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 どかーん!!!!

 建物の一角で強烈な音と共に火が吹き上がる。
 「わははははは。」
 その火を背景に一人の男が高笑いを上げている。
 「惰眠を貪る愚民ども!!今私が目覚めさせようぞ。」
 火を背景に男が叫ぶ。その姿は正に悪の首領か?
 いや男は白衣を着ているから、マッドサイエンティストか?
 しかしその割にこの男、年はかなり若い。少年といってもいいくらいだ。
 どう見ても高校生くらいにしか見えない。
 そして火に照らされる建物。これは学校に似ている。
 実はその通り、男はこの学校に通っている男子高校生なのだ。
 そんな彼が何でこんなことをしているのかというと・・・・・

 「先輩!いい加減にしてください。」
 突如白衣を着た少年に、怒った女性の声が掛けられる。
 「ふん、現れたな!!」
 少年の前に立つ一人の女性、いや年はその少年と大して変わらないから少女と呼ぶべきか。
 「何言ってるんですか、出てこないと僕の身体に悪戯するって脅かすくせに。」
 その少女はうんざりした表情で言う。しかしそんな表情をしても顔立ちのせいか可愛く見える。
 もちろん顔だけでなくスタイルも良いのは、着ている服の上からでも分かる。
 ただしその着ている服装がまた変わっているのだが。
 膝丈15cmmのミニのワンピース。肩や胸にはプロテクターのような物を付けている。
 そして腰には大きなリボン。足にはロングブーツを履き、腕の中間くらいまである手袋をしている。
 無骨な感じはするが、白と青の彩色を施されたその服は、着ている少女を更に魅力的にしている。
 少年もそう思ったのか、少女の姿を見ると笑みを浮かべ、腕を組み満足そうに語り始める。
 「うむ、似合っているぞ涼君。やっぱり思った通りだな。」
 そんな少年の言葉に、少女は顔を真っ赤にし、短いスカートの裾を下に引っ張りながら叫ぶ。
 「そんなこと言われても嬉しくありませんよ、由佳里先輩。」
 「だが・・・・」
 少年は少女の抗議を無視すると、指を指して言い放つ。
 「登場する時の口上はどうしたのかね涼君、これがないと始まらないではないか。」
 「そんなこと知りません!!」



マッドサイエンティストは美少女がお好き?

作:h.hokura

 火に包まれる校舎の前で対峙する、白衣を着た少年と、白と青の彩色を施された服を着た少女。
 さながら特撮ドラマみたいな光景だが、交わされる会話はどこか変だった。
 第一、お互いの呼び方自体ちぐはぐだった。
 少年の方を『由佳里先輩』、少女の方を『涼君』。
 普通だったら逆だろうに、この二人、最初からそう呼び合っている。
 「大体こんなことをしてる暇があるのなら、早くお互いの身体に戻る方法を考えて下さい。」
 『涼君』と呼ばれた少女が必死の面持ちで、『由佳里先輩』と呼ばれている少年に訴える。
 「何を言うんだ涼君。悪の首領として日々破壊と恐怖をばら撒くのが私の勤めなのだよ。」
 嫌な勤めもあったものである。
 『涼君』と呼ばれた少女─表記がめんどくさいので単に涼と呼ぶが─もそう思ったのか呆れた顔をする。
 「そんな勤め、忘れて下さい。だいたい何で僕が由佳里先輩とこんなことしないといけないんですか?」
 『由佳里先輩』と呼ばれている少年─こちらもめんどくさいので由佳里先輩と呼ぶが─は平然と言い返す。
 「それが、悪と正義に分かれた者達の宿命だ。私も悲しいんだよ。」
 『絶対嘘だ。』と涼は思った。由佳里先輩は絶対喜んでやっている。第一、悪と正義に分かれた者達って何なんだ。
 「そんな大層なもんですか、ただ単に由佳里先輩の後始末を僕がやっているだけじゃないですか。」
 涼は腰に手を当てて由佳里先輩を睨み付ける。もっとも、その顔立ちでは迫力はまったくない。
 美少女は何をしても絵になる。やっぱりあの身体は自分より、涼君の方が最適だな、由佳里先輩はそう確信した。
 「とにかく由佳里先輩には、元に戻す方法の研究に専念してもらいます。」
 きっぱり涼はそう言うと、腰の後ろにあるリボンの下から5cmくらいの棒状の物を取り出す。

 ぶん!!

 棒の先から白っぽい光が1Mほど伸び、涼はそれを身体の周りに纏わせる。
 一見、新体操で行われるリボン競技のようだが、涼の身体の周りにあるものは布には見えない。

 バチバチ!!

 風に飛ばされて来たと思われるゴミがそれに触れると、火花を散らし燃え落ちる。
 どうやらそのリボンは高電圧を帯びているようだった。
 「だいぶ上手くなったじゃないか。今度の競技会、楽しみだね。」
 由佳里先輩は、涼の姿を見ながら楽しそうに言う。あれに触れたら命に別状なくても気絶は確実なのだが。
 「先輩がやらせたんじゃないですか、それに僕は競技会になんか出たくありません。」
 涼は再度真っ赤になりながらもきっぱり言い返す。と言いつつ光のリボンを空中で華麗に廻している。
 「新体操部の部長はそう思っていないみたいだがね、実は私から君に進言してくれないかとお願いされたんだが。」
 「・・・まさか、承諾したんじゃないでしょうね。」
 嫌な予感に襲われながら涼は、由佳里先輩に聞くが、先輩からの答えはない。だが、その顔が全てを物語っている。
 「!! もう怒りました。先輩、今日こそ大人しく従ってもらいます。」
 放っておくと何をするか分かったもんじゃない、必ず捕まえてやると決意する涼。
 ダッシュすると光のリボンを由佳里先輩に飛ばす。この距離ならけっして外さない筈と思われたが。
 そんな状況でも由佳里先輩は笑みを絶やさず、楽しそうに言ってくる。
 「忘れていないかね、それを作ったのが誰なのかということを。」
 「作成者は先輩ですが、こいつの効果は誰にも防げないでしょう。」
 これに巻き付かれれば高電圧で必ず気絶させることが出来る。
 涼も本当はこんなことはしたくない。何しろ由佳里先輩の今の身体は、涼の元身体なのだから。
 だが、ここで躊躇していてはこの先何をさせられるか。
 心を鬼にし、一歩も動かない由佳里先輩に飛ばしたリボンを巻きつけた・・・・と見えたのだが。
 何故かリボンは、身体をすり抜けてしまう。何か変だと思う間もなく涼は先輩に体当たりしてゆく。
 だが、リボン同様に涼は、由佳里先輩をすり抜けてしまう。そしてそのまま火の中に突っ込んでしまう。
 「わああ?」
 火に中に消える涼。しかし、次の瞬間その火の中から何でもなかったように出てくる。
 服には焦げた後はまったく無く、もちろん身体にも火傷などまったくしていない。
 「やられた・・・・立体映像だったのか。」
 悔しそうに周りを見渡す涼。そう、あれほど激しく燃えているように見えたのは立体映像。偽物なのだ。
 そして涼と対峙していた由佳里先輩さえもそうだったのだ。まんまと涼は騙されたのだ。
 「いや楽しかったよ涼君。それではまた会おう。」
 地面に置かれた機械から聞こえる先輩の声。マイクとカメラも内蔵されていて、別の場所から涼と会話していたのだろう。
 「先輩!!!いい加減にして下さい!!!」
 しばしそれを呆然とそれを見ていた涼は、はたと気付くと校内に響くような絶叫を上げると力尽きて、その場に倒れこむ。

 「いや〜今日も面白かったな。」
 「あの掛け合い、一日に一度は見ないと学校に来た気がしないぜ。」
 「相変わらず可愛いな涼は。」
 「競技会ぜひ応援に行かなくちゃね。」
 「そうね、涼君の演技楽しみよね。」
 後ろから聞こえるギャラリー達の声。彼らの言う通り、二人の対決(?)は今やこの学校の恒例行事だ。
 もっとも本人にしてみれば、こんなこと恒例行事になどして欲しくはないのだが。
 「お疲れ様、涼君。」
 涼の肩に手を置き、慰めてくれる一人の女生徒。ショートカットの勝気な雰囲気を持つ少女だ。
 「あ、はい、南先輩。ありがとうございます。」
 彼女の手を借りて立ち上がる涼。全校生徒の中では、唯一彼女(?)のことを気遣ってくれる先輩だ。
 「それにしても全て立体映像とはね・・・凝っているというか。」
 さっきまで映し出されていた火も何時の間にか消えている。音も含め全部作り物だ。
 さすがにあの非常識な由佳里先輩も、本当に破壊活動はする気はないらしい。
 もっとも、それは彼女の良心から出たものではない、ただ単に後片付けが面倒なだけなのだ。
 「さて私達も戻りましょうか、早くしないと着替える時間が無くなっちゃうわ。」
 南先輩はそう言うと、涼を伴って校舎に向かう。この服、結構着替えるのに手間が掛かるのだ。
 ちなみにまだ授業時間中だが、教師はまったく知らぬ存ぜずを決め込んでいる。
 教師連中も巻き込まれるのを恐れているのだ。由佳里先輩は相手が教師だろうが気にも掛けない為だ。
 結局、涼一人が全てのとばっちりを受けることになる。
 第一、ここまでくればもう分かるだろうか。今の涼は件の由佳里先輩と身体が完全に入れ替わっている。
 これなど非常に由々しき事態のはずだが、学校上層部やPTA、果ては涼の親まで含め関わりを避けている。
 ただ、それでは余りにも無責任と思ったのだろう、少なくても学校生活ではフォローしてくれる。
 そのお陰で涼は元のクラスで授業を受けられる。ただし由佳里先輩の身体で、つまり女生徒として。
 最初は混乱もあったが今では皆に受け入れられている。涼本人は複雑な気分だったが。
 もっとも、そのお陰で涼は新たな悩みを抱えることになる。
 そしてことある毎に、悪の首領を演じては騒ぎを起こす由佳里先輩を、あの恥ずかしい服を着ては止めるハメに陥っている。
 しかもあの服を着て戦うように強制しているのは由佳里先輩だ。もし着ないと涼の身体を・・・というわけである。
 だったら、逆に由佳里先輩の身体を盾にすればいいと思うかもしれないが、彼女は「まあ、自由に使ってくれたまえ。」と言って全く動じない。
 最初から涼に勝ち目などなかったのだ。
 ところでこの服、先ほど使ったスタン(電撃)リボンと共に由佳里先輩の発明品だ。
 対衝撃、対熱、防水(?)機能付き。拳銃の弾丸さえも跳ね返すという優れものだ。が問題はそのデザインだった。
 アニメのスーパーヒロイン顔負けなのだ。ただ生徒達には男女含めて好評で、ファンクラブまで出来た。
 それがまた涼を悩ませているのだが。
 (・・・何でこうなったんだろうな。)
 いや分かっている。全ては3ヶ月前、由佳里先輩のあの一言から始まったのだ。


 「正義と悪の戦いというのは究極のロマンだと思わないかね。」
 「はあ?」
 放課後、呼び出された先で開口一番こう言われたら貴方はどう反応するだろうか?
 実際そう言われた当人、美崎高校一年の松原涼は暫く沈黙した後、こう返した。
 「今度は何をやろうというんですか先輩は?」
 聞き様によっては失礼な反応だが、相手のほうは気にもしていない。
 その口調と内容から、特撮オタクの男を想像されるかもしれないが、残念ながら間違いだ。
 相手の人物は涼の一年先輩の牧瀬由佳里、17歳。れっきとした女子高生だ。ただし
 「うむ、今度はそれを追求してみようかと思っているんだ。」
 普通の女子高生ではない。校内で最も関わってはいけない危険人物であり、
 「追求するのは構いませんが、人を巻きこまないで下さい。」
 超科学研究部(別名・悪魔の実験室)の責任者であり、美崎高校が誇る(?)マッドサイエンティストである。
 「それは酷いな、涼君なら協力をしてくれると思ったのに。」
 涼はそんな由佳里に何故か気に入られ、彼女の起こす災厄に校内で最も巻き込まれている人間だ。
 「今まで協力してきてロクな目に遭ったことないんですが。」
 由佳里先輩は容姿の面でも彼女の頭脳同様レベルが高い。黙って立っていればかなりの美少女だ。
 「第一、悪と正義って、ヒーロー物じゃあるまいし。」
 「さすがは涼君だね、私が目指すのはそこだよ。究極のヒーローを生み出すことだね。」
 そう黙っていれば。だが実態はこの通り。初めて会った人はそのギャップにかなり驚かされる。
 自分が目指す物の為には全能力を注ぎ込む。ただしその目指すものは大概常人には理解できないもの。
 「ヒーローってまさか先輩・・本気なんですか?」
 「もちろん本気だよ。そこで涼君に是非見てもらいたい物があるんだ。」
 涼を伴って隣の部屋に向かう由佳里先輩。その部屋は相変わらずわけの分からない物が散乱している。
 はっきりいって他人が一人で入れる所ではない。足でも引っ掛けて先輩の発明品を作動でもさせたりしたら・・・。
 学校の敷地を半分吹っ飛ばすだけで済めば幸運なほうだろう。
 そんな物騒な物にもまったく躊躇せず先輩は部屋の中央まで歩いてゆくと、カバーの掛けられた物を指し示す。
 「これが今回私が開発した究極のヒーローを生み出すアイテム。」
 掛かっているカバーを取り外す先輩。そこに現れたものは・・・・・
 服だった。ただしそのデザインは、何処から見ても、それ以外に考えられない物だった。
 「これって、女の子の服じゃないですか?」
 そうそこにあったのは、スカート丈がかなり短いワンピースだった。
 ただ肩や胸の部分にプロテクターが付いてる点が普通の服とは変わっている。
 「もしかして先輩が着るんですか?」
 そんなことないだろうなと思いながらも涼は聞いてみる。
 「むろん私がそんなことするわけないだろう。」
 先輩は当たり前と言えば当たり前の答えを返してくる。まあ、先輩は表に出ず裏から策を弄するのが得意なのだが。
 そして実行役に選ばれるのが何時も涼なのだ。と、ここまできて彼はとんでもないことに気付く。
 「ちょっと待って下さい。もしかして僕がこれを着るっていうんじゃ・・・。」
 先輩はにこりと笑みを浮かべる。ただしその笑みはとてもじゃないが心穏やかにはなれないものだ。
 「い、いくらなんでも女の子の服なんか着れません!」
 涼は必死になって先輩に訴える。第一、男の自分がこんな物着ても似合うわけないではないか。
 「むう、涼君にはとても似合うと思うのだが。」
 先輩はいかにも残念だという表情を浮かべる。
 「そんなこと言ったって駄目ですよ。女装なんてごめんです。」
 涼はきっぱりと断る。これなら今までの実験のほうがまだマシだ・・ということは全然ないのだが。
 涼の拒絶に由佳里先輩は何事か考えていたが、ふと、これこそ名案とばかりに薬品棚に向かう。
 「それなら女の子になればいいわけだな。」
 「って何を出すつもりですか。」
 薬品棚の扉を開けて瓶に入った何かの薬品を取り出そうとしている先輩に涼は慌てて声を掛ける。
 「いや、以前作った性別変・・・」
 「わーわー、止めて下さい。」
 何かとんでもない物を取り出そうとする先輩を阻止しようと手を伸ばす涼。
 だがそのことが悲劇が招くことになろうとは、涼も由佳里先輩もその時は思わなかった。
 それは偶然だった。ある薬品が入った試験管を持ち上げ時、先輩の腕に涼の手がぶつかり・・・・
 ショックで試験管が別の試験管の上に落ち、二つは見事に割れ、中身の薬品が混ざり・・・・
 真っ白な煙が瞬く間に部屋中に広まって行く。そして涼と由佳里先輩はその煙を吸い込んで意識を失う。
 部屋に充満した煙が消えるのに、それから20分も掛かった。

 「・・りょ・・君。・・うく・・ん。」
 誰かが何かを言っている。
 「涼・・大丈夫か・・・目を・・・」
 誰かが僕の名前を呼んでいて・・でも誰が?どうしてこんな?そういえば先輩に言われて・・・・部室に来て・・・
 涼が目を開けると部屋の天井が見える。どうやら仰向けに倒れたらしい。そんな涼を覗き込む人影。
 「先輩いったい何が・・・」
 ぼやけた視界が定まったとたんそこで涼はフリーズする。何しろ覗き込んできたその顔は。
 「な、何で僕がいるんだ!?」
 その顔はまさに自分自身の顔だったのだ。パニックにならないほうが不思議だろう。
 「落ち着きたまえ涼君。」
 目の前の自分からそんな声を掛けられ、涼はふと気付く。・・・この口調は?
 「先輩?由佳里先輩なんですか?何で僕の姿に?」
 「まあ、それについてはちゃんと説明しよう。立てられるかね。」
 自分の姿をした先輩はそう言って手を貸してくれる。
 「はい何とか・・・」
 手を借りて上半身を起こした涼は胸に妙な感覚を感じる。
 気になって見下ろした涼は服を下から持ち上げている二つの山みたいなものに気付く。
 それは女性の胸を見た時にそっくりだった。
 「え・・・」
 良く見れば何時の間にか着ている制服が変わっている。男子の詰め襟ではなく、女子のブレザーに。
 白いシャツの襟には赤いリボン―2年生を表す―が付いており、下は膝丈の青いプリーツスカート。
 完璧に美崎高校女子制服だった。
 「こ、これは一体?」
 制服は気絶している間に着せられたとしても、この胸の膨らみは・・・・
 「落ち着きたまえ涼君。・・・そうだな、あちらを見たまえ。何が起こったか一目で分かる。」
 先輩はそう言って涼を立ち上がらせて、部室の窓を指し示す。そこに写ったのは・・・
 普段見慣れた由佳里先輩と自分の姿。だが何か違うことに涼は気付く。
 顔に何時も浮かんでいる皮肉っぽい笑みが無く、代わりに困惑した表情を浮かべた由佳里先輩。
 後ろで先輩そっくりの笑みを浮かべ、腕を組んで立っている自分。
 慌てて全身をまさぐると、写っている由佳里先輩も同じ動作をする。
 「先輩、これってもしかして?」
 涼は”これは何かの間違いだ”と一筋の望みを掛けて由佳里先輩に質問する。
 「うむ。涼君と私の身体が入れ替わったようだね。非常に興味深い現象だ。」
 だが現実は余りにも残酷だった。先輩のその一言で望みは砕け散った。
 「前からこういう現象には注目していたんだ。研究意欲が湧くというものだ。」
 「って何言ってるんですか、これって大変なことじゃないですか。」
 先輩はやっぱり先輩だった。非常識な現象にも全く動じていない。とその時・・・
 「由佳里遅いわよ。今日家に来るんでしょ。だったら早くしなさい。」
 部室に一人の女生徒が入ってくる。由佳里先輩の友人である新島南先輩だった。
 変人である由佳里先輩と唯一まともに付き合える人物として学校内では有名な人だ。
 そして何かと厄介事に巻き込まれる涼を助けてくれる人でもある。
 「南先輩!」
 涼は地獄に仏という思いで南先輩にすがりつく。だが彼の今の姿は・・・・
 「ちょっと何の冗談よ由佳里?」
 突然すがりつかれた南先輩は困惑した声を上げる。まあ、あの由佳里先輩が泣きそうな声と表情でくればそうなるだろう。
 「違います、僕は松原涼ですよ。」
 必死になって訴える涼。
 「うむ、そして私が由佳里だ。」
 無意味に胸を張って答える由佳里先輩。
 「え?」
 南先輩は涼と由佳里の二人を見て声を上げる。何かの冗談かと思ったが、確かに何時もと様子が変だった。
 「どういうことなの?」
 
 代わる代わる二人から説明を受けて、南先輩は事情を理解した。
 「まったく由佳里は。で、どうするつもりなの?」
 深い溜息を付いて南先輩が由佳里先輩(姿は涼)に聞く。
 「まず原因だが、二つの薬品が混ざった為だと思うが、それがどうしてこうなったかは全く不明だ。」
 腕を組み、割れた薬品の瓶を見ながら由佳里先輩(しつこいが今の姿は涼)が言う。
 「不明って、それじゃ元に戻る方法は?」
 涼(その姿は由佳里先輩)がすがるように聞いてくる。
 「・・・・・・」
 「ふむ。」
 そんな涼(繰り返すがその姿は由佳里先輩)の姿を見て、由佳里先輩(以下略)と南先輩は顔を見合わせる。
 「? 何ですか二人とも。」
 由佳里先輩と南先輩の様子に、涼(以下略)は何となく嫌な予感を感じながら聞いてくる。
 「いや、そんな自分の姿を見ると妙な気がしてね。」
 「うん、何か普段の由佳里から想像できないものを見た気がして。」
 思わず脱力する涼。問題はそんなことではないはずなのだが。だが二人はそんなことお構いなしだ。
 「中身が変わるだけでこうも印象が違うとは驚きだ。なかなか萌えるものだな。」
 腕を組んで何度もうなずく由佳里先輩。
 「そうね。由佳里じゃこんなに可愛くならないわよね。」
 南先輩はニコニコした顔で言う。
 「由佳里先輩、それじゃ自爆です。あと南先輩、変なこと言わないで下さい。」
 涼はがっくりと床に座り込んで言う。
 「それに暢気なこと言わないで下さい。明日からどうするつもりです?」
 萎えてしまう気力を何とかかき集めて涼は訴える。こんなこと周りに何て説明すればいいのやら。
 だが由佳里先輩から返ってきた答えはシンプルだった。
 「ふむ、説明は私がしよう。なあに、皆すぐ分かってくれる。」
 妙に説得力のあるセリフだ。というか自分の弁説で周りをまた煙に巻いて納得させるのだろう。
 (由佳里先輩なら楽にやるだろうな、そういう人だ。)
 「南、頼みがある。涼君に女性としてのたしなみを教えてあげてくれないか。」
 「なんですかそれ?」
 由佳里先輩の言葉に涼が首を傾げる。
 「その格好はどうかと思ってね。君は今スカートなんだから。」
 「へ!?」
 涼が自分の姿を見ると、床に足を開いたまま座り込んでおり、見事にスカートの中が見えている。
 「あ、あ、あ。」
 慌てて足を閉じる涼。スカートを生まれて初めて穿いた(当たり前だ)なのですっかり失念していたのだ。
 「そうね。何時までその姿でいるか分からないならそうした方がいいわ。」
 真っ赤になってしまった涼を見ながら南先輩も納得したように言う。
 「そ、そんなぁ南先輩。」
 情けない声をあげる涼。いくらなんでも女性の仕草を身に着けてしまったらどうなるのか。
 「涼君とその身体は相性ピッタリなんだ。さらに磨きをかければさらに萌えて・・・」
 「萌えなくていいですって、だいたい萌えってなんなんですか?」
 萌えを強調する由佳里先輩に、涼は思いっきり突っ込む。
 「二人とも落ち着きなさい。とにかく、この状況を何とかしないと。」
 コント(笑)を始めた由佳里先輩と涼に、南先輩が呆れた顔で割り込んでくる。
 「その通りだ南。涼君、こんなことをしている場合ではないぞ。」
 真面目な顔をして涼を諭してくる由佳里先輩。
 「先輩が最初に言ったんじゃないですか。」
 思いっきり脱力する涼だった。

 ともかく、3人は教師側に説明する為に職員室に向かうことにする。
 「う・・・・・」
 歩き始めたとたん、涼は普段とは違う感覚に戸惑う。何しろ太腿の辺りが外気に当たり涼しい。
 体育の授業で穿く短パンのような感じだが、決定的に違うのはその開放感だろうか。
 短パンなら閉じられているという感覚なのだが、スカートだと外に開かれているような感覚がするのだ。
 おかげで下着を外に晒して歩いているような気がして非常に恥ずかしい。
 しかもその下着が股間にぴったりと張り付いているのが分かり、自分が今女性の身体だということを嫌でも思い知らされる。
 ちなみに由佳里先輩の方は、「ズボンだとめくれる心配が無くて楽だな。」と言ってご満悦であった。
 一方、南先輩は、歩きづらそうな涼にスカート姿での注意事項を教えてくれる。
 ふと涼は周りの視線に気づく。放課後に入ってそれほど経っていないせいで廊下にはまだ多くの生徒がいる。
 「なあ、あれ牧瀬先輩か?」
 「何か何時もと違わない?」
 「女の子っぽい気がするわね。」
 そんな声が彼らの方から聞こえてくる。
 「やっぱり中身が涼君だと周りの人たちもそう感じるみたいね。」
 南先輩がきょろきょろしている涼の姿を見て感心したみたいに頷く。
 「え、それって?」
 「仕草が何時もの由佳里と違って、物凄く女の子っぽいのよ。まるで別人。」
 何となく酷い事を言っている気がする涼だったが、肝心の由佳里先輩の方は別段気にも留めてないようだった。
 「南もそう思うかい?涼君が私の姿になるとこれほどのものとは思わなかったよ。私よりもよほどいい。」
 とても機嫌がいい由佳里先輩に、涼は呆れて物が言えない。
 (先輩、それじゃ自分が全然女性らしくないって言っているようなものじゃ。)
 まあ今まで由佳里先輩はその容姿に反して、尋常でない言動のせいで女性らしさが全く感じられなかった。
 それが入れ替わったとたん、急に女性らしくなった(単に涼が女性の身体を恥ずかしがっているだけ)のだ。
 元々美少女なのだから、そうなれば今までと注目度が違ってくるのは仕方ないのかもしれない。
 「は〜あ。」
 深いため息を付く涼。興味深げに見る視線は職員室に着くまで続いた。

 教師への説明はあっけなく終わった。普通ならとても信じて貰えない話なのだが。
 由佳里先輩が関わっているというだけで教師陣も納得したというか諦めているみたいだった。
 とりあえずお互い元いたクラスで授業を受けていいことにもなった。
 「親に何て言えばいいんだろう?」
 職員室を出た涼はそう言ってため息を付く。まさか「貴方の息子は事故で娘になりました」と言えばいいのだろうか。
 「それは心配しなくても大丈夫だ。私の親から君の親御さんへ言ってもらう。」
 由佳里先輩はそう言って涼の肩を叩く。
 「だから涼君は立派な女の子になってくれたまえ。」
 「そういう問題じゃありません。第一、先輩は男の身体になって平気なんですか?」
 あまりにも能天気な言葉に涼が抗議する。突然女の子の身体になって自分は困惑しているというのに。
 「・・・・・・・・・」
 そんな涼の言葉に由佳里先輩は黙り込む。それを見て涼は先輩もやっぱり困惑していると思ったのだが。
 「ふむ、なら私は立派な男になればいいわけだ。」
 やっぱり先輩だった。まともなリアクションを期待したのがそもそも間違いだった。
 「とりあえず二人とも私の家に行きましょう。」
 南先輩が涼の肩を叩いて言う。
 「涼君に女性の事を教えたいし。第一そのまま帰るわけにいかないでしょう。」
 確かにこのままの状態で帰ったら、両親は卒倒するかもしれない。
 「わかりました。」
 「そうしようか。」
 二人がそう答えるのを聞きながら、南はふと思った。
 (なんか言葉使いと容姿が合っているわね。相応しいというか。)
 そう今の二人は容姿と言葉使いがある意味ぴったりだった。
 別に涼は女言葉を使っているわけでないが、元々丁寧な話し方をしていたのでそれほど違和感がない。
 逆に由佳里の方は、普段から話し方がぞんざいなせいか今の容姿にぴったりだ。
 その結果、清楚な美少女とくだけた感じの少年という感じになっている。
 (こりゃ二人ともモテるわね。)
 南の予感は後日証明されることになる、涼にとっては迷惑なことに。
 
 その日は結局、南先輩の家に由佳里先輩と共に泊まってゆくことになった涼。
 そして由佳里先輩の両親から連絡を受けた両親と対面したのだが。
 「何も言うな。父さんは分かっているからな。」
 「お母さんもよ。だから貴方は娘としてりっぱに育てるわ。」
 何だか妙にテンションの高い両親。いったい由佳里先輩の両親に何を言われたのだろうか。
 「聞きたいかね涼君。」
 非常に嬉しそうに言う由佳里先輩。
 「いえ、いいです。というか聞きたくもありません。」
 ちなみに由佳里先輩の両親も後から来たのだが。
 「やったな由佳里。これからも精進するのだぞ。」
 「由佳里、とうとう私達を超えたわね。母さん嬉しいわ。」
 こちらは由佳里先輩(姿は涼)を囲み喜び合っていた。さすが先輩の両親。何から何までそっくりだ。
 「こんなことになって大変だろうが頑張りたまえ。」
 「何かあったら娘共々相談には乗るから気を落とさないでね。」
 唯一涼のことを案じてくれたのは南先輩の両親だけだった(泣)。
 3家合同会議がその後行われ、涼は当分の間、南先輩の家にやっかいになりながら女性のことを学ぶことになった。
 由佳里先輩も引っ越し(服や私物の交換)が終わるまでここに滞在することになった。
 その後、涼と由佳里先輩の両親は帰宅し、涼にとってはとんでもない一日が終わった・・・わけではなかった。
 「さあ涼君。まずは着替えからね。その後お風呂やトイレでの注意を・・・・」
 さっそく始まる南先輩の女の子講座。制服を脱がされて下着姿に貧血を起こし、お風呂ではのぼせてしまう涼。
 全てが終わった頃には完全にグロッキー状態になっていた。ちなみに由佳里先輩はけらけら笑ってそれを見ていた。
 「今日はこれまでね。明日もこの調子でいくわよ。」
 南先輩の言葉に涼は、「まだ続くんですか?」と情けない声を上げるのだった。
 だが涼の受難はまだ続いていた。
 「これ着るんですか?」
 出されたのは南先輩とお揃いのピンクのパジャマ。男としては着たくはないのだが、選択の余地は残っていなかった。
 「あと悪いんだけど、今日は私と一緒のベッドで寝てもらうから。」
 客室は由佳里先輩で塞がっているので、涼は南と寝るしかないと言うのだ。
 せめての慰めは、南先輩の部屋のベッドが結構大きかったので女の子二人で寝るには十分なことだった。
 しかしそういっても女の子と一緒に寝るというのは涼にとっては刺激が強すぎる。そう訴えたのだが。
 「お互い女の子なんだから気にすることないわよ。」
 どうやら南先輩は既に涼のことを女の子(事実身体はそうだが)と見なしているらしい。
 そのまま押し切られ、涼は南先輩と同じベッドで寝ることになった。
 一方、客室では・・・・・
 引かれた布団の上で涼の姿をした由佳里が腕を組み何事か考え込んでいた。
 「こんなことは計算外だったが、涼君にあの服を着せるという計画はどうやら実行できそうだ。」
 中身が涼本人だった頃は絶対ありえなかった邪悪な笑みが顔に浮かんでいた。
 「それに悪の首領としてこの身体は最適だ。ふふふ、これはまさに天の配剤。必ず成功させてみせる。」
 客間から漏れる笑い声。それは明け方まで続いていたらしい。もちろん涼はそんなことは知る由もなかったが。
 そして南先輩の部屋では・・・・
 「ね、眠れない・・・。」
 涼は、ベッドや隣で寝ている南先輩からする甘い香りや時々触れ合う身体の為まったく眠れないでいた。
 (一体これからどうなるんだろう。)
 結局、明け方まで起きている羽目に陥ったのだった。
 
 次の日の朝。二人揃って寝不足になっているのを見て南先輩は首を傾げていた。
 もっとも涼の方は憔悴しきっていたのに対し、由佳里先輩の方は何だか満足げで好対照だったが。

 朝の1年A組の教室。
 ホームルームの始まるのを待つ生徒達は、未だに登校してこないクラスメイトの事を話題にしていた。
 「それにしても涼の奴がまだ来ないなんて珍しいな。」
 「風邪でも引いたんじゃないか?」
 「インターネットのやり過ぎで寝坊したんだろう?」
 好き勝手なことを言うクラスメイトの男子達。
 「松原君何かあったのかしら?」
 「心配じゃない?特に由美は。」
 「そう言うあゆだって。」
 未だ主の居ない座席を心配そうに見ているクラスメイトの女子達。
 涼はこの1年A組では男女両方のクラスメイト達から人気があった。気取らない性格が受けているらしい。
 「そういえば昨日、悪魔の実験室で何かあったらしいぜ。」
 クラスメイトの一人がふと思い出したように話しだす。むろん例の騒ぎのことだ。
 「またなの?今度は何やったのかしら?」
 美崎高校のマッドサイエンティスト・由佳里先輩の話は一年生の生徒達にも知れ渡っている。
 何しろ新入生歓迎式の最中、特大花火を打ち上げ、強力すぎて学校だけではなく近隣の住宅地の窓まで割ってしまった。
 つまり学校一の危険人物の恐ろしさを一年生達は入学したその日に経験する羽目になったのだ。
 「そのうちこの学校を吹き飛ばすんじゃないだろうな。」
 誰かが呟いた言葉に、クラスメイト達は乾いた笑みを浮かべる。あながち冗談では済まないところがあるから怖い。
 そんな時チャイムがホームルームの始まりを知らせるように鳴り響く。涼は結局登校してこなかった。
 やがて教室の扉が開き担任の教師が入ってくる。当番の生徒の号令で朝の挨拶が行われる。
 A組生徒達が座るのを待って、担任の教師は口を開く。
 「ホームルームを始める前に全員に知らせておくことがある。」
 教室内に緊張が走り、皆の目は一つだけ主の居ない席に注がれる。
 「松原涼のことだ。あいつは・・・その何だ・・・」
 言葉に詰まる教師。生徒達の間にますます緊張が高まる。
 「いや松原は元気だ。命にどうのこうのとかいうんじゃない。ただな・・・・」
 それなら何が問題なのか?生徒達は何時もと違ってはっきりしない教師を不思議そうに見る。
 「まあいい。見ればお前達も分かるだろう。松原入って来い。」
 教師はそう言って扉の方に向かって言う。しばらくして扉が開き一人の生徒が入ってくる。
 「・・・・・・・・」
 教室内に何とも言えない沈黙が落ちる中、生徒達の目は一つ残らずその人物を見つめる。
 教師は確かに『松原涼』と言ったはずだ。しかし今この教室に入って来たその生徒は・・・・
 肩で切り揃えられた美しい黒髪、見栄えのする背丈、制服のスカートからすらりと伸びる眩しい脚。
 そう『松原涼』と呼ばれたその生徒は、どこからどう見ても女子生徒だった。それも飛びっきりの美少女の。
 沈黙の中、教壇の横に立ったその生徒は改めて教室内の皆を見る。そのとたんざわめきが広がる。
 「牧瀬先輩?」
 そうその女生徒は、先ほど話題に上った件の人物。牧瀬由佳里本人ではないか。
 「お前達が驚くのは無理ない。私だって未だに信じられん。」
 言葉を無くした生徒達を見て教師が言う。
 「とにかく、こいつの話を聞いてやってくれ。松原?」
 教師に促され、その女生徒はおずおずと口を開く。
 「えっと何と言ったらいいのやら・・・まあこの姿からは信じてもらえないかもしれないけど・・・・」
 伝え聞いた由佳里先輩とは違う雰囲気に生徒達は困惑する。
 「間違いなく松原涼本人です。昨日由佳里先輩と身体が入れ替わってしまいましたが。」
 先ほどより深い沈黙が落ちやがて・・・・・
 「「「「「「「「嘘だろう(でしょう)!?」」」」」」」
 その絶叫は1年A組の入っている校舎を大きく揺らしたのだった。と同時に2年生の校舎の方でも。

 「とまあそう言う訳で、松原は今は2年の牧瀬となってるんだ。いや言わなくてもいい、分かっている。」
 教師はため息を付いて生徒達の疑問に答える。
 「そんな非常識な事が、と言いたいんだろう?だがあの牧瀬が絡んでいるんだ。これくらい起こっても不思議じゃない。」
 そう言われ生徒達も納得せざるを得なかった。入学初日の出来事、そしてその後起こった彼女絡みの数々の事件を思えば。
 「中身が違う以上、そのままのクラスとはいかない為、入れ替えることになった。」
 「そういう訳で皆、迷惑を掛けるかもしれないけど宜しく。」
 教師の言葉を引き取って涼は頭を下げる。正直言って簡単に受け入れては貰えないとは思う。
 前日まで男子生徒だったのだから。特に女子生徒から見れば女の身体で男の心なんて存在には嫌悪感を持つだろう。
 駄目ならばそれでもしょうがない、涼はそう覚悟していたのだが。
 「ええ、宜しくね涼君。大変だろうけど私達がついているわ。」
 クラス委員の女生徒が立ち上がって答えると、周りの女生徒達も深く頷く。
 「え、いやそれは嬉しいけど・・・いいの?」
 あまりにもあっさりと、しかも女生徒達全員に何の躊躇もなく受け入れられてしまい、涼は戸惑ってしまう。
 「もちろん。涼君だったら私達は全然構わないわ。ねえ皆?」
 その女生徒の言葉に再び頷き涼を見る他の女生徒達。
 「み、皆・・・」
 喜びに涙を浮かべる涼だったが、残念ながらその感動は長続きしなかった。
 「だって涼君可愛いんだもん。」
 「へっ?」
 「そうよね、女の子になった涼君っていいわよね。」
 「あの・・・・」
 「これから色んな事教えてあげなきゃ。」
 「・・・・・・・・」
 目が思いっきり点になる涼。そんな彼を他所に盛り上がっていく女生徒達。
 「よかったじゃないか受け入れてもらえて。先生も安心したぞ。男子もいいな?」
 感動した教師がクラスの半分の男子生徒に聞く。
 「はい、問題ありません。」
 男子生徒も全員一致で答える。もっとも彼らの顔には何と言うか邪な物が浮かんでいるのを涼は見逃さなかった。

 「それではホームルームはここまで。」
 教師はそう言うと教室を出て行く。すると涼はあっという間にクラスメイトに囲まれてしまう。
 先ずは元同性(笑)の男子生徒達。
 「しかっし、本当に涼なのか?」
 「どうなんだ牧瀬先輩の身体は?」
 「もう試したのか(何をだ)?」
 はっきり言ってセクハラである。涼に答えられるわけはなかった。
 「ちょっとあんた達、女の子に何聞いてるのよ。」
 「もうこれだから男どもは。」
 「可愛そうでしょ涼君が。」
 すかさず女子達がそんな男子連中と涼の間に割り込み、周りを囲んでいる彼らを排除してゆく。
 追い払われた元同性の代わりに今度は現同性(?)である女生徒が涼の周りを囲む。
 「大丈夫?涼君。」
 「心配しないでね、私達が守ってあげるから。」
 「何か困っていることない?相談に乗るわよ。」
 皆自分の事を気遣ってくれる。先ほどの男連中の質問に困っていた涼はそれが嬉しかった・・・のだが。
 「でも牧瀬先輩ってスタイル良いんだ。」
 「髪も綺麗ね、羨ましいわ。」
 「背も高いし憧れちゃうわ。」
 女子達はそう言いながら涼の身体に触れてくる。しかも結構際どい(胸とか脚とか)所にである。
 「あ、あのう?」
 涼は困惑していた。ずっと男として生きてきた彼に女の子同士のスキンシップなど理解できるわけはなかった。
 まあ女子達から見れば、涼の身体(いわば由佳里先輩の身体だが)は同性から見ても魅力的だ。
 「わあ、肌なんかスベスベしてる。」
 「足首なんてこんなに細いわ。」
 女子達のそんな濃密なスキンシップは一時間目のチャイムが鳴るまで続いた。
 その後は、休み時間になる度に女子達に囲まれ、昼飯を一緒に食べ、トイレにも集団で連れて行かれた(笑)。
 こうして涼の女子高生としての一日は概ね平穏に終わった。ただし彼にとってはかなりハードな一日だったが。

 放課後・超科学研究部。
 朝登校前に由佳里先輩に放課後来るように言われていた涼は、南先輩と共に部室を訪れていた。
 「やあ涼君、初めての女子高生としての生活はどうだったね、満喫したかね?」
 寝不足に加え、慣れない女の子の生活からくるストレスで疲労の極致に達していた涼はウンザリした表情で答える。
 「満喫なんかできるわけないじゃないですか。何か今日一日で女の子への認識が変わってしまいました。」
 何だか女の子の実態(というのはオーバーだが)を見てしまい、今まで抱いていた幻想が崩れてしまった涼だった。
 「まあ女子に変な理想を抱くのが男子の悪い癖だ。実態はもっとドロドロしているもんだ。」
 そんな涼の姿を見て由佳里先輩は皮肉っぽい笑みを浮かべる。もちろん涼の顔でだ。
 「涼君は女の子の生活なんて初めてなんだもん、仕方ないわよ。」
 南先輩が涼を気遣って声を掛けてくれる。
 「そういう先輩はどうだったんですか?」
 こっちがこんなに苦労させられたのだから先輩だって、と思って涼は聞いたのだが。
 「とても快適だったよ。しち面倒くさい女同士の付き合いに比べれば男同士というのは気楽でいい。」
 満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに由佳里先輩は話す。
 「由佳里は昔からそういうの苦手だったからね。」
 苦笑を浮かべながら南先輩が言ってくる。二人の付き合いは小学生の頃まで遡るらしい。
 「そういうことだよ涼君。それに胸に余計な物が付いていないのもいい。あれは邪魔でしょうがない。」
 聞く人が聞いたら激怒しそうなことを言う由佳里先輩。涼は今は自分のものになった身体を見る。
 確かに何かしようとする度に胸があちこちに接触して落ち着かなかった。それにやたらに触られる。
 もちろん触ってくるのは女の子達。その度に「大きい」と言うのは勘弁してほしかった。
 「ところで話ってなんなんですか?」
 話が妙な方向というか涼には刺激が強すぎてきたので、話題を変える。
 「おお、そうだった。実は重大な発表がある。」
 腕を組み、尊大な態度で南先輩と涼を見る由佳里先輩。
 「発表ですか?」
 今更何を発表するというのだろう。元に戻る方法が見つかったのならこんな言い方はしないだろうし。
 不思議そうに見る二人に由佳里先輩は、ニヤリと笑うと室内に響く声で言う。
 「正義のヒロイン計画を発動する。」

 ドカン!

 涼は頭を机に激しく殴打する。もったいぶって何を言うかと思えばこれである。彼の反応も当然だろう。
 「由佳里、貴方ねえ・・・・」
 さすがに南先輩もこれには呆れて言葉が続かない。
 「先輩、一体何言ってるんですか。状況わかってるんですか!!」
 赤くなった額に涙を浮かべた目をして由佳里先輩に食って掛かる涼。それに対し先輩の反応といえば。
 「良いねその表情。ぐっとくるものがあるな。」
 「な、何言ってるんですか先輩、そうじゃなくて・・っ!」
 先輩の言葉に真っ赤になる涼。
 「涼君があの服を着ることにもう問題はない。いやあ、とっても似合うだろうな。」
 あの服を着ている所を想像した涼は、赤くなるのを通り越して真っ青になる。
 「もちろん元に戻る研究はしようじゃないか、涼君が私の計画を手伝ってくれるならね。」
 この時、涼は由佳里先輩が本当に悪魔に思えた。しかも自分の姿をした悪魔である。
 「本当に元に戻る研究をするのね由佳里?」
 見かねた南先輩が由佳里先輩に確認してくる。
 「もちろん。私が今まで約束破ったことなどないだろう?」
 「いつの間にか自分に都合の良いように変えたりはしたことあるけどね。」
 深いため息を付いた南先輩が涼の肩に手を掛けて言う。
 「という訳で暫くはあの子の言うとおりにしましょう。大丈夫、私が見ているからね。」
 「え、でも・・・・」
 人の悪い笑みを浮かべ勝ち誇っている由佳里先輩を見ながら南先輩が言う。
 「ある程度すれば飽きると思うわ。昔からそうだったし。」
 「はあ分かりました。由佳里先輩お願いしますよ。」
 涼は南先輩に手を貸してもらい立ち上がりながら由佳里先輩に言う。
 「ああ。それでは栄えある第一話、ヒロイン登場の場面だが・・・・・・」
 嬉々として説明を始める由佳里先輩を見ながらこんな悪夢が早く終わってくれることを涼は願ったが・・・


 「ああ、一体こんなこと何時まですればいいんでしょう。」
 女子更衣室の中で涼は深いため息を付きながらぼやく。付いてきた南先輩はロッカーから制服を出してくれている。
 「もう3ヶ月もこんなこと続けているんですよ。しかもだんだん規模が大きくなっているみたいだし。」
 その割りに二人の身体を戻す研究は全く進んでいない。毎回行う事件の仕掛けを作る事に取られているからだった。
 「私も由佳里がこんなに入れ込んでいるのを見るのは初めてよ。何時もなら直に興味の対象が変わるのに。」
 取り出した女子制服を手に持ちながら南先輩もため息を付く。彼女にもこういう事態は初めてらしい。
 「ぼやいていてもしょうがないわ。早く着替えないと次の授業に間に合わなくなるわ。」
 「そうですね。・・・・あの、南先輩、今日こそ大丈夫ですから。そう毎回では悪いですから。」
 手に持った制服を南先輩は何故か手渡そうとせずじっと見ているだけである。それに対し涼は冷や汗をかいている。
 「そうは言ってもその服一人じゃ脱げないでしょ。それにまだ着替えに慣れていないでしょ。」
 そうなのだ、涼が由佳里先輩の身体になった時から南先輩は慣れない着替えを手伝ってくれていた。
 涼も最初は感謝していた。女性の服など着替えたことなどなかったので大いに助かっていた。
 しかし最近になって涼は、南先輩が手伝ってくれるのは、ただ好意からだけではないのではないかと思い始めていた。
 やたらに身体のあちこちを触ってくるのだ。もはやそれは女の子同士の軽い戯れを通り越しているのではないのか。
 女の子になって3ヶ月も経ち、それなりに慣れてきた今、涼は南先輩にそんな思いを抱くようになっていた。
 それに、この頃やたらに自分の家に泊まりにこないかと誘われるのだ。しかもわざわざ親が居ない時を見計らって。
 おかげで涼は別の意味で身の危険を感じる毎日だった。
 「遠慮しなくていいわよ涼君。さあ脱がしてあげるわ。」
 「ちょっと止めて下さい。わ、わ、どこを触っているですかー!」
 
 女子更衣室に響く少女の悲鳴。だがそれを聞く者は誰もいなかった。

 「ひへーーーーーーーーー!!!!」

 
 涼の受難はまだ続く、何時終わるかは神のみぞ知る・・・・・・・・

 「さて次はどんな仕掛けを作るかな。ふふふ楽しみだよ涼君。もっともっと踊ってくれたまえ。」
 
 訂正しよう、涼の受難が何時終わるかを知っているのはどうやら悪魔の方らしい。

 それも非常にタチの悪い悪魔の。


                                   
                               <END>

 あとがき
 
 初めまして、というべきかお久しぶりですというべきか、h.hokuraです。
 久々の投稿でこんな作品を送ってしまいました。前に送った作品、まだ途中だっていうのに。
 しかも何だか長くなってしまったし。でも途中の状態で送ると続きを何時送れるかわからないもので。
 どうかお許し下さい。

 この作品、元ネタは「○○と僕」です。もっともあちらはラブコメですが、こちらはそんな要素はありません。
 この手の入れ替わり物。初めて書きましたが結構難しいですね。でも書いていて楽しめましたが。
 まあはっきり言ってバカな話です。どうも体質的にシリアスは書けないもので。ご容赦のほどを。

 それでは、もし次がありましたらお目に掛かりたいと思います。 


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