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 「希ちゃん……今頃どうしているだろうな〜?」

俺の側には、少し前まで「宮沢 希」と言う女の子がいた。

 俺は希ちゃんの事を考えていた。
 俺が遥だったときは気づいていなかったみたいだが……男の春樹に戻ったときに俺はあることに気づいた。

 どうやら俺は希ちゃんのことを「好き」になってしまっていたようだ……。

今の俺が本当に好きな人はあかりちゃんではなく希ちゃん……。

 希ちゃんに会いたい!希ちゃんとまた楽しく過ごしたい!
 俺の希ちゃんへの想いは募るばかりだった……。









希ちゃん再び……

作:T・H





宮沢 希ちゃん……彼女がいなくなってから一体何日が経っただろうか?
日が進むごとに、俺の希ちゃんへの想いは高鳴ってくるばかりだ。
何故俺は自分が「遥」だったときに本当の想いに気づけなかったのだろう?
でも今頃気づいても、もう希ちゃんには会えない。
何故なら希ちゃんは……この世の人間じゃなかったのだから。
今から大体約3年前くらいだっただろうか?ある日、希ちゃんは下校中にひき逃げされたのだ。
そして希ちゃんは病院に運ばれたが、そのまま目覚めることはなかった……。
だが希ちゃんにはまだ、生きたいと言う想いが残っていた。その想いがきっと強かったからだろうか?
希ちゃんは、現実世界とは違う「別世界」と言うところで生き続けていたのだ。
ただし別世界と言っても、違うところは春樹、男の俺が存在せずに女の俺、「遥」が存在すると言うくらいだろうか?
でも今ではその遥にもお世話になる機会はなくなったが……。
希ちゃんは、自分を引き逃げした犯人がもう捕まったのであの世に戻ると言っていたが……
きっと希ちゃんも、本当はまだ戻りたくなかったのではないだろうか?
希ちゃんにとっては犯人が捕まらないと気が済まないと言う未練があったのだろう。
そしてそれが果たされたとき、ほぼ強制的にあの世に戻らないとダメだったのではないだろうか?
きっと希ちゃんは自分の意志であの世に戻ったのではないだろう……。


「おはよー!」
「おっす」
学校に着き、教室に入ると俺の親友たちが朝のあいさつをしてくる。
「おはよ……」
俺は少し元気がなさそうな声で返した。
希ちゃんがいなくなってから俺は、なんだか元気が出ない。やっぱり希ちゃんに会えないからだろうか?
俺は自分の席に着くと、決まって後ろを振り返る。

……希ちゃんの席があるわけないよね……

今の俺には、彼女がいないとどうも調子が狂うようだ。
希ちゃんがいなくなってからというもの、希ちゃんの存在が俺にとってかなり大きいことであったと言うことに気づかされた。

希ちゃん……帰って来てくれないかな……

最近は希ちゃんのことばっか考えるせいなのか?あまりよく眠れない。
多分それが原因なのだろう。俺は眠くなって寝てしまった。
そしてこのとき、俺の希ちゃんに会いたいと言う想いは最も強かった……。



「原田、いつまで寝てるんだ?」
「……んにゃ?」
まぶたを開けると、いきなり担任の先生と睨めっこ状態になった。
「もうHRは終わったぞ!朝から寝てるなんてどうしょうもないな?」
「………」
「女の子なんだからだらしないマネはしない方がいいぞ」
そう言って先生は教室をあとにした。確かに女の子でいきなり朝から寝てるのもどうかと……ってなんで?
なんで先生は私に「女の子」って言ってきたんだろう?……一人称が「私」になってる……。
どういう事?……って普通は思うけど、確かこういうときに一つ心当たりがある。
一人称が自然に「私」になっているってことは、「遥」以外に考えられない。
HRから1時間目の授業に入る前の間を使って私はトイレの鏡へ確認しに向かった。
私はトイレの入り口に来ると、自然に女子トイレの方に入っていた。
鏡で自分の姿の確認をする。……遥が写っていた。ってことはやっぱり!私また遥になれたんだ。
でもどうして……?あ、そんなことより……。私は教室に戻ると即自分の後ろの席を確認してみた。
ちなみにさっきは前のドアから出て行ったので後ろは確認していなかったのだが。
確認してみると……席があった!そして……そこの席には希ちゃんが座っていた。


1時間目の授業が終わり、10分間の休み時間に入った。私はその時間を使って希ちゃんに色々訊くことにした。
「希ちゃん…?何でまたいるの?もうあの世に戻っちゃったんじゃなかったの?」
「うん、そうだったはずなんだけどね……あの世への逝き方がわからなくってさ〜、適当にさ彷徨ってたらこの世の別世界に戻って来ちゃったみたい」
「へ?逝き方がわからなくて……それで戻ってきたの!?」
「そうだけど?何か問題でもありますか?」
私は、希ちゃんは少しドジなのかな〜?と思ったが口に出さなかった。
「希はドジじゃないよ〜!本当に逝き方わからなかったんだもん!」
あ……そういえば希ちゃん心が読めるんだよね〜……。
「ごめんごめん、冗談だってば〜」
「……誤魔化してるようにも見えるけど、ま、いっか」
「それにしても……希ちゃん帰ってきてよかった」
「私もまた遥ちゃんに会えてよかったよ!」
私には希ちゃんに伝えたい事があった。希ちゃんに自分の素直な気持ちを伝えておきたい。
「ねえ希ちゃん、あのね……」
「な〜に?」
「えっとね〜、う〜んとね〜……」
「なになに〜?」
「……なんでもない」
「……何それ?」
「ごめん、ほんっとうに何でもないから!」
「そっかー」
……ダメだ。今希ちゃんに私の気持ちを伝えようとしたけど、遥のときだと男のときの感覚がなくなるせいか、
男のときに希ちゃんに対して「好き」と想っていた気持ちもなくなるみたいだ。
そういえばあかりちゃん相手のときもそうだったな……。
ということは、希ちゃんは私が女の子のときにしか登場しない以上、男のときの私の気持ちは
永遠に希ちゃんに伝えられないままなの!?



思わぬところでの希ちゃんの登場により、私には少し元気が戻っていた。
でもまだ完全に元気だとは言えない。何故かと言うと……私が遥になっているときにしか希ちゃんは登場しないのだから、
恐らく本当に希ちゃんへ春樹としての自分の気持ちを伝えられないと言う事が発覚しているからだろう。
さっきも言おうとはしたけど……まるで何かに邪魔されているような感じだった。
たった一言好きって言うだけで十分気持ちは伝わるのに、全然言えなかった。
希ちゃんからしてみれば男の私の事、一体どのように思っているんだろう??

「嫌いじゃないよ?」

「うん?希ちゃん何か言った?」
「え?別に何でもないよ〜!」
「そう?」「うん」

希ちゃんが今何か言ったっぽいけど〜……声が小さすぎて私には聞き取れなかった。
その後はとくに今まで通り、希ちゃんといたときのように何もかわりなく下校していった。



「さ〜ってと!これからどうしようかな〜?遥ちゃんにはあの世への行き方がわからなかったって言っといたけど〜……」
私がこの世の別世界に戻ってきた理由は、本当はこんな理由ではなかった。
でも、遥ちゃんはもしかしたらもう気づいているかもしれない。私が戻ってきた本当の理由に……。
まあ遥ちゃんが気づいていたとしても、気づいていないとしても、残りの時間慎重に行動しなくちゃ……!

「とりあえずどうしよっかな〜?あ、何時の間にかもう夜になってる……」
夜になってしまうと私は活動することができなくなってしまう。何故なら、私は死んでいるから。
別に夜行性じゃないってわけじゃないんだけど、夜になると遥ちゃんはいつ寝るかわからないから、
私はいつまでも存在していられない。遥ちゃんが寝ている間春樹君に戻って、その時私は一時的に
この世界から消えてしまうのだから。春樹君として遥ちゃんが元の世界に戻ってしまうのだから。
でも遥ちゃんが私の事を強く想ってくれれば夢の世界になら出て行けるんだけど……。




朝。私は目覚める。いつも通り朝は男に……戻ってない!?何で!?私は確かに……
男の一人称が出てこない!?何で!?どういうこと!?そういえば何だかパンツが
気持ち悪い感じがするんだけど……。トイレに行って原因はすぐにわかった。初潮である。
ようやく私にも生理と言う物が来たようだ。私……今までしばらく希ちゃんがいなくなっている
間男だった期間が長かったから……しばらく女の子になれなかったから……今は本当に100%
完全な女の子の自分になれていなかったのかもしれない。残りの5%くらいは男の気持ち……。
つまり、その残りの5%のせいで私は女の子にしかない生理と言う存在の事を気にせずに
いてしまったらしい。多分、今まで通りずっといつでも遥になれる生活でいたままだったら、
100%私は完全な女の子になっているままだろうからきっとそろそろ生理がきそうって事も
わかっていて、ちゃんと生理用ナプキンも用意してセットしていただろうな〜……。
そう、私は今日はナプキンをセットしていなかったのだ。それでもろにパンツに血を付けちゃって……
血がどんどんパンツの一部を真っ赤にしていって、それが更にパジャマにまで回ってきて……
私のパジャマのズボンは、一部真っ赤に染まっていた。とりあえずしょうがないのでその
パジャマとパンツは洗濯機行きとなった。今、私は洗面所の鏡の前で上はパジャマ、下は取り替えた
ばかりのパンツの格好をしている。私は今は女の子の遥で心も完全に女の子なんだから
別にそういう姿を見たってどうも……胸がドキドキしている。もしかして私ったら自分の
パンツ姿に見とれちゃってる!?だって心は完全に女の子……でも5%くらいはやっぱり
男の心になっているような気がしなくもないけど……。5%だけくらいなので、私は
なんとか見とれる程度で抑えられたみたい。その後急いで2階へ行きとっとと制服に着替えた。
ふぅ〜、これでようやくドキドキが落ち着いた。私は下へ行って黙々と朝ご飯を食べる。
すると、視界にどうしても自分のキレイに膨らんだ胸が入ってくる。……嫌だ。私ったら。
何自分の胸なんかに見とれているのよ……でも何だか私なんだけど私ではなく、春樹としての
私が遥の胸をじっと見ていたように思えたのは私の錯覚だろうか?

もちろん私は、この時はまだ春樹の気持ちが混ざって来たことは特にあまり気にしなかった。
本当の事を知らず、私はしばらく希ちゃんがいなくて遥になれなかったため、
今はこのような状態になっているのだと。しばらく勘違いをしたままになる……。



遥ちゃん大丈夫かな〜?やっぱり何も言わずに不思議な力を遥ちゃんに送るのはまずかったかな……。
多分遥ちゃん少し戸惑っているかもしれないな〜。でも大丈夫。春樹君の時は私は存在できないん
だからしばらくは遥ちゃんのままでいてもらわなくっちゃね。段々少し男の心が入り混じった
女の子の遥って言うのにも慣れてくるよね、うん。それに遥ちゃんとして私が存在している
状態で遥ちゃんに男の心が混ざっていないと春樹君としての私への気持ちが……ね?

「希ちゃん、おはよ」
「あ!遥ちゃん!おはよー!」

何時の間にか遥ちゃんは学校に着いていたようだ。私は元気にあいさつをした。
「ねえ、希ちゃん。あのね……私」
「わかってるよ。今の遥ちゃんは少し男の気持ちが入り混じっているんでしょう?」
「そ……そうよ」
「まあそのうち慣れると思うよ?ね?」
「え?ま、まあそういうものなのかな〜?」
「うん、そういうものなんだよ!それに……」
「それに?」

「私が存在する世界の時に春樹君の気持ちがないと、春樹君は私への想いが伝えられない……」

「え?なに?何か言った?」
「え?何も言ってないよ?」
「そう?」
「そうだよ〜!」
まあそりゃ当然だろうね。私はわざと聞こえないくらいの声で言ったのだから。


「はぁ〜っ……」
「どうしたの?遥ちゃん」

遥ちゃん溜め息ついている。よっぽど男の気持ちが混ざっているとやりずらいのかな?
でも私が遥ちゃんにかけた不思議な力は……遥ちゃんの状態で春樹君としての気持ちを私に
伝えられるまで強くなっていく……。そのため早く気持ちを伝えられないと序所に伝えられるまで
遥ちゃん内部での男の時の気持ちが増えてきて積み重なっていく……。本当に最終的にも
そのままだったら100%男の気持ちのままの遥ちゃんになりえる可能性も……。
でも、途中で遥ちゃんの気持ちが強くなってくれば春樹君の気持ちがそこで止まる可能性も……。
「ねえ、希ちゃん……」
「な〜に?」
「次の体育の時間ってプールだよね?」
「そ〜だよ〜♪楽しみだね〜♪」
「プールか〜……はぁ〜っ」

私にはわかる。遥ちゃんの中で序所に男の気持ちが強くなってきている。現在遥ちゃん内部での
男の気持ちは10%で女の子の気持ちは90%くらいだろうね。完全な女の子になっていない
気持ちの時に遥ちゃんは女の子の体で女の子の水着を着て水泳……そりゃやりづらいだろうね。
遥ちゃんが溜め息付くのもわかるけど、私に気持ちを伝えるまでは私がかけた力は解けない……。
だってね、私に春樹君の気持ちを伝えてくれないと私自身だって………。



私は今遥として、女の子として女子更衣室にいる。真夏の体育の授業と言ったら水泳。
これから水泳の授業が始まろうとしている。私は今更衣室で着替えようとしている。
だが、男の気持ちの私、春樹が着替えるのを拒否しようとしている感じがする。
今着替えて水着姿なんかになってしまったら、少し入り混じっている私の男の
部分の気持ちが興奮しまくって女の気持ちの方もマヒしてしまいそうな気がする。
そのため、私は他の女の子が着替えているところは見ちゃわないように、更衣室の
隅っこの方で着替えようとしていた。視界には今誰も入ってこない。誰も……。

「遥ちゃ〜ん!!」
「うわ〜〜〜っ!!!……の、希ちゃん!?」

一瞬心臓がドキっとした。希ちゃんが上下下着姿で急に目の前に現れたのだから。
「うん、遥ちゃんまた割合がUPしているみたいだね」
「え?割合って何の??」
「……わかってるでしょ?」
「え?えっ??」
(男の気持ちの割合だよ!今もう15%くらいにはなっているみたいだね)
私は何の事だかよくわからなかった。気が付くと、私は希ちゃんの下半身をじーっと見つめていた。

「なに?私のパンツに何かついてる?」
「え?……な、何もついてないよ……」
「私、おもらしなんかしてないよ?」
「わ、わかってるって……」

私は段々顔が赤くなって来ているような感じがした。と、ここで思った。もしかして希ちゃんの
今言った割合って言うのは……春樹の時の気持ちだろうか?でももしそうだろうとしたら……
またUPしてるって言ってたし……遥として、今女の子としてここに存在している私は
どんどん女の子らしさを失って最終的には心だけが完全に男の状態の女の子になってしまうのでは……。
でも、もしかしたら希ちゃんこの事わかっているかもしれないし、希ちゃんに訊いて見れば
どうすれば気持ちが元に戻るのかわかるかも……。

「ね、ねえ?希ちゃ……!!?」
『バタッ!!』


あ〜あ……遥ちゃん気絶しちゃったよ……。恐らく私のアソコに目がいっちゃったんだね……(キャッ!)。
ちょうど今私が水着を着ようとしてパンツを脱いでいる時にこっちなんか向くからだよ〜。
う〜ん、でもこれで大体遥ちゃん内部での春樹君の時の気持ちの度合いが大体わかったよ。
気持ちが15%の段階で女の子の身体に反応して気絶……と。この調子ならあと20%くらい
春樹君の気持ちが増えれば、私に気持ちを伝えられるくらいにはなるんじゃないかな??
……あ!でも、とりあえず今は遥ちゃんを保健室に運ばないとね……。




(………う、う〜ん、こ、ここは?)

目を開けると私は突然場所がさっきと変わっている事に気づく。私は一体……。

「あ!遥ちゃん気が付いたね!よかった〜!」

声が聞こえる。希ちゃんの声だ。私は体勢を起き上がらせる。そして私が今いる場所、
そこは保健室であった事に気づく。そして私の寝かせられていたベッドの横に希ちゃんはいた。
「遥ちゃん急に気絶しちゃうんだも〜ん!驚いたよ〜!」
「あ、そうだ……私気を失っちゃって……」

でも私、わざと気を失わせたわけじゃなかったんだけどね〜。偶然遥ちゃんが私が
着替えていてしかも大事な部分を露出している時にこっちを向くから……。
……と、いけないいけない。つい口に出して言っちゃいそうだった……。
それを言っちゃったら多分遥ちゃん、また私のアソコの部分思い出しちゃって
また気絶しちゃうだろうね……。私も少しは気をつけないと、ね。


時計を見てみる。今は3時間目の授業の真っ最中だ。私が気絶していたのは……大体10分間
くらいだったみたい。プールは2時間あるからその間私はまだここで休んでいられるかな。

「あ、私はそろそろプールに戻るね!」
「あ、うん」

希ちゃんは私に告げて保健室を出て行く。そして保健室は再び静まり返った。



やっぱ水泳は気持ちいいね〜!私は今水泳の授業を満喫している。まあ気絶される気はなかったから
偶然だけど、さっきの場所で遥ちゃんを気絶させといてよかったかな?そうする事で遥ちゃんを
保健室にプールの時間置いておけば遥ちゃんはプールに入らなくて済むし。もう既に女の子の体に
かなり反応し始めるくらいの度合いになっているみたいだね。たった15%の男の気持ちでも。
恐らくこのまま水泳させていたら自分の着ている水着が気になって、しかも胸の形なんて泳いで
いる時に見えちゃうからよくわかっちゃって強く意識しちゃって。きっと遥ちゃん、水の中で
そのまま気絶しちゃってたかもしれないね。まあとりあえずこれでよかったのかな〜……?
でも遥ちゃん、そろそろ自分の制服姿も気になってくるんじゃないかな〜……。



昼食の時間。私は保健室をあとにして教室に戻っていた。私は希ちゃんが今までいた時のように
希ちゃんに一緒に食べようと誘われて、天気も良くて気持ちいい中庭に出てお弁当を食べていた。
……なんか落ち着かない。何でだろう。何でこんなにも落ち着かないのだろう?

「ん?私の顔になんかついてる?」

私はいつの間にか希ちゃんの顔をじーっと見つめていた。

「え?……あ、ご飯粒」
「あ、ほんとだね!テヘッ」

希ちゃんがかわいく笑って見せた。……か、かわいい。何だか萌える……。で、でも今の私は
女の子の私として存在している。これで萌えるなんて変態なのかも……い、いや、でも
今のは私じゃなくってきっと春樹の私が萌えたんだ。きっと私がそう想ったんじゃなくて……。

「遥ちゃん?何か考え事?」
「え?ま、まあ……」

それにしても何だかさっきより男の時の春樹の気持ちが少し強く出ているような気がする……。
まあ割合的に女の子の気持ちの方が高いだろうから、言葉遣いとかは大丈夫みたいだけど……。
感情の方に強く春樹の気持ちが出ているように思える。希ちゃんの一言一言のそのかわいい声が
私の心、いや、恐らく春樹としての私の心の中に優しく入ってくる。……ドキドキして来た。
あれ?でも希ちゃんに対するドキドキじゃないような気がする。じゃあこのドキドキは!?


私はずっと遥ちゃんの心を読んでいた。あのね、遥ちゃんのそのドキドキは私に対する物が
30%、自分の今の制服姿に対する物が70%なんだよ。でもそろそろ気づくだろうけどね。


「ね、ねえ。希ちゃん?」
「な〜に?」
「もしかして今私に何が起こっているか気づいてる?」

段々遥ちゃんも鋭くなってきたね。私が心を読んで何でもかんでもお見通しだった事に気づいたみたい。
でもここで言っちゃったら意味が無くなっちゃう。遥ちゃん自身に気づかせないとダメなんだよね……。



「何?何の事かな?」
「え?気づいてない?」
「だから何の事なの?」
「……知らないみたいだね」
「うん!遥ちゃんのドキドキの事なんて知らないよ!」
「そう……」

本当に知らないのかな……ん?待てよ?今希ちゃんドキドキの事って言った……。
やっぱり気づいてるんじゃん。で、でも知らない振りをするのには何か理由があるのかも……。
うん。これ以上は訊かないでおこう。また前みたいにそのうち何かわかるかもしれないし。

そして昼食を食べ終えた私と希ちゃんは教室に戻ろうとした。……その時。

「あ、あの。希ちゃん……」

私は希ちゃんを無意識のうちに引きとめていた。

「な〜に?」

うっ……振り返った笑顔……や、やっぱりかわいい。

「えっとね、えっとね〜……あう〜っ」

何だか胸がドキドキしている。何で?あ!わかった。多分男の私の気持ちが今の
遥としての私自身の『あう〜っ』のセリフに萌えたのだろう……って、多分違うだろう、ね。
じゃあこのドキドキはやっぱり希ちゃんに対しての物なのかな?

「何?何か言いたい事があるんでしょ?」
「えっとね、そのね……」

私の喉元まで何かの言葉が来ている。言えそうでなかなか言えない言葉……。

「希ちゃん……す……」

『好き』の2文字。こんな簡単な言葉がなかなか出てこない。

「何?何かな?」

「……す、好き」

……やっと言葉が出てきた。これで春樹としての想いが伝わった……と思いきや。

「待て〜!チョウチョ〜♪」

希ちゃんは私の言葉が出てくる直前にチョウチョを発見し追いかけていた……。
もちろん希ちゃんの注意は私からチョウチョへ変えられていた……。

「あ〜あ。チョウチョ行っちゃった!で?何の話だったっけ?」
「……何でもないよ。もういいよ」
「あ?そうなの?」

こうして春樹の気持ちでの私の告白の第1回目は失敗に終わった……。



遥ちゃんさっき、もしかしたら私に気持ちを伝えようとしていたのかな?最近突然
心が読み取れなくなっちゃう時があるから……私のこの世に居られる時間、この世での
寿命ももう少ないせいなのかな……でも、私はチョウチョには弱いの。だって、
チョウチョには私が小さかった頃の、あの人との思い出があるから……。



授業が終わりあっという間に放課後になる。そして希ちゃんが後ろの席を立ち上がり、
元気よく私の前へと現れた。そして希ちゃんはいつも通りのお決まりの言葉を私にかけて来る。
「一緒に帰ろ!」「うん……いいよ」
私はなんとかいいよとは言えたものの……私内部での春樹の気持ちが強くなってきているみたいだ。
純粋に私が女の子として、希ちゃんを友達と見ている気持ちの方がまだ大きいみたいだけど……
だけど私の中でまたちょっと強くなってきた春樹の気持ちとしては、希ちゃんを1人の大事な女の子として見ている。
さっきの失敗の事もあったし……まああれは希ちゃんの方に原因はあるけど。
何だか自信なくなっちゃったな〜。何で希ちゃんに気持ちを伝えるだけなのにこんなに戸惑うのか。
そんな自分が少しうっとおしく感じた。……私が春樹で100%男の時の世界に希ちゃんが
いてくれたら気持ちをストレートに伝えられるかもしれないのに……いつの日か、私は夢の中で
春樹の状態の時に希ちゃんと話しをしていた時があった。男の時は女の子が苦手な俺でも、
夢の中だったせいかもしれないけど、何故か俺は希ちゃんとはストレートに話ができた。
でも今は……希ちゃんへの本当の気持ちに私は気づき、春樹としての私は恐らく希ちゃんを
強く意識するようになってしまったのだろう。それで今の私は、春樹の時の気持ちも混ざって
きていたとしても希ちゃんへ気持ちを伝える事に戸惑いを覚えているのかもしれない。でも、
やっぱり今の私は100%じゃないみたいだけど女の子って事も関係しているのかもしれない。
女の子同士という事もあって、遥としての私は希ちゃんを友達としてしか見ていない。希ちゃんを
大事な存在の人として見ているのは私の中の春樹の気持ちだ。やっぱりこういう2つの気持ちが
入り混じっていると心の中で気持ちと気持ちがぶつかり合っているようにも思えてくる。そのため、
今は気持ちによく整理がつかないで戸惑ってしまうのかもしれないとも思える。やっぱり、私が
男の時か、または今の私の中での春樹の気持ちがもっと強くなるかしないとストレートに言えないのだろうか……。
さっきも失敗しちゃったけど、ストレートに言えたって感じじゃなかったし……難しい問題かもしれない。

「遥ちゃん?どうしたの?さっきから。何か考え事?」

突然希ちゃんが私に話し掛けてきた。気がつくと私は、希ちゃんと2人で外を歩いていた。
さっきまで教室にいたんだけどな……私がずっと考えてる間にいつの間にかこんなところまで来たのかもしれない。

「ま、まあちょっとした考え事を。ね」
「でも希にはわかるよ?何を考えていたかね♪」

あ、そういえば希ちゃんは心が読めるんだ……もう春樹としての私の気持ちもバレているかもしれない。
でもやっぱりこういう事は自分から伝えた方がよさそうだし……ね。

「うん!そうだよ!やっぱり自分で伝えないとだよ!」
「そ〜だよね。明日こそはがんばって伝えてみる!」
「遥ちゃん、ファイトだよ!」

よーし!明日こそは、私の春樹としての気持ちを希ちゃんに伝えよう。……でも今の会話、なんだか
少し引っかかるような……希ちゃんやっぱり私の心読んでるんじゃん……。って事はやっぱりもう
春樹としての気持ちはバレているかも……い、いや。バレてるバレてないの問題じゃない。
自分で直接気持ちを伝えるって事にやっぱり意味があると私は思う。なんとか気持ちを伝えなきゃ……。

「私はいつでも待ってるよ」

「ん?希ちゃんなんか言った?
「ううん!何も言ってないよ!」

おかしいな〜。今何か言っていたように私には聞こえたんだけどね〜……ま、いっか。


「遥ちゃん!じゃ〜ね!また明日」
「うん、バイバイ!希ちゃん」

私は途中の道で希ちゃんと別れた。そして私が希ちゃんと別の道に歩き始めて行こうとした時。

「遥ちゃん……」
「何?希ちゃん」
「遥ちゃん私の事、好き?」

突然希ちゃんに呼び止められてこんな質問を私はされた。私は自然にこう答えていた。

「もちろん好きだよ。友達としてね」
「そっか〜!ありがと!じゃいつまでも友達でいようね!」
「う、うん……」「じゃ〜ね〜!遥ちゃん」

希ちゃんは行ってしまった。……何だか今、春樹としての私の気持ちが何かに妨げられていたように感じた。
春樹の気持ちがちゃんと入り混じっている私なら、絶対春樹の気持ちの方が反応するから、
即座に『友達としてね』なんて答えられないと思う。だって、春樹の気持ちは希ちゃんを大事な存在に
思っているのだから。一体なんの気持ちが春樹の気持ちを妨げたのか。でも私には大体わかった。
春樹の気持ちを妨げたのは私……遥だ。大体今の感じで、遥の私と春樹の気持ちはなんだか
半分ずつくらいになってしまっているような感じがする。春樹の方の私は、希ちゃんと大事な関係に
なりたいと想っている。でも私は……遥の気持ちは……『いつまでも友達でいたい』。
そして希ちゃんから帰って来た言葉『じゃいつまでも友達でいようね!』
私の遥としての気持ちはこの返事でよかったと思っている。でも、春樹の方の私の気持ちは……。
今の私は一体どうしたいのか自分でもよくわからなくなってきた。2つの気持ちが激しくぶつかり
あっている。それで恐らく、さっきは女の子としての私の気持ちが、一時的に春樹の気持ちを
押さえ込んでしまったのだろう。私の中にある2つの気持ち。友達、彼女……どっちを取るかの選択肢。
何故遥の気持ちは、希ちゃんと友達のままがよくて春樹の私が希ちゃんと大事な関係になるのを拒んでいるのか。
私にはよくわからない。でも確かに春樹の気持ちを押さえ込んだのは私だと言う事は私自身がよくわかる。
一体、私は今のままの遥の気持ち、春樹としての私の気持ち……どっちを取ればいいのだろう。



遥ちゃん、自分の強い気持ちでこれ以上春樹としての気持ちが入り混じって来るのを
自分で止めちゃったみたいだね。よっぽど遥としての意思が強くないと私のかけた不思議な力が
途中で止まるなんて事はないと思うんだけどね。で現在の遥ちゃんは遥としての気持ちが50%、
春樹君としての気持ちが50%……ちょうど男と女の気持ちが半分半分だね……。
一体遥ちゃん、今の自分の気持ちと春樹としての気持ち、最終的にどっちを取るんかな?
でも私も勝手に不思議な力をかけちゃったのはちょっと失敗しちゃったかもしれないね。
春樹君が私に気持ちを伝えてくれないと私は……永遠にあの時の出来事を忘れられない……。
何故なら、春樹君。私の好きだった人と同じ名前だし顔も似ているから……。そう、私がこっちの世界に
再び戻ってきた本当の理由、それは私の好きだった人から気持ちを伝えてもらう事。
春樹君がこんなに似ているのはもしかしたら偶然じゃないかもしれない。私にははっきりと
わからないけど、春樹君、私の死んじゃった好きだった人の生まれ変わりのような気がして。
それだから私は春樹君を追いかける。春樹君に気持ちを伝えてもらいたい。でも私は、
もう死んでいる人間だから……春樹君が遥ちゃんとなっている世界じゃないと存在できない。
その世界での春樹君は、もちろん100%女の子の遥ちゃん。男の気持ちも全くない。
そんな世界で春樹君から告白してもれえるなんてほとんど無理かと思って、私は1度諦めて……
あの時、遥ちゃんの夢の中に出て行ったとき、1度とりあえず別れを告げて戻っていった。
でも、1つだけ私は方法を見つけた。私の寿命ももう残りわずか。私はもう既に死んでいる人間。
別世界といえども、この世に来ているだけで体力がどんどん弱ってくる。本当は私のいるべき
ところではないから。その方法とは……自分の残りの、この世に居られる時間の4分の3を削って
その分の体力を不思議な力に混める事。それで私は遥ちゃんに不思議な力をかけて……
遥ちゃんの中に春樹としての気持ちをちょっとずつ蘇らせた。本来遥ちゃんの状態でなら、
そんな事は絶対にありえないから。私はもう死んでいる人間だからって、何でも不思議な事が
できるわけではない。そう、最後の望みをかけて……自分のこの世に居れる時間を削って
最後の賭けに出た。でも、遥ちゃん、自分の中で私との友達としての気持ち、春樹としての
私への特別な気持ち、その2つの気持ちが激しくぶつかりあっちゃって結果、気持ちは
50%ずつになっちゃった……。今度は逆に遥ちゃんの気持ちが春樹君の特別な気持ちを
押さえ込んじゃえば、もしかしたら遥ちゃんは再び100%女の子に戻ってしまうかもしれない。
そうなっちゃったら……私はもうここに居る事はできない。希望は無くなってしまうのだから。
でもちゃんと春樹君から告白してもらえれば……私は安心して永遠の眠りにつく事ができる。
自分から告白したんじゃ意味がない。私はあの世へ帰ったあとも一生後悔する。
だって私は、生きている間もずっと春樹君の気持ちを待っていたのだから……。私は春樹君が、
きっと死んでしまった私の好きだった春樹君の生まれ変わりだと信じている。それだから、
私は春樹君を女の子に変えた世界で、存在する事ができたのだと信じている。春樹君……
早く私に気持ちを伝えて……もう私のこの世にいられる時間も少ないから……。
私は怖かった。遥ちゃんにもう時間が少ないとしられちゃうと、また遥ちゃんが悲しむ。
遥ちゃんは私との再会を喜んでいたみたいだから……。それに春樹君としての気持ちでも、
私が帰ってきてくれた事を嬉しがってくれていた。だからこそ遥ちゃんにはその事は黙っている。
私が明るくふるまってないと……遥ちゃんにはすぐにバレちゃいそうな気がする。
だから、その時が来るまで私は、遥ちゃんに時間がもう少ない事は隠し通す……。

でも、私。何でさっきは『いつまでも友達でいようね!』なんて言っちゃったんだろう……?




夜。私は眠りに就こうとする。私は希ちゃんの事で頭がいっぱいだった。何か今は、遥の気持ちと
してなのか、それとも春樹の気持ちとしてなのか。どちらの気持ちで希ちゃんの事を
考えているのかはよくわからない。でも、希ちゃんの事を考えているのには違いない……。
そして希ちゃんの事をずっと考えたままでいるまま、私は眠りに就いた……。


ここはどこだろう?何時の間にか私は、知らないところにいた。でもよく見ると、ここは
私が通っていた小学校の近くの道だ。私は今……何でだか知らない。私は今空中に浮いていた。
下を見下ろす。見渡しがいい。そして空中にフワフワしたまま、移動する事もできた。
その時、私は何かを感じた。何かの気に引っ張られている感じがする。そして私は
その何かの気の方向に向かって行った。そして私は止まった。私は下を見下ろす。
大体小5くらいだろうか?男の子と女の子が仲良く一緒に歩いている。
私は少し下に降りて2人の顔を見てみた。すると……何だか何処かで見た事あるような顔……。
男の子の方は凄く身近で、女の子の方は最近よく見るようになった気がする……。
ともかく、何処かですごく似ている顔を見た事があるような気がした。
私は気になり、その男の子と女の子のあとを追いかけてみる。何か話しをしているようだ。
でもここまで会話は聞こえてこない。遠いのか?いや、遠いのではない。今の私は、
何故か音を感知できなくなっていた。耳が悪くなったのではない。何でだろう?
そしてしばらくすると、横断歩道に差し掛かる。信号のついていない横断歩道だ。
男の子と女の子は、横断歩道を一緒に渡っている。すると突然、そこへチョウチョが飛んできた。
すると女の子は今、自分が横断歩道にいるのをまるで忘れたかのように、その場でじっとして
チョウチョが飛んでいるのを見ている。すると、横断歩道に向かって車が1台走ってきた。
だが女の子は何故かチョウチョを見ている。男の子は、今まで自分の横にいた女の子が
突然いなくなっていて、振り返ったらまだ横断歩道にいたのに気づいたようだ。
その間、車はどんどん近づいてくる。女の子は、まだ車に気づかない。よっぽど夢中のようだ。
でも、男の子は車が向かってきているのに気づいた。車は大型の車だった。
ちょうど運転席からは、女の子の姿がよく確認できていないようだ。運転手は気づかずそのまま走っている。
男の子は、車が来ているのに気づき、必死に女の子を呼んでいるようだ。しかし女の子は、
チョウチョを目で追いかけているまま全然動かない。まるで何かの魔法にでもかかっているようだ。
そして車が急ブレーキをする。やっと横断歩道の女の子の存在に気づいたようだった。
でももう間に合わない。このままでは女の子に車がぶつかってしまう。男の子はとっさに横断歩道に
身を投げ出した。そして、自分の体で女の子を横断歩道から車の通らない安全な場所へ突き飛ばした。
そして女の子は車にひかれずに済んだが……私は一瞬目をつむってしまった。そしておそるおそる
目を開けると……男の子は無残にもトラックにひかれていた。ドライバーが慌てて降りてきて、
引かれた男の子に駆け寄る。そして女の子も、やっと我に帰ったかにように男の子に駆け寄る。
私には今、声は聞こえない。でも、女の子は泣き叫んでいるみたいだとわかる。ドバイバーの
運転手が携帯電話でどこかに電話をしている。きっと救急車だろう。その後しばらく私は
その場所にいると、救急車が1台やってきた。ドライバーとその女の子は、男の子を運ぶ
救急車に乗って病院まで一緒に行くようだ。病院まで一緒に行ってあげようとしているんだ。
きっとドライバーには悪気があったわけではないのだろう。しかし、ひいてしまったのは事実……。
私も救急車を追いかけた。そしてついた先は、私の家から少し離れたところにある救急病院。
私も男の子の行方を追い、病院内に入る。男の子はすぐに緊急手術にかけられていた。
女の子とドライバーは待合室で待っていた。そしてしばらくして、医師が出てきた。ドライバーと
女の子に何かを伝えている。ドライバーは顔が真っ青になり、女の子は呆然としてその場に
座りこんで泣き出してしまった。恐らく、男の子は助からなかったのだろう……。
ドライバーは自分に全責任があると、自分を思いつめているようだった。そして女の子の方は……
泣き叫んでいるようだった。その時、一瞬私の耳元に女の子の声が届いた。

「……春樹君……死んじゃ嫌だ〜!!!」

その後も女の子は泣き続けていた。何故さっき一瞬だけ私の元へ声が届いたのだろう……。
……そ!それより、さっきの女の子春樹君って言ってたよね?春樹君って……あの男の子だよね?
きっと。でも同じ名前の人なんていっぱいいるし……でも私の心に何かの感情が生まれた。
一体何だろう?この感情。自分でもよくわからない。何だか泣いている女の子を、自分の大事な
人のように見ている。……すると、女の子の泣きじゃくる顔が、希ちゃんの悲しそうな時の顔と重なった。
希ちゃんは1回私と別れる時、悲しそうな顔を私に見せていた。その時の顔とピッタリ重なった。
って事は……じゃああの泣いている女の子は希ちゃん!?もしかして私は希ちゃんの過去の出来事を、
夢として今見ているのではないだろうか?じゃああの春樹君って男の子は……どことなくどこかで
見たことあると思ったら。男の時の私、春樹に似ていた。それも小5の時の春樹に。
今はもう中3で顔つきも変わってきている。それだからなかなかどこで見た顔だったのかわからなかった訳だ。
もしかして希ちゃんは……この男の子の事が好きで……。名前も同じだし似ているし……
それで男の私、春樹に気持ちを伝えてほしくてこの世にまた戻ってきたのじゃないだろうか?
希ちゃんはしばらく泣き止まなかった。好きな人を失った時の悲しみ……それは恐らく計り知れないものだろう。
その後ずっと見ていても希ちゃんは泣き止まなかった。そして私はこの場を去っていった。



朝。目が覚める。……何故か今日も遥のままだった。さっきのは夢!?……だよね。
もしかして希ちゃん、私へ過去の出来事を知ってもらって気持ちに気づいてほしくて……
それでもしかして不思議な力か何かで私にあの夢を見させたのではないだろうか?
それに希ちゃんが私を遥に変えたのなら、私が遥のままでいると言う事は希ちゃんが
きっとそうしているのだろう。それはやはり希ちゃんが今存在しない世界になってしまったら、
きっと希ちゃんが困ってしまう何かの理由があるのだと思う。希ちゃんは春樹君と言う、
男の時の私にずごく似ている男の子の事が好きだったのだろうから……きっと代わりに
春樹を好きになってしまい、男の時の私に気持ちを伝えたいと思っているのだろう。
でも、希ちゃん。何となく私から気持ちを伝えられるのを待っているかのようにも見える。
希ちゃん……私は確かに私は希ちゃんが好きだよ。でも友達としてね。
今の女の子の気持ちの私には恋愛の感情で好きなんて気持ちはないの。
恋愛感情を持っているのは春樹の方。でも、気持ちがぶつかり合っててはっきりしなくて
よくわからないみたいなの。恐らく希ちゃんは遥の私とは友達でいたくて、春樹の方の
私とは大事な関係でいたいと思っているのだと思う。でも、春樹の世界に希ちゃんは
存在できないから……。だから希ちゃんは今、別世界の方でなんとかしようとしているのかもしれない。
私には友達と思ってもらって、それで春樹の方の気持ちでは大事な人と見てもらえればいいのかもしれない。
でも、やっぱり春樹の方の気持ちは希ちゃんへの想いを伝えないといてもたってもいられないようだ。
それでも遥の方は友達でいたいと思っているから、春樹の好きと言う気持ちを拒んでいるみたいだ。
私自身にもなんだかよくわからなくなってきた。ただし、今わかるのは……やっぱり春樹の時の気持ちを、
希ちゃんに伝えなきゃならない。希ちゃんもきっとそれを待っているんだ。春樹君が戻ってきてくれる事を。



遥ちゃん、私の過去を夢で見てくれたんだね。遥ちゃんの心を読んで私はその事を知った。
あのね、その夢は私が見せたんじゃなくって、遥ちゃんが強く私の事を想っていたから夢となって
私の過去を見る事ができたんだよ。本当は私が見せようと思ったけど私にはもうほとんど力が
残っていないから。もうヘタに力を使うと私はもうもたなくて消えちゃいそうだよ。でも、遥ちゃん
大体私の本当の事に気づいてくれたみたいでよかったよ。あとは遥ちゃんの中での春樹君と
遥ちゃんの気持ちがどのようになるか次第だろうね。前はなんとか遥ちゃん、春樹君の気持ちとして
私に好きって言えたみたいだけど、ちょうどチョウチョが飛んできたから……あの時、チョウチョのせいで
私は止まっちゃって、それで春樹君は私をかばって死んじゃった……。それでチョウチョがなんだか
春樹君に見えて……つい追いかけちゃった。私はそれであの時の事思い出しちゃったから……。
本当は泣き出しちゃったけどどうしても明るく振舞っているように見せなきゃならなかった。
明るくしないと、今にも泣き出してしまいそうだったから……。あの時の悲しみでいっぱいで……。




「遥ちゃん!おはよー!」
「おはよ……希ちゃん」

私はさっき見た夢の事で大体気づいていた。希ちゃんはあの時の悲しみがずっと忘れられなくて……
それで気を紛らわすためにもいつも明るく振舞っているんだ……。きっと今も明るく振舞っているのだと思う。
それに希ちゃんは時々悲しそうな表情を見せる時もあるし……なんだか希ちゃんがすごく切なく見えた。

「春樹君。私……いつまでも帰って来るのを待っているよ……」

「え?何か言った?」「ううん!何も言っていないよ!」

私は聞いてない振りをしたが、ちゃんと今の言葉は聞こえていた。これで私はある事に気づいた。
希ちゃんは私が女の子としての別世界でしか存在できないが……希ちゃんは春樹君を失った
ままでいるんだ。あの日から。それだから私が春樹である世界では存在できない……。私はこう考えた。
そして希ちゃんはいつまでも春樹君を待っている。つまり、春樹の私を待っているのかもしれない……。

「希ちゃん……春樹君をいつまでも待っていたんだね……」

今度は私が小さい声で希ちゃんに向かって言った。でも希ちゃんからの反応はなかった。
聞こえていなかったのだろうか?それとも反応したくなかったのだろうか?

そして昼休み。彼女はいつも通り明るく振舞っていた。でも私にはもう裏の隠された悲しみがわかる。
今は男と女の両方の気持ちが混ざっているからって混乱している場合ではない。
希ちゃんを悲しみの底から救えるのは春樹としての私しかいない。私は遥として存在しているけれど、
確かに春樹としての気持ちも今は持っているんだ。私が春樹としてちゃんと希ちゃんに言ってあげないと……。
『好きだ』……って。早く希ちゃんに言ってあげないと希ちゃんはいつまでも悲しみから抜けられない。

「?」

希ちゃんが私を不思議そうに見ていた。もしかして私の気持ちを読んでいたのか?それとも気持ちが
読めずにいたのか……?そして私は春樹としての気持ちをしっかりと持ち、希ちゃんにこう言った。

「希ちゃん。放課後屋上に来て……」
「屋上?うん!わかった!」

今日、屋上で希ちゃんに春樹としての『俺』の気持ちをちゃんと伝える。いつまでも遥の気持ちのままでいるわけにもいかない。
身体は今遥でも、ちゃんと春樹の時の気持ちを持てば春樹として気持ちを切り替える事もきっとできる。
そして昼休みが終わりあっという間に放課後が来た。そして私は希ちゃんと屋上へ向かって行く。
希ちゃんは春樹君が戻ってくるのを待っているんだ。春樹から話を切り出さないと……。
そして俺は話を切り出した。そしていつの間にか一人称が俺に戻っている事に気づく……。

「希ちゃん……俺……」

普通は女の子がかわいい声で俺なんて言っていれば不自然だが……今はそんな事は気にならなかった。

「え?遥ちゃん今……俺って言った?今は遥ちゃんなのに……」

希ちゃんがかなり驚いている。そう。本来ならば今、まだ半分は女の子の気持ちもちゃんと残っている遥には、
いくら春樹の気持ちが50%あっても体が遥なのだから一人称は絶対私になるはずなのだ。
希ちゃんはその事を知っていた。そして俺も今の希ちゃんの驚きを見てその事に気づいた。

「俺さ、希ちゃんに会ったときから今まで……」
「遥……ちゃん??」

希ちゃんの目には、今俺の事は遥ではなく春樹として見えているのかもしれない。

「……ずっと希ちゃんの事、好きだったよ」
「……春樹君」

希ちゃんの目から涙がこぼれ落ちた。

「春樹君……やっと、やっと帰って来てくれたんだね……」

俺は、希ちゃんの目の前でいなくなってしまった春樹ではない。しかし、希ちゃんからはきっと、
俺があの時死んでいなくなってしまった春樹君として写っているのだろう……。
俺自身も、今は希ちゃんにやっと春樹として再開できたかのように錯覚していた。
でもそれも錯覚ではないようだ。俺は確かに春樹として希ちゃんに気持ちを伝えたんだ。
いつ戻ったのかはわからなかったが……俺の身体は春樹に戻っていた。そして俺は春樹として
希ちゃんを抱き寄せようとする……だが。希ちゃんの姿はそこにはなく……希ちゃんは消えていた。
俺が春樹に戻った時、希ちゃんは消えてしまったのだ……。でも希ちゃんは、これで今度こそ
悲しみの底から抜け出せただろう。初めは全然そんな事には気づかなかったから……。
今まで遥として接していて全然気づかなかったから……。でも、もう希ちゃんは悲しみの底から
抜け出せたのだから、希ちゃんも後悔していないと思う。これできっと希ちゃんも安心して……。

(春樹君。本当にありがとうね……)

何だか今希ちゃんの声が聞こえたような気がした。俺が希ちゃんを救ったのだ。
でももう希ちゃんに会えなくなると寂しい……でも、もう俺の気持ちもちゃんと伝えられたんだし、
これでよかったのだろう。それに、希ちゃんは俺の心の中で永遠に生き続ける……。



そしてそれからは、やはり遥にはもうなれなくなっていた。恐らく今度こそは、本当に遥とも
もうサヨナラかもしれない。今度はもう本当に希ちゃんが戻ってくる事もないのだから。
結局希ちゃんは、この世に春樹を探しに戻ってきたのかもしれない。明るく振舞ってまでして。
でもきっと今頃、希ちゃんはあの世で本当のあの時の春樹君と再開できたんじゃないかな。
もちろん俺にはあの世の様子なんてわからないから確認はできない。でも……希ちゃんは
あの世で春樹君に会えた。そんな気がする。きっと、これから永遠に幸せになるんだろうな、希ちゃん。



そして更に1年後。俺は高校生になっていた。そしてそんなある日、突然それは起こった。

「今日は転校生が来ています。入って来てください」

2学期開始と共にうちのクラスに転校生がやってきたのだ。そして先生の声に続き、転校生が入ってくる。
そして入ってきた転校生の姿を見て……俺は驚いてしまった。なんだか希ちゃんに似ている。

「はい、じゃあ自己紹介をしてください」

先生にそう言われて、その転校生は自己紹介を始める。

「私は宮沢 望です。皆さんと早く仲良くなりたいです。よろしくお願いします」

俺はちょうど席が1番後ろだったのだが、その横の席がちょうど空いていたので、望ちゃんはそこへ座る事になった。

望ちゃんは俺の方を向いて、ニッコリと笑った。でも黒板に出ていた漢字は希ではなく望だったよな……。
それなのでこれは希ちゃんであるはずがない。だが……俺には希ちゃんに見えた。
もしかして彼女は望ちゃんの生まれ変わりじゃないのだろうか……。


そして半年後、俺は2年生となった。そして4月、望ちゃんが俺に告白をしてきて俺たちは付き合う事になった。
例えこれが奇跡なのかも本当なのかもわからないが……俺は信じている。彼女はきっと希ちゃんの生まれ変わりだと。



(true END…)





−あとがき−


『不思議な少女』『初めての遥』と続いたこのシリーズも、これでようやく終わったようです。
希ちゃんがこの世に戻って来たと言う本当の理由、それは春樹君を待っていたと言う事ですね。
でもあの日以来、希ちゃんは春樹君を失ってしまったから、それだから現実世界では
春樹君には会えなかったんですね。代わりに遥ちゃんのいる世界になら存在出来たとの事ですね。
そして遥は希ちゃんの過去を知り希ちゃんがずっと深い悲しみから抜け出せない事に気づき、
希ちゃんに気持ちを伝える事によって、希ちゃんからとってはやっと春樹君が帰ってきてくれたって
事になって、それで希ちゃんはあの日の悲しみから抜け出せました。

……なんかあとがきと言うか、本編の説明っぽい事になっていましたね(^^;
ちゃんとマジメにあとがきを書きましょう(^^; 今回のこのストーリーは、この設定を
ちょっと変えて続きを作りたいと思って元々作り始めたものです。設定を変えると言うのは、
具体的に言うと遥の状態で春樹の気持ちが混ざって来たって事ですね。普段は100%
女の子してる遥ちゃんですからね〜。それでその時何か希ちゃんと、春樹の気持ちが
関係している展開にはできないかな〜?と思いました。それでそのまま書いているうちに、
このようになっていました。僕の場合はあとの展開とか全然考えずに思いつきでよく書き始めちゃいます。
それなので書きかけのままの作品もいっぱいあるんでしょうね、きっと……(^^;
そのため以前はリレー小説から急に姿を消すなんて皆さんには大変失礼で申し訳ない事を
してしまっていました……。リレー小説を続けられる自信が無くなってしまいましたので……。


それで完成した時には始めに大体こんな感じになるんじゃないかな〜?という展開とは
すごく変わってしまっていました。まあこれでよくまとまったのか?それとも少し展開的に強引だったのか?
それは読まれた方の感じ方次第かもしれませんね。とりあえずこのような形にまとまりましたので。

あと、結局最後に出てきた転校生は希ちゃんの生まれ変わりかどうなのか。それを追求する
ストーリーとかも番外編で書いてみたいような気もしますが、なんかそうするとTS要素とかは
少なくなってしまいそうですし、更にまた先を考えずにいきおいで書くとどのような仕上がりに
なってしまうかもわかりませんし(^^; それなので書くとしたら何か先を思いついたらにしようと思います。

それと何度かは読み直してみましたけど、もしかしたら希ちゃんの言っている事に矛盾が
いくつかあったかもしれません(^^; でもその事は気にしないようにお願いします(^^;
まだまだ僕の方でストーリーを練る力が弱い証拠だとでも思っていてください(^^;


それと最近HPを持ちました。よろしかったら皆様も1度お越しください。
TS関係の小説を見るために来られた方は、裏サイトには行かないようにしましょう(^^;
ちなみに色々なわけによりこちらの文庫に投稿できなかった作品もそのうち載るかもしれません。

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