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吸血姫的日常生活



第三話


〜初めての学校編〜


作:ノイン 絵師:HIKO

吸血姫


あらすじ

 いろいろあったような感じもするし、別にたいしたことなかったような気もする。ともかく、新米吸血姫の赤奈はいろいろと姉と母にもてあそばれました。(汗)あのときはちょっぴり、ナレーションもとい、作者も焦ったようです。さて、それはそれとして、今回は学校、しかもミッション系です。吸血鬼の弱点に対し、絶望的によわよわな赤奈はどうなることやら…





 ほろろんほろろんとやわらかな光を放つ太陽
 太陽の光は吸血鬼の弱点のひとつだ。純吸血鬼だったら一瞬のうちに灰になってしまう。
 赤奈も一応、ハーフ・ヴァンパイアであるため、若干のまぶしさを感じていた。
 とはいえ…
 太陽の光は赤奈に恐怖をもたらすわけではない。赤奈は元気に声を出して学校へ向かおうとしていた。

 が…

「待て……赤奈」
 ドアのところで、太陽の光にびくびくしている父親発見!!
「なに? お父さん」
 赤奈は怪訝に思いながらも、ドアのほうに歩みより父親に近づいた。
 見ると父親の手には、例の伝統的なマントがあった。伝統的であるはずなのに、なぜか赤奈の顔がアップリケとして中央にでんっと主張されているのは、あまりにシュールな気がしないでもない。
「こりを…着て…」
 太陽の光があたっちゃいそうな、ぎりぎりのところまで手を伸ばしソレを渡そうとする父、ブラックフォード
「え〜、いやだよ、そんな恥ずかしいの」
「吸血鬼…たるもの、どんなときでもマントを着るのが最低限の礼節だぞ、赤奈」
 冷や汗だらだら流しつつ言っても全然説得力がなかった。
 とはいえ、優しい赤奈はとりあえずマントを手に取り、形のうえだけでも羽織った。
(あとで脱げばいいや)
 さすがニホン人…優柔不断の四文字の中には『優しさ』が含まれているのだ。というか、赤奈は本当は日本人じゃないかもしんないが、そこらへんはつっこんじゃダメである。つっこまれたらナレーションは焦るだろう。
 というわけで、赤奈はにこやかに笑い、マントを羽織ったまま今度こそ学校へ向かい、歩みを進めようとした。

「待って、せきちゅわ〜ん」

 またもやって感じがしないでもないが…

 はあはあと鼻息が荒く目が血走った、やばめなキティちゃんが待ったをかけた。…姉、天子だ。
「どうしたの…お姉ちゃん」
 ちょっぴり引いた赤奈は上目づかいに天子を見た。破壊度抜群の精神攻撃である。
「むはぁぁ」
 赤奈を一目見て、天子はいきなり溜息のような妙な声を出した。

(ああっ、赤奈ちゃんの制服姿、かわういいっ!! くぁあいい!! てか、欲しい!!!!)

「せきちゃ〜ん」
「なっなに?」
 にじりにじり…
「せきちゃ〜ん」
「なんなのぉ」
 涙目の赤奈
「せきちゅわ〜ん」
「あわわ…」
「うふふふふ…せきちゃん、ほそ〜く♪」
 腰をがっしりと掴まれ、もはや赤奈は逃れられないアリ地獄の中のアリ状態である。

 だが、思わぬところから…赤奈にとっては救いが、そして天子にとっては邪魔が入った。
「おい、天子、前々から思っていたが、そのなんて言うか…度が過ぎるのではないか?」
 実は結構良識人なブラックフォードがおずおずといった調子で、天子を止めようとする。
 だが、それは触れてはいけないことであった。そう…それは飢えた虎の前におかれたご馳走を取り上げるという行為と同じくらい危険なことなのだ。

 ぐわしっっ


「おとうさ〜ん♪」
 天子は一応父親に当たる人物の腕をがっしりと掴んだ。
「え?」
 ブラックフォードは天子の顔を見た。
 これ以上ないぐらい笑顔である。
 そして、ブラックフォードは太陽の光がぴかぴかと反射されている玄関先に目を移し、その後、天子をもう一度見た。
 天子の視線の先は言うまでもあるまい…
「うそだよな…あはは、天子ちゃん、笑顔がまぶしいっっ♪ きゃは♪」
 もはや威厳のかけらすらない父親はひでぶ5秒前の雑魚キャラに似ている感があった…

 次の瞬間、天子の腕の力が倍加される。
 父は首を振っていやいやするが、天子のほうが力が強い。
 夜だったらまだ分があったかもしれないが、昼の力は死ぬほど弱いのだ。
「逝ってらっしゃい、お父さん♪」
「やみてぇ〜〜」
 天子はゆっくりと振りかぶって…
 投げた!!
 

ジュッバッッ♪


「さて、邪魔者もいなくなったことだし…」
 なぜか哀愁が漂っている灰を一瞥し、天子は涎をたらしつつ赤奈に目を移す。
「ぁぅ…お姉ちゃ……」
 あっと思った瞬間には、天子の唇に赤奈の口が塞がれていた。
 これも天子に言わせればスキンシップの範疇である。
 天子はそのまま、腰を抱え込むようにして赤奈を押し倒し、赤奈のうっすらと桜色をした唇の中に、とろとろとあま〜い唾液を流し込んだ。
「むぐむぐ…」
 赤奈の白い喉元がごくごくと、のどごし爽やか的な動きをしている(汗)
 姉の大きすぎる愛に赤奈の意識は、どことも知れぬ世界へバイバイしそうになっていた。
「ふう、そりでは…メインディっシュをいただきま〜す」
「おね…ちゃ…」
 赤奈はすでに立つ気力もない、ぽやーん顔になっちゃっている。
 天子はその顔を満足げに見つめたあと、そのまま赤奈の制服を脱がせにかかる。スキンシップというぐらいだから、肌と肌でというのが基本らしい。
 赤奈は朦朧とした意識の中で、天子のされるがままになっていた。
「赤奈ちゃん、柔らかいわ、なんだかおいしそう…」
 天子にキスされただけで、よくわからない感覚が赤奈の中に湧き上がる。
 しかも、天子の手が絶妙なタッチでさわさわと撫でていた。(どこを? とか聞いちゃダメ、多分上のほうだよ…)
 そのたびに、赤奈はエッチな声が出そうになるのを必死でこらえている。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 時に、自分で言っておいてなんだが、エッチな声ってなんだろう?
 それは相対性理論を理解するよりも難しい問題であった…
 ともあれ、これも、天子に言わせれば、おそらくスキンシップである。
 その後、天子は赤奈の白い素肌を…そのなんというか………で……堪能した…





 10分後
 なぜかそこらへんに脱ぎ散らかしてある制服をかき集めて、赤奈はもう一度着替えた。
「はふ…じゃあいってくるよ」
 そして、今度こそ、やっとこさ学校へ向かった。
 それにしても、足がふらついているのはなぜだろう…








 セント・ソフィア中学校

 名前のとおり、キリスト教の学校だ…とはいえ、お嬢様、おぼっちゃま学校というわけではない。私立の、一中学校にすぎないし、通っている生徒の学力もそこそこといった感じだ。公立とさほどの違いはないだろう。
 だが…そこはやはりミッション系、公立の学校にはないモノがある。
 赤奈の目が捉えているのは学校の校舎の一番てっぺんにある『それ』であった。  それは太陽の光を反射し、生徒達ひとりひとりに祝福を与えるがごとく、きらびやかな光を放っている。

 一名を除いて…

(あうう……十字架だよぉぉぉ)

 赤奈は泣きそうになるのを必死でこらえ、逃げるように校舎の中に入った。



 ところ変わって、教室の中

「天津くん、一週間も休んでどうししたのかなぁ」
 小柄でかわいらしい感じがする少女がひとりごちた。彼女の名前は十弁華美弥(じゅうべんか・みや)
 校則にひっかかりそうな黄色いリボンが特徴的だ。しかもそれは髪の毛の半分ぐらいを覆っているかなりでかいサイズであった…
 彼女は普段は底抜けに明るいのだが、ここのところ、なにやらアンニュイな感じである。その理由は…なぜだろう?…ナレーションには窺い知ることはできない。ともあれ美弥は机で頬杖をつきながら、力なく溜息をついているのであった。

 と、そこに声をかける少女が一人

「何を腐ったナメクジみたいな顔をしていらっしゃるのですか?」
 美弥の親友、月光陽子(つきひかり・ようこ)、女性にしてはかなりの長身で、165cmはある。腰の長さほどある水がしたたりそうなほどの黒髪が端正な顔と伴って、日本人女性の美というものを具現化しているように思われた。
 彼女の口調は、その容姿に見合った丁寧な日本語を使用しているのだが、なぜか毒舌な感じがしないでもない。
 だが、いつものことだったらしく、美弥は別段気にする様子もなく陽子に答えを返した。
「別に〜なんでもないよ…」
 リボンをさわりつつ力なく答える様は、どうひいき目に見てもいつもとは違っている。陽子はなにやらピンッとくるものがあったらしく、美弥の耳元でなにやら囁いた。とたんに机から飛び上がるようにして美弥は叫ぶ。
「違うにゃあ!!!!」
「あら、美弥さんは天津さんのことがお好きかと思いましたのに…」
「どうしてそうなるにゃ!!」
「…あらあら、美弥さんネコ語になってますわよ」
「うっ……」
 美弥はなぜかはわけわからんが、感情が高ぶったときに、『にゃ言葉』になってしまうのだ。いや、もうほんとにわけわからん…
 美弥は蛇にじわじわと絞め殺されるような圧迫感とともに、冷や汗が滝のように流れるおちるのを感じた。
「隠さなくてもよろしいのに…」
「ほんとに違うにゃあ!!!!」
 それにしても何が違うのだろうか…

 と、そこへ男子生徒が二人
「ああああ…赤哉くんはほんとにどうしたんだろうなぁ? 心配だぁ 心配だぁ!!」
 一人目の男が言った。名は双樹健太郎(そうじゅけんたろう)と言う。
 見た目はカッコマンって感じがしないでもない。しかもかなりの長身で180cmほどはある。だが、頭抱えながら、うろたえているその姿は『情けない』の一言に尽きた。彼は見た目とは裏腹に、繊細な心の持ち主なのかもしんない。
 …というのはうそで、実は赤哉に色狂っているだけである。なんというか、非常に言いにくいのだが、赤哉は男だったときから、女の子っぽい顔だちで、しかも華奢な身体つきをしていたため、ちらほらとイケナイ世界に迷い込んでしまう人もいたのだ。
 そして、隣につったっていた男子生徒は、やれやれとでも言いたげに小さく嘆息をついた。彼の名前は狩場逼冶(かりばひつじ)。ひょろりんとした体型とは裏腹に結構なタフガイである。『精神的には』という注釈がつくのだが…それは内緒である。まあ世の中にはむちゃくちゃ精神的に弱い吸血鬼がいるので、それよりかはだいぶんマシなような気がしないでもなかった。

「おいっ、美弥!!」
 健太郎が目をぴかりんと光らせながら美弥に向かって叫んだ。
「何?」
 またか…そう思った美弥は半ばあきらめ顔で短くそう言った。
「赤哉くんが帰ってきても、貴様にはやらん」
「はぁ?」
「あああ…赤哉くん、かむばぁ〜っく!!!」
 ついに健太郎は泣き出した。
「健太郎くん、あんたは男にゃ!!! 男のくせに赤哉くんが好きなんて変態にゃ!!」
「うるさ〜い!! 俺は世界の中心でアイを叫びたい気分なんだよ!! ああ、赤哉くんの激プリティな顔を早く見たい」
「はふ…ここまで、クレイジーマインドの持ち主だとは思わなかったよ…」
「お前は…赤哉くんを否定しるのか…ゆるさんぞ、きさ〜ん!!」
 健太郎はもはやロレツもまわってない、ぶちきれた声で叫んだ。
 赤哉のことを持ち出されて、美弥もとたんに語気が弱くなる。
「いや…赤哉くんは、そりゃ…かわいかったけどさ…」
 ちょっぴり赤くなる美弥、その様子を見て健太郎はにやりと笑い頷く。
「そうだろ、そうだろ、赤哉くん万歳(マンセー)万歳(マンセー)!! 赤哉くんファンクラブの名誉副会長の座をきさんにやろう、もちろん会長は俺だがな…HAHAHAHAHAHA」
「はあ…なんでこうなるんだろ…」



 二人がそんな微笑ましいライバル合戦をしている時、逼冶は陽子に果敢にアタック(?)していた。
「まったく健のやつはアホですね、陽子さん」
「おほほ、そんなことを言うものじゃありませんよ。狩場さん」
(よし、陽子さんが笑っている、チャンスだ)
 逼冶はポケットの中にある、遊園地へのチケットを堅く握り締めた。
「陽子さん、次の日曜日に…」  そこまで言って、逼冶は気づいた。いつのまにか和平条約を結んだ美弥と健太郎が成り行きを見守っていたのだ。ていうか、どっかの家政婦よろしく、好奇心まるだしであった。
「次の日曜日がどうかしたのですか?」
「いや…晴れるといいですね…あはは…」
 逼冶はチケットから手を離し、カワヒタワラヒを浮かべた。






 ガラッ…

 教室のドアが開かれ、20代後半ぐらいのまだまだ若い女性が入ってきた。
 何を隠そう、このクラスの担任教師、駒村恵(こまむらめぐみ)である。
 生徒達はおのおのの席に戻り、先生を改めて見つめた。
 いわゆる、むちむちバディというやつだ。男子生徒はやーらしい眼差しを、女子生徒は羨望の眼差しを送り、先生の言葉を待った。

「みなさ〜ん、悲しいお知らせがあります。天津赤哉くんは、虎殺しの資格を取るために南米に行ってしまいました」
 ここは幼稚園かと勘違いしそうな、どうしようもなく頭の回転が遅そうな口調である。
 だが、むちむちバディだからと言っても無知無知なわけではない…(すまん親父ギャグだ…)
 彼女は生徒を愛するあまり、超絶的にあま〜い声になってしまうのだ。生徒もそこらへんは了解しているらしい。

 まあ、先生のことはとりあえず置いといて…

「なんだってぇぇぇぇ!!!!!」
 がたーんと大きな声を出して、立ち上がる生徒が一人…言うまでもなく健太郎
「うそ…」
 信じられない様子の美弥、今にも泣き出しそうな様子である。
「南米に虎っていたかしら?」
 冷静な陽子、てか、虎殺しという資格があるのかどうかも危うい…
「陽子さんの横顔は美しいなぁ〜」
 全然関係ないことを考えている逼冶

 ざわつく教室が静かになるのを待って、先生は続けた。
「天津くんが離ればなれになったのは悲しいですが、永遠に会えなくなったわけではありません。天津くんの夢をみなさんで応援しましょう」
 目の中に星が見えた。まぶしいぐらいにきらきらと輝いている。その怪しい光に生徒の大半は同じく、きらきらを目の中に生息させ、赤哉の夢の達成を願った。友情って美しい。愛って素晴らしい。

 ひとしきり心の補完がなされたあと先生は続ける。
「今日はもうひとつだけみなさんにお知らせがあります。ええっと、天津さんのお母様からお手紙をいただいたので読み上げますね」
 ひとしきり間を置いたあと恵先生は一気に、そうほんとに一気に読み上げはじめる。

「本日はお日柄もよく……(省略)というわけで、赤哉の従兄弟のはとこのおじさんの甥っ子の姪っ子がお世話になっている病院の娘さんが恋をした向かい隣の男性の飼っている猫と近所の猫から生まれた三毛猫をたまたま拾ったおじいさんの孫にあたる赤奈ちゃんをよろしくお願いします」
 クラスの90パーセントが?であった。
 残り10パーセントは、魂が抜けかけている健太郎と美弥、そして冷静沈着な陽子、陽子をむさぼるように見ている逼冶である。
「先生、よくわからなかったのですが…」
 クラスのまじめな生徒Aがおずおずと手を上げた。
 恵先生は頬に手をあてて、困った顔を浮かべる。
「では、もう一度説明しますね。赤哉くんの従兄弟のはとこのおじさんの甥っ子の…」

 2クール目終了

「先生…ありがとうございました…」
 生徒Aの頭からは煙がでていた。
「ともかく、会ってみましょうね、みなさ〜ん、拍手、拍手」
 先生の圧倒的なバイタリティに半ば圧倒されつつも、生徒達は拍手した。
 パチパチパチパチパチ…
 パチパチパチパチ…
 パチパチパチ…
 パチパチ…
 パチ…
 …
 …
「?」
 一向に現れる気配がない。
 それもそのはず、赤奈は教室の外で恥ずかしさのあまり固まっていたのだ。
 恵先生はにこやかに笑って、赤奈の手を引く。
「先生、恥ずかしいです」
「大丈夫よ、赤奈さん、ほら」
 恵先生は赤奈を壇上に立たせた。
 赤奈が教室を見てみると、懐かしい顔ぶれが…っていうのは一週間しか経ってないからそれほどなかったが、ともかくひさしぶりのクラスメートに会えた喜びからか、赤奈はいつのまにやらにっこりと微笑んでいた。

「うをぉぉぉぉ〜可愛い」
 リビドー全開な男子生徒…
 これは赤奈が、スーパー美少女であることを考えれると至極当然な反応であった。
 普通こうなると、女子生徒としてはおもしろくないはずである。だが、今回ばかりはちょいと違っていた。

『モナリザコンプレックス』

 女性には先天的によく見られたいという欲望がある。それは男性であっても存在するが、どちらかといえば、やはり女性のほうが強い。
 というわけで、猫をかぶっていた場合、見分ける能力があるのもまた女性の方が強いのである。
 その点、赤奈は純粋だった、というか、何も考えていなかったという説もある。
 話が長ったらしくなってしまったが…つまり、女子生徒達が赤奈に抱いた感想…
 それは一言こう言い表されるものだった…

かあいい♪


 保護欲と母性本能をくすぐってしまう、赤奈のしぐさがどうやら女子生徒にヒットしたらしい。
「さあ、自己紹介をしてね」
 赤奈は恵先生の言葉に、無言で頷く。顔を真っ赤にしてうつむいている姿は、アッチの世界に逝く人を確実に増加させていた。しかも性別を問わないからタチが悪い。
「ぁぅ…あの……」

「「「「「「かわいい〜〜」」」」」」」
 一言喋っただけでこれだ。
 赤奈は超真っ赤になった顔のまま、たどたどしく続ける。
「天津赤奈です。よろ…しくお願いします…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一瞬の静寂…



 そして、すぐさま教室は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
「かわいいよ、赤奈ちゃん」「ファンクラブ作るよ〜」「お姉ちゃんといいことしましょ」「俺の彼女になってくれ〜」
「姫様みたい…」「赤奈ちゃんマンセー」「ぜひ、フィギュアの型どりをしたい…」「人拓とりたひ♪」「魂捧げます」
 揃いもそろって、この教室は変態の宝庫だった。
 そりゃもう、つっこむ気力も失せるほどだ。
 意外にも冷静なのは、美弥、健太郎、陽子、逼冶の四人である。美弥と健太郎は赤哉がいなくなり、激しょんぼり状態であったため、赤奈のことが目に入っていなかったのだ。そして、陽子は冷静であるため、何を考えているかは伺い知ることができない。どうでもいいことだが、逼冶はやっぱり陽子のことばっかりを見ていたため、赤奈のことなんか知ったこっちゃなかった。

「さて、それじゃあ、赤奈さんはそこの席に座ってくださいね」
「はい…」
 恵先生が指差した席は窓側の端っこの席だ。前に美弥と陽子が…そして隣に健太郎がいる。なんとも素敵な席であった。
 ちなみに逼冶の席は健太郎を挟んで、赤奈の席の反対側である。

 つかつか…

 赤奈が歩く。ただそれだけの動作のはずなのに、なぜかクラスのほとんどがそれを見守っていた。

 と、一瞬、何もないところで赤奈が転びそうになり、「あっ!」と短い声があがる。
 よろけながらも、なんとか体勢を立て直し、バツが悪くなった赤奈は頭をぽりぽりと掻いた。

 クラスの半数が逝く…

 自分の席の前に到着
「ボクの席はここでいいんですか?」
 赤奈は確認のために尋ねた。
 とたんに、教室からざわめきが復活する…
 どうやらボクという言葉はNGワードだったらしい。

 クラスの65%が精神世界へ旅立った。

 ともあれ、赤奈は椅子を軽く引き
「よいしょ」という小さな声とともに腰を落ち着ける。
 たったそれだけのことなのに…

 クラスの80%が帰らぬ人となった。

 恐るべき萌え力…ある意味、霊力や魔力よりも凄いかもしれない…
「あの…よろしくね…」
 赤奈は健太郎に声をかけた。
 健太郎は前々から変態だった。しかしそれはそれ、大事なお友達である。
 正体をバラすわけにはいかないが、もう一度友達になれればいいなと赤奈は思っていたのだ。
 しかし、そんな赤奈の願いもむなしく、健太郎は机につっぷして、なにやらぶつぶつと呟いている。
「あの……」
「赤哉くんが…赤哉くんが…赤哉くんが…」
「もしもし?」
「赤哉くんが…赤哉くんが…赤哉くんが…」
「ねえってば…」
「赤哉くんが…赤哉くんが…赤哉くんが…」
「健太郎くん!!」
「ああん?」
 名前を呼ばれて、ついに健太郎は声のした方向を見た。
(だれだ、こいつ?)
 そりゃ、そうだろう。いきなり見知らぬ少女から名前を呼ばれたのだから。

 それから健太郎はあることに気づき、唐突に奇声を発した。
「あ〜〜〜!! 貴様、勝手に赤哉くんの席に座りやがって、立て、いますぐ立て!!」
「えっ? えっ?」
「ここは赤哉くんの席なんだよ!!! 神聖な席に軽々しく座わるな!!」
「だって…ここボクの…」
 赤奈は涙目になりながら抗議するが、健太郎はさらに捲くし立てる。
「ああ、赤哉くんの隣の席という花園はもうここにはないのか…女、貴様のせいだ!!」
 そこまで言って、健太郎はクラスの様子がおかしいことに気づいた。
 クラスの90%から、超”じと目”をくらっていたのだ。
「最低…」
「ごみ…」
「生命失格…」
「逝ってこい」
「厨房くん」
「あとでカタに…」
「体育館の裏ですまき…」
「つるし…」
「人間てるてる坊主に…」
 クラス中から次々と非難の声があがる。しかもちらほらとやばめな会話も含まれているようだ。(汗)
 生命の危機を感じた健太郎は、さすがにそれ以上言う気は失せた。

 一方、赤奈はショックを受けていた。
 赤奈が赤哉だったときは、健太郎はむちゃくちゃ甘々だったのに
 何かよくわからない理由で猛烈に非難され、混乱の極みにあったのである。
 その涙でうるうるなっている姿もまた、可愛さを倍加させているのはさすがとしか言いようがない。

「お気になさらないほうがよろしいですよ、天津さん」
 陽子が後ろを振り返りつつ、声をかける。
「あっ、うん、ありがとう。月光さん」
「あら、なぜ、わたくしの名前をご存知なのです?」
「えっ(汗)」

(そうだった、ボクはみんなの名前を知らない設定だった)

 赤奈は焦りつつも、なんとか理由を考える。
「先生が教えてくれた時に覚えたんだよ」
「あら? そうですか…」
 陽子はふと、怪訝な表情を浮かべるが、次の瞬間には微笑を作り前を向いた。

(ふう、なんとかバレなかったみたい)

 やれやれといった感じで、赤奈はやっと一息つくことができたのである。







 一時間目は数学だった…数学なんて、たいしたことない。
 赤奈はこう見えて、結構勉強ができるのだ。












 と、思っていたのは大間違いだった。
 その理由は、あまりにもアホらしいものである。

(あう…プラスの記号が…プラスの記号が…十字架だよぉぉぉ〜)

 おかげで、全然黒板が見れなかった。ちなみにこの程度は、普通の吸血鬼であればなんともない。弱点に対する精神的弱さが、普通の吸血鬼の比でない赤奈だからこそ生じる事態である。なんとも哀れであった。

(どうしよう、どうしよう、このままじゃ不良だと思われちゃうよ)

 赤奈はシャープペンシルを握り締めたまま、固まっている。

(おりゃ、うえぇぇぇ〜ん、やっぱりだめだよぉ)

 何度も何度もトライする、赤奈
 だが、やっぱり克服するのは無理なようであった。

(無理だよ…怖いもん…よくわからないけど、怖いの)

 どうしようもない…
 赤奈があきらめかけたその時
 赤奈の目の前にいる、美弥が首を頬づえをつきながら、授業を見ているのに気づき、
 天啓のごときひらめきが、赤奈の脳内に再生される。
(そうだ、頭を傾ければいいんだ)
 気づいたら、即実行♪ 赤奈は首を45度ほど傾け、黒板を見た。
 成功か?!












(あう〜 掛けるの記号が…掛けるの記号がぁ)
 失敗…
 そう、首を45度傾けると、『×』が『+』に見えてしまうのだ。まったくもってアホらしい、大いなる誤算であった。

 だが、この考えを応用した、『首を35度傾けますよ作戦』がうまくいき、赤奈はなんとか数学の授業を突破したのである。  





なんだか馬鹿ばっかり




 数学の授業が終わり、休み時間
「ふえ〜ん、首が痛いよ」
 首をさすりさすりする赤奈
 一時間近くも首を傾けていたのだから、当たり前と言えば当たり前である。

 その姿を見て、クラスのみんなは生唾ごっくんである。
 しかし、なぜか赤奈に近づくものはいなかった。
 理由は簡単、ただいま水面下では、なんともかんとも窺い知ることができない牽制がなされており、うっかり赤奈に近づこうものなら、あとですまきにされて、ぼろ雑巾のように打ち捨てられるに決まっているからだ。
 そんな状況下で、赤奈はちょっぴり孤独を感じ、さびしそうな顔をしていた。

(((((癒してあげたい))))
 クラスのほとんどは、そう思ったのだが、いかんせん、ぎりぎりのテンションで引っ張り合っているため、誰も動けないのだ。

 と、そこに声をかける人物が一人、クラスの中で数少ない冷静な頭の持ち主、月光陽子である。
 陽子はクラスの中でも、孤高の存在というか、超然としているため、誰も異を唱えることはなかった。
「天津さん」
「ん? はい」
 声を掛けられて、笑顔になっちゃっている赤奈
「昼休みに、学校を案内しましょうか?」
「うん、お願いするよ」

(友達になれるといいな)
 赤奈はそう思い快諾した。
 陽子は隣でふさぎこんでいる美弥にも話しかける。
「な〜に、陽子ちゃん?」
「お昼休みに天津さんに学校を案内しませんか?」

 美弥は『天津』という言葉にピクリと反応し、赤奈を初めてまじまじと見つめた。
 とたんに顔が赤くなる。
「あの…よろしくね。十弁華さん」
 赤奈の差し出した手を握り締めると、美弥はさらに顔を赤くする。
 え〜っと、何が起こっているのか、わからないと思うので、美弥マインドの中に潜入してみよう。
(うわあ、何このコ、激プリじゃない…あああ、赤哉くんも可愛かったけど、このコも可愛い。ああん、声も可愛い、うわっ、すべすべな手…ずっと撫で撫でしたい………って…そんな、もしかして私って…私って…違う!! 違うもん!! 私はただ、可愛らしくて羨ましかっただけだもん…うんうん。そうだよ。ああ〜、でも凄く可愛い)
 変態さんの中身はやっぱりよくわからないかもしんない…

「あの…十弁華さん?」
「にゃ!?」
 いつのまにやら結構時間が経ってたらしい。美弥は慌てて手を離した。
「もちろん、いいよ。それと赤奈ちゃん、私のことは美弥って呼んでね」
「私のことも陽子でよろしいですわ」
「うん、わかった。よろしくね、ボクのことは赤奈でいいよ」
 赤奈の快心の笑みに…

 クラスの92.5%が魂を奪われた

 それで、あっと言う間に昼休み
 美弥と陽子が椅子を赤奈の席の方に向け座る。一緒に食べるのが基本であった。
 ちなみにクラスのほとんどがそれを見て、あつ〜い溜息をついているのはさらに基本中の基本であったりする。
 そんなクラスの様子に気づくことなく、赤奈はいそいそとお弁当箱を開ける。この中学校は弁当を持参するか、購買部で買うしかないのだ。
 かぽっ…
 中を覗いて絶句する赤奈

(あああ〜!! お母さんひどいよ〜)

 弁当の中には、白いご飯にラブリーな赤奈の顔が、黒ゴマやら、ふりかけやらを使って、器用に描かれていたのだ。
 作るだけで相当の時間を有しただろうことが予想される。
「ああ、赤奈ちゃんのおべんとって可愛いね、食べたいな(赤奈ちゃんを…)」
「えっ? うんいいよ」
 真っ赤になりながらも、赤奈はお弁当を美弥に差し出す。
「どれにしようかな…(赤奈ちゃん…がいいな…)」
 迷ったあげくになんとなく選んだのは、ミートボール♪ 美弥は丸い形が好きなのだ。
「美弥さんは、ほんとに丸いのがお好きなのですね。まるで猫みたいですわ」
 陽子が優雅に食べながら、美弥に言った。
「ぶっ!! 違うにゃ!!」
 あと一瞬遅ければ、赤奈か陽子にミートボールの原形物質をぶちまけることになっただろう。
 単純に運がよかった。

 約10分後、昼食を食べ終わった赤奈
「それでは行きましょうか」
「行こう、赤奈ちゃん」
「うん、わかった」
 というわけで、ただいま赤奈は案内され中である。
 通っていた学校だからあんまり意味ないかもしれないが…

「ここが、保健室だよ、赤奈ちゃん」
「うっうん」
「元気がないときはここのベッドを使えばいいよ、寝心地を試してみる?」
「あ…いいよ。別に」
「そう…(ちっ、添い寝が……って、私って、やっぱりそうなの? いや、違う、違うもん)」
「ありがとね、美弥ちゃん」
「いいんだよ、さっ次に行こう」
 さっきの元気のなさはどこへやら…美弥は赤奈の手をさりげなく引いて、次々と案内する。
「美弥さん、元気になりましたね。発情した猫みたいですわ」
「なっ、何を言うにゃ!!」
 トマトちゃんであった…

 次は図書室前
「ここが…図書館だよ、人が全然いないのが特徴なの(赤奈ちゃんとここで…)」
「ふーん、ほんとだ、全然誰もいないね」
 そう言って、にこりと笑った赤奈を見て、美弥の理性の糸がぷっつりいきそうになる。
「さ、さあ行こうか(ああ、もう…)」
「うん」
「ふふ、美弥さんも素直じゃありませんね…」



 キーんコーンカーンコーン
 次の授業の五分前に鳴る予鈴が鳴った。
 昼休みもあと少しで終わる。
「だいたいわかりましたか? 赤奈さん」
「え、うん…わかったよ…」
「あれ? どうしたの? 赤奈ちゃん」
 見ると、赤奈は落ち着きがなかった。実は今日は朝にトイレに行ったっきり、一度も行っておらず、ちょっぴり限界が近かったのだ。
「あっ…ちょっとトイレ…」
「あっ、じゃあ、私も行こうかな」
 美弥がリボンをいじくりまわしつつ、赤奈のあとに従う。
 陽子も無言のままトイレに向かう。
 赤奈がトイレを使用できなかったわけは、女の子のトイレに入るという行為に対し、罪悪感に近い感情が湧き上がってしまうということもあったのだが……それともう一つ…
 赤奈は鏡に映らないのだ。当然トイレの手洗い場にある鏡にも映らず…大問題であったのだ。
「あっ…ごめん、ボクいろいろと用事があったんだ」
 赤奈は焦りながらも、猛烈にダッシュした…

(教員用のトイレ…教員用のトイレ)

 そこには人の出入りが少ない。
 猛烈な勢いでトイレに駆け込み、なんとか赤奈は事なきを得た。
 えっ? 事があったらどうなるのかって? それは知らないほうがいいだろう。

(ううう…明日からどうすればいいんだろう、生徒用女子トイレにはいつも誰かはいるし…)

 というわけで、赤奈は猛烈に落ち込みつつ、教室に戻った。
「赤奈ちゃん、どうしたの? いきなり走ったりして」
「うん…いろいろあってね」
「そうなんだ(癒してあげたい、癒してあげたい、癒してあげたい)」
 美弥は表面上は冷静を装っているが、もうあと少しで理性が消し飛びそうになっており、赤奈に抱きつきたいという欲望と必死に闘っていた。
「美弥さん、無理はいけませんよ」
「にゃにゃ…別に無理してないにゃ」
「ふふ、まあいいですけど」
「?」
 美弥と陽子の、深いか浅いかよくわからない会話を赤奈はまったく理解することができなかった。
 まあ、ともあれ、午後の授業は何事もなく終わった。
 授業中に健太郎が赤奈を思いっきり睨み付けていたような気もするが、それは完全な余談である。

 んで、下校時
「ねえねえ、赤奈ちゃんってどこに住んでいるの?」
 美弥が赤奈に猛烈に迫る。クラスの他のものもさりげなく聞き耳をたてた。
「うん……赤哉くんのうちに住んでいるよ

(うーん、自分の名前を『くん』づけして言うのって結構恥ずかしいな)

「へえ、赤哉くんの家に住んでいるんだぁ」
 美弥としては微妙なところなはずだ。だが、目の前の赤奈がどうしようもなく赤くなっているのを見ると、そんなことはどうでもよくなってくる。

 そのとき、横から、叫ぶもの一人、しつこい健太郎くん
「おまい!! ついには赤哉くんの家にまで侵入したのか、ゆるされん。ゆるされんぞおう」
 もう、どうしようもない、ぶっ壊れた日本語である。まあ、それはそれとして、赤奈は精神的には結構弱気なところがあるので、そう言われても何も言い返せず、代わりと言ってはなんだが、美弥がぶちきれた。

「この変態、何で赤奈ちゃんが怒られなきゃいけないにゃ!!」
「うっさい、うっさい、この女が悪いんだぁ!!」
 健太郎は赤奈をビシリと指さし、こぶしに力をこめ、わなわなと振るわせた。
 クラスの連中は今は赤奈がいる手前何もせずに見守っているが、既に健太郎の言動にぶちぎれている。
「赤奈ちゃんも、こいつに何か言ってやるにゃ!!」
 美弥の言葉に、無言のまま頷く赤奈。健太郎に強く言うのは気がひけるが、自分の意見ぐらいは言っておくべきだと思い、赤奈は健太郎の目をまっすぐに見つめる。
「ボクは…別に何もしてないよ」
 短いのはしょうがないとして(しかもちょっぴり小声だった)、それが、さらに健太郎を激昂させる。
「きさ〜ん!!、お前がいるから赤哉くんがいなくなっちゃったんだよ〜」
 意外に鋭い健太郎の言葉。赤奈は今の自分が否定されている気がし、ついに泣き出してしまった。
「うっ、うっ、ひどいよ、健太郎くん…」

((((((コロス)))))))注。←はクラスの心の声

 ちーん、健太郎の死亡が確定した…
 さすがに、健太郎もこれには驚き、なんとかフォローしようとする。だが、もともと口べたな彼は気の利いたことを言えるはずもなく…
「いや…あの…その…」
 こんな感じである。

 おろおろとするだけの健太郎を放っておいて、美弥が赤奈の肩に優しく手をかけた。
「よしよし、泣かないで赤奈ちゃん、あんなゴミのことなんて放っておきましょ(あああ、役得、役得)」
 …
 …
 赤奈は泣き止んだ。いつのまにやら人垣ができてしまっているのは何故だろうか…
 恥ずかしくなって、赤奈は体温が急上昇。穴があったら入りたい気分とはこのことだろう。いや、穴がなくても掘ってでも入りたい気分かもしれない。
「おい…その…」
 まごまごしている健太郎が赤奈の肩に手をかけた。
(((((((((軽々しく手ぇ、かけんなああ!!!))))))))←しつこいようだがクラスの心の声、しかも女子含む
「うん…?」
「その…悪かった…」
「ううん、別にいいよ」
 にこやかに笑う赤奈、その顔を見て、健太郎は少しだけ胸が高鳴ったような気がしたとかしなかったとか…
 ともあれクラスの連中は、それによって殺意が少しだけ減少し、健太郎の死は免れた。
 単純に運がよかった…のか?(汗)




 やっとこさ…赤奈は家に到着
 今日一日だけでへとへとに疲れていた。
「ああん…もう疲れたよぉ」
「あら…おかえりなさい」
「あっ、お母さん……ひとつ困ったことが…」
 赤奈はトイレを使用できなかったことを母に話した。
 と、母、智子は納得顔を作った。
「それは困ったわねえ…」
「うん…」
「お父さんを起こしてみましょう…なんかいろいろ持っているから、あの人」



 父の部屋…まだ日が高いため、分厚いカーテンが締め切ってあり、日の光を防いでいる。
 すぐさま、智子が部屋の電気をつける。
 赤奈はあんまり父の部屋に入ったことはなかったので、ちょっぴり興味が沸いていた。
 なにやらわけのわからない、へんてこりんなもので部屋は占領されている。普通なものと言えば、ちょっとした年代物の机ぐらいである。
 それで、智子は違和感ばりばりな物体の前に近づいた。
 そう…棺おけである。よくわからないが縦に置いてある。眠りにくそうな感じがしないでもない…

 こんこん…
「入ってますかぁ〜」
 アホな台詞を吐く母
「…入ってま〜す」
 返す、父
 このふたり、なんだかんだ言って、結構仲がよいのかもしれない。

 がたん……重々しい音がして、棺おけの蓋が開いていく。
 なんだか緊張してしまう、赤奈

 どきどき

 ゆったりとした動きで手が覗きだし、棺おけのふたに手をかける。

 どきどきどきどき

 ガタン…!!

 びくっ!!

「ふわ〜、よく寝た、よく寝た」
 ホラー映画とは違い現実はこんなもんである。
「ふう…」
 なんだか、ちょっぴり怖かった赤奈でありました。



吸血姫 挿絵3 「それで…どうしたのだ?」
 なんだかとっても仰々しい椅子に座りつつ、ブラックフォードは問う。
「鏡に映らなくて困ったらしいわ」
「うん、そうなんだ」
「ふむ…それだったら…なにやら…我が家に伝わっていたアイテムをくすねてきた覚えがあるな…」
「えっ…あるの?」
 くすねてという言葉はこの際聞かなかったことにして、赤奈は希望に満ち満ちた顔で父の言葉を待った。
「ちょっと待ってろ」
 ブラックフォードは部屋の奥に置いてある、どう見ても、がらくたにしか見えない物の山の中から、小さな箱を取り出した。
「なに…これ?」
「うむ、これは……」
「これは?」
「なんだっけ?」
 思わずずっこけそうになるのをこらえ、赤奈は箱を開けた。「これは…髪飾り?」
 そう、それはコウモリ型の小さな髪飾りだった。濃い赤が血の色に似ていなくもない。
「ともあれ、これをつければ、姿見に映るそうだ」
「どうして、そうなるの?」
「うーん、わからん…ただ、これもレーア様が着けていた物だったはずだ」
「そう…まあいいや、ありがと、お父さん」
「よかったわね。せきちゃん」
「うん」  ともあれ、これでなんとか赤奈は、トイレに行けるようになったのだった。
 吸血鬼にとっては伝説級のアイテムを使って…
 笑顔を爆発させている赤奈がそんなことに気づいてないのは、まあどうでもいいことである。







 やっとこさ、学校編終了…さてさて、次からは少しストーリーを動かし、日常生活っぽくなくなるかもしれません。ともあれ、ちょっと長めになってしまいましたね…こんなとこまで読んでくださり、さんくすです。さてさて、そろそろ次ぐらいから、『姫』様っぽくしていきましょうかね…うーん、次回はまだ無理かもしれません。あと二回ぐらいすれば…ともあれ次回もまた変態っぽい感じになると思いますが、軽〜く読んでやってください。それでは〜♪

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