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吸血姫的日常生活



第四話


〜ちゅ〜ちゅ〜♪ の謎 編〜


作:ノイン イラスト:田代憂


あらすじ

 天津赤奈(あまつ・せきな)…当該作品における主人公であり、人々の恐怖の対象、吸血鬼の末裔たる者である。だが、現代において、その存在はすでに認知されておらず、学校のクラスのものたちは、ただただ赤奈のかわいさに圧倒され、駆逐され、コワレテしまった。とりあえず、百合に突入しつつある、十弁華美弥(じゅうべんか・みや)、変態な双樹健太郎(そうじゅ・けんたろう)、その他もろもろと、なにげに濃いクラスであったのだ。

     そして…また、彼女の日常生活が始まる。 


 

 明け方、と言っても、太陽はまだ顔を覗かせていない、あと少しで夜が明けそうな微妙な時間。
「うーん…」
 当然のように赤奈は寝ていた。それは当たり前だ。彼女は吸血鬼ではあるが、そもそもライフ・サイクルは人間と同じである。
 朝起きて夜寝る。当たり前の生活。実は普通の吸血鬼とは逆の生活だが、生まれたときからこのサイクルなので、問題はなかった。

「はう…お姉ちゃん…そこはちがっ…」
 唐突に赤奈は寝言を呟いた。一体、どこが違うのだろう。
 春の陽気は部屋に充満しているが、まだそれほどまで暑苦しくはなく、むしろ朝方なので涼やかな空気と言ったほうが正しそうだ。
 しかし、赤奈はなぜか寝苦しさを感じているのか、うんうん唸っている。
 ごろり…赤奈は寝返りを打った。

 むにゅ☆

 むにゅ…? 妙な感覚である、寝返った先に、ありえないはずの弾力があったのだ。
 眠りと覚醒の狭間のぼーっとした表情で、赤奈は隣を見やった。
「え!?」
 唐突に意識が覚醒した赤奈はがばっと起き上がる。
「お姉ちゃん…」
 隣にいる人物の顔を確認すると、赤奈はとほほな表情になった。
「お姉ちゃんがボクの部屋に入ってきたの…これで、22回目だよ…はう」
「むにゃむにゃあ・・・・せきちゃ〜ん」
 よく見ると、姉の手は赤奈のパジャマの中になぜかつっこまれていたりして、微妙に危険であった。
 じんわりと謎の涙が目じりに溜まっていく赤奈。
 だが、すーすーと幸せそうに寝ている姉、天子の顔を見ていると、赤奈は優しげな顔になり、薄い毛布を姉の身体にかけた。

 のだが…




 がばっ

「あう!?」

 捕獲された。(汗)
 いやむしろ、食虫植物、そうハエジゴクだ。
 あのかぱっと開いている葉っぱがいきなりぱっと閉じるような、見ていて痛快なほど欲望全開な動きであった。
 いまや、赤奈は天子の四肢によって完全に捕まえられていたのである。

「お姉ちゃん…起きてたんだ…」
「うふっ♪」
 赤奈の声はすでにうわずっていて、動揺しまくっている確率が130パーセント♪
「お姉ちゃん、わざわざ寝たふりしてたの?」
「そうね。やっぱり寝ているときだと、反応がいまいちだしね♪ せきちゃんが起きるのを待っていたの♪」
「なんで、そうなるの…」
「うーん♪ せきちゃんは女の子になって、さらに抱き心地が良くなったわぁ♪ やーらかいの♪ ふんわりなの♪」
 赤奈の言うことに耳を傾けず、天子は幸せ絶頂モードである。
「お姉ちゃん、ボク、男の子…」
「そろそろ暑くなってきたね、せきちゃん♪(今は女の子だしぃ)」
 赤奈の言葉を完全に無視し、赤奈を抱き締めたまま、ごろりとベッドの上で回転し、赤奈を下に持ってくる天子。
 どうやら、いつものマウントポジションである。
「おね…ひゃん。むー。むううぅぅぅ」
 天子はいつものように唇で赤奈の口を塞ぐと、赤奈のさらさらな髪をなでる。ついでにパジャマも脱がせてみたり…。
「うーん、暑い、暑い、暑い♪」
「う〜」
 赤奈は心の中で、まだ春だよとつっこんだが、いかんせん、どうしようもなかった。いやはや…。

 




「…朝がきたみたい」
 倦怠感の残る、妙に疲れた声で赤奈は呟いた。
 太陽の日差しがカーテンを突き抜けて、赤奈の顔にあたる。
 赤奈はまぶしさに目を閉じたが、手を目の前に持ってきて、太陽の光を盗み見た。
 今日も快晴のようだ。

「ふう…お姉ちゃん。なんか喉かわいちゃった」
 赤奈は自分の部屋があるにも関わらず、なぜか赤奈と同じベッドで寝ている姉を揺り動かした。
 そろそろ、吸血衝動が近づいてきているのだ。
「あらっ…せきちゃん、血が欲しいの?」
「うん、そろそろ…」
「じゃあ、ちゃんとおねだりしてみて♪ せきちゃん」
 天子はダークに笑った。
 いままでに数回行われてきた。赤奈の吸血行為、それも繰り返されるうちに、普通に与えるだけでは飽きてきたのである。

「え…やっぱりやらないとダメなの…? 恥ずかしいよ」
「そっか、血が欲しくないのかな? せきちゃん♪」
 顔は天使。心は悪魔。ていうかほんとにハーフ天使なのだろうかと思わせるような言動である。
 だが、血が吸いたくて、どうしようもなくなってきた赤奈は、しかたなしに姉の言うことに従うしかなかった。

「お姉ちゃん…ボクにちゅ〜ちゅ〜させてください♪」
 姉に抱きつき、赤奈は普通の状態でも可愛さ抜群の声を、意図的にさらに可愛くしてねだった。その行為は保護欲を引き起こし、さらには嗜虐欲と征服欲をも惹起する萌えの境地である。天子はこれぞまさに幸せといった顔で、ちょっと涙目になっている赤奈の顔を見おろしていた。

 ちなみに、『ちゅ〜ちゅ〜』とは、天子が考えた、吸血行為のかわゆい言い方である。萌えな妹が『吸血させて』ということに、ちょっと違和感を感じていたらしい。というわけで、『ちゅ〜ちゅ〜』である。
 どうでもいいが、この人の中では妹の萌えが最優先事項なのかもしれない。

「どうしようかなぁ。うーん、やっぱり、もっと可愛くねだらないとダメよ」
「お願い…お姉ちゃん」
 そろそろほんとにヤバくなってきた赤奈は切実に訴える。
「ふう。暑いわ…せきちゃんが服を着ているから暑いのかしらね」
「え!?」
 赤奈は怪訝そうな顔で姉の顔を見つめる。
 と、そこには悪があった。一目でわかる。これは絶対悪に違いない。
 ようするに、服を脱げと言っているのだ。しかも、この場合は『自分で』である。いまだに自分の身体を見ることすら恥ずかしがっている赤奈が、姉の前で自分の肌を晒す行為…それはまさに、マウントフジも負ける恥ずかしさの頂点、絶対したくない行為のひとつであったのだ。
 だが、赤奈はもうほんとに切羽詰っていた。どんなことをしてでも、血を吸いたいという思いと、恥ずかしさが拮抗し、葛藤が生まれる。
「ほらっ…欲しくないのかなぁ? せきちゃん」
 いつのまにやら、人差し指から血を少量流し、赤奈の前でちらつかせる天子。
 外道ここに極まれりであった。
「あ…ぅぅ…欲しいよぉ…。でも……」
「ほらほら♪」
「うぅっ」
 ついに内的な乱流に耐え切れなくなった赤奈は、ぽろぽろと清純な液体を目からこぼした。
 だが、その姿さえ、天子の中の萌えゲージをアップさせている。結局、赤奈にできることは限られているのだ。

「どうするのかなぁ?」
「うう、お姉ちゃ〜ん」 
 本能に打ち負けて、赤奈は天子の指めがけてジャンプ!!
 しかし、ひょいっと指を上に上げられて、赤奈は天子の胸めがけてダイビングであった。
 姉の胸の中で、赤奈はしっかりと抱き締められていた。もちろん、天子の顔は幸せそのものである。
 だが、赤奈としては恥ずかしさもあったが、吸血衝動のほうが、すでにいてもたってもいられない状況にあり、『あうぅ』と小さくうめいているのみだ。
 
 そして、天子が悦に入っている時、赤奈は上を見あげた。
 ちょうどそこには、天子の白い首筋がある。
 赤奈はごくりと唾を飲み込むと、少しずつ背伸びをして、小さな八重歯を近づけていった。
(おいしそうだよぉ…)
「だめよ〜、せきちゃん♪」
「あう!」
 あと数センチで首筋に到達しようとしたとき、天子は赤奈を無理やり引き離した。
「でもぉ…えぐっ…えぐっ…」
 もうなにがなんだかわからない状況の赤奈は、ぽろりぽろりと涙を流している。
「首筋は動脈が走っているから、危険でしょ」
「えぐっ…ふぁ…ごめんなさい…」
 赤奈は姉から無理やり血を吸おうとしたことに罪悪感を禁じ得ず、また、気が遠くなりそうな渇きも手伝ってか、精神的にボロボロである。
 はっきりいえば、壊れる一歩手前♪ とはいえ、そこまでするのは天子の本意ではない。
「さっ、服脱いで♪」
 天子は優しげに微笑むと、内容的には問題がありまくりな発言をした。だが、赤奈にとって、それは救いでもある。
 服さえ脱げば楽になる…。
「うう。やっぱりそうなるんだ…」


「ちゅ〜ちゅ〜。ううっ…おいしいよお…。ちゅ〜ちゅ〜」
 なぜか泣きながら血を吸っている赤奈。
 彼女の服が現在どこにあるのかは、彼女のプライドに関わることなので、聞かないで欲しい…。



 


 

「というわけで、赤奈ちゃんのためなのよ」
 朝の食事時、天子は軽い調子で赤奈に笑いかけていた。
 一方、赤奈は血を吸った後に起こる酩酊状態から既に脱し、少し怒っているようだ。
「お母さん、ひどいんだよ。お姉ちゃんがボクの服を無理やり脱がすんだよ」
「それは大変ねえ」
 全然緊張感のない声で答える母、
 と、すぐさま姉がニヤリと笑いつつ赤奈に反撃をする。
「違うわ。私は無理やり脱がしてないもの。せきちゃんが自分で脱いだんじゃない♪」
「うっ・・・」
「せきちゃんが暑がって、勝手に脱いだのよん♪」

「お姉ちゃんが脱げって言うからあ!!」

 恥ずかしさがこみあげてきて、赤奈はテーブルから勢いよく立ち上がると、声を大きくして叫んだ。
 一方、母と姉はまったく動揺する様子もなく、鼻をくすぐるようなおいしそうな香りを発散させている味噌汁を優雅にすすっていたりする。
 まったり空間であった。


「お姉ちゃん!! 聞いてるの!!」

 いい加減、怒りの頂点に達した赤奈は、テーブルをばんっと叩いて、天子を厳しく睨んだ。
「でもね…せきちゃん」
「なに?」
 いきなりシリアス声になった姉に対し、ぶすっと答える赤奈。
「さっきも言ったとおり、せきちゃんのためなのよ。少しは我慢できるようにならないと、学校とかで苦労するでしょ? ちゅ〜ちゅ〜したくなったらどうするの?」
「う〜」
「それに、せきちゃんは私から無理やり吸おうとしたでしょ。そんなことをしたら、みんなに嫌われちゃうわよ」
「…うん。そーだね」
 赤奈はしょんぼり、力なく答える。
 確かに、耐え切れなくなって友達から無理やり吸っちゃう可能性もあった。
 もしそんなことをすれば、楽しくお引越しをするはめになることは目に見えている。姉の言うことも一理あったのだ。
 と、そこで赤奈は突然、あることに気づいた。

「そうだとしても、なんでボクが服を脱がないといけないの!!」

「そりゃね…」
 天子は肩をすくめた。

「もう、そんなこともわからないの? せきちゃん♪」
 ニコニコ顔で赤奈の顔を見つめる母

「ん〜?」
 赤奈はそんな二人の顔を疑いたっぷりの眼差しで見つめた。

「「そっちのがカワイイから♪」」

「もう、ヤダよう…」
 
母と姉の声が綺麗にユニゾンし、赤奈はそのあまりの理不尽さに脱力してしまった。

「なんていうか、せきちゃんって、すっごくお肌がすべすべなのよねぇ。見ているだけでなんか、こう悶々としたものが腹の底から湧き出るっていうか。カワイイ妹だけに、姉としてなんだか女の子のことを教えたいぞおって気分になってくるの♪」
 というふうに、とてつもなく熱い、いや熱すぎる思いを語る天子。

「まあ、お母さんもなんとなくだけどわかるわ。お姉ちゃんと仲良くしているせきちゃんって、とってもカワイイわよ♪」
 だから、母は傍観者なのである。

「ううっ、普通の生活がしたいよお…」
 それはたぶん、無理。

 



「じゃあ、行ってきまーす…」
 赤奈は鞄に今日の勉強分を詰め込むと、こうもりの髪飾りを鏡の前で整えて学校に向かった。

 そこでは、とりあえず変態な姉がいないぶんだけマシな生活が送れる。
 しかし、赤奈は女の子になってから、たった一日でクラスを、ある意味崩壊させてしまった実力の持ち主である。
 いかんせん、普通の生活を送れるはずもなかった。

「ふう、疲れた…」
 鞄を机の横にかけ、赤奈は席につっぷした。精神的な疲れがでたのであろうか。
 しかし、その疲れを癒す暇もなく、赤奈は後ろからぎゅっと抱き締められた。
「おはよう、赤奈ちゃん♪」
「あっ、おはよう。美弥ちゃん」
 赤奈に抱きついた人物は、赤奈が女の子になってから、一日で友達になった、十弁華・美弥(じゅうべんか・みや)だった。
 彼女は赤奈を一目見たときから、行ってはいけない修羅(ゆり)の道を突き進みつつある。
 もちろん、まだまだ序の口レベルらしく、赤奈の姉のように強引にはイケないのだが、それは時間の問題のような気もしないでもなかった…。
 ちなみに、彼女は見た目的には可愛らしい少女であり、頭を覆うリボンが目につくほかはいたって普通の学生であることを付け加えておこう。
「どうしたの? 赤奈ちゃん。疲れてるの?」
「うん、家でいろいろあったんだよ」
「ふーん…(癒してあげたいよお)」
 美弥はどうしようもなく荒れ狂う欲望を、なんとか理性で押さえつけている。

「おはようございます」
 次に赤奈に挨拶をし、優雅に自分の席に座ったのは、月光陽子(つきひかり・ようこ)であった。微妙に矛盾した名前だが、この際、そんなことはどうでもいい。ともかく、彼女は日本人的な美しさを持つカワイイと言うよりは綺麗な少女である。

「あらあら…朝っぱらからお盛んですね」
 美弥の少し密着度が高い状態を見てとり、陽子は口に手を当てて上品そうに笑った。
「にゃ!? 別に変じゃないにゃ!?」
「あら、美弥さん、また猫語になってますわよ」
「にゃ……」
 美弥は焦ったときや嬉しいとき、ともあれ感情が高ぶったとき、猫語になってしまうのである。もちろん彼女もそれを自覚しているらしく、恥ずかしく思っているのだが、いかんせん、生まれてこのかた一度も直ったことはなかった。将来においても、おそらく直ることはないだろう。


 ガラリ…

 教室のドアがまた開かれた。ずかずかと入ってきたのは身の丈が180を超えている男だ。

「おい、お前」
「ん?」
「今日も傲慢にも赤哉くんの席に座っているんだな」
 赤奈が身体を机から起こして、視線を向けると、そこには旧友の姿があった。
「あっ、おはよう、健太郎くん」
 赤奈はとりあえず、挨拶をした。しかし、健太郎は見当違いの応答にますます、鼻息を荒くし、怒りのオーラを発散させている。
「赤奈ちゃん、相手しちゃだめだよ。バカが移るから」
 美弥は健太郎を完全に無視しつつ、赤奈をガードするように健太郎に背中を向けて立った。健太郎のことは視界にすらいれてない。
「え…でも…友達だし」
「優しいね。赤奈ちゃんは」
 さりげに『いいコ。いいコ』をされちゃう赤奈。
 むろん、赤奈としては、かなり恥ずかしいことである。一方、健太郎は無視されて、さらに機嫌が悪くなっていた。

「おい、こいつは赤哉くんの席を奪ったんだぞ、お前は悔しくないのか?」
「別に赤奈ちゃんが奪ったわけじゃないし、健太郎が言うことはおかしいにゃ!!」
 美弥が健太郎の前で腰に手を当て、相対する。身長差はかなりあるが、迫力では負けていなかった。
「バカヤロー!! お前なんか、赤哉くんファンクラブから除名だ!!」
「赤哉くんのことは今は関係ないにゃ!!」
 健太郎がぶちきれ、美弥が戦闘モードに突入する。教室はまさに一触即発の状態だった。
 赤奈は話題の当時者であるが、『ボク、女の子になっちゃったんです、だからいいの』なんて言えるわけもなく、ただおろおろとしている。
 と、そこで、健太郎の肩が叩かれた。
「おいおい、また、天津さんにちょっかいかけているのか? 健太郎」
「逼冶。別に関係ないだろ。これは俺と赤哉くんとの問題なんだよぉ」
「なにがなにやら……わけわかんないな。ともかく、あんま迷惑かけんなよ」
「赤哉くんがいない学校生活なんて…ああ、赤哉くん、カムバック〜〜!!」
 赤奈の隣にある、自分の席に座ると、健太郎は突っ伏して叫んだ。
 確認するまでもないが、健太郎は生物学的に精神的にもまちがいなく男である。
 元の自分に対して、こんなにも好意を抱いていてくれていることは、赤奈としても嬉しいのであるが、
 今の自分が健太郎の単純思考によって、なぜか逆恨みされてしまっているので複雑な気分でもある。
 現に今、呪詛のように、『赤哉くんコール』をしつつ、ギロリと赤奈を睨みつけてくる健太郎に対し、赤奈ができることと言ったら、ちょっと涙目になりつつ、できるだけ気にしないようにすることだけであった。

 そんなこんなで、教室での日常は繰り返されているのである。

 


 

「やあ、みんな、おはよう」
 一時間目の授業は国語だ。
 ガラリと教室のドアが開き、精悍とした声が響くと同時に、教師に成り立ての亀井(かめい)が教室の中に入場してきた。
 彼は持ち前の爽やかマスクと、まだ生徒とそれほど年が離れていないためか、人気がある先生だ。
 だが、しかし!!
 彼の趣味はひたすら18キーンなゲームをすることであった。
 さらに、そのゲームはなぜかは謎だが、登場する女の子が18歳以上であることをことさら強調するゲームだったりする。
 しかも、主人公の妹はなぜか、血が繋がっていない義理の妹であることが重要らしい。

(ふっ…天津赤奈、わずか一日で、教室の生徒を陥落せしめ……
 一週間ほどで、すでにほぼ全校生徒の注目の的…今日のターゲットは彼女に決まりだ)

 顔はさわやかそのものだが、心の中は真っ黒だった。
「それじゃあ、今日は近代文学の朗読をしてみたいと思う」
 亀井は教科書のページを開くと、心の中でほくそえんだ。
 彼の教科書にはところどころが赤いマークで囲ってあり、手書きの文字がびっしりとなされている。

(準備期間に一週間…すべての準備は整った)

 油断すると、すぐにでもつりあがりそうな顔の筋肉を、持ち前のポーカーフェイス筋を使い、さわやか顔を前面に押し出しつつ、亀井は赤奈を見た。

(ふふふ…傾国の美少女とはまさに彼女のような子を言うんだろうね。楽しくて笑いが止まらないな。
 ハハハハハハハノハハハハハハハハトワラフ……心の中で笑ってもむなしいだけだな。さて、計画を実行に移すか)

「では…天津。前回のあらすじを軽く説明してくれるか?」
 亀井に指名されて、赤奈は自信なさげに立ち上がった。

(えっと…前回って、どんな話だったっけ)

 お題になっている近代小説は、その時代には珍しい、吸血鬼の恋愛ものである。とはいえ、時代が時代だけに、妙に演技がかっている描きかたであり、『ロミオとジュリエット』に近い雰囲気がある作品であった。

 話のあらすじはこうだ。
 時は昔、あるところで、敬虔なクリスチャンのフェリュと吸血鬼ドラクルが偶然の出会いを果たす。
 ドラクルは少女を一目見たときに驚愕した。少女は記憶の彼方にある妻の生き写しだったのだ。
 もちろん、最初は吸血鬼ドラクルも普通の紳士を装っている。
 そして、いつしか二人は恋人どおしとなり、愛し合うようになった。
 だが、ドラクルはフェリュを愛するがゆえにすべてを打ち明けてしまうのだ。
 恋人がクリスチャンにとっては憎き怨敵であることを知り苦悩するフェリュ
 そして、今回は最後のシーン。フェリュが神を捨て、ドラクルとともに生きていくことを選択するシーンである。

「…というような話だったと思います」
 赤奈の説明に教室から、感嘆の溜息が漏れる。別に話し方が巧かったわけでも、あらすじを詳細に覚えていたわけでもない。
 赤奈があらすじを想起中『えっと、えっと』とかなり困った感じであり、さらには小首をかしげつつ、ひたすらがんばって思い出そうとする姿が、なんというか、ぶっちぎりにかわいかっただけである。
「うん、天津はよく覚えているな。では、今日の朗読は天津がフェリュ役をやるということでいいかな?」
「えっ…ボクがですか……?」
 吸血鬼になっちゃって苦労し、そのことをクラスのみなさまがたにはひたすら隠している赤奈が、吸血鬼な物語に関わるのは、精神的に厳しいものがある。だが、亀井の言葉に対する、クラスの反応はほぼ即答で赤奈が朗読することに賛成するものであった。
 その理由は、赤奈ちゃんのらぶりーな声をもっと聞きたいという不純…
 いや、ある意味、超純粋な思いからくるものであることは言うまでもない。
 弱気な赤奈はそんな周囲の期待を裏切るだけの根性があるはずもなく、結局は朗読することに同意するしかなかった。

「では、あとはドラクル役だが…誰がやるのがいいか……委員長やってみるか?」
 委員長…もとい、浅野(あさの)は無言のまま猛烈に首を振った。ちなみにこの人は3話ではA君と呼ばれていたのだが、そのことは作者でさえ忘却の彼方であった。というか正直言えば、今、適当に名前を考えた。ごめん、浅野くん。

「そうか…ドラクルはフェリュの恋人役だからな…難しい役ではあるしな」
 ぼそりと呟く、亀井。そのさりげない一言は教室の中に激震をもたらした。
 フェリュの恋人役…すなわち、それは赤奈ちゃんの恋人役を獲得することと同義ではないか!!
 花火がはじけるがごとく、教室中から手があがった。
 その中でひときわ目立つ人物が一人。
 背が低いのをカバーするためか、椅子の上に立って、元気よく手を振っている。
「先生、私がするにゃっ!!」
 美弥だった。
 赤奈の恋人役の確実ゲットを狙う、その目はまさに猫のごとしである。

(ニヤリニヤリ…やはり、女の子どうしというシチュエーションか…それもまた一興)

「では、ドラクル役は十弁華で、ナレーションは俺がしよう」
 亀井が頷き、教室は嫉妬の混じった、羨望の目で美弥を見つめる。
「やったにゃー♪」
 美弥の顔は、一言で言えば、幸せマックスだった。



「さてと…君達に朗読してもらうわけだが、どうやら、あの作品にはちょっと不都合な点があってね。作者のほうから加筆したものが、つい最近届いたんだよ」
 亀井は赤奈の席に近づくと、自分の教科書を手渡した。
「先生? これ?」
「うん、手書きで(俺が)書き加えておいた フェリュの台詞がいまいちだったからな」
 いまいちというのは亀井にとってという注釈がつくのだが、それは沈黙を持って語られた。ちなみに亀井は一言も嘘を言っていない。
 一応、作者のほうから、加筆したものが届いたというのは本当のことである。
 とはいっても、その修正箇所は、どうでもいい場所の、ほんの一文字『に』を『を』に変えたとか、そういうレベルであった。
 しかし、嘘は言っていないのだ…ただ、ちょっぴり言葉が足りなかっただけである。
「では、天津の教科書は俺が読むから、ちょっと借りるな」
「え…あっはい。でも、先生の教科書……」
 赤奈は真っ赤に塗りつぶされている教科書を見ると、見る間に顔が赤くなっていった。なぜか教科書には…。
「さて…はじめようか」
「はいにゃあ♪」
「あう…はい…」
 ニヤリと笑った亀井は、懐に忍ばせておいた録音機のスイッチを押した。そこにはちょうど120分のテープが収まってある。
 授業時間が50分……リバースの音で気づかれないためである。

『涙を双眸にたたえた少女は、ドラクルをまっすぐ見つめ言った』
 
亀井はきわめて冷静に、そして流暢に朗読しはじめた。さすがは一応国語の教師だけのことはある。

『ああ、ドラクル……私はあなたのことが…』
 超がつくほど棒読みな赤奈。彼女はこういうのはほんとに苦手なのだ。

『フェリュ…それ以上言ったらいけない。きっとキミは後悔することになる。私とキミは一緒に生きてはいけない存在なのだ』
 かなりノリノリな感じで美弥は目をつぶりながら、役になりきっている。おおかた、赤奈の恋人になったつもりで、役にはまっているのだろう。

『ああ、それでも……いいから……お願い……私をあなたのものにしてください』
 
赤奈は台詞が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながら、途切れ途切れに言葉を発する。マーカーで原文が塗りつぶされ、赤く書き足されてある文字を目で追うだけで、赤奈の体温が知らぬ間にどんどん上がっていった。

『フェリュ…いいのか?』

『少しずつ、二人の間は縮まり…やがて、フェリュはドラクルに抱きすくめられた』

『あっ…ドラクル……お願い…痛く……しな…いで』

『ああ……分かっている。心配しなくていい…』
 なぜか、美弥の鼻息が荒いのは気のせいか。

『ドラクルは後ろからフェリュを抱き寄せると、その清純な白き首筋に、甘き毒牙を近づけていく…』

『い…あ……こわい。こわいよ』
 
恥ずかしい台詞の連発のせいか、赤奈はすでにまともに読めていない。
 亀井は無言のまま、朗読中の赤奈のそばに近づくと、声を大にして叫んだ。
「違う、違うー!!! いつも言ってるだろう。作者(おれ)の意図を読み取るんだ。
 (徹夜で考えた)文章、(エロティックに生々しい感じを追求した)行間!!
 
そして、なによりも、作品全体からにじみ出る作者(おれ)の個性(よくぼう)!!!
 天津にはそれらを読み取ろうという意思がまったく感じられない!!
 よく見ろ、十弁華を!! あんなにも役になりきって、作者冥利につきるってものだ。
 天津には特別に演技指導が必要だな…」

 一気にしゃべったせいか、亀井は息荒く、肩を上下させている。
 その目はなぜか狂気に歪んでいるような感じがして、間近で叱られた赤奈は、正直ビビって涙目モードだ。
 涙腺がゆるゆるなのはTS少女だから、しかたがないと言えば、しかたがないが…。
「うう……ごめん…なさい」
「先生、そこまで言う必要ないにゃぁ!!!」
 怒りでメラメラと憎しみの炎を両眼に宿らせ、美弥は戦闘モードに入りつつあった。
 が、それも亀井の計算のうち。赤奈を叩けば『そう』なることは、セント・ソフィア中学校に籍を置くものなら、すでに常識の範囲である。
「まあ、確かに俺も言い過ぎたかな。だが、俺には生徒を育てる使命があるんだ。生徒に苦手な部分があったら、そこを伸ばしてやらねばならない…それは両者にとって、つらく厳しいイバラの道だが、すべては生徒を愛しているからこそなんだよ」
 いまどきの先生には珍しい、熱血な台詞だった。
 クールすぎる現代っ子に、こんな台詞は普通、通じないはずであるのだが、そこは普通じゃない赤奈のクラス。
 ほとんどの生徒が目に星を輝かせ、尊敬の眼差しで亀井を見つめている。
 担任の恵先生が微妙にそっち系であるので、いつのまにやら、じんわりと洗脳されていたのかもしれない。
「先生…ごめんなさいにゃ…私がまちがってた…にゃ…」
 美弥は反省した様子で、顔を伏せ気味に力なく教科書を握った。
「いや、いいんだよ。つらいのは俺もわかる。天津もつらいだろうが、がんばってくれ」
「はい、ボク…あんまり上手じゃないかもしれないけど……」
 伏せていた顔を上げて、決意の表情を浮かべる赤奈。亀井もゆっくりと頷く。
「がんばります!!」
 ぱちぱちぱちぱち…
 なぜかはわからないが拍手が沸き起こり、赤奈は頭に手を当てて、しきりに恥ずかしがっている。
 微妙にズレたクラスだった。


『あ、ふぁっ……ドラクル…』

「違う!! もっと、おなかに力を入れて…切ない気持ちを表現するんだ!!」

『ああ…壊れちゃうよお』

「まだまだぁ!! もっとだ。もっと、エロティックさを演出しろ!!」

『あ…くっ…はぁはぁ…ダメだよぉ』

「胸に手を当てて、心の底から、声をだすんだ。自我を解放しろ!! 宇宙(コスモ)を感じるんだ!!」
 亀井は自分の計画どおりに事が進んでいるのが嬉しいのか、すでにポーカーフェイスも忘れて、赤奈の机のそばで、マインドコントロールのように意味不明な言葉をどんどん吐き捨てている。

『ああ…いい……いいよぉ』
 
その横で、すでに、自分がいったい何をしているかすらわからなくなってきた赤奈は、微妙に謎めいた言葉を連発しつつ、顔をほんのりと桜色に染めつつあった。
 一方、クラスの様子はというと、なぜか教室中に充満している背徳の香りなるものに、ほとんど精神的にグロッキーになっているようだ。男子はというと、ほぼ確実に前のめりになって、なにやら呻いており、女子も、妙に艶をおびた目で赤奈を見つめていた。

 そして、美弥はなんというか、こんなことを言ってよいものかわからないが……発情していた。

『フェリュ……フェリュ……もっと、もっと私を受け入れてくれ…』

『ドラクルはいよいよ毒牙を白き首筋に突き入れる。滴り落ちる血は清純な首筋を赤く染め、床に落ち、ぴちゃりぴちゃりと濡らしていった…』

『あぁううぅ…』

『フェリュ…私と一緒に永遠の刻を』

『ドラクルの牙が深く動脈まで達した。フェリュは虚ろな目で虚空をぼんやりと見つめ、沈黙の部屋で血をすする音だけが木霊している。
 愛する者の犠牲のうえに成り立つ快楽。ドラクルの胸に突如として罪悪感が沸き起こった。
 永遠の生とはまさに時の牢獄だ。彼女をこのまま、そこに閉じ込めてよいのだろうか?』

『ぁ…ドラクル……はぁはぁ』

『ただ、力なく完全に自分を信頼してフェリュはもたれかかってくる。自分のものにしたいという欲望。彼女を汚してはならないという理性。ドラクルはフェリュを優しく見つめた。動きが止まり、フェリュはドラクルの顔を不思議そうに見上げる。交差する視線』

『やはり、キミを連れて行くことはできない……私は滅ぶべき存在なのだ』

『そんなことない…そんなことないよ……だから……最後まで…あなたといっしょに……いたい…です』

『フェリュ!!』

『もうどうしようもなかった。無理やりにでもすべてを奪いたい衝動が湧き上がり。ドラクルは再び、牙を赤く染めていく』

『ああぅぅぅ……』

「はい、カットぉぉ!! 天津も十弁華もなかなかにうまかったな…うんうん」
 満足げに何度も頷く亀井。そして、なぜかは謎だが、ぼーっとした顔をした面々。
 特に赤奈はひどかった。精神的な疲れがピークに達したのか、焦点の合ってない目で椅子に座りこんでいる。なぜか息も荒い。

(さて…あとは最後のフォローだ。この授業が純然たる学問であることを印象づけねば……)

 そう、学問ならば、どんなにえっちぃであり、18キーンまがいなことであっても許されるのだ。つまりは、学術のために使用される教材に、猥褻だ、破廉恥だとケチをつける人はそうそういないだろうし、それが亀井の狙いでもあったのである。
 亀井は再び、ポーカーフェイスで真面目な顔を作ると、赤奈の席に近づいて教科書を交換した。
「ん? 残り時間があと三分か、じゃあ、最後に問題を出そう。…作者が吸血で表している隠喩(メタファー)は何だと思う? 委員長は?」
「よくわかりません…」
 前かがみになっていて、苦しそうな様子の委員長。大丈夫だろうか。
「では、十弁華はどう思う? ドラクル役をやったからわかるだろう」
 亀井の言葉に大きく頷いて美弥は声をあげた。
「欲望に素直になろうってことですにゃ!!」
「う〜ん、似ているがちょっと違うな。天津は?」
 亀井が赤奈に話を振るが、答えはなかった。
 それもそのはず。
 赤奈はこのうえなく、ぼーっとしており、どっか別の世界に行っていたのである。なんだかとっても幸せそうだった。
「もう時間がないから、言うが、つまりは吸血はセックスのメタファーだ。よく言われていることだが、男性には女性を征服したいという欲望がある。吸血鬼はまさに、その欲望を表象していると言えるだろうな」

「ええ!?」

 赤奈が唐突に現実世界に戻ってきて、信じられないといった表情で亀井に視線を向ける。
 一気に注目の的になる赤奈。
「どうしたんだ? 天津?」
「えっと……その…吸血が……の…メタファーって…」
 信じれらなかったのだろう。そして思ってしまったのだ。
 いままで、さんざん姉にちゅ〜ちゅ〜せびったり、さらには他の人からも吸いたくなる自分って、
 もしかして超がつくほど、えっちぃな人なのだろうかと…。
 文学の世界と現実の世界を区別せずに考え、赤奈はぐわんぐわんと世界が回ったように感じていた。
 恥ずかしさと混乱の極みである。
「大丈夫か? 顔が赤いぞ」
「えっ? あっ、いや、なんでもないです…
あうぅ…ボクって、ボクって…
「さて、では今日の授業は終わりだ」
 うきうき気分で亀井は教材片手に、教室の外に退出していった。

(よし!! よしっ!! 美少女のスーパー萌えボイスを手に入れたぞぉぉ)

 そう、それが亀井の計画のすべてだったのだ。
 いまや、学校一の美少女ボイスを手に入れ、亀井はスキップしながら家に飛んで帰りたい気分である。
 しかし、そこはポーカーフェイスの達人だけのことはあって、外面上はきわめて規則正しい歩調で歩いていた。
 さすがである。

「先生」
「ん?」
 後ろからいきなり声がかかった。
「なんだ? 月光」
 陽子である。
 彼女は微笑を浮かべつつ、優雅な足取りで亀井との距離をつめていった。
「さすがに、生徒の声を勝手に録音するのはいただけませんわね」
「なっ! なんのことだ?」
 汗がぶわああっと背中や額から湧き出た。しかし、亀井のポーカーフェイスは崩れない。
「赤奈さんの声……録音したのでしょう?」
「ハハハ…そんなことするわけないじゃないか…」
 猛烈に乾いた笑いだった。砂漠だ…もはや砂漠の笑いだ。
 だが、亀井は最後の力を振り絞って、ポーカーフェイスを保つ。
「ともかく、俺は忙しいから、もう行くぞ」
 陽子の答えを待たずに、亀井は廊下を競歩の歩き方でどんどん進む。
 走ったら、自分が逃げているようで嫌だったのだ。
 かといって、歩いていたら追いつかれそう。そこで、ここは競歩しかなかった。しかし、傍目から見ると、ひどく不自然である。
「先生…」
 亀井の腕が突然、がっしりと捕まれた。亀井が腕に目を移すと、白くて細い腕がしっかりと亀井の腕を補足していた。
 見た目は、か弱そうな少女の手。しかし、なぜか振りほどくことができない。

(いつの間に横に…)

「今日はお天気がよろしいですわね」
「はあ? うん、まあな」
 よくわからない陽子の言葉に、亀井は怪訝そうな顔に一瞬浮かべた。
 だが、すぐに気を取り直すと、いつもの爽やか顔に戻る。
「こんな日には狐火にご用心くださいませ…」
「なんなんだ狐火って?」
「その名のとおりですわ」
 陽子はにこりと笑うと、すぐに踵を返し、教室に戻っていった。

(狐火? いったいなんのことを言ってるんだ? まあ、いい。ともあれバレなかったようだな)

「ん…煙……うわっち…あちちちっ、火が…っ!!」
 亀井の着ていた上着から、奇妙なことに煙があがっている。
 急いで、上着を脱ぎ、床に叩きつける。そうこうしている間にも、紫色の炎が上着を溶かし始めていた。
 廊下に出ていた生徒も騒ぎに気づき、急いで消火器がかけられたため、すぐに火は消え、大事には至らなかった。
「ああ、ボロボロだ…」
 亀井は力なく、廊下に座りこむと、見るも無残なボロボロの上着を手に取る。
「俺の計画の結晶が……いったい何故…」

 このあと、亀井は火の不始末の責任として、三日の謹慎処分を喰らってしまった。
 ちなみにあれだけ豪勢に燃えたにも関わらず、なぜか廊下には焦げ跡一つすら見つからなかったそうで、
 目撃していた生徒は首をひねるばかりであったらしい。

 一方、教室では

「あう・・・あう・・・あう・・・メタファー・・・血・・・吸う・・・エッチなボク・・・エッチなボク・・・」
「だああああ、さっきから、うっさいぞ。バカヤロー」
 健太郎がいきなり机から立ち上がると、赤奈に向かって、特大の大声で叫ぶ。
「あ
ごめん」
 しょんぼりなってしまった赤奈。そうなると、今度は美弥が黙っていない。
「ふざけんにゃ!! 健太郎のほうがうるさいにゃあああ!!!!」
「なんだと!! このバカ猫が!!」
「バカにバカって言われたくないにゃあ!!」
「おほほ
お二人とも、お元気ですわね。」
 取っ組み合いを始めそうな二人の間に割って入ったのは陽子だった。
「次の授業は体育ですわよ。遅れてしまいますわ」
「あ…そうだね。行こっ♪ 赤奈ちゃん」
「え
体育……体育だけはいやだぁ!!」
 ぶんぶんと頭を振って、拒否する赤奈。
 実はこれまでに何回か体育の授業があったのだが、更衣室での謎の出来事が悪夢のように甦ってきたのである。
 そんな赤奈とは対照的に、美弥は猛烈に嬉しそうな顔をして、赤奈を強引に引っ張っていく。
 ずりずりと、ひきづられている赤奈。涙目で『あう〜な状態』なのだが、美弥は前しか見ておらず、当然、抗議の声も届いていない。
「赤奈さんも大変ですこと
……
 陽子は微笑を浮かべつつすたすたと、赤奈達の後を追うのであった。

 詳細は次回を待つべし!!


 あとがきっぽいの
 微妙に自信がなくなってきました。お話しを続けていく自信はあるのですが、思い描いているラストに持っていけるのか
……(汗)
 自分で言うのもなんですが、壊れすぎですね。うーん、もっとハートフルな話にする予定だったのに。
 これから先、なんとかしていきたいな…。
 ラストはいただいた扉絵のように
……。感動的で壮大にしたいものです(^^;
 でも、『すでに無理なところまで来てるよ』と、闇の声が聞こえてくるのはなぜだろう。
 精進します。

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