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 「見て! 奴の変身が解けるわっ」
 「どっちかっというとヘンタイの間違いでは?」
 そうこう言っているうちにニセブルマーの変身はどんどん解けていき、元の姿が露になってきた。
 額のバンダナが消えてセルフレームのメガネが現れ、例の恥ずかしい体操着がグレーのシングルスーツに変貌した。
 「見て。変身が解けたわ」
 その言葉と共に出現したニセのブルマーの正体とは?
 「あぁ、あれは!?」



学園戦士・レッドブルマー

VOL6

THE FINAL OSHIMAIDESSE

作 : よっすぃー


 深夜のマンション。

 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 壁にかけた時計の秒針がせわしなく刻む中、伊達愛美は冷や汗で全身びっしょりとなりながら、荒い息を立てていた。
 目が眩み、焦点すら定まらない。

 (脈拍60……、血圧95……、熱が35.5度ある……)

 コチ、コチ、コチ……秒針が無機質に回っていく。
 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 (だるい……まるで身体が鉛のようだ……原因は何だ……?)

 コチ、コチ、コチ……
 はぁ、はぁ、はぁ……秒針に合わせるように呼吸も荒くなっていく。

 (この異常な症状が、もしや……)

 その途端、

 パコーン!

 後頭部にハリセンが炸裂した。
 「なにするんだよー!」
 頭を押さえながら愛美が文句を言った。
 「アンタのはただの生理痛。いい加減慣れなさい!」
 そう怒鳴ったのは伊達典子。愛美のモデルになった、美少女である。
 「ったく、女の子になって半年以上経つのに、その程度で寝込むなんて、根性が足りないわよ」
 ぶちぶちと文句を言う。多分正論なんだろうが、それを理不尽だと思う奴がここにいた。
 「これだけは慣れたいとは思わない」
 愛美が小声で反論する。まあ、無理もないのだが。
 なんといっても愛美は典子と違い正真正銘の女の子ではない。
 といっても、オカマでもない。典子が正義の味方になることを辞退したために、繰り上げ当選(笑)した、元々はごく普通の男子高校生なのだ。
 「とにかくシャワー浴びてらっしゃい。汗びっしょりだと、ホントに風邪ひくわよ」
 「へ〜いっ」
 典子に窘められバスルームに向かう。
 服を脱ぎ脱衣籠に放り投げる。
 「げっ。ホントに汗だくだ」
 一人でぶつぶつ言いながら、シャワーのノブをひねった。
 熱いシャワーが心地いい。
 毎度の恒例ながら、視覚的に色々なポーズをする。
 こういっちゃなんだが、元が良かったのか、愛美のスタイルはかなりいい方に属する。出るところは出ていて引っ込むべきところはきちんと引き締まっている。ま、それが肩こりの元だというのもよく判ったが……
 女の子に変わった当初は、好奇心やスケベ心から、身体のあちらこちら触りまくったものが(2カ所ほど重点的な箇所があったが、それについてはあえて言うまい)、半年以上経った今では、見慣れてしまったのかなんの感慨も沸いてこない。ポーズをとるのはもはや癖みたいなものだ。
 が、油断していると、股間からつつ〜っと、紅い色の下り物が出てきた。
 「あちゃ〜っ」
 愛美は顔をしかめた。月のモノである。
 「3日目でもまだ降りるか」
 そんなこと聞かれたって知りません。



 「しかし、この大事なときに生理になっちゃうのは痛手ね」
 バスルームから出てきた愛美に、典子は溜め息混じりに言う。
 「しょうがないじゃないか。自分でなんとか出来るのもじゃないのだから」
 新しいパジャマを着込んだ愛美がぶーたれる。
 「それを根性でなんとかするのがプロのヒロインでしょ」
 おいおい。
 無茶苦茶なことを言う典子。
 「そんなこと出来るわけ無いじゃないか!」
 「出来る、出来ないじゃないの。やるかやらないかなの!」
 まるで竹槍でB−29を落とせと言わんばかりの迫力であった。理不尽もここまで来れば一級品だ。(それ以前に、今時B―29を知っている人がいるのかなぁ?)
 「ニセブルマーの正体は判らなかったけど、イーン・ベイダーが本気になっていると言うことだけは確かだし」
 「どわっっ! どこから出てきたのですか?」
 振り返ると、いつの間にやらエリコがビールを飲みながらくつろいでいた。
 まったく、この人の正体は永遠に謎である。
 「失礼ね。ちゃんと玄関からに決まっているでしょう?」
 胸を張って言い張るが、この人の場合、「ホントか?」と首を傾げたくなるのも事実なのである。
 「正体こそ判らなかったけど、ニセブルマーは恐らく最高幹部の一人よ」
 それまでのおちゃらけムードから一転。真顔になってエリコが言った。
 3人はその時の事を思い出した。



 ニセのレッドブルマーの変身が解け、素顔が現われると思った刹那、そこに現われた顔には「モザイクエフェクト」―― 一般に男女の交わりを題材としたビデオ(素直に言えよ! AVと)で股間などに、「自主規制」の名のもとにかけられている欲求不満の元のことである――がかけられていた。
 その不要かつ超不自然なモザイク模様の為に、その素顔を知る事は出来なかった。
 だが、愛美が真に驚いたのは、周りの反応であった。
 「なに、これ?」
 「モザイクが掛かっていて、何も判らないじゃない」
 典子とジュンの反応はまだいい。
 「どうしよう。モザイクキャンセラー持ってないのよ」
 エリコのセリフはこれであった。
 「そうじゃないでしょう?」
 そう突っ込みをいれた愛美だったが、エリコのセリフは更にぶっ飛んでいた。
 「雑誌の通販で購入してもろくなのが無いし、性能のいいのって非合法みたいだし。どこで売っているのかしら?」
 それ以前に現実世界で、顔面にモザイクがかかった人間がいたら不自然だと思わないか? 普通……
 結局、そんな口論を繰り広げている間に、まんまと敵に逃げられてしまったのであった。
 以上。海草……間違った、回想終わり。



 「どんな恥ずかしい恰好をしていても、最高幹部は最高幹部よ。それだけの大物を打ち破ったのだから、次は御大自ら出てくると思って間違い無いわね」
 そのセリフには説得力があった。
 「でも、その根拠は何故?」
 「この話がこれで最終回だからよ」
 きっぱり。エリコは言いきった。
 「そんな、身も蓋も無い……」
 愛美が抗議したが、その言葉に力が無い。
 「そんな大事な時に、何を好き好んで生理になるかな? ったく、だらしのない」
 更に理不尽なセリフをのたまうエリコ。
 「悪うございましたね。こんな時になっちゃって」
 元の姿だったらこんな目にあうことも無かったのにと、恨めしげに愛美はにらみ返した。
 「なっちゃったものはしょうがないわね。愛美ちゃんの体調が万全になるまで、トワイニングの侵攻が無いことを祈っておくわ」
 「そうしておいてくれ〜」
 ソファーに深々と身体を預け、愛美はそのまま寝込んでしまった。
 結果。見事に風邪をひき、体調が万全に復旧するまで、更に数日の時間を要したのを追記しておく。



 一方、悪の巣窟トワイニングにも焦りの色がにじみ出ていた。
 「一体どういう事だ!」
 首領のイーン・ベイダーは怒り狂っていた。
 怒る理由は至極簡単だ。世界征服の第一歩、瀬戸際市の制圧がままならないからである。
 全ての元凶は、たった一人の戦士、「レッドブルマー」の存在であった。
 農林1号を手始めに、多くの刺客「まぬけ獣」を放ったが、ことごとく倒されていった。しかも、絶対の自信を持って送り出した「ニセブルマー」までもが、返り討ちにあったのである。
 「出す奴出す奴、全て討ち果たされておる。我が野望のためには、もはや一刻の猶予もあってはならぬ。やはり余が自ら出なければならぬか……」
 遂に悪の巣窟トワイニングの大将自らが、戦いに名乗りをあげたのであった。
 それは即ち、最終決戦を意味していた。



 穏やかな小康状態の日々が暫らく続いた。
 その間、典子に亜希子、夕子、ジュンたちはそれぞれの楽しみを謳歌していた。(生理+風邪で寝こんだ愛美にとっては、散々な数日であったらしいが、ここではその詳細は伏せておく)
 が、それは嵐の前の静けさであった――と、書いておこう。緊迫感が出るでしょう?



 審判の日は唐突にやって来た。

 ずんっ…!

 (比喩的に)そんな地響きを鳴り響かせて、イーン・ベイダーが遂に姿を現した。
 その異形な姿に、誰もが恐怖し、怯えきった。
 そりゃそうだ。ひょっとこのお面を被ったスーツ姿の男なんて、ヘンタイ以外の何者でもない。
 商店街はシャッターを下ろし、人々は部屋の隅で息を殺して閉じこもった。
 「ふっ、無駄な事を……」
 イーン・ベイダーはそんな不様な様を鼻で笑い、ひょっとこのお面をほんの少しずらした。
 背後にはぎらぎらと照りつける太陽。
 「おあつらえむきだな」
 イーン・ベイダーはお面を被りながら器用に口を歪ませた。(って、ひょっとこって元々口が歪んでないか?)
 照りつける太陽が後頭部に蓄積される。臨界に達した後頭部は真っ赤に茹であがっていた。
 仰角を確かめ気合を入れると、イーン・ベイダーの頭部から光の奔流が放たれた。

 ちゅど〜ん!

 盛大な爆発音と共に、光線の当った場所が廃墟と化した。
 マジである。これ以上無いくらい目一杯マジである。コメディでこんなことをやってもいいのか? というくらい盛大な破壊であった。

 ずんっ!

 ぴかっ!

 ちゅど〜ん!

 ずんっ!

 ぴかっ!

 ちゅど〜ん!

 盛大な破壊を繰り返しながら、イーン・ベイダーは一歩一歩進軍を続けて行った。



 「あれは反射衛星砲!」
 遠くで光る爆発にエリコがまず反応した。
 反射衛星砲とは……某宇宙戦艦に登場した秘密兵器で、惑星中のどんなところにでも砲撃を食らわす事が出きる、強力なビーム砲である。(その後、某国営放送に模造品が出てきたし、射程距離が短いと言いながら衛星を介して超長距離砲撃をするなど、中々不可解な兵器だけど)
 イーン・ベイダーは自らの禿げ頭を反射鏡に用い、強力無比な攻撃を仕掛けていたのである。
 ま、それはさておき……
 「とうとうイーン・ベイダー自身が侵攻を開始したわ!」
 職員室の窓からエリコは確信した。
 対抗するには愛美に強化服(レッドブルマー)を着てもらうしかない。
 しかし……
 「あーっ! なんでこんな時に体育の授業なのよ!」
 そのあまりの間の悪さに頭をかきむしった。
 体育の時間と言えば、授業は当然グラウンド場だ。
 あんな障害物の無いところでは、呼びに行くのも一苦労。変身中に身を隠す場所も無い。つまり、レッドブルマーの正体を白昼で公開するようなものだ。
 エリコは悩んだ……訳が無い。
 「どうせみんな知っているんだから、今更格好つけてもねェ」
 開き直って出動要請をかけることにした。
 爆発は一直線に潮見台高校に向っていた。まるで誰かを挑発するかのような進軍だった。



 で、グラウンドでは当然の如く体育の授業を行っていた。ここ汐見台高校は、男子と女子が交互にグラウンドと体育館を使い分けている。今日は女子がグラウンド使用の日であった。
 「なに?」
 トラックを走っていた愛美や典子達も、一斉に足を止めた。
 いくら運動中とはいえ、あれだけの爆音である。聞こえないはずは無い。しかも一直線にこちらに向っているのだ。エリコにとって想定外だったが、体育館の男子生徒を始め、教室で授業を受けていたほぼ全校の生徒が一斉にグラウンドにつめかけた。
 そして……
 遂にトワイニングの首領たるイーン・ベイダーは、愛美達の目の前にその姿を現した。
 その姿はスーツ姿にひょっとこのお面。ついでに禿げ頭というヘンタイ以外の何者でもないいでたちであった。
 「さぁ、弱き人類たちよ。わが軍門にひれ伏すがいい!」
 傲慢かつ尊大なセリフを吐くイーン・ベイダー。言っておくが、ひょっとこお面に禿げ頭である。喋った場所はグラウンドの朝礼台の上であった。
 はっきり言ってマヌケ以外の何者でもない。……が、反射衛星砲の威力の前に、全ての生徒たちは黙してしまった。
 「そうだ。そうやって私に恐怖し畏怖の念を持つ事こそ、人類にとって相応しい態度だ」
 まるでパイプオルガンの音色が流れているような雰囲気の中で尊大に頷く、ひょっとこお面に禿げ頭であった。
 「よし。地球制服の第一歩として、まずこの高校を制圧する。お前達には人質になってもらおう。……そこ! 私語は慎むように。全員揃ったら、小さく前にならえだ!」
 壇上に立ったイーン・ベイダーは、てきぱきと制圧プログラムを履行していた。
 このまま汐見台高校はトワイニングの軍門に下るのだろうか?
 そして明日は瀬戸際市が……
 いずれ日本が――そして世界が――悪魔の手のもとに落ちるのだろうか?
 人類の未来は途切れてしまうのか?



 「断じてそんな事は無いわ!」
 勇気を持って叫んだ少女がいた。
 その声に呼応するかのように、まるでモーゼの十誡の如く人垣が割れた。
 そこには静止する五郎を振りきり、前に出ようとする愛美の姿があった。
 「どうしてそこまでして、行く必要が有るんですか?」
 合点がいかない五郎に、愛美は一言言った。
 「さだめかな?」
 そして前に歩み出す。
 「まるで金色夜叉の逆パターンね」
 そのシーンを南夕子が一言で言い表していた。



 「ふっ。誰がそんな大口を叩くかと思えば、貴様のような小娘か」
 見下すように言い放つ。
 「ここの教育はなっとらんな。学校というところは、教育以外にも人格の形成という大事な使命があるはずなのに、目上の人物にそのような口をきくとは……性根を叩きなおす必要が有るな」
 以外にも言っている事は正論みたいだが、なにせ悪の首領。しかもひょっとこのお面付きである。説得力が無かった。
 だが、愛美がイーン・ベイダーに反旗を翻した事は確かであった。そしてそのためには変身しなければならない。周りには生徒がひしめいている。
 秘密の隠匿は限界まできていたのであった。
 「愛美さん……」
 五郎ことコピーロボットが心配そうに見つめる。
 「いいよ。もう、決めたから」
 そう言うと、意を決して最前列まで進み、そしてみんなの前で振り返った。

 「みんなゴメン! 今まで隠していたけど、レッドブルマーの正体はワタシなの!」

 どどーんん。

 衝撃の告白である。バックはシルバーのシルエット。
 BGMにはシューマン「ピアノ協奏曲 イ短調 54番」を指定(わかる人にはわかるネタ)。
 皆が言葉を失った。
 沈黙……



 ……なんて事は無かった。



 「「「「それで?」」」」

 ごく普通の返し文句。
 「へっ?」
 思わず聞き返す愛美。
 それはそうだろう。謎の学園戦士「レッドブルマー」の正体は自分だと名乗ったのである。皆が衝撃を受けるとばかり思いこんでいたのだ。
 「あのぅ……驚かないの?」

 「「「「どうして驚かなければならないの?」」」」

 これまたあっさりとした返事が返ってきた。
 「だ、だって、どう考えたっておかしいじゃない?」
 「そうか? 単に服装が替わっただけだろう。そんな程度で誤魔化せる訳ないじゃないか」
 「しかも今体操服だろ? スパッツがブルマに変わる以外にどう変化があるんだ?」
 クラスメイトたちから、辛辣かつ当たり前の指摘を受けた。
 が、当の愛美はそうは受け取らなかったようだ。
 ばれていたんだ……ばれていたんだ……ばれていたんだ……ばれていたんだ……ばれていたんだ……
 この言葉がリフレインのように駆け回っていた。
 なんのために恥ずかしい格好で走り回っていたのだろうか? 俺は……
 さんな動揺している愛美に、正にとどめを刺すようなセリフが飛んできた。

 「大体分かりそうなものだぞ。五郎ちゃん」
 「大丈夫。身体が女の子なら、女装のヘンタイなんて言わないから」

 !!!

 「なっ、なっ、なっ、なっ…………」
 放っておくとこの状態が、延々47分にもなるかという狼狽ぶり。
 今まで必死になって隠していたことが、音を立ててガラガラと崩れていく。
 「だ、だ、だ、だ、誰が?」
 ゲシュタルト崩壊の一歩手前で、発した言葉その一言だけだった。
 「別に驚くことは無いと思うよ。テンコが全部説明してくれたから」
 「典子が?」
 信じられないという表情の愛美。当然だろう。
 「疑うのなら本人に聞いてみれば?」
 その言葉で愛美の理性は吹っ飛んだ。
 「一体どういうことなんだよ? 人に散々正体を隠しておけって言いながら、裏で正体バラシまくっているなんて! 事と場合によってはただでは済まないよ!」
 トワイニングそっちのけで、典子に詰め寄る愛美こと五郎。
 「だーってさー。ワタシ、ウソつくの嫌いだもの」
 自分とそっくりな美少女の脅迫に、たった一言で片付けた典子。
 だてに生徒会長をしているわけではない。この手の恫喝には、対処能力がついているのだ。やはり訓練の賜物だろうか?
 単に厚顔だという説もあるが……
 「ま、そんな訳だから。いいじゃない。これからは正体を隠さずに普通の生活が出来るのだし、無駄なストレスがひとつ減るのだから」
 「そういう問題じゃないと思うのだけど……」
 「思うの!」
 「…………はい……」
 いいように丸め込まれてしまった。というか、こいつ押しに弱いなぁ。



 さて、ひとしきりの告白劇は終わったのだが、その間無視されつづけられた人物がいる。
 言わずと知れたトワイニングの首領「イーン・ベイダー」である。
 ただでさえ出番が殆ど無く、ラストでちょこっと出てくるだけの扱いの悪さ。その上完全に無視されると、その存在自身が危ぶまれる。
 「……いつまでそこで臭い小芝居を続ける気だ?」
 いつに無く苛立ったイーン・ベイダー。奴にしても最終決戦なのだ。
 「あっ。そうだったね」
 我に返る愛美。そんなヒロインはいないぞ、ふつう。
 「どうせ変身したって意味無いんだ……正体ばれているし、見た目も変わらないし……着たら着たで、どうせヘンタイブルマー男って、陰口を叩くんだ……きっと」
 すっかりいじけモードに入ったまま、レッドブルマーに変身した(……と言っても、単に服装が変わっただけだけどね)。
 「とりあえずこいつをやっつけたら、こんなふざけた変身はしなくて済むんだ!」
 萎えそうになる自分を叱咤激励する。
 「ふ、世界制服への第一歩。この町の攻略に予想以上の時間を費やしてしまったわ。しか〜し、余自らが出向いたからには、この一戦でけりをつけてくれるわ!」
 きっぱりと断言した。
 さすがは悪の首領。
 宇宙からのデストロイヤー。
 もっとも、衣装はスーツにひょっとこのお面だけど……

 ひょぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜っぅ。
 
 戦場に砂塵が舞った(そりゃグラウンドだもん)。
 緊張による静寂が辺りを包み込む。

 じりっ。

 正義の戦士と悪の使者がゆっくりと間合いを詰める。
 ハルマゲドンストーリーが、今始まろうとしていた。
 その瞬間。

 「待った!」

 突然場違いな声が掛かってきた。
 「な、なんだ」
 いきなり水を差す展開。ずっこける二人の前にいたのは、誰有ろう、藤崎エリコその人であった。
 「せ、先生……」
 愛美の声を無視して、ずんずん前に突き進むエリコ。そしてイーン・ベイダーの前に立ちはだかると、びしっと指を突き付けた。
 「お父さん!」
 意表を突いたその一言で、固まる愛美と周りの者たち。

 「お、お父さんだぁ〜!?!?」

 「……ど、どういうこと?」
 ほんの少し脳に酸素が周ったのか、疑問の声をあげる愛美と典子。
 「この人、イーン・ベイダーは、アタシの父よ。本名は藤崎昇。職業は戸奈利野高校の校長」
 淡々と説明するエリコに、あれ? と気付き、典子が質問を投げかけた。
 「でも、最初の説明と矛盾してません?」
 「どこが?」
 「先生は確か『リプトン』という星の出身という事になっていましたね。対するイーン・ベイダー……お父さんでしたっけ、は、『トワイニング』という惑星。これで親子関係が成立するのは不自然です」
 うんうん。確かに……周りの連中も得心するように首を縦に振る。
 「なんだ、その事?」
 たいした事でもない様にさらりと受ける。
 「リプトンとトワイニングって2連惑星なのね。丁度イスカン○ルとガミ○スみたいに」
 「でもあの設定、科学的に無理があるって書いてあったわよ。どっかの本に」
 「だーっ、うるさい。宇宙には99の謎があるから、ひとつくらいこういうのがあってもいいの。こっちの感覚でいえば、隣同士の県みたいなものよ」
 開き直るように叫ぶエリコ。
 「原因はさておいて、これって単なる親子ケンカだったのですね」
 ジッと情勢を見守っていた亜希子がぼそっと呟いた。



 「ええい、ごちゃごちゃとウルサイ。こうなれば最終兵器を使い、一挙に殲滅してくれるわ!」
 叫んだや否や、イーン・ベイダー改め藤崎昇は、どこからともなく2本のレバーが突き出た妙な箱を持ち出し、一心不乱にガチャガチャと動かした。
 「あ、あ、あ〜っ! 勝手に家の備品を持ち出してっ。……お父さんがその気なら、こっちにも考えがあるわよ!」
 今度はエリコが年代モノの腕時計を右腕にはめて、あろう事か文字盤をめくり上げると、二言三言何かを叫んだ。

 「…………平和だね……」
 「そうね……」

 目を血走らせてにらみ合いをする親子2人を尻目に、のんびりとお茶を啜る愛美をはじめとするギャラリーたち。
 そんな時間が十数分続いただろうか。澄み切った蒼い空にきらりと光る2つの黒い光点があった。
 それは見る見る間に巨大な物体として近づいてき、一拍遅れて耳をつんざくような金属音をもたらした。
 「何っ!」
 「ちょっとぉっ」
 皆が口々に叫ぶ中で、2つの黒い塊はその姿をさらけ出した。
 「巨、巨大ロボット〜っ!」
 夕子があごを外して指差した。
 そう、そこにいたのはずんぐりとした往年の巨大ロボット。鉄○28号とジャイア○トロボだったのである。
 「ふっる〜っ」
 「こんなの知っている奴、今時いないわよ」
 「せめてマジ○ガーZでないと」
 「いや、でも、どちらも一度リメイクしているから」
 「あら、鉄○はアニメの前に実写版があったそうよ」
 勝手な事を言っている外野席もある。
 ま、それはそうと……

 「こら、エリコっ。一体どういう事だ! 勝手にそんな物を持ち出してっ」
 「お父さんこそ、お母さんに断りも無しに!」

 と、当事者同士は口ケンカを始める始末。

 「「ならばここで勝負をつけよう」」

 そう言い放ち、リモコンと腕時計に、入力コマンドを打ちこもうとした。

 ぐわしゃん。

 金属の軋む音がして、2体の巨大ロボットが組手を始める。
 その時……
 「あのぅ〜っ」
 目が血走っている2人に遠慮がちに話しかけた愛美。
 きっ。と、振り向いた形相に内心びびりながらも、思っていた事を口に出す。
 「結局、これ、お2人のケンカですよね。だったら、こんな巨大ロボットで対決しても、後の被害がでかいだけで無駄が多いと思うのですが……」
 「というより、全くの無意味よね」
 典子がとどめを刺した。

 が〜〜〜〜ん。

 顔に黒い斜線を入れて、2人は一瞬固まった。
 ヒーローもので絶対言っちゃいけないセリフを、こともあろうに主人公のヒロイン? が言いきってしまったのである。
 どうやらそのような思想は2人には無かったようだ。(……ていうか、ヒーローものではエリコ達の方がノーマルなんだって)



 「我々の戦いを……」
 「無意味って言うの?」
 放心状態の二人に向って、愛美は更に言葉を被せた。
 「無意味以外にどんな意味があるの? 単なる親子ゲンカをここまで大袈裟にさせておいて」

 ひゅぅぅぅぅぅぅ……
 
 戦場(まだ言い張るか?)に虚無の風が吹く……
 藤崎親子は燃え尽きて真っ白になり、2体の巨大ロボットは何故か座禅のポーズを決めていた。




 その虚無の時間を再び動き出すきっかけを与えたのは、コピーロボット演じる霧島五郎の一言であった。
 「あのぅ、グランドマスター。お取り込み中に申し訳無いのですが、理事長から至急の電話が掛かっていると、職員室から伝言を言付かっているのですが……」
 「至急の電話? お母様から?」
 怪訝そうな表情を浮かべるエリコと前後するように、イーン・ベイダーこと昇にもメッセンジャーが現われた。
 「こ、こ、こ、校長!」
 汗だくで走ってきたのは、顔面をモザイク処理した中年男性。元ニセブルマーであった。
 「何事だね、教頭先生。私は今、取り込み中なんだ」
 「それどころではありません。理事長から至急の電話が掛かっております」
 「嫁からか?」
 昇の表情に狼狽が走った。
 「どういうこと?」
 事情が判らない愛美は、コピーに説明を求めた。
 「ここ汐見台高校と、戸奈利野高校は実は姉妹校なんです。で、最高責任者は藤崎先生のお母さまが就任されています」

 「「「「はぇ?」」」」

 一同はあんぐりと口を開いたままだ。
 「で、その理事長。いえ、お母さまはなんと言っているの?」
 いち早く硬直から抜け出したジュンがエリコに尋ねる。
 「…………」
 何故か携帯の受話器を握り締めたまま、エリコは固まっていた。
 一方、昇の方はというと……
 これまた固まっている。
 「貸して」
 ジュンに次いで硬直から復帰した典子が、エリコから携帯をひったくり、事の仔細を聞き出した。
 そして一言。
 「……2人とも左遷だって」

 「「「えええっ?」」」

 今度は本当に驚く一同。
 「まぁ、これだけの騒動を起こしたのだから、当然と言えば当然よね。で、怒った理事長が、県外にある分校に2人とも送り込むって事らしいわ」
 仔細を聞いた典子が、今回の処分について皆に説明をした。(一介の生徒会長がこんな事聞き出していいのかなぁ〜)
 「て、ことは?」
 愛美が息を飲んだ。

 「トワイニングの魔の手から、この街は救われたのよ!」

 高らかに宣言する典子。一斉に沸き起こる歓喜の声。降り注ぐ紙ふぶき。そんな大袈裟なものか? おぃ……
 単に騒動の種が他県に移っただけだというのは、この際目を瞑っておこう。
 「で、いつ、転勤なんですか?」
 「それが、いきなり今日なんですって」
 振り返ればイーン・ベイダーこと藤崎昇の姿は既に無く、モザイク模様の教頭もそこにいなかった。
 「結局顔は謎のままだったわよね」
 亜希子がぼそりと呟く。
 「知りたかったら私が写真を差し上げますわよ」
 「慎んで遠慮します」
 謎は謎のままが良い。偽らざる心境だ。



 そんなこんなで日が暮れて、校舎から1人2人と生徒の姿が消えていった。
 「じゃあ、アタシも行くわね……」
 1人寂しくエリコも校門を後にした。
 「先生お元気で」
 「また、遊びに来るわね…………」
 その背中にはどこか哀愁があった。
 校舎を去って行くエリコを見て、愛美はやっと自由になれたと実感した。
 「さぁ、これで女の子の恰好もしなくて済むぞ。それと、元に戻ったら約束通りキスしてもらうからね」
 大きく伸びをし、一応の使命を果たして、晴れ晴れとした表情の愛美であった。
 「そんな約束、すっかり忘れていたわ。いいわよ。元に戻ったらね」
 しょうがないわねと言う表情の典子。
 全ては大団円に向おうとしていた。が、大事な事を忘れていないか?
 「でも、エリコ先生がいなくなって、どうやってもとの男に戻るのですか?」
 コピーロボットが疑問を投げかけた。
 「あっ!」
 その事に気付きうろたえる愛美。
 「あ〜あ。これで当分そのまんまの姿だよね」
 達観する典子達。
 「先生〜っ、カンバ〜クッ!!」
 叫びながら後を追いかけて行く愛美。
 「こんな主人につくなんて……」
 小さくいじけるコピーロボット。
 とにもかくにも、物語は大団円を迎えたのであった。



 その後、彼等がどうなったかというと……

 大学卒業後、伊達愛美と霧島五郎は結婚したそうである。
 周囲からは「究極のナルシスト野郎」とか、「一人で補完しやがって」等の野次が飛んでいたと言う。
 「で、一体どっちが愛美役をやっているの? コピーちゃんはどっち?」
 ブーケを受け取りながら夕子が尋ねたが、二人とも答えをぼやかすだけで、生涯語られることは無かったという。
 伊達典子はその後、大学を主席で卒業し大学院を出た後、国家公務員1級に合格したと言う。
 その颯爽たるキャリアと容姿で言い寄る男も多かったらしいが、性格の方が知れ渡ると、誰もアプローチをかけなくなったそうだ。……合掌
 白鳥ジュンは当然の如く白鳥財閥の要職に就き、帝王学を学びつつ、お見合いを繰り返していると言う。
 彼女の場合の障害は、『性格』では無く『家柄』なので、果たしてどういう結末になるのやら?
 富士亜希子と南夕子は……特筆すべき事はない。
 ごく普通に短大・専門学校を卒業し、ごく普通の企業に就職し、ごく普通に結婚。専業主婦又はパートに精を出しているらしい。

 そして、藤崎エリコは……




















 とある学校の生徒指導室。
 扉を開けて入ってきたのは、キレイよりも可愛いが先にたつ妙齢の女教師が一人。
 いうまでもなく、藤崎エリコその人である。
 おどおどしている少年に対して、彼女は不気味とも思える満面の笑みを浮かべて、明るく呼びかけた。

 「ねぇ、あなた。……女の子になって、正義のヒロインをつとめてくれないかな?」

END


あとがき


 うにゃ〜、やっと終わりました。
 最後なのでかなり強引に詰め込んだ、怒濤の最終回です。
 トワイニングの正体は、実は3話の辺りでほぼ決まっていました。後はどう出すかだけだったのですが、なんとか形になりました。
 なにはともあれ完結です。
 あっちこっちからブーイングの嵐が飛びそうですが、もとよりこんな作品ですのでご容赦の程を。

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