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「お昼のニュースです。政府発表の人口白書によりますと、今年三月の調査による我が国の総人口は、およそ九千八百六十二万人で五年前の調査よりも七パーセントばかり減少し、一時期ほどではないにしろ人口の減少は続いています。またそのうち男性は七千とび十二万人、女性が二千八百五十万人で、男女比のバランスの崩れに歯止めは掛かったものの、改善までには至っていないと締めくくっています。さらに若年層の十代、二十代では、男女比はおよそ三対一となっており、政府は、この状況を引き続き危機的と認識して今国会で、国家再生法の一部修正案を審議するものとみられます・・・・・」
「続いてのニュースです。国立人口開発センター研究部は、男性の肉体的女性化の分野に置いて新技術の開発に成功したとのことです。同広報部によれば、この技術を利用することによって従来約四週間程度かかっていた肉体的な転換の期間が大幅に短縮され、適性にもよりますが一週間から十日ほどでの女性化が可能になるとのこと。精神的な転換の迅速化はこれからの課題となりますが、政府はこの新方式によって男女比の改善が進むのではないかと大きな期待を寄せています・・・・・」

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<第一章>

 黒板に文字を綴る教師。雨の午後の授業は続いている。
(こりゃあ、今日は筋トレだけだな)南 明はボヤッと外を見ていた。別にそんなに部活に燃えているわけではないが、グランドが使えなくて室内練習だけというのは鬱陶しい。
(この際、サボるかな・・・・)彼は思う。高校も二年になって、テストばかりが増えている。成績が悪い者は半強制的にセンターへ送られるというのは公然の秘密であった。彼も決して成績が良い方ではなかったが、それほど悪くもない。そのためにあくせく勉強するのもイヤだったが、鬱陶しい練習のための練習をするのもあまりいい気はしない。
 とにかく、今の自分たちにはゆとりがなさすぎる、と彼は思うのだ。青春真っ只中というのに、恐怖感に煽られて勉強ばかりをしなくてはならない。自分たちの将来の夢など語る暇すらないのが、彼らの現実だった。


 キーンコーンカーンコーン・・・・授業は終わった。
 部活の連中に見つからないように、そそくさと教室を出る明。さっさと靴を履き替え、校舎を後にする。外へ出てしまえばこっちのものだと言わんばかりに、彼は傘をさして校門を後にした。
「あら、明君じゃない」
 傘をさしたまま明が振り返る。校門を出てほんの何十メートルかしたところ、聞き覚えのあるようなないような女の子の声が彼を呼び止めた。
「ごめん、誰ちゃん、だっけ?」思わず訪ねる明。見覚えがあるような気はするのだが、どうもはっきりと思い出せない。
「ふふ、誰だと思う?」女の子らしい赤い傘を差した彼女は、微笑みながら質問を返す。
 明の記憶では、彼を名前で呼ぶ女の子はいない。それどころか、女子校の制服を着ているような女の子の知り合いもいないはずだった。
「・・・・ごめん、わからない」明は正直に答えた。ところが・・・
「でしょうね・・・・」彼女は、あっさりと彼の反応を肯定したのだ。
「え!?」意表をつかれる明。どう考えても「失礼ね!」とでも言われると思ったのだ。「私、北原よ。北原 透。今では、北原 澄恵」
「ええ!?」明は、今度は本当に驚いた。透は彼の友人の一人だった。成績は決して悪くはなく、むしろ良かったはずだ。確かにここ一ヶ月ほど会わなかったが、それは単にお互い時間が無いだけだと思っていた。
「驚いているの?そうよね・・・・でもせっかくだから、少しいっしょに歩かない?」


 雨の遊歩道を、傘をさして歩く二人。端から見たら、今時珍しい高校生同士のカップルに見えないこともなかった。学校教育が小学校から男子と女子に完全に分離されて以来、かつてはよく見かけられたこんな風景も、今はほとんど見られない。
「嘘だろ、北原が処置を受けるなんて」
 明の知っている限りでは、透ほどの成績なら、自分で希望する以外はまず女性化されることはない。
「そうね・・・でもね、ある日気付いたの。私、実は女に生まれるべきだったんじゃないかなって」
「え?」
 彼は思いだしていた。去年の今頃、生徒全員が催眠テストを受けさせられた。その時透と明は、共に適性Cだったはずだった。その結果を見せあい、爆笑したのを覚えている。
 まだ真新しい澄恵のブラウスには、下着の線が透けていた。
「そう思ってから、私はずっと悩んで・・・人生は一度だけだし。そう思って、サインしたの」
「じゃあやっぱり自分で・・・」
 基本的に、自ら女性化を希望する場合、保護者の同意が必要とはいえ未成年者でも処置を受けることができる。どちらかといえば奨励されていると言った方が正しいかもしれない。子供が処置を受ける家庭には、奨励金も支払われる。
「ええ、学校で申請したわ。次の日にはセンターへ行って・・・三日ほど前から学校に通い始めたの」
「・・・・・」
 明は、かなりの衝撃を受けていた。
 かつて彼らは、彼らが女になったら誰もに男のままでいさせた方が良かったと言われるほど、男が寄りつかないような女になるだろう、と爆笑したのである。そんな透が、自ら申請して転換処置を受けるなどということは、明にとって太陽が西から昇るぐらい信じがたい事だった。しかも彼女は、明の思うところ人並み以上に可愛らしい。
「いいわよ、女子校は。あくせくしてなくて。中山君と、丸山君、いたでしょ?あの二人ももうじきこっちに来るらしいわ。きっと二人とも、私なんかよりずっと可愛い子になるんでしょうね。でも私、女になって、なんかしっくりした気がするの」
 明は、もう何も言わなかった。
「じゃあね。また、会いましょう」
「ああ」
 生返事をして、明は彼女と別れた。


 いつの間にか、雨はやんでいた。
 どこをどう歩いたのか、気がつくと明は学校の裏側を一人で歩いていた。結局、自分には学校以外に気の休まる場所が無いのかもしれないと彼は思った。部活も、練習の間は漠然とした不安感を忘れることができる。
「おい」またも呼び止められる明。今度は、男の声だ。彼は何となくホッとした。
「見たぞ。あの女とは関わり合いにならない方が身のためだ」
 振り返る明。
 高田 弘と芝山 雄一。成績は良いが少々素行に問題があり、教員たちを悩ませている二人だ。
「どういう意味?」明は思わず訊いた。
「おまえも知ってるはずだが、北原はいい奴だった。でも今はあっちへいっちまった」
「依田と高崎も、俺たちには信じられないがあっちへいっちまった」
「ちょっと待ってくれ、何が何だか・・・・」混乱する明。彼らは一体何を言いたいのか明にはよくわからなかった。
「ここで何かが起きているんだ」別の声がした。ゆっくりと姿を現す彼。
「丸山と中山が、ここ数日の間に相次いで消えた。そのうち丸山が最後に目撃されたのは、生物学室の前だ」
 藤谷 博之は、少し深刻な顔をして言った。彼はこの、いわゆるアウトロー系の少年たちのリーダー格だ。
「それが、なにか?」
「生物学室には、本山がいる。奴はセンターの窓口だ」
 本山とは、生物学の教師で、校内では校長に次ぐ権力を持つ。その背景には、大物の政治家がいるというのがもっぱらの噂だ。事実、この学校で転換処置申請を担当しているのも彼である。
(中山君と、丸山君・・・)澄恵の言葉を思い出す明。
「そういえば、彼女、その二人ももうじきこっちへ来るって・・・・」
 明の言葉に、顔を見合わせる三人。
「やはりな・・・・」口を開いたのは藤谷だ。
「一月ほど前、北原は消える前に一日欠席した。その次の日、やはり奴を目撃したのは」
「まさか・・・生物学室の前・・・・」明は思わずつぶやいた。
「そのとおり。俺たちはその空白の一日の間に奴に何かがあったと見ている。そして、他の連中も・・・」
「一体何が?」
「それはわからない。だが本山が関係しているのは確かだ。俺たちは、密かにそれを探っているんだ」
「なぜ、それを俺に?」疑問を口にする明。
「北原がよく言っていた。おまえはいい奴だとな。あの女に会ったことは忘れろ。俺たちの忠告だ。それと、ここでのこともな」


「なんだ・・・おまえたち・・・」芝山の周りを囲む少女たち。彼女たちは一様に妖しい微笑みを浮かべている。
「なんだ、って・・・私よ、浩一よ」その中の一人が、進み出る。
「違う!おまえは依田じゃない」
「中山さんも、北原さんもいるわ」
 中山 香織と北原 澄恵が進み出る。
「俺を・・・どうするつもりだ」
 少女たちは、ゆっくりと芝山に絡みつくように彼を押さえつけた。
「別に、何もしないわ。ただ、こっちに来て欲しいだけ」
「そう。私たちの仲間に入れてあげる」
「あなたもすぐに理解できるわ。時代が、求めているの。あなたも私たちみたいに女の子になるべきなのよ」
「や・・やめろ・・・」
 高崎 千江が、芝山の首にスタンガンを当てる。
 ビビ!
「ウッ!」
 芝山は、気を失った。
「じゃ、先生、あとは・・・」
「ああ。気を付けて帰れよ」男の声がする。
「はーい!」
 少女たちが散っていく。男が合図すると、さらに数人の男が現れ、芝山 雄一を運んでいった。


<第二章>

 相変わらず、鬱陶しい天気と授業が続いている。明も相変わらず授業を適当に聞き流しながら、憂鬱な日々を過ごしている。
「おい、南!」
「は、はい!」
「何をボケッとしているんだ。この問題、解けるな」
「いえ、ま、その・・・・」明はしどろもどろになった。黒板に書かれた問題が解けない。
「困った奴だ。後で数学科室まで来たまえ」
「はーい・・・」明はとぼけた声で返事をした。
 ハハハ・・・教室のみんなが笑う。
「他の奴も同じだぞ。まったく、わからない奴と今ここで授業を聞きたくない奴は数学科室へ来い。心行くまで補習を付けてやる」
 数学科の西原は、諭すような顔で言った。


 その放課後・・・
 明は、その西原に呼び出されたので数学科室へ向かっていた。西原は、生徒に自分の授業を無理矢理にでも理解させることに情熱を燃やしている男である。彼自身は、それを教える方の義務だと思っているらしい。
 数学科室は、校舎と校舎の谷間にある。暗い廊下を通って行かねばならぬのだ。
 その暗い廊下には、もう一つ、生物学室がある。
 明が通りがかったその時、そこから、誰かが出てきた。
「や、やあ」挨拶するそいつ。それは、芝山だった。
「なんだ、呼び出しか?」明は、冗談めかして言った。彼もまた補習か何かを受けに来たのだろうかと明は思った。
「いえ、ちょっと・・・」
「何だよ・・・」少し様子のおかしい芝山を、明はからかってみたくなった。もしかしたら、赤点かなにかを取ったのかもしれない。
「実はね」明は、目が点になった。芝山は、間違ってもこんな言葉遣いはしない。
「実は?」
「今、転換処置の申請をしてきたんだ」
「え?」今度は本当に耳を疑う明。
「僕、やっぱり男でいるのは間違ってる。だから、今からでも女になって、本当の人生を生きるんだ」
 唖然とする明。そんな明をよそに、じゃあ、と言い残して芝山は立ち去っていった。


 補習が終わり、明は西原の大熱弁大会からようやく解放された。
 補習とはいっても、半分は説教のようなものである。西原は、基本的に政府の国家再生政策には反対らしい。従って、彼の授業を理解できないのをきっかけにセンターに送られる者だけは出したくないのだということを言っていた。
 数学科室を出て、再び生物学室の前の暗い廊下を通る。
 人の気配を感じて振り向く明。そこに、高田 弘が立っていた。
「芝山が、やられた」高田は、一言そう呟いた。
「ああ、知ってるよ」明も答える。
「一緒に来ないか、南。今からここに忍び込む」高田は、親指で生物学室を指した。


「良く見つけたな、こんな所」
「ああ。俺、ボイラー室のおっさんと仲良くてな。建築に興味があるからとか言って、空調の配管の図面見せて貰ったんだ」
 狭苦しい排気管の中を進む二人。やがて、排気口の一つが見えてきた。
「あったあった、あれが生物学室の排気口」ゆっくりと進んでいく二人。排気口から明かりが漏れている。
「シっ。誰かいる」
「どれどれ」
 教員らしい男二人の話し声が聞こえてくる。
「・・・・・・から、少し早いんじゃ」
「いや・・・・遅すぎ・・・・」
「今のうちに・・・・成績が・・」
「・・・しかし・・・今月中に」
「あと四人・・・・そっち・・」
「・・・・毎日でも・・・・だが・・・」
「この方式・・・試験的・・・」
「・・・・データは・・・・特別に・・・」
 聞き耳を立てる高田と明。やがて男たちは、話が終わったのか電気を消して部屋から出ていった。
「よし、降りてみるか・・・・」排気口の蓋を外す高田。
「お、おい・・・」明も慌てて後を追う。
 二人は生物学室に降り立った。
「ったく、服が真っ白けっけ」体中についた埃を払う高田。
「片方は本山だったけど、もう片方は誰かな?」明に聞いているのか独り言なのか、つぶやく高田。そういいながら彼はおもむろに本山の机を漁っていった。
「忍び込んだはともかくあれじゃ何言ってんのかわかんねえよ」
「このディスク・・・」見つけたのは明だった。ラベルに、「転換処置申請関係」と張られている。
「よっしゃ。ちょっと見てみるか」おもむろにコンピュータのスイッチを入れる高田。
「お、おい・・・・」明には、少し罪悪感があった。やっていることは泥棒と同じだ。
 そんな明を無視して、高田はコンピュータにディスクを挿入する。画面にいろいろなデータが表示されていく。
「依田 浩一、北原 透、黒崎 耕助、高崎 祐介、中山 重明、丸山 秀夫・・・・」
 高田が読み上げたのは、「先月度申請者」の蘭に書かれた名前だった。
「先月だけで十人か・・・・それも決して成績順じゃないぞ、これ」
 疑問の声を上げる高田。続いて、「今月度」いう表示をクリックする。
 再び一覧表が表示される。
「三田村 清、牧部 秀彦、芝山 雄一・・・」そこまでで、高田の声は止まった。
「どうした?」振り返り画面をのぞき込む明。高田が読み上げた三人目までは「申請済」蘭にチェックが入っている。そして、四人目のところには・・・・
「高田 弘・・・・」自分の名前を、恐る恐る読み上げる高田。
「どういうことだよ・・・これ・・・」
 高田の下にも、二つほど名前がある。それぞれそこそこの成績で、決して女性化適性も高くはないと思われる名前だった。
「次は俺ってことかよ・・・・」怯えた表情を見せる高田。
「まあ、落ち着けよ」明は高田を落ち着かせようとしたが、高田は完全に怯えきっている。
「出よう」強制的に電源を落とす明。彼は高田を引っ張るようにして生物学室を出た。


「俺、どうしたらいいんだよ・・・・」高田は、完全にパニックに陥っていた。
「どうもこうも、おまえ、自分でサインする気はないんだろ?なら」なだめる明。
「そんなこと・・・雄一が自分でサインする気があったと思うか?」
「急にふと思い立ったのかもしれないじゃないか」
「じゃあ、あのリストの俺の名前は」
「・・・・・・」明は、何も答えることができない。彼自身、まったく意味が理解できないのだ。
「俺も、女にならなきゃなんねえっていうのかよ・・・・」
「落ち着けよ。とにかく法律的にはおまえがサインしない限りあり得ない話だし。とにかく、今日は帰ろう、な」
「おまえにはわからないんだ。浩一や祐介、それから雄一が、どれだけ自分で転換処置を希望するはずがない奴らか」
「高田・・・・」
「帰るよ」高田は、明の顔を見ずに走っていった。


<第三章>

 それから二週間が過ぎた。それきり、高田とは会っていない。
「おい、南・・・」
 明は、学校の裏で藤谷に呼び止められた。
「話がある」
「何だよ」
「いいから、ちょっとつきあえよ」
 明は、藤谷の有無を言わさぬ口調に従った。


 明が、藤谷に連れて行かれたのは、体育館の裏だった。
「おい、何だよ、金なら無いぞ」
 明は、少し怖くなった。藤谷の目は怒りに満ちていたし、全身から今にも殴りかかってきそうな雰囲気がしていた。
「そうじゃない。でも、少し意外だな」
「意外って、何が?」
「君が無事だっていうことだよ」
「何だって?」
「ま、座れよ」
 二人は、コンクリートに腰掛けた。藤谷がポケットから煙草を出す。
「要るか?」
 首を振る明。
「高田が消えたのは知ってるな」
「消えた・・・やっぱり」明は答えた。
「ああ。たぶん今頃はどこかのセンターで・・・」
「それ以上言わないでくれ」
「そうか。やっぱり知ってたか」
 そう言うと、藤谷は一冊のノートを出した。
「なんだ、それ」
「俺たちが連絡用に使っていたノートだ」
「連絡用・・・じゃあ、ずいぶん本格的に調べてたんだな」
「ああ。自分たちの身を守るためだ・・・・」
「身を守る?」
「そう。もう気付いていると思うが、この数ヶ月、ウチの学校から急に転換希望者が増えた。俺たちがそれを不審に思ったのは、ある一人が転換処置申請を出した事からだ」
「ある一人?」
「園田 克巳。知ってるだろ、あのサッカー部のキャプテンだ」
「え、あいつ、プロになるために海外留学したんじゃ」
 明は驚いた。園田は、高校入学時からサッカー部のエースストライカーとして活躍し、将来は海外でプロになると公言していた男だ。
「海外居住者に対して、国家再生法の強制次項が適用されないのは知ってるな」
「ああ」
 強制次項とは、国家再生法一部修正後の「十八歳以上の定職を持たぬ男性は女性に転換し国家の再生に貢献すべし」という一文である。これによって政府は「赤紙」を発行し、二十代から三十代前半の失業者や就職浪人した若者たちの女性化を大々的に行ったのだ。海外からは「重大な人権侵害」として非難を浴びたが、政府は国家的危機に対する緊急措置として辛うじて切り抜けている。
「でももし、みんながみんな海外留学に行ったらどうなる?」
「なるほど、一種の海外逃亡か」
「そう。成績が悪い者が半強制的にセンター送りになるのならまだしも将来有望な男を政治的な理由でというのはちょっと考えづらい。でも法律には抜け道がある」
「本人の転換希望・・・」
「そのとおり。成績不振者の場合も表向きは本人の希望だ。しかし、その場合も予め催眠テストで適性診断が行われる。それで適性が低ければ十八歳になるまではセンターへは送られない。だから成績不振者クラスの授業は、その適性を上げることに重点が置かれる」
 そうなのだ。一度レールから外れた者達には、遅かれ早かれ女性化の道が待っている。だからこそ自分の将来に見切りを付けて転換処置申請を出す者も少なくないのだ。
「で、園田は?」
「そこだ。俺は園田を良く知っていたが、決して自分から転換処置申請を出すような男ではなかった。そしてあの日、奴が転換処置申請を出した日、俺はあいつに会った」
「で?」
「あいつは言ったよ。私は、そう、俺はじゃなくて私はだ。私は女として生きる方が相応しい。これから本当の人生が始まるんだってな。俺は開いた口が塞がらなかったよ」
「・・・・・」
「どう考えたっておかしいだろ。それからあいつには会っていない。でもそれは始まりに過ぎなかった。それからだ。ちょっと信じられないような奴が、次々と転換処置申請を出して姿を消し、女になっていった。最近では芝山がそうだ。そして、高田も・・・・奴が消える前に、このノートに殴り書きしていった事がある」
 そこで藤谷は、そのノートを開いた。そこには、文字通り殴り書きで「上原」と書いてある。
「このノートを捜すのは少し苦労した。いつもの隠し場所じゃなかったからな。少し離れたロッカーに、乱暴に放り込んであった。たぶん誰かから逃げていたんじゃないかと思う。しかし・・・・あいつはそのまま消えた」
 藤谷は無念さを噛みしめるように下を向いた。
「俺はその、上原、が何か最初はわからなかった。で、気付いた。上原っていうのは、本山のところにいる、助手の名前だったんだ」
「ああ、そういえばそんな気もする」
「そう。それで俺は、上原についてこの二週間、調べまくった。そしたらどうだ、こりゃあ、とんでもない奴だぜ」
「とんでもないとは?」
「奴は、助手なんかじゃねえ。むしろ、本山が奴の助手みたいなもんだ」
「どういう意味だ」
「ウチの学校は、その数ヶ月前までは、どうも地域で一番女性化させた人数が少なかったらしい」
「それが?」
「知らないのか?学校にも成績があるんだ。一つは優秀な生徒をどれだけ送り出したか。そしてもう一つはアホな生徒をどれだけセンターに送り込んで国家に貢献したか。その二つが学校の成績になる」
「・・・・・・」
「ウチの学校はあまりにもその、後者の方の成績が悪かったんで、センターから、テコ入れが行われたって訳だ」
「それが、上原」
「たぶんな。事実、あいつが来てからこの学校の転換処置申請者は一気に増えている。そして奴の所属は、現実にはセンターの研究部だ」
「センターの・・・研究部・・・・」
「そう。奴の場合は精神的女性化の分野だ。その研究を主に奴は、センターでなく自分の病院でやっている」
「病院て?」
「奴は一応開業医もしている、というより開業してすぐにセンターにスカウトされたといった方が正しいな。奴の病院は、今ではほとんど研究所みたいなもんだ」
「じゃあそこに何か」
「そこまではわからない。だから俺は、これからその上原医院へ乗り込んでみようと思う」
「よせよ、危険すぎる・・・・」
 その時、
「ふーじーたーにーくん!」
 驚いて振り返る明と藤谷。
「あら、南君も一緒だったの」
 二人の少女がにこにこしながら、二人の方を眺めている。
「おまえら、まさか」明は、そう言うのが精一杯だった。
「ふふふ、そう。私、弘。今は高田 美樹」
「私は芝山 祐子」
「馬鹿な・・・弘が消えてから・・・・」驚きの色を隠せない藤谷。
「知らないの?新方式で転換処置は随分時間が短縮されたのよ」
「そんな・・・あれはまだ・・・」
「設備が整ったところから順に移行してるわ。だからほら、私も」
 高田 美樹は両手を広げて軽やかに一回転して見せた。膨らんだ胸が揺れる。
「ね。藤谷君にもすぐにわかるわ・・・」
「そうよ。もうすぐこっちに来るんだから・・・」
「やめろ!」芝山 祐子が腕を絡ませようとするのをふりほどく藤谷。ブラウス越しに押しつけられた胸の感触が、藤谷を一瞬ドキっとさせる。
「南、いいか・・・」後ずさりながら言う藤谷。
「え・・・・」
「1・2・3走れ!」一目散に走り出す藤谷。
「お、おい!」明も慌てて藤谷を追った。
 走り去る二人。残された美樹は、携帯電話をプッシュした。


「なんとか、逃げ切ったみたいだな・・・・」
「藤谷・・・・」
 肩で息をする二人。
「南、おまえも逃げた方がいい」
「逃げるって・・・どこへ?」
「そんなの知るか!」藤谷は思わず怒鳴った。
「すまん・・・・」頭を押さえて謝る藤谷。
「いいんだよ。それより」
「まだわからないのか、次のターゲットは俺だ。それに、おまえは俺と一緒にいたところを見られてる」
「一緒にいたっていったって」
「あのノートを書いたのは誰だ?」
「高田・・・・あ!」
「今頃わかったのか。罠にはまったんだよ。向こうに高田が行った時点でこっちの情報は全部筒抜けになったんだ」
「じゃあ・・・・藤谷、おまえはどうするんだ」
「俺は・・・・とにかくしばらく姿を隠す。また逢おう、男のままでな」
「ああ」手を差し出す明。
 藤谷は、その手をしっかりと握った。


 画面の表示。何人かの生徒の名前が表示されたリストに「今月度」と表示されている。
 上から五人目のところまでは、「処置済」の蘭にチェックが入っている。そして、その下二人のところは、「申請済」の蘭にチェックが入り、色が変わっていた。
 上から八人目のところには、「藤谷 博之」という名前が入っている。まだ「申請済」蘭にはチェックが入っていない。ただ、他の名前とは色が変わっていた。
 ガチャ。受話器を置く音。男が、画面に向かって、キーボードを叩いた。
 検索画面が現れる。彼はその中から一人の生徒の名前を選ぶ。瞬く間に、画面にそのデータが表示された。
 身長、体重、成績、そして最近の催眠テストによる適性・・・・・
 男は、しばらく考えた後、再びキーボードを操作する。
「リストに移しますか」画面の中央に、表示された。
 エンターキーを押す男。画面が変わった。
 さっきの「今月度」の画面が再び表示される。そのリストの「藤谷 博之」の二つ下、すなわち十番目に、「南 明」の名前が表示された。その時、ドアがノックされ、最近ようやく増えてきた看護婦風の女が入って来た。
「先生、オペの準備をお願いします」
 男は、画面を閉じると部屋を出ていった。


「先生!先生!」ドアを叩く明。
 ドアが開く。
「何だね一体・・・」西原は、ゆっくりとドアを開けた。
「先生・・・・」
「まあ、入れよ」西原は、少し疲れた顔で明を迎え入れた。


「そうか・・・・・」
 明は今までのことを西原に話した。西原の部屋は質素だが、本棚だけには本が溢れていた。
「助けてやりたいのはやまやまだが・・・・できん。少し遅かったよ」
「先生・・・・」
「残念だが、俺は、もう先生じゃない」
「え?」
 西原は、一通の封筒を出した。
「とうとう俺にまで来たよ」
「それは・・・赤紙」
 それは「出頭カード」だった。西原の個人データが、びっしりと書き込まれている。そして、出頭期日と出頭場所まで・・・・・・
「あ、明日・・・・」
「そう。君は、たぶん男としての俺のことを先生、と呼んでくれた最後の生徒になるだろうよ」
「でもそんな・・・先生は別に無職でも何でも・・・・」
 おもむろにもう一通の封筒を開けて見せる西原。
「このとおり、一方的な解雇通知だ。この瞬間俺は無職さ」
「・・・・・・・・」言葉を失う明。
「政府に批判的な言動。表向きは違うけどな、誰かに売られたんだろう。最近はそれだけで出頭の対象になるらしい。さすがに俺もこうなっては逆らえん。家族に迷惑がかかるからな」
「そんな・・・」
 明は思いだした。「あっち」へ行ってしまった北原や高田、芝山も西原の授業を受けていた。彼、いや彼女らが西原のことを上原らに話しても何の不思議はあるまい。
「すまん。身辺の整理が残っているのでな」
「いえ。こちらこそすみませんでした。先生」
「ん」
「お元気で」
「ああ。女になっても自分でなくなるわけじゃないからな」
 明は西原のアパートを後にした。
(自分でなくなるわけじゃないからな)西原はそう言った。
(でも、自分じゃなくなったら・・・・)
 夜の町を歩く明。彼はふと立ち止まり、向きを変えた。


<第四章>

「私の正体を見破ったまでは良かった。もっとも、すぐわかることだがな」
 上原は、手を休めずに言った。
「糞、どうせこんな事だろうと思ってはいたけどな。でも何故だ?どうしてここまでして」
 歯医者にあるような斜めの椅子。そこに、藤谷 博之は座っていた。
(もうすぐ女の子に生まれ変われるわ)高田 美樹の声が耳にこびり付いている。
「新方式の女性化処置は知ってるな」
「ああ。あまり知りたくなかったけどな」
 博之の手足は拘束具によってがっちりと固められ、頭部も振り回したりできないように輪のような物で固定されていた。
「あれに対応する、新たな精神的女性化方法の開発を急がねばならなかったのだ」
「それが、洗脳か?大した悪だぜ。俺の仲間たちをみんな手下にしやがって」
「人聞きの悪い。洗脳といえばそれまでだが、彼女たちはみんな、自分から進んで女になったのだ。そして、その素晴らしさをかつての仲間に教えてやろうと思っただけだ・・・・このオペは、そこらで行われている陳腐な洗脳とは訳が違う」
「される方にとっちゃ同じだ。だいたいオペなんて・・・平たく言えば手術じゃないか。精神改造するだけの話だ。洗脳よりもっとひどい」
「いや、違う。これは誰もが多かれ少なかれ潜在的に持っている女性化願望を大幅に増幅し、表面化させるものだ。このオペを受けた者は自分の持っている潜在意識の一部分が表に引き出されることによって内面からその女性化適性が飛躍的に上昇する。肉体の女性化と併用してオペを行えば、まったく問題なく迅速な女性化が可能になる。どちらにしろこのまま新方式が普及したとしても精神異常の元を作り出すことになるだけだ。よって、精神的な方も早く実用化する必要がある。しかし、実用化するためには臨床データが不可欠だ」
「俺たちは、その実験台ってわけか」
「実験という程お粗末なレベルではないよ。私にしてみればもうとっくに完成しているんだ。ただ政府のお偉方はある程度の実績がないとそれを採用しようとはしないのでな。なぜだかわかるか、万が一事故があったら、自分の得票率に関わるからだ」
「大いなる矛盾だな」
「そう。しかし世の中とはそういうものだ。結果良ければ全て良し、票が取れればそれで良しとな。まあ安心しろ、一時間もすれば君も女に生まれた方が良かったと思うようになる。そして、明日には学校で転換処置申請をするのだ」
「ふざけるな!」
「別にふざけているわけではない、それが真実だ。心配することはない。このオペが終われば、君は私が止めても自分から申請書にサインするだろう。そして、おそらく十日後には完全に女性として生まれ変わっている」
「・・・・・・」
「感謝しろ。このオペを予め受ければ君の女性化適性は間違いなくA+になる。おかげで処置を受けてもまったく抵抗することなく、肉体も精神も至ってスムーズに女性化することになるのだ。女性化の最大の弊害はその潜在意識下の抵抗による苦しみだが、このオペではそれを完全に取り去ってしまう。変化の苦しみを味わわずにすむし、むしろ喜ばしい気分になる。これは被験者にとって非常に幸せなことだと思うがね」
「糞!」博之はもう一度悪態をついた。その両目を覆うように何かの装置が装着される。
「目を閉じても無駄だ。映像信号は視神経に直接送り込まれ、君は今までにない興奮を味わうだろう」
 さらに、両耳にもヘッドホンのような物が装着される。
「他のみんなも、これで・・・だいたい何で俺たちが・・・」
「社会にとって有害な芽は、大きく育たないうちに摘み取る。周りに影響を及ぼさないうちに」
「社会じゃなくて、体制にとってだろうが」
「何とでも言え。すぐにそんなことは考えもしなくなる。そして、君もみんなの仲間になれる」
 上原が合図を送る。看護婦風の女が制御器らしいコンピュータにディスクを入れる。画面に「準備完了」と表示され、さらに「処理を開始しますか」と表示される。
 女は無造作にエンターキーを押した。小刻みに震え出す博之。
「じゃ、頼む」上原は、女にそう言い残すと部屋を出ていった。
「アア・・・・ハア・・・」部屋には、博之の荒い吐息が響いた。


 壁を乗り越える明。あの生物学室へ忍び込んで以来、泥棒のようなマネには慣れてしまった。
 彼は、上原医院に忍び込んでいた。あまり大きな建物ではなく、塀と建物の間はそんなに広くない。
 足元に、光が漏れている窓があった。彼は腹這いになってその窓に近付いて行く。斜めに開いている窓から、半地下室になっているその部屋の中を覗くことができた。
(上原・・・・)
 確かに見覚えのある男が、助手の女とともに何か作業をしている。よく見ると、歯医者のような椅子に誰かが固定されており、上原たちはその頭から機械を外しているところだった。
 やがて、全ての機械が外されると、手足の拘束が解かれた。そしてそこに座っていたのは、藤谷 博之だった。
(・・・・藤谷・・・)明は、藤谷もまた「あっち」へ行ったことを悟った。
「気分はどうかね」訪ねる上原。
「とても・・・いいです」無邪気といっていい笑顔を見せる藤谷。その藤谷を、上原は横のソファに座らせる。
「それはよかった。君は本当の自分になったんだ」
「はい。僕にはわかりました。自分が今まで求めていた物が何だったのか。今までどんなにつまらないことにこだわっていたのか。僕は、はじめから女性として生まれてくるべきだったんです。そう、今の僕は、本当の僕じゃない・・・・」
(そう。もう君は、本当の藤谷じゃない)明は、来たときと同じようにそっと塀を乗り越えて上原医院を後にした。


 どれくらい歩いたのか、自宅へたどり着いたときは、深夜になっていた。
「遅かったじゃない」聞き覚えのある声だった。
 無視する明。その前を北原 澄恵が塞いだ。
「ひどいなぁ、ずっと待ってたのに。また会えて嬉しくないの」
 明は冷たい視線を彼女に向けると、彼女をどけようとした。しかし、そうすることはできなかった。
「女の子には、優しくしなきゃ」
「そうよ。あなたも優しくして貰うようになるんだから」
 高田 美樹と芝山 祐子が彼の両腕に絡む。
「夜道を、若い女の子だけで歩かせようなんて言わないで。お願い、黙って私たちと一緒に来てくれない?」澄恵が言う。
「イヤだといったら」答える明。
「それが男の子として最後の選択になるだけよ」
「でも心配しないで。もうすぐあなたも女の子になるんだから」
「そう。私たちと同じように・・・」
 首筋に当てられるスタンガン。明は意識を失った。


 オペ室の椅子に拘束された明。両目を覆うように視覚入力装置が取り付けられ。頭からは聴覚入力装置が取り付けられていた。
 制御用コンピュータにディスクを挿入し、無造作にキーを操作する助手の女。
 明の身体が震え始めた。


 暗い、明るい、暗い・・・・どこを見回しても同じだった。
 闇に向かってどんどん落ちていく。
(ここは・・・どこだ・・・・)
 出会い。分化。分裂。成長。光。暖かい。トンネル。出口。世界。顔。乳房。声。音。音楽。幼児。公園。玩具。砂場。城。成長。学校。鏡。少女。少年。より強く。より美しく。成長。町行く女の子。町行く自分。少女。成長。彼女。キス。唇。夢。抱きしめる。
 落ちていく中で、暖かさに包まれる。とても、心地がよい。
(解放しなさい・・・)
(思い出しなさい・・・)
(戻りなさい・・・)
 抱きしめられる。キス。自分。美しい。自分は明。男。女。種の保存。妊娠。出産。生命の神秘。包まれる。包まれる。生きる喜び。生まれる。生まれる。誕生。世界。明るい光。出会い。家庭。仕事。自由。人形。娘。母親。束縛。自分。自分。自分。父親。娘。抱き上げる。喜び。抱きしめられる。愛する。愛される。本来の姿。戻る。戻る。母親。産声。新世界。人。人。人。自分。自由。解放・・・・・・
 満ちあふれる幸福感。全身から、歓喜が沸き起こる。なぜだか涙が溢れた。
(あなたは・・・・・)
(あなたは・・・・・)
(私は・・・・・)
(私は・・・・・)
(本来の姿・・・)
(自分を解放しなさい・・・・)
 そして、視界は光で満たされ、何も見えなくなった。


 不意に眩しい光が明を包んだ。なぜだか、とてもいい気持ちがする。
「気分はどうかね」上原先生が、彼の顔をのぞき込んでいた。
「とてもいいです」答える明。前に誰かが同じ事を言った気がする。でもそんなことは気にならない。何より、とても素直な気持ちで笑顔になれる。心の中のわだかまりが一気に消え去って行った気がしていた。
 明にはわかっていた。自分を解放するにはどうしたらいいのか。自分は、女として生きるべきなのだ。男として生きていくのは自分には相応しくない。本当の自分の人生を勝ち取るには、どうするべきか・・・


 翌日、明は生物学室にいた。生物学の本山教諭は、この学校の転換処置申請の窓口だ。
「君の希望は分かった。その内容を確認してからサインしてくれ」
「はい。わかっています」
 二分後、明はじっくりと読んだ上「国家再生法第三条六項に関する同意書」にサインした。
 本山が、オンラインでセンターとやり取りし、その場で女性化処置申請の手続きを行う。
 プリンターから、一枚の印刷物を取り出して明に渡す本山。
「これを持って、第三人口開発センターへ行きなさい。手続きはしておいたから、すぐに処置が始められるはずだ。第三は、もう新方式に切り替わっているはずだから、問題がなければ十日後には女子校に編入できるはずだよ」
「はい。ありがとうございました」
「元気でな」
 生物学室を出る明。そこで、藤谷とばったり会った。
「どうしたの?」訪ねる明。
「実は・・・転換処置申請をしに来たんだ」
「うそ!今僕もしてきたところ」
「おお!じゃあもしかしたら。センターでも一緒になるかもね」
「うん。じゃあ」
 生物学室に入っていく藤谷。明は、何故かとても嬉しかった。


 一週間後・・・・・
「南さん、いよいよ今日で完了ね」
「はい」上に羽織ったガウンを脱ぎ、丁寧に畳む。明。いや、恵美。ガウンの下から現れたその身体は、滑らかな起伏のある曲線を描いていた。
 転換液の満たされた透明のカプセルに、呼吸器を付けてゆっくりと入る。技士の女がカプセルの蓋を閉めた。液体の中で、呼吸器を付けたまま浮遊する恵美。そのカプセルが、黄緑色の光に照らされた。
 戸籍は一足先に女性に変更され、彼女はすでに南 明ではなく南 恵美になっている。肉体的にもすでに九十パーセント以上女性化しているのだ。
 催眠テストによれば女性化適性も非常に高く、精神的な女性への移行はまったく問題がなかった。そのおかげで肉体的にもまったく問題なくスムーズに女性化は進んでいる。
 このカプセルの中で、あと六時間ほど転換液に浸されながら特殊な光線のシャワーを浴びれば、肉体の女性化は完了する予定だ。今まで五日間、ずっとこの繰り返しだった。しかし、外科的手段を共用しても一ヶ月ほどかかった従来の方法に比べれば、遙かに楽になっているはずだ。
 明日のチェックに合格したら、晴れてセンターを退所し、女子校へ編入される。不合格なら、もう一日この退屈なカプセルの中の時間を過ごすだけの話だ。でも恵美はチェックにパスすると確信している。すでに滑らかな曲線を湛えた身体と、自分の女としての意識が、その確信を裏付けていた。
 隣のカプセルには、一緒に入所した藤谷 英子が入っている。カプセル越しに見える英子の身体は、恵美よりも凹凸がはっきりしていて、胸も大きく見える。少し悔しいが、恵美も自分の身体は気に入っていた。
 二人はここを出たら、他の男の子たちにも自分たちのような道があることを教えてあげようと思っていた。あくせく勉強に明け暮れる今の男の子たちは、本当の自分に気付くことが必要なのだ。
 これからもきっと仲良くやっていけるだろう隣の英子に、恵美は、カプセル越しに手を振った。
 そして英子も、微笑んでそれに応えた。

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「七時のニュースです。国会は今日の本会議で、国家再生法の一部修正案を可決しました。これは、新方式による転換処置の迅速化と、低年齢時からの転換処置に対応するもので、これによって、現在のいわゆる強制次項が改正され、強制的女性化処置の最低基準年齢が満十八歳から満十五歳に引き下げられます。これに対応して、中学校から高校にかけて定期的な試験と適性検査が行われ、その結果によって女性化が適切であると判定された男子生徒は女性化対象者となり、満十五歳以上ならば女性化処置を受け女子校に編入する事になります。またこの対象者には奨学金が支給され、環境の変化に対する支援の一部とされます。若年時からの女性化は、技術的な面や被女性化者の精神面に与える影響などのリスクがより少ないと言われており、政府は今回の改正によって男女比の是正が進むものと期待を寄せています。なお、この改正法は新年度からの施行となりますが、処置方式については、効率や経費の面を鑑みて、コストが安く処置時間も短い新方式を、設備が整ったところから運用していくものとしています。政府は今年度中に全部のセンターが新方式に切り替えられるよう、補正予算にこの設備費を盛り込むことを閣議で承認しました・・・・続いて次のニュースです・・・・」

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「ようこそ、こっちへ」


KEBO作

りぼんの時代


<あとがき>
 変でしょ、これ(笑)。もともとアメリカ映画の学園ホラーサスペンス系を元にトランス風に振ってみたものです。古くはゾンビもの、最近では「パラサイト」なんかがこんな感じでしたね。
 でね、これ実は(って、タイトル見ればわかるだろうけど)懐かしの「りぼんの明日」のアナザーストーリーです。細かい設定は「りぼんの明日」を見て下さい。でも話は見なくていいです(笑:だって久々に読み返したらちょー恥ずかしかったんだもん!)。
 でも、最後は実にダークですね。だいたい最後の最後の方は書く必要のない部分です。ところがやっぱりここがどうなってるのか私自身が見たかったりするんですね。これが自分で書く楽しさってもんでしょう。ついでに、タイトルまで後ろに振っちゃいました。実に悪趣味ですな。
 だいたい普通、この手のパターンで行くと、主人公が最後に敵の手に落ちて絶体絶命!の危機になると、突然怪力で暴れ出したり(「トータル・リコール」等)、隠し玉を出して大どんでん返し!(「パラサイト」等)っていうのがセオリーなんですが、それを「ボディ・スナッチャー」や「未来世紀ブラジル」みたいなバッドエンド(?)に持っていってしまうのが私のダークさでしょう。逃げまくって追いつめられて結局やられてしまうシチュエーション、とても好きです(暗あ・・・・)。でもこの子たちの場合はこの方がもしかしたら幸せなのかな・・・・そこまで私は構ってません。
 ちなみに「りぼんの明日」のときには書きませんでしたが、この場合の「りぼん」は「Re−Born」です。昔、こういう名前の映画があったと思うんですが(新井素子さんのグリーン・レクイエムの映画と似たような感じのパッケージのビデオだったような・・・)、内容は忘れました。でもその時「なるほど!」と思ったのを頂いちゃった訳です(もう十数年前の話だと思う・・・)。
 それと、明君が変心させられてしまうところは、はっきり言ってちょーむずかしくって、自分でも訳わかってません。でもありきたりの表現じゃつまらないし、外から見た状況の実況を書いても面白くないんで、超超適当ながらあんなシーンになりました(いやあ、いいかげんに書いてるなぁ・・・)。
 そんなわけで、今回も最後までおつきあいいただきありがとうございました。
 では

 KEBO


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