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 白い教会から出てくる二人。

「おめでとー!」「幸せになれよー!」

 二人に声を掛ける回りの人々。紙吹雪が舞い、その中を歩いていく。

(これで俺も一人前か……)

 クリスは声を掛けてくれる人達を見回しながら、そう思う。
 辺境では、男は家庭を持つ事で一人前と認められるのだ。

「クリス……幸せになろうな。」

 クリスと一緒に歩く人物が話し掛けてくる。

「ええ、幸せにしてね」(……? ちょ、ちょっと待ってくれ)

 相手の声は男性であり、答えた自分の声はどう聞いても女性の……
 慌てて自分の姿を見るクリスは自分が白いレースのドレス……ウェディングドレスを着ているのに気付く。

「こ、これって……」

 手にはご丁寧に花束……ブーケを持っている。

 と、突然抱きしめられて顔を上げさせられるクリス。逆光で顔が見えない相手が迫ってくる。

(やめろーっ!)





星屑の旅人 -TSバージョン-

作:h.hokura

第六話 「結婚」





 
ドタ!

 天井に照明が見える。それをぼんやりと見詰めるクリス。
 腰と頭が痛い。どうやらベッドから落ちたらしい。
 むくりと起き上がり、見慣れた部屋(といっても一年前とは大幅に変わっているが……)を見渡す。

(まったく……何ちゅう夢を見るんだよ。)

 外見には似つかわしくない言葉を心の中で呟く。そう……今のクリスでは、男言葉は違和感があり過ぎるだろう。
 寝巻き代わりに着たシャツの胸部分はその豊かな存在を誇示して盛り上がっており、下に履いているスパッツの腰部分は綺麗な曲線を見せている。
 髪も背中の半分くらいまで伸びており、絹のようにさらさらした髪質である。
 見る人全員が「美少女」だと認めるだろう容姿をしているのだ。……ただし、それは本人が望んだことではない。
 一年前に、ある事件により今の姿にされたのだ。

 クリスティーヌ・ランバート、「ランバートトランスポーター」の宇宙艇パイロット。
 男から女へ、人生を180度変えさせられた「元」少年。それが今のクリスだった。

「ふうー」
 溜息をついたクリスが時計を見ると、起床時間まで1時間くらいしかなかった。
 今日は知り合いの女性が結婚に伴って別のコロニーへの引越しするのを請負っているので、遅刻するわけにいかない。

(しょうがない、顔を洗って目を覚ますか。)

 立ち上がって部屋を出ようとして、ふと姿見に映っている自分の姿に気付く。ちなみにこれは女性になってから置かれた物だった。
 それ以外に部屋には男の頃には無かった物が数多くある。化粧台(未だかつて使ったことが無い)やクローゼット(中に入っている服はスカートと丈の短いワンピースばかり)、カーテンやベッドカバーもピンク……と、まさに女の子部屋だった。
 これらはクリスの希望ではなく、母親とミリーによる強制的模様替えの結果だった。
 その姿見に映っている姿が、夢に出て来たウェディングドレス姿に見えて、クリスはどぎまきしてしまう。

(まったく、オフクロがあんなこと言うから・・・・)

 クリスは前夜の夕食時の会話を思い出していた。



 それは引っ越しを請負った女性(ミリーとクリス共通の友人)が結婚することについてだった。
 最初はその友人と結婚相手のことに関することだったが、やがて話の矛先はミリーの結婚について移っていった。
「ったくミリー、あんたの同期の連中はほとんど結婚したっていうじゃないか。どうするんだい!」
 クリスはまた何時ものが始まったと内心苦笑する。……というのも、知り合いが結婚する度にミリーはそう言われるのだった。
 確かにミリーの職業訓練学校同期の、特に女性達はほとんど結婚しており、ミリーは数少ない未婚者の一人だった。
 辺境では女性は20歳前後で結婚するのが普通で、22歳を超えると「崖っぷち」、25歳超えれば「行き遅れ」と後ろ指を指される。
 ミリーは今年21歳になる。そろそろ焦らなければならないお年頃である。もっとも本人は「いい男がいないし仕事の方がいいから」と言ってぜんぜん焦っていないのだが。
「だいたいあんたの年には、私の腹の中にはもうクリスがいたんだよ。もう少し焦りな。」
 メリンダはそう言って溜息をつく。ミリーは母親を早くに亡くしており、その彼女の母親役を買って出ている身としては心配でたまらないらしい。
 まあミリーも結婚に関心が無いわけではないのだが、何もかも完璧にこなす彼女に普通の男がついていけないのが大きな原因だった。
 結局この話はいつも、ミリーが「善処します。これでも引く手数多なんですから。」と言い、メリンダが「そう言うなら早く連れておいで。」という掛け合いで終わるのだったが
……
 今夜に限りそうはいかなかった。
 メリンダが何を思ったか、クリスに「あんただって他人事じゃないんだよ。」と言って矛先を向けてきたのだった。
 文字通り他人事のように聞いていたクリスは思わずフォークを落としそうになる。
「あんたも来月18だろ、私はその頃にはダンナとはもう知り合っていたんだ。二年くらいあっという間だよ。」
 だがクリスは「まだ二年もあるじゃないか、それから探しても大丈夫だって。」と言って笑いながら答える。
「さっきの話聞いてなかったのかい。女は20を超えたら焦らなければいけないんだよ。」
 クリスは「へっ?」と言ってメリンダを見る。言われた意味がいまいち分かっていないようだった。
「クリス……忘れているようだけど、貴方は今 “女” なのよ。」
 ミリーが呆れた顔をして指摘してくる。
「つまり貴方も20歳くらいまでに相手を見つけ結婚しなさい、って社長は言っているの。」

(あ……)

 そう、今のクリスは肉体的にも社会的にも女性である(本人の意思は別にして)。
「え、それってつまり……お、俺は女性として結婚しなければならないってこと?」
 メリンダとミリーの二人は深く頷いて見せ、クリスはショックのあまり固まってしまう。
 考えたこと無かった……いや、考えている余裕がなかったといった方が合っているかもしれない。
 一年前、突如女性の身体に変えられてしまい、その後はその身体や生活に慣れるのに精一杯だったのだ。
 だから、このまま女性として生きていくなら、当然 “そういったこと” も訪れるだろう……なんて、今まで思いもしなかった。

(もしこのまま身体が戻らなかったら……俺もしかして男と……け、結婚?)

 ショックで呆然とするクリスを見ながら、ミリーが「早すぎましたか?」とメリンダに聞く。
「そんなことないさ……いずれぶち当たることだからね。」
 メリンダはそんな“娘”を見ながら言う。「ほら、何時まで呆けてるんだ、この娘は……」
 食事は終わったのだが、クリスは結局ショックが抜けきれず、メリンダに部屋に連れていかれたのだった。



 そして、あの夢を見ることになった……迷惑な話である。
 頭を振りクリスは部屋を出て洗面所に向った。そして……
「あら、クリスおはよう。貴方もシャワー?」
 ミリーに出くわし、一緒にシャワーを浴びるはめになったのだった。それも念入りに(笑)。
「勘弁してくれ……」



 念入りなシャワーを浴び、朝食をすませクリスとミリーは会社のトラックに乗って出発する。
 運転するのはクリス。彼女は宇宙艇の操縦からトラックの運転、各種機器の操作と何でもやる。もちろん仕込んだのはメリンダだ。
 辺境では一人何役など珍しくない。まあクリスの場合は極端かもしれないが。
 トラックは「ランバートトランスポーター」から3ブロックほど離れた住宅の前で止まる。
 その住宅の庭には、既に家具や小物を入れるコンテナが置かれ、男達が待機している。
 トラックから二人が降りると、到着の音を聞きつけて一人の女性が玄関から出てくる。
「エクセレン、お待ちどうさま。」
 ミリーが手を挙げて声を掛ける。その女性・エクセレンはにこやかに笑いながら二人を迎える。
「ミリー、それにクリス、ありがと。今日は宜しくね。」
 クリスも「うん、こっちこそ宜しくね。」と言って答える。昔からの顔見知りで、姉の様な存在の女性だ。
 短期間ながら彼女の家に預けられたこともあり、その “姉” が結婚すると聞いて少々複雑な心情のクリスだった。
「荷物の方は? これで全部かしら。」
 庭に置かれた家具やコンテナを見て、ミリーがエクセレンに聞く。
「大きいのは概ね終わったわ。あと服とか小物があって……そっちは今、皆に手伝ってもらってるわ。」
 コロニーでは引越しがある場合、近所の住人が手伝うのが決まりで、男性は荷物運び、女性は小物の整理という役割分担である。
「OK、クリス。」
 クリスはミリーの言葉に頷くと、トラックに戻り、荷台の扉を開いて庭にいる男性達に合図する。男達は家具やコンテナを運び始める。
「それじゃ私たちも始めましょうか……って、クリスはこっち。」
 ミリーの言葉を聞いて庭の荷物へ向おうとしたクリスは、ミリーとエクセレンに両腕を掴まれて室内に連行される。
「いや、私は外の荷物運びを……」と、一応抵抗してみせる。何しろ女性陣の中に引き込まれたら最後どうなるか明白だからだ。
 だがミリーは「そういうことは男性陣に任せておけばいいわよ。」と言われ、エクセレンも「そうそう。」と頷いてクリスを家の中に連れて行く。
 ちなみにクリスの言葉遣いだが、今では意識しなくても女言葉が出るようになり、仕草も女の子らしくなっていた(両方とも本人としては嬉しくもなかったが)。まさにミリーを始めとする女性陣の教育の賜物といえよう。
 その家の中では女性陣(ミリーを含め全員エクセレンの友人達)が衣服や小物類をコンテナに詰め込んでいた。
 そのうちの一人が部屋に入って来た二人に気付いて声を掛ける。「久しぶりねミリー……それにクリスお・姉・さ・ま。」

 
ガン!

 ドアに思い切り頭をぶつけてしまうクリス。一ヶ月前の “天使のワンコール事件” 以来、知り合いの女性達に会う度に言われるのだ。
 どうやらその時知り合った少女に「クリスお姉さま」と呼ばれてしまったことが、何時の間にか周りの人間に知られていた為だった。
「それは勘弁して……」
 クリスは情けない顔をして言う。それを見て笑う女性陣。完全に遊ばれている。
「さあ、時間が無いわよ、さっさと片付けましょう。」
 ミリーはそう言って手を叩く。女性陣はそれぞれの作業に戻っていく。クリスもさっそく捕まってしまい、作業を手伝わされている。
 それを笑いながら見ていたミリーはエクセレンに呼ばれる。
「ミリー、これどうかな?」
 エクセレンがスーツをミリーの身体に合わせてくる。色は赤で、派手ではないが上品な服だった。
「一、二回しか着てないから、大丈夫だと思うけど……」
「いいの? こんな高そうな服……」
 ミリーがその服を見ながら聞く。
「構わないわ。どうせ着る機会もなくなるし。」
 エクセレンは肩を竦めて言う。結婚すればほとんど家庭に引きこもることが多くなるだろう。
「それにこんな派手な服を着れるのは独身の頃だけよ。」
 と言って笑うエクセレンに、ミリーが顔を引きつらせて答える。
「それって皮肉かしら? ……ったく、自分が幸せの絶頂だからって虐めないでほしいわ。」
 そんなミリーにエクセレンが笑う。二人は同期では最後まで残った独身者だったが、これで独身はミリーだけになる。
「まあしょうがないか……ミリーさんは理想が高いしね。」
「ふん。」
 そっぽを向くミリー。そんな彼女を見ながら小物入れを覗き込むエクセレン。ふと何かに気付く。
「おっと、忘れるトコだったわ。」
 そう言って取り出したのは一本のリップだった。ミリーは「?」という顔をしてエクセレンを見る。
「クリス、こっちへ来てちょうだい。」
 女性陣にアンダーウェアの整理をさせられていたクリスに声を掛ける。
 ちなみに、クリスは意図的に服の整理に回され、「これ似合ってるわね。」と言われ様々な服を見せられていた。
 そのどれもがスカート丈が短いワンピースとかホットパンツなど、足をより見せるような服ばかりである。
 クリスが顔を真っ赤にして恥かしがっていたのは言うまでもない。
 一年経ち、言動はそれなりに女の子になってきたが、こと服装となると未だに駄目だった(周りがおもちゃにするのも原因だったが)。
 今の服装も、ジャケット+シャツ+タイトスカート(膝丈)+ブーツという何時ものやつである。
「何?」
 おもちゃにする女性陣から抜け出したクリスが二人の元にくる。エクセレンは椅子に座る様に促す。
「ちょっとじっとしていてね。」
 そう言うとクリスの顎を軽く持ち上げリップを唇に塗り始める。
「え、ちょっと……」
 クリスは慌てるが、「動かないで!」とエクセレンに言われ大人しくする。
「これでOK……うん、いいわよ。」
 満足そうに頷きエクセレンが言う。ミリーもそんなクリスの顔を見て「へー」と言う声をあげる。
「この色、クリスに似合うと思っていたんだけど。ホント思った通りね。」
 エクセレンは鏡を取り出しクリスに自分の顔を見させる。そこに映っているクリスの顔は何時もとは印象がかなり違っていた。
 オレンジ色のリップがクリスの魅力を引き立てている。
「クリスは素っぴんでもかなり可愛いんだから、メイクでもすればもっといいのに。」
 鏡を見て呆然とするクリスにエクセレンが言う。「ミリーもそう思うでしょ?」
「確かにね。クリスってばそういうこと全然しないから。」

(そうは言われても……)戸惑ってしまうクリス。メイクなどしたいとは思わないのだが。

「あ!クリスが……皆見てよ。」
 リップしたクリスに気付いた女性が他の女性達を呼び、たちまち取り囲まれる。
「綺麗ねクリス。」「その色似合ってるわよ。」
 女性陣にもみくちゃにされるクリス。もはや荷物整理など誰もしていない。
「ねえ、クリスにメイクしてみない?」
 女性の一人がそう言うと、他の女性が「賛成!」と言ってメイク道具を持って来る。
 アイシャドウをされチークを塗られ、さらにビューラーでまつげをアップされる。
 クリスは抵抗するが、調子に乗った女性陣によってたかってメイクされていく。
「た、助けて……」
 クリスの悲痛な声は、彼女達の歓声に消されて外に漏れることは無かった。



 一台の小型車がトラックの横に止まり、中からメリンダが降りて周りを見る。
 既に荷物の大半はトラックに積み込まれており、男性陣は次の荷物を庭で待っているようだった。
 周りを見渡しながらメリンダは家に向う。インターホンに手を伸ばそうとすると、ドアが突然開き誰かが出て来る。
 それが自分の娘だとメリンダは直ぐに……気付かなかった。あまりにも普段の印象と違っていた為だった。
「おりゃまあ……クリスかい?」
 そう、それは女性陣によって完璧にメイクアップされたクリスだった。
 その変わり様にメリンダは一瞬目を見開いて驚いた顔をしていたが、直ぐに笑顔になって言う。
「どうしたんだい……急に色気づいて?」
 その言葉にクリスは苦い顔をして母親に食って掛かる。
「何が色気づいた……だよ。」
 気付いていない娘にメリンダは笑いながら、庭にいる男性陣を指差して言う。
「あの連中を見てみな……皆あんたのことをぼーとした顔で見ているだろう。」
 言われて男性陣が慌てて視線をずらす。さらに真っ赤になってクリスは「う……」と言って唸る。
 そういう恥らっている姿がまた男性陣の感情を刺激していることに気付かないクリスに、メリンダは苦笑いする。
「何笑っているんだよ!」そう言うとクリスは顔を真っ赤にしながらトラックの運転席のドアを乱暴に開け、乗り込んでしまう。
 娘のそんな可愛い反応に、「そんなだから余計騒がれるのに……」と思うメリンダだった。
 確かにその初々しい姿が男性陣の萌え心を、女性陣の虐め心を刺激しているのだが……
「社長!」
 出て来たミリーに声を掛けられメリンダは玄関の方を見る。隣にはエクセレンもいる。
「終わったのかい?」
 メリンダは二人に声を掛ける。
「ええ、後は詰め込むだけよ。」とミリーが答える。メリンダはそれに頷くと庭でボーとしている男性陣に合図する。
「ところであのクリスによくメイク出来たもんだね。」
 メリンダの感心した言葉に、ミリーとエクセレンの二人が顔を見合わせて笑う。
「これで女の子らしさを身に付けてくれればいいんですけど。」
 エクセレンが、トラックの運転席でぶすーとしているクリスを見ながら言う。「そうだね。」と言ってメリンダも笑う。
「何話しているの!? 荷物載せ終わっているわよ。」
 クリスがウィンドガラスを下げて、三人に文句を言ってくる。荷台を見ると最後の荷物が載せられ扉が閉められるところだった。
「OK!クリス。それじゃ行きましょうか。」ミリーがそう言ってエクセレンを見る。それに「ええ。」と答えるエクセレン。
 二人はトラックの助手席に乗り込む。メリンダはトラックから離れるとクリスに言う。
「エクセレンを頼むよ。大事な花嫁なんだからね。」
 クリスは「分かってます。」と頷き、トラックのエンジンをスタートさせる。
「お世話になりました。メリンダさん。」
 助手席からエクセレン達が顔を出し、メリンダに別れの挨拶をする。メリンダとエクセレンの付き合いはクリス以上に長い。
「ああ、幸せになりな。」
 メリンダは優しそうな笑顔を向けてエクセレンを送り出す。
 トラックは一路宇宙港に向って出発していく。それを見送るメリンダと、クリスによって魂の抜けた男性陣(笑)。
 住宅区画を出たトラックはコロニーのメインストリートを30分ほど走って宇宙港に到着する。
 そのままクリスはトラックを、ドックにある「シルフィールド」に載せる為に専用エレベーターに向かう。
 エレベーターでドックに入ったクリスは、トラックを「シルフィールド」の前まで移動させる。
「それじゃ先に乗って待っていて。」
 二人を先に降ろし、荷物室扉前までトラックを移動させて降りたクリスは、携帯端末で荷物室扉を開くと、トラックをリモコンで動かして荷物室に入れる。
 荷物室にトラックが入り、所定の位置に停止し自動的に固定される。クリスは携帯端末で車体が固定されるのを確認し扉を閉じる。
 全ての作業を終えたクリスはエアロックへ向かい、「シルフィールド」に搭乗する。
 既にミリーとエクセレンの二人は操縦室に入って待っていた。
「OK……席に着いて。直ぐに出発します。」
 操縦席の一番前にある座席に着くクリス。ミリーたちもそれぞれクリスの後ろの座席に着く。
 着席したクリスが操縦席周りにある機器を作動させると、ウィンドウが次々に現れて様々な情報を表示してゆく。
「航法システム異常なし。」
「生命維持システム異常なし。」
「メインスラスター及びサブスラスターともに異常なし。」
 …………
 クリスは声を出して表示されている内容を一つ一つ確認してゆく。するとウィンドウは声に対応して消えてゆく。
 点検項目をクリスが確認したことをコンピューターが認識して、ウィンドウを消しているのだった。
 全ての点検項目のウィンドウが閉じられると、クリスは「全システム異常なし。」と宣言する。するとその声に対応し新しいウィンドウが開き、ドック内の様子を映す。
 次にクリスは通信装置を操作し、管制室を呼び出す。
「こちらシルフィールド、準備OK。出港許可をお願いします。」
 開かれた通信用ウィンドウに管制官を務める少女の顔が映る。「出港を許可します。……それから、エクセレン結婚おめでとう。」
「ええ、ありがとう。」
 管制官の少女の言葉に、エクセレンは微笑み返す。
「それじゃ元気でね。」
 そう言って管制官の少女は通信を切る。後には誘導情報のウィンドウが表示される。
 クリスは操縦システムを操作し、「シルフィールド」をドックから出すと、宇宙港内を姿勢制御噴射で移動する。
 ここではスラスターはまだ点火できない。やがて宇宙港を出るとそこで初めてサブスラスターを稼動できるようになる。
 クリスはサブスラスターを噴射させて、「シルフィールド」を港から離れる軌道に乗せる。
 そして十分離れる間に目的地の軌道を確認し、安全な位置まで来るとメインスラスターを点火、目的地に向う。
 到着まで2時間弱だった。



 ウィンドウが瞬き、目的のコロニーである「ベータ6」に到着したことを知らせてくる。
 小説を携帯端末で見ていたクリスは、端末を閉じるとヘッドセットのマイクで後方の船室にいるミリーとエクセレンを呼ぶ。
 ちなみに読んでた小説の内容は、「魔法で少女になってしまった男の子が魔法学校の女子寄宿舎に入れられてしまう」話だった。
 しかも正体がばれており、女性達におもちゃにされるのだ。まるで自分を見ているようで、クリスは主人公に同情していた(笑)。
 操縦席後部のドアが開き、ミリーとエクセレンが入って来る。クリスは2人に頷いて通信システムを開く。
「ベータ6、こちらシルフィールド。」
 ウィンドウが開き、ベータ6の管制官の顔が映る。「シルフィールドへ、こちらベータ6。感度良好です。」
「侵入コースの指示をお願いします。」
 クリスは航法データを映すウィンドウを見ながら、許可を得ようとする。
 もっともこの手順は既にシルフィールドと管制局のコンピューターの間で行われており、クリスと管制官との通信は確認にすぎない。
「了解しました。航法システムを誘導波ブルー5にセットし、侵入して下さい。それから……」
 管制官の女性はそれまでの事務的な顔から表情を崩すと、話し掛けてくる。
「ベータ6へようこそ。それから、歓迎するわエクセレン。」
 エクセレンはにこっとして答える。
「ええ、こちらこそよろしく。」



 シルフィールドは誘導に従い、ベータ6の宇宙港に入港すると、指定されたドックに収納される。
 クリスは全システムを待機モードに切り替え、荷物室の扉のロックを解除する。
「それじゃ先に行っていて下さい。私は手続きを済ましてから行きますから。」
 クリスはミリーとエクセレンにそう言うと、立ち上がってエアロックへ向う。
「OK、行きましょうエクセレン。」
 ミリーもエクセレンを促し、クリスの後に続いてエアロックに向う。
 シルフィールドを降りてクリスは荷物室の方へ、ミリーとエクセレンは宇宙港のロビーへ向う。
 クリスは荷物室の前に着くと、携帯端末を操作し扉を開いて中に入る。そしてトラックのロックを外し運転席に乗り込む。
 トラックを荷物室から一旦出し、運転席から降りて荷台の荷物を点検し始めるクリス。だがその背後に近付く人影があった。
「よお! クリス。」
 その人影が呼びかけて来た瞬間、クリスの動作がぴたりと止まる。心なしか肩が震えて見える。
 もっとも相手の方は、それに気付いた様子もなく、「いやーここで会えるとは運がいいな。」と勝手に喋り続ける。
「うん? どうしたんだいクリス。」
 その人影(どうやら男らしい)は今になって気付いたように聞いてくる。だが、クリスは肩を震えさせたまま動かない。
「なあークリス……」
 男が言いかけた瞬間、クリスが振り向いて相手を睨みつける。
「あのなあ……その女相手のナンパみたいな話し方やめろって、何度も言っているだろうが。」
 相手の男、金髪に整った顔立ちの美青年は「?」といった顔をしている。そんな相手にクリスは深い溜息をつく。
 この美青年はクリスの親友、ハワード・カータだった。その美貌と話術で落とせない女はいないというのが自慢な男だ。
 そして現在、その能力を駆使して親友であるクリスを口説き落とそうとしている。クリスとしては非常に迷惑なことに……
 二人は、鉱夫とアストロノーツという違いはあったが、年が同じことから幼い頃から一緒につるむことが多かった。
 まあ、そのナンパな性格には閉口させられたが、けっして女の子を泣かせる様なことはしないので、クリスは気にしないようにしていた。
 しかしそれが自分に向いてくるとは……クリスとしては、いくら自分が女の子になったといえ、受け入れる事など考えられない。
 一年前までは男同士だったのだ、急に異性と見られても迷惑なだけである。
 前に一度「男だと知っているのに何でだ?」と聞いたところ「可愛い女の子を口説くのは男の義務だ!」と断言された。
 もちろんそんなセリフに、クリスは開いた口が塞がらない思いだった。
「ところでこの後お茶でもどうだい?」と、定番な(笑)セリフを言うハワード。
「仕事中。」
 クリスはウンザリしたようにそう答えると、トラックの点検に戻る。相手にしては時間がいくらあっても足らなくなる。
 だがそんなクリスの態度にもめげず、ハワードはさらに話し掛けてくる。よほど自信が有るのだろうが……
「なら仕事が終ったらでいいからさ。チョコアイスの美味しい店に行こうぜ。」
 女の子を一撃で落とす(本人談)笑顔でさらに話し掛けるハワード。クリスの肩の震えがさらに大きくなってゆく事に気付かない。
「だからクリスちゃん……」

 
ジャキッ!

 ハワードの顎の下に突きつけられるスタンガン。そしてハワードを睨みつけるクリス。
「今度そんな呼び方をしたら……撃つぞ。」
 スタンガンでもこんな至近距離で撃てば大怪我決定である。これにはさすがにハワードも黙る。
「えーと……いくらスタンガンといえど無闇に撃っちゃいけないと思いますが……」
 笑顔を引きつらせてハワードが言う。両手を上げてホールドアップ状態だ。
「お前に何かされそうになったと言えば許される。」
 冷徹に言うクリス。目はマジである。あと一言ハワードが何か言えば、躊躇無く引き金を引きそうである。
「あははは……クリスも女の子のずるさを覚えてきたね。」

 
ガーン!

 何気ない一言だが、クリスはショックを受けてしゃがみこんでしまう。確かにそのセリフは女の子の立場を利用したと言われてもしょうがなかった。

(な、何てこった……何時の間に俺って。)

 落ち込むクリスの後からハワードが頬を指でかきながら声を掛けてくる。
「まあクリスは女の子なんだから、そう落ち込むことも……」
 ……ないんじゃないの、と続けようとしたハワードはそこで言葉を止める。
 涙を目に溜めたクリスが睨みつけていた。もっともそんな状態ではまったく迫力はなかったが。
 しばしそうやった後、ぷいっと顔を背け、乱暴にトラックのドアを開けると乗り込むクリス。

 
バタン!

 ドアを閉め、エンジンを掛ける。そして発進しようとしたクリスは突然ハワードに向き直ると、思いっきり舌を出して言う。
「お前なんか大嫌いだ!」
 トラックは急発進していく。かなり乱暴な運転が怒っていることを示している。
 しかしクリスは気付いているのだろうか。そういう態度も男心を刺激していることに……
「へへへ。可愛いじゃないか。」
 ハワードの言葉が、はからずもそれを証明していた。



 ドックからトラックを出したクリスは、ロビー前に駐車して二人を待つ。もちろんその間も怒りは収まらない。
 やがて、ミリーとエクセレンがトラックに乗り込んでくるが……
 あきらかに不機嫌そうな顔をしているクリスに気付き、ミリーはエクセレンと顔を見合わせる。
 そんな二人の態度に気付きクリスが「何……?」という顔をする。
「何があったの?」
 ミリーはそう言ってクリスを見る。クリスは「別に。」と言って外を見る。
 ミリーはそんなクリスの態度に、「男ね。」と言って頷く。
「あ、なるほど。」
 エクセレンも納得する。

 ガタ!

 思わずこけるクリス。「な、何言って・・・・」
 口をパクパクさせて二人を見る。

(図星ね・・・)ミリーとエクセレンは確信する。クリスの態度がそれほど分かりやすいからなのだが。

「今度は誰に迫られたの?」
 ミリーはにやにやしながら聞いてくる。
 それに対し「ハワード。」とぶすっとした表情で答えるクリス。名前を言うのも嫌らしい。
 エクセレンは笑いを堪えながら「ご愁傷様。」と言って肩を叩く。
「うーー。」と唸ってトラックを発進させるクリス。
 にやにや笑う二人と憮然とした一人を乗せて、トラックは目的地へ向う。その道中、何があったか根掘り葉掘り聞かれるクリスだった。
「あの子もまめね。」とはミリーのセリフ。クリスにとっては「冗談じゃない。」という心境なのだが。



 宇宙港を出て20分後。トラックはエクセレンの新しい住居に到着する。その家の前に立つ人影。
 トラックを降りたエクセレンに「お疲れさん。」と声を掛けてくるその人物は義理の母親である。
「ありがとうございます、お義母さん。これからよろしくお願いします。」
 エクセレンが頭を下げて挨拶する。
 それから辺りを見渡して母親に「あの……ベックは?」と聞く。確か今日はベック……旦那になる男性も来ているはずだった。
 母親は溜息を付くとエクセレンに答える。
「それがね、鉱山で問題があったらしくってね。」
 ベックはトラブルが発生したということで、ついさっき何人かの鉱夫とともに鉱山に向ったらしい。
「じゃあ、今日のパーティは?」
 エクセレンは、クリスとミリーを振り返りながら母親に聞く。
「自分に構わずやってくれとさ。」
 母親は肩を竦め答える。実は今日エクセレンとベックの結婚祝いを内輪でやる予定だったのだ。
「間に合えば来るそうだけど。あまり期待しない方がいいね。」と言って母親は溜息を付く。同じトラブルは最近頻発しているらしい。
「だったらこのメンバーで……」
 そう言いかけたところで、誰かがエクセレンの足に「お姉ちゃん。」と言って抱きついてくる。
 小さなその人物は……エクセレンにとっては義理の妹になるキャッシーだった。
「キャッシー。元気そうね。」とエクセレンはそう言って彼女を抱え上げる。まだ結婚していないが既に姉として慕ってくれている。
「まあ、独身最後に女だけで楽しみましょうか。」
 ミリーが肩を竦めて言うと母親も頷き「そうね、こういう機会はもうないでしょうから。」と賛成してくる。キャッシーも「わーいお姉ちゃんがいっぱい。」と喜びの声を上げる。しかしクリスは……
「あ、私はそれなら戻ってるから。皆で楽しんでくれば……」
 既に身体が逃げかけていたのだった。
 クリスとしては一年前の実習船(第四話)の件以来、女性だけでしかも夜通し居るというのは出来るだけ避けたかった。
 だが次の瞬間、クリスは八本の腕に掴まれ身動きができなくなる。表情が引きつるクリス。
「あの……」
 何とか身体の自由を取り戻そうとするが、ガッチリ掴まれてしまい、それは無理だった。
 ミリーがにこやかに笑いながら「何言ってんの? ……あ・な・たも来るの。」と言って、逃げられないように腕に力を込める。
「クリスは祝ってくれないんだ?」
 エクセレンは悲しそうな顔をしながら腕に力を込める。
「まあ付き合ってもバチは当らないわよ。」
 ベックの母親もそう言って腕に力を込める。
「えー、おねえちゃん帰っちゃうの?」
 いかにも不満顔をして腕に力を込めるキャッシー。

(はあ・・・・)

 もはや逃れられない運命に、クリスはただ深い溜息をつくだけだった。



 第32号鉱。

「ベック! 離れろ。」

 絶叫が坑内に響き、駆け抜けてゆく足音が続く。かなり緊迫した状況らしい。
「サンダースは?」
 ベックが走ってゆく男達に叫びかえす。
 坑内は煙っており、壁を伝っているケーブルもあちこちで火花を上げている。
「まだエネルギープラントにいる。あの馬鹿……逃げろと言われたのに。」
「くそ、なんてこった……」
 返事にベックが舌打ちをして、坑内奥の方を見る。
 既に小爆発が起き始めており、かなり危険な状態だった。
「助けにゆく。先に行ってくれ。」
 ベックはそう言うと、坑内奥へと向って走る。
「何言ってんだベック。お前も危険だ。」
 だが、ベックはその声を無視し、火花や小爆発の続く中を駆け抜けてゆく。
「ベック! 戻れ。いつ爆発するか分からないんだぞ。」
 ベックを引き戻そうとする男が絶叫するが、その姿はもう見えない。奥の方は火花と爆発でもう近寄ることも出来ない。



「サンダース!」
 ベックは煙で視界の悪くなったエネルギープラントに、非常用のガスマスクを付けて入る。
 激しい火花が飛び散り、様々な機材が散乱しエネルギープラント内は危険な状態だった。
「くそ……返事をしろサンダース!」
 立ち込める煙の為、視界は恐ろしく悪い。
 なかなか相手を発見できず、ベックは焦る。あと僅かでエネルギープラントは爆発の臨海点に達するだろう。
 ふと、壊れかけた機材の影に誰か倒れているのに気付く。走り寄るベック。サンダースだった。
「おい、しっかりしろサンダース。」
 抱き起こしサンダースを激しく揺さぶるが、目を開けない。頭から血を流し完全に意識を失っている。
 ベックはサンダースの両脇に手を入れ引きずり始める。が、相手は180もある大男である。簡単には動かない。

 
ドーン!

 次の瞬間、プラントの一部が吹き飛び火が吹き上げる。そして隣のプラントに飛び火して爆発してゆく。
 その衝撃に、ベックはサンダースと共に壁に叩きつけられる。もはやプラント内は火の海だった。

(エクセレン……)薄れてゆく意識の中、ベックは自分の最愛の女性の顔を思い出す。(……すまん。)

 そこまで思った後、ベックは意識を失った。遠くで聞こえる非常事態を告げる電子音と、隔壁の閉まる音を聞きながら……



 ピーピーピー

 連続する電子音に、暗闇の中でクリスがむくりと起き上がる。なぜかその姿はアンダーウェア姿。周りには様々な服が落ちている。
 そして机の上には酒のビンが置かれており、ミリーとエクセレン、ベックの母親がソファの上や床に寝ている。
 そんな三人を見てクリスは深い溜息を付く。いったい何があったのか。まあそれほど大げさな事ではないのだが……
 あの後エクセレンの新居に連れ込まれ、ベックの母親が準備していた食事でパーティが始まり、そのうちお酒が入り、最後にはクリスのファッションショーになっていったのだ(もちろんミリーの暴走が原因)。
 ちなみに辺境では十代といえ、働いていればお酒を飲むことなど珍しくない。クリスも多少はいける口だった。
 母親の晩酌に付き合うこともあったし、男の姿の時だが友人と飲みに行ったこともある。

 ピーピーピー

 しつこくなる電子音の元に、クリスはよろよろしながら近付く。

(うっく……飲み過ぎた……)

 なお、エクセレンの義理の妹になるキャッシーは酒盛りが始まると逃げ出していた。どうも母親やエクセレンの酒癖の悪さを知っていたらしい。そして今回クリスはミリーもそうであったことに気付かされた。

(もうこの面子で酒を飲まないぞ。)クリスはそう決心して受話器を取る。「はい、もう酒はいいです……じゃない、ベックの家ですが。」

 ボケたことを言いそうになり、慌てて言い直すクリスだった。
「エクセレン? ここに居ますけど、何か?」
 相手のせっぱつまった雰囲気に、クリスの意識が正常な状態に戻ってゆく。
「爆発事故って……一体なんでそんな。」
 クリスの声はどんどん大きくなっていく。そのただならぬ様子に寝ていた三人が目を覚ます。
「クリス?」
 ミリーが声を掛けるが、クリスはそれを手で制する。
「それでベックは? え、確認できないって……そんな。」
 エクセレンの顔色がみるみる青くなってゆく。母親も冷静に振る舞おうとするが手が振るえ始めていた。
「お母さん?」
 クリスの声に起こされたのか、不安な顔つきでキャッシーも部屋にやってくる。
「それで救出作業は? 人が足りないってそんな……」
 クリスの声もさっきから上がったり下がったりしている。
「分かりました。直ぐにそちらに……何人か連れて。はいお願いします。」
 クリスはそう言って受話器を置く。そして四人の方に振り返る。心なしかクリスの顔も青ざめている。
「坑道のエネルギープラントで爆発事故が発生した。ベックは……その時そこにいたらしくて。」
 クリスの言葉に、エクセレンが崩れるように倒れこむ。
「エクセレン!」
 ミリーと母親が慌てて彼女を支える。
「それでベックは?」
 口もきけなくなったエクセレンに代わり、ミリーが震える声でクリスに聞く。
「分からないって。今はその区画は隔壁が下りていて近づけないらしくて……」
 クリスは立ち上がり、部屋に脱ぎ散らしてある自分の服を集め着てゆく。
「取り合えず様子を見にいってくるから。エクセレン……」
 着替えながら、ミリーと母親に支えられるエクセレンにクリスが話し掛ける。
「心配しないで。ベックは大丈夫だから。」
 力強く頷きながら着替え終わったクリスは、外に飛び出して行く。それを見てミリーが呟く。
「はぁー、こういう時はやっぱり男……よね。」
「ホントね。凛々しくて。」
 幾分顔色の治ったエクセレンが答え、ベックの母親も頷く。……とその時。
「クリスお姉ちゃんカッコいい!」
 キャッシーが思わず状況を忘れ、うっとりとした表情で叫ぶ。
「ぷ……ぷ。」「くくく……」「くすくす。」
 ミリーとエクセレン、母親は顔を見合わせて笑っていた。重苦しい雰囲気が少し和らいだようだった。



「宇宙艇を出せないって!?」
 宇宙港のロビーでハワードが宙港職員に怒鳴っていた。他の鉱夫達も険しい顔をしてやり取りを聞いている。
 事故の一報を聞き、ちょうど非番だったハワード達は救助を手伝う為に鉱山に向おうと、宇宙港に来たのだったが……
「アストロノーツの連中が今ちょうど全員出払っていて……宇宙艇を出せないんだ。」
 職員はハワードの剣幕に引きながらそう答える。実は鉱山の事故の一時間前に、近くの航路で宇宙艇の遭難が起きていた。
 そちらの救助の為、宇宙艇は出払っていたのだった。あまりにもタイミングが悪かった。
「今非番の連中を呼び出しているんだが……まだ来ない。」
「一体何してんだ、その連中は?」
 ハワードは憤慨する。鉱山での事故は何時起こるか分からない。鉱夫にとっては他人事ではないのだ。そんな大事な時に。
 危うく職員を殴りそうになった時、ハワードは後ろから声を掛けられる。

「ハワード!何やってんだよ。」

 それはジャケットを片手に宇宙港に飛び込んで来たクリスだった。
「クリス? お前……」
 ハワードはその時になって、初めて自分の身近にいたアストロノーツのことを思い出していた。
「じゃれあっている場合じゃないだろ。ヒマなら鉱山に行くから付いてこい。」
 超が付く位の美少女が男言葉で怒鳴っているのだから、普通はそのギャップに戸惑いを感じるところだが……
「分かってる。おい皆、付いてこい。」
 ハワードは周りにいる鉱夫達に怒鳴るとクリスの元に走る。……誰も気付かなかったらしい。
 クリスの周りを厳つい鉱夫達が取り囲む。普通の女の子であればその迫力に怖がるところだが。
「OK! それじゃ行こう。」
 クリスはそんな光景に引くことなく、ジャケットに手を通しながら鉱夫達に言うとドックへ向う。
 仕事柄、こういう連中とは付き合いの長いクリスである。普通の女の子とは違うのだ(笑)。



 ドックに到着したクリスは、シルフィールドに鉱夫達と共に乗り込み操縦席に向う。
 座席に座ると、何時もの発進シークエンスを省略して、システムを立ち上げる。
「管制局、緊急発進の許可を。」
 手短に発進準備を済ませたクリスは、管制局への通信回線を開き叫ぶ。
「了解、シルフィールド。緊急発進を許可します。」
 管制官も時が時だけに間髪を入れず答える。それに頷き、クリスはシルフィールドを発進させる。
 宙港内の制限速度をオーバーしながらシルフィールドは進んでゆく。そして、宇宙港の外に出ると更に加速する。



 航行時間の最短記録を更新しそうな勢いで、シルフィールドは鉱山の小惑星に到着した。見ると他の宇宙艇は来ていないようだった。
 ここでも緊急ということで、直ぐに宇宙港への入港を許される。クリスは通常の入港スピードをはるかに越える速度でドッキングを完了する。
 それを確認すると、クリスは宇宙艇のシステムを待機モードにして操縦席から立ち上がり、ハワード達とエアロックへ向う。
 鉱山内は騒然としていた。鉱夫達が走り回りあちこちで怒鳴り合う声が響く。誰もが仲間を助けようと必死だった。
 その中でひときわ声を張り上げ指示を飛ばしている男がいた。ハワードはその男に気付くと駆け寄る。
「おやっさん!!」
 その声に振り向き、ハワードを見る現場主任の男。
「ハワードか? 早いなお前さん。」
「特急便があったんだ。それで状況は?」
 現場主任・おやっさんは難しい顔をしてハワードを見て言う。
「最悪だ。プラントの爆発で坑内のシステムがおかしくなっていやがる。」
 自分の携帯端末を作動させながらおやっさんはぼやく。表示された鉱山の内部表示はあちこちが“エラー”の表示だ。
「そのせいで消防システムが誤作動したり、関係ない区画が閉鎖されたりして大混乱だ。おかげでベック達の様子も不明だ。」
 おやっさんは坑内の一部を拡大して表示させて説明を続ける。
「ベックとサンダース、二人はここにいるらしいが確認が取れない。火災のせいで近付くこともできない。」
 深い溜息を付くと、ハワードとクリスを見て言う。
「最悪だという意味がこれでよく分かっただろう。……システムの修復を急いでいるんだが、時間が掛かる。」
 ベック達のいる区画は、爆発現場に近い為に二重に閉鎖され、隔壁を突破しなければ近づけない。
「隔壁を焼き切ることは?」
 鉱夫の一人が聞いてくるが、おやっさんは首を振って答える。
「それじゃ救出が何時になるかわからん。一応やってはいるが。他の区画に閉じ込められた連中の救出もあるし。」
 一同に深い沈黙が落ちる。状況はあまりにも最悪だった。ふと画面を見ていたクリスが何かに気付く。
「待った。坑道の反対側……ここに非常用のエアロックがあるじゃないか。」
 クリスが指差した部分にエアロックを意味する記号が輝いている。一同の視線が集まる。だが……
「駄目だな。そこは後日行われる拡張工事の為エアロックのシステムが外されているんだ。」
 エアロックも作動させる為のシステムがなければただのドアである。宇宙空間からの出入りは出来ない。そんなことをすれば坑内の空気があっという間に抜けてしまい、二人の人間の生存も絶望になる。

 失望感が男達に落ちてくるなか、クリスはじっと考えこんでいた。(うまくやれば……)

 クリスは顔を上げるとおやっさんに自分の考えを話す。
「でも宇宙艇をここに接続できれば何とかできます。システムが作動しなくてもドアの開閉はできるんでしょ。」
 その提案に、おやっさんは目をむいてクリスを見る。
「そうすれば空気の流失の問題も……」
「いや駄目だ。あの付近は拡張工事の為の機械が設置されていてそんなスペースはないぞ。」
 おやっさんはエアロック付近の拡大図を出してクリスに説明する。図からはその付近にあちこちから突き出した機械があって、かなり狭い状況が分かる。一同にはとてもそこに宇宙艇が入れるようには見えなかった。
 だがクリスは……
「シルフィールドならぎりぎり入ります。まあかなり無理をすればだけど。」
 その顔には自信が溢れている。そんなクリスを見てハワードが言う。
「おやっさん。クリスの腕は知っているだろ。大丈夫さ。」
 クリスのアストロノーツとしての腕前は、同業他社ばかりでなく鉱夫達の中でも有名だ。……もっとも最近は容姿の方が有名だが。
 腕を組んで考え込んでいたおやっさんが、クリスの顔を見て言う。
「分かった。頼むクリス。」
 その言葉にクリスは笑みを浮かべる。本人は自覚していないがあまりにも魅力的な笑みを。おやっさんをはじめ周りの連中が見とれてしまう。
「……?」
 その光景に不思議そうな顔をするクリス。つくづく罪な女(笑)である。
「と……ともかく急ごうぜ。時間がねえ。」
 ハワードが我に返って言う。不思議そうな顔をしながらも頷くクリス。美少女と野獣達はドックに向う。
 宇宙港を発進したシルフィールドは小惑星の表面にそって航行し、エアロックのある区画に接近してゆく。
「…………」
 空中に浮かんだウィンドウに映るエアロックの周りの状況を見て、クリスは眉をしかめる。思ったより厄介のようだった。
 シルフィールドを手前で一旦止め、姿勢制御噴射で方向を変更して宇宙艇をそろそろと近づけていった。
 操縦系統は既にコンピューター支援による手動に切り替えている。ウィンドウに周りの状況をできるだけ多く表示させ、右手で操縦用スティックを小刻みに操作しシルフィールドを動かしていく。艇体のあちこちが、エアロック周りに出ている機械すれすれを掠めてゆく。
 やがてウィンドウにエアロックの映像が映り、クリスは慎重に艇体を操縦し接近させる。映像の中のエアロックが大きくなってゆく。
 そして……シルフィールドはエアロックにドッキングする。
「OK、ドッキングよし。気圧も問題なし。」
『確認した。これから入る。』
 シルフィールドのエアロックで待機していたハワード達が、クリスの通信に答え外扉を開ける。そのとたん煙が吹き込んでくる。
「こりゃ酷い……」
 通路は機器があちらこちらに飛び散り、火を噴いている。照明も半分以上落ちている。ハワード達は宇宙服のライトを点灯し前進する。
 時々小爆発が起き、その度に停止を余儀なくされるハワード達。時間は刻一刻と過ぎていき、焦りが大きくなる。
 やっとの思いで爆発現場にたどり着く一行。そこはドアが吹き飛び天井も崩れかけている。
「こりゃひでえな……」
 ハワードはその光景に絶句して立ち止まる。他の鉱夫達もその光景に言葉も出ず立ち尽くす。
「おい! ベック!」
 ハワードが爆発音に負けじと大声を上げて呼びかける。……しかし返事はない。火災は大きくなり、ハワード達は後退させられる。
「……」
 ハワードは何か聞こえたような気がして、火が噴き出す部屋を見る。
「……ここ……」
 やはり聞こえる。意を決してハワードは火の壁に飛び込む。耐衝撃・耐熱機能のある特別製の宇宙服といえ危険な行為だ。
 他の鉱夫達の呼び止める声を無視し、ハワードは奥へ進む。やがて崩れ落ちている天井の梁の側に、倒れている二人を見つける。
「いたぞ! 手伝ってくれ。」
 ハワードは他の鉱夫達に怒鳴ると、倒れている二人に駆け寄り、抱き上げる。
「しっかりしろ、ベック。」
「何だ……お前かハワード。どうせ死ぬなら美人の天使の顔を最後に見たかったぜ……。」
 そんなベックのセリフに、ハワードが苦笑いしながら言う。
「いいのか? エクセレンに言いつけるぞ。」
 他の鉱夫達がハワードに続いて火の壁を越えてこちらにやってくると、隣のサンダースを指差して怒鳴る。
「サンダースを頼む。あと一人こっちを手伝ってくれ。」
 ハワードはベックをもう一人の鉱夫と共に担ぎ上げる。予備のマスクを顔につけ火の壁を見る。
「覚悟はいいか?」
 返事を待たず飛び込む三人。その後をサンダースを連れた連中も続く。

 
ドン!

 それを待っていたかのように天井が崩れてくる。炎が吹き上がり、残っていたプラントを爆発させる。





「ガガガ……」
「…………」
 通信にひときわ大きい音が入った。そしてその後に続く静寂。
「おい! ハワード、大丈夫なのか。」
 クリスは顔色を変えて無線に怒鳴る。だが無線には雑音しか入ってこず、応答はない。
 何度か呼ぶがやはり状況は変わらない。クリスは焦った。

(自分も行ったほうが?)

 しかし今の自分では……男の頃に比べればはるかに体格も小さくなり筋力もなくなっている。ヘタをすれば足手まといになる。
「……」
 自分の親友や仲間たちが生死の境にいるのに何もできない……待つことしかできない。クリスは唇を噛み締める。

「ク……クリ……クリス。」

 突然無線に自分を呼ぶ声が入り、クリスははっとする。
「ハワード……生きているのか?」
「ば……馬鹿言え、エクセレンを結婚前に未亡人にさせられるか。」
 聞きとりにくいが、はっきりした返事が返ってくる。
「それにお前を口説き落とすまで死ねないぜ。」
「ば、馬鹿野郎。何言ってんだよ。」
 顔を真っ赤にして焦るクリス。
「この非常時にお前は……」
 画像が映ってなくってよかった。クリスは両手で顔を被って思った。今の顔を見られたら何を言われるか……
「今エアロックに……辿り……」

 不自然に声が途切れたことに、クリスは気付いた。(様子が変だ。)

「おいハワード。」
 しかし返事がない。慌ててクリスは操縦席から立ち上がりエアロックに走る。不吉な予感を感じながら。
 操縦室の後にあるキャビンを抜け、エアロックに飛び込む。そこには……
「……!!」
 床に倒れているハワード達。宇宙服はあちこちが黒焦げになっており、全員悲惨な状態だった。
「ハワード! ハワード!」
 クリスは倒れ伏しているハワードに駆け寄ると、ヘルメットを脱がせて呼びかけるが……ハワードは答えず、目も開けない。クリスは青くなってさらに呼びかける。
「おい、答えろよハワード!」
「お、大きな声出すなよクリス。」
「…………」
 クリスの呼び声にハワードはなんとか目を開けて答える。身体のあちこちが痛み顔を顰める。ふと顔にかかるものに気付く。
 目を上げると、そこには目から涙をぼろぼろこぼしているクリスの顔があった。
「クリス、お前泣いているのか?」
「え?」
 クリスはそう言われて、初めて自分が泣いていることに気付く。
「な、何で涙が?」
 何とか泣き止めようとするが、涙は次から次と出てくる。どうも女性になってから涙もろくなった気がしたが、これほどとは。
 クリスはそんな自分に混乱してあたふたしはじめる。それを見てハワードが感激したように言う。
「そうかクリス。俺の為に泣いてくれるんだ。」
「い、いやそれは……」
「違うのか?」
「そ、そんなことはないけど……」

(これはどういう涙なんだろうか?)親友のハワードだからなのか? ……それとも? 自分の気持ちが分からずクリスは自問する。

「嬉しいぜクリス。」
 まあ、確かにハワードが助かったのは嬉しい。今はそれでいいじゃないか。クリスはそう思うことにする。(今は……)
 ある意味いい感じの2人だったが……ここでハワードは調子に乗ってしまった。そう、クリスを突然抱きしめてしまったのだ。

「え……?」

 自分が何をされたか分からず、しばし呆然とするクリスだが、そのうち自分の豊かな胸に顔を埋めているハワードに突然気付く。
 ハワードは感激してやりすぎたのだった。当然その行為はクリスを激怒させた。
「この大馬鹿野郎!!!」
 声をあげハワードを床に叩きつける。
 しかしハワードは怪我をしているのだ。そんなことをすればどうなるか。
「グエ……」
 白目をむいて再び失神するハワード。哀れ……
「あーーー、ハワード大丈夫か!?」
 自分でやっておきながら、クリスは慌ててハワードを抱き起こして身体を前後に揺する。
「しっかりしろ! ハワード!」
 動揺している為、ハワードが失神しているだけだということに気付かないクリス。幸せな顔をしたまま失神しているハワード。
 ベックをはじめとする鉱夫達は、「俺たちをほっといて何してんだ、この2人は?」と呆れながら見ていた。
 その後、航行時間の最短記録を再び更新しそうな勢いで、シルフィールドは鉱山の宇宙港に帰りついたのだった。



 二ヵ月後・コロニー「ベータ6」・教会前

「おめでとうエクセレン。」「ベック! このぉ幸せ者。」

 多くの人々の祝福の声を受け、ベックとエクセレンの2人が教会の前に立つ。二人は祝福してくれる人々に手を挙げて答える。
 奇跡の生還をした人物ということで、結婚式には多くのコロニーの住民が集まっていた。そしてその中にはベックの救出に貢献した二人、ハワードとクリスもいた。そのハワードは「奥さんを泣かすんじゃないぜベック。」と声をかけていた。
 一方クリスといえば……居心地悪そうに俯いている。その訳は……今日の格好にあった。
 背中の途中まで伸びた髪をアップにし、ミリーから貰った例の赤いスーツを着て、メイクもばっちりしている。それは普段の雰囲気と違い大人の女を感じさせていた。もちろん彼女(彼?)の意思ではなかった。
 当日クリスは結構地味なスーツで、ノーメイクといういでたちで出席しようとしていたのだが。
 ミリーをはじめとする女性陣に捕まり、二時間も掛けて念入りなメイクとドレスアップをされたのだった。
 その結果がこれで、花嫁のエクセレン曰く「私より目立っているわね。」と苦笑いされてしまった。

(もう少しで終わる。そうしたらこの服を脱いでメイクを落として・・・・)

 クリスはひたすら式が終わるのを願っていた。
 その為、周りの女性達が殺気だって花嫁のエクセレンを見ていることにすぐに気付かなかった。

(あれ……?)

 クリスが異様な雰囲気に気付いた時には、そんな女性陣の真ん中にいて、もはや身動きが出来なくなっていた。
 男性陣は既に待避済みである。
 何が始まるのかと周りを見ていたクリスは、エクセレンが手に持っていたブーケを思い切って空に投げるのを見て、女性陣が集まっている理由に気付く。

(そうか、ブーケを……)

 結婚式の時、花嫁が自分のブーケを参列者の女性陣に投げる事を思い出す。(皆こういうのが好きだな。)

 一年前には血眼になってブーケを取り合う女性陣を見て苦笑いしていたクリスだったが、まさか自分がそういう場面に立ち会うとは……

(まあ自分には関係ないか)

 他人事の様に周りの光景を見ているクリス。だが……
 飛んできたブーケはクリスの手前で数人の手に弾かれ、また空に飛び上がり、そしてクリスの手の中に収まる。

「えー!」と周りの女性陣の悲鳴があがり、クリスは「へっ?」と言って自分の手の中に収まった物を見る。それは今まで花嫁のエクセレンが持っていたブーケである。

(な、何でこれがここに?)

 すっかりパニック状態のクリス。
「良かったわねクリス。次は貴方かしら。」
 エクセレンが笑いながらクリスに話し掛けてくる。
「それって?」
「知らないの? 花嫁のブーケを貰った女性は、次に幸せな結婚をすると言われているのよ。」
 言われた意味が分からずにいたクリスに、他の女性が教えてくれる。
「そうすると花婿は誰になるのかしら?」
「決まっているじゃない、彼よ。」
 困惑するクリスを他所に、女性陣はお相手のことで盛り上がる。
「ハワード君、こっちに来て。」
 にやにやしながらハワードを呼ぶ女性。クリスはその彼女が「ベータ6」の診療所の看護師なのに気付く。
「へ? 俺に何か用ですか?」
 突然呼びかけられて驚いているハワード。クリスの顔が引きつる。どうも二ヶ月前のことを思い出したらしい(笑)。
「いいからこっちに来て。」
 女性陣に引っ張られてクリスの元に来るハワード。周りを囲まれ困惑ぎみだった。それに隣から睨みつけてくる視線にも。
「二ヶ月前、クリスったら泣きそうな顔して『ハワードを助けて』って来たのよ。あれはただ事じゃなかったわね。」
 先ほどハワードを呼んだ女性が二人を見て言う。すると周りから一斉に歓声が上がる。
「そうか、やっぱりね。」「二人とも付き合い長いもんね。」「お似合いよ、クリス、ハワード。」
 たちまち祝福の嵐。ハワードは「やー、それは照れるなあ。」と言ってまんざらでもないようだが、クリスは……
「ちょっと待って! 何でそうなるの?」
 だが誰も聞いていない。「結婚は何時なの?」とか「結婚式はどこでやるの?」などと勝手に盛り上がっている。
「それはちっとも気付かなかったわ。」とミリー。
「結婚式には呼んでねクリス。」とエクセレン。
「きっと素晴らしい家庭を築いてみせます。」
 すっかりその気のハワード。
 既にハワードとの結婚が決定したみたいである。
「だから、話を聞いてよ!」
 クリスの絶叫は誰の耳にも届いてはいなかった。



 後日、結婚話を必死に打ち消そうとするクリスと、逆に吹聴して回るハワードの姿が見られた。
 ところで例のブーケだが……
 結局クリスの部屋に保管されているらしい。それがどういう心理からくるものなのか。本人も気づいていないようである。



 結婚式当日・同時刻・ある診療所。
 部屋に設置してある端末が突然作動を始める。そして表示される内容。

『外部アクセス、確認。』

 ウィンドウが数多く表示されては消える。やがて……

『データ送信開始。送信データ名……遺跡』

 どうやら外部にデータを送ろうとしているらしい。しかも外部からのアクセスで勝手に……だがそれに気付く者はいない。
 それにしても遺跡とは?そのうちにウィンドウの一つに表示が現われる。

『データ送信完了』

 表示後。またしばらくウィンドウが出たり消えたりしていたが、突然全てのウィンドウが消える。そして暫しの沈黙。

『システムファイルが消去されました。全てのコマンドを停止します』

 ウィンドウがそんな表示をして全てが止まる。そう、永久に…………






次回予告



 クリスを女性にしたあの遺跡。それをめぐって動きはじめるある組織。
 その影はクリスにも迫る。

男 「元の身体に戻りたいとは思わないかね。」
クリス 「…………」

メリンダ 「私たちに挑戦しようとはいい度胸だ。受けて立つよ。」
ミリー 「クリス、私達は何があっても貴方の味方よ。」

 組織に挑む人々はクリスを助けられるか。

ソフィー 「どうするかはあんた次第だよ、クリス。」

 選択を迫られるクリスはどうするのか。



 次回、「遺跡」も見てください。

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