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 その日、少女は仲の良い友達と一緒に下校していた。

「ほんっと、部活毎日疲れるよね〜!!」「……うん、大変だよね〜」

 友達と何気ないおしゃべりをしながら、交差点にさしかかる。
 ちょうど信号が青になり、そのまま横断歩道を渡り始める……

 突然、赤信号の方から1台の車が、少女に向かってものすごいいきおいで突っ込んできた。

「……キャアアッ!」

 次の瞬間、彼女の身体はまるで空を飛ぶかのように宙に舞い上がった。
 はねた車は止まることなくスピードを上げ、その場を走り去った。

 ……そう、少女はひき逃げされたのだ。
 そして、友達だけが呆然とその場に取り残された……

「……の、希ちゃん!? ……嘘…………嘘でしょ…………

 いやあああっ!! こんなの嘘よ〜っ!!」

 ……彼女の叫び声は、町中に響き渡ったかのように聞こえた。










初めての遥

作:T・H


「行って来ま〜す」

 俺の名前は原田春樹。
 頭は悪いわけでもないけど勉強が得意という訳でもないし、スポーツが苦手と言う訳ではないけど運動神経は際立って良いとは言えない。何となくノーマルな中学生である。
 今年の春で、俺は中3になった。新学期なので新クラスが編成されているはずだ。
 学校の門をくぐり、昇降口の近くに貼り出されていたクラス名簿を確認する。
 俺はっと……あったあった! 3組か。


 教室に入ると、今までも同じクラスだった奴や、初めて一緒になった奴、3年間ずっと同じだった奴など色々な人の顔が入ってきた。
 クラスには一番の親友もいた。そして、俺が密かに「いいな」と思っているあかりちゃんも……。
 俺は自分の名前しか見ていなかったため、新しいクラスメートの顔を覚えようとした。
 しばらくまわりを見回していると、放送が入った。

『生徒のみなさんは、体育館へ移動してください』


 全校生徒が体育館に揃ったところで、始業式が始まった。
 まずは、校長のやたらに長い話からだ。はっきり言っていつもの話……なので俺は全て聞き流そうとした。
 そして、ほとんどの生徒の集中力が途切れてきた頃、

「……春休み明けで体が鈍ってるかもしれませんが、帰宅する時などはくれぐれも気をつけてください。実際、この学校の女子生徒がひき逃げされて亡くなってしまったということもありました。
 そのひき逃げ犯はまだ捕まっていません。みなさんも登下校には充分気をつけるようにしてください……」

 俺は何故かその話を真剣に聞いていた。
 その後は毎度毎度のだるい注意事項がいっぱいあったが……そこらへんのことは割愛する。


 始業式が終わり、教室に戻る。
 先生がまだ来ていないので、クラスのあちこちで友達同士のおしゃべりが始まった。
 俺は特に何もせずに席についていた。昨日は何故かなかなか寝付けなかったせいで、猛烈に眠いのである。
 何となくクラスの人数を数えてみる。大体40人くらいだろうか?
 そんなことをしていたら、眠いのが限界がきたのか? 俺はまぶたを閉じてしまった……。


 俺ははっと目を開けた。
 何分くらいたったのだろう? あまり時間は経っていないような気がする。
 まわりがおしゃべり大会でうるさいせいなのか、すぐ目が覚めてしまったみたいだ。
「おはよう、みんな。1年間よろしくな」
 担任の先生が教室に入ってきた。去年までは4組を担当していた先生だ。
 教科によってはこの先生に教わることもあったが、担任に当たったのは今回が初めてだ。
 ホームルームが始まり、そして一人ずつみんなに自己紹介をすることになった。
 まずは男子から。
 紹介もどんどん進み、そろそろ俺の番かな?
 まあはっきり言って自己紹介なんかどうでもいいけど、面倒くさいことは早く済ませたい……

「……という事で、次は女子の自己紹介に移ります」

 へっ? 俺自己紹介したっけ? まだしていないはずだが……とばされたのか?
 まあいいか。面倒くさいし、別にとばされてもいいけどね。
 などと思っているうちに、女子の自己紹介も進んで行ったが……

「次、……原田」

 突然先生が俺の名前を呼んだ。
 俺と同じ苗字の女子がクラスにいるのかな? と思ってまわりを見回したが……何故かみんな俺の方を見てくる。
「原田、どうした? お前の番だぞ」
 先生は、確かに俺に言ってきているようだ。
 もしかして、今頃俺に戻してきたのか? ……と思いつつ、自己紹介を始めることにした。
「え、えっと、私は原田……」

 えっ!? 何で、「私」なんだよ!?

 何故か知らないが、口が勝手にそう言ってしまっている。
「……私は原田 遥です。……えっと、趣味はとりあえず料理、だと思います。これからよろしくお願いします」
 俺は、何故だか言おうと思っていることと全く違うことをしゃべっていた。
 ……って言うか、「遥」って一体誰だ? 俺は「春樹」だぞ。
「原田、ありがとう。次……」
 どうして「遥」とかっていう名前を名乗ってるんだ? それなのに何でちゃんと先生と会話が成り立っているんだ?

『遥ちゃん、そのうち慣れるからさ!』

 ……えっ?
 今誰かの声が聞えたような気が……気のせいかな?
 いつの間にか次の人の自己紹介に入っていた。俺の後ろの席の子が立ち上がった。

「……えっと、私の名前は河村 希です! まあとりえってほどじゃないけど、ともかく元気がいいのがとりえです! よろしくお願いします!」
「河村は本当に元気がいいな。ありがとう。次……」

 「河村 希」なんて子、いたっけか? 転入生なら先生が紹介するはずだし……。


 いくつか不思議な点に気がついた。
 まず、俺は自己紹介で思ってもいないことをしゃべってしまい、「遥」と名乗っていた。それなのに、何故か先生もまわりも特におかしがっていなかった。
 次に、いつの間にかクラスの中にいた見知らぬ少女、「河村 希」ちゃん。……そもそもさっきまで俺の後ろに席なんてあったか?
 そして……

『遥ちゃん、そのうち慣れるからさ!』

 ……おそらく誰だか知らないけど、俺に言ってきたことには間違いないと思う。でも一体どういう意味なんだろう?


 ホームルームが終わり、始業式だからあとは帰るだけ。
 俺は一人で下校するのもつまらないので、親友と帰ろうとした。

「ね……ねえ、一緒に帰ら、ない?」

 ……あれ? 何かおかしい。
 本当は、「なあ、一緒に帰ろうぜ〜」と言うつもりだったのに、どうしてこんなモジモジした言い方になってしまったのだろう?
 そういえば声が変だな。風邪……かな?
 親友の奴は、何故か戸惑ったような表情を浮かべた。

「せっかく遥ちゃんが誘ってくれてるんだからさ、帰ってやれよ」
「この、うらやましい奴〜」

 まわりの男子たちが親友を肘でつつき、当人は恥ずかしそうに顔を赤らめて俺から目をそらす。
 ん? 今「遥ちゃん」って名前が出てきたけど……やっぱり「遥」って、俺のことなのか?
 何だか急にその場に居づらくなって、俺はカバンを手に教室をとび出した。
 一人空しく下駄箱にたどり着くと、意外な人物に声をかけられた。

「遥ちゃ〜ん、一緒に帰ろうよ〜」「……えっ?」

 俺に声をかけて来たのは、あかりちゃんだった。
「またぁ? う〜ん……まあいいか、今日も一緒に帰ろっか」
 何? どうして、「今日も一緒に」なんて言ってるんだ?
 俺はあかりちゃんとは一緒に帰るどころか、まともに口をきいたこともなかったのに。

「でも、また遥ちゃんとおんなじクラスになれてよかった。これからもずっと友達だよね」

 ……えっ? いつの間に俺とあかりちゃんは友達になったんだ? ……これって一体どういうことだ??


「ただいまー」

 俺は結局あかりちゃんと一緒に下校した。
 だけど、今日はどうして彼女とあんなに普通にすらすら話ができたのだろう?
 俺は女子と話すのが苦手なタイプ……もちろん密かに想いを寄せている相手となると尚更、絶対まともに話すことができないはずなのに。
「あれ?」
 部屋に入り間違えたはずはない。でも……うちにこんな部屋あったかな?
 俺の入った部屋は、妙に可愛らしい感じの部屋だった。
 自分の部屋じゃないはずなのだが、何故か自分の部屋のような気もする。
 疲れているのかな? あ……なんか妙にまぶたが重い…………

 俺はいつの間にか、ベットで眠ってしまった。


 いつの間にか次の日の朝になっていた。
 部屋を見渡して見ると……いつも通り、俺の部屋だった。
 俺は昨日の出来事をぼんやりと考えていた。あれは一体なんだったのだろう?
 頭の中がそのことで一杯になってしまった。すると……

「……あれ?」

 一瞬、意識が薄れたような気がした。
「ここは……?」
 いつの間にか部屋の様子が、昨日俺が寝てしまったあの部屋になっている。何故だ!?
 あわてて部屋を出る。ドアには「はるかの部屋」と書かれたプレートがぶら下がっていた。
 はるか……遥……、「遥」って、昨日何故か俺が名乗っていて、そしてまわりからも呼ばれた名前じゃないか。
 ドアの前で昨日の事を思い出していると、母さんが廊下の向こうからやってきた。
「……遥、起きたの? 早く着替えてご飯食べちゃいなさい」
 そう言って、母さんは少し忙しそうに下の階へ行ってしまった。
 よくわからないけど、母さんまでもが俺のことを「遥」って呼んでるのだから、俺はどうやら遥でいい? みたいだ。
 ということは、ここは俺の部屋ってことだよな。
 ……とりあえず着替えるか。
 部屋に戻ってタンスを開けると……あれ? 女物の服しか入っていない。どういうことなんだ〜??

『まだ男っぽい性格が残ってるみたいだね。……ちょっと修正しとくね』

「へっ?」
 俺は思わず声に出してしまった。なんかまた誰かの声が聞こえたような気が……。
 やっぱり声が高い。声も空耳(?)も風邪のせいなのか?
 すると、突然また意識が一瞬薄れたような気がした。
 なんだか今日も少し感覚がおかしい。なんとなく変な感じがする。
 一体、私どうしちゃったんだろ…………わ、「私」!?
 なんで私、「私」って言うんだ……って、男の一人称が出てこない!? どうして!?

「…………」

 ……考えてても仕方ないよね。とりあえず着替えないと、学校に遅れちゃう。
 私はクローゼットを開けて制服を取り出した。女子の制服……セーラー服である。
 本当は学ランがかかっているはずなんだけど、そんな事は全然気にならなかった。
 てきぱきと着替えを済ませ、私は顔を洗いに下へ降りた。
「う〜ん」
 洗面所の鏡をじーっと見る。そこには髪の長い、女の子の「私」が立っていた。
 きっと、これが「遥ちゃん」なんだろうな〜。
 ……と、ここでひとつの疑問が生じた。 何で私、突然女の子になってるの!?
 う〜ん、でも…………まあ、いっか。
 何故かあんまり深刻に考える気分にならない。私は女の子の「私」を自然に受け入れることができた。
 だけど私が急に女の子になっちゃったってことは、男の私……「春樹」の存在はどうなっちゃうの〜?


 とにかく、学校へ行くことにした。
 私は少し不安を抱いていた。クラスのみんなには、女の子になった私はどう見られるのだろう……?
 だけど全然心配する必要はなかった。教室に入ると、みんなは私の家族の時と同じように、「遥」としての私を自然に受け入れていた。
 そして、あかりちゃんが私に妙になついてくる。私もそんなあかりちゃんと仲良くおしゃべりできる。
 今までこんな事、絶対なかったはずなのに……。
 でも、私はあかりちゃんに密かに想いを寄せていたはずなのに、何故だか今は、「好き」とか「恋人にしたい」とかいった感情が何処かへ行っちゃったような気がする。
 私とあかりちゃんは、本当に女の子同士の友達なんだな〜っていうような感じでしかない。
 女子の中にもすんなり溶け込めた。逆に男子には、あまり積極的に話しかける気にはならなかった。
 そして男子も女子も、みんな私を「女子生徒の原田 遥」として見てくれている。
 しかし、男の私、「原田春樹」の存在については、どうなってしまっているのだろう?
 私はあかりちゃんに尋ねてみた。
「ねえねえ、『原田春樹』って、知ってる?」
「へっ? 原田……春樹? 誰それ? 私は知らないけど〜」
 男の私を知らない? どうして?
 先生達にも「春樹」の事を尋ねてみた。だが、「知らない」と言われた。
 一体どうなってるんだろ? まるで本当に元から私が「遥」だったみたいな……

『まあ、この世界では、元から「遥」だったってことになってるけどね!』

 へっ? また空耳(?)が聞こえたみたい。……でも、空耳にしてはやけに意味ありげな言葉だったよね。
 でも、ちょっと待って! ……ということは、「春樹」の存在ってなかったことになってるの!?
 一体どうして……何がなんだかさっぱりだ。


 学校が終わって色々調べてみたところ、私は元から「遥」と言う女の子であり、「春樹」は存在していないということがわかった。
 学籍も「原田 遥、『女』」となっているのだろう。
 夕食のあと、私は自分の部屋……遥の部屋の中で色々考えてみた。
 そもそも何で私がいきなり「遥」という女の子になったのか。
 わからない。だけど、おそらく考えてわかるたぐいのものではないだろう。
 こんな出来事、現代の科学では解明できない、在り得るはずの無いことだ。
 ともかく、私は今、「原田春樹」という男の子の記憶を持った女の子ってことになっているのかな?
 という事は…………せっかく手に入れた女の子の身体だし……
 でも何故か、そんな気にはならなかった。男の気持ちで女の子のになった自分の身体をどうこうしようなんて、全然思わなかった。
 今の私は「女の子」、心の底から女の子になっているらしい。
 だから男の欲望や、男の感覚が入ってくる余地などないようだ。
 ふうっ。……今日は色々あって疲れたみたい。なんだかもう眠くなってきちゃった……。

 そして私はお風呂に入ると、いつの間にか馴染んでしまっていた遥の……自分の部屋のベットで眠った。


 また次の日の朝が来た。昨日から俺は「女の子」になってしまったのだから、今日も女の子として学校に……
「……お、『俺』!?」
 何故だか一人称が戻っている。部屋もいつもの部屋に戻っている。
 クローゼットを開けると、ちゃんといつもの学ランがあった。
 念のため鏡でチェックもしてみた。鏡に映っていたのはいつもの俺、春樹であった。
 ということは……元に戻ってる?
 どういうわけだか俺は男に戻っていた。
 とりあえず登校しながら考えた。昨日俺は遥として学校に行ったが、俺の存在はなかった……ってことは、今、「春樹」が突然学校に現れたらどうなるのだろう?


 教室に入ると、親友が「おはよう」と声をかけてきた。ほかの男子も、いつもと同じように話しかけてくる。
 ……俺、存在していなかったんじゃないの? 昨日は「遥」だったのに、今日は今まで通り「春樹」のまんまで普通なようだ。

『今春樹君がいる世界は、いつもの世界だよ……』

 最近これも空耳じゃないように思えてきた。もしかして俺のアドバイサー!?
 ……誰かしら、俺が突然女の子になったという事実を知っている者がいるのかもしれない。でも……それが誰なのかはわからない。
 そう言えばなんかクラスが少し物足りないような気がする……確か昨日は俺の後ろに席があったような……。
 希ちゃん! そうだ、希ちゃんだ。
 だが、俺の目に彼女の席は入ってこなかった。
 確かに昨日、俺の後ろには希ちゃんの席があったはず。だが、そこには机も椅子もなかった。
 もしかして、来た早々に転校? それなら担任が何か言うはずだ。
 しかし、丸一日たっても担任は何も言わなかった。
 そこで俺は逆に尋ねてみた。
「先生、河村さんの席がないけど、どうかしたんですか?」
「河村? ……下の名前は?」
「確か、河村 希ちゃんだったと思いますけど」
「希……のぞみ……そんな名前の生徒、うちの学校にいたっけかな?」
「へっ?」
「そういう名前の生徒はいないはずだけど……?」
 クラスのみんなにも訊いてみたけど、「河村 希」を知っている人は誰一人としていなかった。
 昨日は「春樹」の存在がなく、「希ちゃん」の存在はあったのに、今日は「春樹」の存在はあって「希ちゃん」の存在がなくなっていた。
 もちろん、今日は「遥」の存在もなかった。
 俺は何度かあかりちゃんに話しかけようとしたが、今日は全然ダメだった。
 好きな相手と言うことだけでかなり意識してしまう。話しかけるなんて絶対不可能であった。
 そして、何もわからないまま一日が過ぎた……


 またまた次の日。
 起きがけに自分の身体を確認する。ちゃんと春樹の……男の身体であった。
 学ランに着替えながら、俺は希ちゃんのことを考えていた。
 彼女は一体何者なのか? 俺はむしょうに彼女に会いたくなった。
 俺自身のことはさておき……何で俺が男に戻ったら、「遥」だけでなく希ちゃんの存在までもが無くなるのだろう?
 俺は今までのことが何かわかるような気がして、希ちゃんと話がしてみたいと思った。
 でも、昨日席がなかったんだから、おそらく今日も……

『希と話がしたいなら、「遥」に変わればいいじゃない? 朝の時にそう思えば、「遥」になれるんだよ』

 また声が聞こえた。これだけ何回も聞こえれば、もはや空耳とは言わないだろう。
 でも、この声の主は一体誰なのだろう? 女の子っぽい声で、何処かで聞いたような気がする……。
「……確か今、『朝の時になりたいって思えば、「遥」になれる』って言ってたな」
 そこで俺は、試してみることにした。
 遥になりたい……そう思ってみた。
 そうしたら、以前と同じように一瞬意識が薄れた。
 目線を落としてみると……私の着ていたはずの学ランがセーラー服に変わっている。
 それにちゃんと胸が出ている。「アレ」もなくなっている(……きゃっ!)。
 あ……ブラもちゃんと着けてる。スカートの着こなしもばっちりだ。
 正直なところ、男の欲望が残ったままこうなればいいなと、少し思う。
 でも、女の子の遥になると、私は心の底から本当の女の子になってしまう。
 男の時の感覚や欲望は、「女」の私にはない。
 鏡の前へ行って自分の姿の確認をする。……いつもの私だ。そこには「遥」が映っていた。



 

鏡に映った、遥ちゃん (illust by MONDO)

 


 学校へ着いて教室に入ると、あかりちゃんが声をかけてきた。
「遥ちゃん、おはよ〜っ」
「おはよ〜、あかりっ」
 私が普通にあいさつを返して出た言葉がこれだった。……「春樹」の時なら、絶対あかりちゃんを呼び捨てなんてできないはずだ。
 男の子たちは、やはり私に話しかけてはこなかった。話したくないのではなく、多分女の子の私には話しかけにくいだけなのだろう。……男のときの私みたいに。
 そして後ろの席を見ると……いた! 席もちゃんとあるし、希ちゃんもいる。
 どうしてだかはわからないけど、私が「遥」になった時だけ、希ちゃんは存在するようだ。


 午前の授業はあっという間に終わり、次の時間は体育。
 私がトイレ(今の私は女の子だから、もちろん女子用に入った)から教室に戻ると、もう誰もいなかった。みんな先に運動場に行っちゃったのだろう。
 更衣室に行こうとして体操服を手にした。誰もいないかと思っていたら、希ちゃんが教室に残っていた。
 しばらく彼女と目があったままになった。
 私が気まずさをおぼえて、あわてて後ろを向いた時……突然希ちゃんが話しかけてきた。
「……ねえ、あなた、名前なんて言うの?」
「えっ? ……私?」
「そう、あなただよっ」
「え、え〜っと、は、原田 遥だけど……」
「遥ちゃんかあ! 私は河村 希! よろしくね!」
「う、うん……よろしく」
 希ちゃんは、やっぱり元気のいい女の子だ。
 でも、始業式の時に自己紹介はしたはずだけど…………ま、いっか〜。
「あ! 早く更衣室行かないと遅れちゃうよ! 遥ちゃん、急ご!」
「えっ? ほんとだ、時間がない。急ごう!」
 私たちはあわてて更衣室へと走った。


 うちの学校の女子はブルマ着用だが、私はブルマを履くことにちっとも抵抗をおぼえなかった。
 やはり心身ともに、私は「女の子」になっているようだ。
 更衣室で着替えていると、希ちゃんが私にこんな事を尋ねてきた。
「……ねえ、遥ちゃんってさー、原田春樹って人知ってる?」
「もちろん知ってるけど……ええっ!?」
 私たち二人しかいない更衣室。他の人がいればきっと驚いていただろうと言うぐらい、私は大声を上げていた。
 みんな、私が「遥」の時は「春樹」を知らないって言ってたのに……どうして希ちゃんは知っているの?
「本当に知ってるの?」
「春樹って人だよね…………え、え〜っと、よく考えてみたらやっぱり知らないみたい……」
「えっ? そう?」
「……うん」
 もちろん本当は知っているけど、知らないということにしてしまった。私が「春樹」である以上、なんだか正体を明かせないヒーローみたいな気分だ。
 ……あ、今は “ヒロイン” か。
 とりあえず私が「遥」である世界では、「春樹」はいないということになっているので、まわりからすれば私だって知らないということのはずだ。
 でも、何で希ちゃんは男の時の私を知っているの!? もしかして私が「春樹」だってバレてる!?
 う〜ん、別にどうだって言うんじゃないけど……なんとなくこういうのって、バレるとやばいような気がする。
 単に小さい頃、ヒーローもののアニメを見てたせいなのかな? なんとなく正体はバラさない方がいいと、つい思ってしまう。
「遥ちゃん! 急がないと体育遅れちゃうよ〜!」
「あ! ほんと!」
 私は急いで着替えて、希ちゃんと一緒に運動場へと走った。


 体育の授業が終わり、そして放課後。
「遥ちゃん! 一緒に帰ろ!」「う……うん」
 希ちゃんが元気良すぎるせいなのか? 私は彼女と話すと少し圧倒されてしまうようだ。
 本当に元気がいい子だな……自己紹介でも「元気がいいのがとりえ」だって言ってたし。
「遥ちゃん」
「えっ? 何?」
「今、ちょっとだけ私のこと考えてなかった?」
「えっ? どうして?」
「あ、違った?」
「……ううん、希ちゃんの言ったとおりだけど」
 どうして希ちゃんは私の考えていることがわかったんだろう? 偶然かな?
「偶然じゃないよ」
「えっ?」
「あ、何でもないない!」

 私、今頭の中で「偶然かな?」って考えたんだよね。何でそれなのに希ちゃんから答えが返ってくるの?
 つい口に出して言っちゃったのかな?
 希ちゃんって本当に不思議な子だな。一体彼女は何者なのだろう?

「希は希だよ!」「えっ?」

 また頭で考えていたことに返事が返ってきた。もしかして希ちゃん……私の心読んでます!?
 ……いや、そんなはずあるわけないよね。実際にそんなことできる人がいるわけない。
「ねえねえ、遥ちゃん!」
「な、何?」
「遥ちゃんはさー、超能力とか不思議な事って信じる?」
「えっ? 何それ?」
「え〜っと、例えば、人の心が読めるとか」

 ……えっ? 何で希ちゃんてば、絶妙のタイミングでそんなこと訊いてくるの?

「希はそういうの信じるよ! 不思議なことは存在するはずだよ! きっと!」
「の、希ちゃん」
「な〜に?」
「何で突然そういうこと私に訊いてきたの?」
「えへへ、気にしない気にしな〜い!!」
 やっぱり彼女は只者じゃないような気がする。
 そもそも私はどうして突然女の子になれるようになったのだろう? それも不思議だけど、希ちゃんは何故私が男のときには存在せずに、「遥」になっているときだけ存在するのだろう?
 何か私が遥のときにしか存在できない理由でもあるの?
 でも、どんなに考えても、まったく何もわからないまま。
「遥ちゃん……」「何?」
 何だか急に希ちゃんの元気がなくなったような気がする。とりあえず彼女の言葉を待った。
「遥ちゃんはさー、人間の『生まれ変わり』ってあると思う?」
「それって、死んだ人が生まれ変わってまたこの世に存在するってこと?」
「うん」
「う〜ん、私は『生まれ変わり』って言うのは今一信じられないような気がするの」
「え!? どうして?」
「だって人間は尊い命って言うし、やっぱり命はひとつだけとか、一回だけの人生にはそれなりの意味があると思うんだ……」
「……そっか」
 私には、希ちゃんが突然気を落としてしまったかのように見えた。
「…………」
「えっ? 希ちゃん、何か言った?」
「えっ!? あ、ううん! 何でもないよ! 何でも……」

 希ちゃんは小声でつぶやいたので、私にはその言葉は聞こえていなかった……





「…………私もそろそろ逝くのかな……」

『不思議な少女』につづく


おまけの☆雑談コーナー☆(あとがき!?)

希 「何だかかなり中途半端なとこで終わっちゃってるね〜? 作者しっかりしろ!」
作者 「おいおい……せっかく出番少ないって言うから番外編(?)作ってやったのにそれはないだろ〜」
遥 「ところで作者さん、これって『不思議な少女』の前の出来事にあたる話なんだよね?」
作者 「まあそういうつもりで作ったけど、一応この続きが『不思議な少女』になるかな〜? ……って」
希 「……『不思議な少女』に繋げて読んでみるとなんだか不自然な繋がり方だな、おい!」
作者「……これまたいたいところを」
希 「ったく! しっかりしろ!」
春樹 「まあまあ希ちゃん、落ち着けって」
遥 「……え〜っ!? なんで男の私が今ここにいるの!?」
作者 「まあこれは一応あとがきってことなので、本編の設定とは異なったりして……」
希 「無責任な作者だな〜、ったく! しっかりしろ!」
遥 「希ちゃんさっきからそればっかり……」
希 「それにしても作者もバカだな。あとからこんな話作ってもネタばれしてるじゃんっ。例えば私の正体とか」
春樹 「ちなみに希ちゃんって、本当は宮沢○香ちゃんなんだよね〜?」
希 「違うっつ〜の!!」
遥 「まあまあ希ちゃん、まだ『不思議な少女』を読んでいなくて、この話から読む人もいるかもしれないし……」
作者 「始めは『不思議な少女』とこれ、くっつけちゃおうって思ったんだけどね〜」
春樹 「要するに完全版ってわけか」
作者 「まあそう言うことになるが……今回は題名が『初めての遥』なので、春樹くんが初めて遥ちゃんになった日を書こうと思ってね〜作ったんですよ〜」
希 「なんで希が主人公じゃないんだよ! 作者!」
遥 「だから落ち着いてって……」
希 「だいいち希が居たからこそ、この話が成り立っているんだろ〜! 『希ちゃんと会った日』とか『謎の少女希ちゃん』とかそういう題名考えられないんかい!」
作者 「あの、希ちゃん? 『不思議な少女』の『少女』って希ちゃんの事なんだけど……」
希 「あ?そうだった? いや〜、早とちり早とちり」
春樹 「早とちりにも程があり過ぎだな……」
希 「そこ! 聞こえてる! しかも私より出番少ないくせに言う権利はない!」
遥 「春樹よりかは私の方が出番多かったかな?」
作者 「さあどうでしょうね〜?」
希 「私の出番を増やせって〜の!」
作者 「でもこの話は『不思議な少女』に続くって感じだから、このシリーズもうここで終わりだけど。……多分」
希 「なんでじゃ〜!?」
春樹 「結局俺はあんま出番ないままだったな〜」
遥 「まあまあ、春樹の代わりに私が多く出てるからいいじゃん!」
希 「よくね〜!! 出番増やせ〜!!」
作者 「あんたさっきからうるさい……ってな訳で、番外編でもまた出さない限りとりあえずこのシリーズはこれで終わりとさせていただきます」
遥 「第一本当はこの話って元々『不思議な少女』だけの予定だったんでしょ?」
作者 「そだね、でも一部でこの設定は色々使えそうだと言う意見があったらしくてね」
春樹 「それで俺が始めて遥になった日の話を作ったのか?」
遥 「作ったって言うか、具体例として、初めて私になった日とかって例があがってたみたい」
希 「ふーん、そーなんだー」
作者 「希ちゃんやっと静かになったか……」
希 「……ってことは! 読者のみなさんの意見なら通ることもあるかもしれないのか! んじゃ読者のみなさん! 私の出番増やせって希望してくれ〜!」
作者 「おいおい…(^−^;」
遥 「でも希ちゃんこのあとの展開でいなくなっちゃうんだし、希ちゃん主人公の話作ってあげてもいいんじゃない?」
作者 「でも現在新ネタ思いついてるからそっち手がける」
希 「つくれっつ〜の!!」
遥 「希ちゃん……本編より元気過ぎになってない??」
春樹 「てかさー、俺より希ちゃんのこの性格の方がTSに向いてたんじゃないの?」
作者 「う〜ん。そーだったかも?」
希 「ぬあんだと〜! 希を男にするっていうのかよ!?」
作者 「……まんま男みたいなもんじゃん……」
遥 「希ちゃんの方がよっぽど春樹より男らしいよ……」
春樹 「俺も同感……」
希 「そこ、わき役3人組! 聞こえてるっつーの!!」
遥 「あんまり伸ばそうとするときりがないね。ここら辺でお開きにしよっか?」
春樹 「俺も帰って宿題しなくちゃならないし」
遥 「……その宿題やるのって、どうせ私だよね……」
春樹 「あ、そっか。今日はTSしたままだったもんな」
作者 「そういうことで読者のみなさん、ご愛読ありがとうございました! そのうち新しい作品出すと思いますのでその時はよろしくお願いします!」
希 「希を無視するなっつーの!! しかも続き止まりの作品はどうなったんじゃい!」
作者 「……さあ?」
希 「それでも作者かい!」

作者 「……ってことでかなり無責任な作者でありますが、これからもどうぞよろしくお願いします」

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