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作:樹遠零



・・・愛するもの・・・ もし、貴方の愛する者の命が危険に曝された時 貴方は、決断出来るでしょうか? ・・・自分の大切な一つを捧げ、彼女を救う事を・・・ そして、捧げられるでしょうか? ・・・貴方と彼女の絆を・・・ そう・・・この指輪は、それを貴方に問い掛けます ・・・真実の愛・・・ それが本当に存在するのかを確かめる為に さあ・・・貴方は・・・捧げられますか?

 薄暗い部屋・・・狭き部屋。  そこに一つの机を挟み、向かい合う二人の人物。  ・・・男性と女性・・・  香の焚かれたその部屋に、二人の会話のみが響きつづける。 「僕は・・・ライナから逃げたんです」  男性・・・年のころは16位であろうか?  多分に少年としての面影を残した、その人物が言葉を紡ぐ。 「逃げた・・・とは?」  女性・・・外見からでは年齢の判別のつかぬ、神秘的な美しさを秘めた女 性が、少年の言葉を受ける。 「ライナのことは好きですし、愛していると言っても良いと思っています。  でも、ライナの求める理想の僕の姿から、逃げたんです」 「・・・自分がそれに答えられないから?」  女性が呟き、少年が頭を垂れる。 「はい・・・」 「彼女の理想の人物になることは出来ない。  だけど、彼女はそれを求め、尽くしてくれる。  ・・・だから、辛い、苦しい・・・と?」 「・・・はい」 「そんな彼女を裏切っているような気がして、辛いのね?」 「・・・は・・・い」  少年が微かに嗚咽しているのが分かる・・・  その肩は震え、僅かに涙が頬を濡らして行く。 「そんなだから・・・僕・・・は、ライナに・・・捨てられるんです」  少年は机に額を摩り付けるように俯き、机の上を濡らして行く。 「・・・私では、貴方の悩みを救うことは出来ない。  だから、一つだけ貴方に良いものをあげる」  ことり・・・  言葉と共に机の上に何かが置かれる。  少年は顔を上げ、その開かれた箱の中身を見、そして呟く。 「指・・・輪?」 「そう・・・指輪よ。  魔力の付加された、古のカースアイテム」  カース・・・「呪い」の言葉に、少年は過敏に反応する。 「呪い・・・!?」 「そう・・・呪いの指輪。  この指輪は、持ち主の願いを一つだけ叶えてくれる。  ・・・持ち主の愛する人を救う為の願いをね」 「愛する人の為・・・?」 「そう、そして願いを叶えるために指輪は砕け、同時に貴方から大切なもの 一つを奪って行くの。  その一つとは、貴方の愛する人との絆・・・」 「つまり・・・使ったら、その人とは・・・」 「えぇ・・・決して結ばれることは叶わなくなるわ。  ・・・それがこの指輪の「呪い」だから・・・」  最後まで話を聞き、少年の心に戸惑いの表情が生まれる。 「これを・・・僕に?」 「持って行くも、行かないも、貴方の自由。  使う場所も、使う時も、貴方自身が決め、決断しなさい。  ・・・誰も強制はしないわ」  少年は暫くの間、黙っていたが、意を決したように指輪をその手で掴む。  そして、目の前の女性と視線を合わせないようにしながら、背後の出口へ と逃げるように歩いて行く。 「・・・ありがとうございました」  少年はそう呟き、最後まで振り向かずに去っていった。  ・・・それ故に少年は気付かなかった・・・  その女性が、少年を見つめて、小さく微笑んでいた事を・・・
「・・・次の依頼が終わったら話したい事があるわ」  ・・・昨日の朝、ライナはそう言って、宿を出ていった。  「遺跡」へと進入する為の装備調達・・・名目はそうなのだろうが、僕に はライナが出ていった気持ちは分かる。  僕と顔を合わせているのが辛かったから。  だから、ライナは逃げるように宿を飛び出していった。  彼女の話・・・恐らくはパーティーを解散し、もう二度と合わない。  ・・・そう言った内容だろう。  その理由も、訳も、良く分かっている。  僕が、彼女の理想とする人になれないから。  僕が、このままでは彼女の足手まといになる事が分かってしまったから。  そして、彼女の国の掟の為・・・  伴侶となるべき人物以外とは旅を共にしてはならぬ。  男は女を守り、女は男を補佐せよ・・・  魔道師で、ライナに守られてばかりの僕では、その掟、そして同じく彼女 の理想の人物には程遠い。  ・・・だから、これで終わり。  ライナへのこの感情も、今までの記憶も、全て捨てなくてはならない・・・  何となく、手元の指輪へと視線を落とす。  やっぱり、ライナが居なくなったら、愛する人なんて居ないよ・・・  ・・・無駄になっちゃうね・・・これ。  ふと、目に涙が浮かび、慌ててそれを拭う。  ライナは男が涙を流す事を良しとしない。  軟弱だ、弱みを見せるな、と、僕にいつも言っていた。  だけど・・・それも、今日で終わり・・・
「ミィ〜ド!!先に行くわよ」  ライナが遅れ気味の僕に声をあげる。  僕より頭一つ文大きな身長、細身ながら無駄の無い筋肉のついた身体。  美しい長髪、そして見る物を魅了させるその美貌・・・  ・・・最初から釣り合わないのは分かってた。  だから、彼女が僕をパートナーに選んだ事、そして今まで共に冒険を続け ていた事が不思議だった。 「待ってよ、すぐ行くから!!」  もう、1年になるだろうか?  ライナが遅れる僕を急かし、僕がライナを追いかける。  そんな、姉弟のような関係も・・・ 「ほらっ、大した仕事じゃないんだからね。  目的の物を手に入れて、とっとと帰るわよ」  最初から僕はライナに、ほのかな恋愛感情を抱いていた。  そして、何度も聞かされた「彼女の理想」に届くように努力した。  ・・・でも、無駄だった・・・彼女の理想は、僕には遠すぎた。 「うん・・・分かってる」  目の前に「遺跡」の入り口が口を開けている。  僕は、「明かり」の魔法を唱えながら、先行するライナの後ろを小走りで 付いていった。
「ふ・・・ん?  何か、罠もないし、大した事無い依頼だったわね」 「うん、出会ったモンスターも、棲みついた奴ばっかりだったしね」  ライナの不機嫌そうな言葉に、同意しながら考える。  ・・・宝物庫の一番奥に立って、つくづく思う。  僕らがここに来るまでに出会ったのは、後からここに棲みついたであろう と思われるモンスターのみで、遺跡の番人や、トラップなどには一切出会っ ていない。  こういう未だ踏み荒らされていない遺跡で、そういう事はまず有り得ない。  だから、ライナも不機嫌であるし、僕も、最悪の何かを考え、緊張の糸を 切る事が出来ない。 「まあ、いいわ。  取りあえず、考えてても仕方ないから、用を済ませましょう」  ライナが、祭壇の上の女神像に手をかけてそう呟く。  ・・・そう、この女神像が今回の依頼の目的。  これを持ち帰る事・・・それが依頼であり、その他の宝物は僕らが自由に していい事になっている。 「・・・分かったよ、僕は袋を用意するから・・・」  周りの宝物を入れる袋を用意する為に、荷物を降ろす。 「ん、お願・・・えぇっ?」  僕に向かって肯き返そうとしたライナの言葉が驚愕のそれに変わる。  慌てて視線を上に上げると、ライナが手の中でゆっくりと崩れていく女神 像を呆然と眺めている。 「・・・それ、偽者っ!?」  どっがあぁぁぁぁぁん!!  僕が叫ぶのと、その音は、全く同時だった。  四方の部屋の隅で壁に半ば埋め込まれた形で佇んでいた石像が、一斉に生 命を持ち、壁を崩しながらゆっくりと動き出している。 「出口を・・・しまった!!」  ライナが吐き捨てるように言う。  ゴーレムの動きに合わせ、僕らの入って来た入り口は岩に塞がれてしまっ ている。  しかし、ライナはすぐさま周りを見渡し、別方向に延びるもう一つの通路 に向かって駆け出す。 「横道か・・・ミド、行くよ!!」 「うんっ」  同意し、僕はありったけの「火球」の呪文を、横道への進行方向に立ちふ さがるゴーレムに向かって、射出する。  ゴーレムは「火球」に怯み、僅かに体勢を崩す。 「・・・よしっ!!」  同時に、ライナが腰の剣を抜き放ち、ゴーレムの目の前まで一気に接近し、 ゴーレムの膝裏を剣で強打する。  かくん・・・  そんな感じでゴーレムが膝を降り、さらにライナはゴーレムのその膝を足 場に、高く跳躍する。  そして、剣をゴーレムの首筋に叩きつけ、そのままの勢いで、ゴーレムの 後頭部を蹴って、後方に着地する。  ごごうぅぅぅ・・・ん  大きな音を立て、そのゴーレムが前のめりに倒れる。  僕は、起き上がろうともがくゴーレムの横を一気に駆け抜け、ライナに引 き続いて通路に飛び込む。  ごがっ!!  僕が通路に飛び込んで一呼吸もしないうちに、背後で何かが砕けたような 音が響く。  振り向くと、ゴーレムたちがその巨体で持って、通路を破壊しながら、ゆっ くりと前進しようともがいている。 「・・・これなら、暫くは時間が稼げるね・・・」  そう考え、安堵のあまり頬を緩ませながら、前を走るライナに声をかける。 「駄目・・・嵌められたわ」  しかし、ライナは吐き捨てるように呟き、その場に留まって剣を構える。  ・・・ライナの言葉の理由は僕にもすぐにわかった。  前方の通路の影から、後方のよりは二周り小さなゴーレムが進み出てきた。  鈍く光る金属製のゴーレム・・・鉄じゃない・・・あれは? 「仕方ないわね・・・叩き潰すわよ!!」  ライナの言葉に答え、嫌な予感を感じながらも、再度「火球」の呪文を発 動する。  ライナはそれを確認し、一気にゴーレムへと接近する。  ライナに先行する「火球」は、一斉にゴーレムに襲い掛かり、そして炸裂 する。  ぴきぃぃぃぃ・・・ん!!  しかし、聞こえてきたのは爆裂音ではなく、甲高い金属音だった。  ・・・それを認識したとき、目の前のゴーレムの身体を構成する金属の正 体に思い当たる。  そして、同時に、それが最悪の事態である事を認識し、思わず叫ぶ。 「ライナ!!  そのゴーレム、魔法が効かない!!」  ミスリル・・・魔法を帯びた金属であり、あらゆる魔法を遮断し、そして 軽く、強靭な金属。  これにて作成されたゴーレムは、まさに最強であり、竜族ですらたった一 体で打ち滅ぼすことが可能だという。  ・・・そんなゴーレムを相手にしたら・・・幾らライナでも・・・ 「ライナぁ!!」  ・・・ごっ!!  再度、叫んだ僕の声にあわせ、鈍い音が響く。  同時に、ライナの身体が僕のすぐ傍まで吹き飛んでくる。  ・・・ライナは数度痙攣し、そして力尽きたように動かなくなった・・・
「うぁっ・・・くぅ!!」  うめき声と共に、ライナが目を覚ます。  血を吐き、辛そうに顔をしかめてはいるが、息を吹き返したことには違い ない。  僕は、「治癒」の魔法が間に合ったこと、効果があったことに安堵する。 「ミ・・・ド・・・ここは?」 「すぐに「治癒」が効いて楽になるから黙ってて」  ライナが辛そうに言葉を発するのを、制して「治癒」ともう一つの魔法に 専念する。  ・・・しかし、ライナはすぐに「それ」に気付いたようで、慌てて身体を 起こすと、声を張り上げる。 「これは・・・「障壁」!?  それに「治癒」・・・ミド、なんて無茶を!!」  ライナが叫び、僕はそのライナの生命力に驚きながらも、言葉を返す。 「ライナは死にかけてたし、動かしてる時間も無かった。  これしか無かったんだ・・・」  僕の中から急速に消えて行く「魔力」に汗を流しながら周りを見渡す。  すぐ目の前にミスリルのゴーレム、後方に宝物庫に居たゴーレム・・・通 路の前と後ろをゴーレムが囲み、目の前にある不可視の壁・・・「障壁」を 殴りつづけている。  僕は、「障壁」の展開と、ライナの「治癒」それを平行して行っている。  ・・・それがどう言うことかは、ライナも、僕もよく分かっている。  平行して二つの魔法を行使する事・・・それすらも通常以上に多大なる魔 力を消費することに加え、「障壁」の魔法は、「壁」へと加えられる衝撃に 比例して、無尽蔵に術者の「魔力」を吸い取って行く。  これを、維持しつづける・・・冗談ではなく、命に関わる行為だ。  ・・・でも、これをやめてしまえばライナが死ぬ・・・  そう思うと、やめるわけには行かなかった。  ライナを失うことが、僕には耐えられないから・・・だから・・・ 「ミド・・・やめて・・・」  ライナが涙目になっているのが分かる。  普段は気丈なライナが僕の為に流す涙・・・それが何となく嬉しかった。  自分が、ライナを守っているという事実が嬉しかった。 「大丈夫・・・ライナだけは・・・る・・・から」 「ミド?・・・ミ・・・」  自分の発しているはずの声が、一気に小さくなる。  同時に、ライナの声も遠くなっていき、視界がゆっくりと暗くなってくる。  ・・・駄目・・・かな?  そう考えたところで、自分の指にはめられた指輪に気付く。 (この指輪は、持ち主の願いを一つだけ叶えてくれる。  ・・・持ち主の愛する人を救う為の願いをね)  そうだ・・・これを使えば・・・  ライナだけでも・・・ (貴方から大切なもの一つを奪って行くの)  ・・・関係無い。  ライナが・・・ライナが助かればそれでいい。  僕はすべてを失っても良い・・・  だからお願い・・・ライナを・・・助けて・・・
「ミド・・・」  誰かの声が脳裏に響く。  僅かに開いた瞳に、ライナの姿が写り、僕はライナに微笑みかえす。  ・・・いや、微笑み返そうとしたけど、身体が動かなかった。  僅かに口元を動かすのが精一杯で、それ以上は身体が言う事を聞いてくれ ない。 「ミド・・・」  再びライナが僕を呼び、ゆっくりと僕に近づいてくる。  そしてゆっくりと顔が近づいてきて・・・そして、唇が触れ合う。  え・・・え・・・えぇ?  ライナが・・・何、これぇ?  僕はライナの信じられない行動に混乱するが、ライナはそんな僕の反応を 楽しみながらキスを続け、たっぷりと時間が経過した後に、ゆっくりと唇を 放す。 「はふぅ・・・」  酸欠で大きく喘いでいる僕の隣で、ライナは大きく溜め息を付き、そして さらなる行動に出る。  ライナは僕の胸に手を伸ばして、軽く揉みしだく。  ・・・むにぃ・・・  と、そんな音がしたような気がして、僕の胸がたわみ、そしてその感触が 僕の身体を突き抜ける。  ・・・快感とも、痛みともつかぬその感触に、刹那の間、我を忘れそうに なるが、次の瞬間には頭の中に大きな疑問が浮かび、動かぬ首を傾げる。  ・・・何?これ・・・  そう、それが最初の感想・・・自分にあるはずの無い器官からの刺激・・・ 男である僕には無いはずの器官・・・胸、乳房の感触。  混乱する僕を尻目に、ライナは胸を揉みしだく手を止め、僕の服を脱がし にかかる。  ・・・駄目!!  それだけは駄目!!  そう叫ぼうと思っても、僕の口はその言葉を発してはくれない。  僕の身体は、先程までの快感に流されるまま、溜め息とも付かぬ息を吐き 続け、更なる刺激を待ち続けている。  と、そこで僕の上着が全て脱がされた。  当然、その姿はライナにも見られているはずで、僕は羞恥に顔を紅く染め るが、次の瞬間に目に入ってきたその光景に、息を呑む。  白い肌に、僅かばかりでは有るが隆起し、その存在を誇示している器官。  それは、先程までの僕の疑問を吹き飛ばしてしまうその現実。  ・・・胸がある・・・  何で・・・男の僕に何で胸があるの?  もしかして・・・これは、女性の身体・・・  ふと、そんな考えが僕の頭を通り過ぎる。  そして、そんな僕の隣で、隣のライナが上着を脱ぎ、その豊かな乳房を・・・ いや、逞しい胸板を僕の目の前に疲労する。  ・・・ライナが・・・男?  しかし、ライナはそんな僕の考えなどお構い無しのようで、素っ裸になっ た僕の身体に覆い被さる。  と、そこで突然にライナの手が止る。  ・・・え?やめるの?  そう考え、ライナの方に視線を移すが、すぐに今、自分が何を考えたかに 驚き、顔をさらに紅く染める。  ・・・女になっても、夢でもいい・・・  ライナが僕を求め、そして僕がライナを受け入れている。  だから、止めて欲しくない・・・最後まで・・・一つになりたい・・・  そう、それが僕の本当の願い、このまま別れてしまうのなら、ただ一つ、 思い出が欲しい・・・僕がライナを愛していたと言う、その証明を。  そして、その想いに答えるように僕の腰に手が回され、ライナと向かい合 うように抱きかかえられる。  そして、ライナと僕が互いに抱き合うような形になり、そこで時が止まる。  しかし、時は動き出さずに、暫く二人はそのままで固まる。  僕は、何時まで経ってもその先の来ない事に、少しばかりの苛立ちを感じ、 視線をライナの顔へと移動させ、そしてライナの気持ちに気が付いた。  ・・・その時、ライナは必死に何かと戦って居るみたいだった。  多分、無理やりにこうなってしまった事。  僕の同意を得られずに最後まで行こうとしている事。  そして、僕を抱きたいと衝動を押えられない事に、ライナは躊躇し、悩ん でいるみたいだった。  そして、そんなライナの気持ちが、僕には嬉しかった。  まだ、僕を大事に考えていてくれた事が嬉しかった。  だから、必死で動かない口を動かし、何とか言葉を紡いだ。 「い・・・・いよ・・・」  怖いけど・・・嫌だけど・・・ライナなら・・・良いよ・・・  それは、辛うじて発したに過ぎない言葉だったが、それでも十分にライナ には伝わったみたいだった。  ライナは弾けるように僕の方を見つめ、そして僕との視線が合うと、微笑 みながらゆっくりと肯き、そして行動に出た。  ぷちん・・・  同時に、僕の頭の中に、何かが破れたような音が鳴り響き、そして自分が 「女」になった事を認識する。  そして、僕はそのままゆっくりと意識を失っていった。  ・・・最後に望みの叶った、その喜びに包まれながら・・・
 ・・・木の天井・・・見慣れた天井・・・  僕らの・・・泊まっていた宿の・・・天井。  意識が覚醒し、天井を見上げる僕の目に見なれた天井が映る。  柔らかいベットの感触・・・窓から入る、頬を撫でてゆく風邪の感触。  ・・・そうか、僕、助かったのか・・・ 「そう・・・助かったのよ。  おはよう・・・ミド」  すぐ側からライナの声。 「あ・・・ライナも無事だったんだ・・・」 「えぇ・・・ミドのおかげでね」 「あはっ、良かった」  ・・・うん、本当に良かった・・・ 「・・・どうしたの?」  ふと、視線を移すと、ライナの顔が真っ赤になっているのに気付き、疑問 をそのまま、ライナに投げる。 「あ・・・いや、何でもない・・・よ」 「・・・そぅ?」  小さく首を傾げて、納得出来ないまでも引き下がる。  すると、ライナはさらに顔を真っ赤にし、俯いてしまう。 「変なの・・・?  んでさ、ライナ・・・何で僕たち助・・・かった・・・の・・・」  身体を起こし、ライナに向き直った所で、目に飛び込んで来たライナの姿 に言葉を失う。 「・・・な、何・・・それ?」 「あ・・・あはは・・・」  ・・・胸が無いよ・・・それと・・・それ・・・と・・・  何とか喋ろうと口を開くが、言葉にする事が出来ない。  まず最初に、ライナの大きかった胸が無くなっていた。  そして、視線を下に降ろす僕の視界に「それ」が飛び込んでくる。  ・・・力一杯屹立した男の象徴・・・  「それ」は服の上からでも十二分に分かるほどに、その存在感を誇示して いた。  ・・・あ・・・あぅ・・・ライナが・・・男?  思わず、目の前が暗くなり、気を失いそうになる。  しかし、次の瞬間にとある事態を思いだし、何とか踏み留まる。 「あ・・・もしかし・・・て」  思い付いた可能性を確かめる為に、自分の上着の中を覗き込んで見る。  ・・・と、そこにあった・・・  小さくその存在を示している女性の・・・胸が。 「・・・あ、あるぅ・・・」  思わず涙目になりながら、その場で固まる。  暫く放心した後、恐る恐る自分の股間へと手を伸ばし、そして絶望する。  ・・・やっぱり・・・ないぃ・・・  女の子・・・なの?僕・・・ 「ラ・・・ライナぁ・・・」 「・・・はっ!!  あ・・・あぁ・・・何?」  放心していたのか、僕の言葉で現実に帰ってきたライナが慌てて問い返し てくる。 「あの・・・あの、何で僕が女の子なの・・・それにライナも・・・」 「ええと・・・あの遺跡でミドが気を失った後にね・・・その・・・」  ・・・遺跡で・・・僕が気を失った後・・・?  何か大切な物を忘れているような気がして、思わず考え込む。  ・・・そして、気付いた。  ぼんっ!!!  そんな音を立てて、僕の顔が一気に真っ赤になる。 「あ・・・あの・・・もしかして・・・  遺跡で・・・ライナ・・・僕の事を・・・もしかして・・・」  混乱のあまり、言葉が言葉にならない。  しかし、それでもライナには十分に通じたようで、小さく頭を垂れる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」  ・・・・・・ふえぇぇぇぇっ!!  忘れかけていた「それ」が、半ば夢だと思っていた「それ」が、現実の物 であると指摘され、頭の中が混乱し、ごちゃごちゃになる。  と、同時に、ライナの顔を、ライナの「それ」を見ている事が出来なくな り、さらに顔を真っ赤にしてライナとは反対のに顔を向ける。 「ごめん・・・寝てるミドを見てたら我慢出来なくなって・・・」  ライナが背後でぼそりと呟く。  その言葉で、夢の中の「それ」がさらに鮮明になって僕の脳裏に映り込む。 「良い・・・僕が「いいよ」って言ったんだし」 「・・・分かった」  暫くそのまま二人とも動かずに時が過ぎ、そして思い出したようにライナ が言葉を紡ぐ。 「そうだ・・・今回の依頼が終わったら、私が話したい事があるって言った よね。  あの事だけど・・・」 「・・・嫌!!」  ・・・このまま別れるなんて、絶対に嫌!!  ライナのその言葉に反応し、勢い良くライナに振り向いて思わず叫ぶ。  知らずに涙が溢れ、ライナの顔をまともに見る事が出来なくなる。  諦めたはずなのに、ただ一回の「思い出」が手に入ったから、笑って受け 入れようと思っていたのに・・・  その場になって、僕の心が全ての理性を否定してしまう。 「・・・ミ・・・ド?」  突然の僕の涙に、ライナがうろたえながら僕の名を呼ぶ。 「嫌・・・嫌なの。  別れるなんて、一緒にいられないなんて、そんなの・・・嫌・・・なの」 「・・・」 「国の「掟」なんて無視して・・・む・・・し・・・」  掟・・・ (伴侶となるべき人物以外とは旅を共にしてはならぬ) (男は女を守り、女は男を補佐せよ・・・)  男は女を・・・  男は・・・ライナ・・・女は・・・僕?  ・・・つまり・・・  そこまで思い付いた所で、心の中の悲しみが霧散していく。  そうだ・・・そうなんだ・・・ 「ねえ・・・ライナっ!!」 「・・・・・・・・・は?」  数瞬前まで泣いていた僕が、突然にこにこ笑いながら話し掛けてくる現実 に付いてこれなかったライナが間抜けな声を上げる。 「ライナの国の掟って、「男は女を守り、女は男を補佐せよ」だよね?」 「う・・・ん・・・そうだけど?」 「んで、今は僕は女で、ライナは男だよね!!」 「・・・うん」  ・・・だから、僕らは一緒に居てもいいんだよね・・・  最後の言葉を飲み込み、ライナの反応を待つ。  しかし、ライナは、まだ僕の言いたい事が分からないのか、僕の言葉にた だ黙って肯いているだけだ。  ・・・詰まんないな・・・  ・・・でも、良いや・・・  すぐに全部理解出来るから・・・  心の中で舌をだし、「にまっ」っと微笑んでからライナに口付けする。 「だ・か・ら、責任・・・取ってね!!」
・・・愛するもの・・・ もし、貴方が愛する者の命が危険に曝された時 貴方は、決断出来るでしょうか? ・・・自分の大切な一つを捧げ、彼女を救う事を・・・ そして、捧げられるでしょうか? ・・・貴方と彼女の絆を・・・ そう・・・この指輪は、それを貴方に問い掛けます ・・・真実の愛・・・ それが本当に存在するのかを確かめる為に さあ・・・貴方は・・・捧げられますか? ・・・そして・・・ 貴方の彼女も捧げられるでしょうか? 二人が共に、己を捨て、愛する者を救う事を決断出来るでしょうか? ・・・それが出来る二人ならば・・・ ・・・互いの為に己を捨てられる二人ならば・・・ 如何な障害も越え、結ばれる事が出来るでしょう だって、この指輪の真実の名は ・・・「永久なる絆」なのですから・・・


<後書き>  どうも、始めまして、樹遠零(きおん・れい)ってものです。  ここの一連の作品群に触発されて、私も書いてみました。  まあ、正直に言うと、私の個人ページで「とらぶる・くらいしす」って、 性転換系の作品を連載してますが、あれはちょっと趣旨が違いまして・・・  ええと、この作品は、あと二つ「ライナ」と「冒頭の女性」のサイドから の作品展開を計画してます。(台詞回しなどの矛盾点の解決の為に)  さて、ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。  −樹遠零−



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