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電光の魔法少女エレクトリック・イーナ

−十二封妖編−

第一話:開放されし‘もの’達


 ここは、とある地方都市に隣接する街のはずれ。
 大抵の人なら「片田舎」と評するであろう、山林と田園の広がる場所である。
 そんな場所にひっそりと佇む神社から物語は始まる。
 ……その神社の名は、“御空神社”。



 その夜、御空神社に何者かが忍び込んだ……。

 彼等は人気の無い夜中の神社に入り込み、まっすぐ賽銭箱に歩み寄った。
 そして、箱の側面に設置されていた南京錠を、音を立てないように注意しながら壊そうとした。
 それは所謂、「賽銭泥棒」というやつであった。
 彼等は賽銭箱の蓋を抉じ開け、中を覗き込んだ。……しかしその中身は、彼等の予想よりも少なかった。
「チッ、しけてやがる……」
 彼等は軽い罵りの言葉を漏らしながらも、中にあった小銭をかき集めていく。
 やがて、一人がその奥にある建物の方へと視線を廻らした。
 暫しの時を置いて、残りの者たちも同じ方に視線を移した。
 そして……



 夜明け頃、御空神社のあたりから十二条の光が飛び去った。



 翌朝、御空神社の宮司は、本殿に納められていた宝物の一つがなくなっていることに気が付いた。
 宮司は急いで家に戻ると、電話の受話器を握りしめ、幾つかの場所に連絡を取った。
「…………もしもし、……雪奈君かね――」



 そんな事件が起こっているとは露知らず……
 とある町に住む少年は、有意義な学園生活を送っていた。

「……997! ……998! ……999! ……1000! ……終了っ!!」
「「「ありがとうございましたっ!!」」」

 ここは、とある町の某私立高校の道場の一角。
 そこでは剣道部の新入部員たちが、竹刀を手に素振りを行っていた。
 そんな中に一際熱心に素振りを行っていた、小柄ながら精悍な少年がいた。叢雲稲生である。
 先輩部員の「解散!」の掛声に、部員達は一斉に礼をして、道場を退出していく。
 帰ろうとした稲生少年に向けて、一人の部員が声をかけた。
「お疲れっ。」
「……炎か。お疲れ。」
「珍しいな。ここんとこさっさと帰ってるけど……何かあったのか?」
「い、いや、べ、別に……」
 まさか、家に帰ってから母と姉に魔法少女の特訓を受けている――なんて言えるわけがない。
「? ……まあ別に言いたくないなら、いいけどさ。」
 この少年の名は、光風 炎(みつかぜ えん)。稲生とは逆に、長身痩躯な体つきをしている。
 彼は稲生の同級生であり、親友と言える間柄だ。二人とも剣道部に所属している。
 道場を出た後、部室で道着を着替えて、学校を後にする。
 他愛のない話をしながら校門を出ると、思わぬ者が稲生を待っていた。

 にゃ〜ん。「……はーちゃん?」

「あれ、その猫、稲生ンとこの猫なのか?」
「あ、ああ……」
 校門の前で待っていたのは、背筋を伸ばして行儀良く座った白猫――白雲であった。
 今までなかったことに驚きを隠せぬまま、稲生はしゃがんで白雲を抱え上げる。
 すると、白猫は誰にも分からないように耳元でささやいてきた。

「稲生様、早急にお家にお戻り下さい。……雪奈様がお待ちになっておられます。」
「え……?」

 白雲のささやきに、思わず声が漏れる。
 その間に白雲は稲生の手からするりと逃れて、地面に着地する。
 少しばかり動揺を見せた稲生に、炎が心配そうに声をかけた。
「? ……どうした?」
「んっ、いや、何でもない。……じゃあ俺、先に帰るわ。」
「そうか。……それじゃあな。」
 稲生は炎と別れ、白雲とともに急いで家路に着いた。



 帰宅して早々、稲生は母である雪奈に、応接間へと連れてこられた。
 稲生は雪奈の表情から、何やら何時もの魔法の練習とは様子が違うようだと感じ始めていた。
 いつになく神妙な稲生に向けて、母は少し躊躇ってから口を開いた。
「……実は今朝方、青弓の小父様から大変なお話を伺ったのよ。」
「青弓の小父さん?」
 その名には聞き覚えがあった。叢雲家の遠縁の親戚ということで、色々と親交のある人物だ。
 確か、この町に程近い村の神社で宮司をしている――と聞いている。
「前に話したわよね。私達、叢雲の家には魔法の才のある者が現れるって……」
「うん、聞いた。」
「実は、青弓家もそういう血筋の家なの。もっといえば、叢雲家の本家筋になるのよ。」
「? ……それで?」
 話の筋が見えないまま、稲生は続きを促した。
「……そうね、本題を話さないとね。
 今朝方、その青弓の小父様から大変な電話をいただいたの。その内容と言うのが、御空神社の本殿に封じられていた十二体の『封妖』の封印が解かれていたというものだったの。」
「十二体の、封妖?」
 初めて聞く単語に、稲生は首を捻った。
 すると、それを補足するかの様に雪奈の傍らで蹲っていた使い魔――白雲が話を継ぐ。
「私も詳しくは存じませんが……私の先代から伝え聞くところによりますと、公方様が世を治められていた頃に、ある妖術師が創り出したという十二体の式神のことなのだそうです。
 その式神の力はたいそう強力で、妖術師はその力を持って世の転覆を試みたらしいのですが、青弓家を始めとする幾人もの術者がその妖術師を倒し、式神を御空神社に封じたのだそうで御座います。」
「つまり、その話の強力な力を持った式神……とかいうやつの封印が、解かれたってこと?」
 白雲の話を聞いたあと、暫くしてからそう稲生は二人――じゃなくて、一人と一匹に問いかけた。
 母と彼の使い魔は、黙って首を上下させた。
 真摯な目で彼を見詰める両者に、少年は嫌な予感を感じ始めていた。
 そして、そんな「嫌な予感」というのは、得てして的中するものだ。
「で、貴女にその封妖たちを封じ直して欲しいのよ。」
「……え?」

 予想していたとはいえ、稲生は硬直してしまう。
「え……じゃないわよ。当代の魔法の使い手は今のところ、イーナである貴女しかいないのだから。」
「…………」
「大丈夫、貴女一人に相手をさせるつもりはないわ。」

 母の言葉を拒否する権利は、稲生少年にはなかった。



 詳しい話を聞くために、稲生と雪奈、そして白雲は、姉の霞に家の留守を任せ、青弓家へと向かった。
 二人と一匹の乗った車は市街地から離れ郊外に至り、更に川沿いの道路を走る。
 ……しかし、そこで事態は意外な方向に動いた。

 ドォォォン――!

 青白い光が、彼女達を乗せた車に直撃する。

 ボンッ――!! キキキーッ――!

 直後、車は急ブレーキをかけて止まった。
 何かあったのか、ボンネットからは白煙が上がっている。
「な、何が起こったんだ!?!?」
「……アレね。」 「その様で……」
 急なことにうろたえる稲生に対し、雪奈と白雲は川縁の方を凝視している。
 稲生も慌ててそっちに視線をやる。そして、

「……なっ!」

 視線の先にいたものを目にした時、稲生は思わず絶句してしまった。
 そこにいたのは、川面の上で青白い光を放ちながらこちらを睨み付ける兎の姿であった。
「な、何だよ、あれは……?」
「おそらく、十二封妖が一体、『ライボウ』!」
 呆然と漏らした稲生の言葉に、生真面目な口調で白雲が答えを返し、叫んだ。
「稲生様! 変身を!」

 気が付けば、稲生の身体は少女のそれへと変化していた……。



 軽自動車の中で閃光が放たれ、そこから漆黒の衣を纏った矢が飛び出してきた。

「電光の魔法少女、エレクトリック・イーナ参上!!」

 飛び出してきたのは、黒衣の魔法少女であった。
 紫電を纏い、素早い動きで浮遊移動を行いつつ、手にしたロッドを兎の姿をした怪異に向ける。

「イーナ・ライトニングっ!!」

 ロッドから紫電の光条が放たれ、兎の姿をした怪異――ライボウに襲いかかった。
 しかし、妖兎はイーナの放った雷撃を目にも止まらぬ速さで躱す。
「えっ!? ……どういうことなのっ?」
「イーナ様! 彼奴の速さは尋常ではないようです!」
「そうみたいね……。はーちゃん、手伝ってっ!! イーナ・ライトニングっ!!」
 イーナはそう叫ぶと、再びロッドから雷条を放つ。
 その攻撃に呼応するように、白雲が妖兎を押さえんと虚空を駆ける。
 それらを迎撃せんと、妖兎ライボウからも雷光が放たれる。
 数条の雷撃が交差する中、遂に白い雷猫が青き妖兎の動きを捉えた。
 その鉤爪で妖兎を押さえ……そして叫ぶっ!
「イーナ様! 今です!」

「イーナ・ライトニングっ!!」

 白雲の叫びにイーナがロッドを振るう。その直後、必殺の雷撃がライボウに直撃した。
 しかし青き妖兎は痛痒を感じることもなく、次の瞬間全身から強烈な雷光を放った。そして、妖兎を取り押さえていた白雲は、その強烈な雷光に弾き飛ばされた。
「ギニャウッ!!」
「……効いていないの!?」
 その身を一回り巨大化させるライボウの姿に、イーナは狼狽した声を漏らした。



「白氷槍(しらひやり)!」
 必殺技を封じられた格好になったイーナと白雲が呆然となったその時、彼女等と異なる方向から、妖兎に向けて白い光が飛んだ。
 その正体は、槍状の氷柱であった。それは妖兎ライボウを貫き、その身体をそのまま地面に縫い止めた。
 妖兎はその一撃に、苦悶の叫びを上げる。
 イーナが氷柱の飛来した方を見ると、その先にいたのは母――雪奈であった。
「いな……イーナ、聞きなさい! そいつは雷の精のようだわ! 貴女の攻撃を直接打ち込んでも効かないけど、やりようはまだあるはずよっ!!」
 その声に、白雲がはっと顔を上げた。「イーナ様、金物です! 彼奴が雷の精なら、金属が弱点のはず!!」
「金物ねっ!」
 イーナは首を廻らす。
 彼女の目に、川の土手に張られた金網のフェンスが目に映った。
(これなら……何とかやれるわ!)
 イーナはブレスレットに意識を集中させる。それに応じてブレスレットから紫電の輝きが全身に向けて放たれる。
 次の瞬間、彼女の衣装は漆黒から紫へと色を変えた。
 イーナはロッドをフェンスの方に向け、再度意識を集中する。
「…………」
 その間にも妖兎ライボウは雪奈の放った氷柱の戒めから脱し、イーナに向けて必殺の雷光と共に襲い掛からんとしていた。
 その刹那、イーナはその身を妖兎に向けて翻した。

「イーナ・マグネキネシスっ!!」

 その掛声と共に、土手のフェンスが各々の鋼材に分解し、妖兎に向けて襲いかかった。
 妖兎ライボウは飛来する鋼材群を素早い動きでよけようとしたが、それら総てを躱しきることはできなかった。
 その身を鋼材に貫かれ、妖兎は一際高い苦悶の叫びを上げた。鋼材からは小さな電気火花が飛び散り、それとともに妖兎の存在も小さく希薄な物へと変わっていく……



 それから暫くの時間を要したのち、妖兎ライボウの姿は完全に消失した。
 そして、その場には「卯」と言う文字の彫られた青い勾玉だけが残った。



 一連の情景を、密かに木陰より見詰めていた影があった。
 影は勾玉に気を取られているイーナ達に気取られることなく、その場を後にした。
 暫しのち、御空神社の裏手に位置する山の奥まった某所に、その影の姿があった。
 それは一本の古木の根元に身を落ち着けると、声を顰めて言葉を紡いだ。
「『ランシン』よ……ランシンよ……」
 その声に、地がうねった……いや、それは地面ではなかった。それは鎌首をもたげ、影に向かって問いかける。
「何があった……『コウシン』よ……」
 その問いに、影が答える。
「ボウが……ライボウが封ぜられた」
 その言葉に、別の方から獣じみた唸りとともに言葉が掛けられる。
「何? ボウが……?」
 その声に、先程の鎌首が声をかける。
「ライボウは我等の内で最も弱き者。慌てるに及ぶまい。……コウシンよ、ボウを封じたのは何者か?」
「よくは判らぬ。恐らくは、叢雲の者……」
 影の答えに、それは顎を歪ませた。……笑みを浮かべているのだ。
「叢雲の……それは面白い。」

 数対の瞳が、その笑みをじっと見詰めていた…………

(続く……)




〈後書き〉

夜夢:どーも、エレクトリック・イーナの新しい物語、楽しんで戴けたでしょうか?
暮幻:取り敢えず、“ミストレスと〜”から独立した物語として立ち上げてあります。まぁ、大きくはミストレスシリーズの一つと取れる物なんですけど……
夜夢:……“ミストレスと〜”内のイーナ編は短編、こちらは長編連載と並行進行を予定しています。両者とも楽しんで頂けるのなら幸いです。
暮幻:……ドツボに嵌らないといいわね。(アサッテノホウヲミヤリ……)
夜夢:暮幻……、言い方がジャベリン……
昼現:(二人は無視して……)この十二封妖編は、文庫等でも幾つか発表されている魔法少女物のストリーラインに沿った形で進行していく予定です。
夜夢:……と言う訳で、次回予告でも……と思ったんだけど、上手い字面が思い浮かばない。(笑)
暮幻:…………(呆)

夜夢:……と言う訳で、ここで次回予告です! ……次回は、御空神社を訪れる稲生に襲い掛かる第二の封妖との戦いです!
暮幻:……って、ホントに内容のない次回予告ね……(冷)
昼現:何はともあれ、次回をお楽しみに……最後に、御一読ありがとう御座いました。

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