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あの頃の記憶(第3章)
作:T・H






<第11話>〜俺から…私へ〜


太陽の光が室内に入り込んでくる。そして、外では小鳥たちが鳴いている。
もう朝である。時刻は現在午前6時30分。
俺が目を覚ましたのは、ちょうどその頃だった。
(そういえば俺…真由美ちゃんが熱を出していたために…)
熱が出ていた真由美ちゃんの身体に乗り移ってしまったために、俺は真由美ちゃんとして
熱と戦っていた。…と言っても、寝ていただけであったが。
しかし寝ている間に起こった出来事。それは俺が見ていた夢のことである。
夢の中で出てきた由梨ちゃん。彼女は一体何者なのだろう?
由梨ちゃんだということはわかっているが、どうも本当の由梨ちゃんだとは思えない。
何故か非常に気になる。それに、夢にしては展開がやけに妙である。
現実の由梨ちゃんと非常に関連している出来事もあったし、それに…
『この調子なら…本当の由梨ちゃんの記憶も…』
という、夢の中の彼女が言っていた言葉も気になる。
この言葉にはもっと他の別の意味があるような気がする。
俺としては、その言葉の続きを『いつかは戻る』という風に考えているが、
本当の意味は何なのだろう?もっと深い意味があるような気がする。
しばらくの間そのような事を考えていたら、突然
「真由美、起きたー?熱は測ってみたの?」
と言う声が聞こえた。俺内部では今始めて聞いた声だが、今の俺の立場からいって
恐らく、その声の主は真由美ちゃんの親だろうと言う事はすぐに察した。
俺はとりあえず熱を測ってみることにした。だが、今更ながら今、俺は女の子に
なっているということを改めて考えてしまった。何故なら、前保健室で熱を計った時は、
由梨ちゃんがいたからあんまり考えていなかったけど、よく考えてみれば
体温計を計る時に、脇に先っぽがはさまった事を確認しようとすると、
その時自分の胸にある大きな膨らみが2つ見えてしまうのだ。
俺は脇に挟まったかどうかの確認の時にその大きなふくらみを見てしまったせいなのか、
それとも熱のせいなのか、いつもより顔が火照っているような気がした。
約1分経過。体温計から小さい音がした。どうやら熱の測定が終わったようだ。
自分の熱の数値を見てみると…38.9度。
昨日よりかは下がったものの、これじゃああんまり変わりないような気がする。
今日は学校は休むことになるなー。でも、俺じゃあなくて真由美ちゃんが
欠席したということになってしまうが…いいのかなー?
真由美ちゃんが、もし皆勤賞を狙っていたとしたら俺の意思で休んでしまっていいのだろうか?
あ…でも、元々これは真由美ちゃん自身の熱なんだし、どちにしろ
真由美ちゃんの意思だったとしても真由美ちゃんは学校を休んでいたかも。
とりあえず、俺はまた寝ることにした。近くに薬がおいてあって、
紙も一緒においてあった。その紙には、
『熱がまださがっていないようだったら飲むこと!』
とかかれていた。俺はとりあえず薬を飲んで、より深く布団に入った。

「ゆ〜うちゃん!」
俺は突然声をかけられた。今更言うまでもないかもしれないが、
この呼び方で呼んで来るということは…
「やっぱり由梨ちゃんか」
「ピンポンピンポーン!大当たりで〜す!」
相変わらず由梨ちゃんは無邪気だなー…そういえば、何で俺は、今は
真由美ちゃんでしかも寝ているはずなのに、祐一の姿であり、目の前には
由梨ちゃんがいるのだろう?
「ゆうちゃんったら、考えなくてもわかるでしょ?これは夢なのよ!」
「おっ、そうだったっけな。教えてくれてサンキュー…あれっ?」
「な〜に?ゆうちゃん?」
「これが夢ってことは…きみはもしかして本当の由梨ちゃんではない由梨ちゃん?」
「そーだよー!もうこれで私にあうのは3回目になるね!」
「…きみに会った時から思ってたんだけどさー、もしかして…」
「んっ?なーに?」
「俺の夢の中で出てくるってことは、何か俺に伝えたいことでもあるの?」
「えっ…そ、それはね…あるって言えばあるけど…ないと言えばない…」
由梨ちゃんは何故か少し戸惑いがちな表情を浮かべた。
「それってどういうこと?よくわかんないよ」
「伝えたい事はあるけど…ゆうちゃんが自分で気付かなきゃいけないから…」
「えっ?自分で気付かなきゃいけないって何を?」
「それは…私からは言えないよ…自分で気付かないと本当の私の記憶は…」
「本当の由梨ちゃんの記憶は…?」
「…ごめん、ゆうちゃん…私が言っちゃいけないんだよ…」
「…そうか、なら仕方ないな…俺が自分でその何かに気付かなきゃならないんだな?」
「…うん、それに気付けば…本当の私の記憶も…」
そう言い残して由梨ちゃんは何処かへ立ち去ってしまった。
やはり、この最後に由梨ちゃんがいう『本当の私の記憶も…』っていう言葉には
もっと深い意味がありそうだ…。

「……」
俺が再び気がついた時には、真由美ちゃんの部屋で布団の中にいた。
「うーん…さっきのは夢…?」
「え?真由美ちゃん?何か言った?」
「えっ!?誰かいるの?」
俺しかいないはずの真由美ちゃんの部屋。しかし、突然誰かの声がした。
声の方向を振り向いて見ると、
「…由梨ちゃん?どうして私の部屋に…?」
この時は自分自身気付いてはいなかったが、何故か私は自然に
自分を『俺』ではなく『私』と言っていた。
「真由美ちゃん、ずっと寝てたんだね?もう学校終わったからお見舞いにきたんだよ!」
「えっ…学校終わった?」
私は時計を見てみた。現在の時刻は5時30分。
「あ…本当だ…私、こんなに長く寝ていたんだ…」
「真由美ちゃん?もう大丈夫?」
「う〜ん…まだ熱が下がらないみたいなの…」
「…そう…あ!そうだ!」
由梨ちゃんは急に思いついたように何かをカバンから取り出した。
「はい!これ読むといいよ!」
「えっ…これは?」
「見てわからない?私の日記だよ!これを見れば学校での様子とかもわかるだろうからちょっとは気が楽になるんじゃない?」
「…由梨ちゃん…ありがとう」
「どういたしま…あっ…」
由梨ちゃんはお礼に対する返事を言い掛けたが、何故か突然言葉を切らした。
そして、何故か由梨ちゃんは無言のまま俯いた。
「由梨ちゃん!?どうしたの?」
私が問い掛けると、由梨ちゃんは顔をあげた。
「えっ?あ、何でもないよ…」
「ビックリしたよ、突然俯くんだもん…」
「そう?あ、それよりゆうちゃんさー」
「なーに?」
「う〜ん…やっぱりあとでいいよ」
「うん…あれっ!?由梨ちゃん、今私にゆうちゃんって言った?」
「えっ?…あ、あれ?おかしいなー…私そんなこと言ったかなー?」
「…う〜ん、今確かに言ったと思うんだけどー…」
「そ、そう?私が何で真由美ちゃんをゆうちゃんって呼ばなきゃならないの?」
「…それもそうだね…」
心ではそう思っていても、本当は私はゆうちゃんだけどね…。
「ゆうちゃん、そろそろ気付けそう?」
「えっ?気付けそうって何に?…あれっ?やっぱりゆうちゃんって呼んだでしょ?」
「えっ…聞き間違えじゃないのー?」
「いや、確かに今由梨ちゃん私をゆうちゃんって呼んだ」
「えっ…き、気のせいなんじゃないかなー?」
「それに…気付くとかって言ったね?…きみはもしかして本当の由梨ちゃんではない由梨ちゃん?」
「…もうバレちゃったかなー?私は身体は本当の由梨ちゃんだけど、中身は本当じゃない由梨ちゃんなの…」
「と言うことは、また夢なの?」
「えっ?これは夢じゃないよ、現実だよ」
「え…どうみたって今の俺にはきみが夢であった由梨ちゃんに見える…」
「まあ一応夢の私と本当の私は違うけどね、ゆうちゃんにはおんなじに見えるのかな?」
「…違う?」
「そうだよ、夢の中の私と本物の私は違うよ、今ゆうちゃんは私が誰に見える?」
「う〜ん、夢の中の由梨ちゃんに見えるけど…」
「う〜ん、本当にそうかなー?確かに私は今夢で会った私だけど、身体は本当の由梨ちゃんだから本当の由梨ちゃんに見えるはずなんだけどなー…」
「う〜ん、今いち言ってることがよくわからないんだけど…」
「う〜ん、そうねー、わかりやすく言うと、今の私はゆうちゃんと同じ状態なの」
「と言いますと?」
「ゆうちゃんは今真由美ちゃんに乗り移ってるでしょ?私もそれと同じように本物の由梨ちゃんの身体に夢の中の私が乗り移っているの」
「大体わかったけどー…何で夢で会ったきみが現実にいるの?」
「それはねー…ごめん、ゆうちゃん…それも言えない…」
「そうかー…きみは私が目を覚ました時からもう本当の由梨ちゃんに乗り移っていたの?」
「えっ?違うよ…それに気付かないんじゃー、もしかして由梨ちゃんの記憶はダメかもよ?」
「ダメって…じゃあいつ乗り移ったの?」
「由梨ちゃんがどういたしましてって言ってる途中だよ!」
「あ!だからあそこで言葉が途切れて急に俯いたのか!」
「ピンポンピンポーン!!」
「でも、何か私に用があって今、由梨ちゃんに乗り移ってこの場にきたの?」
「それはねー…う〜ん、やっぱり今度でいいや!」
「えっ…用あったんじゃないの?」
「あるけどー…また今度ね!じゃあ、私はもう本当の由梨ちゃんの身体から抜けるね!」
「え…ねえ、由梨ちゃん、ちょっと待ってよ、用って何だったの?」
「えっ?真由美ちゃん?用って何の事?」
「えっ…あ、あれっ?」
どうやらもう本当の由梨ちゃんの意思に戻っているようだ。
「真由美ちゃん?」
「あ…な、何でもないんだよ、本当に…」
私はとりあえずこの場を誤魔化した。何とか誤魔化しは通じたようだ。
その後、由梨ちゃんは帰って行った。とりあえず日記をおいてってくれたので、
読もうと思ったが…まだ体調がすぐれる訳でもないので、後回しにすることにした。
私は今頃になって、自分の呼び方が『俺』からいつの間にか『私』に変わっていた
事に気付いた。だが、この時はそのことについてはさほど気にしなかった。
私は寝ることにした。そして、すぐに寝付いた。
私はこの時、あることに気付いていなかった…。
由梨ちゃんの言ってた何かとは違う事である。
そのこととは…感覚までもが本当の真由美ちゃんみたいになってきていたのだ…。


<第12話>〜祐一から…真由美ちゃんへ〜


「ゆうちゃ〜ん」
私は名前を呼ばれた。由梨ちゃんが呼んでいる。
「ゆうちゃ〜ん」
由梨ちゃんが何処かで呼んでいる。だけど、姿が見えない。
私自身ここが何処なのかよくわからない。
「ゆうちゃ〜ん!」
その時、何処からともなく突然由梨ちゃんが姿を現した。
「あ!由梨ちゃん!呼んだ?」
「…私ったら…ごめんなさいね」
「えっ?何を誤っているの?」
「ゆうちゃんって呼んじゃったけど、よくみたら真由美ちゃんだったね」
「えっ?…あれっ?きみは夢の中の由梨ちゃん…だよね?」
「えっ?夢の中の由梨ちゃんって何?」
「えっ…違うの?」
「…真由美ちゃん、あのー、言ってる事がよくわからないんだけどー…」
「きみは夢の中の由梨ちゃんだろ?私は見た目は真由美ちゃんだけど中身は祐一だってこと知ってるんでしょ?」
「…真由美ちゃん、意味がよくわからないんだけど…」
「ええっ…私も意味がわからなくなってきた…」
私の頭の中はすでに混乱状態だった。そして、私は混乱しすぎて気を失ってしまった。

「ゆうちゃん!?ゆうちゃん!?」
また誰かに呼ばれている。私は意識が戻ったようだ。
「あ!ゆうちゃん気がついたね!」
「……ここは…?」
「私が誰だかわかるよね?」
「…由梨ちゃん?」
「夢の中の由梨ちゃんだよ」
「…さっきの由梨ちゃんは一体?」
「多分ね、さっきの由梨ちゃんはゆうちゃんが見た幻だよ。ゆうちゃんさっきからずっとここで気を失ってたもん」
「…そうなの?」
「うん。まあ気を失ってたと言ってもここは夢の中だから…本当のゆうちゃんは真由美ちゃんとして寝ているけどね」
「…よくわからないけど、私はここで気絶してたのね?」
「まあそういうこと…あ、ゆうちゃんさー、何か変な感じがしない?」
「えっ?それって…どういうこと?」
「うん、実はね、ゆうちゃんは感覚までもが完全に真由美ちゃん化してるのよ」
「えっ…それって、急に私って言葉が出てきたのもそのせいなの…?」
「うん、そうなのよねー。今のゆうちゃんは本当は幽体の状態であるからさ、どうやら24時間以上乗り移ったままだと段々感覚もその人になってきちゃって
しまいには乗り移りが解除できなくなるらしいよ」
「…それって本当なの?」
「うん、本当なのよ!・・・真由美ちゃんが熱を出していたためにほとんど寝ていて、そのためにもう24時間以上経過してしまったのね…」
「…今ならまだ間に合うの?」
「時間ギリギリは36時間までらしいの!ゆうちゃんが真由美ちゃんに乗り移ったのが昨日だから…」
「あと15分くらいなのね?」
「うん。そうなのよ!それだから、もう真由美ちゃんから抜けないとヤバいよ!」
「でも、今本当の私は寝ているんだし…」
「大丈夫!私が目を覚ましてあげるよ!」
「えっ?そんなことできるの?」
「まかせて!ちょっと目をつむって!」
「うん…」
私は目をつむった。由梨ちゃんが何かを呟いている。
「うわっ……」
その瞬間、私の前にものすごく眩しい光が現れた。

気がつけば、私はちゃんと目が覚めていた。
タイムリミットまで時間が無い。早く急いで真由美ちゃんから抜けないと…。
しかし、今の私の身体は高熱のためにだるくてなかなか動かせない。
どうしよう…そうしているうちにもタイムリミットは迫っている。
何か…何か軽くジャンプする以外に身体から抜ける方法はないのだろうか?
そういえば何かのマンガでこういうのを見た覚えがある。
それは、ある人が好きな人に乗り移って色々すき放題やるのだが、
急にクシャミをした途端、クシャミと共に乗り移っていた霊が一緒に外に出てしまった。
ということを見た覚えがあった。その手があったか。クシャミをすれば一発でOKなはず。
でも、私は今高熱のためにあまり動けないので、近くに何か落ちていないか探る。
すると、近くに何故か細いロープが落ちていた。私は急いでそれを手にとり、
ロープで鼻の中をくすぐった。しばらくすると…
『クシュン!』
クシャミが出た。やった〜…と思いきや、私は真由美ちゃんのままだった。
多分これだけじゃあ私を外に出すほどの勢いがないのだろう。
そこで私は鼻の中を更にくすぐり続けた。
『クシュン!クシュン!クシュン!』
クシャミは出るものの、勢いが足りない。そうしているうちに、
いつの間にかタイムリミットは残り1分を切っていた。やばい。何とかしないと…。
私はもうやけくそで、ロープをおもいっきし鼻の奥に入れてごそごそさせた。
残り時間はもう10秒を切ってしまった。もうダメか…。だが、私はくすぐり続けた。
9…8…7…6…5…4…残りはあと3秒。そして2秒…1秒。そしてその瞬間
『ヘ〜〜〜クシュン!!!』
私はすごく勢いのいいクシャミをした。すると…俺は真由美ちゃんの身体から抜けられていた。
俺は、残りわずか0.1秒のところで何とか抜け出せた。抜けたと同時に、
感覚も真由美ちゃんから祐一へ戻った。ふぅ…とりあえず一安心。
とりあえず、俺は真由美ちゃんの部屋の空中でしばらく一安心していた。
すると、本当の真由美ちゃんの意思が目覚めたようだ。
「…あれっ?私今までずっと寝ていたのかな…?何だか体が熱っぽい…あれっ?何で由梨ちゃんの日記が私の部屋に!?」
真由美ちゃんはまだ熱が下がっていないままのようだ。真由美ちゃん…俺がさんざん真由美ちゃんの
身体には迷惑をかけちゃったな…。結局真由美ちゃんになっていても由梨ちゃんの記憶戻せなかったし…。
真由美ちゃん…早く熱を治して元気になってね…。そして俺は真由美ちゃんの部屋をあとにした。


<第13話>〜由梨ちゃんへ〜


俺は今はまた幽体になってしまったので、空気中を適当に進んでいる。
特に行く当てもなかったのだが…俺はいつの間にか由梨ちゃんの家へ来ていた。
そして壁から由梨ちゃんの部屋へ入る。部屋に入ると、由梨ちゃんは机に顔を伏せていた。
由梨ちゃん何かやっているのかな?と思い彼女に近づいてみる。すると…
「…ひぐっ…思い出せない…ひぐっ…とても大事な事のような気がするのに…ひぐっ…」
由梨ちゃんは、机に顔を伏せて泣いていた…。由梨ちゃん…やはり由梨ちゃんも
本当は俺の事を思い出したいのだろう…。でも、どうすれば記憶が戻るのか…?
…とりあえず空中に浮いているだけでもしょうがない。もしかしてとは思うけど、
由梨ちゃんの身体に俺が侵入して、記憶をコントロールすると言うことはできないのだろうか?
でも、試してみて損はないだろう。俺は早速それを試す事にして、由梨ちゃんに進入した。
『ビクッ!!』
由梨ちゃんの身体は大きく反応した。そして由梨ちゃんの身体は俺の意思で動くようになった。
俺は由梨ちゃんになったまま、由梨ちゃんに話し掛けた。
「由梨ちゃん!俺、祐一だよ。由梨ちゃんの恋人の祐一!由梨ちゃん…思い出してくれ…」
俺は由梨ちゃんであるまま、由梨ちゃんに訴えかけた。
「由梨ちゃんが俺の事を忘れるはずあるわけないだろ?思い出してくれよ〜…」
由梨ちゃんはさっきまで泣いていたせいなのか…由梨ちゃんになっている俺も
涙が少し出てきた…。すると…
「……ゆう…ちゃん?」
…今のは一体!?今は俺が由梨ちゃんに乗り移っているので、由梨ちゃんの意思ではなく
俺の意思で由梨ちゃんは操作されるはずだ。なのに、今俺は自分の意志でもないのに、
由梨ちゃんになっている俺から『ゆうちゃん』と言う言葉が自然に発せられた。
もしかして今のは…由梨ちゃんに俺の訴えが届いたと言うのか!?
俺はその後も由梨ちゃんの身体のまま由梨ちゃんに訴え続けた。すると…
「…ゆうちゃん…ゆうちゃん!?ゆうちゃんなの!?何処?ゆうちゃん何処にいるの!?」
突然俺の意思でもないのに、またまた由梨ちゃんから言葉が発せられた。
でも身体はやはり俺の意思で動いている。由梨ちゃんの机の上にはノートと鉛筆があった。
なので俺はそこに、自分の想いを全て込めて由梨ちゃんへの言葉を書いた。
そして俺は小さくジャンプして、由梨ちゃんから抜け出した。
しばらくして由梨ちゃんの意思が戻る。すると由梨ちゃんは机の上のノートを眺めた。
「あれ?何か書いてある。何々〜…えっ…これって…」
由梨ちゃんは俺の書いた言葉を読んだ。
「……ゆうちゃん!?ゆうちゃん!?何処にいるの!?ゆうちゃん…」
何と由梨ちゃんはちゃんと自分の意志で俺のことを呼んだ。
ということは…由梨ちゃんの記憶が戻ったのか!?俺は必死に由梨ちゃんに呼びかけた。
(由梨ちゃん!ここだ!俺はここにいる!)
「ゆうちゃん!?ゆうちゃん……」
俺は呼びかけたが、由梨ちゃんは気付かない。霊体だとやはり無理みたいだ…。
でもここで諦めたくは無い。俺は必死に由梨ちゃんに呼びかけた。
全神経を由梨ちゃんへの呼びかけに集める。
「由梨ちゃん!俺はここにいる!気付いてくれ!!」
そして全神経を持った俺の言葉は……
「ゆうちゃん!?今ここにいる!?そこにいるのね!?」
届いた…由梨ちゃんに俺の言葉が届いた!俺はそのまま由梨ちゃんに話し掛けた。
「由梨ちゃん…よく聞いてくれ…俺はあの日、由梨ちゃんを助けるためにかばって病院へ運ばれた…
そして気がついたら俺は幽体離脱していたんだ…原因はわからない。しかし、俺の本当の身体は今昏睡状態に陥ってるらしい…
由梨ちゃんが…由梨ちゃんが俺の帰りを待ってくれていれば俺は元に戻れるかもしれない…いや、本当に戻れるかはわからない…
でも、由梨ちゃんが俺の帰りを待ってくれていれば…」
「…ゆうちゃん?それって…」
「霊体の俺は今ここにいる。でも本当の俺の身体はこの町の病院にいる…」
「この町の病院!?…わかった。私、祐一を助ける!」
そう言って由梨ちゃんは家を飛び出した。俺も由梨ちゃんのあとを追っていく。

そして、由梨ちゃんは俺がいる病院へ来た。そして病院の人に話し掛けた。
「あの!この病院内に祐一って言う患者さんはいますか!?」
「祐一君…ああ!その患者さんなら2階の202号室だよ…でも、彼の状態はかなりひどい。今生死の境をさまよっている」
「2階の202号室ですね!?わかりました!」
そう言って由梨ちゃんは再び走り出した。急いで階段を上って、202号室のドアを開ける。
「ゆうちゃん!」
由梨ちゃんの見た光景は、ベットに横になったままの俺だった。
「ゆうちゃん!?ここにいるの?」
「今俺はここにいる!」
「よかった…ゆうちゃん、まだ意識はあるのね…」
「由梨ちゃん…心の底から俺が帰ってくることを強く祈ってくれないか?」
「そうすればゆうちゃん戻れるの!?」
「わからない。でも…今は由梨ちゃんに全てをまかせるしかないような気がするんだ…」
「…わかった。私ゆうちゃんの帰りを強く願う…」
由梨ちゃんは精神統一を始めた。そして、願い出した。
「ゆうちゃん…無事に戻ってきて!」
由梨ちゃんが強く願ってくれている。俺は自分の身体に重なってみた。
しかし、俺は自分の身体をすり抜けてしまう。やはり無理なのだろうか?
しかし俺は諦めなかった。何度も重なろうとする。しかし…やはり無理だ。
すり抜けてしまう。一体どうすれば…
「ゆうちゃん!…がんばって!お願い…戻ってきて!」
由梨ちゃんは願いを強めた。そしてまた挑戦してみたが…やはりすり抜けてしまう。
由梨ちゃんはがんばってくれている。だけど…一体どうすれば?その時、
「…大丈夫だよ!ゆうちゃんなら、諦めなければ絶対平気だよ!!……」
由梨ちゃんがいつも俺を励ましてくれる時に言う言葉だ。由梨ちゃんの俺を
待ち望んでいる思いは、最高潮となり、由梨ちゃんに励まされた俺の元に戻りたいと
言う想いも、最高潮となった。そして再び身体に重なる。すると…。


<第14話>〜おかえり…ゆうちゃん〜


「………ん…んんっ…」
「ゆうちゃん!?ゆうちゃん!?」
由梨ちゃんの声が聞こえる。俺は目をそーっと開けた。
「ん…由梨ちゃん…俺、戻れたのか…」
「ゆうちゃん…きっとゆうちゃんなら戻って来れると信じてたよ…よかった…」
「由梨ちゃん……ありがとう…」
そして、俺はまた眠ってしまった。

それから約1時間後。俺は再び目を覚ました。すると…
「あ、ゆうちゃん目覚めた?」
由梨ちゃんが俺の病室にいた。俺が寝てからずっと居てくれたみたいだ。
「由梨ちゃん…ずっと居てくれたのか?…」
「うん…ゆうちゃんが帰ってきてくれたんだもん…」
その後、しばらくして由梨ちゃんは帰ったが、医者の方では俺が急に
目覚めたことに疑問を持っていたようだ。何しろ、俺はかなりひどい
昏睡状態であったのだから。でも、その後はあと5日くらい入院して、俺は退院した。

俺が退院してから次の日。今日は学校の日だ。まだ退院はしたばっかりだが、
体調などは大丈夫そうなので、俺は学校に行く事にした。
そしてあっという間に学校に着く。教室に入ると、俺は色々な人に話し掛けられた。
みんな俺が事故に遭って入院していたという事は知っているみたいだ。
入院していたと言っても、俺の魂はちゃんと活動をしていたけど。
そして窓際の席を見てみる。由梨ちゃんが居た。
由梨ちゃんは何だか嬉しそうな笑顔を浮かべている。
そしてしばらく見ていると、由梨ちゃんと目があった。
由梨ちゃんは、更に笑顔を浮かべた。由梨ちゃん…本当に嬉しそうだ。
もし俺が戻ってこれなかったら、由梨ちゃんは俺の事もきっと忘れたままだろうし、
この笑顔も由梨ちゃんに戻らなかっただろうな…。

とりあえず1日の授業が一通り終わり、放課後。由梨ちゃんが俺のところにきて、
「ゆうちゃん…帰ろ!」
由梨ちゃんが下校に俺を誘ってくる。
「うん、じゃ帰ろうか」
そして俺たちは帰ろうと思って教室を出ようとした時、
「由梨ちゃん!」
由梨ちゃんに誰かが声をかけた。由梨ちゃんと一緒になって俺も振り向いてみると、
真由美ちゃんがそこにいた。
「真由美ちゃん!もう熱下がったの?」
「うん!もう完全回復だよ!でさ!日記ありがとね!」
「うん!少しは役に立ったかな?」
「うん!ちょうど退屈しのぎによかったよ!ほとんど布団からは出れなかったし!」
真由美ちゃん、熱治ったんだな。よかったー。
「あれ?祐一君そいえばもう学校来ても大丈夫なの?」
「うん、一応体調に以上はないしね」
「そっかー…なんか不思議だなー。私熱で寝込んでた時何だか祐一君と一緒に居る夢見てたみたいなの」
「へぇー。そうなんだー」
熱で寝込んでいた時って、俺が真由美ちゃんになっていた時…
一緒に居ると言うより、俺は真由美ちゃん内にずっといたんだよねー。
でもそれって、乗り移られた人は意識がなくなるとかっていうわけではなくて、
寝ているっていう状態と同じような感じになるのかな?現に真由美ちゃんも
夢見てたみたいって言っているし。まあでも、どうだったとしてもいいか。
「じゃ、私は先に帰るね〜!由梨ちゃん、祐一君、じゃ〜ね〜!」
「うん!じゃ〜ね〜!」
と元気よく由梨ちゃん。
「じゃ〜ね」
と俺。その後、俺は由梨ちゃんと帰った。帰っているとき、俺は由梨ちゃんと色々話した。
話をしていたら、色々な事実が判明した。由梨ちゃんは、俺がもどって来れた日、
俺のことを思い出してくれたが、事故の日の事しか覚えていなかったらしい。
その間自分が記憶喪失になっていたと言う事には気付いていなかったらしい。
他に、夢の中で俺に会っていたとも言っていた。でも、夢が覚めると忘れてしまったらしい。
実は…その俺が会っていたのは現実の由梨ちゃんの見ている夢の世界だったのだ。
要するに俺が真由美ちゃんだった時に見ていた夢だ。
由梨ちゃんは夢の中では俺を忘れてしまったと言うショックを強くしたくないために
明るく振る回っていたとのことらしい。それで由梨ちゃんは俺の見る夢に出てきたのだ。
でも、本人は目が覚めると忘れてしまう。それだから、由梨ちゃんは本当は
同じ由梨ちゃんなのに、現実の由梨ちゃんとは別の由梨ちゃんだと言っていただとか。
途中で現実世界で夢の中の由梨ちゃんが出てきたのは、由梨ちゃんの中の夢を
見る時と同じ体制の由梨ちゃんに切り替わっただとか。
なので、元々現実の由梨ちゃんも夢で出てきた由梨ちゃんもやはり同一人物だったのだ。

気がつけば由梨ちゃんの家の前まで来ていた。俺の家は、由梨ちゃんの家の前を通る。
「由梨ちゃん、じゃ、また明日」
「うん…また明日ね!ゆうちゃん」
俺は由梨ちゃんと別れて帰ろうとした。
「あ!ゆうちゃん!ちょっと待って!」
突然由梨ちゃんが俺を呼び止めた。
「まだ言っていなかった事があったね…おかえり…ゆうちゃん…」
「ただいま…由梨ちゃん」
俺は由梨ちゃんの言葉に答えた。
「…じゃ、ゆうちゃん、また明日ね」
「うん、じゃ、また明日」
そして今度こそ俺は家へ帰った。


<最終話>〜想いは永遠に〜


「ゆうちゃ〜ん!早く早くぅ〜!」
「由梨ちゃん、ちょっと〜、待ってよー…」
俺は由梨ちゃんを追いかけていた。
俺は由梨ちゃんと日曜日を使ってデートをしているのだ。
俺が帰ってきてから由梨ちゃんにも元気が戻った。
その証拠に今はこんなにはしゃいでいる。
「早く早くぅ〜!」
由梨ちゃんは何度も俺を呼んでいる。由梨ちゃんは本当に元気な子だなー。
俺は多分由梨ちゃんのそんなところが好きだったのだろう。もちろん、今も…。
「はぁ…はぁ…やっと追いついた〜…由梨ちゃんは走るの速いなー」
「ゆうちゃんが遅いだけなんじゃないのー?」
「…そうかなー?」
俺は運動神経は結構いい方だ。でも、由梨ちゃんは俺よりも更に運動神経がよかった。
それだから、走るのは由梨ちゃんの方が速いみたいだ。
由梨ちゃんは何故さっきから走っていたかというと、ただ単に俺との
デートのためにはしゃいで走っているだけだった。
由梨ちゃんは街中を駆け巡り、俺はしばらく追いかけっぱなしだった。
「ゆうちゃ〜ん、早く何処か行こうよ〜!」
由梨ちゃんはまた街中を走り出した。
「ま…待ってよ〜…」
由梨ちゃんは相変わらず速い。そしてどんどん先に行ってしまう。
由梨ちゃんは走っているうちにいつの間にか道路方面に出ていた。
そして、そのあたりで段々俺が追いついてくる。
なんだか前にもこんなパターンがあったような気がする…。
勢いよく道路を飛び出した。だがその時、ちょうど大型車がきていたのだった。
やっぱり!あの時と同じパターンだ!これでは由梨ちゃんが引かれてしまう!
由梨ちゃんは急に飛び出したため、大型車にひかれそうだ。
「由梨ちゃん!危ない!!!」
俺は由梨ちゃんをかばおうとして、自ら道路に飛び出し由梨ちゃんをかばった。
由梨ちゃんは無事にひかれずに助かったみたいだったが…俺も何とか自分の
体制を立て直し、何とか回避した。
「まったくぅ〜、由梨ちゃん飛び出しちゃ危ないじゃないかー」
「そんなこと言ったって〜…車が急に来るんが悪いんだよー」
「…前の時だってこのような状況で俺が重態になったんだぞ…俺がまたいなくなってもいいのか?」
「それはいや!」
由梨ちゃんは本気の口調で俺に言ってきた。
「よしよし、由梨ちゃんはいい子だな。じゃあ今度からは飛び出さないようにするんだよ」
俺は小さい子に注意をするかのように言ってみた。
「は〜〜〜い」
由梨ちゃんはまるで子供のように無邪気に返事をした。
そのあとまた再び歩き出そうとしたが…突然由梨ちゃんが俯き出した。
「由梨ちゃん?どうしたんだ?」
「…ゆうちゃん…ゆうちゃん…もう何処にもいかないでね…!」
由梨ちゃんが俺に向かって抱きついてきた。俺は快く由梨ちゃんを受け入れる。
「由梨ちゃん…安心して。俺はもう何処にもいかないよ…」
俺たちは誰もいない静かな交差点で抱き合っていた…。

「ゆうちゃん。おいしい?」
「ああ、おいしいよ、由梨ちゃん」
俺たちは今公園で由梨ちゃんの作ってきてくれたお弁当を食べている。
「由梨ちゃんの作るお弁当は本当に最高だよ!」
「ありがとう!ゆうちゃん!」
何だかとても幸せだ。生きているからこそ幸せも感じるのだろうなー。
実際に俺は幽体離脱してしまって、ヘタしていれば死んでしまっていたかもしれない。
そういうこともあったので、改めて俺は生きている幸せを感じた。
今も生きているからこうして由梨ちゃんと楽しい時を過ごす事ができるんだ。
生きれる時間が続く限り、俺と由梨ちゃんはお互い幸せになれるだろう、きっと。
お互い幸せになれる。想いは永遠なのだから…。
「由梨ちゃん、おいしかったよ!」
「そー!ありがとー!」
「でも、俺はまだおなかすいてるな〜!もっと量があればいいんだけどね〜!」
「あ!ひっどーい!せっかくがんばって作ったのに〜!」
「冗談だよ!これで充分足りたよ!」
「…本当?もしまだ足りないんだったら何か買ってくるけどー」
俺は冗談のつもりで足りないって言ったのだが、今度は由梨ちゃんが
少し本気にしだしたようだ。
「いや、大丈夫だよ!足りた!」
「そう!よかったー…」
「次はどこ行こっか?」
「う〜ん、じゃあ私カラオケ行きたいな〜!」
「よ〜し!じゃあカラオケ行くか!」
生きているのだからこうして由梨ちゃんと色々できるんだなー。
想いは永遠…生きている限りずっと続くだろう。
そう、時間が許す限り、俺は由梨ちゃんと時を歩み続けるだろう。


☆あとがき☆


T・Hです。久々にあの頃の記憶の続きを作りました。
本当はまだまだ続きそうな感じだし、記憶が戻ったのも
ストーリー上の期間で言ってみれば大体3日か4日(作者もわかってないらしい…)
ぐらいでしたが、あんまし引っ張ると他の続きで止まっている作品が
なかなか作れなかったり、新作がなかなか出せなかったりと色々あるので、
あの頃の記憶、第3章の15話を持ってひとまず終わりにします。
でも何だかこの話は番外編がありそうな気がする?だってヒロイン的存在(?)の
由梨ちゃんは、祐一が真由美ちゃんに乗り移って熱で寝込んでいる場面では
夢の中以外あまり出ていなかったのだから、その間現実で由梨ちゃんは
どのような想いを抱いていたか、などそんな感じになるかなー?
もし余裕があるようなら作ろうかなー?番外編。
でも、T・Hはいつも初めだけでどんどんあとは続きにしてためていってしまいます。
それなので、新作を作るタイミングとかも少しは考えなきゃなー…。
ちなみに、話によるとイラストと言うのは絵師さんの気分次第で載るか、
または作者か誰かさんが絵師さんに頼んで載せてもらうか、のいずれかだと
言うようなことを聞きました。T・Hの作品には、よく考えてみればまだ
1個もイラスト入りがありません。そこで、小説にあったイラストを募集します!
この作品だけではありません!『少女の時』や『俺が好きな人』(そのうち出す第5章)や
『少女として』(そのうち出す第2章)や『状体変化』(そのうち出す第2章)などの
イラストも募集したいと思います。誰でも構いませんので、イラストを書いてくださるという
心優しい方は、是非イラストを作品にご寄付ください!お願いします。


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