。玲一は一瞬ためらった。しかし・・・。
「あなたはもう女の子にしか見えないわ。自然に振る舞いなさい。」
 人とすれ違うたびに心臓が止まりそうであった。
 アパートにつき、自分の部屋ではなくて下の女性に部屋に入った。

「さあ、いっしょにお風呂に入りましょう。お洋服をお脱ぎなさい。」
 玲一は後ろ向きになってゆっくりと服を脱ぎ始めた。
 ブラジャーを外すと、ピンク色の可愛い乳首が上を向いていた。
 振り向くとマリアも裸になっていた。
 股間の茂みが目に入り恥ずかしさから玲一は目をそらした。
「何も恥ずかしいことはないでしょう?もう同じ女なのよ。」
 マリアは玲一の頭にターバンのようにタオルを巻いてあげていっしょにバスに入った。
 マリアに身体を洗ってもらいながら腋の毛を剃られた。
 そしてまだうっすらと残っていた脚のむだ毛も除毛クリームで取り除かれてつるつるの脚になっていた。

「あなたってここまで女らしい身体になっていたのね?さあ、おまたを開いてごらん?」
 マリアは玲一の股間の茂みの中に指を入れてヘアーをかきわけた。
 そこには小さくなったペニスがあった。
 また睾丸はすでに身体の中で溶けてなくなっており包んでいた袋がたるんだ状態になっていた。
「このままで行けばもうすぐ襞ができてきそうね。」
 そして可愛いサイズのペニスをさすりながら言った。
「あなたももうすぐ可愛いクリトリスに生まれ変わるのよ・・。」

 バスを出ると女性の下着が用意されていた。
「さあ、これからあなたは女になるのよ。下着をおつけなさい。」
 それはセクシーな黒い下着であった。胸元を大きくカットされたブラジャー、ハイレグ気味なパンティ、レースを裾にふんだんに使ったシルクのスリップ。
 女性の下着はあまりにも肌触りがよかった。
「さあ、黒いパンティストッキングをおはきなさい・・。」
 ナイロンの感触を楽しみながらゆっくり腰まで上げてみた。
 つま先の切り替えの部分が女らしさを引き立てていた。

「さあ、ここのお座りなさい。お化粧してあげる。
 これからは自分で出来るように覚えなさいね。」
 鏡の前に座らされてマリアはメイクを始めた。
「まず化粧ののりがよくなるように下地をしっかりつけることが大事よ。
 化粧水をつけてから乳液をお肌に伸ばすの。
 そうしたらよく馴染むように軽く顔をマッサージするのよ。」
「さあ、ファンデーションよ。できるだけ薄く伸ばすのがコツなの。
 リキッドタイプとパウダータイプがあるけど、今日はお化粧の持ちがいいパウダーファンデーションを使うわね。
 スポンジにとって、ゆっくりと顔にのばしていくの・・。
 小鼻の回り、目のまわり、口のまわりは特にていねいに塗っていくのよ・・・。」

「眉毛のメイクはとっても大事なの。顔の印象は眉で決まるくらいなのよ。
 これから女らしい形に変えてあげる。」
 マリアは、ブラシで毛の流れにそってとかし、イメージした形を作った。
 つぎに眉の下の部分の毛を抜いていった。
 流れからはみ出した毛はハサミで切りそろえていった。
 いつの間にかゆるいアーチ型の女らしい眉になっていた。
「眉は、眉が薄くなってる部分を足すように一本づつ植えるように描くのよ。」
 グレーのペンシルで最初に眉山を書き眉尻を書いてから眉頭を書き足した。
「アイシャドウは、まぶたの部分に基本色を入れたら、目のきわにダークな色をつけて、
 眉の下にニュアンスカラーを入れるといいわよ。
 今日は大人っぽいパープルを使ってみようね。」

「慣れるまではアイラインはペンシルのものを使うといいわ。
 キワにそってラインを入れていくと目元がすっきりするのよ・・。」
「女らしいまつげを作るにはね、ビューラーを使って何回も位置をずらして
 マツゲをカールさせるの。自然で長いまつげにするにはマスカラを使うのよ。」
 繊維入りのマスカラを下から上に向かってゆっくりと何度も回転させた。
 目尻の所はマスカラの先を使って跳ね上げた。

「頬紅を入れると顔色がよくなるし、立体的に見えるのよ。」
「口紅は直接塗らないでリップブラシに取って輪郭を書くといいの。
 ブラシにとった口紅でまず輪郭を書き、口を少し開いて上唇と下唇のラインをつなぎ、それから内側を塗りつぶしていくの。
 口角をきちんと書くと上品な感じになるわよ。」
 最後にティッシュで軽く唇を抑えた。

 マリアはヘアーブラシで玲一の髪をとかして内巻き気味のウエーブをつけていった。
「どう、見違えるように女らしい顔になったでしょう?
 あなたの顔って男の子の時はあまり個性のない顔立ちだったわよね。
 でもこんな顔は化粧映えするのよ。女顔ていうの。」
「これが・・僕なの・・。信じられない・・・。」
「さあ、仕上げはドレスよ。あなたをもっと女らしくしてあげるわ・・。」
 マリアはタンスからフェミニンな黒いミニの丈のパーティドレスを取り出した。
 マリアに手伝ってもらいドレスに脚を入れた。
 黒いパンティストッキングに衣擦れの音を立てながらドレスは引き上げられた。
 マリアが背中のジッパーを上げて首の後ろでホックを止める音がした。
 そしてネックレス、イヤリングなどのアクセサリーをつけてくれた。

「さあ、鏡の前に行って生まれ変わった姿を見てごらんなさい?」
 歩きながらミニのドレスの裾が膝に心地よくからんでいた。
 黒いドレスは薄い生地で出来ていたので、下着の黒い肩紐がうっすらと覗いて見えてとてもセクシーであった。
 鏡の前に立った玲一はあまりにも女らしく変わった自分の姿に驚き口元に手を当てて小さな甘い声でつぶやいた。
「すてき・・。僕がこんなに綺麗になれるなんて・・」
「そうよ。あなたはもう女よ。とっても綺麗・・」
 後ろ姿を見たくなり振り向くとスカートの裾がひるがえった。
 玲一は女の自分にうっとりとしていた。
「もう男の玲一ではないの。あなたは女の玲子になったのよ・・。」
「僕の新しい名前は・・玲子なの?」
「玲子?あなたはもう女になったのよ。二度と男の言葉は使ってはだめよ。」
「はい・・気をつける・・わ。わたし・・あたし、うれしい・・。
 こんなに綺麗な女になれるなんて思わなかったわ、お姉さま・・」
「そうよ、貴女はとっても綺麗な女よ。もう男であったことは忘れてしまいなさい。
 さあ、ゆっくりお話しましょう。女同士で・・・。」
 マリアはワインを持ってきてソファーに座り、二人は話を始めた。




(第3話)

 マリアによって美しい女になった玲子はワインをもらいソファーに腰掛けた。

「ねえ、玲子?女の子はイスに座るときは、そんなに深く腰掛けてはだめよ。
 もっと浅く座るようにしたほうが綺麗に見えるわ。
 それにスカートの裾を撫でつけるようにして座らないと立った時にしわになってしまうのよ。」
「はい、お姉さま。足を組むときはどうやったらいいの?」
「男の人は膝で足を組むでしょう?女は腿を合わせるようにして組むと綺麗な脚にみえるわよ。
 やってごらんなさい?」
「・・・慣れないと疲れるのね・・。」
「そうよ、自分を綺麗に見せるっての大変なの。
 でも人から綺麗って言われるとうれしいでしょう?これから自分を磨くのよ。」
「前にメールで何人もの男性を女性に変身させたって言ってたわよね?
 あたし、そのお話が聞きたいわ。」
「話すと長くなるけど・・」

 マリアは本名は真理子という名前で現在は34歳であった。
 学校を出てすぐに個人病院の看護婦になったが、そこの院長に犯されて妊娠
 させられたことがあった。そして口封じのためにお金を渡されて赤ちゃんの
 中絶手術を受けることになり、悔しい思いを経験した。
 まだ純情であった真理子はそれ以来男性不信になり、いつか男性を見下して
 やると心に誓った。
 その後、看護婦をやめてからは昼間はヘアーメイクの仕事を覚えながら、
 夜はクラブのホステスをやっていた。ある日、クラブの客からヘアーメイクの
 技術を生かして、男性を女性のように替えてほしいとの依頼があった。
 それは政府の特殊な部署からの極秘の仕事であった。

 ある暴団的組織が不純な麻薬を密売して若い青年たちが廃人になる事件が
 明るみになったが闇で政府の関係者が絡んでいることを聞きつけた検察庁は
 重要な証人を確保した。
 発言をしたあとに相手の復讐から身を隠すため女性に変身して当分の間、
 過ごすため証人を女装させてくれということであった。
 しかし、闇の組織の追求は厳しく、簡単な女装程度ではいつかは
 素性を見破られる危険性が出てきたために永久の変身である性転換を
 施すことになった。
 真理子は知り合いの精神科医、婦人科医、整形外科と接触し協力を得て
 証人を完全な女性に変えることに成功した。
 その技は相手の男性の心まで女性に作り替えてしまうほど完璧であったため、
 いつの間にかアンダーグランドの世界で「闇の性転換仕事人」と
 言われるようになった。
 それからは何人もの性転換を手がけるようになっていた。
 玲子が湖で知り合った朝田 美代子とは、クラブ勤めの時に知り合い、
 仲のいい友人としてつきあっていた関係にあった。

「・・・・お姉さまってすごい経験の持ち主だったのね?
 それでここへ引っ越ししてきたのはまだ2ヶ月くらい前だったわよね?
 ここでも何か闇の仕事があったの?」
「いいえ、私のお友達がここの地元でスナックをやってるの。
 彼女が都合で3ヶ月ばかり留守にするのでその間、雇われママを頼まれたのよ。
 ちょうど、少し前に大きい仕事をこなしたばかりであったから気分転換に引き受けたの。
 それで借りたアパートが偶然あなたの下の部屋だったのよ。
 これも何かの運命だと思うわ。」
「ねえ、あたしの場合は大変だった?」
「いいえ、すごく楽よ。
 身体の変身が自然に行われるケースはめったにないからあとは女らしさを身につけさせるだけでいいのだもの。
 それにこんな可愛らしい女の子だったら私もしつけのやりがいがあるわ。
 これからもっと貴女を女らしくしてあげるからね。」
「これからのあたしは何をしたらいいの?」
「昼間は花嫁修業よ。お料理、縫い物、お洗濯、すべての家庭的なことを覚えてもらうわ。
 そして夜は私の勤めてるスナックの女の子として働いてもらうの。
 どんどん人前に出て女らしさを磨きなさい。
 明日はさっそく美容院へ行って髪型を変えてみましょうね。」
「ええ、美容院へ行くの?あたしにはどんなヘアースタイルが似合うかしら?」
「そうね・・、その長さならソバージュなんかがいいと思うわ・・・。」
 それから二人のおしゃべりは続いていた。
 おしゃれの話や芸能人の話など世間の若い女性たちが話しているようなことばかりであった。
 マリアの巧みな話術にのり、玲子はいつのまにか以前から自分が女性であったような気がしてきていた。

 長く続いたおしゃべりも終わり、就寝することになった。
 玲子は、お気に入りのドレスを脱ぐのは残念であったが替わりに渡されたフェミニンなピンクのネグリジェを見て再びうっとりした。
「わあ、あたしこんなセクシーなネグリジェを着て寝られるのね?」
 透ける生地のネグリジェは玲子をよりいっそう女らしく変えていった。
「ほら、お肌に悪いからもうお化粧を落としましょうね。
 クレンジングクリームを塗ってその後洗顔するのよ。」
「は〜い、お姉さまぁ」 
 玲子はたった一晩で女性に変えられていた・・・。

 次の朝は6時過ぎには、マリアに起こされていた。
 目が覚めたときにネグリジェを着ている自分を見て、自分がもう女として暮らしていることがうれしかった。
「玲子、女は早起きしないといけないのよ。
 昔の女性は愛する人に素顔を見せないために旦那様が起きる前にちゃんとお化粧しておいたのよ。
 今ではそこまでは必要ないけどすっぴんの顔は見せちゃダメ。
 化粧映えするように眉を薄くカットしてるし、顔色も悪い時があるから顔を洗ったあとに口紅だけはつけて置きなさいね。
 そうすれば可愛いお嫁さんになるわよ・・。」
「お嫁さんか・・・あたしにも愛してくれる人が現れるかしら・・」

 マリアから渡された着替えの服はベージュのニットシャツと黒いミニの台形スカートであった。
 ニットはあまり大きくないけど形がいい玲子の乳房を綺麗に見せてくれた。
 また、ミニスカートは動くのが楽で食事の支度や洗濯などの家事労働にも適していた。
 むだ毛を処理してつるつるの綺麗な脚に黒のミニスカートはとても合っていた。
 玲子はスカートがこんなに心地よい物とは思わなかった。

 一通りの家事をこなし、昼食を済ませてから二人は美容院に向かった。
 美容師の手で毛先をカットされたあとに髪にカーラーを巻かれてパーマを初体験した。
 女性週刊誌を2冊くらい読み終わる頃には、カーラーが外されていた。
 ブラシでセットされた玲子の髪は女らしいソバージュに仕上がっていた。
「ステキ、お姉さま・・・。」
 玲子は茶色に染められた自分の髪の毛先をいじってソバージュの感触を楽しんでいた。
 もうすっぴんでも女にしか見えなかった。
 玲子のめくるめく女の体験は止まることがなかった。

 玲子はマリアに連れられてデパートにいた。
 マリアに今夜から働くことになるスナックに着ていくおしゃれなスーツを選んでもらっていた。
「う〜ん、やっぱり玲子はピンクが似合いそうね・・。」
 さっそく試着したスーツは玲子を大人っぽい感じの女を演出してくれそうであった。
 それからランジェリーやパンプスを買ってもらい、二人はスナック「ペルシアンキティ」に到着した。
 そこは玲子が男の子時代に会社の上司と一度来たことがある場所であった。

「ねえ、お姉さま・・。会社の人に見られたらいやだわ・・・。」
「もう貴女は美しい女よ。自信を持ちなさい。
 ここでは少し濃いめのお化粧をしてセクシーさを演出するといいわね。
 今夜は女の子デビューだから少しは派手なメイクをして上げるわ。
 さあ、お座りなさい。」
 マリアはさっそく玲子の顔にファンデーションを塗り始めた。
 昨夜の物よりも濃いめの色を選んでスポンジで伸ばしていった。
 アイラインも今夜はリキッドでくっきりと輪郭を描き、目尻を幾分上げ目にした。
「ちょっと目をつぶっていてね。」
 言われたとおりにしていると目元に何か違和感を感じた。
「・・さあ、開けていいわよ・・。」
「ええ?うっそ〜。前より倍くらい目が大きくなったみたい・・。」
 マリアは玲子につけまつげを付けてあげたのであった。
 瞬きをするたびにまつげが音をたてるような錯覚を覚えるほどはっきりとした目元になった。
 ルージュはパール入りのローズピンクをていねいに塗り、リップグロスで艶を出した。
 玲子は妖艶な女性に変わっていた。
「ここでは貴女の源氏名は「麗ちゃん」よ。
 それにあたしのことはママとお呼びなさいね。」
「は〜い、ママ♪」
 しばらくするとお店のもう一人の女の子「利恵」がやってきた。
 利恵は明るい性格ですぐに仲良しになれた。
 事前にマリアから話しを聞いていたがあまりに女らしい玲子を見て、昨日まで男の子であったことが信じられない様子であった。

 やがてお客が来た。玲子は顔をちょっと傾けて笑顔で挨拶し、水割りを作り始めた。
 お客から何度も「可愛い」「綺麗だ」を連発されてうれしくてたまらなかった。
 こんな経験は男性時代は一度もなかったことであった。
 酔ってるお客に時々胸をさわられると可愛らしい声で
「いや〜ん、えっちぃ〜♪」と甘えるような声を出してお客に媚びることも覚えた。

 ある日、元にいた会社の人達が宴会の二次会でやってきた。
 その日は、赤いフリルの入ったフレアーのミニドレス姿であった。
 玲子はセクシーなホステスの麗として接客した。
 以前に男性時代に玲子をいじめた上司は女に変身した姿に気がついていない様子であった。
 酔った勢いで麗のスカートの中に指を入れようとしていた。
「あら、課長さん?まだあたしのことがわからないのかしら?
 前にお前なんか女になってしまえって言われた玲一よ?」
 出来る限り可愛い声で元上司に甘えて見せた麗にやがて気がついた課長は、目を丸くして驚いていた。
 そして隣にいた先輩のOLも同様に驚いて麗を見つめていた。
「あの時の玲一くん?うっそぉ・・・。こんな可愛い女の子に変身しちゃたのね?
 でも私、前からあなたって女性になったらかなりイケルと思っていたのよ。
 貴女にはサラリーマンより可愛い女がお似合いなのね。」
 それから女同士でいろんな世間話をして場を和ませた麗は、スカートをひるがえして化粧直しのためにトイレに行った。
 コンパクトを取り出してファンデーションで剥げかかった化粧を直した麗は、口紅を塗りながら女になった自分の美しさに自信を持っていた。

 数日後の朝、玲子の携帯に母から電話が入った。
 すっかり身体が回復し退院出来ることになったので迎えに来て欲しいとのことであった。
「ねえ、お姉さま?あたしどうしましょう?男の子の姿で行ったほうがいかしら?」
「玲子はこれからずっと女として生きていくのだから、もう隠す必要はないわよ。
 女に生まれ変わった姿を見てもらいなさい。」
 マリアのアドバイスで清楚な印象を持たせる衣装を選んだ。
 胸元に大きなリボンを結んだおしゃれな白のブラウス、黒のミニのタイトスカート、それに下着も透けて見えてもいいようにピンクのブラジャーにした。
 毎日の練習で上達し今では自分で出来るようになったメイクも薄くしてみた。

 病院に入り玲子は緊張した。パンプスの踵を響かせながら病室へ向かった。
 深呼吸した後に母の病室をノックして部屋に入った。
「お母さん、迎えに来たわよ・・。」
 母は見知らぬ美しい女性にお母さんと呼ばれてきょとんとしていた。
「お母さん、私、玲一よ・・。今では玲子という女になったの・・。」
 息子がスカートをはいた美しい女性になって現れたことに唖然とした母も、玲子から今までのいきさつを聞いてやがて冷静になっていた。
「お前は昔から優しいよく気がつく子だったわね。
 いつも家事の手伝いをしてくれてこの子が私の娘に生まれていたらなんて思ったことがあったのよ。
 でも女になって後悔していない?」
「あのね、お母さん?あたし・・・すごくうれしいの。
 小さい頃から綺麗なお母さんを見て女性っていいなって思っていたの。
 それでお母さんみたいになりたいと思ってた。
 心の中で女になりたい願望があったのかも知れないわね・・・。」
「そうなの?こんな綺麗な娘になって・・・母さんはうれしいよ。
 これからはいっしょに女同士で台所に立てるのね・・。」
「あら、いやだ、お母さん?せっかくの退院の日に泣かないでよ・・。」

 病院から帰りの車中で行典のことを聞いた母は、心配そうであった。
「あの子はお前と違って元気で気が強い子だから、きっと田舎でおばあちゃんを困らせているんだろうね。
 お前の都合がつくならさっそく明日迎えに行きたいわ。」
「うん、お店のママにお休みをもらえるように頼んでみるわ・・・。」

 マリアに話したところ、了解してくれた。そして笑顔で言った。
「もう貴女は一人前のレディになったわ。
 教えることは一通り教えたし、これからはお母さんのもとで女らしさに磨きをかけなさい。
 あのお店のママももうすぐ帰って来るし、私も次の仕事の依頼が来ているの。
 もう貴女は卒業よ!」
 明日東京に戻ると話したマリアは出会った記念にパールのイヤリングをプレゼントしてくれた。
 そして言った。
「弟さんを女の子に変えてあげるのはお姉さんである貴女とお母さんの仕事よ。
 二人で力を合わせて女の子にしてお上げなさいね。
 それから朝田さんが帰ってきたら貴女はOLとして勤めることになるわ。
 それまであのスナックで女を磨いておくのよ。」
「・・・いろいろとありがとう、お姉さま・・・。」
 玲子はマリアの胸に顔を埋め泣いていた。

 次の日の朝早く、玲子の母は美容院で出かけていた。
 行典を迎えにいく準備を済ませて家で待っていた玲子は、帰ってきた母を見て驚いた。
 ゆるい女らしいウエーブがかかった髪、それに綺麗にお化粧した姿は、まるで玲子が子供のころにあこがれていた美しい母に戻っていた。
「お母さん、すごく綺麗よ!」
「あたしだってまだ40代よ。まだまだ女ですもの・・。
 ねえ、玲子?目元にブルーのシャドーをさすともっとシャープな感じになるわよ。
 ちょっとお化粧道具を貸してみなさい?」
母の手でメイクを修正してもらった玲子は自分が母の娘として生まれ変わったことがうれしかった。
「ねえ、お母さん、このスカート短すぎるかな?」
「若い娘はそれくらいのほうがお似合いよ。
 それから田舎はここより寒いからカーディガンを忘れないようにしなさいね。
 そのブルーのものを持ってお行きなさい。
 じゃあ、行きましょう。今度は行典を女の子にしてあげる番ね。」

 玲子と母は弟のいる田舎に向かって車を走らせた。
 途中のドライブインで昼食をとったあと、二人はトイレに寄った。
 鏡に向かい、二人で並んで化粧直しをしてる姿を見て母は笑顔で言った。
「まさか、昨日まではこんな風になるなんて思わなかったわ。
 あら、玲子、口紅が歯についてるわよ?
 もっとお化粧直しするときに気をつけなさいね。」
「やっぱり長く女をやってる人はひと味違うわね。」
 二人はとても仲のいい母と娘のようであった。

 田舎についてスカート姿の玲子の姿を見た祖母は、目を丸くしていた。
「おまえ、本当に玲一かい?こんな綺麗な娘になって・・・。」
「どう、あたしもなかなか女っぽくなったでしょう?ねえ、行典は?」
「裏の河原に行ってるよ。
 あの子は相変わらず、自分が女の身体になったことを認めようとしないのよ。
 おとといはついに生理が来てね、すごくショックを受けて落ち込んでるよ。
 お前みたいに素直に女の子になってしまえばいいのにね・・・。」
 母も心配して聞いてみた。
「おばあちゃん、少しは女になることへの覚悟はありそうなの?」
「この前、女性週刊誌を買ってきて置いておいたら、私に隠れて熱心に
 ファッションのページを読んでいたよ。
 無理に男っぽい言葉使いをしてるけど意識はきっとしてるはずだよ・・。」

「じゃあ、あたしちょっと行ってみるね。」
 玲子は裏の河原に向かって歩いていった。
 夏のそよ風がワンピースの裾をまくりそうになりお尻を押さえながら行典を探していた。
 やがて川縁の土手に行典の姿を見つけた。
 すでにシャツから盛り上がった胸は立派な女性のものであった。
「行典、迎えにきたわよ。」
「・・・まさか、ひょっとして兄貴かい?」
 以前とはずいぶん高い声に変わっていた行典はまぶしそうに玲子を見ていた。
「そうよ、行典。でも今はあなたのお姉さんよ。
 ねえ、そんなに女らしい身体になってるのになんでためらっているの?
 あたしも女になるって最初は抵抗があったけど今ではとても楽しいわよ。
 あなたならきっと可愛い女の子になれるわ。」
「・・・本当にそう思う?俺が女になっても笑わないって約束してくれる?」
「ええ、きっとお母さんがあなたを素敵な女の子に変えてくれるわ。
 強がり言ってるけど、本当はもう女の子になりたいって思っているんでしょう?」
 玲子は美由紀の指にうっすらとピンクのマニキュアが塗られていることに気がついていたのであった。
「うん・・。お婆ちゃんの前でずいぶん格好つけちゃったからね。
 でも生理が来てから、心の中が急に女っぽくなっちゃって・・。
 俺も・・・わたしもお姉ちゃんみたいに綺麗になりたいの・・。」
「女になるってすごく素敵なことよ。
 もうこんなに胸が膨らんじゃったら、ブラジャーなしではどこにもいけないわ。
 さあ、行きましょう?」
 玲子は行典の今では華奢になった腕をとって手をつなぎながら、家に向かって歩きだした。
 以前なら手をつないで歩くことは考えられなかったが、今ではとても自然なことに思えていた。

 入り口で待っていた母を見つけた行典は、目を潤ませてやがて抱きついていった。
「おふくろ、俺・・・。」
「もう強がらなくていいのよ。そんな男っぽい言葉も無理に言わなくていいの。
 お母さんが素敵なお洋服を買ってきてあげたから着替えてみようね?
 さあ、女の子になろうね。」
 行典はうつむいたまま、首をたてに振った。
 そして母に手を引かれて家の奥に入っていった。
「おばあちゃん、よかったね。これで心配なくなったわ。」
「ええ、やっぱり母親だねえ。玲一・・今では玲子だったわね。
 ゆきちゃんに美味しい夕飯をつくってあげましょう。
 玲子も少しはお料理が出来るようになったんでしょう?手伝ってちょうだい。」
 持参したエプロンを着けて祖母と一緒に料理を作り出した玲子は、行典がどんな風に可愛らしい女の子になって出てくるか楽しみであった。




(第4話)

 行典は母の手でお風呂に入れてもらい全身を綺麗に洗ってもらった。
 乳房のまわりを丁寧に洗ってもらい、柔らかい肌となったお腹を通り母の手は股間を洗い出した。
「まだ生理が終わったばかりでしょう?女は特にここを清潔にしておかないとね。
 始めての生理は辛かったでしょう?
 でも生理は女の大事なお仕事をするためのものだから嫌がってはだめよ。」
 行典はにっこり笑って股間を綺麗にしてもらった。
 今では突起のなくなったなめらかな丘が好きになっていた。
 女らしく変わった自分の裸の姿を見られても抵抗する気はなくなり、行典は今ではとても素直になって甘えていた。
 いつのまにか、おふくろと呼んでいた母のことを「お母さん」と呼んでいた。

 久しぶりに見た母の裸は昔から見るとずいぶん脂肪がついていたが、熟した女性の裸も捨てたものではないと思った。
 入浴の後、頭にバスタオルを巻かれたあとに自分でも大きなバスタオルを取り出して胸に巻いて母と奥の部屋に入った。
 嫌がっていた女性の下着を身につけることも今では抵抗はなかった。
 ピンク色のパンティを渡されて、お尻の方まで上げた。
 丸く盛り上がったお尻のラインがキュートに見えた。
「こんなに大きなおっぱいになっていたのに、ずっとノーブラだったの?
 若いうちからブラジャーをつけていないと形が崩れちゃうのよ。」
 母にブラジャーをつけてもらい、背中のホックを締めてもらった時は不思議な安心感を覚えていた。
 スリップをつける時も子供のように母に頭からかぶせてもらい膝の上で裾のレースが揺れている感触を楽しんでいた。

 シャンプーで濡れた髪をドライヤーで乾かしながらブラシで女っぽく分け目をつけられて行くうちに、鏡の中の男の子はだんだんと女性に変わっていった。
「眉毛を細くしてコギャル風にしてみようか?」
 母の手で太めの眉をかなり細くカットされると表情が変わっていった。
「ホントは若い子にはファンデーションはいらないけど、今日は女の子デビューだから特別に塗ってあげるね。」
 スポンジを器用に動かす母の手元はさすがになれたものであった。
 化粧品独特の香りに包まれて行典の心はどんどんフェミニンなものになっていた。
 自分の肌の凹凸が消えてしっとりとした肌に変わっていく・・・。

「さあ、口紅を塗るから唇を軽く開けてみてね。」
 唇に紅筆でしっとりとした赤い口紅を塗られていった時は背筋が震えた。
 わたし、いよいよ女になるんだ・・・。
「さあ、可愛いお洋服に着替えましょう。きっとあなたに似合うはずよ。」
 母はクリーム色のTシャツと花柄のキャミソールドレスを取り出して行典の頭からかぶせていった。
 スカートの裾が膝の上に落ちたときに行典は肩の力が急に抜けて女の子特有の恥じらいが生まれていた。
 セミルーズなハイソックスをはかせた後に母は言った。
「さあ、鏡の前で女の子になった自分を見てごらん?」

 静かに鏡の前へ歩んでいった行典は一瞬、息が止まった。
 鏡の中の少女はなんて素敵なんだろう?
 女らしくセットされた髪。恥ずかしそうに赤く塗られた唇。
 ちょっとお色気のある膨らんだ胸、短いスカートからでたキュートな脚。
 この美少女は、わたしなんだ・・・。
「そんな・・。信じられない・・・これがわたし?」
「すごく可愛いわよ、行典。そうね、女の子になったのだから名前も変えないとね。
 ここへ来る途中ずっと考えていたのよ。ねえ、美由紀ってお名前がいいと思うの。」
「わたし・・・美由紀?お母さん、あたし・・・おんなになったのね・・。」
 ずっとノドの入り口のところでつかえていた女言葉が噴き出していた。
 美由紀となった行典は母の胸の中で感激して泣き出した。
「もうこれからは泣きたい時はがまんしないでいいのよ。
 貴女は女の子になったのだから。
 さあ、みんなに可愛く変身した姿を見せてあげなさい。」

 母は障子を開けて居間にいる祖母と玲子の前に押し出した。
「おばあちゃん、玲子。行典は今日から女の子の美由紀になったの。」
 玲子は母の選んだ服のセンス、それに薄いながらチャーミングなお化粧のテクニックを見て、あらためて母の偉大さを知った。
 美由紀はとても女らしくなっていた。
「美由紀、とっても綺麗よ。今日からあたしたち姉と妹ね。」
「お姉ちゃん・・・。あたし・・・こんなに綺麗になれるなんて思わなかった。
 もっと早く女になっていればよかったわ。」
 今まで我慢していた反動で美由紀は一気に純情な女の子に変わっていた。
 祖母もわがままばっかり言ってた男の子があまりに女らしくなった姿を見て喜んでいた。
「さあ、わたしと玲子が心を込めて作ったお夕食を食べてちょうだい。
 もうこの部屋にいるのは全員女性なんだから女同士、楽しくおしゃべりしながらいただきましょう。」
 美由紀はいたずらっぽく笑って元気に食事を始めた。
 それを見た母は笑いながら言った。
「あらあら、そんな食べ方では男の子に嫌われるわよ。
 これから女のしつけをしてあげないといけないわね・・。」

 翌日、田舎を後にした玲子たちは家に戻る前に美由紀の学校へ寄っていった。
 夏休みの最後の登校日であったので教師も全員集まっていたので、美由紀を新学期から女子として高校へ通わせるように頼み込んでみた。
 最初は難色を見せていた学校も美由紀のあまりに女らしい姿を見て納得した。
 その後、バスケットクラブに挨拶していくという美由紀を残して母と玲子は先に学校を後にした。
 部室に入る前に美由紀はバッグから手鏡を出して髪の乱れをチェックしていた。
 母の手で長く伸びた髪をアップにしてもらい、後れ毛を耳元に下げた髪型はとても素敵だった。
 ブラシで前髪の乱れを直した美由紀は静かに部室のドアを開けた。
 そこにはキャプテンであり親友だった光一とマネージャーの陽子がいた。

「ここは女子の部室じゃないわよ?」
「あたし・・行典です。病気が原因で女になってしまったの。
 新学期からは美由紀って名前で女子の生徒としてやり直すことになったのよ。」
「・・・ええ?お前、本当にユッキー?こんな可愛い女の子になったなんて・・。」
 しばらくの間は、目の前の美少女が以前は行典だったことを信じなかった。
 それから今までのいきさつを説明を聞いた二人は、突然の変身にとまどっている美由紀に同情してくれた。
 そして今後は美由紀を女の子として扱い、変身したことでいじめられないように守ってくれることを約束してくれた。
「ユッキー・・・・美由紀、女の生活って大変だろう?」
「ううん、だんだん楽しくなってるよ。
 これまでおしゃれなんてしたことがなかったけど、今では少しでも綺麗に見られたいって思い始めているの。
 ねえ、陽子?これからはいろいろ女の子の生活について教えてね?」
「うん、美由紀はまだ女の子になったばかりだもんね。
 制服のスカートの上げ方や女子高生流のメイクなども教えてあげるね。」
「よろしくね。あたし、光一君といっしょにバスケットが出来ないのが残念よ・・・。」
「ねえ美由紀、あたしたち、チアーガールをやってみない?
 そうすればまたいっしょのコートにたてるわよ。
 下級生に経験のある子がいるからみんなで最後の高校総体に出場しようよ!」
「うん、いいわね。あたしもやってみるね。」
 最初はとまどっていた光一も可愛らしい美由紀を見ているうちに淡い恋心が芽生え始めていた。

 9月になり玲子は帰ってきた美代子の会社のOLとして働きはじめた。
 婦人下着の販売を受け持ち、生き生きと働いていた。
 ピンクのベストスーツの制服は若い娘である玲子に合わせて、短いスカートの丈に仕上げてあった。
 パンティストッキングの艶が玲子の美しい脚の魅力を引き出していた。
「玲子ちゃん、すっかり女の生活に慣れたみたいね。前よりも生き生きとしてるわ。
 貴女は男より女として生まれたほうがよかったんじゃない?」
「ええ、あたしあの時に美代子さんに会えてよかった。
 あのまま、男として暮らしていくなんて今考えるとぞっとするわ。」
「今日から和服の着付けを習いにいくんですって?」
「お母さんがもっと女らしくしてあげるって申しこんでくれたんです。
 あたしはエアロビクスのほうがいいんですけど。レオタードが着れるし・・。」
 玲子はOL生活を楽しんでいた。

 美由紀は女子高生として高校に復帰していた。
 いつも明るく元気な美由紀はすぐにクラスの人気者になっていた。
 しかし慣れない女の生活にまだとまどっていた。
 もともと女性的な性格であった玲子に比べて、男の子時代は気が強く豪快な性格であったので、母から教わる女のたしなみを覚えるのに時間がかかっていた。
 電車に乗るときにスカートをはいていることを忘れて股をひらいて座ってしまいピンク色の下着を露出させて周囲の男性をどきどきさせたり、トイレに入っても平気で音をたてて排尿して一緒にいた陽子に注意されることもあった。

 朝食をいっしょに作りながら母は玲子に言った。
「玲子はこんなに女らしくなったのにあの子はまだその気にならないのかしら?」
「そのうちに恋をすればきっと女らしくなるわよ。
 それにあの明るさはあの子の個性だから少しは目をつぶってあげてもいいんじゃない?」
 食事が出来上がった頃に美由紀は眠そうな顔をして食卓におりてきた。
「お母さんとお姉ちゃん、おはよう〜。」
「美由紀、顔を洗ったらお肌に化粧水をつけておきなさい。
 若いからって手入れを怠ってはいけないわよ。」
「うん、わかってるよ。ねえ、あたしね、今日は陽子とコンサートいってくるね。
 帰りが遅くなるかもしれないよ。」
「もう女の子になったのだから暗い道は通らないようにしなさいよ。いいわね?」

 Tシャツにジーンズというラフな格好で陽子の家に行った。
 陽子は美由紀と違っておしゃれなワンピース姿であった。
 ライブハウスに行く途中で二人は信号待ちで止まっている車の中から声をかけられた。
 見ると助手席に光一が乗っていた。そして隣には綺麗な大人の女性が運転していた。
「今日はたしかライブハウスに出かけるんだったよね?たっぷり楽しんできてよ。」
 信号が青になり二人に手を振りながら光一の乗った車は去っていった。
「ねえ陽子、光一君はあの綺麗な女の人とつきあっているのかな・・?」
「ううん・・・見るのは始めてだけど?気になるの?」
「そんなわけじゃあないけど・・。」
 その日、美由紀は光一のことが頭の中から離れなくてライブハウスへ行ってからもずっと気になっていた。
 家に帰りベッドの上に寝ころびながらも、ずっと光一のことを考えていた。
 あたし、どうしたんだろう?光一君のことを考えると胸の奥が痛いよ・・。
 ひょっとしてあたし、光一君のことを女として好きになっちゃったのかな?

 翌日、いつもより早起きしてきた美由紀はエプロンをつけて台所に現れた。
 すでに朝食の準備を始めていた玲子は微笑みながら美由紀に言った。
「あら、こんな早く起きて今日はどうしたの?」
「お姉ちゃん、あたしも今日からお料理を手伝うわ。いろいろ教えてよ。」
「やっと女心に目覚めたのね?じゃあ、野菜を刻むのを手伝ってね?」
 あとから起きてきた母は、仲良く台所に立って料理を作ってる姉妹を見てうれしく思っていた。
 美由紀も少しは女らしくなりそうね・・・。

 金曜の放課後、光一といっしょに帰る際に言われた言葉は美由紀をときめかせた。
「明日、二人で映画を見にいこうよ。
 お前が好きだったJ・C・バンダムの新作が封切りになるからね。」
「あたし・・・・タイタニックが見たいな。レオナルドが出るんだもん。」
「ええ?映画の趣味も変わってしまったんだね?
 いいよ、俺もつき合ってやるよ。」
「・・・ねえ、一つ聞いていい?
 この前、車の中で綺麗な女性といっしょだったでしょう?
 あの人って誰なの?」
「ああ、あの人はもうすぐ兄のお嫁さんになる人なんだ。綺麗な人だよね。」
「え?そうだったの?あたし勘違いしちゃった・・・。」
 美由紀は先日の女性が光一の恋人でないことがわかり、すごくうれしくなった。
「美由紀も明日は、おしゃれな格好で来てよ。
 俺の友達に会ったときにガールフレンドとして紹介したいからね。」
「ええ、あたしもう少し女らしくするわ・・・。」

 翌日、デートに着ていく洋服を陽子に借りにいくことにした。
 陽子の部屋に入った美由紀は洋服ダンスの中から似合いそうな服を探してもらった。
「うわあ、こんなにお洋服持っているの?おしゃれなんだね。」
「年頃の女の子だったらこれくらい当たり前よ。
 ねえ、美由紀はどんなお洋服が着てみたいの?」
「あたしまだ女の子の服ってわからないの。教えてよ?」
「スカートって、いろんな種類があるのよ?長さや形によって呼び名が違うの。
 フレアースカート、プリーツスカート、タイトスカート、台形スカート、それに巻きスカートやキュロットもあるしね。」
「へえ、そうなんだ・・。キュロットって色気がないのね。
 あたしはこのローズピンクのフレアースカートがいいな・・・。」
「そうね、美由紀はおしりが大きくて形がいいから似合うかもしれないね。
 さっそくはいてごらんなさいさいよ?」
 スリムジーンズをおろした美由紀の下半身はピンクのパンティ姿になっていた。
 陽子のいうとおり若い女性特有のぴちぴちしている肉付きとなっていた。
 スカートに脚を通してゆっくりと腰の所に上げて後ろのホックをはめてみた。

「陽子、ちょっと変な感じなんだけど?」
「美由紀、女のウエストって男よりももっと上の方にあるのよ。
 おへその上まで上げてごらん?」
「・・・。あ、ほんとだぁ。あたしってまだ女になったばかりだからね〜。」
「だんだんと慣れるわよ。そのスカートけっこうお似合いよ。」
「そう?ねえ、せっかくだから他のお洋服も着てみていいかしら?」

 結局、白地に花柄のプリントが入った清楚なワンピースを着ることにした。
 ワンピースは美由紀のお転婆な性格を女らしく変える効果があった。
「美由紀ってけっこう美人だったのね?見直しちゃった。
 その白いお洋服には白い肌がお似合いね。お化粧してあげようか?」
「ええ、お願い・・・。」
 目をつぶって顔の上に塗られていくファンデーションの感覚が美由紀はとても気に入った。
 あたしもそろそろお化粧を覚えよう・・・。

 光一とのデートがきっかけで美由紀は女らしさに目覚めていった。
 母と玲子の教育で美由紀は以前とは見違えるほど女らしさに磨きがかかり、もう誰も過去に男性であったことを忘れていた。
 いつのまにか地元でも評判の美人姉妹と噂されるほどであった。

 いよいよ高校総体が始まった。毎日練習したチアーガールの成果を見せる時が来た。
 青地に白いラインの入ったノースリーブの上衣にプリーツのミニスカートをはき、ポニーテールにまとめた髪の結び目をリボンでしばり、お互いにメイクをしあった。
「美由紀、とっても可愛いわ。これなら私たち、男の子からモテモテよ〜。」
「もう陽子ったら、私たちって応援に行くんだよ!」
 美由紀たちは、元気にポンポンをふりながら、光一たちを応援した。

 試合は押されぎみであった。
 光一のマークが厳しくてなかなかシュートが打てない。
 身体の切れも悪かった。
 後半になり残り時間がわずかになったときに選手に疲れが見えてきたのでタイムをかけ、選手はベンチまで一度戻ってきた。
 美由紀は光一を激励した。
「今日の光一は弱気になってるわね。失敗をおそれずに勝負をかけなさいよ。
 私がおまじないをしてあげる。」
 そういって光一の頬にキスをした。
 光一は一瞬びっくりしたが、キスが原因で気合が入ってきた。
「この試合に勝ったら、こんどは頬でなくて唇にお願いするよ!」
 さわやかな笑顔でコートに戻った光一は見違えるように動きがよくなった。
 そして連続してシュートを決めてついに終盤で逆転することができた。

 祝福の拍手の中、光一は美由紀のもとへ走ってきた。
「美由紀、ありがとう。お前のキスが効いたよ!
 前は俺達はライバルだったけど・・・これからは俺の恋人になってくれないか?」
「うん・・・。でもあたしでいいの?」
 真っ赤になって照れた姿はとてもキュートであった。

 美由紀は光一にお弁当を作ってやったり、陽子といっしょにクラブのマネージャーとしてユニフォームの洗濯をしてあげたりと、女らしさに磨きがかかっていた。
 今では母親の替わりに台所に立つほどになっていた。
 ミニスカートにフリルのエプロンを着けて楽しそうに料理を作ってる美由紀の姿を見ながら母はうれしそうに言った。
「ねえ、美由紀?女の子の生活って悪くないでしょう?」
「うん、あたしってけっこう男の子にモテるようになってるのよ。
 女の子になってから素敵なお洋服が着られるし、お化粧も楽しいの。
 こんなに女の生活が楽しいなんて思わなかったわ。
 お母さん、なんであたしを最初から女の子に産んでくれなかったの?」
「まあ、美由紀ったら・・。」

 二人の息子が男の子であった時はあまり会話をしたことがなかったのに、今では母と娘の会話に花が咲くことが多かった。
 母は妖精が二人を美しい娘に変えてくれたことに感謝していた。

 美由紀は久しぶりに病院の真由子の見舞いに行った。
 以前より病状はかなり悪化しており目も見えない状態でこのまま行くと失明の可能性も出ていた。
 美由紀は真由子に余分な不安を与えないためにわざと低い声を出して女性に変身したことを悟られないように見舞った。
 あのときに姉のいうことを聞いて魔法の水を飲ませてあげていれば・・。
 美由紀は自分が今までわがままで人の忠告をほとんど聞かなかったことを後悔していた。

 夜になり美由紀は玲子にお願いした。
「ねえ、お姉ちゃん。あの魔法の水を再び取りに行けないかな?
 あの女の子の病気を治してあげたいのよ・・・。」
「うん・・・あの日にあそこの入り口は塞がってしまったはず。
 でも行ってみればきっと何かいいことが起きるような気もするわね。
 じゃあ明日はお休みだから久しぶりに行っていようか?」
「お願いね。あたしも妖精の姿を見られるかな・・・。」

 翌日、二人は今では懐かしい小平川に行った。
 二人で岩の亀裂のあった場所を一生懸命探し、やっとのことで見つけ出したが洞窟はすでに塞がっていた。
「やっぱりもう間に合わなかったみたいね。」
「・・・ごめんなさい、真由子ちゃん。」
 夕焼けの空が映る水面に美由紀の頬から一筋の涙がこぼれた。
 すると水面が急に光り出して水の中から妖精が現れた。
「もう湖の中には入ることができないの。
 でも私が一度だけ貴女の願いを叶えてあげましょう。」
 妖精は手に持っていた杖を振り下ろした。
 すると美由紀の持っていた瓶に1cmくらいの水が湧き出ていた。
「その水を飲ませてあげなさい。きっと少女の目は回復するでしょう。
 でも身体が回復するだけの量はないの。あとは貴女が愛情を注いであげることよ。
 そうすれば、きっといつかは元気になれるはずよ。
 私はもう行かなくてはならないの。これからも二人仲良く暮らすのよ。」
 そう言って妖精はにっこり笑って水の中に消えていった。

「美由紀、よかったわね。
 真由子ちゃんが目が見えるようになったら貴女が女の子になったことを見てきっと驚くでしょうね。
 でもきっと女同士で前より仲良くなれるはずよ。」
「お姉ちゃん、来てよかった。
 あたし、これから高校を出たら看護婦さんになって真由子ちゃんの面倒を見て上げたいな・・。
 きっと私の力で直してあげるんだ。」
「うん、それがいいわね。さあ、遅くなったから帰りましょう。」
「ねえ、おねえちゃん?お願いがあるの・・・。
 来る途中に駅前のブティックに素敵なブラウスがバーゲンで出ていたのよ。
 いっしょに寄っていかない?」
「まあ、相変わらずしっかりしてるのね。
 あたしお給料が出たばかりだからブラウスくらいなら買ってあげようか?」
「わあ、うれしい〜。お姉ちゃん、大好きよ!」

 fin

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