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あの頃の記憶
作:T・H






<第1話>〜忘れ去られる記憶〜


「ゆうちゃ〜ん!早く早くぅ〜!」
「由梨ちゃん、ちょっと〜、待ってよー・・・」
俺は由梨ちゃんを追いかけていた。
その日、俺は彼女と日曜日を使ってデートをしていたのだ。
俺の彼女である由梨ちゃん。正式名称は高山 由梨(たかやま ゆり)ちゃん。
「早く早くぅ〜!」
由梨ちゃんは何度も俺を呼んでいる。由梨ちゃんは本当に元気な子だ。
俺は多分由梨ちゃんのそんなところが好きなのだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・やっと追いついた〜・・・由梨ちゃんは走るの速いなー」
「ゆうちゃんが遅いだけなんじゃないのー?」
「・・・そうかなー?」
俺は運動神経は結構いい方だ。でも、由梨ちゃんは俺よりも運動神経がよかった。
それだから、走るのは由梨ちゃんの方が速いみたいだ。
由梨ちゃんは何故さっきから走っていたかというと、ただ単に俺との久しぶりのデートのためにはしゃいで走っているだけだった。
由梨ちゃんは街中を駆け巡り、俺はしばらく追いかけっぱなしだった。
「ゆうちゃ〜ん、早く何処か行こうよ〜!」
由梨ちゃんはまた街中を走り出した。
「ま・・・待ってよ〜・・・」
由梨ちゃんは相変わらず速い。ちなみに、俺は彼女である由梨ちゃんからは『ゆうちゃん』と呼ばれているが、正式名称は佐藤 祐一(さとう ゆういち)。
他の人からは苗字や下の名前で呼ばれている。俺をゆうちゃんと呼んでくるのは、由梨ちゃんだけだ。
由梨ちゃんは走っているうちにいつの間にか道路方面に出ていた。
そして、そのあたりで段々俺が追いついてくる。
由梨ちゃんは俺からまたどんどん遠ざかろうとしてなのだろうか?
勢いよく道路を飛び出した。だがその時、ちょうど大型車がきていたのだった。
由梨ちゃんは急に飛び出したため、大型車にひかれそうだ。
「由梨ちゃん!危ない!!!」
俺は由梨ちゃんをかばおうとして、自ら道路に飛び出し由梨ちゃんをかばった。
由梨ちゃんは無事にひかれずに助かったみたいだったが・・・俺自身はそのあとどうなったのだろう?何故かそこで記憶が途切れてしまっていた・・・。

俺が気が付いたのは病室だった。どうやら由梨ちゃんをかばったあと、意識を失ってしまってここに運び込まれたようだ。
だが、俺は不思議なことに気付いた。何故か自分の身体が下に見える。
(これって・・・どういうことだ!?)
答えはすぐにわかった。俺自身は宙に浮いていたのだ。
(これって・・・生きたままの幽体離脱!?)
俺は今の状況を把握した。だが、そんなに心配することはないらしい。
自分の身体は、今はいわゆる昏睡状態ということになっているらしいが、幽体離脱している俺自身の意思はちゃんとある。
しばらくは別にこのままでも大丈夫みたいだ。
しかも、壁をすり抜けられるみたいだ。俺はそのまま由梨ちゃんが気になってしまって、病室の壁を抜けて由梨ちゃんの家へ向った。
気になってと言ったが、由梨ちゃんは無事だろうか?という意味である。
しばらく宙を浮かんだまま進んで由梨ちゃんの家に着いた。
今は壁を抜けられるので、由梨ちゃんの部屋へ壁を抜けて進入した。
部屋には、由梨ちゃんがいた。由梨ちゃんは俺の写真を見ていた。
由梨ちゃんと初めてのデートの時に記念に、ということで撮った写真だった。
だが、由梨ちゃんの様子がおかしい。由梨ちゃんは何だかうなされているようだ。
「う〜ん・・・この人・・・大事な人だったような気がするけど・・・誰だろう?・・・思い出せない」
由梨ちゃんは、俺の写真を見ながらしばらく呟いていた。
「由梨ちゃん、うなされてるみたいだけど大丈夫?」
俺は由梨ちゃんに話し掛けてみた。だが、反応はなかった。
(う〜ん、今は幽体離脱してるみたいだから声が届かないのかなー?)
実はその通りであった。声は由梨ちゃんに届いていないのだった。
由梨ちゃんはさっきから呟きつづけている。
「この人・・・大切な人・・・?何にも思い出せない・・・」
(もしかして・・・由梨ちゃん?俺のこと忘れちゃったんじゃ・・・?)
自分の中に不安な気持ちが入り混じってきた。実は、由梨ちゃんは交通事故による強いショックにより、記憶喪失となって俺のことを忘れてしまっていたのだ。
俺はそのことに気付いた・・・だが、今の俺には何もできなかった。
(俺はこれからはどうすればいいんだろう・・・?何としても由梨ちゃんに俺のことを思い出させなくっちゃ・・・)
俺は仕方がなく、由梨ちゃんの様子をちょっと伺ってから病室へ戻った。

そして、病室に着いた。元の身体に戻ろうとした。
(幽体離脱なら、重なれば元に戻れるはず・・・)
そう思って俺は自分の身体と重なった。
(・・・あれ?おかしい・・・)
何故か元に戻れない。俺は幽体離脱したままだったのだ。
(元に戻れない・・・ってことは・・・俺、死んじまったのかー!?)
俺は絶望しかけていた。だが、その時急に由梨ちゃんの言葉が俺の頭の中で聞こえたような気がした。
それは、いつも由梨ちゃんが俺を励ましてくれる時に言う言葉だった。
(大丈夫だよ!ゆうちゃんなら、諦めなければ絶対平気だよ!!)
・・・由梨ちゃんが俺にいつも言ってくれる。何だか由梨ちゃんに励まされた気分だ。
俺は何とか絶望状態から抜け出した。そして、これからのことを考える。
しばらく考えた。そして、俺はこれからどうすればいいのか?
その結論は2つ出た。1つは、俺の彼女だった由梨ちゃんの記憶から、俺のことを思い出させること。俺のことを忘れてしまっているままでいさせたら、由梨ちゃんが他の人に取られてしまうかもしれないからなー・・・。
そして、もう1つは元の身体に戻れる方法を考えること。
だが・・・そう簡単に思いつくはずがない。俺はしばらく幽体離脱したまま生きていかなければならないのかなー?
だが、ここでふと思いついた。よく聞く話によると、幽体離脱の時って自分に戻れなくても他の人になら乗り移れると言う話を聞いたことがあるような気がした。
(もしそうだったとしたら・・・これで記憶を戻せるのでは?)
俺は早速再び由梨ちゃんの家に向った。


<第2話>〜乗り移り〜


再び俺は由梨ちゃんの家へ着いた。
先ほどと同様に、壁をすり抜けて由梨ちゃんの部屋に侵入する。
由梨ちゃんはちゃんと部屋にいた。
そして、未だに写真を見て呟いていた・・・。
「・・・思い出せない・・・大切な人のような気がするのに・・・」
俺は何故再び由梨ちゃんの家に来たのか?その理由は由梨ちゃんの身体に幽体のまま重なれば、由梨ちゃん自身に話し掛けることができると思ったのだ。
(由梨ちゃん、ちょいと失礼します・・・)
俺は由梨ちゃんに幽体のまま飛び込むような感じで重なった。
「あっ・・・・・」
由梨ちゃんは突然、少しか弱そうな声をあげて意識を失ってしまった。
そして、俺も由梨ちゃんに重なったまま意識を失ってしまった。

(う〜ん・・・俺、また意識が途切れてしまったのか・・・?)
俺が由梨ちゃんに重なってからしばらく後、俺は意識が戻った。
(あれ・・・何だか幽体の時と感じが違う?)
その理由はすぐにわかった。俺は幽体ではなくなっていたのだ。
「え?俺生き返ったの!?」
俺は驚いたので声をあげたのだが・・・
「何!?・・・今の声って・・・」
俺があげた声は、由梨ちゃんそのものの声だった。
そしてお約束として自分の胸部を見てみる。
「・・・あった」
そこには、大きな胸がちゃんとあった。
それに、周りを見渡してみたら俺は由梨ちゃんの部屋に居た。
(・・・これって・・・)
俺は試しに立ち上がって、鏡の前まで行ってみた。
自分の姿を鏡を通して見てみる。
「・・・由梨ちゃんだ・・・」
鏡には、間違いなく由梨ちゃんが立っていた。
(ということは・・・)
結論から言うと、俺は由梨ちゃんになってしまっていた。
俺は由梨ちゃんに俺のことを思い出させるために由梨ちゃんに重なれば、由梨ちゃん自身に話が届くと思っていたのだが・・・それは違っていた。
形としては、由梨ちゃんに俺が乗り移ったという形になっていた。
「俺・・・由梨ちゃんになっちゃってどうするんだ・・・?」
あれ?ここで1つ疑問が生まれた。俺が今由梨ちゃんになっているということは、由梨ちゃん自身の意思は何処へ行ってしまったのだろう?
その答えは、しばらくわからないままだった。
だが、考えていてもしょうがないので、俺はこれからのことを考えた。
(う〜ん、由梨ちゃんになってしまった以上・・・これから俺はどうすればいいのだろう?)
考えたが・・・考えはまとまらなかった。だが、俺は1つ試してみたいことがあった。
それは何かと言うと、今まで幽体だったのだから、もしかしたらまた由梨ちゃんの身体から出るということもできるのでは?ということである。
もしそれが可能だとしたら、由梨ちゃん以外にも乗り移ることができるということになる。それなら、由梨ちゃんの友達とかに乗り移ってうまく会話をもっていけば俺のことを思い出させることもできるかもしれない。そこで、俺は幽体に戻ろうとした。戻ろうとしたのだが・・・
(どうやって戻ればいいんだろう・・・?)
俺は幽体に戻る方法がわからなかった。
さっきまでずっと座ったまま考えていたせいなのだろうか?
俺は突然体を動かしたくなってしまった。
そこで、俺は小さくジャンプしてみた。すると・・・
(あれ・・・何かおかしい・・・)
何とジャンプのはずみで俺は由梨ちゃんから抜けられたのだ。
そのまま由梨ちゃんの身体は床に倒れこんでしまった。
そして、俺は幽体に戻っていたのだった。
(由梨ちゃん・・・起き上がんない・・・もしかして・・・由梨ちゃんの意思もどっかに行っちゃったんじゃ・・・?)
そう思いながら俺は空中からしばらく由梨ちゃんを見ていた。
「う・・・う〜ん・・・あれ?私・・・いつの間に寝ていたんだろう?」
突然由梨ちゃんの意識が戻った。
「あれ・・・?さっきまで私写真を見ていたんだったっけなー?」
今の由梨ちゃんの一言によって、あれは本物の由梨ちゃんだと確信した。
どうやら俺が乗り移っていると、その間は寝ているのと同じ状態になるようだ。
俺はこれからの考えがまとまった。由梨ちゃんの周りの人に乗り移って由梨ちゃんから俺のことの記憶を取り戻し、そして由梨ちゃんが他の人に取られちゃいそうで危ない時は、俺が由梨ちゃんに乗り移って他の人に由梨ちゃんを取られないようにする。ということだ。
由梨ちゃんは記憶を失っているために俺のことは忘れてしまっているが、今まであんなに俺に、まるでなつくかのように俺にまとわりつくみたいな感じで付き合っていたから、由梨ちゃんも記憶さえあればそのまま俺と付き合うつもりだったと思う。
それだから・・・まんがいち由梨ちゃんが他の人に取られちゃったあとに俺のことを思い出したら由梨ちゃんがかわいそうだ。
そのためにも、俺が由梨ちゃんを守らなくっては。
そして、誰かに乗り移りながら生活していけば、そのうち元の身体に戻れる方法も見つかるかもしれない。
俺のこれからの生き方は決定した。


<第3話>〜日常の始まり〜


俺が気が付いた頃は、もうとっくに朝だった。
由梨ちゃんの部屋に来ていたまましらないうちに寝てしまっていたようだ。
由梨ちゃんは、まだ部屋で寝ていた。
俺がいるのに気にしていなかったということは、やはり由梨ちゃんからは俺の姿もきっと見えていないのだろう。
今日は学校がある。由梨ちゃんはまだ寝ていたので
(由梨ちゃん、起きないし今のうちに由梨ちゃんの身体使わせてもらおうかな?)
などと思い、俺は由梨ちゃんに乗り移ることにした。
早速由梨ちゃんに重なる。そして、俺は由梨ちゃんに乗り移った。
「ふぅー、やっと幽体を解除できたー」
俺はとりあえず由梨ちゃんが今まで寝ていたベットから起き上がった。
そして、由梨ちゃんの代わりに俺は学校へ行く準備を始めた。
まず、服を着替えようとする。だが・・・
(俺・・・今は由梨ちゃんなんだし・・・俺が着替えるのはマズいよなー・・・)
突然今は女の子になっているということが意識されて、俺は自分では着替えることができなかった。
なので、俺は一旦由梨ちゃんの身体から抜け出した。
着替えは由梨ちゃんにまかせようと思ったからだ。
「あれ?私いつの間にベットから起き上がっていたんだろう?」
由梨ちゃん自身の意思はもう戻ったみたいだ。
由梨ちゃんはやはり俺が乗り移っている間は寝ているのと同じ状態になるみたいだ。
「あ、学校あるし、とりあえず着替えなくっちゃ」
由梨ちゃんは着替え出した。
それをジーッと空中から見つめる俺。
俺は段々ドキドキしてきていた。由梨ちゃんは俺の彼女であるとはいえ、由梨ちゃんの下着姿など1回も見たことがなかったのだ。
(・・・これって・・・もしかして萌えってやつ?)
俺は由梨ちゃんの下着姿に見とれてしまって、すっかり萌えてしまった。
俺はしばらく萌えていたが、いつの間にか由梨ちゃんは着替えを終えていた。
由梨ちゃんはそのまま下の階へ降りていってしまった。
(あ、由梨ちゃ〜ん、待ってよー)
俺も由梨ちゃんを追いかけて下へ行った。

俺は下の階のリビングらしきところへついた。
そこには、由梨ちゃんがいた。1人で朝食を黙々と食べている。
俺はしばらく由梨ちゃんの食事を取っている様子を見ていた。
そして、あっという間に由梨ちゃんは朝食を食べ終えた。
「ごちそうさまー」
由梨ちゃんはその後、再び上の階へ上がって行った。
俺もついて行く。部屋に戻った俺と由梨ちゃん。
由梨ちゃんは、カバンを持ってまた下の階へ行った。
俺も一緒になってついて行く。・・・さっきから行ったり来たり大変だ・・・。
「いってきまーす」
由梨ちゃんは家をあとにした。俺も一緒に家を抜けた。

しばらく由梨ちゃんは歩いていた。その間、由梨ちゃんは歩きながら
「・・・私、昨日何であの写真ばかり見ていたのだろう・・・?」
しばらく呟いていた。由梨ちゃん、記憶は失ったままみたいだが、俺のことを思い出してくれようとしているように俺には思えた。
(由梨ちゃん・・・俺のことちゃんと思い出してくれるかなー?)
だが・・・しばらく呟いていたままで俺のことを思い出す気配はなかった。
結果、由梨ちゃんは呟いていたまま終わった。
「由梨ちゃん!おはよー」
突然誰かが由梨ちゃんにあいさつした。
「・・・真由美ちゃん、おはよー」
俺は由梨ちゃんに声をかけた人に目線を向けた。
そしたら、それは由梨ちゃんの仲がよい友達である
坂田 真由美(さかた まゆみ)ちゃんだった。
(そういえば、由梨ちゃん、元気ない声であいさつを返していたなー・・・)
由梨ちゃんは俺のことが思い出せないせいなのか、写真が気になるせいなのか、元気のない声であいさつを返していた。
(・・・もしかして、これはチャンス!?)
俺は真由美ちゃんに乗り移れば由梨ちゃんと話ができると思い、真由美ちゃんに乗り移ることにした。
真由美ちゃん目掛けて俺は飛び込んだ。
「ああっ・・・・・」
真由美ちゃんは俺が飛び込んだ瞬間、突然声をあげた。
「真由美ちゃん?急にどうしたの?」
由梨ちゃんが真由美ちゃんに話し掛けたが、その時にはもう真由美ちゃんの身体は俺の意思で動くようになっていた。
「由梨ちゃん・・・」
俺は由梨ちゃんに話が届くことの確認で名前を呼んでみた。
「なーに?真由美ちゃん」
ちゃんと反応があった。でも、真由美ちゃんって由梨ちゃんは言ったから、やはり由梨ちゃんから見れば今は、中身は俺でも真由美ちゃん以外の何者でもないだろう。
そこで、俺は真由美ちゃんの振りをしながら由梨ちゃんに俺のことを思い出させるという作戦にでた。
「ねえ、由梨ちゃん。ゆうちゃんって知ってるよねー・・・?」
いきなり俺自身のことを聞いてみた。だが、由梨ちゃんの反応はというと、
「え?ゆうちゃん・・・ごめん、誰だったかな?」
・・・やはり由梨ちゃんは記憶を失っているようだ。
「由梨ちゃん、本当にゆうちゃんって誰だかわからないの?」
「う〜ん・・・確かに私はそのゆうちゃんって名前は始めて聞いたよ?」
・・・ストレートに聞いただけじゃあ記憶が戻らないみたいだ。
「由梨ちゃんさー、この間の日曜日事故に遭いそうになったんだって?」
「え?何で真由美ちゃんがそのこと知ってるの?」
・・・理由が思いつかない。いきなり俺だと言ってもわからないだろうし・・・。
「そ・・・それはね、それは!どうでもいいとして、ともかく事故に遭いそうになったんでしょ?」
「え・・・そ、そうだねー」
「由梨ちゃんは何で事故に遭わずにすんだのかな?」
「う〜ん、あんまりよく覚えていないんだけど」
「誰かにかばってもらったりされなかった?」
俺は由梨ちゃんに思い出して欲しいという気持ちを込めて聞いてみた。
由梨ちゃんの反応はというと・・・
「・・・誰かに助けられたような気はするけど・・・誰だろう?思い出せない・・・」
やはり由梨ちゃんの記憶は戻らなかった。
(・・・もしかして・・・ずっと記憶が戻らないのでは・・・!?)
俺はかなり不安な気持ちになってしまった。
「真由美ちゃん?急に黙り込んじゃってどうしたの?何だか顔色が悪いよ?」
「え・・・ああ、別に何でもないよ」
「そう?具合とか悪いんじゃない?」
「だいじょうぶだよ・・・」
しいていうなら、心の病というべきだろうか?
しかし、記憶を思い出してくれない限りそのことを由梨に言っても意味ないだろう・・・。
俺のこれからの日常は、恐らく元の身体に戻ることより、誰かに乗り移って由梨ちゃんの記憶を戻すということが先決になるだろう。
こうして俺のこれからの日常は、由梨ちゃんの記憶を戻すために始まったのだった・・・。


<第4話>〜由梨ちゃんの想い〜


俺は今日はしばらく真由美ちゃんの身体を借りることにした。
要するに、1日中真由美ちゃんという1人の女の子として、由梨ちゃんに接することになる。
いつの間にか学校に着いていた。そして、下駄箱まで歩く。
下駄箱に着いた。俺は真由美ちゃんの下駄箱はちょうど場所を知っていたので、戸惑うことなく上履きに履き替えられたが・・・
「由梨ちゃん?どうしたの?」
由梨ちゃんはしばらく上履きに履き替えずにしばらく何処かを見ていた。
俺が目線で由梨ちゃんの見ているところを確認してみると・・・
由梨ちゃんは俺、今の姿の俺ではなく、祐一としての俺の下駄箱を見ていた。
「由梨ちゃん、あの祐一って人がどうかしたの?」
もしかして記憶が戻るんじゃ?と思って聞いてみたが
「・・・ううん、真由美ちゃん。別に何でもないの」
・・・結局反応はそれだけで、記憶は戻らなかった。


俺と由梨ちゃんは教室に着いた。俺が今乗り移ってる真由美ちゃんは、ちょうど由梨ちゃんと同じクラスだ。
・・・元々本来の俺も同じクラスだけど・・・。
俺は由梨ちゃんと共に教室に入った。俺は今は真由美ちゃんになっているのだから、当然真由美ちゃんの席に座ることになる。なので、俺は真由美ちゃんの席に座ったのだが・・・
「・・・・・・・・・・」
由梨ちゃんはまたまた無言で何処かを見ている。
目線をたどってみると・・・俺、祐一の席を見ていた。
「由梨ちゃん。何処見てるの?」
俺は何処を見ているか知っているのにわざと聞いてみた。
「え?・・・ううん、別に何でもないよ」
・・・反応はさっきの下駄箱の時とほとんど同じだった。
由梨ちゃんはそのまま席についた。由梨ちゃんの席は、祐一としての俺の後ろだ。
いつもなら後ろに由梨ちゃんがいるのだが、今は真由美ちゃんになっているため、後ろは由梨ちゃんではなかった。だけど、俺はしばらく由梨ちゃんの様子を伺っていた。
由梨ちゃんは後ろから俺の席をしばらく見つめている。
そして、段々表情が険しくなってきたような気がした。
「・・・何か大切な思い出・・・思い出せない・・・」
俺は由梨ちゃんが小声でため息をつくかのような感じで言ったその言葉を聞き取ることができた。
(やはり由梨ちゃん・・・記憶失っているからしょうがないけど・・・俺のこと思い出そうとしてるみたい)
俺は少し安心して、さっきの不安の気持ちが少し小さくなったようだ。

しばらく後、先生が教室に入ってきてHR(ホームルーム)が始まり、その後は授業となった。授業中、いつもなら由梨ちゃんは真面目に授業に集中しているのに、今日は違った。ずっとため息をつきながら、窓から空を眺めたり、俺(祐一)の席を眺めたりとしていた。
まるで恋する年頃の女の子みたいだ。・・・と言っても、実際恋の問題かもしれないけど・・・。
俺は授業中ずっと由梨ちゃんを気にして見ていたが、やはりずっとため息をつきながら空を眺めたり、俺(祐一)の席を眺めたりの繰り返しだった。

そして3時間目。体育の時間。俺は今は真由美ちゃんになっている。
つまり女の子になっている。・・・女の子の体育の時の姿に自分がなると言うことに少し抵抗を感じながらも、俺は体育着姿になった。
由梨ちゃんももう体育着になっていた。
「・・・由梨ちゃん、校庭出よー」
「うん・・・・・」
由梨ちゃんはいつもより少し暗くなっていた。
でも、今まで自分の彼氏だった人の記憶を思い出せないでいるのだから、無理はないだろうけど・・・。
俺と由梨ちゃんは校庭に出た。そして、あっという間に体育の時間が始まった。
今日の体育は女子はバレーボール。男子はサッカーだが・・・
俺は今真由美ちゃんになっているためにバレーボールをやることになる。
本当はサッカーをやりたかったが・・・仕方ないかなー?
チーム編成は出席番号順に編成するという形であった。
俺と由梨ちゃんは同じチームになった。
「真由美ちゃん!がんばろう!!」
「え・・・う、うん、そうだね」
今日は、理由は知ってるとはいえ由梨ちゃんはずっと元気がなかったが、急に元気な口調で言われたので俺は少し戸惑いながらも返事を返した。
実は由梨ちゃん、バレーボールが大好きなのである。
・・・バレーボールかー。そういえばあの時は、確か由梨ちゃんが足をくじいて・・・
「真由美ちゃん!早く守備について!もう始まるよ!」
「え・・・う、うん」
審判をやっている生徒の笛の音でゲームは始まった。
しばらく接戦が続いてなかなかいい勝負であった。
そして、あと1回決まればこっちが勝ちという状態となった。
最後に由梨ちゃんが決めようとしてサーブをした。かなりすごいサーブが入って、あっさりと勝敗が決まった。
「痛たたた・・・・・」
「由梨ちゃん?どうしたの?」
「ちょっと最後に無理しちゃって足をくじいちゃったみたい・・・」
「だいじょうぶ?保健室行く?」
「・・・うん、そうするよ」
「由梨ちゃん、一緒について行くよ」
「・・・ありがとう」
俺は由梨ちゃんを保健室まで連れて行くことにした。
先生に事情を話して、俺と由梨ちゃんは保健室を目指した。
だが、途中で由梨ちゃんは
「いたっ・・・足がもう動かない・・・痛くて動かせない・・・」
突然由梨ちゃんの足の痛みが増したようだった。
由梨ちゃんは足の痛みによってその場から動けなくなってしまっていた。
「大丈夫?」
「・・・ちょっとダメみたい」
・・・あの時と同じだ。あの時も由梨ちゃんは途中で動けなくなって・・・
「ごめん、もう迷惑かけちゃうから、真由美ちゃん先に戻ってていいよ・・・」
「そんな訳にはいかないよ!・・・由梨ちゃん足動かせないのに・・・」
俺は少し強い口調で言った。
「由梨ちゃん今動けないんだから!!俺がおぶってでも保健室に連れて行く!」
俺はそう言って由梨ちゃんをおぶった。
そしてそのまま保健室に向う。
「・・・真由美ちゃん今俺って言った・・・?」
由梨ちゃんは小さい声で呟いたが、俺には聞こえなかった。
「由梨ちゃん!足痛いだろうけど・・・俺がついてるから!・・・安心して」
「・・・・・・・・・・ゆうちゃん!?」
その時、由梨ちゃんは今真由美ちゃんである俺に向って『ゆうちゃん』と確かに言ってきていた。
しかし・・・俺はその言葉を聞き逃してしまっていたのだった。


<第5話>〜思い出〜


由梨ちゃんをおぶり続けて数分後。俺はやっと保健室に着いた。
中に入ったが・・・保健の先生はいなかった。
とりあえず、由梨ちゃんをそーっとベットに寝かせる。
「・・・由梨ちゃん、足まだ動かせない?」
「・・・うん、まだ痛むみたい・・・」
由梨ちゃんはその後しばらく安静にしていたのだが、突然
「ねえ・・・真由美ちゃん」
俺に呼びかけてきた。
「「何?由梨ちゃん」
「・・・私ね、確か前にもね、バレーボールの時に足をくじいて保健室におぶられて運ばれたことがあったの・・・」
・・・それって、あの時のこと!?
「あれはまだ私が高校生になる前、中学生の時のことだった・・・何故だか誰だったか覚えていないんだけど・・・私のことを必至に励ましながら私をおぶって保健室まで運んでくれた人がいたの・・・」
やはりあの時のことみたいだ・・・。
「・・・誰だったんだろう?・・・思い出せないけど・・・私のすごく大事な人だった気がするの・・・」
やはりあの時のこと・・・。思えばあれは過去にさかのぼる。
中学生の時、由梨ちゃんがバレーで足をくじいて、俺が由梨ちゃんをおぶりながら保健室まで運んだ・・・。
結果的にその出来事がきっかけで俺と由梨ちゃんはひたしくなり・・・ついには彼氏彼女の関係になった。
あの時、俺は偶然保健委員だったから由梨ちゃんを保健室に連れて行ったのだが・・・
あの出来事がなければ由梨ちゃんは俺の彼女ではなかったかもしれない・・・。
でも、由梨ちゃんが自らその思い出を話し出したと言うことは・・・
もしかして、由梨ちゃんの記憶は戻りかけてきている?
「由梨ちゃん、そのおぶってくれた人って、ゆうちゃんって人なんじゃない?」
俺は今は真由美ちゃんだが、本来の祐一と同じような気持ちで由梨ちゃんに聞いてみた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゆうちゃん・・・私の大切な・・・」
だが、由梨ちゃんの発言はそこで止まってしまった。
どうやらまだ完全には記憶が戻らなかったらしい。
「・・・由梨ちゃん、足はもう大丈夫なの・・・?」
「え・・・もう少し休めば何とか・・・」
「・・・ゆっくりよくなるまで休むといいよ。俺も側にいてあげるから・・・」
「・・・ありがとう・・・・・・・ゆうちゃん・・・」
由梨ちゃんはまたまた呟いた。今度はちゃんと俺の耳にも入った。
だが、俺はその言葉が聞こえなかった振りをした。
恐らくまだ完全には記憶が戻っていないだろうと思ったからかもしれない。
由梨ちゃんはしばらく保健室で休み、俺は由梨ちゃんの側にいてあげた。

(う〜ん・・・あれ?)
俺は何だか記憶が途切れてしまっているような気がした。
由梨ちゃんの側にいてからのあとの記憶が全然ない。
理由はすぐにわかった。俺は由梨ちゃんの側にいるまま、由梨ちゃんの胸元に寄りかかる感じにして眠ってしまっていたのだ。
由梨ちゃんをみてみると・・・由梨ちゃんはぐっすり眠っていた。
「真由美さん、目は覚めた?」
突然誰かから声をかけられた。声の方向を振り向くと、そこにはいつの間にか保健の先生がいた。
「あ・・・勝手に寝ちゃって・・・すみませんでした・・・」
「別にいいのよ。事情は体育の先生から聞きました。それに・・・真由美さんは由梨ちゃんをおぶってきたから一緒に疲れちゃって寝ちゃったのもしょうがないことよ」
「・・・先生、何で由梨ちゃんをおぶってきたことを知っているの・・・?」
「それはねー・・・ほら、よく聞いてみて」
(・・・私を・・・わざわざおぶってきてくれて・・・ありがとう・・・)
由梨ちゃんは寝言を言っていた。
「ね?由梨ちゃん、さっきからこの寝言ばかり言ってたの」
「・・・そうだったんだー」
「起きるまでゆっくり寝かせといてあげましょ」
「・・・うん、そうですね」
俺は保健の先生の言ったことを素直に受け入れた。

しばらくして俺は教室に戻った。
いつの間にか今は昼休みだった。俺はかなりの間眠ってしまっていたようだ。
教室に戻り、俺は真由美ちゃんの席で考え事をしていた。
(・・・確かにさっき由梨ちゃんは今真由美ちゃんである俺に『ゆうちゃん』って言ったよなー・・・?)
俺はそのことばかり考えていた。
(今はまだ戻らないみたいだけど・・・きっといつか・・・きっと記憶が戻るさ)
俺は自分のその言葉と由梨ちゃん自身を信じ始めた。
そしたら何だか気分が楽になった。でも・・・俺はしばらくこれからは真由美ちゃんの身体を借りていることになるかな・・・?
真由美ちゃんには悪いけど、今は俺は真由美ちゃんでいるままの方がいいみたいだ。
実際にそれで由梨ちゃんが、記憶が戻っていないのにも関わらず『ゆうちゃん』って言葉を発してくれたんだから・・・。
そうだよな。この調子ならきっと記憶が戻るさ。絶対。
自分も由梨ちゃん自身も信じることが大事だろう・・・。
結果的に言えば、まだ記憶は戻らなかったが、これからの結論としては、俺はしばらく真由美ちゃんの身体を借りて生きることにした。
そして・・・必ずいつかは記憶を戻してみせるという決心を自分の胸に誓った・・・。由梨ちゃんの想いを信じて。





☆あとがき☆


どうも!T・Hです。
今回はこのような小説を作ってしまいました。
今までの私の作った話とは少し雰囲気が違うかもしれません。
でも、私自身はこういう話は好きです。
では、本編のことをちょこっと・・・。
今回は5話構成で作っていこうと思います。
一応他の作品も作っていますので、いつも通りに10話構成だと投稿するのが遅くなってしまいそうなので、5話構成にしました。
それにこの方があとの展開も気になるかもしれませんし?
あ、本編では言っていませんでしたが、祐一君たちは高校生で3年生です。(ようするに高3です、はい。)
今回は初めということで、やはり由梨ちゃんの記憶は戻りませんでした。
果たして、由梨ちゃんはいつになったら祐一のことを完全に思い出すのでしょうか?
そして、祐一は元の身体を取り戻せるのだろうか?
・・・でも、しばらくは真由美ちゃんとして生きるみたいですね。
本当の真由美ちゃんの意思は、当分眠ったままの状態になるだろうけど、本当に祐一はそれでいいのでしょうかねー?
祐一「まあ気にすんなよ!記憶が戻せそうならそんなことどうだっていいだろ?」
・・・と祐一君は言っていたようです。
祐一「あんま気になるんだったら作者が上手く設定しろよなー!」
・・・祐一君・・・そのお言葉はちょいと厳しいっすよー・・・。
では。少し無責任ながらもT・Hでした〜!今回はこの辺で。
祐一「この作者、本当に無責任やな・・・」

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