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吸血姫的日常生活

生誕編


作:ノイン




 この作品はジャージレッドさんの妖精的日常生活に多大なインスピレーションをうけて書いた作品です。そこでジャージレッドさんに許可をいただき、このタイトルをつけることにしました。雰囲気的には妖精的日常生活に近づくように努力しました。しかしギャグが少し強いかなと思います。楽しんでいただければ幸いと思っております。



 日本は名古屋近郊、なんの変哲もない普通の少年がいた。

 その少年、名を天津赤哉(あまつせきや)という、ミッション系(キリスト教)の学校に通う中学二年生である。今日も彼はいつものように遅刻ぎりぎりになるまで惰眠をむさぼっていた。そして彼の母親である、天津智子(あまつともこ)が彼を起こす為に階段の下から二階の部屋に向かって声を張り上げた。これがいつもの天津家の風景、日常生活である。
 が、物語も始まったばかりだというのに、彼をとりまく日常生活はもろくも崩れさろうとしていた…

「そろそろ、起きないと学校に遅れるわよ。」

「う〜ん、もうちょっと寝かせて、ZZZ。」

 彼の声は男の子にしてはやけに可愛らしい声だったが、寝ぼけている為に彼がそれに気づくことはなかった。ちなみに小声だったので智子にも聞こえなかった。

 やがて痺れを切らした智子が二階の彼の部屋に登ってきた。そして智子は大きく息を吸い込み、割れんばかりの声で叫んだ

「起きなさぁ〜い…ってあなたどなた?」

 叫んでいる途中で、赤哉のベッドに寝ているのが、見知らぬ女の子であると気づき驚きの声をあげる智子

「どうしたの?お母さん。ふわぁ、ねむぅい。」

 そう言うとその少女はまたまどろみの中に意識を落とそうとした

 しかし、智子は少女の肩を無理やりひっ掴むと豪勢にがくがくと揺すりながら一気にまくし立てる

「あなた誰?もしかして、せきちゃんの彼女?彼女でベッド、ってあなた。せきちゃんはまだ中学生よ早すぎるわ。しかもあなたも見たところ中学生じゃない。不純異性交遊はだめよ。わかった、わかった!?」

 なにが早いのかはよくわからないが、ともかくそれで少女の意識は一気に覚醒した。しかしちょっと揺すられ方がひどかったらしく、気持ち悪そうである。

「うぷっ、どうしたの、お母さん?」

「母さん?、私はあなたのお母さんじゃないわよ。はっまさかお義母さんなの。この年でお婆ちゃんはいやぁ〜」

 智子は突然わけわからんことをのたまい始めた

「なに言ってるんだよ?ボクは天津赤哉、お母さんの息子じゃないか。」

 目をごしごしとこすりながら、彼女は起きた。すでにお気づきだとは思うが、彼女は天津赤哉その人であった。

「本当にせきちゃんなの?」

 怪訝そうな表情を浮かべながら智子が尋ねる

「ふわぁ、そうだよ。」  おねむな表情で赤哉は答えた。

「ちょっと自分の身体を見てみなさい。」

 目の前の少女が赤哉であるとは、おおよそ信じられなかったが、口調が赤哉と同じだったので、もしやと思い智子は言った。

 じい〜

 自分の身体を見てみる赤哉

 ぺたぺた

 次に身体を触ってみる赤哉

 そして、赤哉はすう〜っと大きく息を吸い込んだ、そして、ためた、ためた、ためにためた。

「ボクのアレぐわぁぁあああ〜」

 赤哉の意味不明な声が天津家に木霊した…



「ははは、母さんの息子じゃなくなっちゃったや、だってムスコがないもの…」

 赤哉はさっきから茫然自失としていて、なにやらぶつぶつ呟いていた

「じゃあ、本当にせきちゃんなのね?」

 智子はもう一度確認した

「そうだよ…どうしてこんなことに…」

「うーん、なんとなく想像はつくけど。もしかして…」

「もしかして?」

「ちょっとこっちに来なさい。」

 智子は赤哉の手を無理やり引いて、智子の部屋にある鏡の前に立たした。

 さて、ついにTSお約束が…

「これがボクって、映ってない!!なんで?」

 来ることはなかった

 目の前の鏡はなぜか赤哉の背後にある風景を映すばかりで、なぜか彼女自身は映ってなかったのである。

「やっぱりね。」

「やっぱりってなんなんだよ。」

「いままでの話は全部聞いていたぞ、説明しようではないか。」

 いきなり登場したのは、赤哉の父、天津・ブラックフォードである。この人なぜか、いつ何時も黒いマントをはおっており(内側は赤地)、タキシードを着ているという、怪しさ大爆発な人物である。

「何?」

「実はな。」

「うん?」

「父さんは吸血鬼だったんだ。だからお前も吸血鬼だ。」

「そう吸血鬼だったの、ってえぇぇぇぇ〜〜〜〜〜。

 おもっいっきりコントのような反応をする赤哉、解説を加えればこれは別に変な反応ではない、普通『私が吸血鬼です』と言われても普通の人はまったく信じないだろうが、目の前に鏡に映らないという事実があるので驚きが後から来たのだ

「どうだ驚いたか。」

「驚いたよ、じゃあその吸血鬼ルックもやっぱり吸血鬼だから?」

 赤哉は父親の怪しすぎる格好を指差しながら言った。

「これは趣味だ」

「そ、そうなんだ…」

 即答する父に赤哉は聞かなきゃよかったと思った。しかし気を取り直して

「でも、そうだとしてもなんで女の子になってるんだろ?」と聞いた

「わからん。」

 これまた即答である。

「あほな父親はほっときましょ。私が解説するわ。」

 智子は冷たい目をブラックフォードに向けた、いきなり震えだすブラックフォード、彼は智子にまったく頭が上がらないのだ。

「これは仮説だけど、せきちゃんの身体の中で魔力の質が何らかの形で変わったのだと思うわ。今までは天使の力が強かったのだけど、今はほとんど魔力が感じられないから…」

「天使ってまさか…」

「そうよ、私は天使、正確には人間と天使のハーフよ。」

 なんということか、赤哉は吸血鬼の父とハーフエンジェルの母を両親に持っていたのだ。そして赤哉は自分が親の正体に14年間も気づかなかったあほさ加減と、とんでもない家族構成に軽い眩暈を覚えた。

 だが、智子はそんな赤哉を放置してさらに続ける

「それで、おそらくは吸血鬼の力が覚醒して、身体の方も吸血鬼の方にシフトしてしまったんじゃないかと思うの。」

「シフト?」

「そう、天使の霊力と吸血鬼の魔力っていうのはまったくの反属性だから、いつもせきちゃんの身体の中で綱引きをしているのよ。それが今は吸血鬼の側にずれたのだと思うわ。」

「それでなんで…?」

「つまりは吸血鬼の魔力が覚醒する事でいままで天使の力で抑えられてきた形質が現れたってことね、せきちゃんが可愛い女の子になって嬉しいわ。」

「全然わからない…」

 赤哉は智子のコアな話にまったくといっていいほど置いてきぼりだった。おそらく頭の中では、ハムスターが車輪の中で回っているに違いない。つまりは空回りってことだ。

「しかし、智子の霊力はケルビム級、全天のなかで第一階級のセラフには及ばないが第二階級だぞ、吸血鬼の魔力で抑えられるものなのか?」

 いままで黙って聞いていたブラックフォードが智子に疑問をぶつけた

「たしかにうだつのあがらない、へたれ吸血鬼が親じゃ無理ね。はっきり言って謎だわ。」

「そっそんな…俺だって俺だってこう見えてもいいとこの坊ちゃんだったんだぞ。」

 智子のあんまりな一言にブラックフォードはだ〜っと涙を流しながら抗弁した。しかし智子はそんなブラックフォードを歯牙にもかけずにひたすら目の前でもじもじしている美少女を至福顔で見つめているのであった。



「しかし、自分の姿が見れないのは困ったわね、TS萌えのお約束ができないじゃない。」

 智子は憤慨した様子で言い捨てた。

 智子が言ったTSとはトランス・セクシャルの略称で、いわゆるTS萌えとは男→女と変化してしまった男の子の恥じらうしぐさや姿に萌えるという奇特な嗜好のことである。

 ちなみにお約束とは、さっきも赤哉が言いかけたが「これがボク?」と言う事である。なぜ彼女(それとも彼?)がその台詞を言いかけたのかは永遠の謎としておこう。

「どうしよう、鏡に映らないなんて。」

 赤哉はさっきからがっくりとうなだれている、彼は結構ネガティブな思考の持ち主であった。

「大丈夫だぞ、赤哉、魔力を集中させれば鏡に映ることも可能だ。見てろ。」

 鏡の前に、におうだちするブラックフォード

 そして彼はいきなり奇声を発した

「URYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAA」

 鏡の中にぼんやりとブラックフォードの姿が映りだす、それを見て、更に彼は声を大きくした。

「おおうあふぁあもふぁあああああぉっふぁあ」

 鏡に一瞬だけブラックフォードの姿が映り、すぐに掻き消えた。そして彼は生も魂も尽き果てたがごとく、肩で大きく息をしていた

「ぜいぜい、どっどうだ。見えただろう。」

「うん、見えたよ…」

 あほらしすぎて何も言えんかった。

「あなた。」

「ぜーはーぜーはー、なんだ?智子。」

「ちょっとこっち来て♪」

「な、なんだ、なんだ?」

 智子はにこやかな顔をしながら、じたばたともがくブラックフォードの首根っこをひっ掴み隣の部屋に連れて行った。そして…

 しーん

 しーん

 しーん

 しーん、まさに嵐の前の静けさ…

「ぎゃあああああああああああ。」

 隣の部屋からの謎の絶叫が響いてくる

 赤哉はただただ滝のような汗を流しながら、父の断末魔っぽい叫びから耳をふさぐしかなかった。

 10分後、晴れ晴れとした顔で智子は隣の部屋から出てきた

「お父さんはそ、その、どう?」

 どう聞けばいいのかわからず抽象的問いかけをする赤哉、しかし智子はそれですべてを悟ったらしくすぐに答えを返した。

「あっちの部屋で寝てるわよ、すごく眠たいって言ってたから3日は起きないと思うわ♪」

「そ、そう…」

 それ以上はなにも言えなくなる赤哉、彼女は心の中で父の冥福を祈ったのでありました。

「ところでこんなものを見つけたわ。」

 それは美しい装飾品によって飾りたてられている丸い円の形をした鏡であった。

「なにそれ?」

「これは○ーの鏡よ、昔、太陽神様にいただいたの。」

「へっ?」

「これは真実の姿を映し出すのよ。」

「もしかしてさ…」

「な〜に?」

「○のなかに入るのはラ行の一番最初の語?」

「そうよ♪」

 赤哉の謎の問いかけに、にこやかに笑って答える智子、そして鏡を赤哉に向けた

「これがボク?」

 やっとこさお約束を果たした赤哉、そして彼女は頬をりんごのようにまっかにして俯いた。

 なぜかとは言うまでもない、目の前に映っているのはとびきりの美少女だったのだ。もともと赤哉は男の時から整った顔だちをしていて、友達からは女顔と言われていたのだが、今はそれを遥かに越えて、比べ物にならないくらい可愛らしい顔だちをしていた。髪の毛は漆黒の闇を思わせ、それが肌のミルクのような白さとコントラストをなし美しく。目の色は涼しげなダークグリーンをしていて神秘さをかもしだしていた。最後に吸血鬼のお約束ということで八重歯がちょこんと見えたのも可愛いらしい。ともかくぶっちぎりの美少女だった。

「どう、可愛いでしょ?」

 と智子が聞く

「え、あ、うん…」

 まっかである

 とその時

「どうしたの、お母さん、朝から絶叫が3回も聞こえたけど?」

 赤哉の部屋に20歳ぐらいの女性が入ってきた。彼女は赤哉の姉で、名を天子(てんこ)と言う。彼女は生活が不規則な大学生なので、いままで寝ていてようやく起き出して来たというわけだ

「うわっお姉ちゃん!!」

 赤哉はびっくりして思わず大声をあげた、それというのも、彼女は極度のブラコンで、抱きつきやキスはもちろんのこと、事あるごとに一緒にお風呂に入ろうとしたり、果てはベッドの中にもぐりこんできたりと、ともかく彼にとって特Aクラスの危険人物であったのだ。

「だれ、この子?まさか、せきちゃんの彼女、嫌ぁぁ〜〜、せきちゃんの初めてはお姉ちゃんが貰おうと思ってたのに!!」

 親娘そろって勘違いな人たちである、それにしても「初めてを貰う」とはどういう意味だろうか?書初めした半紙でも貰うということなのだろうか?まったくもって不可解な言動である。まあそれはそれとして天子の勘違いを智子が訂正した。

「違うわよ、この子がせきちゃんなの。」

「えっ?この子がせきちゃんなの?」

 驚きと疑問の入り混じった声で天子は尋ねた

「そうよ、この子はせきちゃん。」

 智子はびしっと指差しながら言い放った

「確かに、霊力も魔力もほとんど感じられないけど、かすかに残る霊力の残り香はせきちゃんのものだわ。本当にせきちゃんなの?」

「本当だよ、なんで女の子になってるかはわかんないけど。」

 で、赤哉はまたまた恥ずかしくなってひたすら俯いた。

 これがいけなかった。その俯くしぐさは天子の中の萌え萌え中枢神経に働きかけ、さらには目の前の美少女が愛する弟だという思考が連結され、彼女のミジンコの涙ほどの理性は簡単に崩壊してしまったのだ、まあ、ぶっちゃけて言えば欲情したってことである。

「そうなんだ、せきちゃん、可愛くなったね…うふふ。」

「えっえっ、お姉ちゃん、待って、なんか怖いよ。」

 イッちゃってる目でじりじり迫る天子の迫力に押され、赤哉は後ずさりした。

 だが悲しいことに突然後ろから母親にがしっと肩を掴まれ固定されてしまった。ものすごい力でとてもじゃないが振りほどけない。これがいわゆる、前門の虎、後門のお上という状態である。

「いやぁ、お姉ちゃん、やめっ、お母さんもそんなとこ揉まないでぇ〜」

「そそるわ♪」

「ふふふ♪」

 赤哉の可愛らしい抵抗の声は二人をさらに助長させたのであった。むごい…

 10分後…

「うっうっ、舌が入ってきたよぅ。」

 なぜか泣き崩れている赤哉と満足顔の二人の姿があった。ナニがあったのかはご想像におまかせする。



「それにしても、吸血鬼になっちゃったってことはいろいろ体質が変わってるんじゃない?」

 天子が智子に尋ねた、それは赤哉も気になっていたことなので耳を傾けた。

「そうね、吸血鬼はこの世でもっとも弱点が多い種族だから…でも、せきちゃんはハーフだから、本当のところはどうなのか試してみないといけないわね。」

「そうね、でもせきちゃんに危険な事はさせられないわ。」

「ちょうど、いい実験台がいるわよ、隣の部屋に♪」

 その部屋はカーテンが閉めきってあり、やけに薄暗い部屋だった。  そしてなぜか父はその部屋の中央で椅子に縛り付けられていた。しかもご丁寧に猿ぐつわまで噛まされている。…椅子の下に血だまりができているように見えるのは薄暗いせいだと思いたい。

「もがう、もがあ」

 なにやらうめいているが理解できない。

「さて、せきちゃん、あなた吸血鬼の特質を全部知ってる?」

 智子が赤哉に質問した。しばらく考えた後、赤哉が答える

「え〜っと、たしか、十字架に弱くて、ニンニクが苦手で、太陽光線に弱いってことぐらいかな。あっあと血を吸うって事も特質かな。」

 自信なさそうに赤哉が言った。それを受けて天子が足らない部分を列挙する

「他にもあるわよ、例えば、豆のような小さなものが地面にあると数えずにはいられない、聖堂には入れない、銀製品に弱い、聖水でやけどする、流れ水を渡れない。」

「あとは鏡に映らない…、これはさっき確かめたわね。では実際にはどうなるのか、教えてあげるわ♪」

 智子は本当に天使なのかと疑われてもしかたないほどの邪悪な顔をして十字架をとりだした。とたんに青ざめるブラックフォード、しかしもっと強烈な反応をした人物がいた、赤哉である。彼女は十字架を見た瞬間にその場にうずくまってしまったのだ。これは智子も予想してなかったので心配して駆け寄った。

「大丈夫?どうしたの?」

「十字架…」

「えっ?」

「だから十字架怖いの。」

 赤哉はぷるぷると震えながら、十字架を指差した。そして智子はあわてて十字架をポケットに入れる

「大丈夫よ、せきちゃんにはなんにもしないから。」

 智子は優しい声で諭すように言った。

「違う違うよ、そうじゃなくて、感覚的に怖いの。」

「感覚的?」

「うん、なんだか全長30cmのゴキブリを見たような気分だったよ。すごく怖かった…」

 赤哉は涙目になりながら、なんとか言葉を絞りだす。それが二人のなにかに痛烈にヒットしたらしく、赤哉はぎゅうっっっと20分ぐらいの間抱きしめられることとなった。その間、ブラックフォードは流れ出る血に意識が朦朧となりかけて、あっちの世界から招待状がきていたという



「もう落ち着いた?」

「うん、もう大丈夫だよ。」

 えへへと、はにかみながら赤哉は言った

「せきちゃん、このまま危険かどうかもわからないままじゃ逆に怖いでしょ、ともかく、どのくらい危険なのかを知っておく必要があるわ。」

「わかったよ。我慢する。」

 しかし、実験台は目の前の父親である、本当にいいのだろうか?

「まぁむぅめげー」

 彼は必死に椅子をぎっこんばったんさせながら逃走を試みている、なんだかとっても憐れである。しかし、所詮は逃げられるはずもなく、智子の手に握られた十字架は彼に徐々に近づいていく

 ―接触―

 じゅぅぅぅぅぅ

「ぐみゅ〜ぅぅぅ、まぐげげぇ、まぐげげぇ!!」

「う〜んお肉の焼けるいい匂い♪」

 天子はちょっぴり外道な言葉を唇に乗せた。ちなみに憐れなモルモットは口をまるで金魚のようにパクパクさせていた。目は腐った魚のごとしである。

「どう、こうなるのよ。」

 智子はにこりと笑って振り返る、そして赤哉は天子の背中にしがみつきながら、智子の手に握られた十字架を見ないようにして言った。

「十字架ってそうなるんだ…怖いな。」

「どうしようか、ちょびっとだけ指先で触ってみる?」

「うん、どうなるかわからないままの方が怖いから。」

 赤哉は十字架に恐る恐る手を伸ばした。ちなみに今でも全長30cmのゴキブリが目の前にいる感覚なのだ。震える手がそれを表している。そして

 ―接触―

 しーん

 指先で確かに触ったはずなのに、まったくヤケドしなかった

「どういうことかしら?」

「さあ?、とりあえず次行ってみよう。」

 ドリフのような口調で天子が次に持ってきたのは小さなビンに入れられた水、すなわち聖水だった。

「これは聖水よ。教会でもらってきたの。一応、私クリスチャンだからね。」

 そう言うと、いきなり中の水を原液のまま、ブラックフォードにぶっかけた

「もぐやめげ〜、みんげみぎゃう〜」

 じゅぅぅぅぅぅ

 このシーンは、はっきり言って描写できない、別の意味で18禁である。まああえて一言で表せば、一皮むけてよかったね、と言ったところか…

「聖水はこのように、吸血鬼にとっては強酸と同じなのよ♪」

「こんなの試したら死んじゃうよ。」

 怯えた声で赤哉は言った。

「大丈夫、普通の水で薄めれば危険はないわ、それで少しずつ濃ゆくしていって、どこまで大丈夫か確かめましょう。」

 どうでもいいが、さっき父親に聖水を原液でぶっかけたのはちょっぴりおちゃめな乙女心であったことを付け加えておこう。

 それから、数十分の間、少しずつ、コップの中に少しずつ聖水をたらして試した結果、これまた身体的には大丈夫であるとわかった。

「ちなみに聖水は怖いの?」

 天子が尋ねる

「うん、やっぱり怖い、十字架ほどじゃないけど本当の強酸に触るような感覚だったよ。」

「そう…じゃ最後に太陽光線について調べましょ、これが一番重要よね。」

 智子はさっとカーテンを開けた。赤哉は危険かもしれないので天子の後ろに隠れている

 ブラックフォードはおもいっきり首を振りながら、いやいやするのだが、智子はそんなのお構いなしである。それで

「まぐぇっ…」

 彼は太陽の光が当たった瞬間に灰になった…

「お父さん!!」

「大丈夫よ、1日も放っておけば元に戻るわ。」

「そ、そうなの…」

 吸血鬼は結構常識を超えているらしい。

「さあ、これで少しは軽減されるわよ、やけどしても私が魔法で治してあげるから大丈夫よ。」

 智子は薄地のカーテンで光が直接当たらないようにして、赤哉に手をだすように言った。

 そろりそろりと手をだす赤哉

 そして今度も大丈夫だった。

「う〜ん、太陽光線も大丈夫みたいね、よかったわ。ところで感覚的にはどう?」

 智子が赤哉に聞いた

「すごくまぶしい。」

「そうなのしかたないわね、でもなんで身体的にはほとんど大丈夫だけど精神的には普通の吸血鬼よりもひどいのかしら?」

「多分、魔力のせいじゃない?」

 と、天子が言う

「おそらくそうね。」

「一体どういうこと?」

「つまり、吸血鬼にとって、十字架や聖水、その他もろもろの弱点というのは魔力に比例して、精神的な抵抗力がつくのよ。でも、せきちゃんはさっきも言ったとおり、魔力と霊力が綱引きしているでしょ。今はほんのちょっぴり吸血鬼側だけど魔力はほとんどゼロに近い状態なのよ。だから精神的にとっても弱いわけね。」

「身体のほうが大丈夫なのはなんで?」

「それは体質の問題よ、せきちゃんは天使の子でもあるから、吸血鬼に対する神の罰も軽減されているのだと思うわ。」

 神の罰…灰になってる父をちらりと見ながら、赤哉は恐怖した。

「まあ、ともかく身体的に大丈夫なら問題ないわ、あとは精神的に克服していけばいいだけだから。」

 智子の言葉に赤哉は一応納得した、だがちょっと自信がなさそうでもあった。



それから約20分後

「お母さん、お姉ちゃん。」

「「なあに?(はーと)」」

「なんで女の子の服なの?」

 なぜかはまったくわからないが、赤哉はいわゆる、「スカート」なるものを無理やり着させられていた。智子によればこれもTSのお約束らしい。

「そんなのかわいいからに決まっているでしょ。可愛い女の子は可愛い服装を着る、世の理、神の摂理よ。」

 天子はそう言うと、いきなりスカートの中に手を入れた

「ひゃう。なにするの、お姉ちゃん。」

「ああ、可愛い、可愛すぎる。」

「お母さんも参加していいかしら?」

「あう、やめっ、あんっ…」

 赤哉はまたもおもちゃにされてしまった…



「はあ、はあ、ところでさ、学校どうしようか…今の学校には行けないよね…」

 なんか疲れた様子で、赤哉は言った。

「当然、今通ってる学校に行くべきよ。」

 天子が主張した

「でも、こんな女の子になってるんだよ、違う学校に転校したほうがいいんじゃ。」

「それはだめよ!!」

 今度は智子が叫んだ

「えっなんで?」

「親友萌えとか、女友達にばれてしまって遊ばれるとかがなくなっちゃうじゃない、そんなことじゃ真のTSマスターにはなれないわよ!!」

 拳を握りながら力説する智子に、赤哉はそんなもんになりたくないと心の中で叫んだ。心の中でというのが、彼女の優しさであり、弱さでもある、でもって別の論点で攻めてみた

「でもさ、肝心なこと忘れてない、ボクが通ってる『セントソフィア中学校』はミッション系の学校なんだよ。」

「だからこそよ、はやいうちに克服してた方がいいに決まってるわ。」

「そんな。でも…」

「決定よ。」

「はい…」

 10秒とたたないうちに彼の主張は夢となって消えた。

 そして智子と天子の二人は赤哉をまったく無視して相談を始めている

「せきちゃんの新しい名前が必要ね。」

「そうね、どんなのがいいかな、今の名前に近いのがいいわね。」

「赤奈(せきな)ちゃんなんてどうかしら。」

 智子が天子に聞く

「いいわね、それにしよう♪いいわね、赤奈ちゃん?」

 一応「?」がついているが、それには有無をいわせぬ迫力があった。

「いいよ。」

 憂いをたたえた目で彼女は呟いた。

 こうして、彼女の波乱万丈な人生は始まった。多分これからもっと苦労しそうな予感がするのも気のせいではないかもしんない。

 追記、父親が復活したのは30時間後だったらしい






こんにちは、初投稿になる、ノインです。この作品は、ジャージレッドさんの妖精的日常生活の妖精が可愛いのは弱点があるからだ。だったら弱点が多い吸血鬼を主人公にしてみたらどうだろうという超短絡的な考えから書き始めたものです。ジャージレッドさんの作品の足元どころか地中深くに潜行してしまっているぐらい、及ばない作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。ちなみに続きを書くかは未定です。一応ラストまで考えてますが。

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