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星屑の旅人 -TSバージョン-

作:h.hokura

第一話 「変貌」


 

 それは何か奇妙な感覚を与える物だった。
 円形の台座と、それに付属するように立つ、壁のような物体。
 クリスはさっきから、何か落ち着かない気分にさせられていた。

 ここは12号鉱と呼ばれる、今は使用されていない宇宙の鉱山。
 宇宙空間に浮遊して恒星のまわりを回っている小惑星帯の中の一つである。
 クリスと医者であり、また臨時の考古学者であるフローラの二人は、今その鉱山で発見された、かってこの宙域にあったとされる先史文明の遺物の前にいた。
「何か、今まで見た中では随分奇妙なやつだな。」
 クリスはその遺物を見ながらつぶやく。
「たしかに、今まで見た事のない物ね。……どうも比較的新しい物みたいだし。」
 フローラはそう言って、遺物に向けられたセンサーの表示を見ていた。
「……まあ、新しいといっても数万年も前の物だけどね。」

 かって、この太陽系に人類が進出するはるか前に、何らかの文明が存在していた。
 その証拠は惑星表面の遺跡やこのような小惑星などに多く残っていた。
 その文明は人類に劣らない高度なものだったらしいが、かなり異質なものでもあった。
 しかし、残念ながらそれらの遺跡や遺物の調査はほとんど進んでいなかった。
 人類が進出してきたばかりのこの太陽系では、人々が生きる為にすべきことの方が優先され、先史文明の調査などは、いきおいあと回しになる。
 結局、フローラのようなアマチュアの考古学者が、暇を見つけては調べるということしかできない……。

「でも、いったい何をするものなのかな。」
 16歳の宇宙艇パイロット……こういう辺境では珍しい事ではないのだが……クリスが遺物に触りながらフローラに尋ねてきた。
 もちろんこの年の少年なら必ず持つだろう好奇心を、その目にたたえている。
「はっきりしたことは言えないけど、台座に見える物の上に何かを置いて何らかの作業をしていたんでしょうね。」
 フローラはセンサーを切り替えながら答える。「もっとも何をやっていたんだかは、まったくわからないけど。」
 金髪を作業の邪魔にならない様に頭の上で纏め、白衣を着ているフローラ。20代にも30代にも見える不思議な雰囲気を持つ女性である。
 彼女の経歴をクリスはよく知らない。彼の母親であり、所属している運送屋のボスであるメリンダは知っているらしいが。
「ふーん。いったい何をしていたんだろうね。」
 クリスは溢れんばかりの好奇心をもって台座に近づいていく。
「触るのはいいけど、壊さないようにね。」
「どうせ、作動しないんだろ? これって。」
 クリスは台座を覗き込みながら尋ねた。
「数万年前のものだからね。……もっとも、作動原理とかは不明だけど。」
 これもそうだが、今まで発見された遺跡・遺物の類は、どうやっても動かすことはできなかった。
 動力源や操作方法が皆目分からない為だが、この先史文明はそういった記録類をまったく残していなかった。
 そのため、どのような文明だったかということは未だに謎のままだった。
 人類と同じ姿だったのか、どんな社会を築いていたのかさえ皆目見当がつかなかった。
「考えてみれば不思議な文明ね。物だけ残して消えてしまったのだから。」
 フローラはセンサーのデータが記録されているのを確認すると、クリスの方に目を向ける。
「ちょっと、クリス! 何やってんの?」
 何時の間にか、クリスは例の台座の上に乗っていた。
「いや、どんなものかなと思って。」
 クリスはそういって、台座の上を歩き回っていた。
「どうでもいいけど、あまり遺物の上を無闇に歩き回らないでほしい……」
 その時だった。キーンという音が響き渡り、今まで変化のなかった遺物が光を放つ。
「……え!?」
 クリスとフローラは驚いて、光輝き、振動を始めた遺物を見た。
「クリス! そこを離れなさい!」
 危険を感じたフローラは、遺物の上にいるクリスに叫ぶ。だが、台座から放たれた光が体を包み込み、クリスは動けなくなる。
「な、何が……?」
 最後まで喋ることはできなかった。光はさらにクリスを中心に集まってゆく。
「クリスーっ!」
 フローラの絶叫が響く。だが、輝きは激しさを増し、クリスの姿を飲み込んでいく。そして……

 光の収まった台座の上で、クリスは薄い繭のようなものに包み込まれて浮いていた。
 その光景に、フローラはただ立ち尽くしているしかなかった。

「で、何でこんな事になったんだい?」
 メリンダは、その奇妙な光景にしばらく絶句してから口を開く。
 あれからフローラは別室でデータの取りまとめをしていたミリーを呼び、メリンダに連絡を入れた。そしてその間、ミリーに手伝わせて状況の確認を行っていたのだった。
「私にもよく分からない。ただ、クリスがあの台座に乗ったことが、装置を作動させた事は確かね。」
「……たく、あのバカ息子が。いったい何やってんだい?」
 メリンダは憮然とした表情で、息子が閉じ込められている繭を見つめた。それは台座から50センチほど上に浮き、クリスはやや前かがみの状態で中に入っている。
 その表情は、まるで眠っているように穏やかなものであった。
「で、状況はどうなんだい? あの忌々しい繭みたいな物はいったい何なんだいっ?」
 メリンダは何とか感情を押し殺して話そうとしていたが、うまくはいってないようだった。長年の付き合いであるフローラはそれがよく分かったが、気付かない顔をして答える。
「なにかのフィールドだと思うわ。外部からのあらゆる干渉を防ぐ為のね。」
 フローラはデータを表示しているディスプレイを見つめる。「……残念ながらその構成はまったく不明。発生させているエネルギーも不明。」
 ため息をつくと、さらに説明を続ける。
「あの繭の中には何かの溶液が満たされているわ。何の為だかは分からない。」
「……つまり何も分からないということかい。バカ息子の生死も含めて。」
 メリンダは落胆の表情を浮かべ、繭とフローラを交互に見る。
「いえ、生死の方はクリスが身に付けていた生体センサーのデータ回線が生きていたから。」
 フローラはもう一つのディスプレイを見る。表示されているデータは低いレベルだったがクリスが生きていることを示していた。
「繭はクリスの生体レベルを低く維持しているわ。」
「それは……?」
 メリンダの問いに答えず、フローラは繭を指差した。「ねえ、メリンダ。クリスを見て何か気付かないかしら?」
 言われてメリンダは繭に包まれるクリスを見つめた。
「……。」
 最初、フローラが何を言っているか分からなかったメリンダだったが、ふと気づく。「……小さくなっている?」
 そう、繭の中に浮かぶクリスは、前に見た時よりも小柄になっていた。ブーツは脱げて繭の下の方に落ちており、両手は裾に隠れて指の先しか見えない。
「……それだけじゃないわ。顔の輪郭も丸みを帯びてきている。」
 フローラの声はかすれており、顔も青白い。
「それに髪……」
 メリンダは、クリスの髪が肩の辺りまで伸びていることに気付いた。
「たしか、あの子髪は短くしてたはずだね。長いのは男らしくないだとか言って。」
 二人はお互いに顔を見合わせる。
「……。」「……。」
 そんな二人に、今まで黙っていたミリーが、フローラに負けず劣らずの青い顔を向ける。
「あの、私、今気が付いたんですが、クリスの胸……」
 メリンダとフローラは、再び繭の中の……クリスの胸の部分に目を向ける。
 そしてミリーの見たものを理解したとたん、二人は完全にフリーズした。
 そこに普段自分達は見慣れてはいるが、男のクリスにはある筈がないものがあった。
 それはクリスが前かがみになっているうえに、体が小柄になってせいで服がずれていることで余計目立った。
 メリンダは、眉間にしわを寄せてつぶやく。
「うちの息子は、いつのまにあんなりっぱな胸を持ったんだい……?」
 フローラも腕を組み天井を見上げて答える。
「大きさも形も理想的。若さっていいわね……。」
 ミリーはそんな二人に苦笑いしながら見ている。
「……まあ、これではっきりしたわ。」
 フローラは衝撃から立ち直ると、繭の中のクリスを見つめる。
「クリスの体は女性化してるわ。それも急速に。」
 メリンダはフローラの顔をまじまじと見詰め聞く。
「間違いないのかい? それよりそんなことが……」
 フローラは首をふり両手を挙げ、「私はもうお手上げよ」というポーズを作る。
 三人は言葉を失い、沈黙する。突然キーンという音が響いたのはその時だった。
 フローラは繭の方を見て叫ぶ。
「二人とも下がって!」
 あの輝きが、またクリスを中心に起こり始めている。
 彼女達が唖然と見守る中、輝きはまたもクリスを包み込んでゆく。
「クリス!!」
 メリンダは近寄ろうとするが、フローラに止められる。やがてその輝きと音は唐突に消え、浮かんでいた繭は跡形も無くなっていた。
 ……そして、クリスは台座の上にぐったりと横たわっていた。
 メリンダはフローラの手を振り払うと、クリスの元に駆け寄ると、その体を抱き上げる。
「こら! バカ息子! さっさと目をお覚まし!」
 クリスの頬を二度三度叩いてメリンダは呼びかけるが、反応は無い。
 台座の上にフローラとミリーの二人も上がってくる。
「フローラ、どうすりゃいいのさ……?」
 メリンダが叫ぶ。その顔と声は激しい動揺を表している。フローラはクリスの傍らに跪くと、呼吸と脈を手早く確認した。
「ミリー! 先にシャワー室へ行って準備を! ……あと、タオルと服をお願いっ!」
「は……はいっ。」
 ミリーは肯くとシャワー室へ駆け出す。
「まったく無茶して。バイオハザードの恐れもあるかもしれないのに。」
 フローラは、正体不明の溶液を全身に浴びたメリンダをせめる。
「……そんな事、忘れていたよ。」
 メリンダは苦笑いをしながら弁明した。
 いつ何時でも冷静。下手な男連中より度胸満点な鋼鉄の女。……メリンダを知る人々は皆そう言うが、今ここにいるのは自分の息子を心配する、ひとりの母親である。
 フローラもそんなメリンダを見て、つられて笑ってしまった。
「……さあ、早くクリスをシャワー室へ。」
 フローラの言葉に、メリンダは手早くクリスを背負うと立ち上がった。
 しかし、歩き出そうとしたメリンダは困惑した表情を浮かべ立ち止まる。
「メリンダ?」
 フローラはそんなメリンダを心配そうに見る。
「……いや、本当にあの子かと思ってね。」
 メリンダは背負ったクリスを見ながら答える。
「とても軽いし、華奢になってる。この子、本当に女の子に……」
「それは後の話よ。今の段階では何とも言えないわ。」
 二人は足早に部屋を出て、ミリーが準備しているシャワー室に向かう。
 後には作動したままにされたセンサーと、もはや何の反応も示さなくなった遺跡だけが残った。

「クリスー!」

 フローラの絶叫が聞こえたが、既にその時点でクリスの体は自由が利かなくなっていた。
(ちきしょう! 何だっていうんだよ!?)
 クリスは何とか体の自由を取り戻そうとしたが、体はまったく反応を示さない。
 やがて目も開けていられない程の光が満ちてきて、クリスは意識を失った。
 ……その時クリスは、何か暖かい物に包み込まれてゆくのを感じていた。

 目の前に何かが存在している。白っぽくとても眩しく、何とか追い払おうとするが体は動かない。
 だが、その「何か」がはっきりとしてくると、それが天井にある照明であることに気付く。
 クリスは自分の意識が、そのことにより覚醒したことを理解した。
(おれ、どうなったんだろう?)
 体がだるく、頭の芯がずきずきする。何かの夢を見ていたようだが、まったく思い出せない。
 とにかく状況を確認する為、萎えそうな気力を何とかかき集めて起き上がろうとする。
 しかしクリスは起き上がったものの、その弾みで前の方に倒れそうになってしまった。

 むにゅ……。

 その瞬間、自分の胸あたりに妙な感触を覚え、動作が止まる。
(え? 今のはいったい?)
 クリスはその妙な感触の正体を確かめる為、自分の胸を見た。
 何時のまにか着せられていた薄手のローブみたいな服の胸部分が、内側から何かに持ち上げられていた。
 それも一つでなく二つもあり、見事な山形を描いている。
 そう、それはちょうど母親やフローラ、ミリーの胸と同じ形をしていた。
「な、何なんだよ? これ……」
 そこでまた動作が停止する。そう、こんどは声だった。
 何時もの聞きなれた自分の声と違う、涼しげな声色。それはミリーや同世代の少女達の声。

「!?#$&%*@!!!!」

 完全にパニック状態になったクリスは、激しく首を振って声にならない絶叫を上げる……が、それもすぐ止まる。
 先ほどから頬や首筋に当たる感触と、今さらながら感じる頭の上の重量感。
 両手を恐る恐る頭の両側に伸ばして行く。
 そしてその感触が肩まで伸びている自分の髪の毛であることを確認して、さらにパニックが大きくなる。
(いったい俺の体はどうなったんだよ!? これじゃ、まるで女の子……!?)
 胸にある見事な双丘、同世代の少女の様な声、そして長くなった髪の毛。
 クリスはある可能性に思い当たり、その為にまた意識が飛びかける。
「はは……まさかね。」
 男だと証明してくれる最後の砦。
 だが、無情にもその場所で感じるのは存在している筈の物が無いと言う喪失感。
 クリスは体に掛けられていたブラケットをまくり、その場所を祈るような思いで凝視する。
 だが、胸とは逆に、そこには内部からローブを持ち上げている筈の物が存在していなかった。
 それどころか、体毛がまったく無いふくよかな太ももと、締まった足首。
 ブラケットを持つ腕も見慣れた何時もの腕では無く、細く華奢なものに変わっている。
 そして小さな掌と細くて長い指。
「う……うそだろう!! 俺って女になってるのか!?」
 部屋を振動させる程の絶叫をクリスは上げた。
 ドアが開き、フローラが顔を出す。
「目が覚めたようね。気分はどうかしら?」
 だが、クリスは呆然としており、フローラの声は届いていないようである。
「はあ。まあこうなることはハッキリしてたけど……。」
 そう言って部屋に入って来たフローラはクリスに近づくと、頬を軽く叩く。
「しっかりしなさい! クリスっ。」
 我に返ったクリスは、フローラに半べそをかいてすがりついた。
「フ、フローラ! お、俺女の子になってるよっ! もう何が何だか……」
「だから、落ち着きなさい、クリスっ。」
 フローラはそう言ってクリスの手を握り返した。
「で、でも……」
「詳しい説明はちゃんとしてあげるから。」
 そう言ってフローラは微笑む。その微笑と手を握ってくれているという事実が、クリスを落ち着かせてゆく。
「今、メリンダたちを呼んでくるわ。だから大人しく待っていなさい。」「う、うん。分った。」
 そう言うとフローラは部屋を出て行く。
「ふう。」
 クリスはため息をつくと、改めて部屋を見渡す。
 端末の乗った診察用の机と椅子。様々な薬品の納められている棚。壁際には医療器具が置かれている。
 どうやらフローラの病院の診察室のようである。
 クリスはなんとか起き上がると、ベットに腰掛け、視線を上げる。
 その視線の先に鏡があることに気づき、そこに映っている自分を見つめる。
 鏡の中には、肩まで伸びた髪を持つ、整った顔立ちをした美少女がいた。
 もし街中で見かけたら、思わず声を掛けたくなるような容姿を持っている。やぼったいローブを着ていてもその魅力は隠せない。
 むしろ薄いローブがその下にある身体のラインを際立たせていて、思わずドキリとさせられる。
 もっともそれが今の自分の姿かと思うと、クリスは惨憺たる思いに捕らわれる。
 ドアが開き、メリンダやフローラ、ミリーが入ってくる。
「大丈夫かい? クリス。」
 メリンダはクリスの顔を覗き込みながら聞いてくる。
「あ、あ……。何とか。」
 クリスは心配を掛けないようにそう答えるが、母親は騙せない。
「ウソをつくんじゃないよ。まあ、こんな状況じゃ不安にならない方が可笑しいさ。」
 そう言って近くの椅子を引き寄せ座る。フローラとミリーもそれぞれ椅子に座りクリスを見つめる。
「さて、フローラ。説明を始めておくれ。」
 メリンダはクリスからフローラに視線を移し、話を促す。
「そうね。まずは……」
 持ってきたファィルを開き、フローラは状況の説明を始める。
「クリス、貴方の体についてだけど、外面的には乳房の存在、男性器の消失と女性器の出現……」
 既に分っていたことだが、改めて聞くとやはりショックは大きかった。
「内部的には子宮と卵巣の存在……」
 クリスは息を詰めて話を聞いている。
「……結論から言えば。貴方の体は私たちと同じ女性体ということになるわね。」
 衝撃を受け、クリスは俯いて肩を震わす。
「ど、どうしてこんなことに……。」
 嗚咽を漏らしながらクリスが質問する。
「何が貴方の体をそうしたかはまたっく分らないわ。……ただ、そうさせたのはあの遺跡でしょうね。」
「それじゃもう一度あの遺跡を作動させたら……」
「クリス、あんた……」
 メリンダが口を挟もうとするが、クリスに遮られる。「でも、こうなった原因があの遺跡なら、もしかして……」
「それは絶対に許可できないわ。」
 フローラは強い口調で、クリスの願いを却下する。
「次に何が起こるか予想ができないわ。男に戻ることが出来る保証なんてないのよ。」
「でも……」
「かわいそうだけど、現状ではどうしようもないの。」
 なおも食い下がるクリスに、フローラは辛抱強く言い聞かせる。「……私としては、今の安定している状態を保つべきだと思うわ。」
「そんな……。」
「いい加減にしな、クリスっ。」
 メリンダが一喝する。クリスは驚いて泣きはらした顔を向ける。
「……もうどうしようもないんなら、それを受け入れな。」
「でも。お袋……」
「私はごめんだね。お前を失うくらいなら、女でも生きてくれた方がよっぽどいいさ。」
 母親の真摯な瞳と言葉に、クリスは何も言えなくなる。
 父親のいないクリスをこの年まで育てくれたのは、メリンダである。
 その彼女を悲しませてまで、自分の意思を通すことはできなかった。
「……分ったよ。でも、俺これからどうすればいいのかな?」
「まず、その体に慣れることと、女性として生きていくうえで必要なことを学ぶことね。」
 フローラはそう言ってメリンダを見る。
「まあ。女の人生も悪くないさ。……あんたも早く慣れるこった。」
 メリンダはそう言って頷くと、ミリーを見る。「……ミリー、そういう訳だからこの子をお願いするよ。」
「はいっ、任せてくださいっ。」
 ミリーは力強く返事をすると、クリスに向かって笑いかけた。
「え? どうしてミリーが?」
 展開について行けないクリスは、メリンダに聞き返す。
「ミリーならあんたと同じ年代だし、女の子のことを学ぶならその方がいいだろうしね。」
「そう言う事。クリス、私が貴方を立派な女の子にしてあげるわ。」
 なんか異様に盛り上がっているミリーに、クリスは思わず引いてしまう。
(ミリーって、こんな性格だったけ……?)
 同じ職場に居たとはいえ、そんなに親しい訳ではなかったから分かる筈もないのだが。
「ふふ……私、実は妹が欲しかったんです。これからとても楽しみですっ。」
 ミリーは目を輝かせ、舞い上がっている。
「……え?」
「私もどうせなら娘が欲しかったしね。渡りに船だ。……そういう訳だから、ミリー、頼むよ。」
 メリンダも喜色満面でミリーをけしかける。
「ちょっと、お袋?」
「男性から女性への変身……これほど研究意欲を刺激されるものはないわね。」
「あ、あの……?」
 女性三人の変貌ぶりに、クリスは最初のあれは何だったんだよと、心底思った……。

「……とりあえず今日はここに泊まって、明日もう一度検査して、退院てとこね。」
 フローラが、診断データを端末でチェックしながらクリスにそう告げた。
 その姿は颯爽たる女医だが、先ほどのマッドな姿を見ているクリスは逃げ出したい気分になった。
「明日、ミリーと一緒に迎えにくるから。おとなしく待ってるんだよ。」
 メリンダは椅子から立ち上がると、ミリーを促して部屋を出る。
「退院したら、必要なもの揃えにゆくからね。」
「必要なものって?」
「もちろん服さ。……今まで着ていた男の服はもう着れないしね。」
 それにミリーが嬉しそうに答える。
「いい服選んであげるから、楽しみにしていてね、クリス。」
「え? それって誰の?」
「だから何いってんだい。あんたのに決まっているだろう。」
 メリンダがボケている息子……いや娘に呆れたように言う。
「え……えーっ!?」
「それは楽しみね。……クリス、あとで見せてね。」
 フローラも、楽しくてしょうがないという顔をする。
 こうしてクリスの買い物行きが、決定したのだった。
「お、俺の意思は……?」
 そんなもの、最初から無かったようである。

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