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 どうしてこんなことになったのだろう。
 毎朝目覚めるたびにボクは鏡に映る自分自身に向かって自問自答していた。
 あのとき、あれを拾わなければ……



天使の携帯端末

(前編)

作:ライターマン



 僕の名前は高森しのぶ(たかもり・しのぶ)。光来高校の一年生だ。
 女みたいな名前だけど僕はれっきとした男だ。
 何でも聞いた話だと生まれたとき、父さんが"信夫(しのぶ)"とつけようとして読みの部分を間違えて届け出たらしい。父さんは強く否定してるけど……

 あの日の夕方、僕は学校の近くの公園で茂みの中に隠れて泣いていた。
 下校途中にクラスの男子に待ち伏せされて、しばらく殴られていたからだ。
 僕は身長が高校男子としてはかなり低く、体格も小柄なためにいじめの標的にされていた。
 学校で一度問題になったことがあり、先生が校内でそうしたことが起きないように見てくれているため、学校でのいじめはなくなった。
 けれども校外に出ると今回のように待ち伏せて殴ったり蹴ったり、時には財布からお金を抜き取られることもあった。
 学校の外では先生に助けてもらうことも出来ないので、いじめが終わった後はいつもこうして人目に付かないようにして泣いていた。
 僕が泣いているところを知り合い、特に女子の若松さんに見つかると、「もっとしっかりしなさい」だの「男ならやられたらやり返せ」などと言っているが、相手は僕より一回り大きく、しかもいつも4、5人でいじめてくるのでかなうはずがなかった。

 しばらくして泣き止んだ僕は家に帰るために立ち上がろうとした。
 そのとき、僕は目の前のベンチの下に何かが落ちているのに気が付いた。
 それは小さな機械だった。
 手のひらに乗るくらいの大きさでふたを開けると液晶の画面があった。
 そして機械の端のほうに小さなペン状のような物が差し込まれていたので電子手帳か携帯端末かなと思った。
 白色のボディには口を大きく開けて笑っている天使の絵のシールが貼られていて僕は思わず吹き出した。
 僕はこれを警察に届けようと思った。
 けれども大分遅くなったことと、殴られた跡が残ってたら追求されるかもしれないと思い、その日は持って帰って明日届けることにした。

 その日は幸運なことに両親とも残業で帰るのが遅かった。
 僕は誰もいない家に帰ると学生服やズボンについた泥や汚れをふき取り、ハンガーに架けた。
 そして一人で食事をとり、風呂に入って自分の部屋に戻った。
 これから何をしようかと考えていた僕はふと先程の機械のことを思い出してそれを取り出した。

 ふたを開け、スイッチをつけると画面にメニューが表示された。
 メニューの内容は地図の表示と人物の検索、それに今日の運勢という項目だけだった。
 (確か前に電気屋で見たやつはスケジュール管理とか電子メールとか他にもいっぱい機能があったんだけどこれは安物か?)
 などと考えながら僕は付近の地図を表示させていった。
 縮尺を変えながら自宅から学校までを移動させてみたが、かなり細かいところまで正確に表示されていた。
 そうして学校を表示させてペンでコツコツと画面を軽く叩いていると、サブメニューが表示され、その中に"関係者"の項目があった。
 先生か生徒の誰かが登録されているかな?と軽い気持ちで開いてみると、そこには校長以下、生徒の全ての名前が表示されていた。
 全員の名前を知っている訳ではなかったけど、画面に表示された件数の数字と、前に聞いていた全校生徒数と教職員数の合計とほぼ一致していたのでたぶん間違いない。
 僕は仰天しながら表示された人名のリストを見ていたけど、その中に僕をいじめている連中のリーダーの名前があるのを見つけると、そいつの詳細な情報を表示させた。
 画面にはそいつの名前、生年月日、性別、住所、電話番号が表示され、所属欄には"光来高校生徒"と表示されていた。
 そして一番下にコメント欄らしきものがあったが、ここには何も表示されていなかった。
 僕はその表示を見ているうちに、怒りが込み上げてきた。
 こいつらさえいなければ!!そう考えた僕は機械を操作して"光来高校生徒"の文字を消し、コメント欄に"都合により退学"と書いて更新ボタンをペンで叩いた。
 さらに、僕へのいじめに積極的に参加した奴のデータも同じように更新した。
 更新した後で僕はこんなことしか出来ない自分に少し笑ってしまった。
 それでも少しばかり気のすんだ僕はそのままベッドに入るとすぐに眠りについた。

 翌日目が覚めた僕はいつものように学校に行った。
 教室に入った僕はいつもに比べざわついているのに気が付いた。
 あちこちで2、3人のクラスメイト達が何事かを話していた。
 そして僕が入ってきたのに気が付いた若松さんが僕に近づいて「高森君、あいつらの一人がね……」と話してきた。
 彼女が話した内容を聞いて僕はびっくりした。
 僕をいじめている連中のリーダーで、昨日僕があの機械でデータを変更した奴の一人が町で暴力事件を起こして警察に捕まったというのだ。
 被害者は骨折するなどかなりの重傷で、彼が退学処分になるのは間違いないだろうということだった。
 僕はすごくびっくりしたが、同時にホッとした。
 だって奴が退学になることで、僕へのいじめがなくなるのではないかと期待できたから。
 それと同時に奴の退学処分と昨日の僕の行為が何か関連しているようで怖くもなった。
 でも、あんな機械でこんなことが出来るわけないし、ただの偶然さ……と思っていたその時、教室の扉が開いて飛び込んできたクラスメイトの話に僕は驚愕した。
 僕があの機械でデータを変更したもう一人の奴が、親の会社の倒産により夜逃げしたというのだ。
 先程奴から学校に電話があって、担任に退学の意思を伝えたそうである。
 クラス中のみんなが、立て続けに起こった事件に騒然となった。
 僕は小刻みに震えながらかばんを開けて中にあるあの機械を見た。
 機械のふたでにっこり笑っているのが天使なのか悪魔なのか、僕にはわからなくなってきた。

 その日の夜、自分の部屋に入った僕は震える手であの機械を取り出した。
 (まさかこの機械で変更した内容がそのまま現実になるなんてことは……ただの偶然さ)
 そう思おうとしたけど、どうしてもこれが無関係とは思えなかった。
 昨日と同じ操作で高校の関係者を表示したが、そこにはもうあの二人はいなかった。
 僕をいじめている連中の一人のデータを表示して、
 (もしこのデータを消去したらこいつの存在も消えてしまうのだろうか?)
 と考えたが、それはさすがに恐ろしかった。
 それにメニューの中には削除や新規作成の項目は無かった。
 少しだけホッとして僕はそいつの表示を終了して今度は僕自身の情報を表示した。
 表示している内容は他の連中と大して変わらなかった。
 それぞれの項目をペンでコツコツと叩きながらどれか内容を変えてみようかなと考えてみた見た僕は、性別の項目で二度ペンを叩くと内容が反転するのに気が付いた。
 コツコツと叩くたびに男性と女性が入れ替わるので僕は面白くて何度かペンで画面を叩いていたのだが、不意にペンが滑って僕の手から離れると画面の中の更新ボタンの部分に落ちて画面が閉じてしまった。
 驚いて僕はもう一度僕の情報を開いてみた。
 すると僕の性別の項目には女性と表示されていた。
 僕は慌てて性別の項目を戻そうとした。しかし、"変更中。再度の変更は24時間経過後に実施して下さい。"とメッセージが表示されたのだ。

 僕は真っ青になった。
 今までのところ、この機械で変更した内容は全て現実になっている。だとしたら僕は………
 僕は恐る恐る自分の体を確認した。しかし、僕の体に変化は無かった。一時間ほど様子を見てみたが、特に変化する兆候は見られなかった。
 (やっぱり今までのはただの偶然だったのか)
 僕は少しがっかりすると同時にホッとした。
 そして機械をカバンの中に入れるとベッドに潜り込みそのまま寝てしまった。

 次の日の朝。
 目覚ましが鳴っているのに気が付いた僕は、「もう少し…」と言いながら寝返りをうち、うつ伏せになった。
 そのとき胸に異様な圧迫感を感じた僕は一気に目が覚めて起き上がるとパジャマを脱ぎ捨てた。
 するとそこには大きな二つのふくらみが出来ていた。雑誌の写真でしか見たことは無かったけどそれは女性のバストに間違いなかった。
 そして下半身を見ると僕は女物のショーツを穿いていた。(実際に見たことは無いがたぶんそうだろう)
 僕は恐る恐る股間に手を伸ばしてみるとそこに男性としての象徴はなかった。そして指に触れる感触は雑誌や友人の話で知識だけはある女性としての特徴によく似ていた。
 僕は小刻みに震え、声にならない声をあげた。それは細く甲高い女の子の声だった。

 「どうしたのしのぶ?声なんかあげて?」既に起きていて朝食の支度をしていた母さんがドアを空けて部屋に入ってきた。
 僕は思わず振り返り、母さんとまともに向き合う形になった。
 (見られた…僕の裸を…僕の胸を…)
 けど母さんは僕が女の子になったのを全然気にする素振りを見せずにこう言った。
 「何よ、何にもないじゃない。しのぶ!!女の子が朝っぱらから素っ裸なんてみっともない。朝ご飯までまだ時間があるけど早く着替えなさい」
 そう言って母さんは台所に戻っていった。

 僕は母さんの言葉に呆然とした。
 そして部屋の中を改めて見回してみた。
 それまでまでは気が動転してわからなかったけど、部屋のイメージが変わっていた。
 壁紙は淡いピンクのものになっていたし、壁に張っていたF1レースの写真は男性アイドルのポスターに代わっていた。
 そしてハンガーには詰襟の学生服ではなく、セーラー服がかかっていた。
 洋服ダンスを開けると中には色とりどりのブラウスやワンピース、それにスカートがかかっていた。
 そして引出しを開けるとこれも色とりどりのブラジャーやショーツが入っており、僕は顔を真っ赤にして引出しを元に戻した。
 本棚には前日まで入っていた少年漫画や歴史小説が無くなって、代わりに少女漫画や恋愛小説が入っていた。
 そして本棚の中に入っていた小学校と中学校の卒業アルバムを開いてみた。
 すると男子グループの中にあった僕の写真は消えてなくなり、女子の中に僕の名前が入った、僕によく似た女の子の写真が入っていた。
 どうやら家族の記憶やまわりの世界も含めて僕は生まれた時から女だったことになってるらしい。

 僕はハンガーにかかっているセーラー服を目の前にして考え込んだ。
 セーラー服を着て学校に行くなんて想像するだけでも恥ずかしかった。
 仮病を使って休もうかと思ったけど、さっき母さんに裸で立っているところを見られてしまったのでたぶん無理だろうと思った。
 仕方なくセーラー服を着るためにハンガーをベッドの上に置いた僕は、服を着る前にブラジャーを着けなければならないことに気が付いた。
 (僕が……ブラジャーを……)
 一瞬頭がクラッときたが、意を決して引出しを開けると白地の地味なやつを選んで取り出した。
 バストをブラジャーのカップの中に入れ、ずれないように気をつけながら手を後ろに回し、何度か失敗しながら何とかホックを止めることが出来た。
 男のときは背中に手をまわしても届かない所があったけど、今では楽に届いている。体が柔らかくなったようだった。
 ブラジャーをつけ終わった僕は、別の引き出しにあったソックスの中からやはり白色で長めの物を選ぶと足を入れてひざのところまで引き上げた。
 次にスカートを取り出すと脚を通し、腰の位置まで引き上げると脇のファスナーを閉めてホックを止めた。
 そしてセーラー服を頭からかぶり、髪の毛を肩の後ろの方に流した。
 このときになって気付くなんて間抜けな話だけど、僕の髪は肩のすぐ下のあたりまで伸びていた。
 最後にセーラー服のネクタイを締めようとしたが、締め方が全然わからなかった。
 どうしようかと思ったが、三日前遅刻寸前で教室に飛び込んできた若松さんが僕の目の前でネクタイを締め直していたのを思い出した。
 (ええ…と、確かこうして…こうやって……こう…かな?)
 僕は何度も迷いながら何とか見られるような形に締めることが出来た。

 カバンを持って家を出た僕は学校に向かった。
 靴箱のところまできた僕は、いつも入れている場所に書いてある名前は自分とは別のクラスメイトの名前だった。
 (どうして自分の靴箱が無いんだ?)そう思っていると横から
 「しのぶ!!そんなとこに立ってて何してるの。あなたの靴箱はここでしょうが」と声がしたのでそちらを向くと若松さんが立っていた。
 若松さんの所まで移動して靴箱を見ると確かに女子の名前に混じって自分の名前がある。
 僕は急いで上履きを取り出すと履き替えて靴を靴箱に入れた。

 靴箱のとこから教室まで僕は若松さんと一緒に歩いていた。
 若松さんは明るくて面倒見がいいのでクラスの誰からも好かれている。その若松さんが同性の気安さからか歩きながら僕によく話しかけてくる。
 「しのぶ、あなた男子の靴箱の前に立っていて何をしようとしていたの?」
 「え、いや……その……」まさか『あそこが僕の本当の靴箱の位置だ』とは言えないので返答に困っていると、
 「わかった。ラブレターを入れようとしたんでしょう。相手は誰?土屋君?」と勝手に誤解して聞いてくる。
 ちなみに土屋君と言うのは僕たちのクラスメイトでサッカー部に所属している典型的なスポーツマンだ。
 僕は慌てて
 「ち、違うよ!!」
 と否定したんだけど若松さんは
 「そーかそーか、しのぶちゃんにもついに春が来たんだねぇ。応援してあげるからさ、後で詳しく教えてね」
 そう言って教室に入ると手を振りながら自分の席へすたすたと歩いていった。
 「だから違うって言ってるのに……」
 そう言う僕の声はぜんぜん届いていなかった。

 教室に入った僕はまず席順を確認したが、これは前日までと同じ位置だった。
 そのまま机の所まで移動すると、そこにあったのは前日までと同じ自分の机だった。
 ただし、多少の変化はあった。
 筆記用具を入れているのはピンクのケースになっており、机の横に架けているバッグにはブルーではなく赤いラインが入っていた。
 そこまで確認して僕は重大なことに気が付いた。
 机の横に架けてあるバッグには、洗濯して月曜日に持ってきていた体操服と短パンが入っていたず。
 そのバッグが女子生徒用のバッグに変わったということは、中身はおそらく体操服と……ブルマーで……。
 それを使う体育の授業は……その日の四時限目だったのだ!!

 四時限目まであと5分。
 僕は着替えのための教室で身動きが出来ずに固まっていた。
 教室のあちこちで飛び交うキャピキャピした会話。
 ブルマーはスカートを着けたまま着替えられるので全身下着姿の人はいないけど、上半身が下着姿の女子が何人かいるだけでも僕にとっては刺激的な光景だった。
 それに他人の着替えを見れるということは、自分の着替えも見られるということで、それを想像すると体がなかなか動かないのだ。
 「どうしたのしのぶ?早くしないと授業に遅れるわよ?」と若松さんが急かすので僕は仕方なく壁を向いてセーラー服を脱ぎ始める。
 ところがセーラー服を脱ぎ終えて体操服をかぶろうとしたその時、背後から伸びた手が僕の胸をつかんだ。
 「っっ!!キャァァァーーー!!」僕の頭はパニックを起こし、女の子そのものの悲鳴をあげてしまう。
 「しのぶちゃんウブだねー。キャーなんてさ」
 「わ、若松さん!!やめてください!!はっ、早く手を離して!!」つかまれた胸から伝わる未知の感覚に戸惑う僕は若松さんに懇願した。
 若松さんは僕の目に涙が浮かんでいるのを見て胸から手を離すと僕に謝罪した
 「ごめんごめん。でもいいなー、しのぶはバストが大きくて。後でもう一回もませてくれる?」
 「だめですっ!!」

 その日の体育の授業はバスケットだった。
 僕は若松さんと同じチームになり、10分ハーフで試合をしていた。
 「しのぶっ!!いくよっ!!」若松さんが僕にパスを送る。
 ダン、ダダン、ダン
 バシッ
 「あっ!!」
 僕はゴールに向かってドリブルするけど動きがぎこちなくてすぐに相手にボールを奪われていた。
 「もう、しのぶ!!もっとスピードを出して、それから左右にも動かないと駄目じゃない!!」
 若松さんに言われるまでも無いのだが、体を動かすと……その……胸が揺れるのだ。
 こういっては失礼だと思うけど、僕の胸はクラスの女子の平均より結構大きいのだ。
 ブラジャーで固定されているとはいえ、激しく動くとどうしても意識してしまうのだ。
 「ごめん……なさい……若松さん」激しい運動とすまなさで、僕は途切れ途切れになりながら謝った。
 「まあいいわ。体育の授業で勝負に固執する必要も無いしね。楽しみましょう、しのぶ」そう言って若松さんは微笑んだ。
 「……はい」

 試合終了後、全力を出し切った僕たちはコートの外でへたり込んだ。
 「ハア、ハア、……どうだった、しのぶ?」
 「ハア、ハア、………つ、疲れたけど……気持ちよかった……です」
 結局試合には負けたけど、僕たちはボールを追いかけ、声を掛け合い試合することを楽しんだ。
 試合の最後の方では胸が揺れていることも気にならなくなった。
 僕たちはしばらくそこで休んでいたが、いち早く回復した若松さんが立ち上がると僕にこう言った。
 「しのぶ、その座り方あまりしないほうがいいわよ」
 言われてよく見ると僕は両方のひざをくっつけて足の部分を外側に開いて座っていた。いわゆる「ぺったんこ座り」と言うやつだった。
 「その座り方は関節によくないのよ。それに……」そう言って若松さんは男子の方を見た。
 男子のコートの方ではまだ試合が続いていたが、試合に参加していない男子は試合の方を見ずに、こちらの方、それも僕の方を見ていた。
 「男どもにとっては魅力的に見えるらしいよ、その座り方」若松さんは、にやりと笑いながらそう言った。
 若松さんとクラスの男子の視線を浴びて僕の顔は真っ赤になった。

 その日の夕方、僕はあの機械をひろった公園のベンチに腰掛けていた。
 体育の授業の後、僕は若松さんたち女子のグループと一緒に昼休みに弁当を食べておしゃべりをした。
 彼女達の話題は主に芸能界のアイドルや学校の男子のことで、僕は内容がわからずに相槌を打つだけだったがそれなりに楽しかった。
 会話の中で僕は自分のことをつい「僕」と言ってしまったが、女子達の反応は「ボクだって、かわいー」だった。
 女子達のこの反応は意外だったけど、自分のことを「あたし」というのも恥ずかしかったし、今日一日だけと思っていたのでそのまま「僕」で通すことにした。

 「ふーっ」僕はカバンの中から機械を取り出した。
 僕はその機械を拾ってからの事を振り返っていた。
 入力した内容がそのまま現実に反映される機械、僕をいじめていた連中は学校を離れ、僕は女の子になった。
 女の子になっての学校生活は結構楽しかったけど、スカートを穿いてセーラー服を着ているのはやはり恥ずかしかった。
 それに、このまま女の子でいて、男の子に告白され、交際して、結婚して、などというのは避けたかった。
 (あれから24時間経ったら機械を操作して男に戻って、それからこの機械どうしよう。ちょっと怖いけど警察に届けるのもなんだし)
 などと考えていると前の方から
 「あらぁ〜、こんなところにありましたぁ〜」
 という妙に間延びした声がした。

 そこにいたのは外人の女性だった。
 見た目の年齢は僕よりも少し上のようだったが、白い神秘的な衣装を着て黒い猫を抱いたその人は苦労を知らないといった柔和な顔でぺこりとお辞儀をしながらこう言った。
 「どうもありがとうございますぅ〜。あなたが拾って保管してくれてたんですねぇ〜」
 女の人は間延びした、それでも外国人にしては流暢な日本語で僕に語りかけてきた。
 そうして僕の手から機械を取り上げて
 「それは先を急ぎますのでぇ〜、これで失礼しますぅ〜」
 と言うと公園の外に歩いていった。

 突然の展開にしばらく呆然としていた僕は、はっとなってその女の人を追いかけた。
 女の人は「見つかってよかったですわ〜」とか「終わり良ければ全て良しですわ〜」と言いながら路地の角を曲がっていった。
 追いかけていた僕は走りながらすぐにその角を曲がったのだが、そこで男の人とぶつかって倒れてしまった。
 「いたたた……」「あたたた……あれ?高森さん?」
 その男の人はクラスメイトの土屋君だった。
 「どうしたの高森さん?そんなに急いで」土屋君は僕を起こそうと手を差し出しながら僕に尋ねた
 「え?あ、あの、白い服を着た金髪の女の人がここを通っていかなかった?」僕はこう土屋君に聞いてみたけど、土屋君は
 「女の人?いや、この路地は僕以外誰も通っていかなかったけど」
 言われて路地を見回してみると曲がり角が無くまっすぐにのびた道には人影はまったく無かった。
 それに土屋君がこっちに歩いてきてたのに誰も見なかったと言うことは……
 あの女の人は、そしてあの機械はどこへ行ったのか?
 「そ、そんな……」僕は思わずその場に座り込んでしまった。

 

(つづく)


あとがき
 どうも、ライターマンです。
 この話、ずいぶん前から書き続けていたのですが、この先のストーリーが決まらず悩んでいるうちに停滞してしまいました。
 結末が決まらないうちに出してしまうのは多少気が引けるのですが、ここまで作ってしまってお蔵入りと言うのももったいないと思い、前編として出すことにしました。
 後編(あるいは中編)のストーリーについては前編の反応を見ながら考えてみようと思います。
 あ、それからストーリーの最後の方に出てきた女性について、どこかの大ボケ天使を想像された方、気のせいです、おそらく他人の空似です。……たぶん。
 それではこれからもがんばっていきたいと思いますので今後ともよろしくお願いします。

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