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星屑の旅人 ―TSバージョン―

作:h.hokura

第三話 「変化・2」



 二人に追いついたクリスは、女性としては大柄なメリンダの影に隠れるように歩き始めた。
 幼い頃のクリスを思い出し、メリンダは自然と顔をほころばしていた。
 しかし、クリスはスカートでの歩きにくさに気を取られ、自分のそんな行動に気づかない。
 まあ、生まれて初めてスカートをはいたのだから当たり前なのだが、加えてブーツも踵の高い女性用なのでなおさら歩きにくさを感じてしまう。
 その為、自然と歩幅も小さくなり、内股になっていく。
 今やクリスは姿形だけでなく、歩き方も女性っぽくなってきているが、本人はまったく気付かない。

(人間ってのは、容姿が変わるとそれに相応しいしぐさを身に付けるものなのかね……)

 メリンダは、クリスのしぐさを見てそんな思いにかられる。
 三人はやがて、コロニーの商業区に来ていた。
 もっとも商業区と言うより、商店街と言った方がいいかもしれない。それほど大きくないが、レストランや喫茶店、食料品店、雑貨店、それに洋服店と一通りのものは揃っている。
「さてと、買い物の前に腹ごしらえでもしていくかい?」
 メリンダはフローラとクリスに声を掛けると、一軒のレストランを顎で指し示す。
「え、腹ごしらえってそんなの家で食べれば……」
 いくらなんでも知っている人間のいる店に入るのは抵抗がある。クリスは反対したが、
「今から帰っても何もないし、それに買い物もあるしね」
 彼女の異議は、いとも簡単に却下された。
「さあ、行きましょうクリス」
 フローラに腕を捕まれて、クリスはしぶしぶレストランに入って行く。
「いらっしゃい……って、あれ、メリンダ?」
 迎えたのは、メリンダと同じ位の年の髪の長い、清楚な感じの女性だった。
「サリー、久しぶりだね」
「確かにそうね。貴女たちはデリバリーしかしないし」
 サリーと呼ばれた女性はそう言って笑う。「……たまには店にきてほしいものだわ」
 頬に右手を当てたしぐさでおだやかに喋る彼女は、その常にたたえている微笑みでコロニーの鉱夫に絶大な人気がある。
 ふと、彼女はメリンダの後ろに隠れようとしているクリスに気付く。
「……あら、本当に女の子になったのね、クリス」
「え、何でオレって分かったの?」
 いきなり自分の正体(笑)を当てられて、クリスは驚いてしまう。
「メリンダから話は聞いたわ。大変だったわね、でも……」
 次の瞬間、常にたたえている天使の微笑みが邪悪な(笑)微笑みに変わるのをクリスは見た。

(ま、まさかサリーさんも……)

 クリスは後ずさりしたが、がばっと抱きつかれる。
「ホントに可愛いくなっちゃって。メリンダが羨ましいわ」
 頬擦りしてくるサリーの腕の中でクリスは必死にもがく。
「色々大変だけど、大丈夫よ。私達も協力するからね、貴方を立派な女の子にしてあげるわ」

(オレのまわりの女性って、もしかしてこんなのばっかりなのか?)

 クリスは今まで知らなかった女性達の姿を見て、絶望的な思いになった。


 10分後、開放されたクリスはようやく席に着くことができた。
 ちなみに、その間メリンダとミリーが何をしていたかというと、ウェイトレスや他の客にクリスのことを紹介(笑)していたのだ。
 そのせいで、席に着いたら着いたとたん、まわりの人たちの視線に晒され騒がれるクリス。
 唯一救いなのは、「変態よ」とか、「女になるなんて何考えてんだ」ではなく、「きゃー可愛いくなっちゃって」とか、「すげえ美少女だな……」などと言われたことか。
 いや、クリス本人には迷惑なだけで、特に男連中の熱っぽい視線には閉口させられる。
 2,3日前までは同じ男だったんだぞ。何故そんな目でオレを見るんだよ!! と、クリスは絶叫したかった。
 まあ、その男連中の視線はサリーやミリーにウェイトレス、女性客達の「クリスに変なこと考えたら承知しないわよ」という一睨みで収まったが。
「どうだい、今やコロニーの全女性陣があんたの味方さ。男連中もコロニーの半分を敵にしたくないだろうからね」
 メリンダはそう言って豪快に笑ったが、クリスは複雑な思いだった。
 なんにしろ落ち着いたクリス達は、料理を注文することにした。
「Sセットを大盛りで。……あとコーヒーを」
 クリスは何時も注文しているメニューを言う。
「Sセットを大盛り?」
 ウェイトレスは目を丸くして注文を繰り返す。
「そうだけど、何?」
 クリスはなぜウェイトレスの娘が驚いているのか分からなかった。「でも、Sセットって……」
「構わないよ。そうしてやっておくれ」
 ウェイトレスの言葉を遮ってメリンダが言う。
「大丈夫ですか?」
 ウェイトレスが注文を厨房に持って行くのを見ながら、ミリーがメリンダに聞く。
 メリンダは肩を竦めると答える。
「じきに分かるさ。……身をもってね」
 二人の意味深な会話にクリスは首を捻るが、メリンダはそれ以上何も言おうとしない。
 ちなみに二人はAセットに、ミリーはチョコアイス、メリンダはミルクティーを頼んでいた。
 やがて、クリスの目の前にS(スペシャル)セットが置かれる。
 S(スペシャル)セット、それは全てにおいて普通のセットの倍はボリュームのあるものである。
「待ってました。これだよ、これ」
 クリスは貯まっていた鬱憤を晴らすように、嬉々としてセットに向かう。
 容姿に似合わないセリフと行動に、メリンダは眉をしかめたがあえて何も言わない。
「食べないの? 二人とも?」
 クリスは、自分たちのセットが来ても食べずにクリスを見ている二人に聞く。
「気にしなくてもいいさ。さっさと食べな」
 そんなクリスにメリンダは手をふって、食べるよう促す。
「なんだよそれ? まあ、いいけど」
 気になったが、クリスは食べ始める。が、十数分後その理由を思い知ることになる。
 いつもの3分の1も食べたところで、それ以上食が進まなくなったのだった。
「え、どうしてなんだよ?」
 クリスは信じられないという表情で呟き、ムリして食べ続けようとするが、身体が受け付けない。
 しまいには戻しそうになり、慌てて水を飲んで押し込むが、そのせいで完全に食べられなくなってしまう。
「何してんだか……。お前、自分の身体を分かってないのかい?」
 メリンダは呆れた表情を浮かべ、クリスの背中をさする。
「分かってないって、何のこと言って……?」
「あんた位の娘が、そんな量の食事を普通するかい。今までのあんたの身体と違うんだぞ」
 メリンダはそう言って立ち上がると、クリスの身体を後ろから抱きしめる。
「え、ちょっと、お袋何を……?」
 その時クリスは自分の身体が、今までとは違い小柄できゃしゃなことを思い知らされる。
「その身体にあった量しか食べられないってことさ。まあ、例外もあるけどな。」
 メリンダはクリスを離すと、席に戻り自分の食事を始める。ちなみに彼女はAセットの大盛だったりする。
「それに、そんなに食べたら太るわよクリス」
 ミリーもそう言って食事を始める。
 彼女のAセットは、クリスの頼んだSセットの半分もない。
 クリスは何時もそれを見て、「あんな量で大丈夫なのか」と思っていたのだが、

(オレも今度から、あれくらいしか食べられないのか……)

 クリスは山のように残ったSセットを前に、ショックを受けていた。
「取りあえず、残りは後でデリバリーしてもらいな」
 コロニーでは食事を残すことなど許されない。空気も水もそして食物も、とても貴重ものなのだ。


 メリンダとミリーが食事を終え、クリスの残した食事のデリバリーを頼み終えると、次のものが運ばれてくる。
 ミリーは嬉々としてチョコアイスをつつき始め、メリンダもミルクをたっぷり入れたミルクティーを飲む。
 クリスも運ばれて来たコーヒーを砂糖抜きクリーム少々で飲むが、次の瞬間激しくむせる。
「な、なんだよこれ!?」
 何時もとは違うコーヒーの味に、クリスは顔をしかめて愚痴る。
 今までは適度な苦味が美味しいと感じていたのに、今はその苦味が耐えられないほどの苦痛になっていた。
「砂糖とミルクをもっと入れて飲んだ方がいいわよ」
 見かねてミリーが言う。
「え? でも今までは……」
 クリスが反論すると、メリンダは通りすがりのウェイトレスに何か注文する。
「……?」
 その行動にクリスは不思議そうな顔をするが、メリンダは何も言わずミルクティーを飲み続ける。
 やがて、クリス達の席にミリーが頼んだのと同じチョコアイスが置かれる。
 この冷たいチョコ味のアイスというシンプルなメニューは、この近辺のコロニーの女性たちに人気がある。
 もっとも、クリスには甘すぎて食べられたものではなく、幼いころを除けば食べたことはない。
「ほれ、こっちをお食べ」
 コーヒーと悪戦苦闘している、クリスの前にメリンダがそのチョコアイスを置く。
「何言ってんだよ? 食える訳ないだろう」
 クリスはそう言ってチョコアイスをメリンダに押し戻そうとしたが、結局コーヒーを取り上げられて目の前に置かれてしまう。
「騙されたと思って食べてみて、クリス」
 ミリーに言われて、クリスは渋々チョコアイスに手をつける。
 スプーンの先に載ったチョコアイスを、クリスは目を瞑って口にいれる。
「え……?」
 甘さのあまり気持ち悪くなると思っていたクリスは、口の中に広がって行く心地よい甘さに驚く。
 それから先はスプーンが止まらなかったほどで、あっという間に食べ終わってしまう。
「何で? 食事はもう食べられなかったのに。それにこんな甘いものを……」
 それを見ていたメリンダは苦笑いを浮かべてクリスに言う。
「あんた、食の量だけでなく好みも女の子になっちまったようだね」

(う、うそだろうー!? そ、そんな……)

「女の子にとって甘い物は別腹だしね。不思議でも何でもないわよ」
 ショックを受けるクリスに、追い打ちを掛ける(笑)ミリーの言葉。
 もはや茫然自失のクリスだった。


 茫然自失のクリスが次に我に帰ったのは、食事の払いを終えたメリンダとミリーに洋服店に連れ込まれた後だった(笑)。
 まわりをミリーと女性店員に包囲され、逃げられなくなったクリスに、次から次と服が押し付けられる。
「これなんて絶対に似合うわよ」「いえ、クリスにはこっちよ」「ねえ、こっちはどうかしら?」……と、女性陣にもみくちゃにされるクリス。
 次から次へと服を着替えさせられ、その度に衆人注目の前でファッションショーよろしくポーズをとらされる。
 さすがにこういった宇宙のコロニーでは、ひらひらの服などないが(無重力のところでそんなものを着たら悲惨なことになるからだが)、その分、身体にぴったりしたタイトな服が多い。つまりスタイルがもろに出てしまうことになる。
 そして女性化したクリスは、同性もうらやむスタイルをしている。
 それゆえ、嫉妬心も手伝って、さらに攻撃が激しくなる。
 それに加えて、服を着て出てくる度に真っ赤になってもじもじする姿が彼女達を余計にヒートアップさせている。
 ほとんど着せ替え人形と化していたクリスの精神が崩壊を起こす寸前にようやく宴が終わり、代えのアンダーウェアから普段着、寝巻きなどを抱えて店を出る。どれもこれもクリスが真っ赤になるくらい可愛いものばかりだった。
「良かったじゃないか。皆が手伝ってくれて」
 メリンダが服の入った袋を抱えて、フラフラになっているクリスの背を叩く。
「うん、楽しかったわ。また行きましょうね、クリス。」
 ミリーが満足そうにクリスの肩を叩く。
「う、う……、何でこんなことに……」
 二人に慰められ(?)、クリスは精神崩壊寸前のまま、自宅へと帰ってゆく。


 クリス達の自宅は、運送会社のオフィスも兼ねた2階建てのもので、商業地区の端にある。
 ようやくたどり着いたクリスは、自分の部屋に入ると荷物を床に置き、ベッドに倒れこむ。

(死んだ。死んだよ……)

 クリスはベッドにしばらく倒れこみ肩を震わしていたが、やがて何かに我慢できなくなったのかおもむろに立ち上がると部屋を出る。
「どうしたんだい?」
 メリンダは居間のソファに座って、水割りを飲んでいた。ミリーは部屋に戻ったらしく姿が見えない。
「部屋というか、ベッドが何か匂うんだけど……」
 部屋に入った時から気になっていたが、ベッドはさらにその匂いが強かった。
「匂い?」
 メリンダは不思議そうな顔をして立ち上がると、クリスの後に付いて部屋に行く。
「うん。何か汗臭いというか……」
 二人はクリスの部屋に入り、ベッドに近づいて覗き込む。
「なんだい、これあんたの体臭じゃないか」
 メリンダはベッドから振りかえると、クリスに言う。
「体臭?」
 クリスは慌てて自分の身体の匂いを嗅ぐが、今まで嗅いだことの無い甘い香りに思わず顔をしかめる。
「うえ、なんなんだよこの匂い……」
 そんなクリスにメリンダは苦笑しながら言う。
「違うよ、あんたが男の時の体臭さ」
「え……?」
「多分、女になったせいだね。男と女じゃ体臭が違うからね」
 メリンダの説明に、クリスは再びショックを受ける。
「まあ、仕方が無いさ。明日部屋の模様替えをするからそれまで待つんだね」
「え? 模様替えって、どこの?」
 クリスはメリンダの言葉に首をかしげる。
「何いってんだい。あんたのに決まっているだろ。どう見てもこの部屋、女向きじゃないからね」
 メリンダは部屋を見回してクリスに答える。確かに乱雑に重ねられた雑誌や、そこらここらに置かれた電子部品、散らかった衣服など、いかにも男の部屋である(笑)。
 もっとも、クリスはこの方が落ち着いていいと思うのだが、メリンダ達はそうではないらしいのだ。迷惑なことに。
「とりあえず、居間で寝な。あ、それから明日はメグの店に行くからね」
 そう言ってメリンダは廊下にあるロッカーからブランケットを取り出しながら言う。
 メグの店は家具とかカーテン等を扱う所である。
「ちょっと待ってよ。そんな勝手に……」
 だが、メリンダはそんな抗議など意に介さず、ブランケットをクリスに放って自分の部屋に戻って行く。
 クリスはブランケットを持ったままその場に残され、途方にくれた。
 だが、今さら匂いの気になる自分の部屋に戻る事もできず、仕方なく居間に行きソファに寝る。
 その夜、クリスは自分の身に起こった一連のことを思い出し、涙したのだった。
 もっとも、これから彼女(?)の身に起こる出来事に比べれば、それも些細なことでしかなかったのだが……。


 そして次の日。今までクリスの部屋に有った物が全て撤去され、目一杯可愛いく模様替えされたのは別の話である。
 また、三日後。仕事に復帰したクリスが、美少女アストロノーツとして近辺のコロニーで有名になったのもまた、別の話である。

 クリスの災難はまだ始まったばかりであった。

<END>











<予告>

 航行中の宇宙船から発信された救難信号。
 向かったクリス達がそこで見たものは……。

ミリー:「単体でも怖いけど、集団になればさらに脅威だわ。でも、昔を思い出すわね」
フローラ:「連中の好奇心は脅威よ。特に同性の集団ともなればね」

 「ミス・ネゴシエイター」と「辺境一のマッドサイエンティスト(笑)」を恐れさせるものとは一体?
 次々とクリス達……いや、クリスに迫る数々の脅威。

クリス:「オレが……いや、私が何をしたっていうんだ……いや、したというの?」

 未だ、女の子若葉マークのクリスに対抗する術はあるのか。

メリンダ:「まあ、あの子にはいい経験だよ。少しは鍛えてもらえばいいのさ」

 突き放すメリンダ。はたしてクリスの運命は?
 次回、「接触(前編)」
 期待して……くれると嬉しいなと思ったりして(笑)。










−あとがき−

 思ったより長くなってしまいましたが、ようやく一区切りつきました。ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
 小説を投稿するなど初めてで、運営委員の方には色々ご迷惑をお掛けしました。
 また、感想なども頂きまして嬉しいやら恥ずかしいやら。でも、とても嬉しかったです。
 今後もよろしければお付き合い下さい。
 なお、次回作ですが、予告した話で行こうかと考えてます。(まあ、あくまで予告ですが。)

 それでは。

 ちなみに、「単体でも凄いが集団になると特に脅威となる、同性の集団」ってお分かりになるでしょうか?

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