それは妖が身近に感じられる世界。

ちょっとした暗闇や場所にそれらが潜み、我々の生活に影響を与えてくる。

彼らを正確に何というかは誰も知らない。

だが彼らは実際に存在する。そう、貴方の後ろに・・・・

 

某県桜木市。

人口7万人のこの地方都市は神話の時代から妖(あやかし)との関係が深い所だった。

各所にかつて妖を封じ込めたという場所が存在し、数多の伝説が伝えられる。

だが史跡や伝説だけなら問題はなかったのだが、都市開発という流れがそれを変えてしまった。

愚かなことにそれらを多数目覚めさせる結果になったのだ。

もちろん過去に妖が現われたことはあったが、それに対し人々は冷静に対処する術を持っていた。

しかし、時代は変わった・・・かつて妖に持っていた畏敬の念を忘れてしまったのだ。

そこに多量に現われる妖達。人々は大混乱に陥ってしまった。

警察も科学者も役に立たない妖に対し、市は古代からこの地方の神事を司ってきた宮内神社に協力を依頼する。

というのも妖を見つけ封じることの出来る能力を宮内神社の巫女は代々引き継いでいたからだった。

だが妖は市のあちこちに出没するのに対し、対処する能力のある宮内神社の巫女は一人だけだった。

そこで市と神社は市民から適性のある人間を選び巫女として採用することとした。

ここに市長直属の対妖対策課が創設される。

この構成員は全て巫女という対妖対策課のことを人々はこう呼んだ。

「巫女遊撃隊」と。

 


巫女遊撃隊
作:h.hokura


 

「ちょっと待って下さい・・・僕が何で『巫女遊撃隊』に?」

神城薫。名前は女性っぽいがれっきとした男性である。

職業は宮内神社の在る町の警察に勤める警官だった。

それがある日署長に呼び出され、対妖対策課・通称『巫女遊撃隊』に出向せよと命じられたのだった。

「そんなこと私に分かるか・・・とにかくこれは市長と公安委員会の決定だ。」

署長はしかめっ面をしながら書類を薫に差し出す。

「もっともお前さんを名指しで指名してきたのは、宮内神社の宮司殿と対妖対策課の責任者らしいが。」

宮内神社の宮司は市の実力者の一人で、市長はおろか県知事まで影響力があるといわれる人物だ。

ちなみに対妖対策課の責任者はその宮司の娘で、代々妖を封じる能力を継承してきた巫女だ。

「しかし、あそこは巫女さんばかり・・・・つまり女性しかいない所じゃないですか。」

対妖対策課は別名『巫女遊撃隊』と呼ばれるように構成員は全員巫女、つまり全員女性の職場ということになる。

そこに男の自分が行くというのは・・・・

「だがこれは決定事項だ・・・明日10:00に宮内神社に行くように。」

署長はそう言うと退出するよう促す。

薫はしぶしぶ署長室を出てゆくのだった。

 

翌日9:30。

住んでいるアパートを出て宮内神社に向う薫。

神社は勤務している警察署の近くにあるので迷うことはなく神社に着く。

長い階段を上り鳥居をくぐって境内に入る。

何時見ても荘厳で、歴史の重みを感じさせるところだが、薫はこれからの事を考えて憂鬱になる。

取り合えず来訪を告げる為に社務所に向うと、扉から巫女さんが一人出て来たので声を掛ける。

「すみません・・・・・」

話し掛けられた巫女さんがにこやかに答える。

「何か御用でしょうか。」

 

「結花さん、御神刀はもう宝物庫から出していただきましたか?」

長い髪を紐で結った巫女装束の女性が社務所に入って来て、部屋にいた別の巫女装束の女性に話し掛ける。

「あ、はい・・・準備はできてます。」

結花と呼ばれた女性が答える。

「ご苦労様です、これで十分間に合いそうですね。」

その女性、対妖対策課の責任者である神北慧は部屋の壁に掛けられた時計を見る。

時刻は9:50を過ぎたところだった。

「それにしてもちゃんと来てくれるんですかねその人、逃げちゃうんじゃないんですか?女ばかりの所と聞いて・・・・」

慧の後から入って来た3人目の巫女装束の女性が二人に言う。

「あの方はそんな人ではありませんよ・・・・美香さん。」

慧はそう言って入って来た牧瀬美香をたしなめる。

そう言われ美香は肩を竦めると椅子に座る。

「でも驚いていらっしゃるでしょうね。」

結花が二人にお茶を入れながら話し掛けてくる。

「そうでしょうね、でも彼でなければならないのです。」

慧がそう言った時、ドアを開いて4人目の巫女装束の女性・滝田亜紀が入ってくる。

「あ、慧さん・・・神城薫さんが今到着しました。」

 

社務所前で会った巫女に案内され薫は祭壇のある部屋に来ていた。

座敷に座り薫は周りを珍しげに見る。

そのうち後の扉が開き巫女装束の女性が二人入って来る。

うち一人の巫女は細長い木箱を持っている。

「お待たせしました。」

巫女装束の女性が薫に頭を下げて挨拶してくる。

「対妖対策課・責任者を拝命している神北慧ともうします。それから・・・」

「同じく対妖対策課の沢木結花です。」

薫も立ち上がり慌てて頭を下げる。

「あ、桜木警察の神城薫です。」

神北慧はにこやかに笑うと薫に座るよう促す。

「わざわざ来て頂いて申し訳ありません。」

慧と結花の二人は正座して座り、先ほどの細長い箱を薫の前に置く。

「あの、自分が何故・・・対妖対策課に?」

自分も慌てて正座し直すと薫は慧に一番聞きたい質問をする。

「それはこれの為です。」

慧はそう言って木箱を指し示す。

かなり古い木箱のようであちこちはげている。

「これは・・・・一体?」

木箱を薫の方に押し出し慧は木箱を縛っている〆縄を外す。

そして蓋を開けると・・・そこに入っているのは刀だった。

不思議なことに刀自身は木箱に比べれば真新しかった。

だが薫はそれより刀を見た時から奇妙な感覚を感じていた。

「どうですか?」

そんな薫を見ながら慧が質問してくる。

「刀から何かが流れてくるような?これって・・・」

慧と結花は顔を見合わせて頷く。

「それは貴方が持つ神城の血が御神刀と共鳴しているのでしょう。」

慧は刀を見下ろしながら説明する。

「御神刀?・・それに神城の血って・・・」

薫は疑問を感じながらも刀から目が離せない。

「それは・・・」

慧が説明しようとした時、突然部屋の扉が開かれ、亜紀が駆け込んで来る。

「あ、慧さん・・・今3丁目の工事現場で妖が出現したと連絡がはいりました。」

「落ち着いて下さい亜紀さん。」

慧は亜紀を落ち着かせるように言うと、結花と亜紀の二人に指示する。

「結花さんは美香さんと準備を・・・亜紀さん状況の説明を。」

にわかに騒然としはじめた中で薫は刀から更に強い波動を感じていた。

薫はそれが何か理解する事もなく刀に手を伸ばしてゆく。

「神城さん貴方も・・・・」

振り向いた慧は呆然とした表情で薫が刀を手にしているのに気付く。

「むやみに触っては駄目です!」

慧がそれに気付いて叫ぶが、薫は何かに操られるように刀を鞘から抜く。

次の瞬間、光が抜かれた刀から放たれ慧達の目を眩ませる。

 

ずん。

刀を鞘から抜いた瞬間何かの衝撃が身体を走るのを感じ、薫は思わず目を閉じてしまう。

(何が・・・?)

やがて衝撃が収まり薫は気を取り直し目を開けるが・・・

薫は今までより視点が下がっていることに気付く。いやそれだけではなかった。

着ている服がだぶだぶになっている・・・一方胸と腰まわりがいやにきつくなっている。

パサ。

そして背中や首筋に掛かってくる長くさらさらしたもの。

手を触れるとそれが髪の毛だと気付き薫は動揺する。

(お、俺の身体どうなってるんだよ。)

救いを求めるように慧達を見るが、彼女たちも薫の姿を見て全員絶句している。

「・・・・神城・・さん・・ですよね?」

結花がかすれた声で聞いてくる。

「なに言っているんですか、自分は神城薫に決まって・・・・」

だが薫の言葉はそこで途切れる。

自分の声ではなかった、それはソプラノの女声。

震えるその声で薫は慧に恐る恐る質問する。

「神北さん・・・俺もしかして?」

慧は頷くと薫の両肩に手を置いて答える。

「貴方の姿はどう見ても16,7歳の女の子です。」

そう今や薫は腰まで伸びた美しい黒髪と緑色の瞳を持つ、神秘的で神々しい美少女だった。

「な・・・な・・・・何で?」

余りのことに狼狽する薫。慧達も何と答えればいいか分からず立ち尽くす。

が、何時までも呆けているわけにもいかず慧は気を取り直して話しはじめる。

「・・・今は時間がありません。取り合えず薫さんはここで待っていてください。」

そこまで言ってから慧は、サイズの合わない男物の服を着て御神刀を持ったまま呆然とする薫を見る。

慧はしばらく俯いて何事か考えていたがやがて顔を上げる。

「亜紀さん、神城さんに巫女装束を着せてあげてもらえますか。」

慧は亜紀の方を向くと指示をする。

「巫女・・装束ですか?でも今の神城さんに合うサイズがあるかどうか。」

亜紀は突然の指示に困惑しながら答える。

「正月に高校生の方達がアルバイトをする時のものが在ったはずです。」

宮内神社も正月など忙しい時は近隣の女子高生をアルバイトの巫女として採用することがある。

「はい、分かりました。」

亜紀は部屋を足早に出て巫女装束を準備しに行く。

「まさか連れて行くつもりですか?」

結花が慧に聞いて来る。

「そのつもりです。よろしいですね神城さん・・・」

そう答えて薫を見る慧だった。

言い方は穏やかだがそこには有無を言わせない迫力があった。

「は、はい。」

思わずそう言って頷いてしまう薫。

社務所内に設けられた対妖対策課はにわかに慌しくなり始める。

やがて準備が整った一行は警察差し回しのマイクロバスに向う。

何が何だか分からないまま、薫は巫女達と共に出発するのだった。

ちなみに薫はあの後、別室で今まで着ていた男服を剥ぎ取られ(笑)巫女装束を着せられた。

本人は恥ずかしくてしょうがなかったが、着付けを手伝った亜紀は時間が無いと言って容赦がなかった。

 

「あの・・・・どこへ?」

薫は巫女達に囲まれた車内で聞く。もっとも今の自分の姿も巫女だが。

前の座席に座っていた慧が後ろを振り向いて答える。

「3丁目の工事現場に妖が出現し工事中の労働者の方たちが襲われました。」

慧は落ち着いた態度で説明する。

「どうも工事中に誤って封印の祠を壊したようですね。」

薫の隣に座っていた美香が呆れたように呟く。

「またか・・あれほど注意しろと言われているのに。」

「その通りですね、どうも不注意な方が多くて困ります。」

その美香の隣に座る結花が溜息をついて答える。

「急いでいたらしくて、よく確認しないで工事を始めたみたいですね。」

一報を受けた亜紀が一同に報告する。

「私達はこれからその現場に赴き、妖を封じます。」

慧が薫の顔を見詰めながら言う。

「貴方に慣れてもらう為にはいい機会です。・・・まあこんな形でとは思ってなかったのですが。」

薫は「はあ・・・・」としか言えなかった。あまりの急展開に思考がついてこれない。

「まあ“百聞は一見にしかず”ってところかな。」

美香が手を頭の後ろに組みながら陽気に言ってくる。

(そんな気楽な・・・・)と薫は思った。

やがてマイクロバスは幹線道路から工事現場らしい場所に入っていく。

そこには既にパトカーや救急車、消防車など緊急車両が多数止まっている。

バスが停車し、慧をはじめとする対妖対策課のメンバーが降りる。

その彼女達を現場の責任者らしい警官が迎える。

「お待ちしておりました。」

その警官に微笑みながら慧が答える。

「対妖対策課の神北です・・・どんな状況でしょうか。」

警官は工事現場の奥の方を指差しながら説明する。

「妖の姿は現在確認できません。」

慧は傾いたシャベルカーの側に開いた穴を見詰める。

「ただ、工事現場を出たようではないので、まだここにいると思われますが。」

警官はそう言って周りを見る。

「ご指示どおり関係者以外は退去させました。」

慧は警官の方を見て頷く。

「ご苦労様でした。後は我々が処理しますので貴方も待避して下さい。」

警官は「分かりました。」と言うと敬礼し、他の警官や消防士に後退するよう指示する。

瞬く間に集まっていた緊急車両と慧達を乗せてきたバスが工事現場から出て行く。

後には5人の巫女達(もちろん薫も含む)だけが残る。

「それでは行きましょうか・・・神城さん貴方はここに居て下さい。」

慧はそう言うと他の巫女達を促し、それぞれ刀らしいものを手にして工事現場に入って行く。

薫はその場に佇み、彼女達を見送る・・・

 

慧達4人の巫女達は慎重に穴に向かって歩いて行く。

「静かすぎますね・・・・」

結花が言うとおり周りは不気味なほど静かだった。

「気を緩めないで・・・確実にいます。」

穴を見詰めながら慧が3人に注意する。

やがて穴を覗き込める位置まで近付いた時・・・・

穴から黒いものが飛び出し4人に襲い掛かってくる。

「は!」

慧が持っていた刀を鞘から抜き襲い掛かってくるものを両断する。

ギェー

何ともいえない声を上げ地面に落ちたのは子犬くらいの大きさの虫みたいな生物だった。

「封・滅。」

美香が懐から出したお札を虫に投げつける。

その札が虫に張り付いた途端、光に包まれて後には半透明の玉が残る。

虫みたいな生物達は穴から次々と現われて襲ってくるが、慧達は刀で切りつけ、札で封印してゆく。

その光景を薫はあっけに取られた表情で見ていた。

(こ、これが妖退治・・・?)

何しろ初めて見る光景だけに薫は驚きを隠せない。

だが次の瞬間薫は背筋がぞくっとするものを穴から感じる。

慧達も同様に感じたようで全員が身構えるのが見える。

ずしゃり・・・・

土砂を噴き上げるようにして現われたのは、今まで現われた妖の数倍はデカイやつだった。

「!? 妖達が合体した・・・」

慧の言葉に美香達は表情を強張らせる。

「け、慧さんこれ・・・・」

亜紀が何か言う前に慧が叫ぶ。

「結界を張って・・・早く!」

結花と亜紀が取り出した札を飛ばして叫ぶ。

「封・壁!」

妖は穴から出ようとして何かに阻まれるように動きを止める。

「烈火の陣を!」

慧を中心に巫女達が陣形を作る。

「邪気なるもの」

「「「邪気なるもの」」」

慧の言葉を3人の巫女達が復唱する。

「紅き力にて」

「「「紅き力にて」」」

動きを封じるものに妖は激しく抵抗している。

「我が封じる!」

「「「我が封じる!」」」

「は!」慧が構えていた刀を気合と共に振り下ろした瞬間、炎が現われて妖に向かって飛ぶ。

炎は妖にぶつかり激しい閃光を発する・・・が直ぐにかき消すように光は消える。

「弾き返したの?・・・この妖、思ったより力が・・・」

慧は焦りの表情を浮かべて呟く。

「ど、どうすればいいんですか?」

美香が自分の刀を構えながら後ずさりする。

ビシ・・・ビシ・・・・

何かが引きちぎれるような音が激しくなる。

「結界が・・・もう持ちませんっ。」

亜紀が悲鳴を上げる。

薫は、巫女達の攻撃が失敗に終って彼女達がじりじり後退するのをただ呆然と見詰める。

居ても立ってもいられず薫は彼女達の元へ走る。

バキ・・・・バキ・・・

何かが突き破られる音がして妖が完全に穴から出てくる、どうやら結界を突き破ったらしい。

それを見ていた慧がこちらに向かって走ってくる薫に気付く。

(そうだわ、あの御神刀と今の神城さんなら。)

「皆さん、もう一度烈火の陣をやります。」

その慧の言葉に美香達が顔を見合わせる。

「でも先ほどやって効果がなかったですが。」

結花が皆を代表して聞いてくる。

「今度は神城さんにも加わってもらいます。」

慧の言葉に薫は目を丸くして答える。

「お、俺もですか・・・・でもやり方なんてわかりませんよ。」

「大丈夫です、貴方とその御神刀があれば。」

慧は薫の持っている刀を指差しながら言う。

「今は私を信じて・・・神城さん。」

真剣な慧の表情に薫は頷く。とにかく今はこの状況を何とかしなければならないのはよく判る。

美香と結花、亜紀の3人も頷く。

「神城さんは私の後ろに。」

慧を先頭にその後ろに薫、左右に美香と結花、しんがりを亜紀という陣を組む。

「私の言葉を復唱して下さい。」

慧の指示に頷く薫、妖はもう目の前に迫っている。

「邪気なるもの」

「「「「邪気なるもの」」」」

慧の言葉を今度は薫を含めた4人で復唱する。

「紅き力にて」

「「「「紅き力にて」」」」

「我が封じる!」

「「「「我が封じる!」」」」

慧が再び気合を込めて刀を振り下ろす。

その瞬間先ほどとは比べ物にならない炎が放たれる。

その炎は薫達に向かって来た妖の真正面にまともにぶつかり凄まじい閃光を発する。

ギェー

炎は不気味な絶叫をあげた妖を一瞬で消滅させる。

その凄まじい威力にこのことを提案した慧でさえ絶句する。

妖が存在していた場所には、一つの玉だけが残っているだけであった。

「ウソだろう・・・・一人加わっただけでこんなになるのか。」

美香が自分の刀を見ながら呟く。

「倍というものではありませんねこれは・・・数十倍威力が増してますね。」

結花が顔を引きつらせて答える。

「・・・これってやっぱり?」

そう言って亜紀は自分の前で皆と同じに呆然としている少女・薫(笑)を見て呟く。

その言葉に左右の美香と結花も薫を見詰める。

「話は後で・・・亜紀さんと美香さんは妖を祠に封印をして下さい。」

「はい、行きましょう美香さん。」

二人は落ちている玉を拾うと穴の方に急いで向う。

「結花さんは神城さんを連れて先に戻って下さい。」

慧はまだ呆然としている薫の手を掴むと、結花のもとに連れて行く。

「分かりました。」

薫と結花は現場を離れると近くで待機していたバスに乗りこみ宮内神社に戻ったのだった。

 

神社に帰り着いた薫は結花に別室に案内されるとそのまま待つよう言われる。

やがて宮司の格好をした男性と現場の後片付けを終えて神社に帰ってきた慧が部屋にやってくる。

「神城薫君だね、私は宮内神社の宮司を勤める神北真一といいます。」

薫の前に座り男性は薫を見詰めながら自己紹介をする。

「今回のことに君は大変驚いているだろうが、我々も非常に困惑している。」

真一はそう言って深い溜息をつく。

「実は慧から連絡を受け、色々調べてみたのだが・・・」

持ってきたかなり古い本を開きそれを薫の方へ差し出す。

そのページには一枚の古ぼけた写真が載っているが、薫はそれを見たとたん大きな衝撃を受ける。

写真には5人の巫女達が写っていたが、そのうちの一人の姿に見覚えがあったからだ。

他でもない今の自分の姿とそっくりな少女・・・・

「彼女の名は神城綾、君の曾祖母にあたる人だね。」

真一はそう言って今の薫とそっくりな少女を指差す。

薫は呆然としながらも頷く。

「実は明治時代にこの地方で今のような妖が大量に蘇る事件があった。」

真一の話に何も言わず聞き入る薫と慧。

「この時にこれを鎮めたのがこの5人の巫女達とそれぞれが持っていた御神刀なのだ。」

薫は写真の巫女達が手にしている刀と自分や慧達の持っている刀が似ていることに気付く。

「それじゃ、この写真の巫女達って・・・・」

真一の代わりに慧が答える。

「そう、私達5人はこの方達の直系の子孫にあたるの。」

うすうす分かっていたとはいえ、薫にとってはやはり衝撃的であった。

「でもそれと自分がこの写真の娘と同じになってしまう事とは関係が?」

真一は溜息を付くと本を閉じ、別の本を取り出す。

それは先ほどの本よりさらに古いものだった。

「古文書によると、神城綾の持っていた御神刀はかなり強大な力を持っていたらしい。」

古文書を開きながら真一が話を続ける。

「そして神城綾はその御神刀の力を最も引き出せた人間だった。」

古文書を閉じて真一は薫を見る。

「これは私の推測だが・・・御神刀がその力を最大限に発揮する為に君の姿を変えてしまった。」

薫と慧は声もなく真一の言葉を聞いている。

「つまり御神刀にとって、もっとも力を引き出すことの出来た16歳の神城綾の姿に。」

薫は自分の持っている刀を見詰める。そして場にしばしの沈黙が落ちる。

「それで・・・これからどうなるんでしょうか?」

やがて薫が今一番気になっていることを質問する。

「先ほど言ったように、君の今の姿は御神刀を使いこなす為のものだ。」

真一は考えながら答える。

「だから御神刀を暫く離して様子を見るしかないだろう。・・・影響が薄らげば元に戻るかもしれん。」

その言葉を聞いて少しは安堵する薫。そんな少女(笑)を見ながら真一が言いにくそうな顔をしながら話す。

「ところで今後の君のことだが、その・・・できれば今後もその力を対妖対策課で役立ててもらえないだろうか。」

「え・・・・」

薫は思わず真一の顔を見る。

「私からも御願いするわ。・・・今日は貴方が居てくれたお陰で妖を封印出来たのだから。」

慧が薫と御神刀を見ながら哀願する。

「で、でもそれって・・・事件の度に女の子になれってことですか?」

真一と慧はすまなそうな表情を浮かべながら頷く。

(いくら何でもそれは・・・)

薫は困ってしまった。確かに自分の能力が役に立つなら協力はしたいが・・・・

「本当は君が御神刀を使いこなせるか見極めてから対妖対策課に入ってもらうつもりだったのだが、そんな形とはいえそれを実証出来た。」

苦笑いしながら真一は薫を見る。

「もちろんその姿になるのは必要な時だけでいい。我々も出来るだけの協力を約束しよう。」

その言葉に結局、薫は折れた。それに対妖対策課への出向は決定事項であり、ここが駄目なら他に行く所などありもしれないのだから。

「分かりました。よろしく御願いします。」

ほっとした表情をする真一と慧。

「そうだ・・・その姿の時の名前を決めておいたほうがいいわね。」

慧がにこやかに笑いながら言う。

(何か慧さん喜んでいませんか?)

だが慧は、そんな薫の心の中の突っ込みなど気付かずに続ける。

「そうね・・・・やはり‘神城綾’がいいわ。その姿に一番合っていると思うし。」

「なるほど、2代目神城綾というわけか。」

妙に盛り上がる二人に、薫は今さらながら後悔しはじめていた。

(もしかして選択を誤ったかな・・・・)

どっちにしろ後悔先に立たずだったのだが・・・・・・

ちなみに薫が元の姿に戻ったのは翌日の朝で、巫女達はおおいに残念がったが、御神刀を持てば綾の姿になると聞いて喜んでいた。

そして彼女達の目に、ある意味“危険”な光が宿ったのを薫は知らなかった。

 

こうして対妖対策課に5人目の巫女が誕生した。

神秘的な魅力と能力を持つその美少女は、対妖対策課・・いや『巫女遊撃隊』の知名度を更に高めたのだった。

ところで宮司の神北真一は「必要な時だけでいい。」と言っていた‘神城綾’への変身(?)だが・・・

結局のところ慧をはじめとする巫女達に「巫女の修行に必要だから。」などと説得させられて変身させられることが多くなってゆく。

こうしているうちに‘神城綾’として生活している時間の方が長くなってゆく薫だった。

そのうち「ここに住んでいることになっているんだから。」ということで社務所内に部屋まで用意されてしまった。

やがてその部屋が、巫女達が綾に着せようと持ってきた服や化粧品などで埋まってゆくのは必然だった。

 

神城薫、『巫女遊撃隊』最強の巫女になった男。その活躍が今始まる・・・・のかもしれない(笑)。

 

終り

 

 

 

後書き

精霊戦記を書くつもりが、深夜アニメの某巫女委員会を見て発作的にこんな話を書いてしまいました。

話のコンセプトとしては、上記プラス戦隊ものといったところでしょうか。

あと、地域限定の防衛組織というのは昔見たマンガからヒントを得ました(あまりにも古いので知っている人はいないかも)。

最近でいうと、エ○セ○サー○?

それでは〜



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